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物流業界のM&A完全ガイド|動向・課題解決・成功事例までわかりやすく解説

「後継者が見つからない」「ドライバーが集まらない」「物流コストが増えて経営が苦しい」──そんな悩みを抱える物流業界の経営者がいま注目しているのが、企業の存続と発展を可能にする“M&A”という選択肢です。

本記事では、そうした経営課題に直面している方々に向けて、M&Aによる具体的な解決策を専門家の視点からわかりやすく解説します。

■本記事を読むと得られること

  1. 物流業界でなぜM&Aが増えているかの背景がわかる
  2. M&Aで解決できる課題や成功のポイントを理解できる
  3. 実際の成功事例から、自社に活かせるヒントが得られる

■本記事の信頼性
筆者はM&Aアドバイザーとして10年以上の実績を持ち、これまで200件以上の中小企業M&Aを支援。中小企業庁登録のM&A支援機関として、信頼性・誠実性・専門性を重視した伴走型支援を提供しています。

この記事を読むことで、「今、自社が何をすべきか」「誰に相談すべきか」が見えてくるはずです。物流業界で後悔しないM&Aを実現するための第一歩として、ぜひ最後までご覧ください。

1.物流業界でM&Aが注目される理由とは?

市場規模と人材不足がもたらす構造的課題

物流業界では今、企業同士の合併や買収(M&A)に注目が集まっています。その背景には、非常に大きな市場規模と深刻な人材不足という2つの要因があります。

国土交通省の資料によれば、物流業界の市場規模は年間20兆円を超えており、日本の産業全体にとって欠かせない存在です。とくにEコマース(ネット通販)の急拡大や、都市圏と地方を結ぶ中継機能の重要性が増すなかで、物流業界の役割は年々高まっています。

しかし、その一方で大きな問題になっているのが人手不足です。以下のように、ドライバーを中心とした労働力の確保が困難になってきています。

  • 少子高齢化により若年層の採用が困難
  • ドライバー職の人気低下による応募者数の減少
  • ベテランの大量退職による技術継承の断絶

経済産業省・国土交通省・農林水産省が発表した「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」によると、2028年度にはおよそ27.8万人のドライバーが不足すると予測されています。このままでは全国で物流が滞り、商品が届かない、工場が止まるといった社会問題に発展しかねません。

このような構造的な課題に対して、M&Aは非常に有効な打ち手です。たとえば、人材確保に成功している企業と合併することで、即戦力のドライバーを確保できます。また、採用ノウハウや研修制度を取り入れることも可能です。

実際、首都圏で業績を伸ばしていた物流企業A社が、地方都市で長年人材育成を行ってきたB社を買収したことで、全体の人員不足を解消し、即戦力のドライバーを確保できた事例もあります。人材面でのシナジー効果が非常に大きく、数年で利益率も向上しました。

このように、物流業界の構造的課題である「巨大市場ゆえの競争激化」と「深刻な人材不足」に対し、M&Aは確実な一手となり得ます。

2024年問題とM&A需要の高まり

物流業界におけるM&Aの注目度がさらに高まった背景として、「2024年問題」と呼ばれる働き方改革による労働時間の上限規制があります。

2024年4月から、トラックドライバーにも時間外労働の上限(年間960時間)が適用されるようになりました。これにより、長距離輸送が困難になる、収入が減少する、業務量に対して人員が足りなくなる、といった問題が多発しています。

以下のような影響がすでに各地で見られています。

  • 深夜・早朝便の減便や廃止
  • 長距離配送を担っていた中小企業の撤退
  • 荷主側のコスト増加・納期遅延

このような変化の中で、単独での生き残りが難しくなった中小物流会社が増えており、事業を維持するためにM&Aを検討するケースが急増しています。実際に、帝国データバンクの調査でも、物流業界のM&A件数は2023年度に前年度比15%増加しており、特に地方の中小企業による譲渡が目立っています。

