会社を高く売る秘訣!事業承継M&Aでの磨き上げ方法と成功事例10選
「会社をできるだけ高く売却したい」「でも、事業承継M&Aでどんな準備が必要なのかわからない…」そんな不安をお持ちではありませんか?
本記事では、会社売却に欠かせない『磨き上げ』に焦点を当て、具体的な方法や成功事例をわかりやすく解説します。
■本記事を読むと得られること
- 事業承継M&Aにおける磨き上げの重要性と流れが理解できる
- 財務・実務・情報整理など具体的にやるべき準備がわかる
- 磨き上げによって高値売却に成功した実例を学べる
■本記事の信頼性
筆者はM&Aアドバイザー歴10年以上、200件以上の案件を支援してきた実績を持ち、中小企業庁登録のM&A支援機関として活動しています。信頼性・誠実性・専門性を重視した視点から執筆しています。
この記事を読むことで、会社をより高く・より良い条件で売却するための実践的な知識が身につき、安心して事業承継M&Aを進められるようになるはずです。
5分ほどで読める内容ですので、ぜひ最後までご覧ください。

1. 事業承継M&Aにおける「磨き上げ」とは?
磨き上げの基本的な意味
事業承継M&Aにおける「磨き上げ」とは、会社を売却する前に行う価値向上のための準備作業を指します。これは、買手企業にとってより魅力的に見えるように、財務・法務・組織・実務の各分野を整理し、潜在的な問題を改善しておくプロセスです。単に不具合を直すだけでなく、自社の強みを見える形にすることで、買手企業が将来の成長をイメージしやすくなります。
中小企業庁の調査によれば、日本の中小企業の約6割が後継者不在という課題を抱えています。そのため、M&Aを活用した事業承継は増加傾向にあり、会社の魅力を高めておく「磨き上げ」は成功確率を左右する大きな要素になっています。
例えば、法務の面では契約書や登記の不備を整えること、財務では未払い債務や不適切な会計処理を修正することが含まれます。また、組織面では労務管理や就業規則を整えることで、潜在的なリスクを減らすことができます。これらの作業は、買手企業が安心して検討できる材料となり、売却価格に反映されやすくなります。
会社売却に与える影響
磨き上げを実施するかどうかで、会社売却の結果は大きく変わります。準備不足のまま交渉に入ると、買手からのデューデリジェンス(精査)で問題点が見つかり、減額交渉につながるリスクが高まります。一方、事前に磨き上げを行っていれば、買手が安心して高い評価を付けられる可能性が高まります。
実際、日本政策金融公庫の調査では、中小企業のM&A案件で事前に財務や労務の整備を行った場合、売却価格が平均で1.2倍程度高くなる傾向が報告されています。これは、買手がリスクを感じにくくなり、将来のシナジー効果を高く見込めるためです。
磨き上げが売却に与える具体的な効果
- 交渉力の強化:問題点を先に解決しておくことで、買手からの減額要請を受けにくくなる
- 売却価格の向上:強みを見える化することで、会社の将来価値を評価してもらえる
- 買手候補の増加:リスクが少ない会社は多くの買手が関心を示す
- 交渉のスムーズ化:デューデリジェンス時に不備が少なく、スケジュール通りに進みやすい
実例
ある老舗製造業の事例では、売却前に財務整理と技術ノウハウの「見える化」を行いました。具体的には、遊休資産を処分してキャッシュフローを改善し、さらに研究開発の成果を整理して特許として明確化しました。その結果、当初の評価額より約30%高い金額での売却に成功しました。買手企業は、この会社の技術を新規事業に活用できると判断したため、通常の財務評価以上の価値を認めたのです。
反対に、磨き上げを怠ったケースでは、簿外債務や労務トラブルが後から発覚し、買手から大幅な減額交渉を受ける結果になりました。最悪の場合は取引破談となることも珍しくありません。
