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「M&A市場は二極化へ|利益2〜3億円企業の“本当の相場”と高評価がつく会社の条件

「自社の利益は2〜3億円あるのに、思ったより高いマルチプルがつかない…」「5倍以上で売れる会社と、3倍しかつかない会社の違いは何?」
そんな疑問や不安をお持ちではありませんか?

2025年のM&A市場はこれまで以上に“二極化”が進み、小規模〜中規模の企業ほど適正相場が読みづらい時代になっています。本記事では、最新の市場データと実務の肌感にもとづき、利益2〜3億円企業の「本当の相場」と「高評価がつく会社の特徴」を徹底的にわかりやすく解説します。

■本記事を読むと得られること

  1. 2025年現在のM&Aマルチプル(3〜3.5倍時代)のリアルがわかる
  2. 事業の「社歴(継続年数)」が評価に及ぼす具体的な影響が理解できる
  3. 仲介とFAのどちらが自社に適しているか、判断基準が明確になる

■本記事の信頼性
筆者はM&Aアドバイザー歴10年以上、累計200件以上の案件に関与し、中小企業庁の登録M&A支援機関として、中小〜中堅規模のM&Aを多数支援してきました。実務に基づく「現場の相場感」を前提に、読者にとって本当に必要な情報だけを厳選してお届けします。

この記事を読み終える頃には、あなたの会社の「適正な評価額」や「高値がつく条件」がクリアに理解でき、今どの戦略を取るべきかを自信を持って判断できる状態になっているはずです。それではさっそく本編に入りましょう。

1. はじめに|2025年秋のM&A市場はどう変化しているのか

小規模M&Aが「成熟市場」へ移行した理由

2025年のM&A市場は、これまでと大きく様変わりしています。特に、利益2〜3億円クラスの小規模〜中規模企業の売却では、以前のように「高いマルチプルが自然につく」という状況ではなくなり、買い手が慎重に案件を見極める“成熟市場”へと完全に移行しています。これは売り手にとって厳しく聞こえるかもしれませんが、市場の透明性が高まり、より合理的な判断が行われるようになったとも言えます。

このような成熟化が起きた背景には、いくつかの重要な構造変化があります。まず、国内のM&A件数は年々増加し、特に中小企業の事業承継ニーズが急拡大したことで、買い手にとって案件の選択肢が増えたことが大きく影響しています。中小企業庁の「M&A支援機関連携レポート」でも、2022年以降の中小企業M&Aの成約件数が上昇傾向にあると示されており、市場全体が“一定の供給過多”になってきていることが読み取れます。

さらに、コロナ禍を経てビジネスモデルの見直しが進んだ企業が増え、買い手側も「確実に利益が続く会社」にだけ価値をつける姿勢を強めています。特に、上場企業や銀行系の買い手はガバナンスを重視するため、事業の再現性や継続年数(社歴)が短い会社は慎重に評価する傾向があります。

この結果、以前は成長性だけで評価が跳ね上がったような会社であっても、現在は「社歴が短い」「利益が安定しない」「再現性が弱い」と判断されれば高値がつきません。市場が成熟するということは、買い手が求める基準が整い、値付けの基準がより厳格になったという意味でもあります。

また、スタートアップ業界でも同じ傾向が見られます。初期のEXIT(売却)を目的に短期間でスケールした企業は多いものの、買い手側は短期の利益だけで将来価値を読みづらいため、社歴が浅い会社への評価は抑えられるケースが増えています。これも市場が成熟してきた証拠です。

こうした動きにより、現在のM&A市場では以下のような変化が明確になっています。

  • 利益2〜3億円企業でもマルチプルが3〜3.5倍が相場になっている
  • 5倍以上の高評価は“ごく一部のレア案件”に限定されている
  • 成長性よりも「安全性」「継続性」「再現性」が重視されている
  • 仲介会社が力を持ち、小規模案件では仲介主導が増えている

つまり、2025年のM&A市場では、売り手が「自社の価値を正しく伝える力」と「買い手が求める基準を理解する力」がこれまで以上に重要になっていると言えるのです。

実際の現場でも、同じ利益規模でも評価が2倍以上異なるケースは珍しくありません。たとえば以下のような事例があります。

  • 利益2.5億円、社歴3年 → マルチプル2.8倍の評価にとどまる
  • 利益2.3億円、社歴7年、顧客基盤が安定 → マルチプル4.0倍の提示が複数入る

この差は「利益の絶対額」ではなく、「事業の安定性」「社歴」「再現性」といった非財務要素が大きく影響していることを示しています。市場が成熟すると、こうした要素の重要度がさらに高まるため、売り手は“買い手の目線”を知ることが必須になります。

以上のように、現在のM&A市場は、売り手にとっては難易度が上がっているように見えますが、買い手の意思決定が以前よりも明確になったことで、自社の魅力を整理しやすくなったとも言えます。市場の成熟は単なる厳しさではなく、「売り手の準備次第で評価を大きく高められる余地が広がった」とも捉えることができます。

読者がこの記事で得られること

この記事では、成熟した2025年のM&A市場において、利益2〜3億円規模の企業がどのように評価されるのか、そしてどのようにすれば高いマルチプルを実現できるのかについて、実務的かつ中学生でも理解できるレベルまでかみ砕いて解説していきます。

特に、以下のような点が明確になります。

  • 現在の適正マルチプル(3〜3.5倍)がどう形成されているのか
  • なぜ事業継続年数(社歴)が高評価の鍵になるのか
  • 仲介とFAの違いが結果にどう影響するのか
  • 利益規模別の買い手の特徴と、どこまで評価されるか
  • 5倍以上の評価が狙える会社の共通点は何か
  • 高値売却のために売り手が準備すべき具体的なポイント

さらに、初回EXITを狙うスタートアップや、事業承継を考える中小企業経営者にとって、今の市場環境で「どのタイミングで売るべきか」を判断する材料にもなるはずです。

この記事を読み進めることで、読者は2025年のM&A市場を正しく理解し、自社がどのポジションにあるのか、そしてどのように準備すれば高評価につながるのかが具体的にイメージできるようになります。市場の成熟により難易度が上がっている今だからこそ、正しい知識を持つことが売却成功への第一歩になります。

2. 2025年のM&A相場:小規模・ベンチャー企業は“3〜3.5倍時代”へ

過去の5〜10倍評価が消えた背景

2025年のM&A市場では、かつて一般的だった「5倍〜10倍の高いマルチプル」がほとんど見られなくなっています。特に利益2〜3億円規模の企業では、現実的に提示される買収額は3〜3.5倍前後が中心であり、以前のような高倍率での売却は極めて限定的です。これは単に市場が冷えたというより、買い手側がより慎重かつ合理的な価値判断をする“成熟した市場”に変化したことが大きな理由です。

この背景には、国の統計データが示す構造的な変化が影響しています。中小企業庁が2023年に公開した「中小企業白書」では、事業承継型のM&A件数は増加している一方で、買い手側企業の財務基準や審査基準が年々厳格化していることが指摘されています。さらに、国内の上場企業は内部統制の強化が求められ、安定性やリスク管理が以前より重視されるようになりました。その結果、「将来伸びそうだから高く買う」という成長期待型の評価ではなく、「確実に利益を出し続けられるか」という継続性重視の評価にシフトしています。

また、コロナ禍以降は国内外の金融政策が引き締め方向に向かい、資金調達環境が変化しました。銀行やファンドの投資判断はより慎重となり、短期利益だけに依存した会社は高評価を得にくい状況になっています。これにより、利益規模が小さい企業や社歴(事業年数)が短い企業ほど、高いマルチプルで売却することが難しくなりました。

たとえば2015〜2019年頃には、IT企業やサブスク型ビジネスは10倍近いマルチプルで買われることも珍しくありませんでした。しかし、2023年以降は買い手企業が「本当に利益が続くのか」「仕組みは属人化していないか」を厳しく確認するようになり、実態に基づいた評価が強まっています。

こうした変化の中で、高倍率が消えたのではなく“本当に一部の会社だけが高評価を維持している”と捉えるのが正確です。特にストック収益型や独自技術を持つ企業など、買い手側が明らかにメリットを感じる企業だけが5倍以上の評価を維持し、その他大多数は相場に飲まれているという構図です。

したがって、2025年現在の市場環境では、「高値は狙えるが、万人に高値がつく時代ではない」という結論になります。売却を考える企業は、まず自社が市場のどの位置にいるのかを正確に把握することが重要です。

実際に札が入るマルチプルの実態

2025年の現場では、売り手が提示する希望価格と、買い手が実際に出す金額には大きなギャップが生まれています。特に利益2〜3億円ゾーンでは、売り手は「4倍〜5倍で売りたい」と考える一方で、多くの買い手が提示するのは3倍〜3.5倍程度です。

