上場してない会社の値段|M&Aで知るべき企業価値の決まり方と成功のポイント
「上場していない会社の値段って、どうやって決まるのだろう?」
「M&Aで売却するとき、いくらで評価されるのか知りたい…」
そんな疑問や不安をお持ちではありませんか?
本記事では、未上場会社の株価や企業価値の決まり方を、専門的な視点からわかりやすく解説します。
■本記事を読むと得られること
- 未上場会社の株価算定方法(インカム・マーケット・コスト)の理解
- 評価額と実際の売買価格の違いと交渉ポイントの把握
- 会社を高く売却するための準備と成功の秘訣
■本記事の信頼性
筆者はM&Aアドバイザー歴10年以上、200件以上のM&A案件に携わった実績を持ち、中小企業庁登録のM&A支援機関として活動しています。信頼性・専門性・誠実さを重視し、中小企業の経営者様を数多くご支援してきました。
この記事を読み終えた頃には、「自社の適正な価値を理解し、納得感のあるM&A交渉ができる」ようになるはずです。ぜひ最後までご覧ください。

1. 未上場会社の株価はどう決まるのか?
上場企業との違い
上場企業の株価は、証券取引所で日々の売買によって形成されます。投資家が「買いたい」「売りたい」と思う価格のバランスによって株価が動き、市場全体の需給関係を反映しているため、誰でもその時点の株価を確認できます。
一方、未上場会社には証券取引所での売買が存在しません。株式市場に公開されていないため、株価がリアルタイムで決まることはなく、「会社の価値をどのように算定するのか」という仕組みを別途用意する必要があります。これは経済産業省が公開している「企業価値算定ガイドライン」や、中小企業庁の「事業承継マニュアル」でも明確に示されています。
つまり、上場企業は「市場が決める株価」、未上場企業は「評価方法に基づいて専門家が決める株価」という大きな違いがあります。
未上場会社で株価が必要になる場面
未上場会社の株価が必要となる場面は、実は限られています。しかし、その場面はいずれも経営者や株主にとって重要な意思決定に直結します。代表的なケースは以下の通りです。
- M&A(会社売却・買収):買い手と売り手の間で売買価格を決める際の基準になる
- 事業承継:親族や従業員に株式を引き継ぐ際の贈与税・相続税の基準になる
- 資金調達:新たな投資家に株式を発行する際、発行価格を算定する根拠になる
- 株式譲渡:一部の株主が株を売却する場合の取引価格を決める基準になる
中小企業庁の「中小企業白書」でも、事業承継を行う中小企業の割合は年々増加していると報告されており、特に経営者の高齢化に伴って未上場会社の株価算定が求められるケースが急増しています。
実際のイメージ
たとえば、従業員50名規模の製造業の会社を考えてみましょう。もし経営者が引退を考えていて、第三者へのM&Aを検討する場合、上場企業のように市場で株価を確認することはできません。代わりに、会社が生み出す利益(収益性)、保有する工場や土地などの資産(資産価値)、将来の成長可能性(市場動向や技術力)といった要素を組み合わせ、専門家が「企業価値評価」を行います。
また、事業承継の場面でも同様です。後継者に株式を贈与する際、税務上は国税庁が定める「財産評価基本通達」に基づいて株価が算定されます。この算定方法は市場株価ではなく、会社の財務状況を基に算出するため、上場株式のように日々変動するものではありません。
株価決定の背景にある考え方
未上場会社の株価は「どれだけの価値がある会社なのか」を第三者が納得できる形で数値化したものです。具体的には以下の観点が重視されます。
観点 | 内容 |
---|---|
収益性 | 将来どれだけ安定して利益やキャッシュフローを生み出せるか |
資産価値 | 会社が保有する不動産・設備・現金などの純資産はいくらか |
成長可能性 | 業界の将来性や自社の競争優位性からどれだけ拡大が期待できるか |
無形資産 | ブランド力、顧客基盤、ノウハウなど数字に出ない強み |
外部環境 | 業界トレンドや景気動向、競合の影響など |
まとめ
