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売り手を惹きつけるM&A意向表明書の書き方|記載例・注意点・アピールの極意まで解説

「意向表明書ってどこまで書けばいいの?」「売り手に響く文章が思いつかない…」

そんなお悩みを抱えているM&A実務担当者や経営者の方へ。意向表明書は、単なる条件提示ではなく、売り手の心を動かす“ラブレター”です。売り手が「この人に会社を託したい」と思えるかどうかは、この一通の文書にかかっています。

本記事では、現場で実際に効果のあった記載例やアピールの極意を、経験豊富なプロの視点から徹底解説します。

■本記事を読むと得られること

  1. 意向表明書に記載すべき具体項目とその書き方がわかる
  2. 売り手に好印象を与える表現・アピール手法がわかる
  3. 他の入札者と差がつく実務的な工夫や注意点が理解できる

■本記事の信頼性
筆者はM&Aアドバイザー歴10年以上、累計200件以上の案件を支援し、中小企業庁登録のM&A支援機関として活動しています。売り手との交渉現場を数多く経験してきた実務家として、リアルなノウハウをお届けします。

この記事を読み終える頃には、あなたも「売り手に選ばれる」意向表明書の書き手になっているはずです。3分で読めますので、ぜひ最後までご覧ください。

1.意向表明書とは?M&Aでの役割と重要性

意向表明書の位置付けと法的性格

M&Aにおいて「意向表明書(LOI: Letter of Intent)」とは、買い手が売り手に対して「御社をぜひ譲っていただきたい」という意思を正式に伝える文書です。単なる挨拶文や価格提示書ではなく、今後の交渉やデューデリジェンス(精査)に進むに値する買い手かどうかを、売り手が判断するための重要な判断材料となります。

意向表明書の法的性格としては、基本的に「法的拘束力を持たない」ことが一般的です。つまり、提出したからといって必ず買収しなければならないわけではなく、買い手にとっても撤退の余地を残しておける柔軟な形式となっています。一方で、売り手に対して「この案件に本気で取り組む意思があります」という姿勢を示すものであり、心理的・商慣習的には非常に重みがあります。

経済産業省「中小M&A推進計画」(令和2年)でも、意向表明書や基本合意書の整備は中小M&Aの健全な発展に欠かせないプロセスとして位置付けられています。

項目 意向表明書(LOI)の特徴
提出タイミング 初期交渉の段階(基本合意前)
主な記載内容 買収希望価格、譲受スキーム、経営方針、買収の目的など
法的拘束力 原則としてなし(明記が必要)
役割 売り手の選定材料、交渉の起点

このように、意向表明書は「契約」ではなく「意志表示」ですが、その表現一つひとつが売り手の心象に大きな影響を与える文書です。特に中小企業のM&Aでは、価格だけでなく「誰に会社を託すか」が最重要視されるため、内容とトーンが極めて重要です。

トップ面談との関係性

意向表明書は単独で評価されるのではなく、その後に行われる「トップ面談」と密接に連動しています。トップ面談とは、買い手と売り手の経営者同士が直接顔を合わせて、事業観や経営スタンス、人柄などを確認し合う場です。多くのM&A仲介業者やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)は、このトップ面談を売り手による「後継者面接」と位置付けています。

このとき、意向表明書の内容が面談での対話と食い違っていれば、売り手からの信頼を一気に失うことになります。たとえば、意向表明書には「従業員の雇用維持を重視」と書いてあったにもかかわらず、面談時に「非効率な人材は整理する方針」と述べてしまえば、売り手に「本音と建前が違う」と見抜かれてしまいます。

逆に、意向表明書で売り手の価値観やビジョンに寄り添う内容を盛り込み、その内容に基づいた誠実な対話ができれば、買い手としての信頼度は一気に高まります。言い換えれば、意向表明書は単なる“紙”ではなく、「売り手との人間的な信頼関係の起点」となるのです。

具体的な流れとしては、以下のようになります。

  1. 売り手が買収候補の選定に入る
  2. 買い手が意向表明書を提出する
  3. 意向表明書の内容をもとに、数社に絞りトップ面談を実施
  4. トップ面談の印象も含めて、基本合意先を決定

このプロセスを見てもわかる通り、意向表明書とトップ面談は「セット」で評価されるものであり、片方だけに力を入れても効果は半減します。逆に言えば、意向表明書で「話してみたい」と思わせ、面談で「この人なら任せられる」と思わせることができれば、買い手として非常に有利な立場に立てるのです。

