地方企業でも会社は売れる!|赤字・借金ありでもM&Aが成立した実例と学び
「地方の田舎にある会社でも本当に売れるのか?」「赤字や借金があってもM&Aは可能なのか?」
そんな疑問や不安を抱えていませんか?
本記事では、実際に北陸地方の設計会社が会社売却に成功した事例をもとに、地方企業M&Aの可能性を具体的に解説します。
■本記事を読むと得られること
- 赤字・借金があってもM&Aが成立する理由がわかる
- 買い手企業が地方会社を評価する視点が理解できる
- 地方企業が売却を成功させるためのポイントが学べる
■本記事の信頼性
筆者はM&Aアドバイザー歴10年以上、200件以上の案件に関与し、中小企業庁登録M&A支援機関として活動しています。専門性・誠実性・スピードを重視し、中小企業の事業承継支援に実績を持っています。
この記事を読むことで「地方だから会社は売れない」と思い込む必要がなくなり、買い手が評価する要素を理解したうえで、あなたの会社を次世代につなぐための一歩を踏み出せるはずです。ぜひ最後までご覧ください。

1. はじめに|地方の会社は本当に売れるのか?
「地方にある会社は売れないのではないか」「赤字や借金を抱えていたら、誰も引き受けてくれないのではないか」――地方の経営者や後継者がいないオーナーから、こうした声を聞くことは少なくありません。しかし結論からお伝えすると、地方の会社でもM&Aは十分に成立する可能性があります。条件が厳しく見えても、買い手企業のニーズと合致すれば取引は成立し、むしろ都市部よりも魅力的に映るケースすらあります。
なぜなら、企業買収の目的は単純に利益を追うだけでなく、拠点の確保、人材の獲得、地域での事業基盤の強化など、多様な要素が絡み合っているからです。特に公共工事や地域限定事業に関しては、地元に拠点を持つことが入札条件になる場合もあり、「地方にある」ということ自体が強みになり得ます。
中小企業庁が2023年に公表した「中小企業白書」では、日本の中小企業のうち約3分の2が後継者不在の課題を抱えていると示されています。さらに、東京商工リサーチの調査によると、2022年に休廃業・解散した企業は約5万6000件に達し、その多くが地方の中小企業でした。しかし一方で、帝国データバンクのM&A動向調査では、地方を含む中小企業のM&A件数は年々増加していることも明らかになっています。
例えば、ある地方の建設会社や製造業が赤字や借入金を抱えていても、買い手企業が「その地域で事業展開を強化したい」「特定の技術や人材を獲得したい」と考えている場合、売却の可能性は十分にあります。都市部から遠い場所に立地していることや、従業員の高齢化といった課題があっても、それを逆に「地域での信頼関係が築けている」「熟練の技術者がそろっている」と評価されることもあるのです。
実際に、赤字続きの地方旅館が大手観光業者に買収され、地域の観光拠点として再生した例や、借入金の多い製造業が海外資本に引き継がれて事業拡大を果たした事例もあります。これらは「地方だから売れない」という固定観念を覆すものであり、条件次第で魅力的な取引が実現できることを示しています。
このように、地方企業であってもM&Aは決して不可能ではなく、むしろ時代の流れにおいては重要な選択肢となっています。廃業という選択肢しかないと感じる経営者にとっても、M&Aは従業員の雇用や取引先との関係を守りながら事業を承継する有力な手段です。本記事を通じて、地方企業がどのようにして会社を売却できるのか、またその背景にある成功要因について具体的に見ていきましょう。
2. 事例紹介:北陸地方の設計会社がM&Aを検討した背景
北陸地方の主要都市から車で1時間ほど離れた地域に、本記事の事例となる設計会社がありました。この会社は長年、公共工事に関する設計業務を主軸としてきましたが、経営者の高齢化や借入金の増加、さらに外部環境の変化によって将来の存続が危ぶまれる状況となっていました。ここでは、経営判断として会社売却を検討するに至った3つの背景について詳しく解説します。
2-1. 経営者の高齢化と後継者不在