また、大手物流企業や地域の有力企業にとっても、M&Aは有効な手段です。拠点網の補完、ドライバーの補充、ラストワンマイルの対応力強化といった目的で、地域密着型の物流会社を買収する動きが活発化しています。

たとえば、関東圏を中心に展開していたD社は、2024年問題への対応として、北関東の中小物流業者E社を買収。E社の配送ネットワークと人材を活用することで、規制の影響を最小限に抑えた安定運行を実現しました。このような戦略的M&Aにより、事業の持続性と競争力が向上しています。

つまり、2024年問題は単なる労働規制の話ではなく、物流業界全体の経営戦略を見直す大きな転換点です。そしてその解決策の一つとして、M&Aはますます現実的な選択肢となっているのです。

2.M&Aで解決できる物流業界の4つの課題

後継者不在の問題をどう乗り越えるか

物流業界では経営者の高齢化が進み、後継者が見つからず廃業を検討する中小企業が増えています。特に地方では、子どもや従業員に事業を引き継げず、存続を諦めざるを得ないケースも少なくありません。

中小企業庁の「中小企業・小規模事業者の事業承継に関する実態調査(2022年)」によると、約6割の経営者が60歳を超えており、うち半数以上が後継者未定という深刻な実情が明らかになっています。

このような状況に対し、M&Aは有効な解決策となります。第三者に会社を譲渡することで、事業の継続・従業員の雇用・取引先との関係性を保ったまま、ソフトランディング型の引退が可能になります。

たとえば、関西地方の運送会社A社は、経営者が70歳を迎えるにあたり後継者がいないままM&Aを決断。近隣の同業B社に株式譲渡することで、従業員や荷主との関係性を維持したまま円満に事業を承継しました。M&A後もA社の屋号やドライバーが引き継がれ、地域の信頼はそのままに継続されています。

このように、M&Aは単なる「売却」ではなく、「地域に必要な会社を次世代に残す選択肢」として、後継者不在という難題をクリアする実用的な手段といえます。

深刻な人手不足の解消方法とは

物流業界ではドライバー不足が大きな問題となっており、それが企業の成長や維持に直接的な影響を与えています。特に地方や長距離輸送を担う企業では、新たな人材の採用が困難な状況が続いています。

国土交通省の「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」によれば、2028年にはトラックドライバーが約27.8万人不足すると試算されており、企業単独では対応が難しい状況です。

ここで活用されているのが、M&Aによる人材リソースの統合です。人材確保に成功している企業との統合によって、即戦力のドライバーやスタッフを確保できるほか、教育・研修体制を共有することで新人の育成効率も高まります。

たとえば、首都圏を中心に業務を展開していた物流会社C社は、地方で安定した人材基盤を持つD社を買収。D社のドライバーをC社の案件に組み込むことで、繁忙期でも安定した配送体制を維持できるようになりました。また、D社の独自教育プログラムを社内全体に展開し、新人育成コストの削減にも成功しています。

このようにM&Aは、単なる「人手の足し」ではなく、「人材戦略そのものの刷新」につながる可能性を秘めており、物流業界における人手不足の根本的な解決に貢献します。

コスト高騰への対抗策としてのM&A

燃料価格の上昇や資材費の高騰、車両・設備の更新費用増加など、物流業界では経営コストの増加が避けられない状況です。とくに軽油価格の上昇は直撃となり、価格転嫁が難しい中小企業ほど経営が圧迫されています。

帝国データバンクの「燃料価格高騰に関する企業アンケート(2023年)」では、約6割の運送会社が「燃料コストが経営に重大な影響を与えている」と回答しており、価格競争力の低下による取引喪失も懸念されています。

このような課題に対して、M&Aは設備や拠点の共用、配送ルートの最適化といった「スケールメリット」によるコスト削減策を実現できます。重複していた支店や事務機能を統合することで、固定費の見直しも可能になります。