たとえば、ある製造業のM&Aにおいて、A社は価格では他社よりやや劣っていたものの、意向表明書で「創業者の技術と理念に深く共感しており、それを守りながら発展させたい」と記述し、面談でも同じスタンスを繰り返し表明しました。その結果、売り手は価格ではなく「信頼と理念の継承」を理由にA社を選定し、成約に至りました。

このように、意向表明書は単なる条件提示書ではなく、「この人ともっと話したい」と思わせるラブレターのような役割を果たします。

まとめ

意向表明書は、M&Aにおける単なる事務的な書類ではなく、売り手の判断に大きな影響を与える「人格の表現」でもあります。法的拘束力はないとはいえ、その文面ひとつで選ばれるか否かが左右されることも少なくありません。また、トップ面談との整合性が重要であり、言葉のトーンや誠意が評価されることを忘れてはなりません。

買収希望価格だけではなく、「誰に会社を任せたいか」という観点が中小企業M&Aでは極めて重要です。そのため、意向表明書では、戦略性と人間性を両立させたメッセージが求められます。意向表明書は、まさに買い手の“本気度”を売り手に伝える第一歩なのです。

2.提出前に確認!意向表明書に必要な準備と心構え

売り手の価値観と希望条件をリサーチする

意向表明書を作成する前に、もっとも重要なのは「売り手が何を大切にしているのか」を丁寧に把握することです。多くの買い手が「価格提示」や「事業シナジー」ばかりに意識を向けてしまいますが、中小企業M&Aでは「誰に会社を託したいか」という感情面が意思決定に強く影響します。

特に創業者が事業を譲渡する場面では、「従業員を大事にしてくれるか」「会社の理念を守ってくれるか」「取引先との関係を維持してくれるか」といった定性的な要素が重視される傾向にあります。2021年版中小企業白書(中小企業庁)でも、M&Aによる事業承継において「従業員の雇用の継続」や「事業の存続」が譲渡側の最重要事項として挙げられています。

こうした売り手の価値観を正確に把握するには、以下のような事前準備が有効です。

  • 売り手のホームページや代表者の挨拶文から理念や経営方針を読み取る
  • M&A仲介会社・FAを通じて、売り手の「重視していること」「譲渡の背景」をヒアリングする
  • 過去のIR資料や業界誌の記事を調査し、企業のこれまでの経営姿勢を確認する

たとえば、ある介護事業者のM&Aでは、売り手が「地域密着型の福祉理念」を大切にしていたため、買い手が「事業拡大による利益最大化」だけを打ち出した意向表明書は敬遠されました。逆に、別の買い手が「既存施設の運営方針を維持し、地域の人材を積極的に登用する」姿勢を明記したことで、信頼を得て成約につながった事例があります。

このように、売り手の価値観を無視して意向表明書を作ると、いくら条件が良くても選ばれません。事前に「何を伝えれば響くのか」をリサーチすることは、意向表明書のクオリティと成功率を大きく左右する鍵となります。

依頼書(RFP)との関係を理解する

M&Aの入札プロセスにおいては、売り手側またはそのFA(ファイナンシャル・アドバイザー)から「意向表明依頼書(RFP: Request for Proposal)」が提示されることがあります。このRFPには、意向表明書に記載すべき項目や形式、提出期限、評価基準などが明記されています。

このRFPは、言わば「売り手側からの質問リスト」のようなものであり、これを無視して自由形式で作成すると、そもそも選考対象から外されてしまうこともあります。以下のような項目が一般的に記載されていることが多いです。

RFPの代表的な記載項目 意向表明書への対応
譲受希望価格 価格とその前提条件を明記
M&Aスキーム 株式譲渡・事業譲渡・合併などを明記
従業員の処遇 雇用継続・待遇維持の方針を明記
自社の強み 自己紹介部分でPR
資金調達方法 自己資金、借入、増資などを明記
今後のスケジュール案 買収完了までの見通しを提示

意向表明書では、これらRFPの要求事項に正確に対応しつつ、売り手の価値観に寄り添うような自由記載欄でのアピールが重要です。つまり、「定量情報はRFPに準拠し、定性情報で差をつける」という構成が理想です。

