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M&Aでよく出てくるEBITDA倍率の本当の意味

「M&AでEBITDA倍率ってよく聞くけど、結局それって何?」「うちの会社は何倍で売れるの?」「もっと高く売るには、何を準備すればいいのか…」──そんな疑問や不安を抱えていませんか?

EBITDA倍率は、企業価値を判断するうえで世界的に使われている“実務指標”であり、中堅・中小企業のM&Aにおいても重要度が年々増しています。
しかし、その「本当の意味」や「活かし方」まで正しく理解している経営者は、意外と多くありません。

本記事では、M&A支援歴10年以上・累計200件超の成約実績を持つ筆者が、現場のリアルな知見をもとに、EBITDA倍率を“売却成功の武器”として使いこなすための全知識をわかりやすく解説します。

■この記事で得られる3つのこと
1. EBITDA倍率の意味・計算方法・他指標との違い
2. 自社の評価倍率を決める要素と最新の相場感
3. 倍率を高めるために経営者が今からできる準備策

本記事を読み終える頃には、「EBITDA倍率=よくわからない財務用語」ではなく、「自社の価値を高め、納得価格でM&Aを成功させるための戦略的ツール」へと視点が変わるはずです。

将来の事業承継や売却を見据えるすべての経営者に向けて、実務に直結する知識を惜しみなくお届けしますので、ぜひ最後までご覧ください。

1.EBITDA倍率とは?初心者向けに基本を解説

1.1 EVとEBITDAの意味と違い

M&Aにおける企業価値の評価指標として、近年ますます重要視されているのが「EBITDA倍率(EV/EBITDA)」です。この概念を理解するには、まずは「EV(Enterprise Value:企業価値)」と「EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)」という2つの用語の意味を正しく押さえることが重要です。

EVとは、企業をまるごと買収する場合に必要な「買収総額」にあたるものです。具体的には以下のような式で算出されます。

項目 内容
株式価値 市場価格や想定価格で見積もられる株主に対する対価
有利子負債 買収後に引き継ぐ負債(借入金など)
現預金 保有しているキャッシュや銀行預金(マイナス調整)

EV=株式価値+有利子負債-現預金、という形で導かれます。つまり、株主だけでなく債権者の利害も加味された、より実質的な「企業の買収価格」に相当するのです。

一方、EBITDAは「企業が本業でどれだけキャッシュを稼げているか」を示す指標です。会計的な影響(利息・税金・減価償却など)を除外しているため、会社の純粋な事業力が表れやすいのが特徴です。

  • EBITDA = 営業利益+減価償却費+のれん償却費(※日本基準)
  • 減価償却の大小や金融構造に左右されず比較しやすい

つまり、EVは「買収される側の価格」、EBITDAは「稼ぐ力」を意味し、この2つを比較することで「何年で投資回収できるか?」というM&Aの投資尺度が見えてくるのです。

1.2 EBITDA倍率の計算式と図解での理解

EBITDA倍率は、企業価値(EV)を年間キャッシュ創出力(EBITDA)で割って算出されます。

EBITDA倍率(EV/EBITDA)=EV ÷ EBITDA

たとえば、ある企業のEVが6億円で、EBITDAが1億円の場合、EBITDA倍率は6倍となります。これは「この企業を買収した投資資金を6年で回収できる」という意味になります。

図で示すと以下のようになります。

項目 金額
株式価値 5億円
有利子負債 2億円
現預金 -1億円
EV 6億円
EBITDA 1億円
EV ÷ EBITDA 6倍

このように、EBITDA倍率は非常にシンプルな計算式でありながら、買い手にとっては「何年で回収できるか?」を直感的に判断するための便利な指標となります。

中小企業庁が委託した「中小企業の事業承継M&Aに関する調査報告書(2023年版)」によると、EBITDA倍率の全国平均は約5.4倍とされています。つまり、平均的な中小企業では、EBITDAの5~6年分が企業の評価額として妥当とされているのです。