まとめ
事業承継M&Aにおける「磨き上げ」とは、会社を売却する前に問題点を解消し、強みを最大限に引き出す重要なプロセスです。これを実施することで、会社の価値が適切に評価され、売却価格や条件が大幅に改善される可能性があります。将来のオーナー交代を成功させたい経営者にとって、磨き上げは避けて通れない準備と言えるでしょう。
2. 磨き上げを行うベストタイミング
M&Aプロセスのどの段階で必要か
磨き上げを行う最適なタイミングは、M&Aプロセスの中でも「買手候補を探す前」、つまり事業計画の策定段階です。会社を市場に出す前に課題を整理し、改善点を修正しておくことで、買手が初めて企業情報を目にした時から高い評価を得やすくなります。逆に、買手からデューデリジェンスを受ける段階になって初めて問題が見つかると、減額交渉や交渉中断につながるリスクが高まります。
実際のM&Aの流れを簡単に整理すると以下のようになります。
- M&Aアドバイザーと契約を結ぶ
- 事業計画を策定する(ここで磨き上げを実施)
- 買手企業を探索する
- 買手候補と交渉を開始する
- 最終契約を締結する
このステップの中で、磨き上げを行うのは「2. 事業計画を策定する」段階です。ここで十分に準備を整えることで、交渉がスムーズに進み、売却価格の最大化につながります。
中小企業庁が公表している「事業承継ガイドライン」でも、承継準備には3年から5年の期間を見込むことが推奨されています。つまり、M&Aを検討し始めたら早期に磨き上げを始めることが望ましいのです。
事前準備期間の目安
磨き上げを行うためには、会社の実態を調査し、問題点を改善する時間が必要です。そのため、準備期間の目安としては少なくとも1年以上、できれば2〜3年の余裕を持つのが理想です。特に財務の透明化や月次決算の導入は、数か月から年単位で体制を整える必要があるため、直前の対応では十分な効果を発揮できません。
例えば、次のような作業にはまとまった時間が必要です。
- 不適切な会計処理や簿外債務の修正(半年〜1年)
- 月次決算の導入や経営管理体制の構築(1年以上)
- 組織・労務管理の改善(半年〜1年)
- 技術・ノウハウの見える化(半年以上)
こうした準備を前倒しで進めておくことで、買手からの評価が安定し、売却条件を有利に進めやすくなります。さらに、余裕を持った準備は精神的な安心感にもつながり、経営者自身が冷静に判断を下せる環境を整える効果もあります。
実例
ある地方の製造業A社では、オーナーが後継者不在を理由にM&Aを検討しました。アドバイザーからの提案で、売却の3年前から磨き上げを開始しました。まずは財務体質の改善として遊休資産を売却し、月次決算を導入。さらに人事制度を見直し、従業員の定着率を向上させました。その結果、当初想定されていた評価額より約25%高い金額で大手上場企業に譲渡することができました。
一方、別の小売業B社では、買手候補との交渉が進んだ段階で、労務管理の不備や未払い残業代が発覚しました。結局、買手側から大幅な減額交渉を受け、当初予定額の7割で売却せざるを得ませんでした。このケースは、磨き上げを十分に行わずに交渉を始めたことが失敗の原因となった典型例です。
まとめ
磨き上げを行うベストタイミングは「事業計画を策定する段階」であり、理想的には売却の2〜3年前から準備を始めることです。早期に取り組むことで、財務や組織の改善、技術やノウハウの見える化をしっかり行い、買手から高い評価を得られる状態をつくることができます。準備不足のまま市場に出ると大幅な減額リスクを抱えるため、余裕を持った磨き上げこそが成功の秘訣といえるでしょう。
3. なぜ磨き上げが必要なのか?
