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中小企業オーナー必読!スモールM&Aの表明保証条項と交渉術を実務経験で解説

「契約書の表明保証が難しすぎる」「後から賠償を請求されたらどうしよう…」――そんな不安を抱える中小企業オーナーの方へ。本記事は、スモールM&Aの最終局面でつまずきやすい表明保証条項を、売り手視点でわかりやすく解説します。

■本記事を読むと得られること

  1. 表明保証の基礎と買い手が求める理由がわかる
  2. 狙われやすい7項目と実務的な備えがわかる
  3. 交渉術(上限・期間・下限・知識表明)が身につく

■本記事の信頼性
筆者はM&Aアドバイザー歴10年以上、関与実績200件超。中小企業庁登録M&A支援機関として、信頼性・誠実性・専門性・スピードを重視した支援を提供しています。

読み終える頃には、「何を開示し、どこを交渉し、何を専門家に任せるか」が自信をもって判断でき、表明保証違反リスクをコントロールしながら安心してクリーンイグジットを目指せる状態になっているはずです。さっそく本編へ進みましょう。

1. はじめに:なぜスモールM&Aで表明保証が重要なのか

スモールM&A、つまり中小企業の経営者が自社を譲渡する場面では、株式譲渡契約の中に必ず登場するのが「表明保証条項」です。これは一見すると難しい法律用語の羅列に見えますが、実際には売り手経営者の未来を大きく左右する重要な約束事の集まりです。経営者が「会社の状態について事実を正しく保証する」という意味を持ち、違反があれば損害賠償請求につながる可能性があります。つまり、人生をかけたM&Aの中でも最も慎重に扱うべき項目の一つなのです。

なぜ表明保証がここまで重視されるのかといえば、買い手が安心して会社を引き継ぐための「安全弁」の役割を果たすからです。中小企業庁が公開している「中小M&Aガイドライン(第3版)」でも、表明保証条項はリスク管理において不可欠と明記されています。買い手は短期間で行うデューデリジェンス(企業調査)だけでは把握できない部分を、この条項によって補うことができるのです。

例えば、財務諸表の正確性や労務関連の遵守状況、許認可の取得状況などは、買い手にとって将来の経営リスクに直結します。万が一、これらに誤りや隠された問題があれば、買収後に想定外のコストや訴訟リスクを負うことになります。そのため、買い手は契約の中で「この会社はこういう状態である」と書面で保証してもらうことを強く求めるのです。

実際のケースを見てみましょう。ある製造業の中小企業が売却された際、過去に工場の届出が一部漏れていたことが後から判明しました。契約書には「必要な許認可・届出はすべて適切に行われている」と明記されていたため、これは表明保証違反とされ、買い手から数千万円規模の損害賠償請求がなされました。このように、売り手が軽視してしまった小さな不備が、将来的に大きな金銭的リスクとなって返ってくるのです。

また、労務関連でも典型的なトラブルがあります。サービス残業や社会保険未加入の従業員がいた場合、M&A後に従業員が遡って残業代や保険料を請求することがあります。買い手からすれば「聞いていない負債を押し付けられた」となるため、表明保証違反として補償を求める流れになります。売り手にとっては契約時に見落としていたことが後になって重くのしかかるのです。

このように、表明保証条項は単なる法務手続きではなく、「経営者として自社の状態を約束する責任の宣言」と言えます。そして同時に、売り手自身を守る「防御策」としての側面も持っています。なぜなら、誠実に情報を開示し、契約書で明確に範囲を限定しておけば、想定外のリスクから身を守ることができるからです。

中小企業のM&Aは、大企業と比べて社長個人に依存した経営や、口約束による取引が残っていることが多いのが実態です。そのため、買い手は「見えない爆弾」が潜んでいないかを強く気にします。表明保証は、その不安を払拭するための「最後の砦」として契約に組み込まれるのです。つまり、売り手経営者にとっては、会社の未来だけでなく、自身の人生設計にも直結する重大な条項となります。

まとめると、スモールM&Aにおける表明保証条項は、経営者にとって「未来を左右する約束事リスト」です。これを軽視すると、取引後に想定外の損害賠償を負うリスクが高まり、安心して事業承継を終えることができません。逆に、事前に正しく理解し、専門家の助けを借りて準備すれば、不安を減らし、納得のいくM&Aを実現できるのです。つまり、売り手オーナーにとって表明保証は、負担であると同時に「未来を守るための盾」でもあるのです。

