エンジニア不足で需要急増!SES業界M&Aの最新事例と高値売却のポイント
「SES企業の売却価格はいくらが相場なのか」「高く売るためにはどんな準備が必要なのか」「最新のM&A事例を参考にしたい」――そんなお悩みをお持ちではありませんか?
本記事では、エンジニア不足を背景に需要が急増しているSES業界のM&Aについて、最新データと実務経験に基づき徹底解説します。
■本記事を読むと得られること
- 2025年最新のSES業界M&A市場動向と今後の成長性がわかる
- 売却価格の相場とバリュエーションを高める5つの要素を理解できる
- 成功事例・失敗事例から学べるリスク回避とプロセスの全体像を掴める
■本記事の信頼性
筆者はM&Aアドバイザー歴10年以上、200件以上の案件に携わり、中小企業庁登録M&A支援機関として活動しています。誠実性と専門性を重視し、数多くのSES企業のM&Aを支援してきた実績があります。
この記事を読むことで、最新の市場動向と実践的な成功ノウハウを把握し、SES企業の売却を「高値かつ安心」で実現するための準備ができるようになります。3分ほどで読める内容ですので、ぜひ最後までご覧ください。

1. はじめに|なぜ今SES業界でM&Aが急増しているのか
エンジニア不足と市場拡大の背景
現在の日本では深刻なエンジニア不足が続いており、特にAI、クラウド、DX(デジタルトランスフォーメーション)分野での需要が急激に高まっています。この流れがSES業界におけるM&A増加の大きな要因です。SES(システムエンジニアリングサービス)は、企業の開発現場にエンジニアを派遣し、プロジェクトを支えるビジネスモデルです。IT投資が拡大する中で、エンジニアを確保できるかどうかが企業の競争力を左右しています。
経済産業省の「IT人材需給に関する調査」(2019年発表)によると、2030年には最大で79万人のIT人材が不足すると予測されています。この数値は2025年以降さらに深刻化すると見込まれており、特に高度スキルを持つエンジニアの需要は右肩上がりです。こうした背景から、自社採用だけでは人材確保が難しい企業が、SES企業を買収することで一気に人材とノウハウを取り込むケースが増えています。
例えば、大手事業会社が自社サービス開発のスピードを上げるためにSES企業を子会社化する事例が目立っています。自社でゼロから採用活動を行うよりも、すでに稼働中のSES企業を取り込む方が、即戦力人材を確実に確保できるからです。さらに、売り手側にとっても、強力な買い手の信用力を背景に、エンジニア単価を上げやすくなるメリットがあります。
このように、エンジニア不足という社会的課題と、IT市場の拡大という経済的要因が重なり合い、SES業界でのM&Aは急速に広がっています。
SES企業を取り巻く課題(待機率・多重下請け構造)
一方で、SES業界には解決すべき課題も存在します。その代表例が「待機率の高さ」と「多重下請け構造」です。待機率とは、エンジニアが案件に参画せず、待機している状態の割合を指します。待機が増えると売上が発生しないため、経営に直結する大きなリスクとなります。
また、SES業界は多重下請け構造が根強く残っており、二次請け、三次請けと商流が重なるにつれて中間マージンが発生します。その結果、実際に働くエンジニアに支払われる報酬は減り、離職率の上昇につながるケースもあります。この構造は、業界全体の利益率を圧迫するだけでなく、働き手のモチベーション低下を招き、長期的な成長を妨げています。
実際に、厚生労働省の「労働経済白書」では、IT関連職種における労働環境の厳しさや離職率の高さが指摘されています。特に下請け層の企業では、社会保険加入率が低かったり、労働時間管理が不十分だったりするケースも散見されます。こうした課題がある企業は、M&Aの場面で買い手から厳しく評価されることも少なくありません。
しかし裏を返せば、これらの課題を改善しておくことが、企業価値を大きく高めるチャンスにもなります。たとえば、自社エンジニアの稼働率を高める体制を整えたり、直請け案件の比率を上げたりすることで、収益性と安定性が大きく向上します。また、労務管理や法令遵守体制を強化しておくことで、デューデリジェンス(買収監査)の段階で高い評価を得ることができます。
実例として、あるSES企業は従来7割が二次請け案件でしたが、営業戦略を見直して直請けを増やした結果、利益率が向上しました。その後、買い手企業からの評価も高まり、相場よりも高い倍率で売却することに成功しました。つまり、業界特有の課題を解決していくことが、最終的に「高値売却」へと直結するのです。
まとめると、エンジニア不足と市場拡大がSES業界M&Aの追い風となる一方で、待機率や多重下請けといった課題が存在します。しかし、これらを改善できれば、企業価値を飛躍的に高められます。買い手にとって魅力的な企業に変わることができれば、より有利な条件でM&Aを実現できるでしょう。