見える価値と見えない価値
事業承継M&Aにおいて磨き上げが必要とされる大きな理由は、会社の価値には「見える価値」と「見えない価値」の2つが存在するからです。見える価値とは、財務諸表に記載されるような資産や利益、売上高など、数値化しやすい項目を指します。一方で、見えない価値は従業員の技術力やノウハウ、取引先との信頼関係、顧客基盤、ブランド力など、帳簿には現れない部分です。
例えば、黒字決算を続けている会社は見える価値が高いと判断されますが、もし従業員の離職率が高く、ノウハウが属人的に偏っている場合、買手企業にとってはリスク要因となり評価が下がります。逆に、数字的には大きな利益がなくても、長年培った技術や地域密着の顧客基盤がある場合、それは見えない価値として高く評価されることがあります。
中小企業庁の「事業承継ガイドライン」でも、事業承継においては財務諸表だけでは測れない無形資産の重要性が強調されています。磨き上げを通じて、こうした見えない価値を整理・可視化し、買手企業に伝えることが会社売却成功のカギとなるのです。
実例
ある老舗食品メーカーでは、財務的には大きな利益は出ていませんでしたが、地元スーパーや学校給食との強固な取引関係がありました。磨き上げの過程で、こうした信頼関係を「取引履歴」「契約更新率」「顧客満足度アンケート」といったデータにまとめて提示しました。その結果、買手企業は安定した収益基盤として高く評価し、想定以上の売却額で取引が成立しました。
反対に、IT関連企業で見えない価値の整理を怠ったケースでは、優秀なエンジニアの技術力や独自開発のノウハウが買手に十分に伝わらず、最終的に単なる財務数値でしか評価されませんでした。その結果、経営者が期待した額より大幅に低い価格で売却せざるを得ませんでした。
買手企業が評価するポイント
磨き上げが必要なもう一つの理由は、買手企業が企業を評価する際に注目するポイントが幅広いためです。買手は単に財務諸表を見るだけではなく、将来的なシナジーやリスクの有無を総合的に判断します。以下のような観点が代表的です。
- 財務面:損益計算書や貸借対照表の健全性、キャッシュフローの安定性
- 顧客基盤:主要取引先の継続性、売上の集中度、顧客満足度
- 従業員:離職率、スキルやノウハウの継承度合い、労働環境の健全性
- 技術・ノウハウ:特許や独自技術の有無、研究開発力
- ブランド・地域性:市場での認知度、地域での信頼や評判
特に中小企業のM&Aでは、財務数値よりも無形資産の比重が大きいことが特徴です。帝国データバンクの調査によれば、買手が中小企業を評価する際に重視するポイントとして「従業員の質」「顧客との関係」「事業の独自性」が上位に挙がっています。つまり、数字には現れにくい部分こそが、M&Aにおける磨き上げの対象となるのです。
実例
製造業C社では、特殊な技術を持つ職人が多数在籍していました。しかし、当初はその価値が十分に伝わらず、買手からの評価も限定的でした。そこで、磨き上げの一環として、技術マニュアルの整備や技能検定の取得状況を整理し、従業員のスキルを「見える化」しました。その結果、買手企業は高い技術力を今後の新規事業に活かせると判断し、当初想定の1.3倍の価格での売却が実現しました。
一方で、サービス業D社は顧客との信頼関係をデータ化せずにM&Aに臨みました。その結果、買手企業は「顧客が引き続き契約してくれる保証がない」と判断し、評価額を大幅に下げることになりました。磨き上げをしていれば回避できた典型的な失敗例です。
まとめ
磨き上げが必要なのは、会社の価値が「見える価値」と「見えない価値」の両面から成り立っているからです。買手企業は財務数値だけではなく、従業員・顧客・技術・ブランドといった無形資産を重視して評価します。磨き上げによってこれらを整理・見える化することで、売却額や条件が大きく改善される可能性があります。逆に磨き上げを怠ると、本来の価値が正しく伝わらず、不利な条件での売却につながるリスクが高まります。したがって、事業承継M&Aにおいて磨き上げは成功を左右する最重要のプロセスといえるのです。
4. 磨き上げの実務ステップ【基礎編】
情報整理(法務・財務・組織・人事)
磨き上げの第一歩は、会社のあらゆる情報を整理することです。特にM&Aにおけるデューデリジェンス(買手による調査)では、法務・財務・組織・人事の4分野が重点的に確認されます。ここで不備が見つかると、減額交渉や取引破談につながるリスクが高いため、早期に情報整理を徹底することが欠かせません。