2. 表明保証条項の基礎知識

表明保証とは何か?初心者向けの平易な解説

表明保証とは、会社の現状について「私はこういう状態であると約束します」と売り手が買い手に宣言する条項です。簡単に言えば、売り手が会社の健康診断書を買い手に提出するようなものです。この健康診断書には「財務諸表が正しく作られている」「重要な契約はすべて有効である」「許認可に問題はない」といった約束事が並びます。

この表明保証は、M&Aにおける最終契約(株式譲渡契約や事業譲渡契約)の中に必ず記載されます。もし後で「約束と違っていた」と判明すれば、売り手は損害賠償責任を負う可能性があります。つまり、単なる形式的な文言ではなく、取引後のトラブルを防ぐための非常に重要なルールなのです。

特にスモールM&Aでは、売り手であるオーナー経営者が「会社のすべてを把握している存在」とみなされるため、表明保証の範囲は大企業よりも広く求められることが少なくありません。これは経営者にとって大きな責任である一方で、きちんと理解して準備すればリスクを最小限に抑えることができます。

買い手が表明保証を求める理由

では、なぜ買い手は表明保証を強く求めるのでしょうか。それは、短期間で行うデューデリジェンス(買収監査)だけでは会社のリスクを完全に把握することができないからです。中小企業庁が公表している「中小M&Aガイドライン(第3版)」でも、デューデリジェンスの限界を補う仕組みとして表明保証が重要であると明記されています。

例えば、買い手が2か月程度で財務・法務・労務を調査しても、過去10年分の潜在的な問題をすべて見抜くことは困難です。そのため、買い手は契約書に「売り手がこれまでの状態を保証する」という約束を求め、リスクを事前に明確にしておこうとします。これは決して売り手を疑うためではなく、投資を正当化するための合理的な行動なのです。

具体的な例として、以下のようなリスクが考えられます。

  • 財務:簿外債務(未払残業代、未計上の債務など)が隠れている可能性
  • 労務:従業員が社会保険に未加入で、遡及請求が発生するリスク
  • 契約:主要取引先の契約書に「株主変更時に契約解除できる」と定められている場合
  • 許認可:必要な許可証の更新漏れや届出不足

これらはデューデリジェンスで発見できる場合もありますが、見落とされる可能性もあります。そのため、買い手は「売り手が保証しているなら安心して買収できる」と考えるのです。万一、後から問題が発覚した場合でも、表明保証違反を根拠に損害賠償を請求できる仕組みがあれば投資の安全性は高まります。

実例:買い手が強く表明保証を求めたケース

あるIT企業のスモールM&Aの事例では、売り手が過去に使用していたソフトウェアのライセンス契約に不備があることがM&A後に発覚しました。買い手は「契約書で知的財産権について問題がないと保証していた」と主張し、売り手に数百万円規模の損害賠償を請求しました。このケースは、売り手が「自社に知財リスクはないだろう」と思い込んでいたことが原因でした。

また、製造業の案件では、工場の一部が過去に適切な届出を行っていなかったことが明らかになり、環境関連法規違反のリスクが浮上しました。買い手は「必要な許認可はすべて取得している」という表明保証に違反したとして、契約条件の見直しを要求しました。結果的に、売却金額は大幅に減額されることになりました。

まとめ

表明保証条項は、中小企業オーナーにとって「ただの契約上の文言」ではなく、将来の生活や資産を守るために理解すべき重要なルールです。買い手が求めるのは、不安を解消し、安心して会社を引き継ぐための安全策です。売り手が誠実に情報を開示し、専門家とともに条項を整理して交渉に臨めば、トラブルを避けながらスムーズに取引を進めることができます。つまり、表明保証を正しく理解することこそが、M&Aを「成功」へ導く第一歩なのです。

3. 中小企業特有のリスクと買い手の視点

管理体制の不備・個人依存

スモールM&Aにおいて、買い手が最も警戒するポイントのひとつが「管理体制の不備」と「経営者個人への過度な依存」です。大企業では経理部門、法務部門、人事部門といった専門部署が存在しますが、中小企業の場合は社長や家族が経理や労務を兼任していることが多く、内部統制が整っていないケースが目立ちます。その結果、会社の実態が書面や数値に反映されにくく、買い手にとってリスク要因となります。

中小企業庁が公表している「2023年度版中小企業白書」によると、日本の中小企業の約6割は「経営資源が経営者に集中している」とされ、後継者不足や属人的経営がM&Aの障害になっていると指摘されています。つまり、会社の将来が社長個人のスキルや人脈に依存しているため、引き継いだ後に同じ業績を維持できるかどうかが買い手にとって大きな懸念になるのです。