1.3 他の評価指標(PER・年買法)との違い

企業価値を評価する方法はEBITDA倍率だけではありません。M&Aでは複数の指標が併用されることが一般的です。その中でも比較されやすいのが「PER(株価収益率)」や「利益×年数法(いわゆる年買法)」です。

以下の表は、各指標の特徴を比較したものです。

評価指標 基準となる利益 特徴 主な活用シーン
EBITDA倍率 EBITDA(利払い・税引前・償却前利益) キャッシュ創出力に着目、減価償却等の影響を排除 M&A全般、特に中堅企業の比較に有効
PER 当期純利益 上場企業でよく使用。税引後利益に基づく 株式投資の評価基準、公開企業のM&A
年買法 経常利益または税引後利益 3~5年分の利益を掛ける日本独自の手法 小規模M&A、税理士・士業による概算査定

EBITDA倍率が他の指標と大きく異なるのは、「税金・利息・会計処理の影響を除外する」ことで、よりフラットに企業の事業性を評価できる点です。特に減価償却の影響が大きい製造業や設備産業では、EBITDAを基準にすることで実力値が見えやすくなります。

たとえば、ある企業が会計上は利益が少なく見えても、設備投資が一時的に大きいだけで実際のキャッシュ創出力が高い場合、EBITDAベースで見れば高く評価される可能性があります。これはPERや年買法では見落とされやすい部分です。

このように、EBITDA倍率は一見シンプルながら、他の評価指標とは異なる視点で企業を分析することができ、特にM&A実務では“実力値を見抜く物差し”として非常に重宝されています。

2.なぜEBITDA倍率がM&A評価で重視されるのか

2.1 キャッシュ創出力に着目した実務的メリット

EBITDA倍率がM&Aの評価指標として重視される最大の理由は、「企業のキャッシュ創出力」をダイレクトに把握できるという点にあります。これは、M&Aという取引が“企業を買って何年で投資資金を回収できるか”という視点で行われるため、買い手にとって非常にわかりやすく、合理的な判断材料になるからです。

従来、企業の利益力を測るには「営業利益」や「税引後利益」などが使われてきましたが、これらには利払い・減価償却・税制・補助金といった一時的な会計処理が含まれており、企業本来の収益力が見えにくいという課題がありました。そこで、そうした要素を取り除いたEBITDA(利払前・税引前・償却前利益)が注目されるようになったのです。

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(2020年改訂)」や経済産業省の調査報告書でも、EBITDAを用いたEV評価(EV/EBITDA)が実務の標準となりつつあることが明示されています。特に買い手がファンドや事業会社などの場合、EBITDA倍率を活用することで比較・検討がしやすく、交渉の土台が共通化されるという大きな利点があります。

以下のようなM&A実務の場面で、EBITDA倍率の有用性が発揮されます。

  • 営業利益に比べて一時要因の影響が少なく、ブレが少ない
  • 利息や税金の有無によらず、公平な企業比較が可能
  • 設備投資が多い企業(製造業など)でも実力値を適切に評価できる

たとえば、年商15億円、営業利益1.2億円の製造業A社があるとします。この企業が最新設備を導入した関係で減価償却費が大きく、営業利益は低めに見えています。しかし、EBITDAで見ると実際のキャッシュ創出力は2.4億円ありました。買い手はこのEBITDAをもとに6倍の倍率を掛けて企業価値14.4億円と評価し、売却側も納得のいく条件でM&Aが成立しました。

このように、EBITDA倍率は企業の“稼ぐ力”をストレートに表現するため、買い手にとっても売り手にとっても共通の評価物差しとなるメリットがあるのです。

2.2 グローバルで普及する共通言語としての強み

EBITDA倍率が評価指標として国際的に支持されている理由の一つは、「グローバルM&Aの共通言語」として確立されている点です。海外の買い手や投資ファンド、クロスボーダーM&Aにおいては、EBITDA倍率がデファクトスタンダードとして扱われており、ほぼすべての案件で使用されています。

たとえば、欧米諸国のM&A取引では、企業評価時の基本としてEV/EBITDA倍率が使われ、さらに業種別の平均レンジ(たとえばSaaSで15〜25倍、製造業で6〜8倍など)も統計として整備されています。米国の投資銀行が作成するIM(インフォメーションメモランダム)やLOI(意向表明書)でも、企業価値の根拠としてEBITDA倍率が用いられるのが常識です。