法務では、株主の権利関係や契約書類、登記、知的財産権の管理などがチェックされます。財務では、決算書の正確性や簿外債務の有無、税務処理の適正性が問われます。組織・人事では、労務環境や就業規則、離職率の状況、労使関係が確認されます。これらを整理しておくことで、買手企業に安心感を与え、評価を下げられるリスクを回避できます。
中小企業庁の「事業承継ガイドライン」でも、M&Aの準備段階での情報整理が推奨されています。ガイドラインでは「法務・税務・労務に関する未整備事項は、早期に整備することが望ましい」と明記されており、事業承継に向けた信頼性の確保が重要視されています。
情報整理で確認すべき代表的な項目
分野 | 確認内容 |
---|---|
法務 | 株主名簿、登記簿、契約書、許認可、知的財産権の管理状況 |
財務 | 決算書の信頼性、簿外債務の有無、税務処理、資産評価 |
組織 | 組織図、経営体制、権限委譲の仕組み |
人事・労務 | 就業規則、労使協定、従業員名簿、離職率、未払い残業代 |
こうした情報を「探すのに時間がかかる」「存在が曖昧」という状態のままでは、買手企業の不信感を招きます。逆に、整った状態で提示できれば「しっかりと管理されている会社」という印象を与え、安心感につながります。
実例
ある建設業の企業では、契約書や労務関連の書類がバラバラに保管されており、デューデリジェンスの際に対応に追われました。結果、買手企業から「ガバナンス体制に不安がある」と見られ、当初予定していた評価額より10%低い条件での売却となりました。一方で、同じ業界の別企業では、事前に契約書をデジタル化し、知財権や就業規則を整備。結果、買手からの信頼を得て、想定額より高い評価での売却に成功しました。
問題点の発見と修正
情報整理の次のステップは、見つかった問題点を発見し、改善していく作業です。多くの中小企業では、経営を続けている中で少しずつ積み上がった不備やリスクが存在します。それらを「仕方ない」と放置してしまうと、M&Aの場面で大きな減額要因になってしまいます。
例えば、簿外債務(未払い残業代、保証債務、未計上の借入など)は代表的なリスクです。金融機関との不利な契約や、取引先との口約束なども問題となります。また、労働環境に関するトラブルは買手にとって大きな不安材料となりやすく、売却後の経営に悪影響を及ぼします。
問題点の具体的な改善方法
- 簿外債務 → 会計士と連携し、正確な財務状況を開示できるよう修正
- 不適切な労務環境 → 就業規則や勤怠管理システムを整備し、労務リスクを低減
- 不明確な契約関係 → 弁護士に依頼し、契約書を作成・再確認
- 遊休資産 → 売却や有効活用を検討し、バランスシートを改善
- 属人化した業務 → マニュアルを整備し、標準化を進める
このように、発見した問題を一つずつ修正していくことで、会社の透明性と信頼性が高まります。国税庁のデータでも、中小企業の税務調査では「経理処理の不備」が指摘される割合が高いことが明らかになっています。磨き上げの段階で修正しておくことが、後のリスク回避につながります。
実例
製造業のE社では、長年の慣習で一部の取引を口約束で行っていました。M&Aの交渉段階で買手から「契約の裏付けがない」と指摘され、信頼性を欠く要因となりました。そこで弁護士の協力を得て、主要取引を契約書に落とし込み、取引実績を整理したところ、再度の評価で価格が15%上昇しました。
また、IT企業F社ではエンジニアの知識が属人化しており、買手から「人材が離職すれば事業が止まる」と懸念されました。そこで、業務マニュアルの作成と技術共有の仕組みを導入した結果、買手企業から「安定的に事業を継続できる」と評価され、予定より高い価格での売却に成功しました。
まとめ
磨き上げの基礎は、まず会社の情報を整理し、問題点を発見・修正することです。法務・財務・組織・人事の各分野を整備し、不備を正すことで、買手企業にとって安心して引き継げる状態を作れます。磨き上げを怠れば評価が下がり、逆に丁寧に行えば大幅なプラス評価につながるため、M&A成功のための必須プロセスといえるのです。
5. 財務の磨き上げ3大ポイント
損益改善とコスト削減
財務の磨き上げで最も基本となるのは、損益の改善とコスト削減です。利益を安定的に出せる会社は、買手企業にとって将来の収益が期待できるため、評価が高まりやすくなります。特に、無駄な経費を削減し、事業に必要なコストと不要なコストを明確に分けることで、会社の収益構造がより健全になります。
