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SES事業は売れる?M&Aで後悔しないための進め方と成功事例をプロが解説」

「SES事業って本当に売れるの?」「うちの会社でもM&Aは可能?」「どうすれば高く売却できる?」
そんな不安や疑問をお持ちではありませんか?

本記事では、SES業界の最新動向からM&Aの進め方、成功事例まで、現役のM&Aアドバイザーがわかりやすく解説します。

■本記事を読むと得られること

  1. SES業界でM&Aが活発化している理由がわかる
  2. 自社の売却相場や最適な進め方が理解できる
  3. M&Aで後悔しないための準備と注意点がわかる

■本記事の信頼性
筆者はM&Aアドバイザー歴10年以上、200件以上のM&A支援実績を持ち、中小企業庁の登録M&A支援機関として活動しています。誠実・高品質・スピード感ある支援を信条としています。

この記事を読めば、自社のSES事業をどのように評価・売却し、理想的なM&Aを実現するかの全体像がつかめます。
事業承継や成長戦略の選択肢としてM&Aを前向きに検討する一歩となるはずです。

ぜひ最後までお読みいただき、後悔のない判断にお役立てください。

1. SES事業とは?仕組みと特徴をわかりやすく解説

SES契約の基本と派遣との違い

SES(システムエンジニアリングサービス)契約は、企業がITエンジニアの技術支援を受けるための契約形態の一つで、SES企業がエンジニアを自社から派遣し、クライアント先で開発業務や運用保守を行うというモデルです。

この契約形態は、見た目こそ「派遣」と似ていますが、法的にはまったく異なります。SES契約は「準委任契約」と呼ばれ、指揮命令権(仕事の指示を出す権利)はSES企業側にあります。一方、「人材派遣契約」は労働者派遣法に基づき、派遣先のクライアントが指揮命令権を持つという点で、法的位置づけが明確に異なります。

項目 SES契約 派遣契約
契約形態 準委任契約 労働者派遣契約
指揮命令権 SES企業にあり クライアントにあり
業務内容 技術支援・開発補助 明確な業務命令に従う
成果物の有無 業務遂行が目的(成果物なし) 業務遂行が目的(成果物なし)

つまり、SES契約ではエンジニアは「業務の一部」を支援するという立場であり、成果物の納品を求められる請負契約とも違います。契約上の責任や業務管理の主導権が異なるため、M&Aの際には契約形態ごとのリスクや価値の違いを把握しておくことが重要です。

このような違いを正確に理解することで、買い手企業との交渉時に的確な説明が可能となり、評価や条件交渉を有利に進められます。

SES企業のビジネスモデルと課題点

SES企業のビジネスモデルは、主に「人月単価」と「稼働率」によって成り立っています。エンジニア1人を1か月間常駐させた際の報酬(人月単価)×稼働月数が売上に直結する構造であり、人的リソースの最適配置が収益性の鍵を握ります。

このモデルには以下のような特徴があります。

  • エンジニアを多数抱えているほど売上の安定性が高まる
  • 在籍エンジニアのスキルや対応力によって単価が上下する
  • プロジェクトの終期や空白期間(待機)が発生すると、収益が落ちやすい

収益性を高めるためには、「技術力の高いエンジニアの確保」「待機を減らす営業力」「クライアントとの長期契約」が重要になります。一方で、以下のような課題も指摘されています。

  • 深刻なIT人材不足により採用が困難
  • エンジニアの離職率が高く、人材流動性が激しい
  • 多重下請け構造の中で価格競争が激化しやすい

経済産業省とIPA(情報処理推進機構)の「IT人材白書2024」によると、日本国内のIT人材不足は今後さらに深刻化する見込みで、2030年には最大で79万人が不足する可能性があるとされています。

また、SES業界に多い多重下請け構造では、元請け → 一次請け → 二次請け → SES企業 というように業務が再委託され、末端のSES企業は価格決定権が弱くなるという構造的な課題を抱えています。

以下は、SES企業の典型的なビジネスモデル構造図です。

立場 役割 収益性
元請企業 クライアントから案件受注・設計管理
1次請け 一部実装・サブ管理
2次請け以下(SES) 人材提供(SES契約)

このような構造の中では、SES企業は利益率が低く、持続的な成長のためには「直請け案件の増加」や「エンジニア育成・定着化の強化」が欠かせません。

また、M&Aを通じて規模の大きな企業グループに属することで、元請との直接契約の機会を得られるケースもあり、事業のステージを一段階上げる戦略としても注目されています。

結論として、SES契約は派遣や請負とは異なる独自の特徴を持ち、SES企業は人材の確保と稼働率の最適化によって利益を生み出すモデルであるといえます。しかしながら、人材不足や多重下請けという構造的課題も大きく、経営の安定化や事業承継の観点からM&Aを活用する価値は非常に高いといえるでしょう。

2. 今、なぜSES業界でM&Aが増えているのか?