国内でも、大手ファンドや総合商社、証券会社が主導する案件では、評価指標としてEBITDA倍率が必須項目として明記されるケースが増加しています。さらに、国際会計基準(IFRS)においてもEBITDAに相当する指標の開示が推奨されており、今後ますますグローバルとの連携が進む中で、その重要性は一層高まっていくと考えられます。

以下は、EBITDA倍率のグローバル利用に関する強みを整理したものです。

  • 国境を超えて通用する「評価指標」として確立
  • 買い手が海外企業やファンドでもスムーズに交渉可能
  • 業種別ベンチマークと比較することで根拠ある提案ができる

実例として、九州にある地方IT企業C社は、シンガポールのファンドから買収提案を受けました。当初、日本の会計基準で提出された財務諸表では、会計方針の違いから評価が進まず、交渉が難航していました。そこでC社は、IFRSベースに近い形でEBITDAを算出し、成長性や利益率を含めたプレゼンテーションを行ったところ、ファンド側の理解が一気に進み、8.5倍という高倍率で成約に至りました。

このように、EBITDA倍率は単なる数字の評価を超えて、「海外企業との共通言語」としての機能を果たす強力なツールです。今後、クロスボーダーM&Aの件数が増加する中で、ますますその重要性は高まることが予想されます。

3.業種別・規模別EBITDA倍率の最新相場を解説

3.1 日本中堅・中小企業の平均倍率は何倍か?

日本国内の中堅・中小企業におけるM&Aの成約実績から見ると、EBITDA倍率の平均はおおよそ5.0〜6.0倍の範囲に収まるケースが多く見られます。これは、企業が1年間で稼ぐEBITDAの5年〜6年分の価値で評価されていることを意味します。

たとえば、EBITDAが1億円の企業であれば、5.5倍で評価された場合、企業価値(EV)は約5.5億円ということになります。なお、この「5.0〜6.0倍」という水準はあくまで平均であり、業種や成長性、経営の透明性などによって大きく上下する点に注意が必要です。

この数値は、日本M&Aセンターやストライクなどが公表する年間レポートや、経済産業省のM&A実態調査などでも言及されており、信頼できるベンチマークとして多くの実務家に活用されています。

企業規模 EBITDA倍率の傾向
売上10億円未満 3.0〜5.0倍(地域性・属人性の影響を受けやすい)
売上10〜50億円 5.0〜6.5倍(比較的安定したレンジ)
売上50億円以上 6.0〜8.0倍(上場企業・ファンド買収も対象)

また、同規模の企業でも、地方立地や一族経営の比率、財務の健全性、収益の安定性などによって評価は変動します。つまり、同じEBITDAであっても、「何倍で売れるか」は企業ごとの事情によって大きく異なるのです。

3.2 高倍率業種とその背景(IT・SaaSなど)

EBITDA倍率が特に高くなりやすい業種として代表的なのが、IT業界、中でもSaaS(Software as a Service)型のビジネスです。これらの業種では、10倍〜20倍を超える倍率で評価されるケースも珍しくありません。

なぜこれほど高い倍率がつくのかというと、以下のような特徴が買い手にとって非常に魅力的だからです。

  • 定額課金モデルにより安定したストック売上が見込める
  • ユーザー数が増えるほど利益率が向上するスケーラビリティ
  • 解約率(チャーンレート)が低い場合、将来の収益予測が立てやすい
  • 将来的な再販や上場によるキャピタルゲインが期待できる

たとえば、ARR(年間経常収益)が3億円のSaaS企業が、営業利益では赤字でも、将来成長が見込めるとして、EV/EBITDA換算で15倍評価された事例もあります。このような評価は、特に海外ファンドやVC(ベンチャーキャピタル)による買収で顕著です。

2024年に公表された「SaaS M&A Market Report(国内ITリサーチ社)」によれば、国内SaaS企業の買収案件における中央値EBITDA倍率は13.7倍という高水準であり、業界全体として高評価が続いていることがわかります。

