そのM&A仲介、本当に信じて大丈夫?派手な広告の裏側と正しいFAの選び方
「この仲介会社、本当に信じて大丈夫?」「派手な広告や高額手数料の裏に何があるのか知りたい…」
そんな不安を抱えながらM&Aを検討している経営者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、M&A支援の現場で実際に起きた事例をもとに、信頼できるFA(ファイナンシャル・アドバイザー)の見極め方や、広告主導の仲介会社に潜むリスクをわかりやすく解説します。
■本記事を読むと得られること
- 派手な広告に惑わされない判断軸がわかる
- M&A手数料の仕組みと費用対効果が理解できる
- 信頼できるアドバイザーを見極める視点が持てる
■本記事の信頼性
執筆者はM&Aアドバイザー歴10年以上、累計200件以上の中小企業M&Aに携わる実務家であり、中小企業庁の登録M&A支援機関として「誠実・高品質・スピード重視」の支援を徹底してきました。
この記事を読むことで、M&Aという一度きりの意思決定を「後悔のない選択」に変えるための知識と判断力が身につくはずです。
3分で読める内容ですので、ぜひ最後までご覧ください。
1.M&A仲介会社選び、なぜ慎重にすべきか?
M&Aは一度きりの人生をかけた決断とも言える重要な取引です。そのため、どの仲介会社をパートナーに選ぶかによって、結果が大きく変わってしまうことがあります。特に最近では、テレビCMやネット広告などで派手に宣伝を行うM&A仲介会社が増えていますが、その「見かけ」だけで判断してしまうと、大きな後悔を生むリスクがあるのです。
派手な広告を出しているからといって、その仲介会社が優れているとは限りません。なぜなら、広告費に多くの資金を投じている企業は、その分を手数料などで回収しようとする傾向があり、売主や買主の利益とは必ずしも一致しないケースがあるからです。特に中小企業のM&Aでは、情報の非対称性が大きく、売り手側が知識不足のまま契約してしまうことも少なくありません。
以下に、派手な広告に惑わされてしまうことで生じる代表的な3つのリスクを整理します。
派手な広告に惑わされることで生じる3つのリスク
- 1. 手数料が高くなるリスク
広告費・タレント起用費などを補うため、最低報酬や成功報酬が相場より高く設定されている可能性があります。 - 2. 実務力が不足しているリスク
営業力やブランディングに注力するあまり、社内に経験豊富なアドバイザーがいないケースも珍しくありません。 - 3. 売主利益より自社都合が優先されるリスク
件数重視で案件を回すスタイルの企業では、売主に寄り添った支援が後回しになる傾向があります。
たとえば、ある売主企業は、CMで有名な仲介会社に依頼したものの、担当アドバイザーが財務状況すら正しく把握しておらず、案件が長期間進展しないまま「塩漬け」状態に。結局その後、別の会社に依頼することになり、余計な時間とコストがかかってしまいました。
こうした失敗は決して他人事ではありません。中小企業庁が公表している「中小M&Aガイドライン(第3版)」でも、アドバイザーの質や契約条件の明確化が重視されています。つまり、仲介会社の広告内容よりも、「誰が担当するのか」「どんな体制で支援するのか」「どういった契約形態なのか」といった本質的な部分を見る目が重要なのです。
また、インターネット上の口コミやランキングサイトなども、広告出稿によって恣意的に操作されている場合があります。したがって、「評価が高いから安心」と安易に信じず、初回面談時にしっかりと相手の実務能力や説明の誠実さを確認することが不可欠です。
本当に信頼できる仲介会社は、たとえ広告を出していなくても、地道な実績とクライアントの信頼を積み重ねています。M&Aは企業の未来だけでなく、社員や顧客、取引先の未来にも影響を与えるものです。だからこそ、仲介会社選びは「知名度」や「広告の派手さ」ではなく、「本質的な中身と信頼性」で判断する必要があります。
2.なぜ“FA”を名乗る仲介会社に注意が必要なのか
近年、「FA(ファイナンシャル・アドバイザー)」という言葉がM&A業界で一般化し、多くの仲介会社がこの肩書きを名乗るようになりました。しかし、FAの定義を正確に理解せず、名ばかりのFAが業界に溢れているのが現状です。特に注意すべきは、「売主FA」と自称しながら、実際には買手探索まで外部に依頼しているケースです。これはFAの役割や立場の混乱を招くだけでなく、売主にとって重大なリスクとなり得ます。