たとえば、ある製造業のM&Aで提示されたRFPには「雇用維持に関する方針」が明記されていました。買い手A社は「現従業員の雇用は原則継続」とだけ書き、RFPの最低要件を満たした一方、買い手B社は「全従業員の雇用を継続し、処遇改善と研修制度の導入を予定」と詳細な取組方針まで盛り込みました。その結果、売り手はB社の“本気度”に好感を持ち、B社と優先交渉に進みました。

このように、RFPは「条件提示の土台」であり、意向表明書は「本気度と魅力を伝える舞台」です。RFPの記載を無視することはマイナス評価につながりますが、記載事項を超えて売り手に刺さる表現を加えることで、大きな差別化につながります。

まとめ

意向表明書を作成する前には、売り手の価値観や譲渡理由をしっかりリサーチし、それに応じた表現や記載内容を練ることが不可欠です。単に高い金額を提示するだけではなく、「この人に任せたい」と感じてもらえるような内容を意識することが、選ばれる意向表明書を作る第一歩です。

また、意向表明依頼書(RFP)に対しては、漏れなく的確に応えたうえで、自由記述欄などで自社の強みや売り手への敬意を表現することで、他の買い手との差別化が可能になります。準備段階での“心構え”こそが、意向表明書の成否を大きく左右する要素なのです。

3.売り手に響く!意向表明書の記載内容と書き方

自社の魅力を伝える「買い手の自己紹介」

意向表明書の冒頭で記載される「買い手の自己紹介」は、単なる企業概要ではなく、売り手が「この相手なら安心して会社を託せる」と思えるかどうかの“第一印象”を決める重要なパートです。

この部分では、以下のような項目を簡潔かつ戦略的に盛り込むことがポイントです。

  • 会社名・所在地・代表者名
  • 設立年・従業員数・資本金
  • 事業内容と業界内ポジション
  • グループの概要(親会社・子会社がある場合)
  • 経営理念・ビジョン
  • 対象会社と親和性のある強み(技術、人材、顧客基盤など)

とくに重要なのは、対象会社との「親和性」を意識したアピールです。自社の強みをただ羅列するのではなく、相手企業との相乗効果や補完関係が生まれる点を明確に伝えることで、「この会社に引き継がれれば、私の会社はもっと発展できる」と売り手に思ってもらうことができます。

たとえば、あるBtoBの製造業のM&Aでは、買い手が「御社が保有されている特殊素材の加工ノウハウと、当社の販売ネットワークが組み合わされば、国内外での市場拡大が期待できます」と書いたことで、非常に好印象を与えたケースがあります。このような書き方は、事業への理解と誠意が伝わるため、競合と差がつきやすくなります。

提示価格とその前提条件(表現例つき)

意向表明書では「買収希望価格」を必ず記載する必要があります。ただし、単に金額を書くだけでは不十分で、その金額が「何を前提にしているのか」も併せて記載するのが基本です。

買収価格の記載方法には、大きく分けて以下の2種類があります。

  • 株式価値としての提示:すべての発行済株式を買い取る形式
  • 事業価値としての提示:簿外資産や負債を整理した上で株式価値を逆算する形式

価格は基本的に「●億円」などで明記しますが、その裏付けとなる前提条件はあいまいにしておくのが一般的です。なぜなら、提示時点ではデューデリジェンス(精査)前であり、財務内容や法務リスクなどをまだ把握しきれていないため、柔軟性を持たせる必要があるからです。

以下は表現例です。

●●社の全発行済株式を、1株あたり●●円、総額●●円にて譲受希望いたします。なお、本価格は、事前にご提供いただいた情報(財務諸表、IM等)に基づき算定しており、今後のデューデリジェンスにより変更の可能性がございます。

また、レンジ(幅)で金額を提示する場合は、「●億円〜●億円」と明記しますが、下限ばかりが比較対象になるため、適切に説明を添えることが大切です。

過去のM&A事例では、ある飲食チェーンの買収で「最低2億円〜最高2.5億円」というレンジ提示をした買い手がいました。売り手は、最終的な価格調整で「2億円ちょうど」に着地したことに不満を持ち、信頼関係に傷が入ってしまったと言われています。このような誤解を避けるためにも、意向表明書では価格の幅とその根拠・交渉スタンスを丁寧に説明すべきです。

M&Aスキーム・対価・譲受主体の明記方法

意向表明書では、どのようなスキーム(取引形態)でM&Aを実行したいのか、また対価の種類や、譲受を行う主体(会社名)を明確に示す必要があります。これらの情報は、売り手にとって「何を譲るのか」「どのように譲るのか」という重要な判断材料となります。