まず大きな要因となったのが、経営者の年齢と後継者問題です。この設計会社の経営者は65歳を超えており、体力面や健康面で今後も経営を続けるのは難しいと感じ始めていました。しかし、身近に会社を引き継ぐ後継者はいませんでした。日本全体で見てもこの課題は深刻です。
中小企業庁の「中小企業白書2023年版」によれば、中小企業経営者の平均年齢は60歳を超えており、約6割の経営者が「後継者がいない」と回答しています。これは特に地方の企業で顕著で、都市部と比較して後継者候補となる子ども世代が都市に流出する傾向が強いためです。
この会社でも同様に、子ども世代は地元を離れて都市部で仕事をしており、親の事業を引き継ぐ意向はありませんでした。そのため経営者は「このまま続ければ廃業に追い込まれる」と考え、M&Aによる承継を模索するようになったのです。
- 経営者の高齢化による体力・判断力の低下
- 後継者候補の不在(都市部への人口流出)
- 廃業すれば従業員や取引先に大きな影響が出る
これらの理由から、M&Aを「会社を守るための現実的な選択肢」として検討し始めたのです。
2-2. 財務状況(借入金・低収益)
次に、財務状況の悪化が大きな懸念材料でした。この会社は年間売上高こそ約2億円を維持していましたが、利益率は非常に低く、慢性的な赤字状態に陥っていました。さらに1億円を超える借入金を抱えており、財務的な余裕はほとんどありませんでした。
中小企業庁が示すデータでも、地方の中小建設関連企業は収益率が全国平均を下回る傾向にあり、資金繰りの厳しさが経営課題として常に上位に挙げられています。特に公共工事に依存する企業は価格競争が激しく、利益率が低いことが多いのです。
この会社でも、銀行からの借入金返済が毎月の大きな負担となっており、新規投資や人材採用に充てる余裕はありませんでした。結果として従業員の高齢化が進み、新技術の導入にも遅れが生じていました。
年度 | 売上高 | 営業利益 | 借入金残高 |
---|---|---|---|
2020年度 | 約2億円 | ▲500万円 | 1億円超 |
2021年度 | 約2億円 | ▲300万円 | 1.1億円 |
2022年度 | 約2億円 | ▲200万円 | 1.2億円 |
このように売上は一定規模を保っているものの、借入金は増加傾向にあり、利益はほぼ出ていませんでした。こうした財務状況は廃業を選べば債務整理や自己破産につながる可能性もあり、M&Aでの承継に活路を見出そうとしたのです。
2-3. 外部環境の変化(公共工事減少)
さらに大きな環境要因として、公共工事の減少がありました。国土交通省の統計によれば、地方の公共工事発注件数は年々減少傾向にあり、特に地方の小規模建設業者にとっては受注機会が限られてきています。案件数が減るだけでなく、発注される案件も高度な技術や新しい基準への対応が求められるものが増えているのです。
この設計会社でも、従来のように比較的単純な設計業務だけでは受注が難しくなり、新技術や高度な知識が必要とされる案件に対応せざるを得ない状況になっていました。しかし従業員の多くは40代後半から60代と高齢化しており、新しい技術を習得していくには大きな負担がありました。その結果、案件を取りこぼすことも増えていきました。
- 公共工事件数の減少による受注機会の縮小
- 高度な設計技術やICT活用が求められる傾向
- 従業員の高齢化による対応力の低下
こうした外部環境の変化は一企業の努力だけでは解決できず、構造的な問題となっていました。まさに「地方にあること」「公共工事依存」という要素が重なり、経営の将来性に大きな不安を生んでいたのです。
まとめ
このように、北陸地方の設計会社がM&Aを検討した背景には、経営者の高齢化と後継者不在、借入金を抱えた低収益体質、そして公共工事減少という外部環境の変化がありました。いずれも地方の中小企業に共通する課題であり、放置すれば廃業や倒産につながるリスクを抱えています。しかし同時に、これらの状況は「M&Aによってこそ解決できる課題」でもあり、実際にこの会社も売却によって新しい道を切り開くことになりました。次章では、具体的にどのようにして買い手企業が現れ、M&Aが成立したのかを見ていきます。