本来、FAとは依頼者(売主または買主)の利益を最優先に考え、助言・交渉支援・相手探しなどを一貫して担う存在です。中立的な「仲介」と異なり、FAは特定の依頼者の側に立って行動します。そのため、売主FAが買手探索を他社に依頼するという行為は、依頼者にとっての情報統制や意思決定の一貫性を欠き、極めて不自然で矛盾した構造なのです。
“売主FA”が買手探索を外部依頼する矛盾
以下の表は、FAと仲介の基本的な違いを整理したものです。
区分 | 仲介(中立) | FA(専属) |
---|---|---|
立場 | 売主と買主の中立 | 依頼者の立場に専属 |
利益配分 | 両者の合意を最優先 | 依頼者の利益を最大化 |
業務範囲 | 双方との調整が主 | 相手探索・助言・交渉支援まで包括 |
にもかかわらず、売主FAを名乗る企業が買手FAに買手探索を依頼しているということは、もはやFAとしての責務を放棄している状態です。これは、売主にとって本来一貫して受けられるべきアドバイスや戦略立案が外部に分断され、結果として買手候補からの不信感や、交渉プロセスの混乱につながります。
実際に起きた事例:FAがFAに依頼する不可解な構造
とある実案件において、アーク・パートナーズは“買手FA”としての依頼を受けましたが、その案件の“売主FA”を名乗る仲介会社は、実際には買手探索を自ら行わず、全国の買手FAに情報をばらまいていました。つまり「売主FA」と言いつつ、その実態は単なる情報ハブとして機能していたのです。
その結果どうなったかというと、
- 複数のFAから同一案件の提案が市場に溢れ、買手側が混乱
- 「誰が本当の担当者か分からない」との不信感が広がる
- 交渉の主導権を取るFAが不明瞭で、進行が止まる
このように、FAを名乗りながらも「自ら買手を探さない」姿勢は、FAとしての本来の使命から逸脱しており、依頼者である売主にも重大な不利益をもたらす行為です。
制度面から見た正しいFAのあり方
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」では、アドバイザーの説明責任や利益相反回避の必要性が明示されています。つまり、FAを名乗るのであれば、買手探索や交渉支援などの実務に責任を持ち、かつ自社で一貫して支援できる体制が整っていることが前提となるのです。
また、FAという名称を用いる以上、案件を「ばらまく」ような行為は、売主の利益の最大化とは矛盾する行動であると理解すべきです。
売主が信頼すべきFAの特徴
以下は、信頼できるFAを見極めるうえでのチェックポイントです。
- 買手探索を他社に丸投げしていない
- 売主と同じ目線で助言や判断を行ってくれる
- 案件の主導権を最後まで持ち続けている
- 買手と直接コミュニケーションが取れる
- 自社でDDや交渉支援の体制を持っている
こうした姿勢を持つFAであれば、売主としても安心して意思決定を委ねることができ、スムーズかつ信頼性の高いM&Aプロセスを実現することができます。
見た目の肩書きや名乗りではなく、「実際に何をやっているか」「どこまで自社で支援できる体制か」という本質をしっかりと見極めることが、後悔しないFA選びの第一歩となります。
3.手数料2,500万円の実態──誰のためのコストなのか
中小企業のM&Aにおいて「最低手数料2,500万円」という条件を提示する仲介会社は少なくありません。しかし、その高額な手数料が本当に売主の利益と成果に見合ったものかどうか、冷静に見極める必要があります。
結論から言えば、多くのケースでこのような高額手数料は、売主のためというよりも、仲介会社側の経営や広告活動、社員報酬などの内部コストを支えるために設定されていることが多いのが実態です。
「高額手数料=高品質支援」とは限らない
手数料が高ければ、その分高品質なサービスが提供されると考えがちですが、実際には以下のような構造になっていることが少なくありません。
費用の内訳(例) | 内容 |
---|---|
広告費 | テレビCM、Web広告、著名人の起用など |
人件費 | 営業インセンティブ、管理部門、役員報酬 |
オフィス賃料 | 都心一等地の大型オフィスなど |
営業活動費 | セミナー開催、交際費、資料作成外注費など |
このように、「手数料2,500万円」といっても、実際に売主のために使われる業務支援コストはその一部でしかなく、実務を担当するアドバイザーの質とは必ずしも比例しません。
中小M&Aガイドラインが警鐘を鳴らす“透明性の欠如”
