「ルポ M&A仲介の罠」を専門家が解説|失敗事例と後悔しないアドバイザー選びの全知識
「M&Aを進めたいけれど、仲介会社を信用していいのか不安だ」「大手に任せても本当に安心なのか」「後悔しないためにはどう選べばよいのか」──そんな疑問をお持ちではありませんか?
本記事では、話題の書籍『ルポ M&A仲介の罠』(文春新書:藤田 知也氏 著)を題材に、現役M&Aアドバイザーが専門家の視点で解説します。M&A仲介の裏側で何が起きているのか、そして経営者がどのようにしてリスクを回避し、信頼できるパートナーを見極めればよいのかをわかりやすく整理しました。
■本記事を読むと得られること
- 『ルポ M&A仲介の罠』で描かれた実態と問題点が理解できる
- M&A仲介に潜む典型的トラブルと回避策がわかる
- 後悔しないアドバイザー選びの具体的ポイントが学べる
■本記事の信頼性
筆者はM&Aアドバイザー歴10年以上、200件以上の案件に携わり、中小企業庁登録M&A支援機関として活動しています。現場で培った実務経験と倫理観をもとに、経営者に寄り添った視点で解説します。
この記事を最後まで読むことで、M&A仲介の「罠」を回避し、あなたの会社と従業員の未来を守るために必要な知識と判断力が身につきます。ぜひ最後までご覧ください。

1. 『ルポ M&A仲介の罠』が注目される理由
M&Aが経営者にとって重要な背景
近年、日本における中小企業の経営環境は大きく変化しています。特に深刻なのが、経営者の高齢化と後継者不足の問題です。中小企業庁が公表した「中小企業白書2023」によれば、60歳以上の経営者が全体の約半数を占め、そのうちの約半数が後継者未定の状況にあります。この現実は、事業承継問題を解決する有効な手段としてM&Aが注目される大きな理由の一つです。
事業承継の観点から見たM&Aのメリットは以下のように整理できます。
- 会社の存続と従業員の雇用を守ることができる
- 取引先や地域社会への影響を最小限に抑えられる
- 経営者個人の保証債務や資産リスクから解放される可能性がある
また、買い手側にとってもM&Aは重要な成長戦略です。新規事業への参入や既存事業とのシナジー効果を期待でき、競争が激化する市場環境において短期間で事業基盤を拡大できる手段となります。日本政策金融公庫の調査によると、成長戦略としてM&Aを活用したいと考える企業は年々増加しており、特に地方の中小企業にとっては地域経済を維持するための「現実的な選択肢」となっているのです。
つまり、M&Aは単なる経営戦略にとどまらず、日本経済全体においても不可欠な役割を果たす手段となっています。そのため、「誰に任せるか」「どのように進めるか」が、経営者の人生や企業の未来を大きく左右するのです。我々M&Aに携わる立場としても、この重みを常に真摯に受け止め、学び続け、再発防止に努めながら、サービスのクオリティを高めていく責任を忘れてはなりません。
本書が描く「不都合な真実」とは
一方で、M&Aには明るい未来だけがあるわけではありません。藤田知也氏の著書『ルポ M&A仲介の罠』(文春新書)では、その裏側に潜む深刻な問題が赤裸々に描かれています。本書が注目されているのは、M&A仲介業界の成長の陰に隠れた「不都合な真実」を世に問うたからです。
具体的に問題視されている点を整理すると次の通りです。
指摘される課題 | 具体的な内容 |
---|---|
成約至上主義 | 成功報酬型の報酬体系が「何が何でも成約」を優先させ、質の低いマッチングや情報隠しを誘発する。 |
利益相反 | 仲介方式では売り手・買い手双方から報酬を得るため、どちらの利益を優先するのか不明瞭になりやすい。 |
専門性の不足 | 資格不要の業界構造により、経験の浅い若手が重要な交渉を担い、致命的な判断ミスが起こるリスクがある。 |
大手だから安心できない | 上場している大手仲介会社でも、営業ノルマや株主への成果プレッシャーが現場を歪める要因になる。 |
例えば、本書には「経営者保証の解除が不十分なままM&Aが成立し、元経営者が多額の負債を背負い続けることになった事例」や、「買い手企業が資産を食い潰すだけのハゲタカであったため、会社が数年で崩壊した事例」が紹介されています。これらは単なる一部の例ではなく、構造的な問題がもたらした必然的な結果だと指摘されているのです。