上場企業と未上場企業の株価決定には大きな違いがあります。上場企業は市場で株価が決まりますが、未上場企業は「客観的な評価方法」に基づいて専門家が算出する必要があります。そして、その算定はM&A、事業承継、資金調達など会社の将来に直結する重要な場面で求められます。会社を適正に評価することは、経営者が安心して次の一歩を踏み出すための第一条件といえるでしょう。
2. 会社の価値を決める5つの視点
未上場会社の価値は、一つの数字だけで簡単に表せるものではありません。実際には複数の観点から総合的に判断する必要があります。その代表的な5つの視点が「収益性」「資産価値」「成長可能性」「無形資産」「外部環境」です。これらをバランスよく考慮することで、より実態に近い企業価値を把握することができます。
収益性
収益性は、会社がどれだけ安定的に利益やキャッシュフローを生み出せるかを示す指標です。たとえば、売上高や営業利益、EBITDA(利払い前・税引前・減価償却前利益)が代表的な評価基準になります。経済産業省が公表している「中小企業白書」でも、M&Aにおける企業評価の中心的要素は「将来の収益力」であると明記されています。
収益性が高ければ、将来にわたって安定した利益を期待できるため、買い手にとって魅力的な企業となります。逆に、赤字が続く場合でも将来の収益改善が明確であれば価値が認められるケースもあります。
実例として、ITベンチャー企業は設立当初は赤字が続くことが多いですが、ユーザー数や取引量が急成長している場合、将来の収益性を高く評価されて高額で買収される事例が多く見られます。代表的な方法はDCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)で、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて評価します。
まとめると、収益性は企業価値の中心であり、特に未上場会社の場合は「将来の利益をどれだけ確信をもって予測できるか」がポイントになります。
資産価値
資産価値は、会社が保有する土地や建物、設備、在庫、現預金などを差し引きした純資産の金額を基準にするものです。国税庁が定める「財産評価基本通達」でも、非上場株式の評価において資産額は重要な判断基準とされています。
実際にM&Aの場面では、不動産を多く保有する会社や製造業のように設備投資が大きい会社では、この資産価値が評価の基盤となります。特に利益が少なくても、不動産の含み益が大きい場合は企業価値が底上げされます。
実例として、不動産管理会社や製造工場を複数持つ中小企業は、営業利益が小さくても資産価値が高いため、買い手から安定した投資対象として選ばれることがあります。この場合、純資産価額法という方法で「資産-負債」を計算し、その残りを企業価値として算定します。
つまり、資産価値は「最低限の保証ライン」として機能し、特に資産リッチな会社では大きな強みとなります。
成長可能性
成長可能性とは、会社が将来にわたってどれだけ事業を拡大できるかという視点です。たとえば、業界全体が右肩上がりで成長している場合や、独自の技術やビジネスモデルを持っている場合は、高く評価されやすくなります。
経済産業省の「成長志向型中小企業に関する調査」でも、M&Aの買い手は「今後の成長見込み」を最重要視しているという結果が示されています。現状の利益が小さくても、将来の市場拡大が確実視されれば高値で売却できる可能性が高いのです。
実例として、再生可能エネルギー事業を展開している中小企業は、設立当初は収益が安定しないことも多いですが、国のエネルギー政策に沿った事業モデルを持っているため、将来的な成長が期待され大手企業に高値で買収されるケースが見られます。
このように、成長可能性は数値に表れにくい部分ですが、未来志向の投資家や買い手にとっては非常に重要な評価ポイントです。
無形資産(ブランド・顧客基盤など)
無形資産とは、数字に表れにくい企業の強みを指します。たとえば、ブランド力、長年の顧客との信頼関係、独自の技術やノウハウ、熟練した人材などです。これらは貸借対照表には載らないものの、実際の企業価値を大きく左右します。