2. SES業界M&A市場の最新動向(2025年版)
国内M&A件数の推移
日本国内におけるM&A件数は、近年右肩上がりで増加しています。レコフデータの発表によると、2024年のM&A件数は4,700件を超え、過去最多を更新しました。これは国内企業が持続的な成長のために「外部資源を取り込む戦略」を積極的に取っていることを示しています。特にIT分野やデジタル関連の案件は全体の中でも増加率が高く、その中でSES業界の存在感も強まっています。
こうした背景には、少子高齢化による労働人口の減少と、デジタル化への需要増加が重なっている点があります。採用難が深刻化する中で、企業が必要なリソースを短期間で確保する方法としてM&Aが有効に機能しているのです。従来は製造業や不動産業でのM&Aが多かったのに対し、近年はIT・人材関連セクターが急成長分野として注目を集めています。
実際に、2023年から2024年にかけてSES関連企業の案件数は前年比で2桁増加を記録しており、今後も「国内M&A全体の増加」と「SES市場の成長」が相まって、案件数の増加は続くと予測されます。
SES業界の市場規模と伸び率
SES業界は、エンジニア不足を背景に市場規模を拡大しています。矢野経済研究所が発表した「人材サービス市場に関する調査」によると、2023年度の「IT人材サービス市場」は前年比9.1%増の約1兆3,615億円となりました。その中でもSES事業は特に伸びが顕著で、需要が高まるAI、クラウド、セキュリティ関連プロジェクトを中心に拡大が続いています。
2025年以降も、DX投資の加速によりIT人材サービス市場は年間5〜7%の成長が予測されています。特に、生成AIやクラウドネイティブ開発といった先端分野に強みを持つSES企業は、買い手企業からプレミアム評価を受けやすく、M&A市場での人気が高まる傾向にあります。
さらに、SES業界の特徴として「小規模〜中規模企業が大半を占める」という点があります。従業員数10〜100名規模の企業が中心であり、こうした企業がM&A市場に多く登場することによって、買い手は自社戦略に合致する規模・領域の企業を選びやすい環境になっています。
実際の数字で見ると、SES市場の売却価格の相場はEBITDA倍率で5〜8倍が一般的ですが、成長性の高い領域に特化した企業では10倍近い評価がつくこともあります。市場拡大と人材需要の高まりが、M&Aにおけるバリュエーション上昇の背景となっているのです。
買い手の特徴(同業/異業種/事業会社)
SES業界のM&Aにおける買い手は、多様化しています。大きく分類すると以下の3つのパターンがあります。
- 同業(SES企業・SIer):既存の人材基盤を拡充し、営業先や案件数を拡大する狙いがあります。特に規模拡大による「待機率の低減」や「直請け案件の増加」を目指すケースが多いです。
- 異業種企業:最近では金融業、小売業、製造業といったIT以外の業界がSES企業を買収する事例が増えています。背景には「自社のIT内製化」を加速させたいという戦略があります。
- 事業会社(ITサービス全般を展開する大手):クラウド、AI、IoTなどの新規事業を拡大する目的でSES企業を取り込み、自社の技術ポートフォリオを補強する動きがあります。
実際の事例を挙げると、2024年に情報戦略テクノロジー社はSES企業のエー・ケー・プラスを買収しました。この買収は、同社のDX事業にSESの専門性を加え、顧客基盤を広げる狙いがありました。また、フーバーブレイン社がSES事業を持つ企業を子会社化したケースでは、自社のセキュリティ関連サービスとのシナジー創出を目的としています。
さらに異業種による参入事例として、製菓・製パン材料ECのcotta社がSES企業TERAZを買収した案件も注目を集めました。これはIT技術を活用して自社のEC事業を加速させるための戦略的な動きであり、SES企業が異業種の成長ドライバーとして活用されることを示しています。
買い手企業がSESに注目する主な理由
- 短期間で即戦力エンジニアを確保できる
- 直請け顧客や案件実績を取り込める
- 新規事業や内製化を加速できる
- AIやクラウドなど先端領域の技術力を獲得できる
このように、買い手は必ずしもIT業界のプレイヤーに限られず、多様な企業がSES市場に参入しています。その結果、売却を検討するSES企業にとっては「どのタイプの買い手を選ぶか」が企業価値を左右する重要なポイントとなります。
総じて言えるのは、2025年のSES業界M&A市場は「案件数の増加」「市場規模の拡大」「買い手層の多様化」が同時に進んでいるということです。これらの動きは今後数年間続くと考えられ、売却を検討するSES企業にとっては、まさに好機と言えるでしょう。