中小企業庁が策定した「中小M&Aガイドライン(第3版)」でも、仲介契約においては報酬体系の透明性と合理性が重要であると明記されています。特に以下の点が強調されています。
- 「報酬額の基準や算定方法は明確に説明されるべき」
- 「成功報酬の定義を曖昧にしてはならない」
- 「成果に連動しない高額な報酬は慎重に検討すべき」
このような国の方針にもかかわらず、一部の大手仲介会社では「最低報酬2,500万円」を一律に設定し、案件の難易度や規模に関係なく適用している例も散見されます。これは、売主にとって不合理な負担となる可能性があります。
実例:実務支援のない高額請求の裏側
とある売主企業が、テレビCMでもよく見かける仲介会社にM&Aの支援を依頼しました。提示された条件は、最低報酬2,500万円。ところが、いざ契約後に着手してみると、以下のような状況が明らかになっていきました。
- 担当アドバイザーが財務資料を読み込めていない
- IM(企業概要書)がテンプレートを埋めただけの簡素な内容
- 買手探索は外部業者に委託していた
- 打ち合わせのたびに異なる担当者が現れ、引き継ぎも不十分
つまり、2,500万円という金額に見合うだけのサービスが提供されていなかったのです。後日、その売主は契約解除を検討し、他のFAに相談することとなりましたが、すでに契約書にテール条項(成功時の後追い報酬義務)が記載されており、身動きが取りづらくなっていました。
支払うべきは「成果報酬」であり「広告費」ではない
M&Aにおける手数料は、売主が得る成果に応じて支払われるべきであり、仲介会社の内部コストや広告戦略を支えるための「先払い」ではあってはなりません。以下に、高額手数料が売主に不利となる典型例をまとめます。
- 高額手数料がネックとなり、売却益が実質目減りする
- 結果が出なくても成功報酬の一部が発生する
- 業務品質が手数料と一致しておらず、期待外れになる
本来、M&Aは「会社の未来を託す行為」です。そのため、手数料に対して最も重要な視点は、「誰のために使われるお金なのか」という点です。
もし提示された手数料の説明が不透明であったり、「うちは最低2,500万円から」と一方的に通告される場合には、一度立ち止まって他の選択肢を比較することをおすすめします。
見かけのブランドや広告の派手さではなく、本当に売主に寄り添った支援を提供してくれるM&Aアドバイザーを見極める力が、後悔のない選択へとつながるのです。
4.アドバイザーの「実力不足」が売却失敗を招く
M&Aの成否は、担当するアドバイザーの力量に大きく左右されます。特に中小企業のM&Aにおいては、財務・法務・業界理解などの知識だけでなく、経営者の思いや意向を的確にくみ取り、適切な提案や交渉を行えるかどうかが極めて重要です。しかし、昨今では経験不足や専門性の乏しいアドバイザーが現場を担当するケースが増えており、それが売却失敗の大きな原因となっています。
アドバイザーの力量が重要な理由
M&Aのプロセスには、以下のような高度な実務スキルが求められます。
- 決算書や事業計画を正確に読み解く財務知識
- 業界特性を理解したうえでの戦略的な買手選定
- 経営者の意向や状況に応じた柔軟な提案力
- 買手との条件交渉におけるバランス感覚と根拠提示力
- 契約書のリスクチェックと弁護士との連携力
これらを欠いたアドバイザーが担当につくと、表面的な資料づくりや、希望価格の押しつけ、買手とのミスマッチなどが発生しやすくなります。結果として「売れない」「売れても安くなる」「契約後にトラブルになる」といった失敗に繋がってしまいます。
国のデータにも見える“質”の問題
中小企業庁が発表した「令和4年度 中小M&A実態調査報告書」によると、M&A支援サービスを受けた売主のうち、約4割が「担当者の専門性・経験不足」に対して不満を感じたと回答しています。特に、初回相談時には丁寧な対応だったものの、実務が進むにつれて業務遂行能力の不足が露呈したという声が多く聞かれました。
実例:アドバイザーの理解不足で交渉が頓挫したケース
ある製造業の売主が、テレビCMでも有名な仲介会社にM&Aを依頼した際のことです。担当についたのは若手アドバイザーで、財務に関する理解が浅く、売主が提供した試算表や資金繰り表を読み解くこともできませんでした。
その結果、作成されたIM(企業概要書)は経営の強みが伝わらないものとなり、買手からの反応は鈍いままでした。さらに、買手との面談では担当アドバイザーが適切な説明をできず、売主自らが前面に出ざるを得なくなり、信頼関係を築くのに失敗しました。
