事業承継・引継ぎ支援センターは癒着している?M&Aで損しないための実態と注意点5選
「事業承継・引継ぎ支援センターに相談したら、なぜか特定のM&A仲介会社ばかり紹介された」「金融機関との癒着があるのでは?」――そんな不安を感じていませんか?
本記事では、M&Aにおける癒着の実態や仕組みをわかりやすく解説し、売主が損をしないための注意点をお伝えします。
■本記事を読むと得られること
- 事業承継・引継ぎ支援センターの仕組みが理解できる
- 癒着が売主に与えるデメリットを把握できる
- 安全にM&Aを進めるための具体的な対策がわかる
■本記事の信頼性
筆者はM&Aアドバイザー歴10年以上、200件以上の案件に関与。中小企業庁登録のM&A支援機関として、誠実かつ専門的な支援を行ってきました。
この記事を読むことで、売主として癒着リスクを回避し、納得のいく条件でM&Aを進められる知識と判断軸を得ることができます。ぜひ最後までご覧ください。

1. はじめに:なぜ「癒着」がM&Aで問題になるのか
M&Aを検討している中小企業の経営者にとって、公的な相談窓口である「事業承継・引継ぎ支援センター」は安心して利用できる存在だと思われがちです。しかし現実には、特定のM&A仲介会社や金融機関と密接な関係を持つケース、いわゆる「癒着」と見られる事例が存在します。こうした癒着は売主にとって不利益を生み、結果的に「払わなくてもよい高額な手数料」や「条件の悪い相手への譲渡」といった落とし穴に繋がる可能性があるのです。
なぜこれが問題になるのかというと、M&Aは売主にとって会社の存続や従業員の生活、さらには地域経済にまで影響を及ぼす重要な意思決定だからです。公的機関が中立的に見えるにもかかわらず、裏で特定業者に有利な構造が存在すれば、本来得られるはずの「公平な選択肢」が失われてしまいます。
癒着が問題になる背景
事業承継・引継ぎ支援センターは国の支援制度の一環として設置されており、相談自体は無料で行われます。しかし運営に携わる人材は地域の商工会議所職員や銀行OB、士業関係者など多岐にわたり、その人脈やバックグラウンドが案件紹介の流れに影響することがあります。
- 銀行OBが過去の勤務先に案件を流す
- 大手仲介会社ばかりを優先的に紹介する
- 売主の意向よりも「紹介しやすい相手」を優先する
このような行動は表向きには「経験豊富な人材による判断」と見えるかもしれません。しかし売主からすれば、選択肢が偏ることで結果的に不利な条件を受け入れざるを得なくなる危険があります。
信頼できるデータや制度の観点
中小企業庁が策定した「中小M&Aガイドライン(第3版)」でも、仲介会社やFAは利益相反の可能性に注意し、透明性を確保することが求められています。これはまさに、癒着が起こり得る現実を前提として制度的に警鐘を鳴らしているといえます。さらに、金融庁の統計でも中小企業のM&Aは年々増加しており、その中で仲介手数料の高さや契約トラブルが社会問題化していることが報告されています。つまり、制度面でもデータ面でも「癒着や不透明さへの懸念」が共通の課題として指摘されているのです。
具体的な実例
例えば、ある食品加工会社のオーナーが引継ぎ支援センターに相談した際、本来であれば複数のM&A業者から選べるはずが、担当者から特定の大手仲介会社1社のみを紹介されました。結果的にその会社と契約しましたが、提示された最低報酬額は800万円以上と高額で、最終的に売却価格の1割以上を手数料として支払うことになったのです。オーナーは後に、他の仲介会社であれば半分以下の手数料で済んだ可能性があったことを知り、大きな後悔を抱えました。
別の例では、担当者が古巣の銀行に案件を流し、銀行系のM&A子会社が優良案件を独占的に取り扱った事例も報告されています。この場合、売主には「複数の選択肢を比較検討する機会」そのものが与えられませんでした。
まとめとしての視点
事業承継・引継ぎ支援センターは本来、中立性を保ちつつ中小企業の未来を支援する存在であるべきです。しかし、担当者の経歴や関係性によっては「癒着」と見える動きが生じ、結果的に売主の利益を損なう可能性があります。中小企業庁のガイドラインや制度もこうしたリスクを前提に整備されています。だからこそ経営者は「公的機関に任せれば安心」と盲信せず、自ら情報を集め、紹介された業者の条件や手数料を比較検討する姿勢が欠かせません。