下記は、中小M&Aの実務で多く見られるマルチプルの例です。

利益規模 売り手が望む倍率 買い手が実際に提示する倍率 理由
〜1億円 4倍〜5倍 2倍〜3倍 依存リスクや属人性が高く見られやすい
1〜2億円 4倍〜5倍 2.5倍〜3.2倍 中小企業の中でも「安定性」が重視される領域
2〜3億円 5倍以上 3倍〜3.5倍 競争が激しく、買い手の比較検討が厳しい
3〜5億円 5倍〜6倍 3.5倍〜4倍 この規模からFA案件も増えるが、全体相場は上がりにくい

特に2024〜2025年にかけて感じられるのは、「買い手が案件を選べる市場になった」ということです。案件数が増えたことで、買い手は同じ利益規模の会社を複数比較し、「最も効率よく利益を取れる会社」を選ぶようになりました。そのため、企業の特色や強みが明確でない場合、倍率はどうしても低くなります。

実際の現場では、以下のような傾向が顕著です。

  • 売上は伸びているが、利益率が低い会社 → マルチプルが大幅に下がる
  • 利益は高いが社歴が短い会社 → 将来性を疑われて評価が伸びない
  • 属人化が強い会社 → 引継ぎリスクにより買い手の提示額が低くなる
  • ストック売上が多い会社 → 相場より高い倍率が提示されることがある

とくに顕著な例として、同じ「利益2.5億円」でも、以下のように大きな差が生まれることがあります。

  • 利益2.5億円、社歴3年 → 提示額は3倍未満(約7億円台)
  • 利益2.5億円、社歴8年、顧客安定 → 提示額4.2倍(10億円超)

このような差は、利益そのものよりも非財務的な要因(安定性、歴史、再現性)の評価が重視されていることを示しています。よって、売り手は“いくら利益があるか”だけでなく、“その利益が続く根拠を示せるか”が重要になります。

3億円未満の利益企業が評価されにくい構造

利益が年間3億円に届かない企業は、2025年の市場全体で見ると評価が抑えられやすい傾向があります。これは単に利益規模の問題ではなく、買い手企業が「安定して利益を生み続けられるか」を重視していることに起因しています。

とくに以下のような理由が影響しています。

  • 利益が安定しない企業ほど、再現性を疑われやすい
  • 少人数組織=属人リスクが高いと見られる
  • 社歴(事業年数)が短いとリスクが増す
  • 企業価値算定で将来キャッシュフローを伸ばしにくい

実際、買い手側の中でも特に上場企業や銀行系の買い手は、ガバナンス基準が厳しいため、利益規模が小さい企業や社歴の短い企業を高く評価しづらい事情があります。これは、中小企業庁の「事業承継ガイドライン」でも“継続性・再現性の重要性”として明記されています。

また利益が3億円に満たない企業は、市場での比較対象が非常に多くなるため、買い手にとって「代替可能な案件」と判断されやすく、結果的に倍率が伸びづらくなります。

例えば以下のようなケースが典型的です。

  • 利益2億円、社長に依存 → マルチプル2.5倍
  • 利益2.3億円、ストック収益比率50% → マルチプル3.5倍
  • 利益3億円以上、社歴10年、顧客安定 → マルチプル4〜5倍の交渉が可能

このように、利益が3億円未満の会社が評価されにくいのは、単に“小規模だから”ではなく、買い手のリスク評価基準と合致しにくい構造的理由があるためです。

まとめると、2025年のM&A市場では、小規模〜中規模企業は“3〜3.5倍が基準”になりつつあり、高評価を得るには利益規模以上に「事業の再現性」「社歴」「非財務的な強み」が重要視されている現実があります。売り手はこれらを踏まえた準備とアピールが不可欠です。

3. M&Aは二極化へ|高値がつく会社とつかない会社の決定的な違い

買い手が「希少価値」を判断するポイント

M&A市場が成熟してきた今、高値がつく会社とそうでない会社の差は、単純な業績だけではなく、買い手から見た「希少価値」があるかどうかで大きく分かれます。利益2〜3億円クラスの企業であっても、買い手が「この会社は他では代わりが効かない」と感じれば、相場より高いマルチプル(倍率)がつきます。一方で、「似たような会社が他にもある」と判断されれば、どうしても3〜3.5倍程度に落ち着きやすくなります。

このような二極化が起きている背景には、M&A案件そのものが増え、買い手が案件を選べる立場になっていることがあります。中小企業白書によると、日本のM&A件数は近年増加傾向が続き、2022年には4,304件と過去最多を記録し、2023年も4,015件と高水準で推移しています。つまり、売り手の立場から見ると「買い手は思った以上にたくさん案件を見ている」という前提に立つ必要があるということです。

買い手が「希少価値」を判断するとき、具体的には次のようなポイントを見ています。

  • その会社ならではの技術・ノウハウがあるか
  • 他社が簡単には参入できない市場ポジションを持っているか
  • 既存の顧客との関係性が強く、乗り換えが起こりにくいか
  • 買い手の既存事業と組み合わせたときのシナジーが明確か
  • 経営者やキーパーソンの交代後も事業が続く仕組みがあるか

ここで大切なのは、「希少価値」は必ずしも“すごい技術”だけを意味しないということです。たとえば地方のニッチ市場で圧倒的なシェアを持っている会社や、特定の大手企業と長年取引を続けている会社も、買い手にとっては強い魅力になります。

実際の現場でも、売上規模はそこまで大きくないにもかかわらず、「この地域でこのサービスを安定して提供できる会社は他にない」という理由で、高めのマルチプルがついたケースは珍しくありません。逆に、業績は悪くないのに「代わりが効きそう」と見なされ、競争相手が多い業種ではマルチプルが伸びないことも多くあります。

たとえば次のようなイメージです。

会社A 会社B
利益2.5億円/地方ニッチ市場でシェア60%/特定顧客と10年以上の取引 利益2.5億円/競合が多い都市部市場/価格競争が激しい
→「他社で代替しにくい」ため4倍近いマルチプルのオファーが入る →「似た会社が多い」と見られ3倍前後の提示にとどまる

このように、同じ利益規模でも「希少価値」があるかどうかで、評価は大きく変わってきます。買い手は、単に“今の利益”だけではなく、“買収後にその利益を維持・拡大できるか”といった将来の可能性も含めて判断しているのです。

したがって、売り手として高評価を狙うのであれば、「自社のどこが他社と違うのか」「どんな点が買い手にとって“替えがきかない価値”なのか」を整理し、資料やストーリーとして見せられる状態にしておくことが重要です。

ストック型 vs フロー型

M&Aの二極化を語るうえで、もう一つ重要なポイントが「ストック型ビジネスか、フロー型ビジネスか」という観点です。ストック型とは、毎月・毎年、継続的に売上が積み上がるビジネスモデルのことで、サブスクリプションや保守契約、月額課金サービスなどが代表例です。一方でフロー型とは、一回一回の取引で売上が完結するビジネスのことで、スポットの工事、単発の受託開発、物品販売などが当てはまります。

一般的に、同じ利益2〜3億円でも、ストック型の比率が高い企業ほどマルチプルは高くなりやすいです。理由はシンプルで、買い手から見ると「買収後も安定して売上・利益が入り続ける」と期待しやすく、将来の見通しを立てやすいからです。中小企業庁の資料でも、M&Aの活用が進む背景として「国内市場の成熟」「安定した収益基盤の重要性」が指摘されており、継続性のあるビジネスモデルが重視されていることが読み取れます。

ストック型とフロー型のイメージを、簡単な表にまとめると次のようになります。

項目 ストック型ビジネス フロー型ビジネス
売上の性質 継続課金・更新契約で積み上がる 単発案件ごとに発生し、継続性は案件次第
将来予測 一定の売上が見込めるため予測しやすい 案件の有無に左右されやすく読みにくい
買い手の評価 高くなりやすい(相場より上振れしやすい) 平均的、もしくはディスカウントされやすい
よくある業種 サブスクサービス、保守・メンテ契約、会員制ビジネスなど 建設・工事、受託開発、物販、単発のコンサルなど

実務感覚としても、ストック比率が高い会社は、「多少業績がブレてもベースは残る」という安心感から、競争入札になった場合に買い手が積極的な価格を提示してくることが多いです。逆に、フロー比率が高い会社では、「社長や営業担当が抜けたら売上が落ちるのでは」「景気が悪くなったら受注が減るのでは」という不安がつきまといます。