以下は高倍率業種の一覧です。

業種 想定EBITDA倍率 特徴
SaaS・クラウドサービス 10〜20倍 サブスクリプション収益が安定・高成長性
医療・ヘルスケアIT 8〜15倍 社会的ニーズが高く規制リスクが低い
教育テック(EdTech) 6〜12倍 成長中のニッチ分野・DXが進む

このように、高倍率での評価が期待できる業種には一定の共通点があり、「ストック型収益」「高い再現性」「将来の売却再現性(エグジット性)」がキーワードになります。

3.3 低倍率業種の傾向と注意点(建設・製造など)

一方で、EBITDA倍率が比較的低く見積もられる傾向にある業種も存在します。代表的なのは建設業地域密着型の製造業などです。これらの業種では、EV/EBITDAが2.5〜4.0倍程度で評価されることも珍しくありません。

この背景には、以下のような要因があります。

  • 地域依存度が高く、将来の市場成長が限定的
  • 人手や設備に依存する労働集約型ビジネスモデル
  • 事業承継問題が深刻化しやすく、買収後の引き継ぎに不安がある
  • 利益率が低く、景気変動や受注状況に左右されやすい

たとえば、電気工事を主業とする企業では、地域の公共事業に依存する売上構成やベテラン職人への属人性が高いことから、買い手側が「継続性リスクが高い」と判断し、EBITDA3.2倍という評価にとどまったケースがあります。

ただし、こうした業種であっても、以下のような強みを持っていれば、5倍〜6倍以上の評価を獲得することも十分可能です。

  • 地域No.1シェアや大手との取引実績
  • 後継体制が明確で、経営が属人化していない
  • 営業利益率が安定しており、過去5年間の収益が右肩上がり

例えば、ある地方の塗装会社では、デジタル施工管理や独自塗料の開発などで他社との差別化を進めた結果、地域業種平均より高い5.8倍での売却に成功しました。

このように、「業種=倍率」ではなく、「業種×強み×準備」によって、低倍率業界でも十分な企業価値を実現できる可能性があります。

4.EBITDA倍率を押し上げる7つの評価ポイント

4.1 成長性・収益性

EBITDA倍率を高めるうえで、最も強く影響を与えるのが企業の「成長性」と「収益性」です。買い手は、将来的に企業の収益力がどれだけ伸びるかを見て、今の価値に上乗せをして評価します。つまり、現在のEBITDAが同じでも、将来の利益拡大が期待される企業は、高い倍率がつく傾向があります。

たとえば、年商10億円でEBITDAが1億円の企業があったとします。この企業が毎年10%ずつ成長し、3年後にEBITDAが1.33億円になる見込みであれば、買い手はその将来のキャッシュ創出力を先取りするかたちで、6倍ではなく8倍で評価する可能性もあります。

このような判断は、DCF法(ディスカウントキャッシュフロー)でも裏付けが取れるケースが多く、現場では「EBITDA倍率の上振れ要因」として意識されています。特に近年は、デジタル市場や医療・ヘルスケア、再生可能エネルギー分野などで高成長が見込まれる事業は、10倍以上の評価がつくこともあります。

また、EBITDAマージン(EBITDA ÷ 売上高)が安定して高い企業も評価が高まりやすくなります。これは「稼ぐ力の効率」が良い企業と見なされるからです。中小企業庁の「中小M&A推進調査(2023年)」では、EBITDAマージンが10%を超える企業は、同業平均よりも1〜1.5倍高く評価されやすい傾向があると報告されています。

主なチェックポイント:

  • 過去3〜5年の売上・EBITDAの成長率
  • EBITDAマージンの水準と推移
  • 成長市場に属しているか(DX、脱炭素、少子高齢化対応など)
  • 新規顧客の獲得数やリピート率

ある健康食品メーカーでは、2年間で売上が20%増、EBITDAが40%増という実績があり、当初想定していた6.0倍の提示価格が、買い手による競争入札により最終的には7.8倍まで上昇しました。このように、実績と将来性の両方が示せれば、大きなプレミアムがつく可能性があります。