次章以降では、事業承継・引継ぎ支援センターの仕組みや役割、実際にどのような流れでM&A業者が紹介されるのかをさらに具体的に解説していきます。
2. 事業承継・引継ぎ支援センターとは?仕組みと役割
事業承継・引継ぎ支援センターは、中小企業庁が全国に設置を進めている公的な相談窓口です。中小企業のオーナーが「後継者がいない」「親族に引き継ぐのが難しい」といった課題を抱えたときに、安心して相談できる場所として運営されています。公的機関が主体となっているため相談は無料で、悪質なブローカーや不透明な仲介業者に比べれば信頼性が高い仕組みだといえます。しかし、その一方で「誰がどのように案件を取り扱うのか」「なぜ特定の業者が紹介されるのか」という不透明さが残る点もあり、利用する際には仕組みを理解しておくことが重要です。
2.1 無料で相談できる公的窓口の実態
まず大前提として、事業承継・引継ぎ支援センターの最大の特徴は「無料で相談できる」点です。通常、M&A仲介会社やFAに初めて相談すると、着手金やコンサルティング料が数十万円単位で発生するケースが多く見られます。しかし、支援センターは国や地方自治体が関わっているため、相談者は費用を負担せずに利用できます。
センターの役割は大きく分けると以下の3つです。
- 親族内承継や第三者承継に関する相談対応
- 後継者不在企業と承継希望者(買い手候補)とのマッチング支援
- 専門家(士業やM&A業者)への紹介や連携
中小企業庁が公表している「事業承継・引継ぎ支援センター事業の概要」によると、全国47都道府県に最低1か所以上設置されており、令和4年度の利用件数は年間で4万件を超えています。つまり、中小企業の経営者にとって「誰に相談してよいかわからない」という不安を解消する最初の窓口としての役割を果たしているのです。
一方で、相談員の多くは商工会議所の職員、税理士や中小企業診断士、あるいは銀行OBといった人材で構成されています。そのため、相談者の立場からすれば「中立的な専門家に話を聞いてもらえる」と安心できますが、裏を返せば「相談員の経歴や所属によって紹介される業者が偏る可能性がある」点も否めません。
実際に利用した経営者の声
例えば、ある地方都市の製造業のオーナーは「費用がかからず気軽に相談できたので安心した」と語る一方で、「最初から特定の大手M&A仲介会社だけを勧められた」と違和感を抱いたといいます。無料であるがゆえにハードルは低いものの、相談員の人脈や考え方によって紹介先が限定されることがあるのです。
2.2 業者紹介までの流れとプラットフォームの仕組み
事業承継・引継ぎ支援センターのもう一つの重要な機能は「M&A業者や買い手候補との橋渡し」です。センターに相談が持ち込まれると、以下のような流れで業者や買い手が紹介されるケースがあります。
- 売主(相談者)が後継者不在の課題を相談
- センター内で案件概要を整理し、社名を伏せた形で「プラットフォーム」に登録
- 登録しているM&A業者や金融機関がプラットフォームを閲覧し、興味があればオファー
- 複数のオファーが集まった場合、相談者が業者と面談し、最終的に依頼先を選択
この「プラットフォーム」は、不動産業界でいう「レインズ」に似た仕組みです。売却希望企業の名前は匿名化され、登録している業者だけが情報を確認できます。一般公開されていないため情報漏洩のリスクが低く、売主のプライバシーが守られる点はメリットといえます。
問題点としての不透明さ
ただし、この仕組みには課題もあります。本来であればすべての案件が公平にプラットフォームへ登録されるべきですが、実際には「優良案件が特定業者にだけ直接紹介され、プラットフォームに掲載されない」というケースもあると指摘されています。これは、相談員の裁量や人脈が影響している場合もあり、「公的機関だから必ず公平」という保証にはつながらないのです。
具体的な事例