たとえば、次のような二社を比べると違いがよくわかります。

  • A社:利益2.2億円/売上の70%が月額課金・保守契約/解約率は年5%以下
  • B社:利益2.2億円/売上の80%が単発受注/毎期、新規案件の取り直しが必要

どちらも同じ利益2.2億円ですが、A社は「来期もある程度の売上が見込める」と判断しやすく、将来キャッシュフローも読みやすいです。その結果、買い手が4倍近いマルチプルを提示することもあり得ます。一方B社は、「来期以降の利益は未確定」と見られやすく、3倍前後に抑えられるケースが多いです。

もちろん、すべてのフロー型ビジネスが低評価になるわけではありません。たとえば、長期の請負契約やリピート性の高い取引先が多い場合には、実質的にストックに近い評価を受けることもあります。重要なのは、売り手が「自社の売上はどのくらい“ストック性”があるのか」を整理し、数字とともに説明できるようにしておくことです。

つまり、同じ利益2〜3億円でも、ストック型に近いビジネスを作れている会社が高評価ゾーンに入り、フロー依存度が高く再現性の説明が弱い会社は、どうしても平均的なマルチプルにとどまりがちです。この点が、二極化の大きな分かれ目になっています。

再現性・顧客基盤・事業年数の影響

高値がつく会社とつかない会社を分ける最後のポイントが、「再現性」「顧客基盤」「事業年数(社歴)」です。買い手は、ある意味で「この利益は、社長が変わったあとも続くのか?」を見極めようとしています。ここでいう“再現性”とは、特定の人に依存せず、仕組みとして利益が生まれる状態かどうかを指します。

再現性が高いと判断される会社は、次のような特徴を持っています。

  • 営業プロセスや業務手順がマニュアル化されている
  • 複数の社員で業務を分担できており、属人化が少ない
  • 顧客管理や売上データがシステムで一元管理されている
  • 経営者が不在でも、一定期間は自走できる組織体制がある

一方で、社長や特定のキーパーソンへの依存度が高い会社は、「その人が抜けたら売上がどうなるかわからない」と見られ、マルチプルが抑えられる傾向があります。中小企業庁の資料でも、事業承継において「経営者依存の解消」や「経営の見える化」の必要性が繰り返し言及されており、これはM&Aの評価においても同様です。

顧客基盤も重要な要素です。たとえば、売上の大半が1〜2社の大口顧客に偏っている場合、その顧客が離れた瞬間に事業が大きく崩れるリスクがあります。このような集中リスクがあると、買い手はディスカウントを要求しがちです。逆に、売上が複数の顧客に分散されている場合は、「一部の顧客が離れても致命的な影響は出にくい」と判断され、評価も安定しやすくなります。

顧客の「質」も重要です。たとえば、上場企業や大手企業との長期取引が多い会社は、信用力が評価されやすく、買い手にとっても安心材料になります。また、特定の業界内で評判がよく、紹介や口コミで新規案件が入るような会社は、「ブランド力」を評価され、マルチプルが上振れすることもあります。

そして見逃せないのが、事業年数(社歴)の影響です。利益が出ていても、社歴が極端に短い場合、「たまたま当たった可能性はないか」「この状態が5年続くのか」という疑問を持たれます。逆に、5〜10年にわたり安定して利益を出している会社は、「景気の波や環境変化を乗り越えてきた実績」として高く評価されます。

たとえば、次のような比較が典型的です。

項目 C社 D社
利益 2.8億円 2.8億円
事業年数 3年 10年
顧客基盤 上位2社で売上の60% 上位10社で売上の50%、分散
業務体制 社長と数名に高度に依存 部門ごとに責任者が配置され、マニュアル整備済み
想定マルチプル 3倍前後 3.8〜4.2倍

両社とも同じ利益水準でも、D社の方が「再現性」「顧客分散」「社歴」の点で明らかに優れており、高評価につながりやすいことが分かります。これが、まさにM&A市場の二極化の正体です。

結局のところ、買い手は「今の利益」だけではなく、「その利益がどれだけの確率で続くか」を評価しています。再現性、顧客基盤、事業年数は、その確率を測るための重要なチェックポイントなのです。売り手が高評価を狙うなら、これらの要素を意識し、日頃から“仕組みとして利益を出せる会社づくり”を進めておくことが、二極化の中で「高値がつく側」に回るための近道と言えます。

4. 社歴(事業継続年数)の評価が急激に重要になった理由

M&Aの現場では、ここ数年で「いくら儲かっているか」以上に、「何年続けてその利益を出しているか」が強く問われるようになりました。特に利益2〜3億円クラスの企業では、社歴(事業継続年数)が5年未満か、5年以上あるかで、マルチプルが1倍以上変わることも珍しくありません。買い手から見ると、短い社歴はどうしても「たまたま当たっただけかもしれない」という不安材料になり、逆に長い社歴は「景気や環境の変化を乗り越えてきた証拠」として高く評価されるからです。

つまり結論として、2025年のM&A市場では、「利益×何年続けているか」という“時間の要素”が、評価を左右する決定的なポイントになっていると言えます。

3年の社歴で高評価がつかない理由

まず、なぜ「社歴3年」の会社が高評価を得にくいのかを整理します。表面的には「3期連続で利益が出ているなら十分では?」と思うかもしれませんが、買い手の立場で見るとそう単純ではありません。

買い手が3年の社歴を慎重に見る理由は、大きく次のようなものです。

  • ビジネスモデルの「一発屋」リスクが消えていない
  • 景気や競合環境の変化をまだ十分に経験していない
  • 経営体制や組織が固まっておらず、業績ブレの可能性が高い
  • 補助金・キャンペーン・一時的な特需が利益を押し上げている可能性がある

例えば、ある事業が1年目から急成長して3年連続で高利益を出している場合でも、買い手は次のような疑問を持ちます。

  • たまたま市場タイミングが良かっただけではないか
  • 今後、競合が一気に増えたときに耐えられるのか
  • 主要顧客の数が少なく、構造的に不安定ではないか

金融機関や投資家の世界では、「3期の決算だけで将来10年分の利益を織り込むのは危険」という考え方が基本にあります。利益2〜3億円が3年続いている会社と、同じ利益が10年続いている会社を比べると、後者の方が圧倒的に信頼度が高いのは直感的にもわかると思います。

イメージをつかみやすいように、簡単な比較表にすると次のようになります。

項目 A社(社歴3年) B社(社歴8年)
直近期利益 2.5億円 2.5億円
黒字継続年数 3年 8年
業績のブレ 年ごとの増減が大きい 大きな赤字はなく安定
買い手から見た印象 「勢いはあるが、先は読みにくい」 「景気の波にも耐えられるビジネス」
想定マルチプル 3倍前後 3.5〜4倍以上も検討対象

このように、同じ利益でも「時間軸」が違うだけで、買い手の見え方は大きく変わります。社歴3年は決して悪いわけではありませんが、「5年分の利益を前倒しして評価してほしい」というような高いマルチプルを求めるには、まだ材料が足りないと判断されやすいのです。

実務の感覚としても、社歴3年で高い評価(4倍以上)を狙うためには、単に利益が出ているだけでなく、次のような追加要素が求められることが多いです。

  • 既に大型の長期契約が複数成立している
  • 解約率やリピート率などのKPIが非常に安定している
  • 主要メンバーが固定されており、組織の離職率が低い

こうした条件を満たしていない場合、買い手はどうしても「少し慎重に見ておこう」と考え、マルチプルは3倍前後に落ち着きやすくなります。

銀行・上場企業の“保守的な見方”

社歴が重要視される背景には、銀行や上場企業の「保守的な見方」があります。彼らは自社の株主や監督官庁に対して説明責任を負っているため、「安全で再現性の高い投資(買収)かどうか」を非常に重く見ます。

銀行は、融資先や投資先を評価する際に、財務データだけでなく「過去の業績の安定性」や「経営者の交代リスク」もチェックします。金融庁や中小企業庁の資料でも、事業性評価や事業承継の場面で「中長期的な事業継続性」がキーワードとして繰り返し登場しており、短期的な利益よりも長期的な持続性が重視されていることが読み取れます。

特に上場企業は、買収した会社の業績が自社の連結決算に影響するため、「買った翌年に利益が半減する」ようなリスクは絶対に避けたいと考えます。そのため、次のような点を慎重にチェックします。

  • 5年以上、安定的に黒字を出しているか
  • 売上・利益に大きな凸凹がないか
  • 特定の顧客や個人への依存度が高すぎないか
  • 経営者が変わっても事業が回る仕組みがあるか