3. SES M&Aのメリットと買い手・売り手の狙い
売り手のメリット(資金確保・リスク解消・セミリタイア)
SES企業にとってM&Aは単なる「会社を手放す手段」ではなく、経営者や従業員の未来を切り開く重要な選択肢です。最大のメリットは、まとまった資金を確保できる点です。株式譲渡による売却益は数千万円から数億円規模になることもあり、創業者にとって大きなリターンとなります。また、経営者保証や個人借入といった経営リスクから解放されることで、心理的な負担も軽減できます。さらに、買い手企業との顧問契約や業務委託契約を活用すれば、完全引退ではなく「セミリタイア」として緩やかに経営から退く道も選べます。
こうした背景には、経営環境の変化があります。中小企業庁の「中小企業白書」では、経営者の高齢化と後継者不足が深刻化していることが指摘されています。特にSES業界では、採用難や待機率の高さといった課題が重なり、単独での成長に限界を感じる企業も少なくありません。M&Aはこれらの課題を一気に解消する手段となりうるのです。
実際に、あるSES企業の創業者は60代で後継者が不在でしたが、大手IT企業に株式を譲渡することで引退資金を確保し、顧問として月数十万円の報酬を得ながらセミリタイアを実現しました。このケースでは、社員の雇用も守られ、取引先も継続できたため、経営者にとっても従業員にとっても「安心の出口戦略」となりました。
つまり、売り手側にとってM&Aは「資金獲得」「リスク解消」「新しい人生設計」という3つの大きな価値を提供するものです。
買い手のメリット(人材確保・商流拡大・技術強化)
一方で、買い手にとってもSES企業のM&Aは大きなメリットがあります。最も大きいのは「人材確保」です。エンジニア不足が叫ばれる中で、採用活動には時間とコストがかかります。M&Aを通じてSES企業を取り込めば、即戦力のエンジニアをまとめて確保でき、リソース不足を一気に解消できます。
加えて、SES企業が保有する顧客基盤や直請け案件を取り込むことで「商流の拡大」が可能になります。特に一次請けの比率が高い企業を買収することで、下請け依存を減らし、収益性を改善することができます。また、特定業界に強いSES企業を買収すれば、新しい顧客層へのアクセスも容易になります。
さらに重要なのが「技術ポートフォリオの強化」です。AI、クラウド、IoT、セキュリティなど特定分野に強みを持つSES企業を買収することで、買い手の自社サービスや開発力を補完できます。これにより、自社の競争力を高め、事業領域の拡大につなげることができます。
買い手にとってのメリットの具体例
- 即戦力エンジニアを採用コストをかけずに一括確保できる
- 新規顧客や直請け案件を取り込み、収益性を向上できる
- 専門技術を補強し、自社サービスの幅を広げられる
- 短期間で自社の弱点を補い、競争優位性を高められる
実例として、2024年にフーバーブレイン社がSES企業ARPPEGGIOを子会社化したケースがあります。この買収により、同社は教育事業やSES事業を組み合わせて、セキュリティ分野における人材育成とリソース拡大を実現しました。また、異業種のcotta社がSES企業TERAZを買収した事例では、EC事業のデジタル化を加速させる目的でSESの技術力を活用しました。これらは、買い手にとってSES企業が「人材」「顧客」「技術」の3つの資産を一度に獲得できることを示しています。
まとめると、買い手にとってM&Aは「人材不足の解消」「新しい商流の獲得」「技術力の強化」という3つの価値をもたらします。特に2025年のようにデジタル化が加速する時代において、SES企業は多様な業界の成長戦略に不可欠な存在となっています。
総合的なまとめ
SES業界のM&Aは、売り手にとっては「資金確保とリスク解消」、買い手にとっては「人材確保と事業強化」という双方に大きなメリットがあります。売り手は安心して次のステージに進むことができ、買い手は成長を加速させることができるのです。つまりSESのM&Aは単なる所有権の移転ではなく、双方の課題を解決し、未来を切り拓くための重要な戦略的手段だと言えるでしょう。
4. 売却価格の相場とバリュエーションを上げる5要素
EBITDA倍率の相場(5〜8倍)
SES企業の売却価格を考えるとき、もっとも基本となる指標は「EBITDA倍率」です。EBITDAとは「営業利益に減価償却費を加えた利益」のことで、企業の収益力を示す数値です。M&A市場ではこのEBITDAに倍率をかけて企業価値を算出するのが一般的です。