3. 売却は困難?「地方×借金×小規模」の三重苦
地方企業がM&Aを検討する際に多くの経営者が感じるのは「うちの会社は条件が悪いから売れないのでは」という不安です。特に、地方立地・借金負担・企業規模の小ささという3つの要素が重なると、どうしても売却は難しいと考えがちです。しかし実際には、これらは絶対的な障害ではなく、見方によっては買い手企業にとっての「魅力」となる場合もあります。
地方立地による不利と有利の両面
まず、地方に立地している企業は「都市部から遠い」という点で敬遠されることがあります。交通の便が悪く、顧客基盤が限られているため、事業拡大が難しいと感じられるからです。しかし一方で、地方ならではの強みも存在します。例えば、国土交通省の「入札契約適正化法に基づく実施状況調査」によると、公共工事の発注では地元に拠点を持つ企業が有利になる制度が各地で導入されています。これは、災害対応や地域密着性を重視する観点から設けられている制度です。
- 都市部から遠い → 顧客の新規獲得は限定的
- 地方に拠点がある → 公共工事の入札で加点要素
- 地元ネットワーク → 既存取引先との信頼関係が強い
つまり、地方立地はマイナス要素だけでなく、買い手にとって「その地域での足場を築く絶好のチャンス」ともなり得ます。
借金の存在と買い手の評価
次に借金の問題です。中小企業庁のデータでは、日本の中小企業の約6割が何らかの借入を抱えており、特に地方の建設業や製造業では借入金依存度が高い傾向にあります。借入金があると「売却は不可能」と思いがちですが、実際には負債ごと引き継ぐ形でM&Aが成立するケースは少なくありません。
買い手企業の視点では、借入金の存在は「その企業の信用力の裏返し」とも考えられます。金融機関からの融資が受けられているということは、それだけ地域で事業を継続してきた証拠であり、事業基盤がゼロではないことを意味するからです。特に、買い手側が資本力のある中堅・大手企業であれば、負債承継を条件に買収を成立させ、将来的に利益を回収するという戦略を取ることもあります。
要素 | 一般的な見方 | 買い手企業の視点 |
---|---|---|
借入金が多い | 売却困難、リスクが大きい | 負債を整理する前提で買収可能、金融機関との信用関係あり |
低収益 | 魅力が乏しい | 改善余地がある事業、シナジーで収益化の可能性 |
小規模企業ならではの制約と強み
最後に小規模企業という点です。従業員数が10人未満、売上数億円規模という会社は、日本の中小企業の大多数を占めています。この規模感は「事業規模が小さいため買収メリットが少ない」と見られる一方で、買い手にとっては小回りの利く組織、スピーディに統合可能という魅力もあります。
また、小規模であっても資格を持った技術者や熟練人材が在籍していれば、その価値は非常に高く評価されます。たとえば、建設業界では1級土木施工管理技士などの資格者が現場に配置されていることが入札条件となる場合があり、この条件を満たせる人材を持つ企業は規模が小さくても買い手から注目されやすいのです。
- 小規模 → 規模の経済が働きにくい
- 小規模 → 人材・技術に特化していれば高評価
- 統合コストが低い → 買い手にとって導入が容易
実際の事例
実際に、北陸地方の設計会社は「地方」「借金」「小規模」という三重苦を抱えていました。年間売上は約2億円、従業員は10名規模、借入金は1億円以上。普通に考えれば買い手がつかないように思える条件です。しかし、仙台市に本社を持つ中堅ゼネコンが北陸での拠点確保を優先課題としていたことから、この会社を買収することになりました。
結果として、売却価格は1円でしたが、買い手が借入金をすべて引き継ぎ、従業員も全員雇用維持されました。これは一見不利な条件でも、買い手のニーズと合致すればM&Aが成立することを示す代表的な例です。
まとめ