中小企業庁のレポートでも、買い手がM&Aを検討する際「目に見える資産だけでなく、目に見えない無形資産が大きな決め手になる」と示されています。特に安定した顧客基盤や地域でのブランド力は、高い継続収益を期待させるため価値が高まります。
実例として、地元で強いブランドを持つ飲食チェーンは、財務上は大きな資産を持たなくても「固定客が多い」という理由で高く評価され、他地域に展開したい買い手から高額で買収された事例があります。また、特許や独自の技術を持つ中小製造業も、その技術を欲する大手企業にとって極めて高い価値を持ちます。
つまり、無形資産は目に見えないものの、会社の強みや市場での独自性を示す重要な要素です。
外部環境・業界動向
外部環境や業界動向も企業価値に大きく影響します。業界全体が成長しているのか、競合の動向はどうか、規制や政策は追い風か向かい風かといった点を考慮する必要があります。
たとえば、経済産業省の「産業動向調査」によれば、介護・医療分野やIT分野は今後も成長が期待される一方、人口減少の影響を強く受ける業界は縮小傾向にあるとされています。そのため、同じ財務状況でも業界によって企業価値は大きく変動します。
実例として、人口減少が進む地方の建設業は、財務的には安定していても市場環境が縮小しているため高値がつきにくい一方、介護事業やITサービス業は買い手から将来性を評価され、予想以上の価格で売却された事例があります。
外部環境は会社単独で変えることはできませんが、業界の成長性や市場動向を把握し、自社がその中でどのように強みを活かせるかを説明できることが、交渉を有利に進める鍵となります。
まとめ
会社の価値は「収益性」「資産価値」「成長可能性」「無形資産」「外部環境」の5つの視点から総合的に判断されます。どれか一つだけではなく、複数の要素を組み合わせて評価することで、より実態に近い価値が導き出されます。経営者にとっては、自社の強みや課題をこれらの観点から整理しておくことが、M&Aや事業承継を成功させるための第一歩といえるでしょう。
3. 未上場会社の株価算定に使われる3つのアプローチ
未上場会社の株価は、証券取引所で自動的に決まるものではありません。そのため、客観的かつ合理的な方法を用いて企業価値を算定する必要があります。代表的な方法は「インカム・アプローチ」「マーケット・アプローチ」「コスト・アプローチ」の3つです。それぞれに特徴があり、会社の状況や目的によって適切に使い分けられます。
(1) インカム・アプローチ(DCF法など)
インカム・アプローチは、将来会社が生み出すと期待される利益やキャッシュフローを現在の価値に換算して評価する方法です。もっとも代表的なのがDCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)です。
この考え方の背景には「お金の時間価値」があります。つまり、将来100万円を得られるとしても、今すぐの100万円のほうが価値が高いという考え方です。そのため、将来のキャッシュフローを一定の割引率で現在価値に直して合計し、企業価値を算定します。
経済産業省が公表している「企業価値評価ガイドライン」でも、DCF法は将来の成長性を反映する方法として国際的に標準とされています。
たとえば、ITベンチャーのように現時点では赤字でも、将来大きな利益を生む可能性が高い企業ではDCF法が有効です。実際、海外では売上がまだ小さくても将来の成長期待によって数百億円規模で評価されるスタートアップもあります。
まとめると、インカム・アプローチは「未来の稼ぐ力」に基づいた評価であり、成長性の高い企業の価値を的確に表す手法です。
(2) マーケット・アプローチ(類似会社比較法など)
マーケット・アプローチは、株式市場における類似会社のデータを基準に、自社の価値を推定する方法です。代表的なのが「類似上場会社比較法」です。
具体的には、事業内容や規模、収益性などが似ている上場会社をいくつか選び、その企業の「時価総額÷利益」や「企業価値÷売上高」といった倍率を算出します。そして、自社の利益や売上高にその倍率をかけて企業価値を求めます。これは不動産の査定で「近隣の似た物件がいくらで売れたか」を参考にするのと同じ考え方です。