日本国内の中小IT・SES企業では、相場はおおむね5倍〜8倍の範囲に収まります。つまり、EBITDAが1億円の企業であれば、おおよそ5億円から8億円程度の企業価値評価がつく計算です。ただし、これはあくまで目安であり、成長性や専門性、買い手のニーズによって上下します。実際に、AIやクラウドといった先端分野に強いSES企業は10倍近い評価が提示されることもあります。
この倍率が成立する背景には、買い手企業にとって「エンジニアを短期間で確保できること」が大きな価値となっている点があります。経済産業省の「IT人材需給に関する調査」によれば、2030年までに最大79万人のIT人材が不足すると予測されています。人材不足の深刻化が、SES企業の評価を底上げしているのです。
したがって、売却価格の相場を理解する際には、単に業績だけでなく「人材の質と量」「成長市場との関わり」といった要素を加味する必要があります。
高値で売れる企業の条件(待機率・直請け率・資格・BP比率・法令遵守)
同じSES企業でも、ある会社は高値で売却でき、別の会社は平均的な評価にとどまることがあります。その差を生むのが、以下の5つの評価要素です。
1. 待機率の低さ
エンジニアが案件にアサインされずに待機している状態が多いと、収益性が下がり、企業評価に悪影響を及ぼします。逆に、待機率が低く、エンジニアが安定して案件に稼働している企業は、収益が安定しているため高く評価されます。
2. 直請け率の高さ
大手クライアントから直接案件を受注している割合が高いほど、収益性が高くなります。多重下請け構造の中で二次請けや三次請けが多いと、中間マージンが発生して利益率が下がるため、評価も低くなりがちです。直請け率が高い企業は買い手にとって魅力的です。
3. エンジニアの資格とスキルセット
AWS認定資格やGCP、SAPなどの専門資格を保有するエンジニアが多い企業は、市場での競争力が高く評価されます。また、スキルマップを整理している企業は「即戦力の人材集団」としてプレミアム評価を受けやすいです。
4. BP比率(ビジネスパートナー依存度)の低さ
外部の協力会社に頼る割合が高いと、自社でコントロールできる範囲が狭くなり、リスクが高まります。自社雇用のエンジニアが多く、BP比率が低い企業は「人材の安定確保」という点で評価が上がります。
5. 法令遵守・労務体制の整備
労働基準法や派遣法、36協定の遵守、社会保険の適切な加入といった基本的なコンプライアンス体制は必須です。ここが不十分だとデューデリジェンスで指摘を受け、買い手が価格を下げる大きな理由になります。逆に、労務管理がしっかりしている企業は安心材料となり、価格が下がりにくいです。
5要素を整理した表
評価要素 | 高評価につながる条件 |
---|---|
待機率 | 待機率が低く、稼働率が高い |
直請け率 | 一次請け案件が多く、利益率が高い |
資格・スキル | AWS、GCP、SAPなどの資格保有者が多い |
BP比率 | 自社雇用の比率が高く、外注依存度が低い |
法令遵守 | 労務・社保・36協定を適切に整備している |
実例として、ある中堅SES企業は売却直前に待機率を改善し、直請け案件を増やしたことで、当初提示された評価額よりも30%以上高い条件で売却に成功しました。このように、5つの要素を事前に整えておくことが、高値売却を実現する鍵となります。
結論として、SES企業の売却価格はEBITDA倍率で5〜8倍が一般的な相場ですが、待機率や直請け率、資格保有数、BP比率、法令遵守体制といった5つの要素を整備することで、相場を超える高値売却も可能になります。つまり「収益力の安定」と「信頼できる体制」を示せる企業こそ、買い手からプレミアム評価を受けやすいのです。
5. SES企業のM&Aプロセスと費用シミュレーション
無料診断〜クロージングまでの流れ(最短6か月)
SES企業がM&Aを実現するまでの一般的な流れは、段階ごとに整理するとわかりやすいです。結論から言えば、書類が整っており、買い手との条件交渉がスムーズに進めば最短で6か月ほどでクロージング(最終契約と決済)まで到達できます。
プロセスを時系列で整理すると以下のようになります。
フェーズ | 期間の目安 | 主な内容 | 売り手のコスト |
---|---|---|---|
① 無料企業価値診断 | 1〜2週間 | NDA締結、ヒアリング、財務数値の確認 | 0円 |
② ノンネームシート・IM作成 | 約1か月 | 匿名情報の開示、候補買い手への提案 | 0円 |
③ 面談・LOI(意向表明書) | 約1か月 | 買い手と初回面談、バリュエーション提示、基本合意締結 | 0円 |
④ デューデリジェンス | 1〜2か月 | 財務・法務・労務・許認可など詳細調査 | 顧問料や会計士費用が発生する場合あり |
⑤ 最終契約〜クロージング | 約1か月 | 株式譲渡契約の締結、対価の受け取り | 成功報酬(仲介会社への支払い) |