「地方」「借金」「小規模」という三重苦は、確かに一般的に売却を難しくする要因です。しかし、地方拠点が必要な企業にとっては魅力的な立地であり、借入金は金融機関との信用を示すものであり、小規模は統合のしやすさを意味します。重要なのは、これらの条件をどう捉えるか、そして買い手企業のニーズとどう結びつけるかです。三重苦の中にも売却の可能性を見出すことは十分に可能であり、実際の事例がそれを裏付けています。
4. 転機となった買い手企業の登場
地方の小規模企業にとって、赤字や借入金を抱えた状態で会社を売却するのは難しいと考えられがちです。しかし実際には、ある条件が揃うと買い手企業にとって非常に魅力的に映ることがあります。本事例でも、仙台市に本社を持つ中堅ゼネコンが北陸地方に拠点を構築したいと考えていたタイミングで、この設計会社に出会ったことが大きな転機となりました。ここでは、買い手企業がなぜこの地方会社に関心を持ち、M&Aが成立したのかを詳しく見ていきます。
4-1. 買い手が拠点を求めた理由
買い手企業が地方の小規模会社に関心を示す大きな理由の一つは、地域での事業基盤の確立です。特に建設業界や製造業界では、地域に拠点を持っているかどうかが受注や事業展開に直結します。国土交通省の資料でも、建設業界の入札や契約において「地域に根差した企業の存在」が重要視されるとされています。
この仙台の中堅ゼネコンは、北陸エリアでの業務拡大を検討していました。通常であれば新たに営業所や事務所を設立する必要がありますが、それには時間もコストもかかります。新規拠点を設立する場合の費用を考えると、以下のような負担が発生します。
項目 | 新規設立の場合 | M&Aで既存企業を取得した場合 |
---|---|---|
オフィス開設費用 | 数百万円〜数千万円 | ほぼ不要(既存施設を利用) |
従業員採用・育成 | 数年かかる | 即戦力人材をそのまま引き継ぎ |
地域での信頼構築 | 新規参入企業は時間が必要 | 既存ネットワークをそのまま活用 |
この比較からもわかるように、M&Aで拠点を取得することは、スピーディかつ効率的に事業を進める手段となります。特に地方では地元企業との信頼関係が大きな意味を持つため、既存企業を買収することでその信用を一括して獲得できることが大きなメリットになります。
実際に、今回の設計会社には公共工事の設計実績があり、地元建設会社とのネットワークも存在していました。これらは買い手にとって「ゼロから拠点をつくるよりも、既存の企業を引き継ぐ方が合理的」という判断につながりました。
4-2. 入札条件と地域拠点の重要性
建設業界においては、公共工事の入札で「地域に事業拠点を持つこと」が条件となるケースが多くあります。例えば国土交通省や地方自治体の入札制度では、地域貢献や災害対応能力を重視する観点から、地域内に営業所や本店を持つ企業を優遇する仕組みがあります。
具体的には、以下のような入札条件が設けられることがあります。
- 入札参加資格として「県内に営業所があること」が必要
- 地域加点制度により、地元企業は評価点が上乗せされる
- 災害時の緊急対応を前提に「拠点から現場までの距離」が重視される
このような制度の下では、都市部からの新規参入企業は不利となる一方、地方企業を買収することで即座に入札資格を得られるため、買い手企業にとっては大きな魅力となります。
今回の設計会社のケースでも、買い手企業は「北陸で公共工事の受注を増やすためには、県内に拠点を持つことが必須」と考えていました。そこで、この設計会社を買収することにより、すぐに地域拠点を確保し、入札のチャンスを広げることができたのです。
まとめ
このように、地方の小規模企業であっても、買い手企業が地域拠点を必要としているタイミングに合致すれば、赤字や借入金を抱えていても十分にM&Aが成立します。特に建設業界のように「地域に拠点を持つこと」が入札条件や評価点につながる業種では、地方企業の存在そのものが大きな価値になります。今回の事例は、買い手企業の戦略と地方企業の立地条件が見事に一致した典型的な成功例といえるでしょう。
5. なぜ「地方の田舎」の会社が売れたのか?3つの成功要因