深刻な人材不足と多重下請け構造

近年、SES業界でM&Aが急増している最大の理由のひとつが、深刻なIT人材不足と業界に根付いた多重下請け構造です。特に中小規模のSES企業では、優秀なエンジニアを確保できず、人材の入れ替わりや空白期間(待機)の増加によって、安定経営が難しくなっています。

経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発表した「IT人材白書2024」では、2030年には日本国内で最大79万人のIT人材が不足すると予測されています。さらに、帝国データバンクが2024年に実施した調査でも、情報サービス業の企業のうち71.9%が「正社員が不足している」と回答しており、人材不足は業界全体の構造的な課題といえます。

こうした状況の中で、以下のような問題がSES企業を直撃しています。

  • 採用コストの上昇と人材確保の難化
  • 優秀なエンジニアの他社への流出
  • エンジニアの離職率上昇により顧客対応に支障
  • 案件に対応できる人員が足りず、売上が不安定化

さらに業界内では、「多重下請け構造」が慢性化しています。これは、元請企業から下請け、さらにその下の2次・3次請けへと業務が再委託されていく構造であり、SES企業が末端に位置することが多くなっています。この構造には以下のようなリスクが潜んでいます。

リスク項目 具体的な影響
価格決定権の喪失 中抜きにより利益率が低くなる
責任の不明確化 トラブル時の責任所在が曖昧になる
コミュニケーション不足 エンドユーザーの意図が正しく伝わらない

このような課題を解消する手段の一つが「M&A」です。例えば、自社単独では人材確保が難しい企業が、同業他社と統合することで、エンジニアの数を増やし、対応力や営業力を強化することができます。また、M&Aにより多重下請け構造の“上流”に近づくことで、価格決定権や元請との直接取引の機会を得る企業もあります。

実際に、東京都内のSES企業A社は、エンジニアの確保が限界に達し、業績も横ばい状態が続いていた中、エンジニア50名以上を抱えるB社との統合M&Aを実施。統合後は元請からの直接案件が増え、営業利益率が1.8倍に向上したという成功事例があります。

このように、人材不足や下請け構造に悩むSES企業にとって、M&Aは事業継続や成長の切り札となり得るのです。

市場成長と競争激化が背景にある理由

IT業界全体の市場成長が続く中、SES業界もその恩恵を受けており、M&Aが活発化するもう一つの要因となっています。デジタル化の波は大企業だけでなく中小企業にも及んでおり、システム開発・運用・保守の需要は年々増加しています。

IDC Japanが発表したレポートによると、2023年の世界ソフトウェア市場は前年比12.5%増の約9,506億ドルに達し、日本国内市場も同年9.5%増の約4兆6,800億円まで成長しました。この成長を支える重要な要素が、システム開発や保守を担うSES人材なのです。

このような背景から、企業の間で以下のような動きが活発化しています。

  • 自社の開発体制を強化するためのSES企業買収
  • 外注コストを削減するためのグループ内SES体制構築
  • 自社プロダクトの開発・保守の内製化

特にクラウドサービスやSaaS、AI、IoT分野の開発ニーズが高まっており、それに対応できるエンジニアを多く抱えるSES企業は、買い手にとって魅力的なM&A対象とされています。

また、成長市場では新規参入企業も増え、競争が激化しています。そのため、規模拡大や取引先開拓を急ぐ中堅SES企業が、競合との差別化を図るためにM&Aを活用するケースも増えています。これは、業界内での生存競争を勝ち抜くための戦略的な動きと言えるでしょう。

一例として、関西地方の中堅SES企業C社は、AI開発に強みを持つスタートアップ企業を買収し、エンドユーザー向けの提案力を飛躍的に向上させました。このM&Aを機に、既存の開発案件にAI分析機能を追加するなど、サービス価値を高めることに成功しています。

このように、SES業界のM&Aは、単なる事業承継や人材確保だけでなく、技術力や提案力の強化、サービスの多角化など、成長加速の手段としても注目を集めているのです。

以上のように、M&AがSES業界で増加している背景には、構造的な人材不足や業界課題の解決ニーズに加え、市場の拡大と競争激化という外部環境の変化が複雑に絡み合っています。これからM&Aを検討する経営者にとって、こうした業界トレンドを理解することは、戦略的な判断を下すうえで非常に重要です。

3. SES企業はM&Aでいくらで売れる?相場と評価方法

売却価格の計算式と“のれん”の考え方

SES企業を売却する際、「いくらで売れるのか」という価格は、複数の要素を元に算出されます。基本的には「企業価値」と「株主価値」をもとに、最終的な譲渡価格が決定されます。