たとえば、関東に複数の営業所を持っていた物流会社E社と、同業のF社が統合した結果、倉庫や車両のダブりが解消され、年間約1,500万円の固定費削減に成功しました。さらに、共同仕入れによって車両購入価格や軽油単価の値引きも実現しています。

このように、M&Aによって物流資産を最適に再配置すれば、単独経営では不可能だったコスト構造の改善が可能となり、収益性の大幅な向上が期待できます。

物流ネットワークの拡大による競争力強化

中小物流会社にとって、取引エリアや物流拠点の限界は事業拡大のボトルネックとなります。特に「2024年問題」によりドライバーの労働時間が制限されたことで、長距離運行が難しくなり、近距離配送に特化したネットワークの構築が急務となっています。

M&Aは、新たな地域の物流拠点や配車網を短期間かつ低コストで獲得できる手段です。これにより、既存顧客の商圏拡大や、新規荷主の獲得にもつながります。

実際に、東北で展開していたG社が、関東に拠点を持つH社を買収することで、首都圏と東北を結ぶ幹線ルートを確保。荷物の集約効率が向上し、トラックの稼働率も改善されました。これにより輸送単価を抑えた高効率なネットワーク構築が実現し、他社との差別化にも成功しています。

このように、M&Aは「単なるエリア拡大」ではなく、「成長戦略の実行手段」として機能し、中小物流会社が大手に対抗できるポジションを築く大きな武器となり得ます。

3.物流会社がM&Aを成功させるためのポイント

シナジーのある相手企業をどう見極めるか

M&Aを成功させるうえで最も重要なことのひとつが、「相性の良い相手企業を選ぶこと」です。特に物流業界では、単に業種が近いだけではなく、経営資源・戦略・人材・顧客基盤の相互補完が見込める“シナジー(相乗効果)”を重視することが成功の鍵を握ります。

たとえば以下のような観点から、相手企業との相性を見極める必要があります。

  • 地理的補完性:拠点エリアが被らず、ネットワークが広がるか
  • サービス補完性:宅配・長距離輸送・倉庫業など、異なる機能を持つか
  • 顧客基盤の重複:既存の取引先とバッティングせず、売上の加算が見込めるか
  • 文化・価値観の相性:従業員の意識や経営方針が極端に異ならないか

このような「補完性」が高い場合、M&A後に得られるメリットは単なる規模の拡大にとどまらず、以下のような成果が期待できます。

  1. 業務効率化によるコスト削減
  2. 人材・ノウハウの共有によるサービス品質向上
  3. 新しいエリア・新しい市場への進出

実例として、九州で中距離輸送を中心に事業展開していたA社が、長距離輸送を得意とする関西のB社とM&Aを行ったケースがあります。両社は得意領域が異なりつつも、共通の荷主を複数持っていたことから物流網の統合によって効率化が進み、結果的に顧客満足度の向上とコスト削減の両立を実現しました。

このように、M&Aにおける相手企業の選定は「事業の延長線上にあるか」だけでなく、「どれだけ補完できるか」「どれだけ重なりを避けられるか」といった視点が非常に重要になります。

物流業界に強いM&Aアドバイザーの選び方

M&Aは多くの専門知識と実務的な対応が求められるプロセスです。特に物流業界では、車両・ドライバー・倉庫・荷主との契約・許認可など、業界特有の論点が多数存在するため、一般的なM&A支援者では対応しきれない場合もあります。

したがって、物流業界でM&Aを成功させるには、以下のような「業界知見を持ったM&Aアドバイザー」を選ぶことが重要です。

  • 過去に物流業界の成約実績が複数ある
  • 許認可やドライバー人事、車両・倉庫の名義変更など実務面に精通している
  • 物流業界特有のバリュエーション(評価方法)を理解している
  • 事業承継と成長支援の両方に視野を持っている