地方にある赤字企業や小規模な会社であっても、M&Aが成立するケースは少なくありません。本事例の設計会社が買い手企業にとって価値ある存在と判断されたのは、いくつかの要因が重なったからです。ここでは3つの成功要因を整理し、なぜ買い手企業が地方企業に魅力を感じたのかを解説します。
5-1. タイミングと買い手ニーズの一致
M&Aの成立において最も重要といえるのが「タイミング」です。買い手企業が特定のエリアで拠点を必要としている時期に、その条件に合う会社が売却を検討していることが重なると、取引成立の可能性は一気に高まります。
国土交通省がまとめる「建設業活動実態調査」では、地方における建設需要の偏在や入札参加要件に対応するため、ゼネコンや中堅企業が地方拠点を求める動きが顕著になっていると指摘されています。このような環境の中で、買い手企業は新たに拠点を設けるよりも、既存の会社を引き継ぐ方が効率的で早いと判断するのです。
今回の事例では、仙台市に本社を置く中堅ゼネコンが北陸での入札資格を得るために拠点を必要としていました。そこに、後継者不在で売却を考えていた地方設計会社が現れたことで、両者のニーズが合致し、買収がスムーズに進んだのです。
- 買い手は地域拠点を確保したい
- 売り手は後継者不在で承継先を探していた
- 拠点確保と人材確保を同時に実現できた
このように、M&Aは数字や条件だけでなく、タイミング次第で成立の可能性が大きく変わるのです。
5-2. 有資格者人材という付加価値
もう一つの大きな要因は、人材の存在です。特に建設業界では資格保有者の不足が深刻な課題となっており、人材は企業価値を決定づける重要な資産といえます。国土交通省の「建設業における担い手確保・育成調査」によれば、技術者の高齢化が進む中で、若手や資格保有者の採用は年々難しくなっています。
この設計会社には、1級土木施工管理技士など国家資格を持つ従業員が複数名在籍していました。建設業法では一定規模以上の工事現場に有資格者の配置が義務づけられているため、資格者の有無は入札参加や工事遂行に直結します。買い手企業にとっては、赤字や借入金以上に「即戦力となる資格保有者がいる」ことが大きな魅力となったのです。
また、資格者人材を新規採用し育成するには時間とコストがかかります。平均的に、施工管理技士を育成するには数年以上の実務経験と試験合格が必要です。したがって、既に実務経験豊富な人材を抱える企業を買収することは、買い手にとって「時間をお金で買う」ことに等しい価値を持ちます。
- 1級土木施工管理技士の配置義務に対応できる
- 資格取得には長期間の育成コストが必要
- 買収によって即戦力人材を獲得できる
この点が、赤字や借入金というマイナス要因を補って余りある付加価値として評価されました。
5-3. 拠点を低コストで確保できる立地
最後の要因は、立地に関する価値です。一般的には「地方の田舎にある会社」というとマイナスに聞こえますが、実際には大きなプラスとなることもあります。特に建設業界においては、公共工事の入札で「対象地域に拠点を持つこと」が条件や加点要素となるケースが多くあります。
総務省や地方自治体の入札要件では、「地域内に事業所を有しているかどうか」が評価に影響する場合が明記されています。これにより、外部から新規参入しようとする企業は不利となりますが、地域の会社を買収すれば低コストで即座に拠点を確保できるのです。
今回の事例でも、買い手は駅近や都市部に新規事務所を構える構想を持っていましたが、実際には地方の設計会社を承継することで費用を抑えつつ入札資格を満たすことができました。新規開設に比べると、以下のようなコスト削減効果があります。
項目 | 新規開設 | M&Aによる承継 |
---|---|---|
事務所開設費用 | 数百万円〜数千万円 | 既存施設をそのまま利用 |
地域での信頼構築 | 時間と営業コストが必要 | 既存ネットワークをそのまま承継 |
人材確保 | 採用と育成に数年 | 既存従業員を引き継ぎ即戦力化 |
このように「地方の田舎」という立地は、一見不利に見えますが、買い手にとっては競合が少なく、かつ入札条件を満たせる拠点として非常に高く評価されたのです。