その中でも中小企業のM&Aでは、「時価純資産」に「営業利益の◯年分(営業権)」を加えるという方法が一般的です。この営業権のことを“M&Aにおけるのれん”と呼びます。のれんは、その会社が将来にわたって生み出す収益性や競争力、ブランド価値などを金額に換算したものであり、目に見えない価値の評価と言えます。

以下に、基本的な売却価格の算出方法を示します。

項目 内容
時価純資産 資産−負債(簿価でなく市場価格ベース)
営業利益 本業で稼いだ利益(調整後ベース)
のれん(営業権) 営業利益 × 評価年数(3〜5年程度)
売却価格 時価純資産 + のれん

たとえば、時価純資産が5,000万円、営業利益が2,000万円の企業の場合、以下のように計算されます。

  • のれん:2,000万円 × 3〜5年 = 6,000〜1億円
  • 売却価格:5,000万円 + 6,000〜1億円 = 1.1〜1.5億円

このように、営業利益が安定していればしているほど、高い評価がつきやすくなります。また、業績だけでなく「属人性の低さ(経営者が抜けても回る組織)」や「安定した取引先との契約」「エンジニアの継続稼働率」なども、のれんに加味される要素です。

また、のれんを高く評価してもらうには、役員報酬など調整可能な経費を除いた「実質的な営業利益」を提示することが重要です。これを「調整後EBITDA」とも呼び、以下のような調整項目がよく使われます。

  • 役員報酬(市場相場との差額)
  • 不要な交際費や車両費
  • 一時的なコスト(退職金、訴訟費など)

このようにして調整された利益をベースにのれんを算出し、価格交渉が進んでいきます。

「技術者数×単価」で評価される実例も紹介

SES企業特有の評価方法として、在籍するエンジニア数とその「1人あたりの市場単価」をベースに企業価値を算出するケースもあります。これは、買い手にとってSES事業の価値=「どれだけの技術者が、どのくらいの売上を稼ぐか」に直結するからです。

たとえば、以下のような評価方法です。

評価項目 数値例 備考
エンジニア数 10名 常駐稼働中の正社員
1人あたり年単価 1,000万円 月単価約83万円
人材価値評価額 1億円 10名 × 1,000万円

この場合、企業の財務状況や利益が芳しくなくても、一定の稼働率を誇るエンジニアを10名抱えていれば、「即戦力人材の塊」として高評価を得る可能性があります。特に以下のような条件を満たすと、評価はさらに上がります。

  • Java、Python、PHPなど汎用的な言語に対応できる
  • 大手企業やSIerとの取引実績がある
  • 中長期契約で稼働している(3か月更新より1年契約の方が好印象)
  • 在籍年数が長く、定着率が高い

また、買い手企業が「内製化」や「受託開発部門の立ち上げ」を考えている場合には、既存で安定稼働している技術者集団は即時戦力として非常に魅力的です。そのため、利益が出ていなくても、技術者の質と数次第で高額な評価がつくケースも存在します。

実際に、ある関東圏のSES企業では、営業利益が年1,000万円にも満たなかったにもかかわらず、15名の常駐エンジニアが全員3年以上継続稼働していたことが評価され、約2億円の企業価値で買収される事例がありました。

このように、「技術者が事業そのもの」であるSES企業では、従来の財務指標だけでなく、人的リソースの質と安定性が価格に直結します。

まとめると、SES企業の売却価格は以下の2軸で評価されます。

  1. 財務ベースの「時価純資産+のれん」方式
  2. 人的リソースベースの「エンジニア数×市場単価」方式

どちらが重視されるかは買い手の戦略によって異なりますが、どちらの評価方法にも共通して重要なのは、「安定性」「属人性の低さ」「取引継続性」です。M&Aを成功させるには、これらを見える化し、第三者にもわかりやすく整理しておくことがカギになります。

4. SES事業のM&Aで選ばれる2つの手法(株式譲渡/事業譲渡)

会社ごと売る株式譲渡のメリット・注意点

SES企業のM&Aで最も多く用いられる手法のひとつが「株式譲渡」です。これは、売り手企業の発行済株式を買い手企業が取得することで、経営権そのものを移転する取引方法です。会社全体をそのまま売却する形になるため、M&Aの中では比較的手続きがシンプルで、スピード感をもって進めやすいのが特徴です。

この手法の主なメリットは以下のとおりです。

  • 会社に属する資産・負債・契約・従業員などを一括して引き継げる
  • 取引先や従業員との個別同意が不要で、事業の継続性が高い
  • 買い手にとって、即戦力としての事業インフラをそのまま活用できる

たとえば、エンジニア20名が常駐案件を複数抱えているSES企業が売却される場合、その案件や契約、チーム体制、社内システムなどすべてが維持されたまま新しいオーナーに引き継がれることになります。これにより、買収後すぐに売上が立ちやすく、M&A後の統合作業(PMI)も比較的容易です。