さらに、アドバイザー選定時には以下のポイントを押さえることで、信頼できるパートナーを見極めやすくなります。

チェック項目 確認すべきポイント
実績 物流業界でのM&A支援事例があるか
対応力 許認可や労務などの実務対応まで支援できるか
透明性 報酬体系やプロセス説明が明瞭か
コミュニケーション 対話の中でこちらの意図を正確に汲み取れるか

実際に、関東圏で展開していた中小運送業C社は、営業主体のM&A仲介会社と契約してしまい、物流免許の承継に関する知識不足からクロージング直前で契約が破談になるという失敗を経験しました。その後、物流M&Aに特化したアドバイザーに依頼し直したことで、スムーズに買い手との交渉と契約締結が完了しました。

このように、アドバイザー選びはM&A成功の可否を左右する極めて重要なステップです。特に物流業界のように専門知識を要する分野では、「業界経験があるかどうか」が何よりも重要な選定基準になります。

4.物流業界におけるM&Aの具体的な成功事例

物流拠点の拡大に成功した買収事例

M&Aは、物流会社が短期間で効率的に拠点を増やすための手段として多く活用されています。自前で新しい拠点を立ち上げるには、土地の取得・建物の建設・採用・許認可取得など多くのコストと時間がかかりますが、既存企業を買収すれば、これらを一気に手に入れることが可能です。

実際、関東圏で倉庫配送を主力とする物流会社A社は、関西進出の足掛かりとして、既に同エリアに営業所と物流拠点を持つB社を買収しました。B社は長年、食品関連の配送を担っており、地域に根ざした取引先と実績を有していました。

この買収により、A社は以下のような成果を得ることができました。

  • 新規拠点開設に比べてコスト・時間を大幅に削減
  • 関西での認知度があるB社のブランド力を活用
  • 現地ドライバーやスタッフの即時戦力化

この事例では、拠点そのものだけでなく、「地域の信用」や「現場オペレーションのノウハウ」も含めて取り込むことができ、単なる物理的拠点の獲得にとどまらないM&Aの価値が発揮されました。

大手傘下で経営基盤を強化したケース

中小物流企業にとって、資金力や人材の面での限界が経営の継続を難しくする要因となっています。とくに、後継者が不在の場合、事業承継と経営基盤の維持を両立させるのは容易ではありません。

そうしたなかで注目されているのが、大手物流企業の傘下に入る形でのM&Aです。実例として、地方都市で長年地域配送を担ってきた中小物流会社C社は、ドライバーの高齢化と設備の老朽化により経営が不安定になっていました。そこで、大手グループD社への株式譲渡を選択しました。

譲渡後の成果は以下のとおりです。

  • D社の財務基盤により車両・倉庫の更新を実現
  • 研修制度の導入により若手ドライバーの定着率が向上
  • 販路拡大により新たな荷主を獲得

C社の社名や従業員はそのまま残され、地域密着の物流サービスは継続されました。オーナーは段階的に経営から引退し、従業員の雇用と地域貢献の両立に成功したM&A事例といえます。

このような「守りながら引き継ぐ」M&Aは、単なる買収ではなく「経営資源の融合」を通じた成長のかたちとして、多くの中小物流会社にとって現実的な選択肢となっています。

合併によるネットワーク強化の実例

M&Aの手法のひとつである「合併」は、複数の会社を1つに統合することで、物流ネットワークを再編成し、全体の効率を飛躍的に向上させる効果があります。

たとえば、全国に複数の子会社を持っていたホールディングカンパニーE社は、それぞれの拠点で業務の重複やルートの非効率が課題となっていました。そこで、グループ4社を1社に統合する合併を実施し、以下のような効果を得ました。

合併前の課題 合併後の改善効果
同一エリアに複数営業所が存在 拠点統合によりコスト削減
会社ごとに異なるシステムを使用 業務システムを一本化し作業効率UP
ドライバーの配車管理がバラバラ 統一管理により空車率が減少