ある食品関連企業のオーナーは、支援センターに相談した際に「複数のM&A業者から選べる」と説明を受けたものの、実際には1社だけを紹介されました。その後、独自に情報を集めてみたところ、同じ地域で他にもM&A業者が多数存在しており、紹介先が偏っていたことに気づいたそうです。このように、仕組みそのものは公平に見えても、実務の現場では「誰がどう運用するか」によって結果が変わるのです。
まとめとしての視点
事業承継・引継ぎ支援センターは、中小企業経営者が無料で相談できる心強い窓口であり、多くの利用実績を持つ仕組みです。しかし、業者紹介の流れやプラットフォームの実態には不透明な部分もあり、必ずしも売主にとって最善の結果が得られるとは限りません。だからこそ、相談する際には「どのような仕組みで業者が選ばれるのか」を理解し、自分自身でも情報収集を行うことが大切です。これによって、公的機関の支援を活用しながらも、不利益を避けた冷静な判断ができるようになるのです。
3. 実際にある?特定のM&A業者ばかり紹介されるケース
事業承継・引継ぎ支援センターは中小企業のオーナーにとって心強い相談窓口ですが、「なぜか特定のM&A業者ばかりを紹介される」という声も少なくありません。本来であれば複数の選択肢を公平に提示すべきところが、実際には偏りが生じることがあるのです。これは相談者にとって大きな不利益につながる可能性があり、その背景や仕組みを理解しておくことが重要です。
3.1 案件がプラットフォームに載らない理由
事業承継・引継ぎ支援センターでは、全国で共有されるプラットフォームに案件を匿名で登録し、登録済みのM&A業者がオファーできる仕組みがあります。これにより透明性と公平性が保たれるはずですが、実際にはすべての案件が必ず登録されるわけではありません。
- 売主の意思がまだ固まっていないとして登録を見送る
- 「優良案件は一部の信頼できる業者に直接紹介した方がよい」と判断される
- 担当者の裁量で「扱いやすい案件」と「扱いにくい案件」を振り分ける
こうした運用の結果、売主が知らないところで案件が絞り込まれ、実際には広く公開されていないことがあります。中小企業庁の公表資料でも、センター経由の成約件数は毎年増えている一方、地域ごとに案件登録数や紹介の仕方にバラつきがあることが確認されています。つまり制度としては公平性を重視していても、現場レベルでは「情報の非対称性」が起きているのです。
実例
ある地方の製造業オーナーはセンターに相談した際、案件をプラットフォームに載せてもらえなかった結果、1社のみを紹介されました。ところが後日、同業の経営者が複数社からオファーを受けていたことを知り、「なぜ自分の案件は選択肢が少なかったのか」と不信感を抱いたのです。このように、案件が表に出ないことで本来の競争原理が働かなくなる事例があります。
3.2 担当者裁量や銀行OBの影響
支援センターの担当者は商工会議所職員や士業、さらには銀行OBなどが務めるケースが多く見られます。経験豊富な人材がサポートしていることは心強いですが、その人脈や経歴が紹介先に影響を与えることもあります。
特に銀行OBの場合、かつての勤務先や取引銀行との関係性を優先して案件を流すケースが指摘されています。たとえば、地元銀行系のM&A子会社や提携仲介会社を優先的に紹介することで、他の業者が排除されてしまうのです。
実際に、中小企業庁が公表している「事業承継・引継ぎ支援事業の実績報告」においても、案件紹介の多くが地元金融機関を経由していることが明らかになっています。これは金融機関が地域ネットワークを持つという強みの裏返しでもありますが、一方で「選択肢が銀行関連の業者に偏っているのではないか」という懸念を招いています。
実例
食品卸会社のオーナーが相談したケースでは、担当者が銀行OBであり、その案件は古巣の銀行グループに直行しました。その結果、複数の仲介会社に打診されることなく、銀行系列の仲介子会社だけが案件を取り扱うことになったのです。オーナーは「他にもっと条件の良い買い手があったのではないか」と疑念を持ち、後悔したと語っています。
3.3 大手仲介会社ばかりが優遇される実情