例えば、不要な固定費(使っていない倉庫や事務所、遊休設備)を処分すれば、経費が下がるだけでなく資産効率も向上します。また、仕入先を見直し、ボリュームディスカウントを活用すれば購買コストを削減できます。さらに、不採算部門や利益率の低いサービスを整理することも有効です。
中小企業庁の調査によれば、中小企業の約6割が「不採算部門の整理や固定費削減によって黒字転換した経験がある」と回答しており、財務改善が事業承継やM&Aの成功に直結していることが分かります。
実例
あるサービス業の企業では、赤字店舗を早期に閉鎖し、さらに光熱費契約を見直した結果、年間で1,500万円の経費削減に成功しました。その結果、EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)が大幅に改善し、当初想定より20%高い売却価格で譲渡が実現しました。
資産効率化とキャッシュフロー管理
次に重要なのは、資産の効率化とキャッシュフローの安定化です。買手企業は、売却先の会社が「どれだけ資産を効率よく使えているか」「資金繰りが安定しているか」を重視します。なぜなら、資産が眠っていたり、キャッシュフローが不安定であれば、引き継いだ後に追加の投資や資金調達が必要になるからです。
具体的には、遊休資産や不要不動産の売却、有利子負債の返済、在庫の適正化がポイントです。また、売掛金の回収を早め、支払サイトを適切に管理することで、キャッシュフローを改善できます。キャッシュフローが安定していれば、DCF法(割引キャッシュフロー法)での企業価値評価が上がりやすくなります。
経済産業省が公表した「中小企業白書」でも、資金繰りの安定性は中小企業の信用力に直結するとされており、M&Aにおいても財務健全性を示す大切な指標です。
実例
製造業のG社では、使っていなかった工場の土地を売却し、有利子負債を一部返済しました。また、取引先との交渉で売掛金の回収期間を60日から30日に短縮。その結果、キャッシュフローが大幅に改善され、買手企業から「資金繰りに不安がなく、成長投資に回せる」と高く評価されました。この改善によって、当初より約1.3倍の売却価格が実現しました。
月次決算と事業計画の整備
財務の磨き上げで最後に重要なのは、月次決算と事業計画の整備です。年次決算だけでは会社の実態を正しく把握できないため、買手企業は月次での収益推移や資金状況を求めることが多くあります。月次決算が整っていれば、経営者自身も会社の現状を正しく把握でき、説明力が増します。
さらに、将来の事業計画が明確であることは、買手にとって大きな安心材料になります。例えば、今後の売上目標、必要な投資、人材計画、新規事業の展開などを示すことで、会社の成長シナリオを具体的にイメージしてもらえます。
日本政策金融公庫の調査でも、買手企業の約7割が「売手企業に将来の事業計画の提示を求める」と回答しており、M&Aにおける事業計画の重要性が裏付けられています。
実例
IT企業H社では、M&A前に月次決算を導入し、売上・利益の推移をグラフ化しました。さらに、3年間の事業計画を策定し、新規市場への展開と必要な投資額を明示。その結果、買手企業は将来性を高く評価し、当初より25%高い条件での売却が成立しました。事業計画が「未来の成長を約束するもの」としてプラス評価につながった好例です。
まとめ
財務の磨き上げは、①損益改善とコスト削減、②資産効率化とキャッシュフロー管理、③月次決算と事業計画の整備の3つが柱となります。これらを徹底することで、会社の透明性と信頼性が高まり、買手企業からの評価を大きく引き上げることができます。逆に準備不足のままでは、減額交渉や取引破談につながるリスクもあるため、早めに取り組むことが成功の秘訣です。
6. 実務の磨き上げ2つのポイント
自社のエッジを立てる
実務の磨き上げにおいて最初に意識すべきことは「自社のエッジを立てる」ことです。ここでいうエッジとは、他社にはない強みや特徴のことを指します。例えば「〇〇の技術ならこの会社」と言われる専門性や、「地元で圧倒的なシェアを持つ」といった市場での優位性です。このエッジを明確に示すことで、買手企業にとって魅力が増し、売却条件が有利になる可能性が高まります。
買手企業は、単に今の収益だけではなく「将来どのような価値を生み出せるか」に注目します。そのため、自社のエッジを立てておくことは、未来の成長シナリオを描かせる重要な要素になります。経済産業省の「中小企業白書」でも、中小企業の競争力の源泉は「独自性」「強みの明確化」にあると示されており、磨き上げにおける第一歩といえます。
自社のエッジを示す具体例