このように、合併を通じて“物流網の再構築”が進み、結果としてサービスレベルの向上・コストの最適化・社内オペレーションの標準化が実現されました。

また、荷主からの信頼度も向上し、合併後1年以内に大手メーカーとの新規契約にも成功しています。M&Aのなかでも「合併」は大胆な選択ですが、経営体力を再構築し、事業成長の加速を狙う有効な手法といえるでしょう。

5.M&Aの進め方と実行時の注意点

どのような手法(株式譲渡・事業譲渡等)を選ぶべきか

物流業界でM&Aを実行する際には、譲渡の方法を慎重に選ぶことが重要です。主に使われる代表的な手法には「株式譲渡」と「事業譲渡」があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。

株式譲渡とは、会社の経営権を株式ごと買い手に移す方法です。これにより、会社の契約・従業員・許認可などが原則としてそのまま引き継がれます。

一方で、事業譲渡は、会社の中の特定の事業や資産だけを選んで譲渡する方法であり、契約や従業員などは個別に再締結・同意が必要となります。

手法 メリット デメリット
株式譲渡
  • 許認可・契約関係をそのまま引き継げる
  • 従業員の雇用契約も維持されやすい
  • 簿外債務や過去の責任も引き継がれる
  • 税務や法務のデューデリジェンスが重要
事業譲渡
  • 不要な資産・契約を除外できる
  • 譲渡対象を柔軟に設計できる
  • 許認可・契約の再取得が必要
  • 従業員の同意が必要で実務が煩雑

たとえば、関東圏の中堅運送会社A社が株式譲渡で大手グループに入り、免許・契約をそのまま引き継いでスムーズに統合された例があります。一方、別のケースでは事業譲渡により倉庫事業だけを売却し、配送部門は引き続き自社で運営するという形も取られています。

このように、譲渡の目的や範囲、将来の経営方針に応じて、最適な手法を選ぶことがM&A成功の第一歩です。物流業界は許認可やドライバー契約などの専門的要素が多いため、慎重な検討が欠かせません。

交渉や契約で注意すべきリスクとは

M&Aのプロセスは、単に相手が見つかれば終わりではありません。交渉段階から契約締結に至るまで、多くのリスクが潜んでおり、これを事前に理解しておくことが重要です。

物流業界において特に注意すべきリスクは以下のとおりです。

  • 簿外債務:未計上の残業代、事故賠償金、税務リスクなど
  • 許認可の承継:事業譲渡の場合は運送業許可の再取得が必要
  • 労務トラブル:ドライバーの雇用条件や退職リスク
  • 荷主との契約継続性:M&A後も契約が維持されるとは限らない

これらのリスクを回避するためには、「表明保証条項」や「クロージング条件」など、契約書での明文化が極めて重要です。表明保証条項とは、「売り手が提供した情報に間違いがないことを約束する条項」であり、万が一虚偽が発覚した際に損害賠償請求の根拠になります。

また、以下のような注意点を押さえることで、交渉段階でのトラブルを未然に防ぐことができます。

  1. 秘密保持契約(NDA)は必ず締結する
  2. 基本合意書(LOI)で取引条件を明文化する
  3. 買収監査(DD)で法務・税務・労務の確認を徹底する
  4. 契約書には具体的な条項と解除条件を記載する

たとえば、地方の物流会社B社は、買収先C社との交渉で表明保証条項を曖昧にしたまま契約を締結した結果、後から倉庫に未払賃料があることが発覚し、損害賠償請求につながったという事例があります。

このように、交渉段階では「好条件を出すこと」よりも、「リスクを想定し、備えること」の方がはるかに重要です。経験豊富なM&Aアドバイザーや弁護士と連携し、契約内容の詰めを怠らないようにしましょう。

6.物流業界でM&Aを成功させるための準備とは?