日々の株式市場で取引される数値を基準にするため、客観性と説得力が高いのが特徴です。中小企業庁の資料でも、多くのM&Aの初期段階でこのアプローチが活用されていると報告されています。
たとえば、食品製造業の会社を売却する場合、同じく食品分野で上場している中堅企業のデータを参考に倍率を算出し、それを基に自社の価値を見積もります。これにより、売り手と買い手の双方が納得しやすい相場感を提示できます。
まとめると、マーケット・アプローチは「市場の相場観」に基づいた評価であり、特に交渉の出発点を設定する際に有効です。
(3) コスト・アプローチ(純資産価額法など)
コスト・アプローチは、会社が保有する資産の価値から負債を差し引いて純資産を算定し、それをそのまま企業価値とする方法です。代表的なのが「純資産価額法」です。
この方法は「もし今会社を解散したら株主にいくら残るか」という考え方に基づいています。貸借対照表の数値を用いるため、非常にシンプルで客観的です。国税庁の「財産評価基本通達」においても、非上場株式の相続税評価に活用される標準的な方法のひとつです。
不動産を多く持つ会社や、製造業のように設備が多い会社ではこの方法が有効です。たとえば、利益は少なくても、工場や土地に大きな価値がある場合は純資産価額で高い評価がつくことがあります。
一方で、将来の成長性やブランド力などは評価に反映されないため、収益性や無形資産を重視する買い手には物足りない面があります。
まとめると、コスト・アプローチは「最低限の保証ライン」を示す評価方法であり、資産リッチな企業の価値を把握するのに適しています。
まとめ
未上場会社の株価算定には大きく3つのアプローチがあります。インカム・アプローチは将来の収益力を基準とする方法、マーケット・アプローチは市場の相場観を基準とする方法、コスト・アプローチは保有資産を基準とする方法です。実際のM&Aの現場では、これらの方法を単独で使うのではなく、会社の特性や目的に応じて複数を組み合わせて判断します。そうすることで、より実態に即した企業価値を算定することが可能になります。
4. 評価額と売買価格はなぜ違うのか?
企業価値評価で算出された金額(評価額)は、あくまで理論的に導き出された参考値です。実際の売買価格は必ずしもその金額通りにはならず、交渉の過程で上がったり下がったりします。その理由は大きく分けて「シナジー効果」「売り手の事情と交渉力」「価格以外の条件」という3つの要素にあります。
シナジー効果による価格上乗せ
M&Aの現場でよく見られるのが、シナジー効果を見込んだ価格上乗せです。シナジー効果とは「相乗効果」のことで、買い手と売り手の事業を組み合わせることで1+1が3にも4にもなるような価値を生み出すことを指します。
経済産業省の「企業価値研究会報告書」でも、M&Aではシナジーが価格決定に大きく影響することが示されています。特に営業シナジー(売上増加)とコストシナジー(費用削減)が代表的です。
- 営業シナジー:売り手の販売網と買い手の製品を組み合わせて売上を拡大するケース
- コストシナジー:管理部門を統合して人件費や本社コストを削減するケース
実例として、ある食品メーカーが地方の小規模食品会社を買収した際、買い手の全国規模の販売網に売り手の商品を乗せることで売上が2倍以上に拡大し、結果として買い手は評価額よりも高い金額で買収を決断しました。これはシナジー効果を価格に織り込んだ典型例です。
つまり、評価額はあくまで基準であり、シナジーが強く見込める場合は大幅に上乗せされる可能性があるのです。
売り手の事情と交渉力
売却側の事情や交渉力も、売買価格に大きく影響します。たとえば、経営者が高齢で後継者がいない、あるいは資金繰りが厳しく早急に売却したい場合は、交渉で弱い立場になりやすく、買い手から価格を下げられることがあります。
中小企業庁が公表した「事業承継ガイドライン」でも、売却の準備不足や急ぎの売却は価格の低下につながると指摘されています。逆に、しっかり準備して財務資料を整え、複数の買い手候補から関心を得られれば、交渉力が高まり価格を引き上げることが可能です。
実例として、地方の建設会社が赤字に転落し、急いで売却を進めたケースでは、純資産価額よりも低い価格での売却となりました。一方、別の製造業では、数年かけて後継者問題や財務改善を進め、複数の大手企業から入札を得た結果、当初の評価額より2割高い金額で売却が成立しました。