中小企業庁が推進する「中小M&Aガイドライン」でも、仲介方式の利益相反リスクや契約の透明性について警鐘が鳴らされていますが、法的拘束力がないため、実際には悪質な事業者が淘汰されにくい状況が続いています。つまり、制度や市場環境だけでは経営者を守り切れない現実があるのです。
本書が経営者や専門家から強い注目を集めている理由は、「M&Aは未来を拓く手段であると同時に、誤った選択をすれば企業や経営者の人生を破壊しかねない危険を孕んでいる」という事実を浮き彫りにした点にあります。華やかな成功談の裏で、数多くの失敗と悲劇が起きていることを知ることは、経営者が冷静かつ慎重にM&Aに臨むための第一歩となるのです。
総じて、『ルポ M&A仲介の罠』が示すのは、「仲介そのものが悪ではないが、業者の質と構造的な問題を見極めないと大きな後悔を招く」という現実です。だからこそ、M&Aを検討する経営者にとって本書の内容は、単なる告発ではなく「自社を守るための警鐘」として読むべきものだと言えるでしょう。そして我々専門家も、このような警鐘を真摯に受け止め、同じ過ちを繰り返さぬよう改善を積み重ね、業界全体の信頼を高めていく努力を続けていく必要があります。
2. なぜM&A仲介でトラブルが多発するのか
成約至上主義とインセンティブ構造
M&A仲介において最も根本的な問題の一つが「成約至上主義」です。仲介会社の多くは「成功報酬型」の料金体系を採用しており、契約が成立して初めて報酬が発生します。この仕組みは一見すると合理的に見えますが、仲介会社にとっては「何としてでも成約させる」ことが最優先の動機となり、売り手や買い手の利益よりも、自社の短期的な収益を優先してしまう危険性があります。
例えば、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」でも、仲介会社に対して契約条件の透明性や適正な説明責任を求めていますが、法的拘束力がないため、営業ノルマや社内の収益プレッシャーが現場を支配し、結果として顧客に不利益をもたらすケースが後を絶ちません。つまり「報酬が成約に直結する」仕組み自体が、トラブルの温床になりやすいのです。
実際に、売り手企業にとって不適切な買い手候補であっても、仲介会社が「早く契約をまとめたい」という理由で無理に話を進め、最終的に経営破綻や人員整理に追い込まれる事例が報告されています。我々M&Aに携わる立場としても、この構造的リスクを真摯に受け止め、再発防止に努める姿勢が不可欠です。
利益相反を生む「仲介方式」の限界
M&A仲介のもう一つの大きな課題は「利益相反」です。仲介方式では、売り手と買い手の双方から報酬を得る「両手取引」が一般的であり、この仕組みは一社の仲介会社が取引全体を効率的に進められるという利点がある一方で、どちらの利益を優先するのかが不明確になる危険を内包しています。
理論上、売り手と買い手は対立する立場にあります。売り手は「できるだけ高く売りたい」と考え、買い手は「できるだけ安く買いたい」と考えるのが自然です。その両方から報酬を得る仲介会社は、果たして誰の利益を本当に守っているのか、という疑念が常につきまといます。この点は学術的にも繰り返し指摘され、中小企業庁のガイドラインでも注意喚起されています。
実務の現場でも、売り手に不利な条件で契約をまとめることで買い手からの追加報酬を優先する、あるいは逆に買い手の希望を無視して高額な条件を提示するなど、双方に不満が残る形で成約してしまうことがあります。その結果、M&A後に契約不履行やトラブルが発生し、従業員や取引先に甚大な影響が及ぶケースもあるのです。
もちろん仲介方式そのものが悪いわけではありません。小規模なM&Aにおいては、効率性や費用面から見ても現実的な選択肢となります。しかし、その構造が「利益相反」を内包している以上、依頼する経営者側が契約内容や報酬体系をしっかり確認し、透明性を確保することが必要不可欠です。そして我々アドバイザーも、自らの姿勢を常に律し、クライアントの利益を第一に守る誠実さを貫くことが求められます。
誰でも名乗れる「M&A専門家」という現実