最終的には買手から「この案件は曖昧な部分が多い」として辞退され、売却プロセスは振り出しに戻ってしまいました。売主はその後、アドバイザーの変更を希望したものの、専任契約期間中であるため簡単には契約解除できず、時間と機会を大きく失ったのです。
力量不足のアドバイザーを見抜くためのポイント
初回相談や面談の段階で、以下のような点をチェックすることで、実力のあるアドバイザーかどうかをある程度見極めることができます。
- 自社の財務資料に対して具体的な質問やコメントがあるか
- 業界構造や市場動向に関する理解を持っているか
- 買手の候補像を戦略的に語れるか
- 契約スキームやリスクに対して明確な説明があるか
- 「売れます」「買手います」といった抽象的な発言ばかりでないか
また、過去の実績を尋ねたり、契約書のドラフト例を見せてもらったりすることで、実務経験や業務の質をより具体的に確認することも可能です。
信頼できる支援は「肩書き」ではなく「中身」で判断する
「大手だから安心」「知名度があるから信頼できる」と思い込むのではなく、あくまでも現場で担当するアドバイザー個人の力量と姿勢を見極めることが、後悔しないM&Aの第一歩です。中小企業のM&Aは一発勝負であることが多く、間違った担当者選びが取り返しのつかない結果を招くこともあります。
広告や会社規模に惑わされず、実務を任せられるだけの知識・経験・人間性を備えたアドバイザーを選ぶ意識が求められています。
5.同じ過ちを繰り返した売主の事例に学ぶべきこと
M&Aを経験した売主が、その後も同じような仲介会社に依頼し、再び失敗してしまうというケースは少なくありません。その背景には、「知名度があるから安心」「今度こそはうまくいくだろう」という希望的観測と、仲介会社側の巧妙な営業トークがあります。しかし、過去の教訓を活かせないまま進んだM&Aは、かえって事業やオーナーの人生に深刻な影響を与える可能性があるのです。
繰り返される誤った選択の構造
以下のような流れで、売主が同じ失敗を繰り返すことがあります。
- 知名度のある仲介会社(例:上場企業)に相談
- 派手な広告や豊富な買手リストを強調され、契約
- 担当者の対応に不信感を持つも、契約期間中で身動きが取れず塩漬け状態に
- 成果が出ず、契約満了後に別の仲介会社に再依頼
- しかし、再度選んだのも広告主導の別会社だった
- 結果、またしても適切な支援を得られず失敗
このように、1回目のM&Aがうまくいかなかった売主が「今度こそ」と願いながらも、同じ構造の仲介会社に依頼してしまい、二重に裏切られるケースは現実に存在します。
実例:二度にわたり広告主導の仲介会社に依頼したケース
ある地方の製造業オーナーが、後継者不在を理由にM&Aを決意しました。最初に相談したのは、上場企業であり全国展開をしている大手仲介会社でした。テレビCMやWeb広告での知名度の高さから安心感を覚え、売却を一任。
ところが、実際には以下のような問題が発生しました。
- 担当者の入れ替わりが激しく、コミュニケーションが不安定
- IMが薄っぺらく、買手に経営の魅力が伝わらなかった
- 買手候補の質が低く、面談は何度もキャンセル・辞退に
- 最低報酬の請求が発生し、実質的な成果はゼロ
失望したオーナーは契約終了後、今度はWebで検索し「成功実績多数」「相談実績●千件」とうたう別の広告系仲介会社に相談します。しかしその仲介会社も、実際の業務は別の外注先に丸投げ、買手探しは社内で行わず、各地のFAに案件をばらまく形式でした。結果、売主はまたしても「誰が自分の味方なのか分からない」という不安に陥り、2年近く時間を浪費した末、M&Aそのものを断念することになったのです。
なぜこうした選択が繰り返されてしまうのか
売主が同じ過ちを繰り返す背景には、以下のような心理と構造があります。
原因 | 内容 |
---|---|
知名度バイアス | 大手・上場=信頼できるという思い込み |
広告情報の影響 | 「買手多数」「成功率●%」など誇張表現に惹かれる |
比較の難しさ | 仲介会社ごとの違いが表面上は見えにくい |
焦りと不安 | 承継の遅れや事業の将来不安から冷静な判断ができない |
二度目の選択で後悔しないために
M&Aはそう何度も経験することのない取引です。そのため、最初に失敗してしまった後、「今度こそ」と再度挑戦する際には、以下のような視点が極めて重要になります。
- アドバイザー個人の実績と対応力を確認する