このように、M&Aは複数の段階を踏んで進みますが、買い手候補が早期に見つかるかどうか、またデューデリジェンスで大きな問題が出ないかによって期間は変動します。書類や体制が整っていれば半年程度で完了しますが、不備が多い場合は1年近くかかることもあります。
経済産業省の「事業承継ガイドライン」によると、M&Aにかかる平均的な期間は6〜12か月とされています。つまり、SES企業においても早めに準備を進めておくことが成功の鍵となります。
費用イメージと仲介会社の報酬体系
次に気になるのが、M&Aにかかる費用です。結論として、売り手が負担する大きな費用は仲介会社への成功報酬です。一般的には、着手金や中間金がかからず、クロージング時にのみ報酬を支払う「完全成功報酬型」が広く採用されています。
報酬体系は「レーマン方式」と呼ばれる計算方法が多く用いられます。これは譲渡価格の金額帯に応じて料率が変わる仕組みです。
レーマン方式の報酬例
価格区分 | 料率 |
---|---|
5億円以下の部分 | 5% |
5億円超〜10億円以下の部分 | 4% |
10億円超〜50億円以下の部分 | 3% |
50億円超〜100億円以下の部分 | 2% |
100億円超の部分 | 1% |
例えば、SES企業を5億円で売却した場合、5億円×5%=2,500万円が仲介会社の報酬となります。ただし、中小企業案件では「最低報酬1,000万円」などの下限設定があるケースが一般的です。
また、デューデリジェンスに関しては、会計士や弁護士に依頼する場合の顧問料・調査費用が別途発生することがあります。こちらは規模にもよりますが数百万円程度を見込むケースが多いです。
実例として、ある従業員30名規模のSES企業では、売却価格3億円に対して成功報酬1,500万円(最低報酬適用)が発生しました。この企業では着手金・中間金はなく、クロージング後にまとめて支払ったため、資金繰りに大きな影響を与えることなくM&Aを進めることができました。
まとめると、SES企業のM&Aでは「最短6か月」というスケジュール感と「成功報酬制による費用負担」が特徴です。売り手は大きな先払いリスクを抱えずに進められる一方で、クロージング時に一定額の支出があることを見越して準備しておくことが重要です。買い手探しと同じくらい、「費用のシミュレーション」も成功への大切なステップといえます。
6. 最新のSES企業M&A事例(2024〜2025年)
同業による子会社化事例
SES業界のM&Aで最も多いのが、同業による子会社化です。結論として、この形態は「人材確保」と「顧客基盤の拡大」を同時に実現できるため、双方にとって大きなメリットがあります。
背景として、エンジニア不足が続く中、同業のSES企業は規模を拡大することで案件への対応力を高めたいと考えています。経済産業省の調査によれば、2030年には日本で最大79万人のIT人材が不足する可能性があるとされており、特にシステム開発やクラウド分野での需要は高まり続けています。このような状況では、自社で一から採用活動を行うより、既存のSES企業をM&Aによって取り込む方が効率的なのです。
実例として、2025年2月にシステム受託開発業の情報戦略テクノロジー社がSES企業エー・ケー・プラスを子会社化しました。エー・ケー・プラスはインフラ系の開発に強みを持ち、官公庁や金融機関との取引実績が豊富でした。この買収により、情報戦略テクノロジー社は安定した公共案件の獲得基盤を得ると同時に、DX事業の展開を強化することができました。
同業によるM&Aは、文化や業務内容が近いため統合が比較的スムーズで、シナジー(相乗効果)を早期に発揮しやすいという特徴があります。
異業種による買収事例
近年増えているのが、IT以外の業界によるSES企業の買収です。結論として、これは「自社のデジタル化を加速するための戦略的投資」です。
経済産業省のDXレポートによれば、日本企業の多くは「2025年の崖」と呼ばれるシステム老朽化問題を抱えており、デジタル人材の確保は経営課題の最優先事項とされています。そのため、ITとは無縁だった業界でも、M&Aを通じてSES企業を取り込み、社内の内製開発力を強化する動きが目立っています。
具体例として、2024年9月にcotta社(製菓・製パン材料のEC事業者)がSES企業TERAZを子会社化しました。cotta社は製菓業界のECプラットフォームを運営していましたが、今後のDX強化に必要な開発力を確保するためにSES企業を買収しました。この結果、社内に開発チームを内製化し、ECサービスの高度化や新規機能開発をスピードアップできるようになりました。