4.2 独自資産・競争優位性

「他社にはない強み」を持っていることは、EBITDA倍率を押し上げる重要な要素です。独自の技術、ブランド、商流、特許、ノウハウなどがある場合、それが収益の再現性や差別化につながり、買い手にとって魅力的な資産となります。

たとえば、ある自動車部品メーカーが「他社が真似できない特殊加工技術」を持っていた場合、それは競争優位の源泉と見なされます。大手完成車メーカーから長期契約を受けている実績があれば、その信頼性と継続性が評価され、EV/EBITDAの倍率が1〜2倍上乗せされることもあります。

また、知的財産(IP)を保有している企業は、再販や事業拡張の可能性を秘めているため、高い倍率で評価されることがあります。ソフトウェア企業においては、自社開発した業務支援システムやAIアルゴリズムが知的財産化されていると、技術の独占性や展開力が評価対象になります。

競争優位性の例 具体的な内容 評価への影響
独自技術 特許取得済の製造プロセス 再現困難性が高く、買い手の独占メリット大
長期契約 大手顧客との5年以上の継続取引 売上安定性の裏付けになり倍率上昇
地域ブランド 地元での認知度や評判が高い 競合が入りにくく、エリア独占が可能

実例として、関西地方で地域密着型の医療機器販売を行っていた企業がありました。この企業は「病院向けの教育サポート体制」と「独占契約を結んだ商品ラインナップ」が高く評価され、平均的な業種倍率4.5倍を上回る6.2倍での譲渡に成功しました。

このように、買い手が「この会社でしか手に入らない」と思えるような競争優位性を持っているかどうかは、EBITDA倍率を大きく左右するカギとなります。

5.EBITDA倍率を高めるための実践的なステップ

5.1 EBITDAの“絶対額”を増やすPL改善法

EBITDA倍率そのものを変えられなくても、EBITDAの「絶対額」が増えれば、企業価値(EV)は比例して高まります。したがって、M&Aを視野に入れた企業価値向上の第一歩は、PL(損益計算書)の改善を通じてEBITDAを引き上げることです。

まず、収益の面では「高粗利商材への集中」「値上げ交渉の実施」「新規顧客の開拓」などが挙げられます。一方、費用面では「販管費の見直し」「業務委託コストの適正化」「人件費の最適化」などが実効性の高い施策です。

EBITDAは以下の式で表されます。

EBITDAの定義
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費

したがって、営業利益を伸ばす努力と同時に、非キャッシュ項目である減価償却の負担を戦略的に見直すことも重要です。設備投資の内容を精査し、不要資産の除却や償却スケジュールの調整を行えば、見かけ上のEBITDAが改善される場合もあります。

具体的なアクション例:

  • 高粗利商材(原価率40%以下)の販売比率を高める
  • 営業利益率の低い事業・商品を停止または縮小
  • 販促費・出張費・交際費などの“癖経費”を定量的に削減
  • 減価償却対象資産の入替え・棚卸でEBITDAを再構築

たとえば、ある中堅メーカーでは、PL上は年商15億円に対しEBITDAが1.2億円と見えていましたが、販促費や旅費交通費の見直し、在庫の適正化により、1年で1.7億円に引き上げることに成功しました。これにより、同じ6倍のEBITDA倍率でも企業価値が7.2億円から10.2億円へと増加し、買い手の関心度も一気に高まりました。

このように、「EBITDAを増やす=企業価値の底上げ」であることを意識し、具体的な損益改善策を定量的に実行することが、成功への最短ルートとなります。

5.2 正常EBITDAとQoEレポートの活用

実際のM&Aでは、PLに記載されたEBITDAをそのまま使うのではなく、「調整後EBITDA(正常EBITDA)」が評価の基準となることが一般的です。ここで登場するのが「QoE(Quality of Earnings)レポート」と呼ばれる専門的な会計分析レポートです。

正常EBITDAとは、オーナー企業によく見られる「私的経費」や「一過性の損益項目」などを除外・加算し、企業の“真の稼ぐ力”を数値化したものです。買い手側のデューデリジェンスに備えて、これを事前に整えておくことが重要です。