スキームには代表的に以下のような種類があります。

スキーム 概要
株式譲渡 売り手が保有する株式をすべて買い取る
事業譲渡 会社の一部事業のみを切り出して買い取る
会社分割 会社を分割し、対象部分のみを譲渡
合併 会社同士を統合(吸収・新設)する

ほとんどの場合、株式譲渡が最もシンプルで用いられますが、資産や負債の状態、希望する引継ぎのスタイルによっては、他のスキームが適していることもあります。したがって、売り手の希望を事前に確認し、その希望に沿ったスキームを提示することが重要です。

対価の種類については、「すべて現金で支払う」ケースが一般的ですが、「一部を買い手の株式で支払う」といった複合型も存在します。ただし、売り手が現金化を目的にしていることが多いため、株式対価は避けるのが無難です。

譲受主体とは、「誰が買うのか(買い手企業のどの法人が譲受を担当するのか)」を明記するもので、たとえば親会社・子会社のいずれかや、新設法人での取得などがあります。

本件の譲受主体は、弊社100%子会社である株式会社ABCとなる予定です。なお、対価は全額現金にてお支払い申し上げます。

このように、スキーム・対価・譲受主体は、売り手側にとって「取引の全体像」を判断するための基本情報です。曖昧なままにすると、「本当にこの人たちは準備できているのか?」と不信感を抱かれかねませんので、可能な限り具体的に記載することが信頼獲得につながります。

まとめ

意向表明書では、単なる形式的な情報記載ではなく、「売り手にとって安心できるか」「将来に希望を持てるか」といった心理面への配慮が不可欠です。買い手の自己紹介では、理念や強みを相手に寄り添って伝える姿勢が求められます。

また、提示価格は金額そのもの以上に、「前提条件」と「交渉余地の余白」をどう表現するかが大切です。スキーム・対価・譲受主体に関しては、売り手の希望を尊重しつつ、自社の体制と照らして誠実に提示することが信頼につながります。

このセクションで紹介した3つの要素は、意向表明書における“核”ともいえるパートです。売り手の心に届く表現と構成で、選ばれる一通を目指しましょう。

4.差がつくポイント!記載内容ごとのアピール戦略

経営戦略との位置づけとM&A目的の語り方

売り手経営者がもっとも注目するのは、「なぜ自分の会社を買いたいのか」というM&Aの目的と、その買収が買い手企業にとってどう位置付けられているかという戦略的な意義です。

価格提示や条件交渉の前に、売り手が納得したいのは「この会社は本当にウチの事業を必要としているのか?」という真剣度です。実際、中小企業庁の「中小M&A実態調査(2020年)」では、売却理由として「後継者不在」「経営への不安」が多く挙げられており、単なる財務的取引ではなく「誰に託すか」が重要視されていることがわかります。

このため、意向表明書には、買収先を選んだ理由として以下のような要素を盛り込むのが効果的です。

  • 自社の成長戦略や事業ポートフォリオの中での位置づけ
  • 売り手企業が保有する技術・人材・商圏の必要性
  • なぜこのタイミングで必要なのか(市場環境の変化や経営課題など)

たとえば、あるIT企業のケースでは、意向表明書に「貴社のSaaS型システムは、当社が今後注力する業界特化型サービス群の中核を担うものであり、我々が目指す“業種別のプラットフォーム化”において欠かせない存在です」と記載。結果として「この買収には未来がある」と売り手に評価され、条件面でやや劣っていたにも関わらず優先交渉権を得ることができました。

このように、「M&A後の世界で、売り手企業がどう活躍するか」を買い手の言葉で説明できるかどうかが、説得力と信頼感の分かれ道になります。

M&A後の経営方針・シナジーの描き方

売り手が譲渡を検討する理由の多くは、単に引退したいからではありません。「自分の会社をさらに伸ばしてくれる人に任せたい」という思いが根底にあります。そのため、意向表明書での「M&A後の経営方針」や「シナジー効果の見通し」の記載は、売り手の期待と不安を受け止めるうえで極めて重要です。

以下のような項目は、明確にかつ前向きに記載することで、好印象を与えられます。

  • どのような組織体制で運営するか(独立性維持、親会社支援型など)
  • 事業の方針(現状維持か、戦略転換か)
  • 今後の投資計画(設備、人材、エリア拡大など)
  • 他事業とのシナジー想定(販路、技術、仕入など)