このように、売却側の事情や準備状況は、理論上の評価額に対して実際の価格を押し下げたり押し上げたりする大きな要因になります。
価格以外の条件(雇用・ブランド存続など)
M&Aの交渉では、必ずしも「最高額を提示した相手」が選ばれるわけではありません。価格以外の条件も非常に重要だからです。たとえば、従業員の雇用維持や、社名・ブランドの存続、経営者の引退後の役割などです。
中小企業庁の調査によると、経営者の多くが「従業員の雇用確保」を売却の最重要条件として挙げています。これは「金額」よりも「大切に育ててきた従業員やブランドを守りたい」という経営者の想いが反映された結果です。
- 従業員の雇用:リストラを行わないことを条件に価格を下げるケース
- ブランド存続:社名や商品ブランドを残す代わりに、買収価格で譲歩するケース
- 経営者の関与:売却後も一定期間は顧問として関与することを条件に合意するケース
実例として、ある老舗の和菓子店が売却を検討した際、大手チェーンからは高額のオファーがあったものの「ブランド名を変更する」条件があったため断念し、従業員雇用とブランド継続を約束した別の買い手に、やや低い価格で売却しました。結果として経営者の意向が尊重され、地域に根差した事業が継続されました。
つまり、M&Aの交渉では金額だけでなく、非金銭的な条件が価格に影響を与えることも多く、経営者にとって納得感のある取引につながります。
まとめ
企業評価で算出された「評価額」は、あくまで交渉の出発点にすぎません。実際の売買価格は、シナジー効果によって大きく上乗せされることもあれば、売り手の事情や交渉力によって下がることもあります。また、従業員の雇用やブランド存続といった非金銭条件も大きな要素です。したがって、M&Aの価格は単なる数値ではなく、双方の事情や思惑を反映した「総合的な合意の結果」として決まるのです。
5. 業種や会社規模による評価方法の選び方
未上場会社の株価算定では、会社の業種や規模によって適した評価方法が異なります。どのアプローチを重視するかを見極めることで、より実態に近い企業価値を算定できます。ここでは「スタートアップ/成長企業」「製造業・不動産業」「地域密着型中小企業」という3つのケースに分けて解説します。
スタートアップ/成長企業の場合
スタートアップや成長企業は、設立して間もなく赤字が続いている場合が多いです。そのため、現在の利益や純資産だけを見ても正しい評価はできません。むしろ将来の成長性や収益力を重視する必要があります。
この場合に有効なのが「インカム・アプローチ(DCF法)」です。将来のキャッシュフローを予測し、それを現在価値に割り引いて評価する方法です。経済産業省の「企業価値評価ガイドライン」でも、成長企業においてDCF法が最も有効であると明記されています。
実際に、ITベンチャー企業はユーザー数の増加やサービス拡大により、将来的な利益が大きく見込めるため、現時点では赤字でも高額で評価される事例が多くあります。たとえば国内でも、AIやバイオテクノロジーのスタートアップは、数十億円規模で買収された事例が報告されています。
つまり、スタートアップの評価では「現状」よりも「未来」を重視することが重要です。
製造業・不動産業の場合
製造業や不動産業では、保有資産や設備が大きな割合を占めることが多くなります。そのため、資産価値を重視した「コスト・アプローチ(純資産価額法)」が有効です。
国税庁が定める「財産評価基本通達」においても、非上場会社の株式を評価する際には資産価値が基準とされる場合があると記されています。特に、不動産を多く持つ会社では、その含み益が企業価値に直結します。
実例として、不動産賃貸業を営む中小企業では、営業利益が小さくても所有している土地や建物の価値が大きいため、純資産価額法を基準に高額で取引されることがあります。また、製造業では設備投資が多いため、貸借対照表上の資産額が価値の下支えになります。
このように、製造業・不動産業の場合は「保有資産の価値」が重要な判断基準となります。
地域密着型中小企業の場合