M&A仲介業界のもう一つの深刻な問題は、「専門家」を名乗るために資格や免許が不要であるという点です。弁護士や公認会計士、宅建士のような国家資格が存在しないため、極端に言えば誰でも「M&Aアドバイザー」と名乗り、業務を行うことが可能です。
この参入障壁の低さが、業界全体のサービス品質を下げている要因の一つです。実際に、大学を卒業したばかりの新入社員や、他業種から転職したばかりの人材が短期間の研修を経てM&Aの第一線に投入されるケースも少なくありません。もちろん、若手が経験を積み成長すること自体は必要ですが、企業の存続や経営者の人生に直結する重大な取引を「経験の浅い担当者」が主導することには大きなリスクが伴います。
典型的なリスクには以下のようなものがあります。
- 財務諸表や契約書に潜むリスクを見抜けず、後に大きな損失を招く
- 経営者との信頼関係を築けず、表面的な情報だけでマッチングを進める
- 営業ノルマに追われ、短期的な成果を優先して成約を急ぐ
例えば、ある地方の中小企業では、経験の浅い仲介担当者が適切なデューデリジェンスを行わず、買い手企業の資金調達能力を十分に確認しないまま契約を成立させました。その結果、買い手が資金繰りに行き詰まり、M&A後わずか1年で経営破綻に陥り、売り手側の経営者や従業員が大きな被害を受けたというケースがありました。
このような事例は決して珍しくありません。我々M&A業界に身を置く者としては、こうした現実を真摯に受け止め、常に学びを重ねて再発防止に努め、サービスの質を引き上げていくことが不可欠です。経験や専門知識だけでなく、経営者の想いや従業員の未来に寄り添える人間的な成熟さこそが、真のアドバイザーに求められる資質だといえます。
総じて、M&A仲介でトラブルが多発する背景には、「成約至上主義」「利益相反」「専門性の不足」という3つの構造的な問題が存在しています。これらは一部の悪質な業者だけの問題ではなく、業界全体が抱える課題です。だからこそ、経営者は依頼先を選ぶ際に慎重さを欠いてはいけません。そしてアドバイザー自身も、常に自らの在り方を問い直し、誠実で質の高いサービス提供を目指す姿勢を忘れてはならないのです。
3. 経営者を蝕む典型的なM&Aトラブル
経営者保証が解除されないケース
M&Aの場面で多くの売り手経営者が期待するのが「経営者保証からの解放」です。日本では中小企業融資の大半に経営者個人の保証が付されており、金融庁のデータによれば中小企業融資の約6割以上で経営者保証が存在しています。本来であれば、M&Aによって株式を譲渡すれば会社の債務から個人保証は切り離されると考えがちですが、実際には保証が残ってしまうケースが少なくありません。
問題の多くは契約条項の曖昧さに起因します。例えば株式譲渡契約に「買い手は金融機関と協議し、保証解除に努める」と記載されている場合、これは「努力義務」に過ぎません。金融機関が保証解除を拒めば、売り手経営者はM&A後も保証債務を背負い続け、最悪の場合、会社を離れた後に金融機関から多額の請求を受けることになります。
実際の事例として、ある地方企業の経営者は会社を売却した後も保証が外れず、買い手の経営悪化によって金融機関から返済請求を受け、私財を投げ打つ事態に追い込まれました。M&Aの目的が「経営者保証からの解放」であったにもかかわらず、逆に個人破産の危機に陥ったのです。
このような悲劇を避けるためには、保証解除を「クロージングの条件」とする契約交渉が不可欠です。我々M&Aに携わる立場としても、経営者の人生を左右する保証問題を軽視せず、必ず実効性のある解決策を示す責任があります。
「ハゲタカ買収」による資産流出
M&Aの買い手の中には、企業の成長を共に目指すのではなく、短期的に資産を奪うことを目的とする「ハゲタカ」と呼ばれる存在もいます。彼らは一見すると魅力的な条件を提示しますが、実態は資産の切り売りや現金流出を狙ったものです。
典型的な手口は以下の通りです。
- 会社が保有する現金を買収直後に配当や役員報酬として引き出す
- 不動産や知的財産をグループ会社に移し、売却益を吸い上げる
- 会社を担保に新たな借入を行い、資金を外部に流す
こうした買収の結果、数年で会社は資産を失い、残されたのは過剰な債務だけというケースもあります。従業員が職を失い、取引先も被害を受け、地域経済にまで悪影響を及ぼすのです。