例えば、ある卸売業のM&A案件では、主要取引先との契約が「社長個人の信頼関係」で成り立っていました。社長が退任すると取引が大幅に縮小し、買い手は想定していた売上を確保できなくなりました。このケースでは、買い手が「表明保証条項」で「重要取引先との関係は継続する」と明記していたため、契約違反を主張する事態にまで発展しました。売り手は悪意がなくても、管理体制や取引構造が属人的であること自体がリスクとみなされてしまうのです。

つまり、管理体制の不備や個人依存は、買い手にとって「見えない爆弾」として警戒されます。売り手経営者は、できるだけ属人性を減らし、組織的な仕組みに置き換える努力をしておくことで、M&Aにおける評価を高めることができます。

過去の取引や契約の曖昧さ

もうひとつ買い手が注視するのは、過去の取引や契約関係の曖昧さです。中小企業では「昔からの慣習で」「口頭で約束していた」といった非公式な取引が多く残っていることがあります。こうした不透明な取引は、M&A後にトラブルに発展するリスクを抱えています。

契約書が紛失していたり、更新手続きがなされていなかったりするケースも少なくありません。中小企業庁の調査によれば、中小企業の約3割が「主要取引先との契約内容を文書で管理できていない」と回答しており、この現状が買い手のリスク意識を高めています。買い手としては「売り手が本当に契約を守れているのか」「将来的に契約解除されるのではないか」といった不安を拭えないのです。

実際の事例として、建設業のある企業では、10年以上前から続いていた取引について正式な契約書が存在せず、すべて口約束で行われていました。M&A後、その取引先が経営方針を変えたことで一方的に契約を打ち切り、売上の半分以上が失われる事態となりました。買い手は「表明保証で契約関係は有効とされていた」と主張し、損害賠償請求へとつながりました。このように契約の曖昧さは、後々大きな火種となります。

さらに、賃貸借契約における「チェンジ・オブ・コントロール条項(株主が変わったら契約解除できる条項)」の存在も、中小企業M&Aでは大きなリスクです。これを見落とすと、買い手はM&A後に本社や工場の利用権を失う恐れがあり、事業継続そのものに影響します。

まとめ

中小企業特有のリスクは、大企業には見られない「属人的な経営」と「契約の曖昧さ」にあります。買い手は、こうした不安要素を表明保証条項で補強し、リスクが顕在化した場合に備えます。売り手としては、経営情報や契約関係を整理し、文書で明確に残しておくことが、M&A成功の第一歩となります。

管理体制を整備し、属人性を減らすこと、取引や契約を正確に記録しておくこと。この2点を意識して準備するだけでも、買い手からの信頼度は大きく高まり、結果として有利な条件でM&Aを進められる可能性が高まります。つまり、経営の「見える化」がスモールM&Aの価値を引き上げる最大の武器となるのです。

4. 【実例で学ぶ】売り手が狙われやすい7つの表明保証項目

財務諸表と簿外債務(未払残業代含む)

買い手が最も重視するのは、財務諸表の正確性です。決算書に記載されていない簿外債務があると、会社の価値が大きく損なわれます。特に中小企業では「未払残業代」が典型的な簿外債務となります。厚生労働省の調査によれば、2022年度の監督指導によって是正・改善された残業代の総額は約4億円にのぼり、多くの中小企業が労務管理の不備を指摘されています。

実際に、ある製造業のM&Aでは、譲渡契約後に従業員から過去2年分の残業代が請求され、数千万円の想定外債務が発生しました。この場合、買い手は「財務諸表は正しい」という表明保証違反を主張し、売り手に補償を求めました。つまり、未払残業代は小さな問題に見えても、M&A後には大きな損害に直結するリスクなのです。

したがって、売り手は事前に税理士や社会保険労務士と連携し、潜在的な簿外債務を洗い出すことが不可欠です。

知的財産権とソフトウェアライセンス

知的財産の管理は、中小企業ほど軽視されがちですが、買い手にとっては極めて重要です。特にソフトウェアライセンスの違反は、知らぬ間にリスクを抱えているケースがあります。経済産業省の調査でも、中小企業の約4割が「知的財産に関する管理体制が整っていない」と回答しており、契約違反や権利侵害のリスクが潜んでいます。

あるIT企業の事例では、開発に利用していたオープンソースソフトの利用規約を誤解しており、M&A後にライセンス違反が発覚しました。その結果、製品販売が一時停止となり、買い手は大きな損害を被りました。この場合も「知的財産の適切な管理がされている」との表明保証違反が追及されました。