企業価値評価の基本と実務のポイント

M&Aを成功に導くためには、自社の「企業価値」を適切に把握しておくことが重要です。物流業界における企業価値評価では、単なる売上や利益だけでなく、保有する車両、倉庫、物流ネットワーク、顧客との取引継続性、さらにはドライバーの在籍状況や事故率までが評価対象となります。

評価手法としては主に以下の3つが用いられます。

  • EBITDAマルチプル法:営業利益+減価償却費を指標にした利益ベースの評価
  • DCF法(ディスカウントキャッシュフロー):将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて算出
  • 純資産法(簿価純資産+含み益):保有資産の時価ベース評価

国土交通省や中小企業庁が示す指針では、非上場の中小物流会社の評価においてはEBITDAマルチプル法が最も現実的とされており、一般的には2倍〜6倍の範囲で評価されることが多いです。

たとえば、営業利益が2,000万円で減価償却費が1,000万円の企業の場合、EBITDAは3,000万円となり、マルチプル4倍が適用されれば、企業価値は1億2,000万円となります。

ただし以下のような要素によって評価倍率は大きく上下します。

評価を上げる要素 評価を下げる要素
  • 長期の安定荷主が複数いる
  • ドライバーの定着率が高い
  • 事故率やクレームが低い
  • 最新車両・設備の保有
  • 荷主の依存度が高い(単一比率50%以上)
  • ドライバーが高齢化している
  • 簿外債務(未払い残業代など)の懸念
  • 帳簿と実態に乖離がある

実例として、関東の物流会社A社は事業承継に向けて事前に財務と車両台帳を整備し、営業利益2,500万円・EBITDA3,800万円に対して5倍のマルチプル評価を得て、約1億9,000万円での譲渡を実現しました。このように、事前の整理と実態に即した資料整備が評価額を大きく左右します。

つまり、M&Aを有利に進めるには、自社の強みを「見える化」し、定量評価につなげる準備が欠かせないのです。

社内体制・財務・法務の事前整理

M&Aをスムーズに進めるためには、社内体制や財務・法務に関する情報の整理も不可欠です。買い手企業は、契約前に「デューデリジェンス(詳細調査)」を行い、会社のリスクや課題を確認します。この際に情報が整っていなければ、交渉が難航し、最悪の場合は破談に至ることもあります。

物流会社が事前に整理しておくべき主な項目は以下の通りです。

  1. 会社情報:登記簿、定款、組織図、役員一覧
  2. 財務情報:直近3期分の決算書、試算表、税務申告書
  3. 許認可関係:運送業免許、倉庫業登録、各種届出状況
  4. 人事労務:従業員リスト、雇用契約書、賃金台帳、社会保険加入状況
  5. 物的資産:車両台帳、設備一覧、リース契約書
  6. 顧客情報:主な荷主との契約書、売上推移、依存度

また、以下のような整理が不足していると、M&A後のトラブルや契約遅延の原因となるため注意が必要です。

  • 複数の契約書が紛失・未更新になっている
  • 車両名義が個人や旧法人のままになっている
  • ドライバーの就業条件が口約束で整備されていない
  • 未払い残業代や訴訟リスクが潜在している

実際、関西の物流会社B社では、従業員との労務トラブルに関する情報が事前に開示されておらず、買収交渉中に明るみに出たことでディールが延期されました。結果として半年以上クロージングが遅れ、買い手側からの評価も引き下げられることとなりました。

このような事態を避けるためにも、「整理できることは早めに整理する」ことが重要です。情報の整備は時間がかかる作業ですが、早期に取りかかることで買い手からの信頼を得ることができ、交渉を有利に進めることが可能となります。

中小企業庁やM&A支援機関が提供する「M&A事前準備チェックリスト」なども活用しながら、社内体制の見直しを一歩ずつ進めていくことが、理想的なM&A成功への近道です。

7.物流業界の今後の展望とM&A戦略の必要性

脱・単独経営と持続可能な物流体制へ

物流業界の将来を見据えたとき、「単独経営」の限界はますます明確になりつつあります。人口減少、2024年問題、燃料費の高騰、荷主からのコストダウン要求といった外的要因が複雑に絡み合う中で、従来の“自社だけで頑張る”経営モデルでは、持続可能な運営が難しくなってきているのが現実です。