主な調整項目の例:

項目 内容 EBITDAへの影響
私的経費 社長の車両費、家族役員報酬、社宅賃料 + 数百万円〜数千万円
一過性損益 補助金、火災損失、訴訟関連費用 +/- 数百万円
M&A関連費用 FA報酬、アドバイザリー契約費、外注DD費用 + 数百万円

私が関与したあるケースでは、PL上はEBITDAが5,500万円と見えていた企業に対し、QoEレポートで私的経費や一過性要因を調整した結果、7,200万円の正常EBITDAが算出されました。これにより、5.5倍での評価であっても、3.0億円 → 4.0億円に評価額が上振れするという結果に繋がりました。

特に、買い手がファンドや外資である場合、帳簿の透明性や論理整合性を非常に重視します。したがって、売り手側がプロアクティブにQoEを準備しておくことで、減額交渉を未然に防ぎ、逆に信頼を勝ち取る材料となるのです。

このように、EBITDAの「中身」を整理して正しく伝えることは、M&A交渉の成否を分ける重要なステップであるといえるでしょう。

6.約3億円-5億円程度のM&Aにおけるプロセスと注意点

6.1 売却準備から買い手接触までの段取り

M&Aにおいて、売却準備は最終契約と同じくらい重要なステップです。特に3〜5億円規模のM&Aでは、買い手候補の目線も厳しくなるため、「魅力的な売却案件」として市場に出すための段取りが重要になります。

以下の段階的な準備が推奨されます:

  1. 経営者の意思確認と関係者間の合意形成
  2. 事業・財務・法務面の社内棚卸
  3. ティーザー(匿名概要書)の作成
  4. インフォメーションメモランダム(IM)の整備
  5. 初期買い手候補リストの策定

たとえば、IMには以下のような情報が含まれます。

  • 会社概要(沿革・代表者・所在地・従業員数など)
  • 事業内容(提供サービス・商品、強み)
  • 財務情報(過去3期のPL・BS・CF)
  • 主要顧客・取引先・市場構造
  • 成長戦略と事業計画

この準備が不十分な場合、買い手候補が現れても信頼を得られず、競争入札につながりません。逆に、情報が整理されている企業は初期接触から好印象を持たれやすく、評価額の押し上げにつながる可能性が高まります。

6.2 意向表明と条件交渉のポイント

買い手からの興味が示されると、次のステップは「意向表明書(LOI)」の受領と、その後の条件交渉です。このフェーズでは、提示された条件をうのみにするのではなく、「何を守るべきか」を明確にしながら進めることが重要です。

交渉の主な論点は以下の通りです:

項目 交渉ポイント
価格 EBITDA倍率・正味のEV・支払条件の妥当性
雇用 従業員の雇用維持、社長・役員の残留の有無
契約の独占性 他買い手との交渉を止める独占交渉期間の妥当性
表明保証 売り手が将来負うリスクの内容と範囲

ここで重要なのは、FA(ファイナンシャルアドバイザー)や弁護士と密に連携し、「価格以外の重要条件」も含めて冷静に交渉することです。たとえば、価格が期待より少し低くても、「従業員の雇用継続」「企業文化の尊重」などが担保されるならば、総合的に満足のいく取引となることもあります。

6.3 DD~クロージング~PMIで落とし穴を防ぐ

条件合意後は、買い手によるデューデリジェンス(DD)を経て、最終契約・クロージング・PMI(統合)へと進みます。この終盤プロセスで注意を怠ると、想定外の価格調整や契約トラブルにつながるため、事前の準備と対応がカギとなります。

DDで特に見られるのは以下の分野です。

  • 財務(売掛債権の回収性、在庫の正当性など)
  • 法務(契約書の有効性、知的財産権の帰属)
  • 税務(過年度申告、消費税処理の適正性)
  • 労務(雇用契約書、未払残業、退職給付債務)