一方で、株式譲渡には以下のような注意点もあります。

  • 会社が抱える負債や簿外債務、訴訟リスクなどもすべて引き継がれる
  • 税務・法務・労務のデューデリジェンスが必須となり、確認コストがかかる
  • 個人株主が多い場合、全員の同意を得る必要があるケースもある

つまり、株式譲渡は一見シンプルに見えますが、買い手からすれば「過去のすべてを引き継ぐ覚悟」が求められます。そのため、過去の財務内容や契約書、未払い債務などの洗い出しが非常に重要になります。

実際に、あるSES企業では買収後に過去の未払残業代が発覚し、買い手企業が多額の和解金を支払う事態となったケースもありました。このようなリスクを防ぐには、事前の情報開示と専門家による徹底した調査が不可欠です。

結論として、株式譲渡は「そのまま引き継げる利便性」が最大の魅力ですが、「過去のリスクも丸ごと承継する」という点を理解し、しっかりと準備・交渉を行うことが求められます。

事業だけを切り出す事業譲渡の柔軟性

もう一つの代表的なM&A手法が「事業譲渡」です。これは会社そのものではなく、その中の特定の事業単位だけを切り出して売却する方法です。たとえば、「SES事業だけを売って受託開発は残す」「不採算部門だけを切り離す」など、売り手・買い手双方のニーズに応じた柔軟な設計が可能です。

事業譲渡のメリットは以下のとおりです。

  • 必要な資産や契約、人材のみを選んで引き継げる
  • 負債や不要な契約・トラブルを引き継がなくて済む
  • 法人格は残るため、売却後も別事業を続けられる

このように、売却対象を限定できるため、「良い部分だけを買ってもらう」「売却後も別の事業を手元に残す」など、戦略的な選択肢が広がります。実際に、経営者が高齢のため、SES事業を手放して受託開発だけに注力したいと考えるケースでは、事業譲渡が非常に有効です。

しかし、事業譲渡には以下のような課題もあります。

  • 契約・従業員・取引先などすべての移転に個別同意が必要
  • 手続きや調整に時間と労力がかかる
  • 一体的に動いていた事業機能が分断される恐れがある

たとえば、SES契約におけるクライアントとの準委任契約は、会社単位ではなく個別契約であるため、名義変更や再契約が必要になります。また、従業員を引き継ぐ際には、雇用契約の変更や同意取得が求められます。これらの対応を怠ると、契約解消や人材流出のリスクにつながります。

それでも、財務状態に不安がある会社や、一部の部門だけ売却したいという明確な意図がある場合には、事業譲渡が最適な手法となります。

事例として、関東のあるSES企業では、経営者が自社ビジネスを縮小する方針のもと、SES事業部門のみを大手SIerに事業譲渡。残った自社はフリーランス向けマッチング事業に転換し、売却益をもとに新規事業投資を実現しました。

このように、事業譲渡は「事業を売る」ことと「会社を残す」ことの両立ができる柔軟な選択肢であり、戦略的に大きな価値を生むことがあります。

まとめると、SES事業のM&Aにおける主な手法は以下の2つです。

手法 概要 主なメリット 主な注意点
株式譲渡 会社ごと売却し経営権を移転 手続きが簡易、契約の一括承継 リスクもすべて引き継ぐ
事業譲渡 必要な事業だけを売却 柔軟な切り分け、負債回避 移転手続きが煩雑

どちらの手法を選ぶべきかは、会社の状況・目的・リスク耐性によって異なります。売り手としては、「何を残し、何を手放したいのか」を明確にし、専門家と共に適切なスキームを選ぶことが成功の第一歩となります。

5. SES事業をM&Aで売却する5つのメリット

後継者問題の解決

多くの中小企業が抱える深刻な悩みの一つが「後継者不在」です。特にSES事業では、創業者自身が営業・人材管理などの中核業務を担っているケースが多く、次世代の経営者が見つからないまま廃業を検討する企業も少なくありません。

M&Aを活用すれば、経営を引き継いでくれるパートナー企業にバトンタッチできるため、事業の継続が可能になります。経済産業省の調査でも、事業承継の手段としてM&Aを選ぶ中小企業が年々増加しており、特にIT・SES業界ではその傾向が顕著です。

たとえば、東京都内で15名規模のSES企業を経営していたA社は、代表者の高齢化と後継者不在により廃業を検討していましたが、M&Aによって大手IT企業に譲渡し、技術者やクライアントとの取引をそのまま引き継ぐ形で事業を継続させました。従業員の雇用も守られ、クライアントにも迷惑をかけずに円満に引退できた好事例です。

まとまった資金の確保

M&Aの大きな魅力の一つは、会社の売却によって一括でまとまった資金が手に入る点です。創業者にとっては、長年の努力の成果を形にする“キャッシュアウト”のタイミングとも言えるでしょう。