実例として、ある中堅メーカーは買収後に保有不動産を全て売却され、得られた資金は買い手グループの負債返済に充当されました。結果として工場は閉鎖され、従業員数百人が職を失いました。売り手経営者は「地域と社員を守りたい」という想いでM&Aを決断したにもかかわらず、逆に地域経済に大きな痛手を与えてしまったのです。
このような「ハゲタカ買収」を避けるには、買い手候補の財務内容や過去のM&A実績を徹底的に調査(デューデリジェンス)することが不可欠です。また、買収後の事業計画やPMI(統合計画)を確認し、具体性と現実性があるかどうかを見極める必要があります。我々アドバイザーは、短期的な条件だけで判断せず、長期的な事業継続性を必ずチェックする役割を果たさねばなりません。
地域金融機関の紹介に潜む落とし穴
中小企業の経営者にとって、日頃から取引している地域金融機関は信頼できる相談先です。そのため「銀行からの紹介だから安心」と考えがちですが、ここにも落とし穴が存在します。多くの金融機関はM&A仲介会社と提携し、顧客を紹介することで紹介料を得るビジネスモデルを採用しています。
問題は、金融機関が仲介会社や買い手候補の実態を十分に精査せずに紹介してしまうケースがあることです。紹介自体は金融機関の責任範囲外とされるため、トラブルが発生しても「単に紹介しただけ」として責任を負わない立場を取ることが少なくありません。
例えば、ある経営者は地元の銀行から紹介された仲介会社を信頼し、M&Aを進めました。しかし仲介会社は成約を急ぐあまり、買い手の資金力を十分に確認せず契約を締結。結果として買い手が債務超過に陥り、事業は失敗しました。銀行は責任を取らず、仲介会社は解散。残されたのは経営危機に直面する売り手企業でした。
このような事態を避けるには、銀行からの紹介であっても「第三者的に仲介会社の実績や評判を確認すること」が大切です。契約条件や料金体系も必ず自分の目でチェックする姿勢が必要です。信頼できる金融機関の紹介だからといって、安易に安心してはいけません。
総じて、M&Aにおける典型的なトラブルは「経営者保証の未解除」「ハゲタカ買収による資産流出」「金融機関紹介の盲信」という3つに集約されます。これらはいずれも経営者自身の未来や従業員の生活を大きく揺るがす問題です。我々M&Aに携わる専門家は、これらのリスクを正しく理解し、学び、再発防止を徹底することで、サービスの質を高め続けていかなければなりません。
4. M&A仲介とFA方式の違いをどう理解するか
仲介方式のメリットとリスク
M&Aの進め方には大きく分けて「仲介方式」と「FA(ファイナンシャル・アドバイザー)方式」の2種類があります。仲介方式は、売り手と買い手の間に1社の仲介会社が入り、双方をまとめ上げる仕組みです。中小企業の多くは資金的な制約から、この方式を採用するケースが多く見られます。
仲介方式の主なメリットは以下の通りです。
- 1社が全体を取りまとめるため、交渉が効率的に進む
- 手数料が比較的抑えられるため、中小企業でも利用しやすい
- 市場に出回らない買い手や売り手情報を持っている場合がある
しかし一方で、大きなリスクも存在します。
- 仲介会社が売り手と買い手双方から報酬を得る「両手取引」により、利益相反が起こりやすい
- 「成約すれば報酬が入る」という仕組みが、質よりもスピードを優先させる可能性がある
- 仲介担当者の専門性や経験に大きく依存し、担当者によって結果に差が出やすい
例えば、ある中小企業が仲介方式でM&Aを進めた際、仲介会社が短期間で成約させることを優先し、買い手の財務状況を十分に精査しませんでした。その結果、買収後に買い手が資金繰りに行き詰まり、従業員の雇用が不安定になったケースがあります。仲介方式は効率性という強みがある反面、その裏に潜む利益相反のリスクを見極める目が経営者には求められます。
FA方式の理想と現実的課題
FA方式は、売り手と買い手がそれぞれ独立したアドバイザーを雇い、自社の利益を最大化するように交渉を進める方式です。学術的には理想的な形とされ、利益相反を避けられる点が最大の特徴です。
FA方式のメリットは次の通りです。
- 売り手側の利益を最優先に守れる
- 契約条件や保証解除など、細部まで交渉を行える
- 買い手の信頼性やシナジー効果を徹底的に検証できる