たとえば、過年度に未処理の賞与引当金や、取締役契約書の不備が見つかった場合、EV(企業価値)を数千万円単位で減額されることもあります。これを防ぐために、売り手は「セルサイドDD」と呼ばれる事前自己点検を実施し、リスクをあらかじめ開示・是正しておくのが効果的です。

また、クロージング後のPMIでは、組織の統合・人材の引継ぎ・システムの連携などが待っています。これがうまく進まないと、買収後に従業員が離職したり、顧客離れが起きるリスクもあります。

特に中小企業の場合、創業者の存在が大きいため、買い手との信頼構築や、後継者へのバトンタッチの丁寧さがPMI成功の鍵となります。計画的な引継ぎと、人材の継続確保に向けたインセンティブ設計などが求められます。

このように、M&Aは「最終契約を結ぶこと」がゴールではなく、「その後の運営も含めて成功させること」が真のゴールです。特に3〜5億円規模では、買い手との信頼関係と、プロセス全体の整備が、満足度の高いクロージングに直結します。

7.ケーススタディ:成功と失敗から学ぶM&A実例

7.1 倍率を押し上げて高値で売却した製造業A社

A社は関東圏に拠点を構える精密部品メーカーで、年商12億円・EBITDAは1.8億円という規模の中堅企業でした。創業から40年以上経過し、創業者が高齢で後継者もいないことから、M&Aによる事業承継を決断されました。

初期段階では、EBITDA倍率4.8倍(約8.6億円)の意向が提示されましたが、以下の3つの工夫により、最終的に6.3倍(約11.3億円)での売却を実現しました。

  1. QoEレポートでEBITDAを+2,000万円調整
  2. 顧客依存度の低さをデータで可視化(上位5社で全体の40%以下)
  3. 同業2社へのシナジー提案で競争入札を促進

この結果、提示されたEVは1.5倍近く押し上げられ、競争構造を作り出す戦略が成功した事例となりました。

7.2 情報開示不足で破談した飲食業B社の教訓

B社は地方都市で5店舗の飲食店を展開する企業で、年商9億円・EBITDAは2,000万円程度と安定していたものの、業績に波がありました。複数の上場外食企業から関心が寄せられていたにもかかわらず、最終的には破談となりました。

主な原因は以下の通りです。

  • 過去3年の売上が8億→11億→9億と変動しており、説明が不十分
  • 閉店・移転履歴がIMに整理されておらず、「隠しているのでは」と不信感を与えた
  • EBITDA調整なしで、売上アピール型の資料になっていた

買い手からは「波があるのは理解できるが、それをきちんと自分の言葉で説明できない経営者からは買えない」というコメントがあり、情報開示とコミュニケーションの重要性が再認識される結果となりました。

7.3 アーンアウトでWin-Winを実現したSaaS企業C社

C社は創業5年目のクラウド型SaaSベンチャーで、従業員25名、ARR(年間経常収益)は2億円超ながらも、EBITDAは赤字でした。買い手と売り手の間で希望EVに大きな乖離があったため、「アーンアウト方式」が採用されました。

項目 内容
初期取得金額 6.5億円(EBITDAではなくARRベース評価)
アーンアウト条件 3年後ARRが4億円超で、追加3.5億円支払い
その他条件 経営陣の残留とPMIコミットが前提

結果として、2年目にはARRが3.8億円を突破し、一部の追加対価が支払われました。赤字であっても「将来の成長力」が可視化されていたことで、高倍率の評価とWin-Winの合意形成が実現できた好例です。

まとめ

EBITDA倍率は、単なる評価指標ではなく、企業の価値を「わかりやすく」「実践的に」伝える強力なツールです。本記事では、その意味や計算方法、業種別の相場感、そして評価を押し上げる具体策までを網羅的に解説しました。納得のいくM&Aを実現するためには、倍率の仕組みを理解し、自社の強みを数字で表現することが重要です。

  1. EBITDA倍率は実力を示す指標
  2. 業種や成長性で倍率は変動する
  3. 見せ方次第で評価が変わる

M&Aを成功させたい方、自社の価値を正しく伝えたい方は、ぜひアーク・パートナーズまでお問い合わせください。

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