売却金額は売上規模や利益、保有エンジニア数、取引先の信用力などを総合的に評価して決まりますが、うまく交渉すれば数千万円〜数億円の資金を得られるケースも珍しくありません。

実際に、名古屋市で10名体制のSES企業を営んでいたB社は、年商2億円・営業利益1,500万円という規模ながら、優良な金融業界向け顧客と安定した人材基盤が評価され、1.2億円で譲渡が成立しました。代表者はその資金で新たな事業を始める準備を進めており、「第二の人生」に踏み出すきっかけとなっています。

大手傘下での安定経営

M&Aにより大手企業のグループ傘下に入ることで、資金繰りや営業面での不安が解消され、経営の安定性が格段に高まります。SES業界は受注単価の低下や人材流出などのリスクを常に抱えており、資本力の弱い中小企業にとっては将来が不透明です。

しかし、大手グループと統合すれば、以下のような支援を受けられる可能性があります。

  • 大手顧客への営業支援
  • 資金面でのバックアップ
  • 採用や教育研修のノウハウ共有

大阪府のC社(技術者20名規模)は、慢性的な営業人員不足に悩んでいましたが、大手システムインテグレーターとのM&Aにより、グループ内の営業体制を活用して案件供給が安定。技術者の稼働率も向上し、業績がV字回復しました。

従業員のキャリア支援

M&Aを通じて従業員の雇用を守るだけでなく、キャリアパスやスキルアップの機会を広げることもできます。中小SES企業では限られた案件・環境の中でしか働けない技術者も多く、「スキルが頭打ちになってしまう」などの悩みを持つ社員も少なくありません。

しかし、大手グループに参画することで以下のような変化が期待できます。

  • 上流工程や新技術案件へのチャレンジ
  • ジョブローテーションによる経験値向上
  • 人事制度・福利厚生の充実

千葉県のD社では、20代の若手エンジニアが中心でしたが、M&A後に大手グループ企業の制度により、AI・クラウド系などの高度案件への参加が可能に。技術者満足度が大幅に向上し、離職率の改善にもつながりました。

自社のブランド価値継承

M&Aというと「会社がなくなる」と思われがちですが、買い手がその会社のブランドや評判を重視している場合、名称や理念、サービス内容をそのまま残すケースも多くあります。特にSES業界では、取引先からの信頼や独自の人材育成スタイルなど、目に見えにくい価値が評価対象になることがあります。

北海道で展開していたE社は、「若手エンジニア育成に強いSES企業」としてのブランドが評価され、M&A後も社名・事務所・採用方針をそのまま維持する形で譲渡が成立。代表者は顧問として関わり続けながら、ブランドの成長を見守る立場に移行しました。

このように、単に「売却して終わり」ではなく、自分が築いてきた価値を残す形でのM&Aも十分可能なのです。

まとめ

SES事業のM&Aには、単なる資金確保にとどまらず、後継者問題の解決、従業員の雇用安定、企業ブランドの継続といった多面的なメリットがあります。事業を未来に引き継ぐ有効な手段として、前向きに検討する価値があるでしょう。

6. SESのM&Aで失敗しないための注意点

売却先選定の落とし穴とは?

SES事業のM&Aで最も多い失敗のひとつが、売却先の選定ミスです。表面上は良さそうな企業であっても、実際には経営方針や社風がまったく合わず、統合後にトラブルになるケースが少なくありません。

たとえば、売却先が「人材確保」だけを目的としていた場合、既存のSES企業の文化や営業スタイル、人材育成ノウハウをまったく尊重しないまま吸収しようとする恐れがあります。結果として、従業員のモチベーションが低下し、離職が相次いでしまう可能性があります。

また、買い手がM&Aの経験に乏しく、統合プロセスに関する理解が浅い場合、期待していたシナジーがまったく生まれないこともあります。M&Aは単なる「買う・売る」の取引ではなく、その後の“融合”が極めて重要です。

売却先を選ぶ際には、以下のようなチェック項目を意識することが大切です。

  • 業界理解が深く、SES事業に対するリスペクトがあるか
  • 統合後の具体的なビジョンを語れるか
  • 従業員や既存クライアントへの影響をどう考えているか
  • 過去のM&A実績があるか、あるいは経営の柔軟性があるか

このように、「価格が高いから」「有名企業だから」といった表面的な要素だけで判断するのは非常に危険です。経営者自身が「この人になら任せたい」と思える買い手を選ぶことが、M&A成功への第一歩となります。

従業員への配慮と情報公開のタイミング

M&Aを進めるうえで特に気をつけたいのが「従業員への配慮」と「情報開示のタイミング」です。SES事業は“人”が資産そのものであり、技術者の不安や不信感が離職につながるリスクが非常に高い業界です。