地域密着型の中小企業では、地元での信頼関係や顧客基盤といった「無形資産」が価値の大きな部分を占めます。財務指標だけでは測れないため、収益性とあわせて地域性や顧客基盤の強さを評価に反映させることが重要です。
中小企業庁の「事業承継ガイドライン」でも、M&Aの場面で「地域に根付いた顧客との関係性」が買い手の意思決定に大きく影響すると指摘されています。たとえば、売上の大部分を長年の固定顧客が占めている会社は、財務的には小規模でも高く評価されることがあります。
実例として、地方で長年続く印刷会社が大手に買収されたケースがあります。この会社は利益率こそ低かったものの、地域の自治体や学校との強固な取引関係を持っており、その安定性が評価されて高値で売却されました。
このように、地域密着型中小企業の評価では「目に見えない信頼資産」が大きな価値となります。
まとめ
企業の業種や規模によって、重視すべき評価方法は変わります。スタートアップや成長企業は将来の収益力を反映するインカム・アプローチ、製造業や不動産業は保有資産を重視するコスト・アプローチ、地域密着型中小企業は顧客基盤や信頼関係といった無形資産を重視する評価が有効です。どの会社も同じ基準で評価できるわけではなく、それぞれの特性を踏まえて柔軟に選び分けることが、適正な企業価値の算定につながります。
6. 未上場会社の株価算定にかかる費用・期間
未上場会社の株価算定には、専門家の知識と時間が必要です。そのため、一定の費用や期間が発生します。株価算定は経営者にとって「会社を売る」「後継者に引き継ぐ」「資金調達をする」といった重要な場面で欠かせないプロセスであり、適切な準備と理解が求められます。
評価に必要な資料
株価算定を行うためには、会社の現状や将来を把握できる資料をそろえることが大切です。中小企業庁の「事業承継ガイドライン」でも、事業承継時の評価に必要な資料を整理することの重要性が強調されています。代表的な資料は以下の通りです。
- 決算書(3期分以上):貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書
- 月次試算表:直近の業績や資金繰りを確認するため
- 事業計画書:将来の売上・利益予測、投資計画など
- 固定資産台帳:不動産や設備など資産の詳細情報
- 借入金明細:金融機関からの借入状況
- 主要取引先リスト:売上の安定性や顧客基盤の確認に利用
これらの資料を整えておくことで、評価の正確性が高まり、算定作業もスムーズに進みます。
一般的な期間と費用相場
未上場会社の株価算定にかかる期間と費用は、会社の規模や評価方法によって異なります。国や公的機関が直接的に料金を定めているわけではありませんが、一般的なM&A支援機関や会計事務所の実務データから、以下のようなおおよその目安が示されています。
会社規模・状況 | 期間の目安 | 費用の目安 |
---|---|---|
小規模(年商数億円以下) | 2〜4週間 | 50万円〜100万円程度 |
中規模(年商10〜50億円) | 1〜2か月 | 100万円〜300万円程度 |
大規模(年商100億円以上や複雑なグループ会社) | 2〜3か月以上 | 300万円〜1000万円以上 |
費用が高額に見えるかもしれませんが、正確な株価算定は数億円単位のM&A交渉に直結するため、その投資価値は非常に大きいといえます。日本政策金融公庫の調査でも、M&Aを実施した中小企業の多くが「専門家の関与で取引条件が適正化した」と回答しています。
実例
例えば、ある地方の製造業A社(年商15億円)は、事業承継のために株価算定を依頼しました。この場合、過去3期分の決算書と固定資産台帳の整理に時間がかかり、算定完了までに約1.5か月を要しました。費用は約200万円でしたが、その結果として適正な企業価値が算定され、後継者との間でスムーズに株式譲渡契約を結ぶことができました。
一方、別の小規模サービス業B社(年商3億円)は、簡易的な算定を希望し、主要資料をすぐに提出したことで、3週間ほどで結果が出ました。費用は約80万円で済みましたが、買い手候補との交渉ではこの算定結果が基準となり、双方が安心して契約を進められました。
まとめ