しかし、現実には大きな課題もあります。
- 着手金や月額報酬が必要な場合が多く、中小企業にとっては負担が重い
- 成約するかどうか分からない段階からコストが発生するため、依頼をためらう経営者が多い
- 専門性の高いFAが少なく、地方では選択肢が限られる
実際に、中小企業庁がまとめた調査では、中小企業経営者の約7割が「M&Aアドバイザーの報酬負担が重い」と回答しています。そのため、FA方式を採用できるのは資金余力がある企業や、大規模な取引を想定している場合に限られることが多いのです。
理想的にはFA方式の方が安全ですが、現実的には利用しづらいというジレンマが存在しています。我々アドバイザーもこの現実を直視し、経営者が安心して相談できる仕組みを整えていくことが求められます。
中小企業が取るべき現実的選択肢
それでは、多くの中小企業はどの方式を選ぶべきなのでしょうか。結論から言えば、資金力が十分でなければ仲介方式を利用せざるを得ないケースが多いのが実情です。ただし、その際に「どの仲介会社を選ぶか」が決定的に重要になります。
中小企業が現実的に取るべき選択肢は、以下の視点を持つことです。
- 仲介会社の実績や担当者の経験を必ず確認する
- 契約条件や報酬体系の透明性を求める(中小M&Aガイドライン準拠かどうかも確認)
- 「買い手は大手だから安心」と安易に信じず、アドバイザーにデューデリジェンスを徹底させる
- 経営者保証の解除や従業員雇用維持を契約条件として盛り込む
- 場合によってはFA方式を併用し、重要な局面で専門家を部分的に関与させる
例えば、ある製造業の経営者は仲介方式を利用しながらも、契約書レビューの段階で弁護士をFA的に関与させました。その結果、当初提示された「努力義務」で終わる保証解除条項を「解除完了をクロージング条件とする」と修正でき、経営者がリスクから解放される形でM&Aを実現できました。
このように、中小企業にとっては「仲介方式を使う=リスクが高い」と決めつけるのではなく、「仲介方式を選ぶなら徹底的に業者を見極める」ことが最も現実的な選択肢になります。我々M&Aに携わる立場としても、経営者の負担を理解しながら、再発防止とサービス品質の向上に努めていくことが不可欠です。
総じて、仲介方式とFA方式にはそれぞれメリットと課題があります。大企業や資金に余力のある企業はFA方式を検討すべきですが、多くの中小企業は仲介方式を活用せざるを得ません。その場合、最も大切なのは「誰に任せるか」であり、信頼できる仲介会社やアドバイザーを見極めることこそが後悔しないM&Aへの第一歩となるのです。
5. 後悔しないM&Aのために|アドバイザー選びの5つの視点
専門知識と実務経験の確認
M&Aを成功させるためには、担当するアドバイザーが十分な専門知識と実務経験を持っていることが欠かせません。財務・法務・税務・労務など、幅広い知識を持っていなければ、契約条件の不備やリスクの見落としが発生しやすくなるからです。特に中小企業庁が発表している「中小M&Aガイドライン」でも、アドバイザーの専門性を確認することが強調されています。
実際に、M&Aアドバイザーを名乗る人の中には、実務経験が浅いまま現場に立たされているケースもあります。例えば、新卒や若手が数か月の研修で現場を任され、経営者と対等に話すことができず、重要な契約条件を十分に交渉できない事例があります。結果的に、経営者が望んでいた「経営者保証の解除」や「従業員の雇用維持」が実現されず、後悔につながってしまうのです。
したがって、アドバイザーを選ぶ際は以下の点を確認することが重要です。
- 過去にどのようなM&A案件を担当したのか
- 関与した件数や業種の幅は十分か
- 実務における交渉経験が豊富か
経営者にとってM&Aは一度きりの大きな決断になることが多いため、「経験豊富な伴走者」を選ぶことが成功の第一歩となります。
料金体系と契約内容の透明性
M&Aの失敗例で多く見られるのが、料金体系や契約内容の不透明さです。中小M&Aガイドラインでも「契約内容を事前に十分に確認すること」が強く求められています。報酬が曖昧な場合、成約後に予想外の費用が追加されることも珍しくありません。
具体的なチェックポイントは以下の通りです。
項目 | 確認すべき内容 |
---|---|