一般的に、M&A交渉の初期段階では情報を社内に公開せず、水面下で買い手候補とやりとりを行います。これは風評リスクや社内混乱を避けるためですが、契約締結直前や直後に突然「売却が決まりました」と伝えると、裏切られたと感じる従業員も出てきます。

従業員が多いSES企業の場合は、下記のような段階的アプローチが有効です。

  1. M&A交渉開始時は経営層や信頼できる幹部のみで情報共有
  2. 基本合意締結後はキーマン技術者やマネージャーに個別説明
  3. 最終契約後に全社への説明会を実施し、買い手側の意向も共有

このとき、単に「会社が売れる」という事実だけでなく、以下のようなポイントも丁寧に説明することが重要です。

  • 雇用条件や業務内容がどう変わるのか
  • 統合後の評価制度・キャリアパス
  • 買い手企業のビジョンと価値観

東京都内のSES企業F社では、最終契約の1ヶ月前から現場リーダー層への説明会を複数回開催し、不安点のヒアリングと買い手との面談を実施。結果として、離職者ゼロでの統合を実現しました。

デューデリジェンス対策は早めに着手を

M&Aにおける重要なプロセスのひとつが「デューデリジェンス(DD)」です。これは買い手企業が売り手企業の実態(財務、法務、人事、契約など)を詳細に調査するもので、ここで問題が見つかると価格が下がったり、最悪の場合は取引中止になることもあります。

特にSES企業では、以下のような点がDDでチェックされやすいです。

  • 契約書の有無や内容(準委任契約/請負契約)
  • 技術者ごとの稼働実績と給与水準
  • 請求先との取引条件や与信リスク
  • 労働問題やコンプライアンス違反の有無

このような調査に備えるには、少なくともM&Aを検討し始めた段階から、次のような準備をしておくことをおすすめします。

対策内容 具体的な準備
契約管理の整備 SES契約書・業務委託契約書を電子保管+最新版の整理
人事・労務の整備 就業規則、雇用契約書、勤怠データを整備
財務の透明化 月次試算表、顧客別売上・粗利の一覧化

たとえば、ある関西のSES企業G社では、過去の契約書が紙でバラバラに保管されていたため、DD時に再提出を求められて対応が遅れ、交渉の信頼性が低下した事例もあります。

こうしたリスクを避けるためにも、M&Aの検討段階から「いつDDが来ても大丈夫な状態」を意識した管理体制の整備が必要です。

まとめ

SES事業のM&Aを成功させるためには、「誰に売るか」の見極めと、従業員との信頼関係を壊さない丁寧な情報共有、そして早期の準備が不可欠です。表面上の条件に飛びつかず、自社と従業員にとって本当に良い選択かを冷静に判断しましょう。

7. 高く売るために今からできる準備と改善ポイント

黒字化とコスト構造の見直し

SES事業を高く売却するには、まず何よりも「黒字化」が重要です。赤字や利益が出ていない状態では、どれだけ売上があっても評価は低くなりがちです。買い手は事業の将来性とともに、投資に見合うリターンを重視するため、安定した利益体質が最大のアピール材料となります。

また、表面的な黒字ではなく「実質的な利益」に注目される傾向があります。たとえば、役員報酬を過大にしていたり、交際費や出張費が過度に計上されていたりする場合、これらを修正することで「実力のある利益」を提示することができます。

次に見直すべきはコスト構造です。特にSES企業では、下記のようなコスト項目が評価に直結します。

  • 技術者への報酬水準と稼働率
  • 営業・管理部門の人件費と役割の適正性
  • オフィスや通信費など固定費の最適化

たとえば、東京都内でM&Aを実行したあるSES企業では、業務委託から正社員への転換を段階的に進め、原価率を5%改善することに成功。結果として、営業利益が月間50万円以上向上し、M&A時の企業価値が約1.5倍にまで伸びたという実例もあります。

つまり、単純な「利益の多寡」ではなく、その利益がどれだけ再現性を持ち、継続性があるかが評価の鍵となります。

技術者の育成・スキル可視化

SES事業における最大の資産は「技術者=人材」です。M&Aでは、目に見える設備や資産よりも、人的リソースの質と安定性が評価されます。特に重要なのが、技術者一人ひとりのスキルや経歴を明確に可視化し、買い手に伝えられる体制を整えることです。

以下のような「可視化資料」を整備するだけでも、印象が大きく変わります。

  • 技術者のプロフィール一覧(年齢、経験年数、スキル、保有資格など)
  • 過去のプロジェクト実績や参画期間
  • 顧客からの評価や継続率

これにより、買い手側は「どのような技術者が、どのような案件で稼働できるか」をイメージしやすくなり、不安が軽減されます。

たとえば、九州地方のSES企業では、M&A前にエンジニア全員にスキルシートを提出してもらい、それを元に統一フォーマットを作成。さらに営業が「アサイン可能な技術者一覧」として常時更新するようにした結果、買い手企業から「稼働後のイメージが湧きやすい」と高評価を得て、譲渡価格が当初想定よりも20%アップしたという事例もあります。