売り手は、自社で利用しているソフトや商標・特許をリスト化し、契約状況を整理しておく必要があります。

労務関連と社会保険加入状況

中小企業で見落とされやすいのが、労務管理の不備です。特に、パートやアルバイトの社会保険未加入は大きなリスクです。厚生労働省は近年、社会保険加入適用の拡大を進めており、未加入企業には遡って保険料を請求するケースが増えています。

ある飲食業の案件では、アルバイト従業員の社会保険未加入が発覚し、過去2年分の保険料を数百万円単位で遡及納付することになりました。買い手は「労務コンプライアンスは守られている」という表明保証違反を主張し、売り手に賠償を求めました。

売り手は、社会保険労務士と共に従業員契約を精査し、加入状況を整理しておくことが重要です。

許認可・届出の有無

事業によっては、建設業許可や飲食業の営業許可など、各種の許認可が必要です。これが欠けていると、事業継続そのものができなくなるため、買い手は非常に慎重に確認します。国土交通省の発表では、建設業法違反による行政処分件数は毎年200件以上にのぼり、許認可管理の不備が業界全体の課題とされています。

実際に、ある建設業のM&A案件では、工事に必要な許可更新がされていないことが発覚し、買い手は契約解除を検討する事態にまでなりました。このようなケースでは、売り手が「必要な許認可を有している」と保証していたため、重大な表明保証違反とされました。

売り手は事前に自社の許認可をリスト化し、有効期限を確認しておく必要があります。

重要な契約関係とチェンジ・オブ・コントロール条項

主要取引先や不動産賃貸契約に含まれる「チェンジ・オブ・コントロール(COC)条項」は、M&Aの成否を左右する大きなリスクです。これは「株主が変われば契約を解除できる」という条項であり、買い手にとっては致命的なリスクになります。

実例として、ある製造業では、最大の売上を占める取引先との契約にCOC条項が含まれていました。M&A成立後、その取引先が契約を解除したため、事業価値が大幅に減少しました。この場合、買い手は「契約関係に重大な支障はない」との表明保証違反を主張しました。

売り手は、重要契約を精査し、COC条項の有無を必ず確認しておくべきです。

環境リスク(土壌汚染・アスベスト)

不動産や工場を持つ企業では、環境リスクが大きな問題になります。土壌汚染対策法によると、有害物質による汚染が確認されれば、浄化や除去に莫大な費用がかかります。環境省の統計では、全国で毎年数百件規模の土壌汚染調査が実施されており、その多くは事業活動に起因しています。

実際に、ある金属加工業のM&Aでは、工場敷地から基準値を超える有害物質が検出されました。その結果、数千万円規模の浄化費用が発生し、買い手は「環境上のリスクはない」という表明保証違反を主張しました。

売り手は、土地登記や建物の図面を確認し、必要であれば専門調査を実施することが望ましいです。

訴訟・紛争の火種

M&Aにおいて、過去や現在進行中の訴訟リスクは必ず確認されます。中小企業では「従業員との労務トラブル」や「顧客からのクレーム」が将来の訴訟リスクにつながる場合があります。最高裁判所事務総局の統計によると、労働関係訴訟の新受件数は年間3,000件を超えており、その多くは中小企業が関与しています。

あるサービス業の事例では、退職した従業員から未払賃金をめぐって訴訟が提起され、M&A後に買い手が対応を迫られることになりました。この場合も「未解決の訴訟や紛争は存在しない」とした表明保証違反が追及されました。

売り手は、弁護士と連携して潜在的なトラブルを洗い出し、事前にリスクを開示することが重要です。

まとめ

中小企業のM&Aでは、財務、知財、労務、許認可、契約、環境、訴訟といった分野に潜むリスクが表明保証で厳しく問われます。売り手がこれらのリスクを正直に開示し、事前に対策をとっておくことで、買い手からの信頼を得られ、交渉を有利に進められます。逆に隠したまま進めると、M&A後に高額な賠償責任を負う危険性があります。表明保証は単なる法律用語ではなく、売り手自身を守る「リスク管理の武器」であることを理解することが大切です。

5. 表明保証違反のリスクと売り手を守る防御策

正直な情報開示(ディスクロージャー)の重要性

スモールM&Aにおいて、売り手が最も注意しなければならないのは「表明保証違反」を避けることです。表明保証違反とは、契約書に記載した「事実と保証」が後から違っていたと判明した場合に成立します。違反があれば、買い手から損害賠償を請求されたり、場合によっては契約解除に至ることもあります。

そのため、売り手ができる最大の防御策は「誠実に情報を開示すること(ディスクロージャー)」です。中小企業庁が公表している「中小M&Aガイドライン(第3版)」でも、ディスクロージャーは売り手のリスク軽減に直結すると明記されています。つまり、問題を隠すよりも、あらかじめ開示して契約書に記録しておく方が、後のトラブルを防ぐことができるのです。