また、2024年にアイフル株式会社がSES企業セイロップを子会社化した事例もあります。金融業界の大手であるアイフルは、IT人材をグループに取り込むことで、自社サービスのデジタル化や新規プロダクト開発を強化しました。異業種によるM&Aは、SES企業にとって新たな成長フィールドを得るチャンスとなり、買い手にとっても事業変革の加速装置となります。
事例から学ぶポイント
これらの事例から見える学びは明確です。SES企業が高く評価されるには、以下の要素が欠かせません。
- 安定した顧客基盤:官公庁や大手企業との直接取引は高評価につながる
- 特定分野の専門性:AI、クラウド、セキュリティなど成長市場に強い企業はプレミアム評価
- 組織の透明性:財務、労務、契約の整備が整っている企業はデューデリジェンスで減点されにくい
- 文化の親和性:買い手との企業文化や事業方針の相性が良いと統合が成功しやすい
実際に、同業による子会社化では「人材と顧客の取り込み」、異業種による買収では「内製化とDX推進」が目的となっています。つまり、買い手が何を重視しているのかを理解し、自社の強みを整理してアピールすることが、高値売却につながる大切なポイントなのです。
結論として、2024〜2025年の最新事例からわかるのは、SES業界のM&Aはますます多様化しており、同業だけでなく異業種からの買収ニーズも強まっているということです。売却を検討するSES企業は、自社の強みを明確化し、買い手の戦略に合わせたポジショニングを取ることで、より有利な条件での取引を実現できるでしょう。
7. デューデリジェンスで必ず確認される8つのKPI
待機率・BP比率・法令遵守状況・直請け率など
M&Aの交渉において最も厳しくチェックされるのが「デューデリジェンス(買収監査)」です。結論から言えば、SES企業では8つのKPIが必ず確認され、これらが整理されていないと評価が下がり、場合によっては取引自体が中止になることもあります。
経済産業省が公表している「事業承継・M&Aハンドブック」や中小企業庁の調査でも、買い手が最も重視するのは「人材の安定性」と「法令遵守体制」であると明記されています。特にSES業界は人材ビジネスの性質上、エンジニアの稼働率や契約形態がダイレクトに利益へ影響するため、精緻な確認が行われます。
以下が、デューデリジェンスで必ずチェックされる8つのKPIです。
- 待機率(月次推移):エンジニアが案件に稼働せず待機している割合。高いと利益率が下がるため要注意。
- BP比率(外注依存度):自社社員ではなく外部パートナーに依存している割合。自社雇用率が高いほど評価は高まる。
- 派遣法・労基法順守:36協定や派遣法、労務管理が適正に行われているか。違反はM&Aの大きなリスク要因。
- 最低賃金超過チェック:地方や案件ごとに賃金が最低水準を下回っていないかを確認。
- プロジェクト別の粗利率:案件ごとの収益性。粗利率の高い直請け案件が多いほど高評価。
- エンジニア資格・スキルマップ:AWSやGCPなどの資格取得者数。体系的に整理されていると即戦力の証明となる。
- 直請け率と商流の透明性:一次請け案件の比率が高いか。二次・三次請け中心だと利益率が低く評価される。
- 顧客集中度:売上の大部分を特定の顧客に依存していないか。リスク分散ができている企業は安定性が高い。
例えば、A社(SES企業)は買収前に待機率を毎月3%以下に抑え、直請け案件比率を70%まで引き上げました。その結果、買い手から「人材の稼働効率が高く、安定収益が見込める」と評価され、EBITDAの8倍という高水準でのバリュエーションを獲得しました。逆に、B社ではBP比率が80%を超えており、自社エンジニアの確保が十分でなかったため、提示価格が当初想定より30%以上低下した事例もあります。
つまり、8つのKPIは単なる「数字」ではなく、企業の実態を映す鏡です。これらが適正に管理されていれば、買い手は安心して高値を提示できます。逆に曖昧なデータや不備があれば、交渉は必ず不利になります。
自社で事前に準備しておくべき資料
買い手に安心感を与えるためには、8つのKPIを裏付ける資料をあらかじめ整理しておくことが重要です。デューデリジェンスで「即時に提示できる」状態にしておくことで、交渉がスムーズになり、価格交渉でも有利に立てます。
準備しておくべき代表的な資料は以下のとおりです。
- エンジニアごとの稼働率一覧(月別データ)
- BP契約書と有効期限管理台帳
- 労務管理帳票(36協定、就業規則、社保加入状況)
- 給与台帳と最低賃金超過チェック表
- 案件別の売上・粗利一覧表
- 資格保有一覧表とスキルマップ(Excelなどで可視化)
- 主要顧客別の売上高推移(3年分)
- 契約書類(基本契約、直請け・二次請け割合を示すもの)