- 手数料体系と業務範囲を契約前に明確化する
- 買手探索やIM作成を自社で完結しているか確認する
- 広告に頼らず紹介や実績から検討する
- 契約書に「テール条項」などの落とし穴がないか精査する
一度失敗したからこそ、次の選択では「目先の安心感」や「有名さ」ではなく、「本当に伴走してくれるかどうか」を見極めることが大切です。
表面的なブランドやキャッチコピーに惑わされず、「過去の教訓を活かす冷静な視点」こそが、成功への第一歩となります。
6.“ばらまき型”の売却依頼がもたらす信頼の崩壊
M&Aにおいて、売却案件の情報を全国の買手FAに一斉にばらまくような手法は、売主にとって一見効率的に思えるかもしれません。しかし実際には、この“ばらまき型”の売却依頼は、案件の希少性や信頼性を損ない、かえって売却成功の可能性を下げる結果につながることが多いのです。
なぜ“ばらまき型”が問題なのか
本来、M&Aにおける情報管理は非常に繊細であるべきです。企業名を伏せたノンネームシート(NDA前提の概要書)ですら、限られた信頼できる買手候補に対してのみ開示するのが基本とされています。にもかかわらず、複数の買手FAに同時に依頼をかけると、以下のようなリスクが発生します。
- 案件情報が市場に拡散し、秘密保持の信頼が損なわれる
- 複数のFAが同じ案件を提示し、買手側が混乱・警戒する
- 売却プロセスに一貫性がなくなり、交渉が非効率になる
- どのFA経由で成約しても手数料が発生する“テール条項”リスク
このような状況では、買手にとっての「魅力的な案件」ではなくなり、むしろ「注意が必要な案件」という印象を与えてしまいます。
中小M&Aガイドラインも情報管理の重要性を強調
中小企業庁が定めた「中小M&Aガイドライン(第3版)」では、情報管理や利益相反の防止について明確に言及されています。特に以下の点は、ばらまき型の手法と真逆の考え方です。
- 「情報提供にあたっては、秘密保持契約の締結を基本とすること」
- 「無差別に案件情報を流す行為は、信頼関係を損なう」
- 「アドバイザーは、売主の利益を最優先に行動すること」
つまり、ばらまき型の売却依頼は、このガイドラインに反する恐れがあり、結果として売主自身の信用を落とすリスクがあるということです。
実例:案件が“使い捨て”のように扱われた事例
ある飲食業のオーナーが、売却を決意してM&A仲介会社に相談しました。仲介会社は「うちには買手FAネットワークが全国にあります」と豪語し、すぐに20社以上の買手FAに案件情報を送信。ところがその後、以下のような問題が次々と起こりました。
- 同じ買手候補に、3社のFAから同一案件の打診が届く
- 買手側から「どれが本当の窓口かわからない」と問い合わせが殺到
- 買手が混乱し、「こういう管理の甘い案件は避けよう」と辞退
- 案件が“売れ残り”のように見られ、評価が下がる
この結果、オーナーは「売るに売れない状況」に陥り、別のFAに乗り換えることもできず、結局案件は塩漬けとなってしまいました。
信頼と成果を得るには「限定開示」が原則
M&Aにおいては、「誰に」「いつ」「どのように」案件情報を開示するかが極めて重要です。信頼性のあるFAは、以下のような手順で慎重に進めます。
- 売主の希望条件をもとに候補リストを厳選
- 秘密保持契約(NDA)を結んだ上で段階的に情報開示
- 候補企業に対して、売主の意向や譲渡理由も丁寧に説明
- 候補企業と面談調整、条件交渉を一貫してサポート
こうしたプロセスは手間と時間がかかりますが、結果的に売主・買主双方にとって納得のいく成約につながります。
まとめとしての注意点
- ばらまき型の依頼は「効率的」ではなく「信頼を失うリスクが高い」
- 売却成功のカギは「情報管理」と「信頼関係の構築」
- 丁寧な支援をするFAは、買手の質と意向も重視して行動する
「早く売りたい」「たくさんの買手に届けたい」という気持ちは理解できますが、拡散するほど信頼が分散し、最終的に誰からも選ばれなくなる危険性があることを忘れてはなりません。信頼できるFAとともに、戦略的かつ誠実に売却プロセスを進めることが、もっとも確実な道なのです。
7.誠実なFAが絶対にやらないこと、必ずやること
M&Aにおいて、信頼できるファイナンシャル・アドバイザー(FA)を見極めるには、「何をやらないか」「何を必ずやるか」という視点が非常に重要です。特に中小企業オーナーにとっては、企業の将来や従業員の雇用、そして自らの人生の集大成がかかった大切な局面であり、その伴走者となるFAの誠実さが問われます。