成功報酬 | 譲渡価格のどこまでが算定基準に含まれるか(現預金・退職金など) |
着手金・中間金 | 成約前に不要な費用が発生しないか |
解約条件 | 途中解約時に違約金が発生するかどうか |
例えば、ある経営者は「成功報酬30%」と説明を受けて契約しましたが、実際には役員退職金や会社の現預金まで報酬対象に含まれており、想定以上の支払いを余儀なくされました。このようなトラブルを避けるためにも、契約段階で不明点は必ず書面で確認し、納得できる形にしておくことが不可欠です。
出口戦略(PMI)まで見据えた提案力
M&Aは「成約して終わり」ではありません。むしろ本当のスタートは成約後の統合プロセス、すなわちPMI(Post Merger Integration)です。ここで失敗すると、せっかくのM&Aが企業崩壊につながる可能性もあります。
信頼できるアドバイザーは、以下のような視点を持っています。
- M&A後の組織統合を見据えた買い手の選定
- シナジー効果や企業文化の相性まで考慮したマッチング
- 従業員の定着やモチベーション維持への配慮
例えば、買収先との文化的な違いを無視して合併を進めた結果、従業員の大量離職が起こり、事業が立ち行かなくなったケースがあります。一方で、PMIを見据えた慎重なアドバイスを受けた企業では、買収後の業績が安定し、従業員の定着率も高い結果を出しています。
経営者は、アドバイザーに「成約後の未来まで考えて提案してくれるか」を必ず確認すべきです。
倫理観と「NO」と言える姿勢
アドバイザーの本当の価値は、クライアントにとって不利益な案件に対して「NO」と言えるかどうかに表れます。報酬欲しさに成約を急がせる仲介業者では、経営者にとって最悪の結果を招く危険性があるのです。
信頼できるアドバイザーは、次のような特徴を持っています。
- 経営者にとって不利な条件があれば契約を止める勇気がある
- 短期的な利益よりも長期的な事業存続を優先する
- 倫理観に基づき、情報を隠さず透明性のある説明をする
実際に、ある案件では買い手が「実績はあるが財務的に危うい企業」でした。仲介会社は早期成約を優先して契約を進めようとしましたが、別のアドバイザーがリスクを指摘し、取引を見送る判断を助言しました。結果として、経営者は後の破綻から免れることができました。このように「NO」と言えるアドバイザーの存在は、経営者を守る最後の砦となります。
経営者との信頼関係を築けるか
M&Aは単なる数字の取引ではなく、経営者の人生そのものがかかる重大な決断です。そのため、アドバイザーと経営者の間に「信頼関係」があるかどうかが極めて重要です。
信頼関係を築けるアドバイザーには次の特徴があります。
- 経営者の想いや従業員への配慮を理解しようと努める
- 数字だけでなく「企業文化」や「歴史」を尊重する
- 一方的な提案ではなく、経営者と共に考える姿勢を持つ
ある経営者は「このアドバイザーなら社員を任せられる」と確信を持てたために、安心してM&Aを決断しました。その後も買収先と良好な関係を築くことができ、事業は安定的に成長しました。反対に、信頼関係が築けないアドバイザーでは、経営者が不安を抱えたまま契約を進め、後悔するケースが少なくありません。
結局のところ、M&Aの成功は「誰に任せるか」で決まります。経営者が心から信頼できるアドバイザーを選ぶことが、後悔しないM&Aへの最も確実な道なのです。我々M&Aに携わる立場としても、経営者の想いに真摯に向き合い、サービスの質を高め続ける責任を果たさなければなりません。
まとめ
本記事では『ルポ M&A仲介の罠』を切り口に、M&A仲介の構造的なリスクや典型的な失敗事例、そして後悔しないためのアドバイザー選びの重要な視点を解説しました。経営者にとってM&Aは人生を左右する重大な決断であり、誰に任せるかで未来が大きく変わります。以下のポイントを押さえて行動することが、成功への第一歩となります。
- 仲介方式の構造的リスクを理解する
- 典型的トラブル事例を知って備える
- FA方式との違いを正しく把握する
- 信頼できるアドバイザーを見極める
- 契約後の未来まで考えて判断する
後悔しないM&Aのためには、正しい知識と慎重な判断が不可欠です。詳しく知りたい方は、ぜひアーク・パートナーズまでお問い合わせください。