もう一つの特徴は、大手M&A仲介会社が紹介先として優遇されやすいという点です。理由としては、
- 大手は知名度が高く「安心感」があると判断されやすい
- 案件処理能力が高く、センターとしても「任せやすい」
- 担当者自身が大手との繋がりを持っている
しかし、大手仲介会社は最低報酬額が高く設定されていることが多く、中小企業にとっては過大なコスト負担となりがちです。例えば、中小企業庁が2021年に公表した「M&A支援機関の登録実績」によると、大手仲介会社の最低報酬は1,500万円~2,500万円に設定されていることが一般的です。売却価格が1億円に満たないような小規模案件であっても、この金額が請求される可能性があるのです。
実例
地方のサービス業オーナーがセンター経由で紹介されたのは、大手仲介会社3社でした。どの会社も最低報酬額が800万円以上で、結果的に「手数料が重くて売却益が減った」と後悔することになりました。オーナーは後に、地元の独立系FAに相談すれば半分以下の手数料で済んだ可能性があったことを知り、制度の限界を痛感しました。
まとめとしての視点
このように、案件がプラットフォームに載らなかったり、担当者の裁量や銀行OBの影響で特定の業者に流れたり、大手仲介会社ばかりが優遇される実情があります。表向きには中立的な仕組みを掲げていても、実務の現場では偏りが生じやすいのが現実です。売主にとって重要なのは「紹介された業者だけが全てではない」と理解し、自らも複数の選択肢を探す姿勢を持つことです。それによって、不透明な癒着構造に巻き込まれるリスクを避け、公平な条件でM&Aを進める可能性を高められるのです。
4. 癒着が売主に与えるデメリット
事業承継・引継ぎ支援センターを経由してM&Aを進める際、本来であれば中立的で公平な支援が期待されます。しかし、もし担当者と特定のM&A業者や金融機関との間に癒着が存在すれば、売主にとって深刻な不利益が生じる可能性があります。以下では、癒着が生む具体的なデメリットを3つの側面から整理して解説します。
4.1 不必要な高額手数料を払わされるリスク
最も直接的なデメリットは、通常よりも高額な手数料を支払わされるリスクです。大手M&A仲介会社の場合、最低報酬額が1,500万円~2,500万円程度に設定されていることが多く、小規模なM&A案件でも一律で高額な報酬が発生します。中小企業庁が公表している「M&A支援機関登録制度における実績報告」でも、大手仲介会社は最低報酬を高めに設定している傾向が確認されています。
例えば、売却価格が3,000万円程度の案件であっても、最低報酬800万円を請求されるケースがあります。これは売却価格の20〜30%に相当し、適正水準とされる5〜10%の成功報酬を大きく上回ります。つまり、癒着によって特定の高額業者ばかり紹介されれば、売主は相場よりも不当に高いコストを強いられるのです。
実例
地方のサービス業を営む経営者がセンター経由で紹介されたのは大手仲介会社のみで、提示された最低報酬額は一律800万円でした。最終的に売却金額は4,000万円でしたが、報酬率に換算すると20%を超え、オーナーは「売却してもほとんど手元に残らなかった」と強い不満を抱いたといいます。後日、他の独立系FAであれば半額程度で済んだ可能性があったことを知り、癒着の影響を痛感しました。
4.2 選択肢が狭まり有利な条件で売れない可能性
癒着のもう一つの弊害は、売主に与えられる選択肢が不当に狭められることです。本来、売主は複数のM&A業者や買い手候補から条件を比較し、最も有利な相手を選ぶべき立場にあります。しかし、センター担当者が一部の業者や金融機関に案件を集中させれば、売主は「限られた選択肢」の中からしか決断できなくなります。
その結果、本来であればより高値で買ってくれる買い手や、従業員の雇用を守ってくれる良質な相手と出会える可能性を失うリスクがあるのです。これは売却条件だけでなく、会社の将来や従業員の待遇にも影響するため、経営者にとっては極めて大きな不利益となります。
実例