誠実なFAが「絶対にやらない」3つの行動
まず、信頼できるFAは、以下のような行動を決して取りません。
- 案件を“商品”のようにばらまかない
秘密保持を厳守し、情報の開示は信頼できる買手に限定します。 - 数字だけを見て無理に価格を吊り上げない
現実的かつ根拠ある価格で提案し、無責任な高値誘導はしません。 - 売主の不安につけ込んで契約を急がせない
契約前にリスクや不明点を丁寧に説明し、納得した上で進めます。
これらの行為は、短期的にはFAにとってメリットがあるかもしれませんが、長期的には信頼を損ない、売主・買主ともに損をする結果につながります。
誠実なFAが「必ずやる」5つの行動
一方で、誠実なFAが共通して実践している行動は以下の通りです。
- 売主と初回面談時から経営理念や譲渡の背景を丁寧にヒアリングする
- 案件ごとに買手候補をカスタムメイドで選定する
- IMやノンネーム資料を単なるフォーマットではなく、「想い」を伝える内容に仕上げる
- 交渉過程で価格だけでなく条件(雇用継続、事業所維持など)を重視する
- クロージング後もフォローを継続し、統合支援まで対応する
これらの行動は、M&Aを「単なる取引」ではなく「企業と人の未来をつなぐ営み」として位置づけているFAだからこそ、自然に行われるものです。
国のガイドラインも「誠実性と説明責任」を強調
中小企業庁が発行した「中小M&Aガイドライン(第3版)」でも、FAには以下のような姿勢が求められています。
項目 | 内容 |
---|---|
説明責任 | 手数料体系、契約内容、リスクについて丁寧に説明する |
利益相反の回避 | 売主・買主どちらか一方に専属し、立場を明確にする |
秘密保持 | 案件情報の取扱いに細心の注意を払う |
クロージング後の支援 | 成約後も一定期間、統合支援に関与する |
つまり、誠実なFAとは、国の指針に忠実であることも評価ポイントの一つになるのです。
実例:経営者の想いを守り抜いたFAの対応
とある老舗の食品加工業の売却にあたり、オーナー経営者は「従業員の雇用を守ってくれる買手でなければ売らない」と明言していました。誠実なFAは、この意向を正面から受け止め、収益性の高いがリストラ前提の買手候補を除外。
代わりに、同業で地元の雇用を大切にしている企業と粘り強く交渉し、条件面のすり合わせを何度も重ねた結果、希望に合致する形でのM&Aが実現しました。譲渡価格は他の候補よりやや低かったものの、従業員の雇用と事業の継続性が守られたことで、売主は「このFAにお願いして本当によかった」と語っています。
本質を見抜くには「やっていること」に注目
FA選びで迷ったときは、会社の規模や広告ではなく、「そのアドバイザーが何をしているか」に注目してください。誠実なFAほど、売主の感情や不安に寄り添い、丁寧に道筋を描いてくれるものです。
「絶対にやらないこと」「必ずやること」という視点を持つことで、見かけや営業トークに惑わされず、本当に信頼できるFAを見極めることができるようになります。
8.アーク・パートナーズが案件を断った本当の理由
M&A支援を行うにあたり、アーク・パートナーズはすべてのご依頼に機械的に応じるのではなく、売主様・買主様双方の利益、そして長期的な信頼性と倫理性を総合的に判断し、時には案件をお断りするという選択も行っています。その背景には、誠実さと品質を重視する独自の姿勢があります。
売主の期待に応えたい気持ちと、それでも断るという判断
今回の事例では、ある仲介会社(以下、A社)より「当社は売主FAであるため、アーク・パートナーズに買主FAを担ってほしい」との依頼を受けました。A社は華やかな広告展開で業界内外に強い存在感を示す企業であり、売主もその知名度を信頼して案件を託した背景があります。
私たちとしても、売主様のお気持ちを考えれば、期待に応えたいという気持ちは当然ありました。ですが、実際にヒアリングを行った結果、以下のような問題点が明らかになりました。
- A社の担当者が事業内容や財務内容を十分に理解していなかった
- IMやノンネームシートの整備がされておらず、買手に提示できる状態ではなかった
- 売主案件が全国の複数FAに一斉ばらまきされており、独占性や信頼性が損なわれていた
これらの状況では、買手候補側に案件を提示しても「情報が曖昧」「誰が主担当なのか不明」「売主の意志が感じられない」といった印象を与えるリスクが極めて高く、買手の信頼を損なうことにつながります。