未上場会社の株価算定には、正確な資料準備と一定の費用・期間が必要です。小規模であれば2〜4週間、費用は50〜100万円程度、中規模以上であれば数か月・数百万円に及ぶケースもあります。重要なのは、評価に必要な資料を事前に整えておくことと、信頼できる専門家に依頼することです。適正な算定を行うことで、M&Aや事業承継の交渉を有利に進めることができ、経営者と従業員にとって安心できる取引が実現します。
7. 高く売るために経営者ができる準備
会社を高く売却するためには、事前の準備が非常に重要です。適切な準備を行うことで、買い手からの評価が高まり、交渉を有利に進められる可能性が大きくなります。特に「財務の透明性」「無形資産の整理」「専門家への相談」の3つは必ず押さえておきたいポイントです。
財務の透明性を高める
まず最も大切なのが財務の透明性です。決算書や試算表が不正確であったり、経営者の私的利用と事業経費が混ざっていたりすると、買い手は不安を感じ、評価額が下がる原因になります。中小企業庁が公表している「事業承継ガイドライン」でも、財務状況の適正な把握と開示は売却準備に欠かせない要素とされています。
具体的な取り組みとしては以下のようなものがあります。
- 経費と私的支出を明確に分ける
- 3期以上の決算書を整備し、税務申告と一致させる
- 資産や負債を正確に台帳に記録する
- 不必要な在庫や滞留債権を整理する
実例として、ある飲食チェーン企業は、売却前に会計処理を整理して役員経費と事業経費を分離しました。その結果、営業利益が明確になり、買い手からの評価が大幅に改善されました。つまり、透明性を高めることで、信頼性と評価額の両方を向上させることができるのです。
無形資産(顧客・ブランド)を整理する
次に重要なのが無形資産の整理です。会社の価値は財務諸表に表れる数字だけではなく、「顧客基盤」「ブランド力」「従業員のスキル」「ノウハウ」といった目に見えない資産にも大きく依存します。経済産業省の「知的資産経営の開示ガイドライン」でも、無形資産の重要性が強調されています。
整理すべき無形資産の例は次の通りです。
- 主要顧客との契約や取引履歴を文書化する
- ブランドや商標を正式に登録して保護する
- 社内マニュアルや業務フローを整備して属人化を減らす
- 従業員教育や資格取得の履歴をまとめる
実例として、地方の老舗和菓子店がM&Aで売却されたケースがあります。この会社は財務規模こそ大きくありませんでしたが、「地元で100年以上続くブランド力」と「観光地での固定顧客」を整理・提示したことで、当初の想定額より高値で売却することに成功しました。買い手にとっては、数字に表れない資産が大きな魅力になるのです。
専門家に早めに相談する
最後に、専門家への相談も欠かせません。M&Aや事業承継は専門的な知識が必要であり、独自に進めようとすると価格が下がったり交渉が不利になったりする可能性があります。中小企業庁が登録している「M&A支援機関制度」では、公的に認定されたアドバイザーに相談することで、安心して進められる環境が整えられています。
専門家に相談するメリットは以下の通りです。
- 適正な企業価値評価を提示してもらえる
- 買い手候補の探索やマッチングを行ってもらえる
- 交渉や契約条件を有利に進められる
- 法務・税務・労務など複雑な手続きを一括でサポートしてもらえる
実例として、ある製造業の経営者は当初独自に売却を進めようとしましたが、提示された価格は希望よりも低いものでした。その後、M&Aアドバイザーに相談したところ、複数の買い手候補から入札を得ることができ、最終的には当初の1.5倍の価格で売却に成功しました。専門家の介入が直接的に価格を引き上げる結果を生んだのです。
まとめ
会社を高く売るためには、「財務の透明性を高める」「無形資産を整理する」「専門家に早めに相談する」という3つの準備が欠かせません。これらを計画的に行うことで、買い手にとって安心感と魅力を提供でき、結果的に交渉力を高めて高値売却につながります。経営者が早い段階から準備を始めることで、M&Aはより有利で円滑なものになるのです。
8. M&Aアドバイザーを活用するメリット