これらの観点から見ると、社歴3年の会社はどうしても「まだ様子見したい案件」に分類されてしまいます。また、上場企業や銀行が関与する案件では、社内の稟議プロセスや投資委員会での説明も必要になります。そのとき、「10年近く継続して利益を出している会社」と説明するのと、「ここ3年で急成長した会社」と説明するのとでは、説得力がまったく違います。

この「社内で説明しやすいかどうか」という観点も、実はマルチプルに影響を与えています。どれだけ魅力的なビジネスでも、社内での説明が難しければ、投資額は抑えられがちです。逆に、安定した社歴があれば、「数字が物語っている」として、多少高めのマルチプルでも承認が得やすくなります。

5年以上の実績が求められる背景

では、なぜ「最低でも5年以上の実績がほしい」と言われることが多いのでしょうか。これは、ビジネスがさまざまな環境変化を経験し、「本当に持続力があるかどうか」を判断するためには、ある程度の時間が必要だからです。

具体的には、次のような理由があります。

  • 景気サイクルを一巡する目安になる
    好況・不況・コロナ禍など、外部環境の変動を一通り経験しているかどうかを見るためには、数年単位のデータが必要です。
  • ビジネスモデルの修正や改善が一巡している
    創業〜3年程度は試行錯誤の時期であり、利益が出ても「本当にこのモデルが完成形なのか」が見えにくいことが多いです。
  • 組織体制が固まってくる
    5年も経てば、主要メンバーが固定され、役割分担やマネジメントの仕組みも安定してくるため、属人性リスクが下がります。

イメージとしては、「3年連続で良い結果が出るのは運の要素もあるが、5年連続で結果を出すには実力が必要」という感覚に近いです。買い手は、その“実力”を確認するために、5年分の決算やKPIを見たがります。

実際のM&Aの現場でも、次のような会話がよくあります。

  • 「利益水準は魅力的ですが、まだ3期目ですか。もう少しトラックレコードがほしいですね。」
  • 「5期連続で同じような利益が出ているなら、ある程度の安定性は信じられます。」

このような背景から、利益2〜3億円クラスであっても、社歴5年以上+黒字継続という条件を満たす企業は、マルチプル交渉のスタート地点そのものが1段上がりやすくなります。逆に、社歴が短い場合は、どれだけ業績が良くても「ディスカウント要因」として扱われてしまうことが多いのです。

短期利益偏重型が嫌われる仕組み

社歴の重要性が増しているもう一つの理由が、「短期利益偏重型のビジネス」が嫌われるようになったことです。買い手は、ここ数年で「短期間だけ利益が跳ねて、その後急激に落ち込む」ケースを多く見てきました。そのため、直近期の利益が高くても、「それが本当に続くのか?」という目で厳しくチェックするようになっています。

短期利益偏重型とみなされる典型的なパターンは、例えば次のようなものです。

  • 一時的な特需(補助金、ブーム商品、キャンペーン)が売上の大半を占めている
  • 広告費を大量投下して売上を伸ばしているが、顧客の継続率が低い
  • 価格を大きくディスカウントしてシェアを取っているが、利益率が不自然に高い
  • 決算直前に売上計上を前倒しするなど、タイミング調整が多い

このようなケースでは、たとえ直近期の利益が2〜3億円出ていても、買い手は「今後もその利益が続くとは限らない」と判断し、マルチプルを大きく下げます。場合によっては、将来の業績を保守的に見積もって、実質的に2倍台程度の評価にとどまることもあります。

一方、社歴が長く、短期的な利益の凸凹が少ない企業は、「派手さはないが、安定した収益基盤がある」として、買い手から好まれます。特に、以下のような特徴を持つ企業は、短期利益偏重型とは正反対の評価を受けやすいです。

  • 売上・利益の推移が右肩上がり、もしくは緩やかな成長で安定している
  • 補助金や単発の大型案件がなくても利益が残る体質になっている
  • ストック売上や長期契約の比率が年々高まっている

まとめると、短期的に利益を大きく見せることは、むしろ逆効果になりかねません。買い手は「派手な1年」よりも、「地味でも安定した5年」を重視します。そのため、売却を視野に入れるのであれば、決算を“盛る”ことよりも、継続的で再現性のある利益構造を作り、その実績を3年、5年と積み上げることが何より重要になります。

最終的に言えるのは、社歴(事業継続年数)は単なる「年数」ではなく、「その期間の中でどれだけ安定した利益を積み上げてきたか」を示す重要な指標だということです。短期的な数字だけではなく、時間を味方につけて実績を積み上げることで、M&A市場の二極化の中でも「高評価がつく側」に立つことができるようになります。

5. アドバイザーの役割の変化|小規模案件は仲介が強く、FAは大型案件へ

仲介が決まりやすい市場構造

現在のM&A市場では、利益2〜3億円クラスの「小〜中規模案件」ほど、売主・買主の両方を一社で担当するM&A仲介が入りやすく、実際に成約まで至りやすい構造になっています。結論から言うと、「スピードと話のまとまりやすさ」を優先せざるを得ないゾーンでは、仲介のほうが動きやすいからです。

背景として、ここ数年で中小企業のM&Aは一気に一般化しました。中小企業庁も「M&A支援機関連携制度」をつくり、事業承継の手段としてM&Aを後押ししています。このように案件数が増えると、買い手側は常に多くの情報を受け取るようになり、結果として「どの案件に時間を使うか」を厳しく選ぶようになります。

そのときに、買い手から見て仲介には次のようなメリットがあります。

  • 売主・買主の窓口が一つなので、情報や条件のやりとりが速い
  • 仲介担当者が「この案件は決めたい」と本気で動くインセンティブがある
  • 買い手からすると、「条件交渉の相手が一人」で済むためストレスが少ない

特に利益2〜3億円ゾーンでは、買い手側の立場から見ると

  • 「良い案件」が常に複数並んでいる
  • 一件あたりに使える時間・人手は限られている

という事情があります。そのため、

  • 条件調整のハンドリングがうまい仲介がついている案件
  • 資料が揃っていて、意思決定までのイメージが持ちやすい案件

から優先的に検討される傾向が強くなります。言い換えると、「仲介がついているから決まりやすい」というより、「決まりやすい形の案件には、たいてい仲介がついている」という構造になりつつある、というイメージです。

実務の肌感としても、同じ利益2億円の案件で、

  • 売主専属FA+複数買い手というやり方
  • 仲介が買い手候補にピンポイントで当てていくやり方

を比べると、後者のほうが「スピード感」「決まりやすさ」の面で有利になる場面が多くあります。もちろん仲介には利益相反の課題もありますが、「とにかくディールを前に進める力」という観点では、一定の優位性があると言えます。

特に、

  • 地方案件で買い手候補が限られている
  • 売主があまり時間をかけずに出口を決めたい
  • 案件規模がそれほど大きくなく、金融機関やファンドが積極的に入ってこない

といった条件が重なると、「仲介+少数の有力買い手」で一気に進めたほうが現実的、という判断になりやすくなります。これが、「小規模案件では仲介が強い」と言われる理由です。

利益3〜5億円でFAが機能し始める理由

一方で、利益3〜5億円クラスになってくると、状況は少し変わります。このゾーンからは、いわゆるFA(ファイナンシャル・アドバイザー)型が本格的に機能し始めるステージに入ります。結論としては、「買い手候補のレベルとディールの複雑さ」が一段上がるため、売主専属のアドバイザーがついたほうがメリットが大きくなるからです。

利益3〜5億円という水準は、

  • 上場企業の事業子会社として十分に意味のある規模
  • 国内の中小型PEファンドが投資対象として検討し始める規模
  • 銀行も「レバレッジド・ファイナンス(LBOローンなど)」を組みやすい規模

にあたります。このため、買い手候補の顔ぶれに次のようなプレイヤーが増えてきます。

  • 業界内の準大手〜中堅上場企業
  • 国内の中小型投資ファンド(PEファンド、事業承継ファンドなど)
  • 投資会社を通じて多角化を進める企業グループ

このレベルになると、ディール構造も少し複雑になりがちです。具体的には、

  • 株式の一部だけを売却し、オーナーが一定割合を再投資するスキーム
  • 経営陣の継続・交代のタイミングを踏まえた複数段階のスキーム
  • 銀行借入を組み合わせたレバレッジド・バイアウト(LBO)の活用
  • 役員報酬・ストックオプション・アーンアウト条項などの条件調整

など、「単純に◯倍で売り切って終わり」という話ではなくなります。こうした交渉を売主だけで行うのは難しいため、売主の立場に立って条件を設計・交渉するFAがついたほうが、安全かつ有利に進めやすくなります。