ある製造業のオーナーは、支援センターを通じて紹介された1社のみに案件を依頼しました。しかし、成約後に独自調査を行ったところ、同業他社が2倍近い価格で買収に興味を示していたことが判明しました。もし複数業者に案件が公開されていれば、より有利な条件で会社を譲渡できた可能性が高かったのです。この事例は、癒着による「選択肢の制限」が具体的な損失につながる典型例といえます。
4.3 信用していた担当者に裏切られる心理的負担
M&Aは会社の将来だけでなく、経営者自身の人生に直結する重大な意思決定です。その過程で支援センターの担当者や紹介業者を「信頼できるパートナー」と考えるオーナーも少なくありません。しかし、もしその担当者が癒着によって偏った紹介をしていた場合、売主は「裏切られた」という強い心理的ショックを受けます。
これは金銭的な損失以上に精神的なダメージを与えることがあり、M&Aそのものに対する不信感につながります。また、経営者が「もう誰も信用できない」と感じてしまえば、適切な判断ができなくなり、結果として取引の質がさらに悪化するリスクもあります。
実例
地方の建設業を営んでいたオーナーは、長年相談に乗ってくれていた担当者を信じてM&Aを進めました。しかし後になって、その担当者が特定の業者から紹介料を受け取っていたことを知りました。オーナーは「会社を譲渡したこと自体よりも、信じていた人に裏切られたことの方が辛かった」と語っており、心理的な負担の大きさを物語っています。
まとめとしての視点
癒着が売主に与えるデメリットは、単にコストが高くなるという金銭面の問題にとどまりません。過大な手数料の支払い、選択肢の制限による不利な条件、さらには信頼関係の崩壊による精神的ダメージまで、複合的な影響を及ぼします。公的機関を経由しているからといって必ずしも公平とは限らないため、売主自身が情報を集め、紹介先を鵜呑みにせず比較検討することが不可欠です。これにより、癒着による不利益を最小限に抑え、公正で納得のいくM&Aを実現できるのです。
5. M&A業界と不動産業界の比較から見える構造的問題
M&A業界における「癒着問題」や「情報の偏り」を考える上で、不動産業界との比較は非常に参考になります。不動産取引は一般消費者にとっても身近であり、その取引構造は長年の課題と制度改革を経て透明性を高めてきました。一方、M&A業界はまだ法整備や業界ルールが十分に成熟していない分野です。そのため、情報の独占や仲介会社の恣意的な行動が売主に不利益をもたらすケースが残っています。ここでは、不動産業界の「レインズ」と呼ばれる仕組みと比較しながら、M&A業界に潜む構造的な問題を整理します。
5.1 不動産「レインズ」との違い
不動産業界では、物件情報を公平に流通させるために「レインズ(Real Estate Information Network System)」という仕組みが導入されています。これは国土交通省が指定する不動産流通機構が運営するデータベースで、不動産会社が受託した物件を登録することが義務付けられています。これにより、物件情報は業界全体で共有され、特定の会社だけが独占的に情報を扱うことを防いでいるのです。
一方、M&A業界には不動産のレインズに相当する「完全義務的な情報共有システム」は存在しません。事業承継・引継ぎ支援センターには一部で「プラットフォーム」が導入されていますが、以下の点でレインズと大きな違いがあります。
比較項目 | 不動産業界(レインズ) | M&A業界(支援センタープラットフォーム等) |
---|---|---|
登録義務 | 宅建業法で義務付け | 登録は任意、未登録案件も多数 |
公開範囲 | 全国の不動産会社で共有 | 登録業者間のみ、一部非公開 |
情報の公平性 | 物件情報は基本的に全社に開示 | 担当者裁量で特定業者のみ紹介される場合あり |
法的規制 | 宅建業法による厳格な規制 | M&Aに明確な法律規制は存在せず |
この違いから、不動産業界では「業者による情報の囲い込み」が抑制されやすい一方、M&A業界では「案件が特定業者にだけ流れる」温床が残っているのです。つまり、M&A業界はまだ情報の透明性や公平性に欠け、売主にとって選択肢が狭められるリスクが高いといえます。
実例