例えば、以下のような情報は必ず開示しておくべきです。

  • 過去に税務署から是正を受けたこと
  • 労務管理に関する不備(社会保険未加入、未払残業代)
  • 取引先とのトラブルや契約違反の可能性
  • 工場や土地に関する環境リスク(騒音、土壌汚染)

実際にあったケースとして、ある小売業のM&Aでは、売り手が「未払残業代があるかもしれない」と事前に開示していました。契約書には「既に把握している可能性のある債務」と明記され、将来の残業代請求については売り手の責任が限定されました。結果として、後日従業員から請求があった際にも、大きな損害賠償には発展しませんでした。これはディスクロージャーが売り手を守った典型例です。

つまり、売り手にとって「不利な情報を隠すこと」はリスクを大きくし、「正直に開示すること」はむしろ防御の武器になるのです。

「知る限り」表明の効果的な使い方

売り手を守るもう一つの手段が「知る限り(to the best of seller’s knowledge)」という限定的な表明保証の使い方です。これは、「売り手が知っている範囲で保証します」という意味を契約に盛り込む方法です。すべてを無条件に保証するのではなく、あくまで自分の知識の範囲で責任を負うとすることで、リスクを大きく軽減できます。

買い手は、将来発覚する未知のリスクまで売り手に責任を押し付けたいと考えがちです。しかし、売り手には限界があります。特にスモールM&Aでは、過去の経理担当者や前任者が残した不備など、経営者本人でも把握できないリスクが潜んでいることがあります。これを無条件で保証すれば、売り手に過大な負担がのしかかります。

そこで有効なのが「知る限り表明」です。例えば、契約書に以下のように記載します。

  • 「売り手の知る限りにおいて、未払残業代は存在しない」
  • 「売り手の知る限りにおいて、主要取引先との契約は有効に存続している」

このように書いておけば、売り手が知らなかった簿外債務や隠れたトラブルについて、責任を問われるリスクを下げることができます。

実際の事例では、ある製造業の売却契約に「知る限り表明」を盛り込んだことで、M&A後に潜在的な環境リスク(土壌汚染)が見つかった際、売り手は大きな補償責任を免れました。これは、売り手が事前に把握していなかった以上、表明保証違反には該当しないと判断されたためです。

まとめ

表明保証違反は、売り手にとって数千万円規模の損害賠償につながる危険性があります。しかし、誠実なディスクロージャーと「知る限り表明」を上手に活用すれば、そのリスクを大幅に軽減できます。

要点を整理すると以下の通りです。

  1. 不利な情報ほど隠さず開示することが、むしろ防御になる
  2. 「知る限り」と明記することで、未知のリスクに対する責任を限定できる
  3. 専門家(弁護士・会計士・社労士)と連携し、事前にリスクを洗い出して契約書に反映させることが重要

つまり、売り手が正直に情報を開示し、かつ契約条項で責任範囲を限定することこそが、安心してM&Aを進めるための最善策なのです。

6. 交渉で押さえるべき3つの重要ポイント

補償上限額(キャップ)

M&Aの表明保証で最初に確認すべきなのが「補償上限額(キャップ)」です。これは、万一表明保証違反が起きた場合に売り手が負担する損害賠償の上限金額を決めるものです。もしキャップを設けなければ、売り手は理論上「無制限の責任」を負うことになり、M&A後に巨額の請求を受けるリスクがあります。

国土交通省や中小企業庁のM&A実態調査でも、売り手保護のために「譲渡価格の10〜30%を上限」とするのが一般的だとされています。つまり、譲渡額が1億円であれば、キャップは1,000万円〜3,000万円程度に設定するケースが多いということです。

実際の事例では、ある飲食業のM&Aで、買い手が譲渡価格1億円に対して「全額責任」を求めました。しかし、売り手が交渉でキャップを2,000万円に設定したため、後に労務トラブルで損害が発生した際も、責任は2,000万円以内に制限されました。これがなければ、売り手は譲渡代金をすべて失うリスクがありました。

キャップは売り手を守る「安全装置」であり、必ず契約交渉で明記すべき項目です。

補償期間(サバイバル)

次に重要なのが「補償期間(サバイバル)」です。これは、表明保証違反が発覚してからどれくらいの期間、売り手に請求できるのかを定める条項です。もし期間を無制限にすると、売り手はM&A後も長期にわたってリスクに縛られることになります。

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」でも、一般的には1〜3年程度に設定されるとされています。ただし、税務や環境関連のリスクは長期にわたることが多いため、例外的に5年程度の設定がされる場合もあります。