また、利益3〜5億円ゾーンからは競争入札が成立しやすくなります。複数のファンドや上場企業が興味を示し、

  • 初期提示(LOI)の段階から複数社を並行比較する
  • デューデリジェンスの進み具合に応じて条件を比較・見直す
  • 最終的に価格だけでなく、「誰に託すか」という観点で選ぶ

といったプロセスをとることが増えます。このとき、FAがうまく競争環境をデザインし、

  • 買い手候補のプールを広げる
  • 各社の強みとシナジーの出し方を整理し、売主に分かりやすく提示する
  • タイムラインを管理して「先に疲れて離脱する買い手」を減らす

といった役割を果たすことで、最終的なマルチプルや契約条件が大きく変わってきます。

つまり、利益3〜5億円のゾーンは、

  • 仲介だけだと「とりあえずまとまればOK」の方向に流れやすい
  • FAをつけることで「どこまで条件を引き上げられるか」「誰に託すか」まで設計できる

という違いが出てきます。このステージに入ってきた売主は、「成約するかどうか」だけでなく、「どの条件で、どの相手に、どんなストーリーで承継するか」を重視したほうがトータルのリターンが大きくなりやすいのです。

ファンドが好む案件の条件

利益3〜5億円ゾーンに入ると、いわゆる投資ファンド(PEファンド)が本格的に検討対象に入ってきます。ファンドが好む案件の条件を理解しておくことは、「高評価がつく会社の条件」を知ることにも直結します。

ファンドが特に重視するポイントは、次のようなものです。

  • 成長余地がはっきりしているか
    「売上を◯倍にできる具体的な打ち手」があるかどうか。たとえば、エリア拡大、取扱い商品の拡充、新しい販売チャネルの開拓などです。
  • 再現性のあるビジネスモデルか
    属人的な営業ではなく、仕組みとして売上を増やせるモデルになっているかどうか。
  • ガバナンス・管理体制が整えやすいか
    最低限の会計・税務・法務が整っており、ファンドが入っても管理体制を組み立てやすいかどうか。
  • 出口(エグジット)のイメージが持てるか
    将来、どのような相手に、どのようなストーリーで売却できるかが想像できるか。

ファンドは通常、投資してから5〜7年程度での売却(エグジット)を前提に計画を立てます。そのため、「この会社に◯億円で投資したら、将来どのくらいの企業価値になりそうか」「どのような買い手に売れそうか」を常に逆算しています。

たとえば、次のような案件はファンドから見て魅力的です。

  • すでに利益2〜3億円を安定して出している
  • 営業エリアは限られているが、同じモデルを他地域に横展開する余地が大きい
  • 経営者は交代を希望しているが、現経営陣の下で育っているミドル層がいる
  • 原価管理やKPI管理を導入すれば、利益率をさらに高められる余地がある

こうした会社は、ファンドにとって「テコ入れすれば伸びる」「出口が描きやすい」という意味で、通常の事業会社よりも高いマルチプルを提示される可能性があります。結果として、二極化の中でも「高値がつく側」の代表的なパターンになりやすいのです。

売主が“誰に頼むべきか”の判断軸

ここまで見てきたように、案件の規模や内容によって「仲介がハマりやすい案件」と「FAをつけたほうがよい案件」は変わります。売主としては、「自社の利益規模」「売却の目的」「買い手候補のイメージ」を整理したうえで、誰に頼むべきかを判断することが重要です。

ざっくりとした目安を表にまとめると、次のようなイメージになります。

項目 仲介がフィットしやすいケース FAがフィットしやすいケース
利益規模 〜2〜3億円程度 3〜5億円以上
優先したいこと スピード、成約確度、手離れの良さ 価格・条件の最大化、相手選び、ストーリー性
買い手候補 地場の同業者、近しい業種の事業会社 上場企業、全国展開企業、ファンドなど
ディールの複雑さ シンプルな株式譲渡や事業譲渡 再投資・役員構成・LBOなど条件が複雑になりやすい
売主のスタンス 「とにかく早く、きちんと引き継ぎたい」 「時間をかけてもいいので、納得いく条件と相手を選びたい」

もちろん、これはあくまで一般論です。利益2億円でもFAが適している案件もあれば、利益5億円でも、あえて仲介でスピーディに進めたほうがよいケースもあります。大切なのは、

  • 自社の利益規模と成長性
  • 売却の目的(引退か、再投資か、グループ入りか 等)
  • どのレベルの買い手と組みたいか

を整理したうえで、「今回のディールで最も重視したいものは何か?」をはっきりさせることです。

そのうえで、複数の仲介会社やFAから話を聞き、

  • 想定している買い手候補のイメージ
  • どのようなシナリオでプロセスを組むつもりか
  • 報酬体系と、そこに込められたインセンティブの構造

を比較することで、「自社にとって最も相性の良いパートナー」が見えてきます。M&Aの二極化が進む中で、アドバイザーの選び方もまた、「どちらでもいい」ではなく、戦略的に選ぶべき時代に変わってきていると言えるでしょう。

6. 利益規模別:どんな買い手が来るか&期待できるマルチプル早見表

このパートでは、「自社の利益規模だと、どんな買い手が候補になるのか」と「ざっくりどのくらいのマルチプル(倍率)を期待できるのか」を、利益帯ごとに整理していきます。あくまで実務の肌感覚にもとづく“目安”ではありますが、売却を検討する経営者にとって、方向感をつかむうえでの重要な材料になります。

先に結論を一言でまとめると、利益が小さいほど「買い手の層は狭く、マルチプルも低くなりがち」、利益が大きくなるほど「買い手の層が厚くなり、競争によってマルチプルが上振れしやすくなる」という構造です。ただし、どの利益帯であっても、ビジネスモデル・再現性・顧客基盤などの質によって、同じ利益でも評価が大きく変わる点には注意が必要です。

利益規模(経常利益〜EBITDAイメージ) 主な買い手のタイプ 現場感覚のマルチプル目安
〜1億円 個人オーナー、地場の同業者、小規模グループ 約2.0〜3.0倍
1〜2億円 地域の中堅企業、同業の広域展開企業 約2.5〜3.2倍
2〜3億円 上場企業子会社、業界内の中堅企業 約3.0〜3.5倍
3〜5億円 上場企業本体、業界準大手、国内PEファンド 約3.5〜4.0倍(案件次第で4倍超)
5億円以上 大手グループ、複数のPEファンド、海外投資家 約4.0〜6.0倍(条件次第ではそれ以上も)

なお、日本のM&A市場全体としては、中小企業庁が公表する「中小企業白書」や民間調査でも、中小企業のM&A件数がここ数年増加傾向にあることが示されています。件数が増えるということは、買い手から見て「比較・選別できる案件が増えている」ということであり、その分だけマルチプルはシビアになりやすい、という前提を押さえておくとイメージしやすいです。

〜1億円:ローカル色が強く、オーナー同士のマッチング色が濃いゾーン

利益1億円未満のゾーンは、M&A市場の中でも「オーナー同士のバトンタッチ色」が最も強いレンジです。結論から言うと、

  • 買い手の中心は、地場の同業者や個人オーナー
  • マルチプルはおおむね2〜3倍のレンジに収まりやすい

というイメージになります。

このレンジでは、買い手は「大きく伸ばしてリターンを狙う」というよりも、「既存事業の近くにある会社を取り込み、地盤固めや規模のメリットを得たい」という発想で動くことが多いです。したがって、

  • 同じ市区町村・同じ商圏の同業者
  • 近隣エリアで少し大きめの競合
  • その業界に新規参入したい個人オーナー

といった層が中心的な買い手になります。

マルチプルが2〜3倍付近に落ち着きやすいのは、以下のような理由からです。

  • 会社規模が小さいほど、経営者や一部社員への依存が大きく、引継ぎリスクが高いと見られやすいこと
  • 金融機関からの借入余力も限られており、高いマルチプルでのレバレッジが効きにくいこと
  • 買い手側も「中小企業のオーナー」であることが多く、投資余力が無限ではないこと

一方で、このレンジでも「ストック性が高い」「圧倒的な地域シェアを持つ」などの強みがあれば、3倍を超えるケースも十分あり得ます。

実例イメージとしては、次のようなケースが多いです。

  • 地方都市の専門サービス業(年利益6,000万円〜8,000万円)を、同市内の少し大きな競合が買収し、マルチプル約2.5倍で成立
  • 高粗利のニッチ製造業(年利益9,000万円)が、仕入先でもある中堅メーカーに約3倍で買われる

この利益帯では、「とにかく高く売る」というよりも、「きちんと承継してもらえる相手を選びつつ、2〜3倍のレンジで落としどころを探す」スタンスが現実的になりやすいです。