ある製造業のオーナーが事業承継・引継ぎ支援センターに相談した際、プラットフォームに案件を登録してもらえず、特定の仲介会社にのみ直接紹介されました。後日、同じ地域の別のオーナーが複数業者からオファーを受けていることを知り、「なぜ自分の案件は公開されなかったのか」と疑念を抱いたのです。これは、不動産業界のレインズのような義務的共有システムがM&Aに存在しないことによる弊害の典型です。
5.2 M&Aでは法整備が追いついていない現状
M&A業界は不動産業界に比べて規模が小さく、取引件数も限られてきたため、法的なルールや規制が十分に整備されていません。中小企業庁は「中小M&Aガイドライン」を策定し、適切な仲介・FA業務を行うよう指針を示していますが、これはあくまで自主的な遵守を促すものであり、法的拘束力はありません。
一方、不動産業界は宅建業法によって以下のような厳しいルールが課されています。
- 物件情報の登録義務
- 媒介契約の種類と説明義務
- 手数料の上限規制
- 重要事項説明義務
これに対して、M&A業界では以下の課題が残されています。
- 仲介手数料に法的上限がなく、高額な最低報酬を設定しても違法ではない
- 案件情報の登録義務がなく、優良案件が一部の業者に囲い込まれる
- 利益相反を避けるための明確な規制が存在しない
- トラブルが発生した際も消費者保護法の対象外となることが多い
このように、M&A業界は法整備が不十分なため、売主は自己防衛の意識を持たなければなりません。中小企業庁のデータでも、M&Aを経験した中小企業の経営者の約3割が「仲介手数料が高い」「条件が不透明」と回答しており、制度の未成熟さが浮き彫りになっています。
実例
ある飲食業のオーナーは、センターを通じて紹介された仲介会社に依頼したところ、成功報酬に加えて数百万円の「コンサルティング料」が請求されました。法律で明確に禁止されているわけではないため支払わざるを得ず、結果的に売却益が大幅に減ってしまったのです。この事例は、M&A業界におけるルールの未整備が売主に負担を押し付ける典型例といえます。
まとめとしての視点
不動産業界は長年の問題を制度改革で克服し、レインズや宅建業法によって情報の公平性と透明性を高めてきました。一方、M&A業界は制度が未成熟であり、案件の囲い込みや高額手数料といった課題が温存されています。売主にとって重要なのは、「公的機関を経由しているから安心」と思い込まず、制度の限界を理解し、自らも情報収集と比較検討を徹底することです。これにより、不透明な構造的問題に振り回されず、納得のいくM&Aを実現する可能性が高まります。
6. 売主が癒着リスクを避けるためのチェックポイント
M&Aを進める際に、事業承継・引継ぎ支援センターを活用することは有効ですが、必ずしもすべてが公平に進むとは限りません。もし担当者と特定の業者や金融機関に癒着がある場合、売主にとって不利益を被る可能性があります。そこで重要なのは、売主自身が自衛の視点を持ち、適切なチェックポイントを意識することです。ここでは、具体的にどのような点に注意すべきかを整理します。
6.1 紹介された業者の手数料水準を比較する
まず確認すべきは「紹介されたM&A業者の手数料体系」です。仲介会社によって手数料水準は大きく異なり、大手仲介会社では最低報酬が1,500万円~2,500万円に設定されている場合が多く見られます。一方、独立系のFA(ファイナンシャルアドバイザー)では、案件規模に応じた柔軟な報酬体系を採用しているケースもあります。
中小企業庁が公表する「M&A支援機関登録制度に関する実績報告」では、仲介手数料に関するデータが示されており、最低報酬の有無や料金水準が業者ごとに異なることがわかります。売主はこの情報を活用して、提示された条件が妥当かどうかを必ず比較検討すべきです。
- 紹介業者が全て大手仲介会社の場合 → 高額手数料のリスクあり
- 複数業者の見積もりを取得 → 相場感の把握が可能
- 報酬体系を一覧表にして比較 → 不透明なコストを回避
実例
ある地方のサービス業オーナーは、支援センターから大手仲介会社のみ紹介され、最低報酬800万円を提示されました。しかし、独自に探した独立系FAからは300万円の見積もりが出され、結果的に費用を大幅に抑えることができました。この事例は、紹介業者の条件をそのまま受け入れるのではなく、自ら比較検討する重要性を示しています。