これらの資料は単なる数字の羅列ではなく、「体系的に整理されているかどうか」が大切です。例えば、Excelでグラフ化して推移を示すと、買い手が一目で企業の成長性や安定性を理解できます。特にSES業界は人材ビジネスゆえに「数字の透明性」が最も重視されます。
実例として、ある中小SES企業はM&Aを意識して3年前から自己デューデリジェンスを実施し、毎月の待機率・BP比率をグラフ化して社内管理しました。その結果、買い手の監査が非常にスムーズに進み、予定より2か月早くクロージングに至りました。準備不足によるストップリスクを避けるためにも、日頃からの自己点検は欠かせません。
まとめると、SES企業のデューデリジェンスでは「待機率」「BP比率」「直請け率」といった人材稼働や商流に関する数値と、「法令遵守」「顧客集中度」といったリスク要因が必ずチェックされます。これらを正確に把握し、資料として揃えておくことが、M&Aを成功させるための近道です。準備不足は必ず価格低下につながるため、早めの自己デューデリジェンスを意識することが大切です。
8. SES企業M&Aの注意点とリスク回避策
売却先選びの重要性(文化・方針の適合性)
SES企業がM&Aを成功させるためには、売却先の選定が極めて重要です。単に高い価格を提示してくれる企業を選ぶのではなく、自社の文化や経営方針と合致しているかを見極めることが必要です。文化が合わないと、従業員が短期間で離職したり、顧客との関係性が崩れたりする可能性があります。
中小企業庁が公開している「事業承継・M&Aガイドライン」でも、売却先の経営理念や従業員との相性が成功の鍵とされています。買い手企業が異業種であっても、IT活用や人材育成に理解がある場合はスムーズな統合が可能です。
例えば、あるSES企業が大手ITコンサル企業へ売却した事例では、両社とも「エンジニアを資産と考える文化」を共有していたため、統合後も離職率が上がらず、むしろ人材育成制度の強化で従業員の満足度が向上しました。逆に、利益優先の異業種企業に売却した場合、労働環境が悪化し、エンジニアの大量退職を招いたケースもあります。
したがって、売却先を選ぶ際は「理念や方針の一致度」を最優先すべきです。
従業員・顧客への影響と情報共有のポイント
M&Aは経営者にとって大きな決断であると同時に、従業員や顧客にも大きな影響を与えます。従業員は「自分の雇用は守られるのか」「待遇はどうなるのか」と不安を抱え、顧客は「今後も同じ担当者が対応してくれるのか」と心配します。
経済産業省の「M&A実態調査」では、M&A後に従業員の不安が解消されず離職に至った例が少なくないことが示されています。これは、経営陣からの説明不足や一方的な統合プロセスが原因とされています。
- 従業員向けには、できるだけ早い段階でM&Aの背景や目的を説明する
- 雇用や待遇について具体的な保証内容を伝える
- 顧客向けには、今後のサービス体制や担当者継続の有無を丁寧に説明する
実際に、あるSES企業ではM&Aの発表直後に全社員向け説明会を開き、経営陣自ら「待遇は維持され、今後はより良い案件に参画できる」と説明しました。その結果、従業員の不安が解消され、離職率がむしろ低下しました。顧客に対しても「引き続き同じ担当者がサポートする」と明言したことで信頼関係を維持できました。
情報共有を怠ると、M&Aが発表された途端に従業員が退職活動を始めたり、顧客が契約を打ち切ったりする恐れがあります。透明性と誠実さが何より大切です。
事前準備と自己DDのすすめ
M&Aを成功させるためには、デューデリジェンス(買収監査)に備えて、売り手自身が事前に自己点検を行うことが重要です。これを「自己DD(セルフ・デューデリジェンス)」と呼びます。事前に課題を把握し解決しておくことで、買い手からの評価を高め、交渉をスムーズに進めることができます。
準備しておくべき主なチェック項目は以下の通りです。
- 労務関連:36協定、派遣法の遵守、社会保険加入状況
- 契約関連:主要顧客・BPとの契約書の有効期限と内容
- 財務関連:過去3年分の決算書、案件別の粗利率データ
- 人材関連:エンジニアのスキルマップと資格保有状況
- 商流関連:直請け案件比率や顧客集中度のデータ
実際に、あるSES企業は自己DDを徹底したことで、買い手から「透明性が高くリスクが低い」と評価され、相場より20%以上高いバリュエーションで売却に成功しました。逆に、自己DDを怠った企業は、買い手の調査段階で法令違反が発覚し、交渉が破談となった例もあります。
まとめると、SES企業のM&Aにおける最大のリスクは「準備不足」と「情報不足」です。売却先の文化との相性を重視し、従業員と顧客に誠実に情報を共有し、自己DDでリスクを洗い出しておくことで、M&Aを成功に導くことができます。
9. よくある質問(FAQ)
免許は引き継げる?