人材の価値を可視化できていないSES企業は、極端に言えば「中身のわからない箱」にしか見えません。逆に言えば、育成・定着・可視化までしっかり取り組んでいる企業は、M&A市場においては圧倒的に評価されやすくなります。

強みを言語化して伝える工夫

M&Aでは、財務や人材の数値情報だけでなく、「自社ならではの強み」をいかに言語化し、相手に伝えられるかが大きな分かれ道になります。買い手が本当に知りたいのは、「この会社を買うことで、どんなシナジーや価値が得られるのか」という点です。

以下のような切り口で、強みを明文化しておくと効果的です。

強みの切り口
営業ネットワーク 大手SIerと10年以上の取引実績あり
技術力・対応領域 インフラ系に特化しAWS関連の案件比率70%
教育ノウハウ 新人育成プログラムあり。入社半年で稼働可能
定着率・離職率 直近3年間の離職率5%未満

また、IM(企業概要書)やノンネーム資料を作成する際にも、このような「強みの言語化」が欠かせません。単なる「SES企業」としての紹介ではなく、「どんな点で他社と違うか」を端的に伝えられると、買い手の関心度が一気に高まります。

関東のある中堅SES企業は、IMの中で「未経験者を半年で稼働可能にする教育フロー」や「30代比率が60%以上で若手に強い人材構成」などのデータを用いてアピール。結果として、買い手企業の人材戦略とぴったり重なり、わずか3ヶ月で基本合意に至りました。

つまり、「当たり前」や「みんなやっている」ことも、きちんと整理して言語化すれば、それは立派な差別化要素になります。自社の魅力を言葉にし、相手に届くように伝える準備こそが、M&A成功への大きな一歩です。

8. 実際にあったSES業界のM&A成功事例

業界再編を促す大型M&A

近年、SES業界における大型M&Aは、単なる資本提携を超えた業界再編のきっかけとなるケースが増えています。特に、ITエンジニアの人材供給を担う企業同士が合併・買収を通じてリソースを統合することで、大手SIerに対抗できる体制を整える動きが目立ちます。

背景には、慢性的なエンジニア不足と案件単価の抑制圧力があり、業界内の中堅企業が競争力を維持するためには「規模の経済」が不可欠になっているという事情があります。中小SES企業が単独で生き残るのが難しい環境の中、同業または異業種からのM&Aが選択肢として浮上しているのです。

たとえば、2023年にはエンジニア1,000名以上を擁する中堅SES企業A社が、同じくエンジニア500名規模のB社を買収。両社は案件の多重下請け構造からの脱却を目指し、直接取引の割合を高め、経営統合後の数年間で営業利益率の向上を達成しました。買収側は、開発力とスケールメリットを強化する狙いがあり、売却側も事業承継と成長の道筋を確保できたことで、双方にとって理想的なM&Aとなりました。

このように、SES業界におけるM&Aは単なる資本の移動ではなく、業界の体質改善や構造改革の推進力となり得ます。

人材確保と事業拡大を目的とした取引

エンジニア不足が深刻化する中、M&Aによって即戦力人材を獲得し、事業を加速させようとする動きも目立っています。特に採用に課題を抱える地方SES企業やスタートアップ企業が、都心部に拠点を持つSES会社を買収することで、人材の確保と案件対応力の強化を同時に実現しています。

たとえば、2022年に行われたC社によるD社の買収では、D社が保有する若手エンジニア60名と、自社で内製していた教育プログラムが大きな評価ポイントとなりました。C社は慢性的な人材不足に悩まされており、買収によって短期的にプロジェクトリーダー層を増強することができました。

このM&Aにより、買収側は自社では難しかった人材育成の時間とコストを削減でき、売却側も新たなフィールドでの成長機会を得られたことで、両社の成長シナジーが生まれました。

このような人材起点のM&Aは、事業基盤の安定化と拡大を目指す戦略として、今後さらに増加する可能性があります。

教育ノウハウ・技術力獲得のケース

SES企業の中には、エンジニア育成に特化した研修制度や独自の教育ノウハウを強みとしている企業もあります。こうしたノウハウを目的に買収を行うケースも、近年注目されています。

たとえば、2021年にE社がF社を買収した事例では、F社が長年にわたり運用していた「未経験者向けの3カ月集中育成プログラム」が高く評価され、M&Aに至りました。E社は自社内で教育リソースを持たず、採用後の即戦力化に課題を感じていましたが、買収後はF社の教育スキームを全社に横展開することで、離職率の低下や戦力化スピードの向上といった成果を得ました。