6.2 セカンドオピニオンを取る重要性
M&Aの意思決定では「セカンドオピニオン」を活用することが非常に有効です。医療の世界で病気の診断を複数の医師に確認するのと同じで、M&Aでも複数の専門家から意見を得ることで、偏った提案や癒着の影響を排除できます。
特に支援センターを経由して紹介された業者の条件に疑問を感じた場合、第三者のM&Aアドバイザーや弁護士に相談することが望ましいです。中小企業庁もガイドラインの中で「経営者が複数の専門家から意見を聞くことの重要性」を明記しています。これにより、売主は自分の立場を客観的に評価でき、損をする可能性を大きく減らせます。
- 提示された手数料水準が妥当かを第三者に確認する
- 契約条件にリスクが潜んでいないかを法的にチェックする
- 複数の買い手候補を提示できるかどうかを比較する
実例
建設業のオーナーが支援センターから紹介された業者と契約を進めようとしましたが、顧問弁護士に確認してもらったところ「テール条項」が不利に設定されていることが発覚しました。セカンドオピニオンを得たことで条件を修正でき、結果的にトラブルを回避できたのです。
6.3 中小M&Aガイドラインを活用する
中小企業庁が策定した「中小M&Aガイドライン(第3版)」は、売主が自衛するための大きな武器となります。このガイドラインは、仲介やFAが守るべきルールや透明性確保の原則を明示しており、売主が「何を基準に業者を評価すればよいか」を理解する手助けになります。
例えば、ガイドラインには以下のような項目が含まれています。
- 利益相反の可能性を明示する義務
- 手数料体系を事前に明確化すること
- 契約条項(テール条項など)の適切な取り扱い
- 売主に不利益を与えるような情報操作の禁止
このガイドラインは法的拘束力はないものの、支援センターや登録業者は基本的に遵守を求められています。売主は「ガイドラインに沿った取引が行われているか」を常に意識することで、不透明な取引を見抜く力を高められます。
実例
食品加工業のオーナーは、契約交渉の際に仲介業者に対し「中小M&Aガイドラインに沿って利益相反への対応を明記してください」と求めました。その結果、当初は曖昧だった契約条件が明文化され、透明性の高い取引を実現できました。制度を理解し活用することで、売主は自ら交渉力を持つことができるのです。
まとめとしての視点
売主が癒着リスクを避けるためには、単に「公的機関だから安心」と思い込むのではなく、自らチェックする姿勢が不可欠です。紹介された業者の手数料水準を比較し、必ずセカンドオピニオンを取り入れ、さらに中小M&Aガイドラインを活用して透明性を担保することが重要です。これらを実践することで、売主は不透明な取引に巻き込まれるリスクを減らし、納得のいくM&Aを進めることができるのです。
7. 信頼できるM&Aパートナーを選ぶ方法
M&Aの成功を大きく左右するのは、どのようなパートナーを選ぶかという点です。事業承継・引継ぎ支援センターを利用する場合でも、最終的に実務を担うのは仲介会社やFAであり、その質によって結果が大きく変わります。特に癒着のリスクを避けたい場合、パートナー選びで重視すべき観点を理解しておくことが欠かせません。ここでは、仲介とFAの違い、専門性や透明性の見極め方、さらに誠実な対応かどうかを判断する具体的な質問例について解説します。
7.1 仲介とFAの違いを理解する
まず最初に理解すべきなのは、「仲介」と「FA(ファイナンシャルアドバイザー)」の違いです。どちらもM&Aをサポートする立場ですが、利害関係や報酬体系が異なるため、売主にとってのメリット・デメリットも変わります。
項目 | 仲介 | FA(ファイナンシャルアドバイザー) |
---|---|---|
立場 | 売り手と買い手の双方を仲介 | 売り手または買い手のどちらか一方を専属で支援 |
利益相反リスク | 双方の利益を調整する必要があり、利益相反の懸念がある | クライアントの利益を最優先で守る立場 |