SES企業のM&Aで多くの経営者が気にするのが「派遣業の免許」などの引き継ぎです。結論から言えば、株式譲渡の場合は免許や許認可はそのまま承継されます。一方で事業譲渡の形をとる場合は、免許を買い手が再取得しなければならないケースが多くあります。
厚生労働省のガイドラインでも、労働者派遣事業や有料職業紹介事業の許可は「法人単位」で与えられると明記されています。つまり、法人格を引き継ぐ株式譲渡では免許が維持されますが、事業のみを譲渡する場合には新規申請が必要になるのです。
例えば、あるSES企業は株式譲渡で大手SIerに買収されました。この場合、既存の派遣業免許がそのまま維持され、買収後も業務を滞りなく継続できました。逆に事業譲渡を選んだ別の企業では、買い手が派遣業免許を再申請し、許可が下りるまで数か月の時間を要しました。
したがって、免許の取り扱いはM&Aスキームの選択に直結します。スムーズな承継を重視するなら株式譲渡が有利です。
売却後すぐリタイアできる?
経営者の多くが「売却後すぐに引退できるのか」と気にします。結論としては、完全にすぐ退くことは難しい場合が多く、一定期間は経営や顧客対応に関与することが求められるケースが一般的です。
中小企業庁の「事業承継ハンドブック」でも、売却後に経営者が顧問や役員として一定期間残ることで、顧客・従業員・取引先の信頼が維持されると指摘されています。
実例として、あるSES企業の創業者は売却後も1年間は顧問として在籍し、主要顧客の引継ぎや従業員のフォローを行いました。その後、買い手側の経営体制が安定した段階で完全にリタイアしました。一方、買い手との合意で半年間だけの短期関与で済んだケースもあり、交渉次第で柔軟に調整可能です。
結局のところ、売却後の関与期間は「買い手の要望」と「売り手の意向」のバランスで決まりますが、少なくとも半年〜1年程度の残留は一般的です。
最短で売却完了するまでの期間は?
SES企業のM&Aはスピーディに進めても6〜8か月程度はかかります。結論として、短期間での完了は可能ですが、デューデリジェンスや契約準備の状況に大きく左右されます。
経済産業省の調査によれば、中小企業のM&A平均期間は約7〜9か月です。これは、買い手選定、基本合意、デューデリジェンス、最終契約といった各プロセスにそれぞれ時間を要するためです。
フェーズ | 期間の目安 | 主な内容 |
---|---|---|
準備・診断 | 1か月 | 企業価値評価、資料準備 |
買い手探索 | 2〜3か月 | ノンネームシート配布、面談 |
基本合意〜DD | 2〜3か月 | 財務・法務・労務などの調査 |
最終契約〜クロージング | 1か月 | 契約締結、決済 |
実例では、書類が整っていた企業では6か月でクロージングに至った一方、労務関係の整備不足が発覚した別の企業では1年以上かかったケースもあります。スムーズに進めたいなら、事前の自己DDと資料準備が不可欠です。
総じて、SES企業のM&Aでは「免許承継」「売却後の関与」「完了までの期間」がよく問われます。どれもケースによって異なるものの、制度や実務の理解を深め、早めに準備することで、安心してM&Aを進めることができます。
まとめ
SES業界のM&Aは、エンジニア不足や市場拡大を背景に今後さらに活発化していくことが予想されます。本記事では市場動向から売却相場、成功事例やリスク回避の方法まで幅広く解説しました。重要なポイントを整理すると以下の通りです。
- 市場拡大と需要増でM&A活発化
- 高値売却には準備と改善が必須
- 自己DDと適切な仲介選びが要
SES企業の売却は単なる出口戦略ではなく、成長戦略の一環ともなり得ます。正しい知識と準備があれば、従業員や顧客にとってもプラスとなるM&Aを実現できます。詳しく知りたい方は、ぜひアーク・パートナーズまでお問い合わせください。