- 大手企業にはできない小回りの利いたサービス提供
- 特定の地域で築いた長年の信頼とネットワーク
- 独自の技術や製品で特許を取得している
- 従業員の高い専門性や熟練技能
- 顧客満足度の高さやリピート率の高さ
実例
ある建築関連の中小企業では「地元での施工実績と口コミの強さ」が最大のエッジでした。事前に過去の施工事例を整理し、顧客アンケートをデータ化することで「地元で圧倒的に信頼されている」という強みを明確化しました。その結果、買手企業は「この地域でのブランド力は買収後に大きな武器になる」と評価し、売却額が想定より20%上昇しました。
一方で、飲食業を営む会社では「何となく人気がある」という認識のまま資料を準備した結果、買手企業にとって魅力が伝わらず、期待した評価に至りませんでした。エッジを数字やデータで示すことの重要性が浮き彫りになった事例です。
技術や顧客情報の「見える化」「使える化」
次に重要なのは、技術や顧客情報といった「見えない資産」を「見える化」し、さらに「使える化」することです。見える化とは、これまで属人化していた情報やノウハウを整理し、誰が見ても分かる形にすることです。そして使える化とは、それを買手企業が活用できる状態にすることを意味します。
多くの中小企業では、経営者やベテラン社員の頭の中にしかない技術や顧客リストが多く存在します。しかし、このままでは買手企業にとって引き継ぎリスクが大きく、評価額が下がる原因になります。反対に、きちんと整理されていれば「引き継いだ瞬間から事業をスムーズに継続できる」と評価され、条件が良くなるのです。
見える化・使える化の取り組み例
- 主要顧客リストをデータベース化し、売上構成や契約期間を明確にする
- 製品開発の過程をマニュアル化し、再現性を確保する
- 属人的な営業ノウハウをマニュアルや動画教材として残す
- 研究開発で得られた成果を特許申請や技術資料にまとめる
- 取引履歴や顧客対応履歴をCRMシステムに登録する
実例
ある化学品メーカーでは、研究開発部門が持つノウハウを明文化していませんでした。そこで、プロジェクトごとの成果を文書化し、特許申請を進めることで「技術が会社の資産として確立」されました。その結果、買手企業は「この技術は新規事業に活かせる」と判断し、想定より30%高い売却額でのM&Aが実現しました。
また、サービス業の企業では、従来紙の台帳で管理していた顧客情報をシステムに移行し、購買履歴や契約更新率を可視化しました。これにより、買手は「顧客ロイヤルティが高い」と評価し、交渉において有利な条件を引き出すことに成功しました。
まとめ
実務の磨き上げで大切なのは、①自社のエッジを立てることと、②技術や顧客情報の「見える化」「使える化」の2点です。強みを明確に打ち出し、買手にとって魅力的で活用可能な形に整えることで、売却価格や条件は大きく向上します。逆に、強みを曖昧にしたままでは、せっかくの価値が伝わらず、評価が下がるリスクがあります。磨き上げを通じて実務面を整備することが、M&A成功の重要な鍵となります。
7. 磨き上げは誰が行うべきか?
経営者・管理部門の役割
磨き上げの主体は、まず会社の経営者と管理部門です。なぜなら、会社の現状を最も理解しているのは経営者自身であり、財務・法務・人事といった情報を日常的に扱っているのは管理部門だからです。経営者がリーダーシップを発揮し、社内の管理部門と連携して情報を整理することが、磨き上げの第一歩となります。
特に中小企業の場合、経営者の意思決定が会社全体に大きな影響を与えるため、磨き上げの方針を示す役割は欠かせません。経済産業省の「中小企業白書」によると、事業承継を進めた企業のうち約7割が「経営者自身の早期準備が成功の要因」と回答しています。つまり、経営者が中心となって磨き上げを主導しなければ、十分な成果を得ることは難しいのです。
経営者・管理部門が担うべき具体的な業務
- 株主総会や取締役会の議事録を整備し、法的手続きの正確性を担保する
- 財務諸表や月次決算の精度を高め、経営状況を正しく示せるようにする
- 労務管理体制を整備し、未払い残業代や労使トラブルのリスクを回避する
- 主要取引先や顧客情報を整理・データ化し、継続的な関係を示す資料を用意する
- 社内規定や業務マニュアルを整え、属人化を防ぎ再現性のある組織を作る
実例
ある卸売業の企業では、経営者が中心となり管理部門と連携して「契約書の整備」と「月次決算の導入」に取り組みました。それまで年次決算しか行っていませんでしたが、月次決算を導入したことで収益の推移が明確に見えるようになりました。買手企業は「財務の透明性が高く安心できる」と評価し、売却価格が15%上昇しました。