実例として、ある建設業のM&Aでは、補償期間を「契約締結から2年間」としていました。M&Aから3年後に税務調査で追加課税が発生しましたが、補償期間が過ぎていたため、売り手は追加の責任を負わずに済みました。このように補償期間を限定することで、売り手は将来的な不安を軽減できます。

したがって、補償期間を明確に短めに設定することは、売り手が安心してM&Aに臨むために不可欠です。

補償下限額(バスケット/ミニマム)

最後に押さえるべきは「補償下限額(バスケット/ミニマム)」です。これは、小さなトラブルや損害が発生した場合に、売り手が補償する必要があるかどうかを決めるルールです。バスケットは「一定額を超えた場合のみ補償が発生する仕組み」であり、ミニマムは「個別の損害が一定額未満であれば補償不要とする仕組み」です。

例えば、バスケットを500万円に設定すれば、損害が累計で500万円を超えなければ、売り手は補償しなくてよいことになります。これにより、細かいトラブルで繰り返し補償を求められるリスクを防げます。

実際のケースでは、ある小売業のM&Aで、契約時に「ミニマム100万円」と設定されていました。M&A後に50万円の小規模な未払請求が発生しましたが、ミニマム未満だったため、売り手は補償を免れました。このように、下限を設けることで売り手の負担を合理的に制御できます。

買い手は「小さな問題も積み重なれば大きな損害になる」と主張しますが、売り手にとって無制限な対応は不可能です。そのため、バスケットやミニマムは売り手防衛の必須条件なのです。

まとめ

表明保証の交渉で売り手が絶対に押さえるべき3つのポイントは以下の通りです。

  1. キャップ(補償上限額):責任の金額を制限することで、無制限のリスクを防ぐ
  2. サバイバル(補償期間):補償請求ができる期間を区切ることで、将来の不安を軽減する
  3. バスケット/ミニマム(補償下限額):小さなトラブルに振り回されず、合理的に責任を限定する

この3つのポイントを理解し、契約交渉で必ず明記することが、売り手が安心してスモールM&Aを進めるためのカギとなります。逆に、これらを曖昧にしたまま契約すると、M&A後に予想外の請求やトラブルに巻き込まれる可能性が高まります。したがって、売り手は専門家と連携しながら、必ずこれらの条件を交渉に盛り込むことが大切です。

7. 表明保証保険は有効か?メリット・デメリットを徹底検証

クリーンイグジットを実現する保険の仕組み

表明保証保険とは、M&Aの契約で取り決める「表明保証違反」が後から発覚した場合に、その損害を保険会社が補償してくれる仕組みです。売り手にとっては、M&A後に想定外の損害賠償を請求されても、保険を通じてリスクを軽減できるため「クリーンイグジット(売却後に責任を引きずらない出口)」を実現しやすくなります。

経済産業省や中小企業庁のM&Aガイドラインでも、表明保証保険は中小企業オーナーにとって「安心して事業承継を進めるための有効な選択肢」として位置づけられています。特に、売り手が高齢でリスクを背負えない場合や、相続や新生活のために資金をすぐに確保したい場合に有効です。

仕組みとしては以下のように整理できます。

  • 買い手が表明保証違反による損害を発見
  • 本来は売り手に請求がいくが、保険契約がある場合は保険会社が支払い
  • 売り手は譲渡代金を守りつつ、買い手も損害をカバーできる

このように、表明保証保険は売り手・買い手双方の安心を担保する仕組みといえます。

スモール案件における費用対効果

一方で、スモールM&Aにおいて表明保証保険を導入する際には「費用対効果」を慎重に検討する必要があります。保険料は取引規模によって異なりますが、通常は譲渡額の2〜5%程度が目安とされています。例えば譲渡額が1億円なら200〜500万円程度の保険料がかかります。

日本商工会議所がまとめた中小M&Aの実態調査によると、売却金額が1億円未満の取引も全体の約40%を占めており、その場合は保険料の負担が相対的に重くなる傾向があります。つまり、大規模案件では効果的でも、小規模案件では「保険料が高すぎる」と感じられる可能性があるのです。

また、保険の対象外となるケースもあります。例えば以下のようなものです。

  • 売り手が故意に隠した重大な不正
  • 契約書で明確に開示されたリスク
  • 買い手が事前に把握していた問題

したがって、保険に入ればすべてのリスクが消えるわけではありません。むしろ「大きな未知のリスクに備える補完策」として活用するのが適切です。

実際の事例では、ある製造業のM&A(譲渡額約5億円)で表明保証保険が利用されました。売却後に過去の環境リスク(土壌汚染)が発覚しましたが、保険会社が損害の大部分を補填し、売り手はクリーンイグジットを実現しました。しかし一方で、飲食業の小規模案件(譲渡額5,000万円)では、保険料が200万円を超えたため、結局利用されませんでした。ここからも、案件規模に応じた判断が重要であることがわかります。