報酬体系 | 成功報酬が中心、最低報酬額が高めに設定されることが多い | 着手金やリテイナーフィー+成功報酬など、柔軟に設定されることが多い |
案件規模 | 比較的大規模案件向き | 中小企業やスモールM&Aにも対応しやすい |
売主として重要なのは、自分の案件規模や目的に合ったスタイルを選ぶことです。大規模で多くの買い手候補を募りたい場合は仲介も有効ですが、売主の利益を最大限に守りたい場合はFAの方が安心できるケースが多いです。
実例
ある製造業のオーナーは仲介会社に依頼したところ、買い手候補との価格交渉で中立的な立場を取られ、「もっと高く売りたい」という希望が十分に反映されませんでした。その後、別の案件でFAに依頼した際は、売主専属で徹底的に交渉してくれた結果、希望額に近い条件で成約できたというケースがあります。
7.2 経験・専門性・透明性を確認する
次に大切なのは、パートナーとなる業者の経験・専門性・透明性を確認することです。M&Aは業界によって事情が大きく異なるため、経験豊富なアドバイザーでなければ適切な提案ができません。また、手数料や契約条件が不透明な場合、癒着や過剰請求のリスクが高まります。
確認すべきポイントは以下の通りです。
- 過去にどのような案件を扱った経験があるか(特に同業種の実績)
- 中小企業庁の「M&A支援機関登録リスト」に登録されているか
- 手数料体系や最低報酬額が明確に提示されているか
- 利益相反を避けるための仕組みを持っているか
特に「透明性」の有無は重要です。契約前に見積書や手数料の算定基準を提示してくれる業者であれば信頼性が高いといえます。
実例
食品加工業のオーナーは、最初に相談した業者から「成功報酬は成約価格の◯%」としか説明を受けず、最低報酬額の存在を知らされませんでした。後から800万円の請求があり驚いたそうです。その後、別の業者に相談した際には、料金体系を表形式で説明してくれたため安心感があり、最終的に後者を選んで成功したという事例があります。
7.3 誠実な対応かどうかを見極める質問例
最後に、業者が誠実に対応しているかを見極めるために、売主自身が適切な質問をすることが大切です。曖昧な回答や回避的な態度が見られた場合、その業者は避けるべきです。以下のような質問例を参考にしてください。
- 手数料の内訳と最低報酬額を具体的に教えていただけますか?
- 過去に私の業種で支援した事例はありますか?
- 利益相反が起きた場合、どのように対応しますか?
- 契約解除の条件について明確に説明していただけますか?
- 中小M&Aガイドラインに沿った対応をされていますか?
これらの質問に対して誠実に回答できる業者であれば信頼性が高いといえます。逆に、回答を濁したり「契約してから説明します」といった態度を取る場合は要注意です。
実例
ある小売業のオーナーは、複数の業者に「契約解除の条件」を質問しました。その際、一部の業者は「解除はできません」と強硬な態度を示しましたが、信頼できるFAは「合理的な理由があれば解除できますし、違約金は不要です」と明確に回答しました。最終的に後者を選んだことで、安心して交渉を進められたといいます。
まとめとしての視点
M&Aパートナーを選ぶ際には、仲介とFAの違いを理解し、業者の経験・専門性・透明性を確認したうえで、誠実な対応かどうかを見極めることが不可欠です。これらを徹底することで、癒着リスクを避け、納得のいくM&Aを実現する可能性が高まります。売主にとって最大のリスク回避策は「正しい知識を持ち、主体的に判断すること」であるといえるでしょう。
まとめ
事業承継・引継ぎ支援センターは便利な公的機関ですが、担当者や業者の選定に癒着の可能性がある以上、売主自身が主体的に判断する姿勢が欠かせません。本記事を通じて、癒着リスクを避けるための基本的な視点を整理しました。
- 業者の手数料体系を必ず比較する
- セカンドオピニオンを必ず取る
- ガイドラインを活用して透明性を確保
こうした視点を持つことで、不利益を避けつつ安心してM&Aを進められます。詳しく知りたい方は、ぜひアーク・パートナーズまでお問い合わせください。