シナジーの描き方でよくある失敗は、「大きな市場があるので拡大できると考えています」などの抽象的な言い回しです。これは「思いつき」で書かれているように見えるため、逆効果です。できる限り具体的な因果関係を盛り込みましょう。

たとえば、流通業界のM&Aでの例です。買い手は意向表明書で「当社は九州全域に店舗を持ち、貴社が強みを持つ関東エリアへの進出を重要課題としてきました。今回のM&Aにより、貴社の地域ブランドと当社の物流・販促資源を融合させ、双方にとって収益力の向上が期待できます」と記述。このように具体的に書かれた表現は、売り手にも未来が想像しやすく、「任せてみよう」と思わせる力があります。

従業員の処遇・社名の扱いへの配慮表現

売り手がもっともナーバスになるテーマの一つが、「従業員の処遇」と「会社の名前がどうなるか」という点です。これらは経営者としての「責任」の象徴でもあるため、どれだけ条件が良くても、これらに対する不安が拭えなければM&Aは成立しません。

中小企業庁の資料によれば、経営者がM&Aを躊躇する主な理由として「従業員の雇用が守られるか不安」が常に上位に挙げられています。したがって、意向表明書では以下のような記述が強く求められます。

  • 全従業員の雇用は維持する方針である
  • 処遇や福利厚生は一定期間維持、または改善予定
  • 現経営陣の役職・権限の移行計画(任意)
  • 社名やブランド名の取り扱い(継続の可否)

書き方の工夫として、「御社の従業員の皆様には、現状の業務を継続いただき、当社グループ内での人材交流や研修制度による成長機会もご提供できると考えております」といった前向きなトーンが好まれます。

さらに、「創業者様が長年大切にされてきたブランド価値を損なうことなく、社名もそのまま継続使用する予定です」などの表現を加えることで、売り手の「文化を尊重してくれている」という印象を与えることができます。

実際、ある老舗食品メーカーの譲渡事例では、買い手が意向表明書に「屋号と主力ブランドは今後も守り続ける方針で、パッケージや商品名も維持する」と明記。結果として、オーナーの不安が払拭され、スムーズに交渉が進みました。

まとめ

意向表明書における「アピール戦略」は、表面的な条件提示ではなく、売り手の心を動かす“説得と共感の構造”が求められます。

経営戦略との整合性を明確に伝えることで、「なぜこの会社を買いたいのか」に納得感が生まれ、M&A後のビジョンを具体的に描くことで「この人に任せれば安心」と思わせる力が生まれます。そして、従業員や社名への配慮表現を丁寧に記すことで、「責任ある後継者」としての信頼を獲得することができます。

この章で紹介したアピールポイントを押さえることで、他の入札者と大きく差をつけることができるでしょう。まさに、選ばれる買い手になるための勝負どころです。

5.売り手の信頼を勝ち取る表現と言葉選びのコツ

専門用語・刺激的表現を避けた丁寧な言い換え例

M&Aの意向表明書では、誤解や反感を招かないように、表現の選び方がとても重要です。とくに売り手がM&Aに不慣れな中小企業の経営者である場合、M&A業界で一般的に使われている専門用語やカタカナ語、強い印象を与える表現は避けるべきです。

たとえば、「買収」「支配権」「吸収合併」「命じる」といった言葉は、受け取る側に対して威圧感や支配的な印象を与えかねません。売り手の立場に立てば、「自分の会社が“乗っ取られる”のではないか」という不安につながる可能性があります。

こうしたリスクを避けるためには、言い換えや表現の柔らかさに配慮した言葉選びが求められます。以下のような言い換え表を参考にすることで、丁寧で信頼感のある文面に仕上げることができます。

避けたい表現 丁寧な言い換え例
買収 譲受け、経営統合、引継ぎ
支配権 経営権、運営権限
吸収合併 組織の合流、融合
命じる お願いする、調整させていただく
子会社化 グループ会社として迎え入れる
働かせる ご活躍いただく、ご尽力いただく
売却 譲渡、お譲りいただく