経済産業省や国土交通省の発表資料でも「中小物流事業者の連携・統合」が、物流維持のために不可欠であると明記されており、政府もM&Aや事業連携を支援する姿勢を強めています。

以下のような課題を抱える企業にとって、M&Aは有力な選択肢になります。

  • 後継者不在で将来が不安
  • ドライバー不足で受注を断っている
  • 運行コストが収益を圧迫している
  • 地域競争で荷主を奪われている

これらの課題をM&Aによって乗り越えた例として、九州エリアで活動していた中堅運送会社A社のケースがあります。A社は長年、地元密着で事業を展開してきましたが、ドライバー不足と価格競争の激化で赤字が続いていました。そんな中、近隣で安定経営を続けていたB社との統合を決断し、ドライバーの相互融通や配送エリアの最適化を実現。両社が一体となることで、運行効率が向上し、地域の物流インフラとしての役割も強化されました。

今後は以下のような方向性が、持続可能な物流業界を築く鍵となります。

  1. 同業者間の水平統合によるドライバー・車両の共有
  2. 異業種連携による新たな収益モデルの開発(例:EC物流・3PL)
  3. 地方と都市部の企業が補完し合うネットワーク構築

このように「1社で完結するビジネスモデル」から「連携・統合による共同体制」へシフトしていくことが、物流業界が生き残るための戦略的な進化といえるでしょう。そして、これを実現する手段こそがM&Aなのです。

買い手企業から見た魅力的な売却条件とは

M&Aは売り手企業だけでなく、買い手側にとっても成長戦略として重要な選択肢です。特に物流業界においては、短期間で新たな地域へ進出したり、人材や車両を確保する手段として、買収を積極的に検討する企業が増えています。

買い手が「この会社なら買いたい」と思う条件には、以下のような要素があります。

魅力的な要素 評価のポイント
荷主との安定した契約 複数年契約や長期的な取引実績があるか
ドライバーの定着率 人材の流動性が低く、採用・教育コストが抑えられる
管理体制の整備 配車・労務・安全面でのマネジメント体制があるか
財務の透明性 決算書や契約書類が整っており、リスクが見えやすい
将来性のある市場や立地 商圏に伸びしろがあり、拠点展開に有利な場所か

例えば、関東の買い手企業C社は、信越エリアで長年にわたり食品配送を行っていたD社を買収。D社は財務状態は平均的でしたが、「食品関連に特化したノウハウ」「事故率の低さ」「長年の契約荷主」が評価され、D社の買収を通じて首都圏以外の商圏にも展開できるようになりました。

このように、「自社では手が届かないエリア・ノウハウ・人材」を一気に獲得できることが、買い手にとっての大きな魅力です。そのためには、売り手側が自社の強みを明文化し、整理しておくことが極めて重要です。

逆に、以下のようなケースでは評価が下がる傾向にあります。

  • 主力荷主が1社に依存している
  • 車両名義や契約書類が未整理
  • 従業員の高齢化が進み、後継人材が育っていない

このような問題点は、事前に改善・整理することで買い手からの印象が大きく変わります。M&Aは「売却」ではなく「価値の移転」であり、相手にとって魅力的な事業であるかどうかが成功の分かれ道となります。

まとめ

物流業界では、人手不足や後継者不在、2024年問題などの課題が深刻化しています。こうした状況において、M&Aは事業の持続と成長を実現するための有力な選択肢となります。成功に導くためには、正しい準備と信頼できる専門家の支援が欠かせません。

  1. M&Aで事業承継を実現できる
  2. 人手や拠点を効率的に確保可能
  3. 買い手視点の準備が重要である

アーク・パートナーズでは、物流業界に精通したM&A支援を行っています。詳しく知りたい方は、ぜひアーク・パートナーズまでお問い合わせください

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