なぜこの案件を断ったのか――3つの視点
アーク・パートナーズがこの案件を辞退したのは、次の3つの理由からです。
- 情報の質と整理が不十分
買手に誠実に提案できる水準に達していないと判断しました。 - 関係性と役割分担が不透明
A社と売主との契約構造や指揮系統が不明瞭で、リスクを伴いました。 - 売主の利益よりも“拡散”が優先されていた
複数FAへの一斉依頼は、信頼の損失と売却価格の毀損につながるおそれがあります。
私たちは、単に“買手を見つける”だけの作業ではなく、売主と買主の未来にとって意味のあるマッチングを支援したいと考えています。そのため、支援にあたっては「誠実性」「整理された情報提供」「適切なパートナー関係」を最低限の条件としています。
実例:売主が“仲介会社ジプシー”になってしまったケース
本件の売主様は、過去に別の大手仲介会社にM&Aを依頼した経験がありました。ところが、その会社でも買手が見つからず、案件は1年以上“塩漬け”に。その後、別の派手な広告を見てA社に依頼した結果、再び明確な戦略や調整のないまま、全国の買手FAに一斉配信されるという「ばらまき型」の対応が行われました。
売主様としては、「何とか売りたい」「次こそはうまくいくはず」と願っていたはずですが、選んだ相手が“広く投げるだけ”のスタイルだったため、信頼の担保も交渉力の集中も失われ、案件としての評価が低下する結果を招いたのです。
断ることも「売主の未来を守る支援」の一部
一見、依頼を断ることは不親切にも思えるかもしれません。しかし、「売主の将来を本当に大切にしたい」という想いがあるからこそ、無理な支援や品質の低下を招く関与はしないという判断を私たちは貫いています。
アーク・パートナーズは、華やかさではなく“中身”で選ばれるFAでありたいと考えています。たとえ案件を逃しても、正しい姿勢で誠実に向き合うことが、長期的な信頼と実績につながると信じているからです。
支援できることには全力で、しかし支援すべきでないと判断した場合には丁寧にお断りする――それが私たちの信条であり、品質と倫理観を守るための大切な判断基準なのです。
9.後悔しないためのM&Aアドバイザー選びチェックリスト
M&Aは企業経営者にとって人生の一大決断です。だからこそ、どのアドバイザーを選ぶかによって、結果が大きく変わります。広告の派手さや会社の知名度に惑わされず、実際に何をしてくれるのか、誰が担当するのかといった「中身」で判断することが、後悔しないための第一歩です。
見た目に惑わされず「中身」で判断すべき理由
中小企業庁の『中小M&Aガイドライン(第3版)』でも、アドバイザー選びにおいて「実務能力」「契約内容の透明性」「利益相反の回避」といった本質的な要素に注目するよう強く推奨されています。
特に中小M&Aにおいては、以下のような課題が起こりやすいとされています。
- 仲介会社による一方的な主導で売主が不利な条件を飲まされる
- 担当者の実務経験が浅く、売却まで至らない
- 成功報酬の定義が曖昧で、思わぬ手数料を請求される
このようなトラブルを防ぐには、広告やパンフレットに書かれたキャッチコピーではなく、面談や書類を通じて冷静に判断する必要があります。
後悔しないために押さえておくべき9つの視点
以下に、M&Aアドバイザーを選ぶ際に確認すべき重要なチェックポイントをまとめました。
- 実務担当者の経歴と実績を確認したか?
面談相手が誰なのか、その人が最後まで担当するのかを確認しましょう。 - 業務内容と報酬の内訳が明示されているか?
報酬の計算根拠や成功報酬の定義が不明確な場合は要注意です。 - 秘密保持や情報管理体制が整っているか?
ノンネームシートの扱いや買手への情報開示の方法を具体的に聞きましょう。 - 買手選定の方針に戦略性があるか?
「とにかく多くに声をかけます」は要注意。選定理由を説明できるかが鍵です。 - IM(企業概要書)の品質にこだわりがあるか?
単なるテンプレではなく、御社の魅力をしっかり伝える内容かを見極めましょう。 - 契約内容にテール条項や不利な条件がないか?
契約解除後も報酬請求される条項がないか、弁護士の目を通すのが理想です。 - 売却価格だけでなく「譲渡条件」も考慮してくれるか?
雇用継続、土地建物の引継ぎ、社名維持などをどこまで考慮してくれるか確認を。 - クロージング後のフォロー体制があるか?
売却後にトラブルがあった場合、どこまで支援してくれるのか聞いておきましょう。 - 誠実さと説明力があるか?