このような言葉選びは、単なる「丁寧語」や「敬語」ではなく、相手の価値観を尊重し、相互理解の土台を築くための配慮でもあります。

実際、ある地方の建設会社のM&Aでは、当初「買収」「統合」などの用語が多く含まれた意向表明書が提出されましたが、売り手経営者は「上から目線に感じた」として、その買い手候補を除外。その後、「ご一緒に成長する」「御社の歩みを大切にする」という表現を丁寧に記載した別の企業が選ばれたという事例があります。

このように、使う言葉一つで信頼を得ることも失うこともあるため、文面のチェックと推敲は決して手を抜いてはなりません。

書きすぎ注意!交渉事項の書き方バランス

意向表明書では、価格や条件、スケジュール、譲受スキームなどに関する記載が求められますが、交渉すべきポイントをあまりに細かく書き込みすぎると、逆効果になることがあります。

その理由は主に以下の2点です。

  1. まだデューデリジェンス(精査)前の段階であり、具体的な数値や約束は柔軟性を欠くため
  2. 売り手にとって“上から目線”や“取引条件を押しつけられている”と感じさせてしまう恐れがあるため

意向表明書は「本気の意思表示」であると同時に、「まだ仮段階の柔らかい合意」でもあります。そのため、記載内容には下記のようなバランスが必要です。

  • 明確に書くべきこと:譲受価格(レンジ)、M&Aスキーム、譲受主体、自己資金の有無
  • あえて曖昧に書くこと:価格の算定根拠、役員や従業員の処遇方針の細部、契約スケジュールの詳細

たとえば、以下のような記載は、書きすぎの典型です。

本譲渡における対価は、EBITDAの7倍を基準に算定しております。売上の構成比が当社の想定と異なる場合は3,000万円以上の減額調整を想定しています。

これは数値的に明確ではあるものの、売り手に「数字ありきでしか見ていない」と誤解されやすく、交渉を始める前から印象を悪くする恐れがあります。

代わりに、以下のような表現が好まれます。

御社の財務資料およびインフォメーションメモランダム等をもとに、当社の将来見通しおよびシナジー効果を勘案した上で、本譲受価格をご提示しております。なお、今後のデューデリジェンスの進行に伴い、価格条件について柔軟にご相談させていただければ幸いです。

このように、「本気度を示しながらも、柔らかい表現にとどめておく」ことが大切です。交渉を始める前の段階で詳細な条件を書きすぎると、自らの交渉余地を狭めるだけでなく、売り手からの心理的な拒否反応を招くリスクがあります。

実際のM&A現場でも、意向表明書に書き込みすぎて、デューデリジェンス中に条件変更がしにくくなり、結果として破談になったケースは少なくありません。事前にやりすぎると、むしろ本番に進めないというジレンマが起きるのです。

まとめ

意向表明書は、「書けばよい」というものではありません。表現ひとつ、言葉ひとつが売り手との信頼関係に大きく影響します。

専門用語や刺激的な表現は極力避け、相手の立場に寄り添ったやさしい言葉を選びましょう。そして、交渉事項については「本気度を伝えつつも、書きすぎない」バランス感覚が必要です。特に価格や処遇の記載では、あえて余白を残しておくことで、後の交渉の柔軟性を保つことができます。

信頼は“文章の温度”で決まります。正確な内容だけでなく、相手がどう感じるかを常に意識することが、選ばれる意向表明書をつくる秘訣です。

6.実務に差が出る!提出書類としての形式・構成の工夫

段落構成や章立ての基本例

意向表明書は、M&Aにおける「最初の提案書」とも言える重要なドキュメントです。記載されている内容そのものも大切ですが、読み手である売り手経営者にとって「わかりやすい」「読みやすい」構成になっているかどうかも、印象に大きく影響します。

特に中小企業の売り手にとって、意向表明書に慣れているケースは少なく、形式的に複雑すぎる資料は読まれない、あるいは理解されないということも起こり得ます。そのため、誰が見ても「内容が一目で把握できる」構成が必要です。

一般的な意向表明書の章立ては、以下のような順番が基本です。

  1. 表題・提出日・宛先(例:「意向表明書」/提出日:2025年8月1日/宛先:〇〇株式会社 代表取締役 〇〇様)
  2. 買い手企業の概要・自己紹介
  3. M&Aの目的と本件の位置づけ
  4. 提示価格およびその前提条件
  5. スキーム、譲受主体、対価の種類
  6. M&A後の経営方針やシナジー展望
  7. 従業員の処遇や社名・ブランドの取り扱い
  8. 資金調達方法
  9. デューデリジェンスおよび今後の進行希望
  10. 内部意思決定プロセスとスケジュール
  11. 免責事項(法的拘束力の否定)
  12. 連絡先・署名欄