まとめ

表明保証保険は、売り手にとって「M&A後の責任から解放される強力な武器」となります。特に、譲渡額が大きい案件や、リスクの洗い出しが難しい業種(建設・製造・医療など)では導入するメリットが高いといえます。

しかし、スモールM&Aでは以下の点を考慮して判断する必要があります。

  1. 保険料が譲渡額に対して過大でないか
  2. 対象外となるリスクがないか(完全な防御ではない)
  3. 売り手が安心を買う価値があるか

結論として、表明保証保険は「万能の解決策」ではなく、「適切な案件規模で使えば強力な選択肢」といえます。スモールM&Aでは、費用対効果を冷静に見極めつつ、専門家と相談しながら導入を検討するのが最善のアプローチです。

8. 仲介会社任せの危険性と弁護士活用のポイント

仲介会社がリスク管理より成約を優先する理由

M&Aを進めるとき、多くの中小企業オーナーは「仲介会社に任せれば安心」と考えがちです。しかし、仲介会社の報酬体系の多くは「成功報酬型」であり、成約したときに初めて大きな報酬を得られる仕組みになっています。そのため、仲介会社にとって最も重要なのは「取引を成立させること」であり、「売り手のリスクを最小化すること」は二の次になる可能性があるのです。

実際に、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」でも、仲介会社に依存することのリスクが明示されています。特に、仲介業者が売り手と買い手の両方から報酬を受け取る「両手取引」の場合、利益相反の構造が生じやすく、売り手に不利な条件で契約がまとまってしまうケースもあります。

たとえば以下のような状況が起こり得ます。

  • 買い手が厳しい表明保証を求めても、仲介会社は「とにかく成約」を優先して売り手に妥協を促す
  • 将来のトラブルにつながるリスク情報を十分に精査せず、早期に契約締結を進めてしまう
  • 補償条項の上限・期間などを売り手が十分理解しないまま署名してしまう

つまり、仲介会社はあくまで「取引をまとめる役割」であり、法的なリスク分析や売り手保護の観点からの助言までは十分に担えないことが多いのです。

M&Aに強い弁護士の見極め方

このようなリスクを回避するためには、仲介会社任せにせず、M&Aに強い弁護士を活用することが極めて重要です。特に表明保証条項は契約書の中でも複雑で専門的な部分であり、将来の損害賠償リスクに直結します。弁護士のサポートを受けることで、売り手が不利な条件を避けられる可能性が大きく高まります。

弁護士を選ぶ際には、以下の観点でチェックするのが有効です。

確認ポイント 具体的な内容
M&A実績 過去にどの程度の中小M&A案件に関与しているか(件数・業種・規模)
表明保証の知識 キャップ・サバイバル・バスケットなどの交渉実務に精通しているか
売り手側支援経験 買い手寄りではなく、売り手の立場に立った契約交渉をした経験があるか
コミュニケーション力 専門用語をかみ砕いて説明し、経営者が理解できるように説明してくれるか

例えば、ある製造業のM&Aでは、仲介会社の提案通りに契約を進めていたところ、売り手に不利な「5年間の補償義務」が盛り込まれていました。しかし、M&Aに強い弁護士が介入し、通常水準である「2年間」に修正できた結果、売り手は将来の不安を大きく減らすことができました。

また、別のケースでは、労務リスク(未払い残業代)の開示をどうするかで悩んでいたところ、弁護士が「ディスクロージャーレターに具体的に記載することで補償リスクを限定できる」と助言し、売り手を守ることができました。仲介会社では対応できない専門的な防御策が、弁護士によって提示されたのです。

まとめ

仲介会社はM&Aの成立をスムーズに進める上で欠かせない存在ですが、その役割は「契約をまとめること」にあります。一方で、売り手の法的リスクを守るのは弁護士の専門領域です。特に表明保証条項のような将来の賠償リスクを含む部分では、仲介会社だけに依存することは危険です。

結論として、中小企業オーナーが安心してM&Aを進めるためには、

  1. 仲介会社に任せきりにせず、自ら契約内容を理解する
  2. M&Aに強い弁護士をチームに加える
  3. 交渉過程で不利な条件を回避するために専門家の助言を活用する