また、F社が保有していた特定言語(PythonやGo言語など)のスペシャリストも魅力の一つであり、技術力の向上という点でも買収効果が顕著でした。SES業界においても「人材×ノウハウ×専門性」を掛け合わせたM&Aは非常に有効であり、売却を検討する側も、教育力や専門スキルを可視化することで、高評価につながる可能性があります。

このように、SES業界のM&Aは、単なる資本の移転にとどまらず、事業基盤の拡張・教育力の導入・技術資産の獲得など、戦略的目的に応じた多様な成功事例が生まれています。自社の特徴を理解し、買い手にとっての価値を明確に伝えることで、より良い条件での譲渡が可能となるでしょう。

9. SES業界に強いM&Aアドバイザーの選び方

業界知識があるかどうかの見極め方

SES事業のM&Aを成功させるには、業界特有のビジネスモデルや評価方法を理解しているアドバイザーの存在が不可欠です。SES業界は「人材ビジネス」であり、一般的な製造業や小売業とは評価軸が大きく異なります。特に、エンジニアのアサイン率、契約単価、離職率など、業界特有の指標をどう捉えるかによって、売却価格や買い手の納得感が変わってきます。

たとえば、SES業界では以下のような指標が重視されます:

  • 稼働率(月間アサイン率)
  • 平均契約単価(単価×エンジニア数)
  • 案件の発注元との直契割合(2次請け・3次請けの回避)
  • エンジニアの保有スキルの偏りや育成体制

これらを把握していないアドバイザーに依頼した場合、「数字でしか見ないM&A」になりがちで、結果的に売り手の強みが過小評価されてしまう可能性があります。

見極めのポイントとしては、初回面談の際に「SESと派遣の違いをどう見ているか?」「評価時に重視するKPIは何か?」といった質問をしてみると、その理解度がある程度わかります。

実績・ネットワーク・提案力のチェックポイント

SES事業に強いM&Aアドバイザーかどうかを見極めるためには、「過去にどんなSES案件を扱ってきたか?」という実績はもちろんのこと、買い手とのネットワークや提案力も大きな判断材料となります。

まず、SES業界では「買い手探し」が成否を左右します。買い手候補となるのは、以下のような企業です:

  • 他のSES企業(業界再編を狙う同業)
  • SIer・受託開発系企業(内製化ニーズ)
  • ITコンサル・DX推進系企業(リソース確保)
  • 異業種だがIT人材確保を急ぐ企業

こうした企業との独自のネットワークを持ち、適切に買い手リストを作成・打診できるかが、アドバイザーの力量です。また、単に紹介するだけでなく、「この買い手とはこういったシナジーがある」といった提案力が重要です。

実際に、あるSES企業の売却では、買い手側がPythonに特化したエンジニアを求めていた中で、売却企業の育成実績と保有人材が高評価され、相場よりも高い価格で成約しました。これは、アドバイザーが事前に技術分野のマッチングを意識し、ピンポイントで買い手と引き合わせた結果です。

さらに、アドバイザーの提案力を確認する方法として、以下のような項目を面談で確認するのが有効です:

  1. 事前にロングリスト(買い手候補群)を提示してくれるか?
  2. 企業価値評価のロジックを丁寧に説明してくれるか?
  3. 初期資料(IM)やノンネームの品質にこだわりがあるか?
  4. 買い手とどのような交渉を想定しているか?

こうした点に対する回答の中に、SES業界に対する深い理解がにじみ出ているかを観察しましょう。

なお、経済産業省の「M&A仲介業務の実態調査」(2023年)によると、M&Aトラブルの多くは「業者選定時の情報不足」が原因とされており、特に中小企業の売却では「専門性より知名度で選んで失敗した」という声も散見されます。

以上のことから、SES事業の売却を検討する際には、「SES業界に精通した実績のあるアドバイザー」に相談することが、後悔しないM&Aへの第一歩となります。知名度や価格の安さだけで選ばず、必ず複数のアドバイザーと面談し、「本当にこの人に任せられるか」を判断するようにしましょう。

まとめ

SES業界におけるM&Aは、事業環境の変化や人材不足を背景に、今まさに活発化しています。本記事では、業界特有の売却手法や注意点、高く売るための準備、成功事例などを詳しく解説しました。

  1. 人材不足で買収ニーズ増
  2. 評価は技術者数が基準
  3. 事業譲渡で柔軟な対応
  4. 高値売却には準備が必要
  5. 専門家選びが成功の鍵

SES事業の売却は一筋縄ではいきませんが、正しい知識と信頼できるパートナーがいれば、後悔しないM&Aが可能です。詳しく知りたい方は、ぜひアーク・パートナーズまでお問い合わせください。

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