各章の見出しは太字や下線を使って強調し、文章は箇条書きや段落ごとに整理して記載することで、読み手の理解を助けます。また、あらかじめWordやPDFなどのビジネスフォーマットを活用し、改行や余白を適切に取ることもポイントです。

実際に、ある物流会社の譲渡案件では、買い手候補が「M&A目的」と「シナジー」と「譲受主体・価格条件」を1つの段落でまとめて記載していたため、売り手が混乱し、意図が正確に伝わらなかったという事例があります。逆に、他の買い手が見出し付きで章立てを明確に分けた意向表明書を提出したところ、「内容が整理されていて信頼できる」という理由で面談に進んだという経緯もありました。

形式の整え方ひとつで、売り手側の安心感がまったく異なることを意識しておきましょう。

法的拘束力の免責事項の記載方法

意向表明書は、契約書ではありません。そのため、「これを書いたからといって、必ず買収しなければいけない」という法的拘束力は、基本的には発生しません。ただし、それを売り手に明確に伝えるためには、「法的拘束力を持たないことを記載する」ことが必要です。

なぜなら、法的拘束力の有無が曖昧なままでは、あとから「書いてあるじゃないか」と売り手に主張され、トラブルに発展する可能性があるからです。特に、価格やスケジュール、従業員の処遇といったセンシティブな内容を記載する場合、あくまで“前提に基づいた現時点の方針”であることを明示しておくことで、誤解を防ぐことができます。

免責事項の一般的な文例は以下のようになります。

本書面は、当社が貴社とのM&Aに関心を有していることをお伝えするための意向表明書であり、本書の記載内容はいかなる法的拘束力も持つものではありません。また、本意向表明書は、今後予定されているデューデリジェンス等の結果を踏まえて、譲受条件等が変更される可能性があることを予めご承知おきください。

このような文言を明記しておけば、買い手にとっても“撤退の余地”を確保でき、売り手に対しても「誠実な前提提示である」ことを伝えることができます。なお、万が一、売り手側から「拘束力のある内容にしてほしい」と求められた場合は、必ず弁護士と相談し、基本合意書や最終契約書に進むタイミングでの対応が必要になります。

2021年の経済産業省の「中小M&A推進計画」でも、M&Aの各段階での書面整備(意向表明書・基本合意書・最終契約書)における法的な性格付けと注意点の整理が推奨されています。意向表明書の段階では「非拘束であることを明記すること」が重要であるとされています。

実務上は、すべての意向表明書に免責条項をつけておくのが通例であり、売り手側が法的拘束力を前提として誤解しないよう、慎重な対応が必要です。

まとめ

意向表明書は「中身」だけでなく、「形式や構成」にも工夫が求められる文書です。章立てや段落が整理されていることで、読み手である売り手の理解と信頼を得やすくなります。事務的に作るのではなく、“相手が読む立場に立った”書面づくりが重要です。

また、意向表明書は契約書ではないことを明確にするためにも、「法的拘束力がない旨」の免責条項を適切に記載する必要があります。トラブル防止と信頼獲得のためにも、読みやすさと法的安全性の両立を意識した設計が、プロのM&A担当者としての信頼構築につながるでしょう。

7.その他記載すべき要素とよくある記載漏れ

買い手社内の意思決定プロセス

意向表明書には、買い手企業側でどのような社内手続きを経てM&Aを正式決定するかという「意思決定プロセス」も記載しておくと、売り手に安心感を与えることができます。

これは、売り手から見た場合に「この提案は会社としてどれだけ真剣に決まっているのか?」という不安を解消する役割を持ちます。たとえば、「社長の一存ではなく、取締役会や株主総会の承認が必要です」といった場合、売り手にとっては「話が進んだのに、社内承認でストップがかかるリスクがある」と感じてしまうかもしれません。

こうした不安を払拭するためにも、意向表明書には以下のような項目を簡潔に記載しましょう。

  • 意思決定機関(代表者決裁/取締役会決議/株主総会決議など)
  • 承認までのスケジュール感
  • 過去に同様の意思決定を行った事例があるか(可能であれば)

たとえば、以下のような表現が推奨されます。

本件は当社代表取締役の専決事項として処理可能であり、既に社内において買収に向けた検討体制を構築済みです。最終的な契約締結前に取締役会承認を取得予定であり、その時期は基本合意後約2週間以内を想定しております。