1〜2億円:地域の中堅プレイヤー・広域展開企業が本格的に参加するゾーン

利益1〜2億円になると、買い手候補の幅が一気に広がります。結論として、

  • 買い手は「地域の中堅企業」や「広域展開している同業者」が増える
  • マルチプルの目安は2.5〜3.2倍程度が中心

というイメージです。

このレンジになると、買い手にとっては「規模の拡大」「エリア展開」「顧客基盤の取得」といった戦略的な意味合いが強くなってきます。中小企業白書でも、中小企業のM&A活用理由として「人材不足の解消」「販路拡大」「新規事業の獲得」が挙げられており、この利益帯はまさにそれらのニーズとマッチしやすいゾーンです。

たとえば、

  • 近隣県に進出したいサービス業の中堅企業
  • 高齢化の進む業界で、若手オーナーの会社を取り込みたい地場リーディング企業
  • 自社と近いビジネスモデルの会社を買い、規模のメリットでコストダウンを図りたい企業

などが、積極的な買い手となります。

マルチプルが2.5〜3.2倍あたりで落ち着きやすいのは、

  • 「銀行借入+自己資金」で無理なく資金調達できるラインがその辺りにあること
  • 買い手側も中堅クラスであり、リスク許容度はあるが極端な高値は出しづらいこと
  • 案件数が多く、買い手が比較・選別できるため、相場が自然に形成されやすいこと

などが理由です。

実例イメージとしては、

  • 年利益1.5億円のBtoBサービス企業が、同業の広域展開企業に3倍弱のマルチプルで譲渡
  • 年利益1.2億円の専門商社が、仕入先である中堅メーカーに約2.8倍でグループ入り

といったケースが挙げられます。このゾーンでは、「あまり欲を出しすぎず、3倍前後を基準にしつつ、事業の質次第で上振れを狙う」というスタンスが現実的です。

2〜3億円:上場企業子会社・業界中堅が本格参入し、“3〜3.5倍時代”の中心ゾーン

本記事のテーマである「利益2〜3億円企業」のど真ん中がこのゾーンです。結論として、

  • 買い手は「上場企業の子会社」や「業界内の中堅企業」が強くなる
  • 現実的に札が入るマルチプルは3〜3.5倍が中心

というのが、2025年時点での肌感覚です。

このレンジの会社は、買い手にとって「単なる補完」ではなく、「一つの事業の柱になり得る規模」です。そのため、

  • 既存事業との相乗効果を見込む業界中堅企業
  • 地方・特定ニッチ市場への足がかりを得たい上場企業グループ
  • 今後3〜5年でさらに伸ばしたいと考える成長志向の買い手

などが主なプレイヤーになります。

一方で、案件数も多く、買い手からすれば「利益2〜3億円帯の案件を複数比較できる」状態です。そのため、

  • ストック型ビジネスで再現性が高いか
  • 社歴が5年以上あり、業績が安定しているか
  • 顧客が特定の数社に偏らず、ある程度分散されているか

といった要素で、同じ利益でも評価に大きな差が出てきます。

実務上よく見られるイメージとしては、

  • 年利益2.2億円・社歴3年・大口2社に依存 → マルチプル3倍前後での提示
  • 年利益2.3億円・社歴8年・ストック収益比率50%・顧客分散 → マルチプル3.5倍近い提示

といった「同じ利益でも0.5倍以上の差」が生まれることも珍しくありません。このゾーンが、まさに“M&A市場の二極化”が一番分かりやすく表れるレンジだと言えます。

3〜5億円:上場企業本体・準大手・PEファンドが競合し始めるゾーン

利益3〜5億円のゾーンに入ると、買い手候補の顔ぶれとディールの“空気感”がガラッと変わります。結論として、

  • 上場企業本体・業界準大手・国内PEファンドが本格的に参入
  • マルチプルは3.5〜4倍前後が基準だが、案件によっては4倍超も十分あり得る

というレンジになります。

この帯域の案件は、買い手にとって「一つの事業セグメントを一気に獲得できる規模」として認識されます。PEファンドが投資対象として検討しやすいのも、このレンジからです。

この利益帯で評価が上振れしやすい条件としては、

  • 業界内でトップクラス、もしくはニッチトップのポジションを持っている
  • 売上・利益の成長率が高く、今後も伸びる余地がはっきりしている
  • マネジメント層やミドル層が育っており、経営陣の交代リスクが低い
  • 海外展開や新市場展開など、将来のストーリーが描きやすい

といった点が挙げられます。

実例イメージとしては、

  • 年利益3.5億円のBtoBサービス企業を、業界準大手が約3.8倍で買収し、全国展開の中核子会社として位置付ける
  • 年利益4億円のニッチ製造業に、PEファンドと上場企業の双方からオファーが入り、最終的に4倍超の条件でファンドが取得

といったケースが想像しやすいです。

このレンジでは、FAを活用しながら複数の買い手候補にアプローチし、「誰に・どのような条件で買ってもらうか」を戦略的に設計することが、マルチプルを1段階引き上げるための重要なポイントになります。

5億円以上:大手グループ・複数ファンド・海外投資家も視野に入るゾーン

利益5億円を超えるゾーンは、中小企業M&Aの世界から一段上がり、「本格的な投資対象」として見られるステージです。結論として、

  • 大手グループ企業・複数のPEファンド・場合によっては海外投資家も候補に
  • マルチプルは4〜6倍程度が一つの目安で、条件次第ではそれ以上も視野に入る

というレンジになります。

このゾーンに入ると、買い手側は「現在の利益水準」だけでなく、

  • 5〜10年後の市場規模
  • 海外展開やM&Aの再M&A(買収後にさらに買収する)などを含めた成長シナリオ
  • IPOや再売却(セカンダリー)の可能性

といった長期的な観点から企業価値を評価します。つまり、「今いくら稼いでいるか」に加え、「将来どこまで伸びるか」がより強く問われるステージです。

このレンジで高いマルチプルがつく会社の代表例としては、

  • サブスク・SaaSなどストック型ビジネスで、売上成長率も高い企業
  • 独自技術や特許を持ち、グローバルニッチトップを狙える製造業
  • 人口増加エリアや海外市場に強いプラットフォーム型ビジネス

などが挙げられます。

一方で、利益5億円を超えていても、

  • 特定顧客への依存が極端に高い
  • 経営者の属人性が強く、後継体制が整っていない
  • 市場全体が縮小傾向にあり、将来の成長余地が見えにくい

といった場合には、マルチプルは4倍以下にとどまることも十分にあります。このレンジは、「利益規模が大きいから高く売れる」という単純な世界ではなく、「利益×将来の成長ストーリー×再現性」の掛け算で評価が決まっていく世界だと理解することが大切です。

以上のように、利益帯ごとに買い手の顔ぶれとマルチプルの水準は大きく変わります。ただし、どのゾーンであっても、ビジネスモデルの質・社歴・顧客基盤・再現性といった要素を磨き込むことで、「同じ利益でも一段上の評価」を狙うことは十分に可能です。自社がどのレンジにいるのかを客観的に把握したうえで、「どの層の買い手に、どんなストーリーでアプローチするか」を考えていくことが、M&A成功への近道になります。

7. 高評価(5倍以上)を狙える会社の条件と、売主が準備すべきこと

評価が跳ね上がる5つの共通点

まず大前提として、利益2〜3億円の会社が「5倍以上」のマルチプルを狙えるのは、どの会社にも起きることではなく、一部の“条件がそろった会社”に限られるという現実があります。その条件を分解すると、概ね次の5つの共通点に整理できます。

  • ① 売上・利益の「ストック性」が高い
    サブスクリプション、保守契約、月額課金、長期継続契約など、翌期以降も自動的に積み上がる売上が大きな割合を占めている会社です。毎期ゼロから売上を取りに行くのではなく、「何もしなくても一定額は積みあがる」状態だと、買い手は将来キャッシュフローを読みやすく、マルチプルも上振れしやすくなります。
  • ② 成長余地がはっきりしている
    すでに利益2〜3億円を出していながら、「このエリアに展開すれば売上〇倍」「このチャネルを開けば新規顧客を獲得できる」といった具体的な成長ストーリーが描ける会社です。市場規模がまだ十分に残っている、競合の少ないニッチを押さえているなど、「成長の余白」があるほど評価は高くなります。
  • ③ 経営が“再現性のある仕組み”になっている
    社長や一部のキーパーソンがいなくても事業が回るように、営業プロセス・業務手順・教育体制が仕組み化されている会社です。マニュアル、KPI管理、会議体、評価制度などを通じて、「人に頼らず組織として結果を出す仕組み」があるほど、買い手は安心して高い値段をつけられます。
  • ④ 顧客基盤が強く、分散している
    売上の大半が1〜2社の大口顧客に偏っている会社よりも、複数の優良顧客に分散している会社の方が、明らかに高評価を得やすいです。特に、上場企業や大手企業など信用力の高い顧客との長期取引が多い場合、「解約リスクが低い」「与信面で安心」という意味でプラスに働きます。
  • ⑤ 社歴が5年以上あり、数字が安定している
    3年で一気に伸びた会社よりも、5年以上にわたって利益を積み上げてきた会社の方が、「本物の実力がある」と判断されやすいです。売上・利益の推移が極端にブレておらず、多少の景気変動があっても黒字を維持できている会社は、それだけで“安心料”としてマルチプルに上乗せされる可能性があります。