まとめ
今回の設計会社が売却できた背景には、タイミングと買い手の戦略ニーズが合致したこと、資格を持つ人材という付加価値があったこと、そして低コストで拠点を確保できる立地条件が揃ったことが挙げられます。これら3つの要因が相まって、赤字や借入金といったマイナス要素を上回る評価がなされ、M&Aが成立しました。地方企業でも、条件次第では十分に売却のチャンスがあることを示す好例といえるでしょう。
6. M&A成立の条件:売却価格「1円」でも意味がある理由
地方企業のM&Aでは、売却価格が「1円」となるケースがあります。一見すると会社の価値がゼロのように感じられるかもしれませんが、実際には「売り手」と「買い手」の双方にとって合理的な取引となる場合があります。本事例の設計会社でも、株式の譲渡価格は1円でしたが、取引そのものは双方にメリットのある形で成立しました。その背景には、借入金の承継と従業員の雇用維持という2つの大きな条件があったのです。
6-1. 借入金の承継
地方企業の多くは、銀行からの借入金を抱えています。特に建設業や製造業では設備投資や運転資金のために多額の借入が必要となることが多く、返済が経営を圧迫する大きな要因となります。中小企業庁の「中小企業実態基本調査」によれば、約6割の中小企業が借入金を抱えており、特に地方の企業ほど依存度が高い傾向が見られます。
本事例の設計会社も、約1億円を超える借入金を抱えていました。通常であれば、これだけの負債がある会社を買収するのはリスクが高いと見なされます。しかし、買い手である中堅ゼネコンにとっては、借入金を引き継ぐ代わりに地域拠点と人材を一括で獲得できるメリットがありました。つまり、株式そのものの価格は「1円」であっても、実質的には買い手が1億円以上の負債を肩代わりしたことになります。
- 株式譲渡価格は1円でも、負債承継によって実質的な取引価値が発生する
- 買い手は資本力を活かして借入金を返済できるため、リスクを吸収可能
- 売り手は金融機関への返済義務から解放され、個人保証のリスクも軽減される
このように「1円で売却」という表現は、企業価値がゼロという意味ではなく、借入金承継を含めた実質的な取引の仕組みを反映したものなのです。
6-2. 従業員の雇用維持
もう一つの重要な条件が従業員の雇用維持です。地方企業においては、従業員がその地域に根付いて生活しているケースが多く、廃業となれば地域社会や取引先に大きな影響を及ぼします。帝国データバンクの調査では、地方の中小企業が廃業する際に従業員の再就職先が見つからず、失業問題につながるケースが増えていることが指摘されています。
今回の設計会社では、従業員の多くが40代から60代の中堅層で、長年にわたり公共工事の設計業務に従事してきました。これらの人材は買い手企業にとって即戦力となり、さらに公共工事の入札に必要な有資格者でもありました。そのため買い手企業は全従業員の雇用を継続することを条件にM&Aを成立させたのです。
従業員の雇用維持には以下のようなメリットがあります。
- 売り手経営者にとって、従業員を守ることが最大の安心材料になる
- 買い手にとっては即戦力の人材を確保できる
- 地域社会や取引先との信頼関係を維持できる
このように、雇用の維持はM&Aの交渉において大きな意味を持ち、企業価値を数値化できない部分で支える重要な条件となります。
まとめ
売却価格が「1円」となる背景には、単に会社の価値が低いということではなく、買い手が借入金を承継し、従業員の雇用を維持するという条件が含まれています。売り手にとっては負債から解放され、従業員を守ることができ、買い手にとっては拠点と人材を一括で獲得できるという、双方にメリットのある合理的な取引です。この事例は、地方企業でも赤字や借金を抱えていても、適切な条件が揃えばM&Aが成立することを示しています。
7. 事例から学ぶ「地方企業M&A」成功のヒント