このように記載することで、「社内調整に時間がかかって破談になるのでは」といった懸念をあらかじめ和らげることができます。反対に、この記述がないと、「まだ真剣に決まっていないのでは?」と不信感を抱かれる恐れがあります。

案件公表の時期・方針

M&Aは、関係者以外に知られないように進める「非公開プロセス」が基本ですが、一定のタイミングで「案件の存在を外部に公表する」必要が出てくることもあります。とくに買い手が上場企業である場合、一定の契約締結や支配権の取得にあたって、金融商品取引法などに基づく「適時開示」が求められます。

売り手側の経営者は、「M&Aが表沙汰になると従業員や取引先に悪影響が出るのではないか」という懸念を強く持っています。そのため、意向表明書には、案件公表のタイミングや開示の方針について簡潔に触れておくと、売り手の安心につながります。

記載すべきポイントは以下のとおりです。

  • 基本合意時点での公表有無
  • 最終契約後・クロージング後の公表方針
  • 開示内容の事前すり合わせ有無

実際の記載例としては、以下のような表現が一般的です。

当社は非上場企業であるため、本件M&Aに関する公表予定はありません。なお、契約締結時には、貴社と協議の上、関係者および従業員への説明タイミングや手法を慎重に検討させていただきます。

または、上場企業であれば以下のように記載します。

当社は上場会社であるため、基本合意または最終契約締結時に、証券取引所ルールに基づく適時開示を行う可能性があります。その際は、内容やタイミングについて、貴社との事前調整を図らせていただきます。

このような記載を加えることで、売り手側の“情報漏えいへの不安”を軽減し、信頼関係の構築に寄与します。

資金調達方法の記載と印象への影響

買い手がM&A対価をどのように調達するか、つまり「自己資金なのか、借入なのか、増資なのか」という点も、売り手にとって非常に重要な判断材料のひとつです。

なぜなら、買い手が資金の目途を明確にしていない場合、「本当にこの話は成立するのか?」という疑念を持たれてしまうからです。資金計画があいまいなままでは、売り手としても交渉に時間をかけた末に“ドタキャン”されるリスクを警戒するのは当然のことです。

以下のような項目は、簡潔で良いので明記しましょう。

  • 資金の内訳(手元資金・金融機関からの借入・親会社からの融資等)
  • 融資の場合は金融機関との交渉状況や内諾の有無
  • 支払タイミングと手続きのイメージ(クロージング時全額支払など)

良い印象を与える記載例としては、以下のようなものがあります。

本件対価は、全額当社の手元資金および運転資金余力より拠出予定であり、外部調達は想定しておりません。支払条件としては、最終契約締結後のクロージング時に全額を一括にてお支払いする予定です。

また、金融機関からの借入が必要な場合でも、以下のように丁寧に表現すれば、売り手の不安を和らげることができます。

対価の一部は当社取引先金融機関との協議により融資を予定しており、既に内諾を得ております。資金調達に関する障害はございません。

このように、資金の調達見込みを明示することで、売り手に対して「この買い手は本気で準備している」と思わせる効果があります。

まとめ

意向表明書には、価格やスキームだけでなく、意思決定フロー・情報開示の方針・資金調達の裏付けといった「細かな安心材料」も忘れずに盛り込むことが重要です。

これらの情報は、書かれていないからといって即失格になるわけではありませんが、丁寧に記載されていることで、売り手に「準備が行き届いている」「この会社なら任せられる」という信頼感を与えることができます。

細部まで配慮が行き届いた意向表明書は、他の買い手と比較された際に“ひとつ頭抜けた存在”として評価される可能性が高まります。まさに、最後のひと押しとなる要素です。

まとめ

意向表明書は、単なる条件提示ではなく、売り手の信頼を得るための「経営者へのラブレター」と言える存在です。成功する意向表明書には、明確な構成・適切な言葉選び・そして相手の価値観への深い理解が欠かせません。買収の意志と誠意を、文面のすみずみにまで丁寧に込めていくことが、他社と差をつける最大の鍵となります。

  1. 内容と構成を丁寧に設計する
  2. 売り手目線の表現に配慮する
  3. 信頼を築く姿勢を文章に宿す

詳しく知りたい方は、ぜひアーク・パートナーズまでお問い合わせください。

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