これら5つのうち、どれか1つだけを満たしていても「5倍評価」が自動的についてくるわけではありません。しかし、3つ以上がそろった会社は、明らかに相場(3〜3.5倍)より上を狙いやすいゾーンに入ってきます。特に、ストック性・再現性・社歴は、中小企業のM&Aにおいて買い手が最初にチェックするポイントであり、「ここが弱いと一気に減点される」と言っても過言ではありません。

決算の平準化

高評価を目指すにあたって意外と見落とされがちなのが、「決算の平準化」です。買い手が見るのは単年の利益だけではなく、過去3〜5期の平均的な稼ぐ力です。ここで大きな凸凹があると、「たまたま売却前の年だけ良かったのでは?」という疑いを持たれ、マルチプルが抑えられがちです。

たとえば、次のような2社を比較してみます。

会社 3期前 2期前 前期 平均
A社 0.5億 0.8億 3.0億 1.43億
B社 1.5億 1.8億 2.0億 1.77億

表面上は「前期利益3億円のA社」と「前期利益2億円のB社」ですが、買い手が評価するのは平均的な稼ぐ力であり、この場合はB社のほうが「安定して稼げる会社」として高く評価される可能性が十分にあります。極端なジャンプアップは、「一発屋」「売却前のドーピング」と見られやすいからです。

決算の平準化というと聞こえは難しいですが、やるべきことはシンプルです。

  • 過度な節税のための経費計上を抑え、実力値に近い利益を出す
  • 一時的・特別な利益(補助金、大型売却益など)は別途説明できるように区分する
  • 大規模な投資やリストラは、売却直前にまとめてやるのではなく、数年かけて計画的に行う
  • 売却を意識し始めたら、「3期トータルできれいに見えるか」を意識して利益配分を考える

特に中小企業では、「税金を減らすために利益を抑える」という発想が根強くありますが、M&Aを見据えるフェーズに入ったら、「税金を少し多く払ってでも、キレイな決算を作る」ことがトータルリターンを最大化することが多いです。1年あたり数千万円の法人税を節約するために利益を削るよりも、数億円単位の売却価格を取りに行くほうが合理的だからです。

KPIの可視化

高評価を狙う会社は例外なく、「自社の稼ぎのメカニズム」を数字で説明できるようにしています。ここで重要になるのがKPI(重要業績評価指標)の可視化です。買い手は、

  • この売上・利益は、どの数字の積み上げでできているのか
  • どのレバー(指標)を回せば、売上と利益を増やせるのか

を知りたがっています。これが分からない会社は、「経営者のカンと経験だけで成り立っている会社」と見なされ、再現性の面で低評価になりやすいです。

業種ごとに代表的なKPIは異なりますが、イメージとしては次のようなものがあります。

業種 代表的なKPI
サブスク・SaaS 月次解約率、LTV、ARPU、新規獲得数、チャーン理由
BtoBサービス 案件数、受注率、解約率、顧客あたり売上、リピート率
小売・EC 客数、客単価、購買頻度、在庫回転率、粗利率
製造業 稼働率、不良率、原価率、リードタイム、納期遵守率

高評価を狙ううえでは、これらのKPIを単に「社長だけが把握している状態」から、

  • 月次で数値を集計し、グラフやダッシュボードで見える化する
  • 部門ごと・チームごとにKPIを共有し、会議で議論できるようにする
  • 過去2〜3年分の推移を整理し、「どの施策でどう変わったか」を説明できるようにする

というレベルまで持っていくことが重要です。買い手にとっては、「KPIが可視化されている=経営が管理可能な状態にある」というサインになり、それ自体がマルチプルの上振れ要因になります。

例えば、次のような会話ができる会社は、明らかに評価が高くなります。

  • 「LTVは平均〇万円で、解約率は月〇%です。広告費の回収期間は平均で△ヶ月です。」
  • 「案件数と受注率をこの2年でここまで改善しました。その結果、営業1人あたりの売上は〇%伸びています。」
  • 「在庫回転率は2022年から2024年で1.5回転分改善し、粗利率も〇ポイント上がりました。」

こうした説明ができる会社は、「今後の伸ばし方」も一緒に引き渡せるため、買い手は「高く買っても取り戻せる」と判断しやすくなります。

データルーム整備などの具体策

最後に、「5倍以上を狙える会社」に共通するもう一つの特徴がデータ整備のレベルが高いことです。資料を求めたときに、

  • どこに何があるかすぐに分かり、PDFやExcelでスムーズに共有できる
  • 決算書・試算表・部門別損益・KPIデータなどが一元管理されている
  • 顧客リストや契約書、マニュアルなどがフォルダ構成できれいに整理されている

といった状態になっている会社は、それだけで「ガバナンスレベルが高い」「買収後の管理もしやすい」という評価につながり、交渉の場でも優位に立てます。

具体的な準備ステップのイメージは次の通りです。

  1. 仮想データルーム(フォルダ構成)の設計
    まずは自社内向けの「簡易データルーム」を作るつもりで、フォルダ構成を設計します。例えば、
    「01_会社概要」「02_財務情報」「03_事業・KPI」「04_顧客・取引先」「05_人事・組織」「06_契約書類」「07_知財・許認可」などの大分類をつくり、その中に年度別・テーマ別のサブフォルダを作成します。
  2. 必須資料の洗い出しとアップロード
    一般的なM&Aで必ず求められる資料(決算書5期分、試算表、税務申告書、固定資産台帳、主要取引先リスト、就業規則、主要契約書など)を洗い出し、フォルダに格納していきます。紙でしかないものはスキャンし、PDF化しておくとスムーズです。
  3. KPI・部門別損益のテンプレート化
    先ほど触れたKPIや部門別損益については、Excelなどでテンプレートを作り、毎月更新できる状態にしておきます。買い手から追加で質問が来たときにも、「このフォーマットであればすぐ出せます」と言えると、デューデリジェンスの進行が格段にスムーズになります。
  4. 機密情報の区分けとアクセス管理
    従業員の個人情報や顧客名がフルで記載された資料などは、最初からすべて開示する必要はありません。匿名化したバージョンとフルバージョンを用意し、NDA(秘密保持契約)の締結状況や交渉フェーズに応じて、開示レベルを切り替えられるようにしておくと安心です。
  5. 「ストーリー資料」の作成
    最後に、数字や資料だけでなく、「なぜこの会社がここまで成長してきたのか」「今後どう伸びるのか」を整理したストーリー資料(簡易IMやプレゼン資料)を用意します。これにより、単なる書類の束ではなく、「将来の絵が浮かぶ案件」として買い手の印象に残りやすくなります。

こうした準備は、一見すると手間がかかるように見えますが、実際には「社内の整理整頓」と同じです。日頃からデータや資料を整備しておく会社ほど、M&Aの場面でも評価され、結果としてマルチプルが上振れしやすくなります。

まとめると、利益2〜3億円の会社が5倍以上の評価を狙うためには、

  • ストック性・成長余地・再現性・顧客基盤・社歴という5つの共通点をできる限りそろえること
  • 決算を平準化し、「一発屋」ではなく「安定して稼ぐ会社」に見えるようにすること
  • KPIを可視化し、「どうやって利益を生み出しているか」を数字で説明できるようにすること
  • データルームを整備し、「この会社はガバナンスも含めてレベルが高い」と感じてもらうこと

が重要です。これらを2〜3年かけて丁寧に準備していけば、「3〜3.5倍が当たり前」の市場環境の中でも、「5倍を狙える側」に近づくことができます。

8. トラックレコードが重要視される時代へ|起業家・スタートアップの新潮流

初回EXITの意味

近年のM&A市場では、起業家にとって「最初のEXIT(会社売却)」がゴールではなく、その後のキャリアを大きく左右するスタート地点として扱われるようになっています。特にベンチャーやスタートアップの世界では、「この人は一度ちゃんと会社を作り、売却までやり切ったかどうか」が、資金調達やパートナー選びの重要な評価軸になっています。