地方企業でも、赤字や借入金を抱えていても、M&Aを成功させることは可能です。本記事で紹介してきた事例から学べるポイントを整理すると、単に「会社を売りたい」と考えるだけでなく、事前準備や買い手が重視する要素を理解することが大切であるとわかります。ここでは、地方企業がM&Aを検討する際に押さえておくべき2つの重要な視点について解説します。
7-1. 売却準備で意識すべきこと
地方企業がM&Aを成功させるためには、売却に向けた準備が非常に重要です。準備不足のまま買い手候補と交渉に臨んでしまうと、希望条件での売却が難しくなるだけでなく、最悪の場合は交渉そのものが破談になることもあります。特に以下のポイントを押さえておくことが求められます。
- 財務資料の整理:決算書や資金繰り表、借入金の残高などを最新の状態に整備しておくこと。
- 事業の強みの明確化:他社と差別化できる技術、人材、取引先ネットワークを言語化しておくこと。
- リスク要因の洗い出し:赤字や借金がある場合は、その原因と改善策を説明できるようにしておくこと。
- 従業員や取引先への配慮:M&A後の雇用や取引の継続に関して方針を準備しておくこと。
中小企業庁が発表している「中小企業白書」でも、M&Aを成功させるためには「経営状況や事業資源の棚卸し」が重要であると指摘されています。つまり、売却準備とは単なる事務作業ではなく、自社の価値を正しく伝えるための「プレゼン資料づくり」に等しい役割を持つのです。
実際に今回の北陸地方の設計会社でも、借入金の多さや低収益といった弱点がある一方で、「有資格者人材の存在」という強みを整理し、それを買い手に伝えることで売却の道を切り開きました。このように、弱みを隠すのではなく、強みとセットで提示することが成功の鍵になります。
7-2. 買い手が評価するポイント
M&Aを検討する際には、買い手企業が何を重視するのかを理解することが不可欠です。財務状況が赤字だからといって必ずしも買収が不可能になるわけではなく、買い手が評価するポイントがしっかり存在すれば、十分に取引が成立します。
買い手が地方企業を評価する際に注目する主なポイントは以下の通りです。
- 人材の価値:資格保有者や熟練技術者は即戦力となり、買い手にとって大きな魅力。
- 地域拠点の価値:入札資格や営業活動のために、地方に拠点があること自体が価値になる。
- 取引先ネットワーク:長年築かれてきた地元顧客との関係は、買い手にとってすぐに獲得できない資産。
- 収益改善の余地:赤字でも、改善可能性がある場合は「将来の成長余力」として評価される。
帝国データバンクが行った調査によれば、M&Aを行った買い手企業の約6割が「人材確保」を主な目的としていると回答しています。特に地方においては人材不足が深刻であり、従業員を含めて承継できる企業は高く評価されやすいのです。
今回の設計会社の事例でも、買い手企業が最も評価したのは「1級土木施工管理技士を含む専門人材の存在」と「北陸での拠点確保」でした。財務的には赤字で借入金も多かったにもかかわらず、この2点があったからこそ、M&Aが成立したのです。
まとめ
事例から学べる教訓は、地方企業でも売却の可能性は十分にあるということです。そのためには、まず売却準備として自社の資料や強みを整理し、弱点も正直に伝える姿勢が求められます。そして買い手が重視する「人材」「拠点」「ネットワーク」「成長余地」を理解し、自社の価値と結びつけて提示することが重要です。これらを意識すれば、赤字や借入金といったハンデがあっても、地方企業はM&Aを通じて新しい未来を切り開くことができるのです。
まとめ
本記事では、地方企業であってもM&Aが成立する背景や成功事例を紹介しました。赤字や借入金があっても、買い手企業のニーズや人材・拠点の価値と合致すれば、売却は十分に可能です。地方の中小企業にとって、M&Aは廃業以外の大切な選択肢であり、従業員や地域とのつながりを守る手段ともなります。
- タイミングとニーズ一致
- 有資格者人材の存在
- 地域拠点の活用価値
これらの要素を意識すれば、地方企業でも未来につながる承継が可能となります。詳しく知りたい方は、ぜひアーク・パートナーズまでお問い合わせください。