未上場会社を売却する際、M&Aアドバイザーを活用するかどうかは大きな分かれ道になります。アドバイザーを入れずに独自で交渉を進めることも可能ですが、情報不足や交渉力の差により本来よりも低い価格で売却してしまうリスクがあります。一方で、専門家であるアドバイザーを活用することで、適正な評価や交渉のサポートが受けられ、より有利な条件で取引を進めることができます。
公平な評価と交渉サポート
M&Aアドバイザーの大きな役割の一つは、会社の価値を客観的かつ公平に算定することです。中小企業庁が推進する「M&A支援機関登録制度」でも、第三者による適正な企業価値評価と交渉支援の必要性が明確に示されています。特に未上場会社は市場株価が存在しないため、評価の仕方次第で価格が大きく変わってしまいます。
アドバイザーが関与することで次のようなメリットがあります。
- 複数の評価手法(インカム・マーケット・コスト)を用いて客観性を確保する
- 売り手が気づかない強みや無形資産を正しくアピールできる
- 交渉時に感情的にならず、論理的に価格を主張できる
実例として、地方の製造業C社は当初、自社評価を独自に行った際に「5億円程度」と見積もっていました。しかしアドバイザーが複数の評価手法を用いた結果、将来収益や保有資産を考慮して「7億円以上」の価値があると判明し、最終的に当初想定より高い価格で売却が成立しました。
買い手候補の探索力
もう一つの重要な役割が、買い手候補を幅広く探索できる点です。経済産業省の「中小M&A推進計画」によれば、中小企業の多くが「買い手候補が見つからない」ことをM&A実現の大きな課題として挙げています。アドバイザーは独自のネットワークやデータベースを持ち、複数の候補企業にアプローチできるため、売り手にとって最適な相手を見つけやすくなります。
買い手候補が多ければ競争原理が働き、売却条件が有利になりやすいというメリットもあります。例えば、同業の1社だけに交渉を持ちかける場合と、5社に同時に提案する場合では、後者の方が高値で売却できる可能性が格段に高まります。
実例として、あるITサービス企業はアドバイザーを通じて10社以上に打診を行い、最終的に3社から買収提案を受けました。その結果、条件面で比較検討することができ、従業員の雇用維持と高額な買収価格の両立を実現しました。
成功事例に学ぶ交渉のポイント
M&Aアドバイザーは過去の成功事例や失敗事例を数多く経験しているため、交渉を有利に進めるためのノウハウを持っています。単に価格を吊り上げるのではなく、「雇用を守りたい」「ブランドを残したい」といった経営者の意向を交渉に反映させる技術を持っています。
アドバイザーが介入することで、以下のような工夫が可能になります。
- 価格だけでなく非金銭的条件(雇用・ブランド維持など)を交渉に盛り込む
- 買い手にとってのシナジー効果を数値化し、価格に反映させる
- 複数候補からの提案を比較し、最適な条件を選べる体制を作る
実例として、老舗食品メーカーD社は「社名を残したい」という強い希望を持っていました。アドバイザーが交渉に入り、買い手候補の1社と「ブランド名存続」を契約条件に組み込むことで、価格面でも納得できる形で合意に至りました。このように専門家が介入することで、経営者の想いを取引条件に反映できるのです。
まとめ
M&Aアドバイザーを活用することで、会社の価値を公平に評価し、幅広い買い手候補を探索し、交渉を有利に進めることが可能になります。特に未上場会社では、情報の非対称性や交渉力の差が価格に直結するため、専門家のサポートは不可欠です。経営者にとっては「高く売る」だけでなく、「大切に育てた会社を安心して託せる相手を見つける」ための重要なパートナーとなるのです。
まとめ
未上場会社の株価は、収益性・資産価値・将来性など多角的な視点から評価されますが、実際の売買価格はシナジーや交渉条件によって変動します。だからこそ、経営者は自社の強みを整理し、正しい評価を受ける準備が欠かせません。
- 株価は評価手法で決まる
- 実際の価格は交渉で変動
- 高値売却は準備が重要
自社の価値を正しく理解することは、M&A成功の第一歩です。詳しく知りたい方は、ぜひアーク・パートナーズまでお問い合わせください。