なぜここまでトラックレコード(実績)が重視されるのでしょうか。理由はシンプルで、一度EXITを経験した起業家は、「会社を作る〜伸ばす〜売る」までのプロセスを一通り体験しているからです。失敗も含めた一連の経験は、次の事業を立ち上げるときに大きな武器になります。

たとえば、初回EXITには次のような意味があります。

  • ① 信用の獲得
    「言っているだけの人」ではなく、「実際に結果を出した人」として、銀行・投資家・パートナー企業からの見られ方が変わります。
  • ② キャッシュの獲得
    売却によって得た資金を元手に、次の事業に自己資金として投資できるようになります。外部資本に依存しすぎない選択肢が増えることは、大きな自由度につながります。
  • ③ 学びの獲得
    採用の失敗、組織づくりの苦労、資金繰りの大変さなど、「やってみなければ分からない痛み」を一度経験しているため、次は同じ失敗を避けやすくなります。
  • ④ ネットワークの獲得
    EXITの過程で、投資家・M&Aアドバイザー・事業会社の役員など、今後のビジネスに直結する人脈が一気に増えます。

こうした意味合いから、起業家コミュニティでは、「最初の会社は“練習台”ではないが、次の事業につなげるための大切なステップ」という捉え方が一般的になりつつあります。特に20〜30代の若手起業家の間では、「一発で巨大企業を作る」よりも、「小さくてもいいので一度きちんとEXITする」ことに価値を置く考え方が広がっています。

もちろん、中小企業オーナーにとってもトラックレコードは無関係ではありません。たとえば、家業を一度売却してグループ入りさせたオーナーが、その後に新たな事業を立ち上げるケースも増えています。その際、「一度M&Aを経験した経営者」というだけで、金融機関やパートナー企業からの信頼度は明らかに変わってきます。

投資家・買い手の見方

トラックレコードが重視される流れを理解するうえで欠かせないのが、「投資家や買い手は、どのような目線で起業家を見ているのか」という視点です。結論から言うと、投資家や買い手は「この人は、同じ失敗を繰り返さずにスケールさせられるか?」を強く意識しています。

同じビジネスモデル・同じ市場を狙っている起業家が二人いたとします。

  A:初めて起業する人 B:1社EXIT済みの起業家
経営経験 ゼロからスタート 採用・資金調達・組織づくり・M&Aまで一通り経験
資金面 自己資金が限られ、外部資本への依存度が高い 過去のEXITで得たキャッシュ+信用で調達もしやすい
失敗知見 これから失敗を通じて学ぶフェーズ 過去の実体験から「やってはいけないこと」を理解済み
人材・ネットワーク ゼロから採用・営業先を開拓 前回の仲間や投資家・取引先を再び巻き込みやすい

この二人であれば、投資家や買い手がBの起業家を高く評価しやすいことは、直感的にも理解しやすいと思います。もちろん、Aの起業家に魅力がないわけではありませんが、「限られた資金と時間で確実に結果を出したい」という投資家・買い手の立場からすると、成功確率が少しでも高いほうを選びたくなるのは自然なことです。

実際のM&Aの場面でも、次のような評価のされ方をよく見かけます。

  • シリアルアントレプレナー(連続起業家)の案件は、同じ利益規模でも条件が良くなることがある
  • 買い手側の経営陣が「この人となら組みたい」と感じると、価格以外の条件(ポジション・裁量・再投資の割合など)も柔軟になりやすい
  • ファンド投資の世界では、「このチームは過去に何回EXITしているか」が最初のフィルタとして機能しているケースも多い

また、トラックレコードは企業レベルでも評価されます。たとえば、

  • 過去に事業売却や合併を経験しており、PMI(統合作業)にも慣れている企業
  • 複数の子会社・関連会社をグループ化して運営している企業

などは、「M&Aリテラシーが高い会社」として認識されます。このような会社は、買い手にとっても「話が通じやすく、交渉やPMIで大きなトラブルになりにくい」と見られ、結果として評価がプラスに働きます。

次の事業づくりへの影響

トラックレコードの価値が最も分かりやすく表れるのは、「次の事業づくり」においてです。一度EXITを経験した起業家や企業オーナーは、次のチャレンジにおいて、次のようなメリットを享受しやすくなります。

  • ① 資金調達がしやすくなる
    過去のEXIT実績があると、投資家や金融機関に対して「この人(この会社)は返済・リターンを出した実績がある」と説明できます。その結果、
    ・出資してくれるエンジェルやVCが見つかりやすい
    ・金融機関からの借入枠が増えやすい
    といった形で、資金調達のハードルが下がります。
  • ② 優秀な人材を集めやすくなる
    求職者にとっても、「過去にEXITした実績のある経営者」「成長した会社」のもとで働けることは、大きな魅力になります。「この会社に入れば、自分のキャリアも伸びる」と感じてもらえるため、採用で有利に働きます。
  • ③ 大手企業との提携・共同事業が進めやすくなる
    一度M&Aで売却を経験していると、大手企業との交渉の進め方、求められる資料やガバナンス水準などが感覚として分かっています。そのため、二度目以降は「相手の言語」で話ができ、提携交渉がスムーズに進みやすくなります。
  • ④ 次のEXITの条件も良くなりやすい
    二社目・三社目のEXITでは、「起業家としてのトラックレコード」だけでなく、「M&Aを通じてどんな価値を生み、どのようにバトンを渡したか」も評価されます。買い手にとって、「前回もきちんと統合まで面倒を見てくれた経営者」であれば、安心して高い条件を提示しやすくなります。

ここで、中小企業オーナーに近いイメージの実例を一つ挙げてみます。

  • 地方で専門サービス業を展開していたA社長が、年利益2.5億円のタイミングで上場企業グループに会社を売却
  • 売却益の一部で、同じ地域で別のニッチ事業(B社)を立ち上げる
  • すでにA社でのEXIT経験があるため、B社立ち上げ初期から地元金融機関・取引先・採用候補者の信頼を得やすく、3年で利益1億円規模まで成長
  • 将来的にはB社もグループ入りや事業譲渡を視野に入れつつ、「地域のハブ」として複数の事業を束ねる立場に

このように、一度のEXITをきっかけに、「売って終わり」ではなく、その後も地域や業界で価値を生み続けるプレーヤーとして活躍するケースは少しずつ増えています。

ただし、トラックレコードを重視する風潮には注意点もあります。それは、「短期で売ることだけ」を目的にした事業づくりに偏ってしまうリスクです。買い手が評価するのはあくまで、

  • 顧客にとっての価値が継続的に提供されているか
  • 従業員・取引先との関係が健全に保たれているか
  • 数字の裏側に無理や歪みがないか

といった部分です。短期間で数字だけを膨らませたようなビジネスは、一時的に利益が出ていても、「持続性がない」「次のオーナーが苦労する」と判断され、結果的に評価が下がったり、そもそもディールが成立しないこともあります。

したがって、起業家・オーナー経営者が意識すべきなのは、

  • 「とにかく早く売る」ことではなく、「売ってからも価値を出し続けられる事業」を作ること
  • その結果として、「この人(この会社)からならまた買いたい」と思ってもらえる関係をつくること

です。そうして積みあがったトラックレコードこそが、二社目・三社目、あるいは次の世代への事業承継において、何より強い武器になっていきます。

まとめると、トラックレコードが重要視される時代においては、

  • 初回EXITは「キャリアの終わり」ではなく、「次のステージへの入口」
  • 投資家・買い手は、「ビジネスモデル」だけでなく「起業家・会社の履歴書」を見ている
  • 良質なトラックレコードは、次の事業づくり・資金調達・採用・提携・再度のM&Aすべての場面で効いてくる

という構造になっています。利益2〜3億円企業のオーナーにとっても、「今回のM&Aでどんなトラックレコードを残すか」を意識することが、将来の選択肢と交渉力を大きく左右すると言えるでしょう。

まとめ

本記事では、利益2〜3億円クラスの企業を取り巻くM&A相場の実態と、高評価がつく会社の条件について整理してきました。相場はおおむね3〜3.5倍が基調となる一方で、ビジネスモデルや社歴、再現性の違いによって評価は大きく二極化していきます。

  1. M&A相場は三〜三・五倍
  2. 社歴と再現性が重要
  3. 利益規模で買い手変化
  4. 準備次第で倍率は上振れ

自社の現在地や「どこまで評価を高められるか」を整理したい方は、個別の状況に応じた検討が不可欠です。詳しく知りたい方は、ぜひアーク・パートナーズまでお問い合わせください。

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