難しい言葉ばかりでなく、素人にもわかる説明を丁寧にしてくれるかが重要です。
実例:見た目に惹かれた売主が後悔した話
ある小売業のオーナーが、SNS広告で頻繁に見かける大手M&A仲介会社に依頼した事例です。会社の規模や「買手ネットワーク●万人」などの言葉に安心して契約したものの、いざ話を進めてみると、以下のような状況に直面しました。
- 担当者が毎回異なり、引き継ぎが不十分
- IMがたった4ページのテンプレ文書で、業績の説明も抽象的
- 「買手います」と言われた相手はすでに他社案件を優先していた
最終的に契約は不成立となり、売主は再び別のアドバイザーを探すことになりました。もし初回面談で「9つの視点」に基づいて判断していれば、最初からもっと信頼できる相手に出会えたかもしれません。
本質を見抜く目を養うことが後悔しない選択につながる
アドバイザー選びは“情報の非対称性”との戦いでもあります。だからこそ、自分自身が見るべき観点を持つことが重要です。広告や営業トークは“きっかけ”にすぎません。真に信頼できるFAとは、現場で丁寧に支援し、売主の未来を共に考えてくれる存在です。
今回紹介した9つのチェックリストをもとに、しっかりと見極めていきましょう。
10.あなたの会社を本当に大切にしてくれるFAとは
会社を譲るというのは、単なる「売却」ではなく、経営者の人生の集大成を次世代へ託す「承継行為」です。だからこそ、選ぶFA(ファイナンシャル・アドバイザー)が「あなたの会社を本当に大切にしてくれる人かどうか」は、最も重要な判断軸のひとつです。
大切なのは「どれだけ寄り添ってくれるか」
どんなに大手で有名な仲介会社でも、あなたの価値観や想いを理解せず、数字だけで動くようでは、後悔の残るM&Aになるかもしれません。中小企業庁が発行する『中小M&Aガイドライン』でも、譲渡企業にとって「企業文化や従業員を大切にする買い手を選定することの重要性」が繰り返し述べられています。
そのためには、以下のような姿勢を持つFAと出会うことが重要です。
- 短期利益よりも長期の幸せを見据えた助言をしてくれる
- 会社の理念や従業員への想いに耳を傾けてくれる
- 単なる「高値売却」ではなく、「幸せな引継ぎ」を目指してくれる
「手数料が高い=信頼できる」は成り立たない
一部の仲介会社は、高額な手数料を正当化するために「信頼の証」「高品質の証」などと謳っていますが、これは必ずしも正しくありません。例えば手数料が2,500万円を超える場合でも、その費用の一部が下記のような項目に充てられていることがあります。
手数料の使途 | 具体例 |
---|---|
広告宣伝費 | 芸能人起用のCM、タクシー広告、大型イベント |
人件費・賞与 | 成果主義のインセンティブ支給、営業担当の歩合報酬 |
オフィス維持費 | 都心一等地のラグジュアリーオフィス賃料 |
つまり、あなたが支払う手数料のすべてが、M&Aの実務や会社のために使われるとは限らないということです。
実例:丁寧な支援が信頼を生んだFAのケース
ある地方製造業のオーナーは、当初は手数料の安さで仲介会社A社に依頼しました。しかしA社はテンプレート的な対応しかせず、買手との面談でも事業の魅力を語れずに破談。その後、紹介で出会った誠実なFAと契約したところ、以下のような違いがありました。
- 面談のたびにヒアリングが丁寧で、事業の強みを深く理解してくれた
- IMも独自性があり、買手に「熱意が伝わった」と好評だった
- 価格交渉よりも従業員の雇用継続を優先し、売主が安心できた
結果として、オーナーは「この人に任せてよかった」と本音で語っていました。
信頼できるFAを見極めるための4つのポイント
あなたの会社を本当に大切にしてくれるFAかどうかは、次の点で判断できます。
- ヒアリングに時間をかけ、会社の歴史や想いに共感しているか
- 事業の魅力を言語化し、独自のIMを作成する姿勢があるか
- 買手との相性・文化フィットを重視した提案をしてくれるか
- 契約前から誠実にリスクや限界も伝えてくれるか
こうしたFAであれば、たとえ時間がかかっても、納得のいくM&Aになる可能性が高まります。
最後は「人」で選ぶべき理由
M&Aは「取引」であると同時に、「人の営み」です。契約書や数字だけでは語れない想いや、次の経営者へのバトンタッチに込められた重みを理解してくれる人こそが、あなたの会社を本当に大切にしてくれるFAです。
最終的には「この人なら任せられる」と思えるかどうか。それこそが、信頼できるFA選びの本質なのです。
まとめ
本記事では、見かけや広告に惑わされず、信頼できるM&Aアドバイザーを選ぶための視点をお伝えしました。大切なのは、手数料の高さではなく、誠実な姿勢と実務力、そして「あなたの想い」に本気で寄り添ってくれるかどうかです。
- 広告より実績で判断する
- 担当者の理解力を確認する
- 報酬の使途を見極める
- テンプレ提案を避ける
- 文化フィットを重視する
大切な会社の将来を託す相手だからこそ、「この人なら任せられる」と思えるFAと出会うことが成功への第一歩です。詳しく知りたい方は、ぜひアーク・パートナーズまでお問い合わせください。