これらを実践することで、売り手は「成約はできたがリスクが残るM&A」ではなく、「安心して次のステージに進めるM&A」を実現できるのです。

9. よくある質問(FAQ)と実務上の疑問解決

不利な情報は隠しても良いのか

M&Aにおいて「不利な情報は隠したい」という気持ちは理解できますが、結論として隠すことは極めて危険です。契約締結後に発覚すれば「表明保証違反」として損害賠償請求を受けるリスクがあります。中小企業庁が公開する「中小M&Aガイドライン」でも、誠実な情報開示(ディスクロージャー)がトラブル防止に不可欠とされています。

実際に、過去の事例では「未払い残業代」や「取引先との未公開契約条件」が後に発覚し、売り手が数千万円規模の賠償を負担したケースもあります。短期的には隠したほうが有利に見えても、長期的には大きな不利益につながる可能性が高いのです。

そのため、売り手は「開示する情報の範囲を整理し、書面に残す」ことが重要です。たとえば、ディスクロージャーレターにリスクを明記すれば、表明保証違反の対象外にできる場合があります。

違反発覚=即契約解除なのか

「表明保証違反が見つかったら即契約解除になるのでは?」と不安に思う経営者も多いですが、実際は必ずしもそうではありません。契約解除になるかどうかは、違反の内容や影響度によります。

  • 軽微な違反(例:小さな契約書の記載ミス)→契約解除まで至らない場合が多い
  • 重大な違反(例:粉飾決算や許認可の欠落)→契約解除や損害賠償請求につながる可能性が高い

日本商事仲裁協会の調査でも、表明保証違反が発覚した場合の多くは「契約解除」よりも「損害賠償請求」で解決されるケースが多いと報告されています。つまり、すぐに契約が白紙になるわけではなく、交渉や金銭的補償で収める形が一般的です。

簿外債務の調査方法

中小企業のM&Aで特に問題になるのが「簿外債務」です。これは帳簿に記載されていない負債で、例えば以下のようなものがあります。

  • 未払い残業代や社会保険料
  • 口約束で行った取引に伴う支払い義務
  • 環境リスク(廃棄物処理費用など)

買い手はデューデリジェンスでこうした簿外債務を調べますが、売り手自身も事前に確認することが重要です。具体的には以下の対応が有効です。

  1. 労務監査を行い、未払い残業代や保険加入状況を確認する
  2. 過去の取引契約を洗い出し、未処理の義務がないか確認する
  3. 税理士や社労士と連携し、帳簿に反映されていない負債がないか点検する

こうした準備をしておくことで、買い手からの信頼を得やすくなり、契約交渉もスムーズに進められます。

表明保証保険料は誰が負担するのか

表明保証保険は、売り手のリスクを軽減する手段の一つです。では、その保険料は誰が負担するのでしょうか。結論として、明確なルールはなく「交渉によって決まる」のが実情です。

海外では買い手が保険料を負担するケースが多いですが、日本の中小M&Aでは以下のように分かれる傾向があります。

  • 売り手負担:クリーンイグジット(完全撤退)を強く望む場合
  • 買い手負担:買い手が安心材料として強く希望する場合
  • 折半負担:双方の利害を調整する妥協案

日本商工会議所の調査によると、中小M&Aの実務では「折半」や「買い手負担」で落ち着くケースが比較的多いとされています。したがって、売り手は自ら全額を負担しなければならないと考える必要はなく、交渉次第で調整可能です。

まとめ

FAQで取り上げたように、スモールM&Aでは「不利な情報を隠さないこと」「違反があっても即解除にはならないこと」「簿外債務の事前調査が重要であること」「保険料負担は交渉で決まること」がポイントです。これらを理解しておけば、売り手は過度に不安を抱かず、冷静に準備と交渉を進められます。

最終的には、正直な情報開示と専門家のサポートを活用することで、トラブルを避けつつ安心してM&Aを成功させることができるのです。

 

まとめ

スモールM&Aにおける表明保証条項は、売り手にとって将来のリスクを大きく左右する重要な要素です。特に中小企業オーナーにとっては、財務・労務・契約・許認可など幅広い分野にリスクが潜んでおり、適切な準備と交渉が成功のカギとなります。以下のポイントを押さえておくことが、安心して事業承継を進めるために不可欠です。

  1. 誠実な情報開示を徹底する
  2. 交渉で上限と期間を明確化する
  3. 簿外債務を事前に洗い出す
  4. 専門家の助言を積極的に活用する

不安を残さず「クリーンイグジット」を実現するためには、早い段階からの準備と信頼できる専門家のサポートが欠かせません。詳しく知りたい方は、ぜひアーク・パートナーズまでお問い合わせください。

 

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