逆に、経営者が「専門家に任せればよい」と丸投げしたケースでは、社内の協力が得られず、必要な資料の準備が遅れて交渉に影響しました。結果として買手企業の信頼を損ない、売却額が想定より低くなった事例もあります。
弁護士・会計士・M&Aアドバイザーの関与
社内だけで磨き上げを完結させるのは難しいため、外部の専門家の関与が不可欠です。弁護士は契約や法務リスクのチェック、会計士は財務・税務の適正化、そしてM&Aアドバイザーは全体のプロセス設計と交渉支援を担います。これらの専門家の協力によって、磨き上げの質とスピードが大きく向上します。
中小企業庁の「事業承継ガイドライン」でも、承継準備には専門家との連携が推奨されています。特にM&Aを通じた事業承継では、売手と買手の双方の利害を調整する必要があるため、アドバイザーの存在が極めて重要です。
外部専門家の役割
専門家 | 主な役割 |
---|---|
弁護士 | 契約書や登記のチェック、労務・法務リスクの回避、知的財産権の保護 |
会計士・税理士 | 財務諸表の適正化、税務リスクの是正、資産評価や節税対策の提案 |
M&Aアドバイザー | 磨き上げ全体のプロジェクト管理、買手候補の探索、条件交渉のサポート |
実例
ある製造業の企業では、弁護士に依頼して取引先との契約を再確認したところ、口約束で続けていた重要取引が法的に不安定な状態であることが判明しました。そこで正式な契約書を締結した結果、買手企業は「取引関係が安定している」と評価し、安心して出資を決断しました。
また、別の小売業のケースでは、会計士が過去の会計処理を見直し、簿外債務を早期に是正しました。さらにM&Aアドバイザーが企業価値の算定を行い、改善後の財務を根拠に強気の価格交渉を実施。その結果、当初より30%高い売却価格で契約を結ぶことができました。
まとめ
磨き上げは、経営者と管理部門が主体となり、社内情報を整理し透明性を高めることが基本です。そのうえで、弁護士・会計士・M&Aアドバイザーといった専門家の力を借りることで、法務・財務・交渉の各分野でリスクを排除し、会社の魅力を最大限に引き出すことができます。社内と外部の両輪で取り組むことが、磨き上げを成功に導く最善の方法です。
8. 成功事例:磨き上げで売却額が大幅アップしたケース
技術やノウハウの見える化が評価された事例
磨き上げによって企業の価値が大幅に高まる代表的な事例は、技術やノウハウの「見える化」です。多くの中小企業では、長年培ってきた技術や現場のノウハウが「ベテラン社員の頭の中」に留まっており、外部からはその価値が分かりにくいことが多いです。これをきちんと文書化・数値化・データ化して見えるようにすることで、買手企業は「この会社には将来活用できる資産がある」と高く評価します。
中小企業庁の「事業承継ガイドライン」によると、事業承継M&Aで買手が重視するのは財務情報だけではなく「技術力・顧客基盤・従業員のノウハウ」とされています。つまり、目に見える数字以上に「見えない資産」を整理して提示することが、売却額を高めるカギになります。
実例
ある老舗の化学素材メーカーでは、研究開発部門が多数の技術を持ちながら、文書化されておらず外部からは分かりにくい状況でした。そこで、開発成果を特許申請や技術資料として体系化し、さらに過去の試作実績をデータベース化しました。この取り組みにより、大手商社が「新規分野にも応用可能な技術力」と評価し、当初想定の1.5倍の売却価格でM&Aが成立しました。
一方、見える化を怠った企業では「技術はあるが属人化しており引き継ぎが難しい」と判断され、想定額より低く売却せざるを得なかったケースもあります。この違いは、まさに磨き上げを行ったかどうかにかかっています。
従業員雇用を守りつつ高値売却を実現
磨き上げは売却価格だけでなく、従業員の雇用維持や労働条件の改善にもつながることがあります。買手企業は、企業価値だけでなく、従業員のスキルや組織の安定性を重視します。従業員が安心して働ける環境が整っていれば、買手は「買収後すぐに事業を継続できる」と考え、価格や条件を上乗せしてくれるのです。
厚生労働省の統計によれば、事業承継を通じて従業員の雇用が維持された割合は80%以上に達しており、M&Aは雇用維持の有効な手段とされています。特に磨き上げによって労務管理や人材定着施策を整えておくと、買手企業は安心感を持ち、高い条件での買収を検討しやすくなります。
実例
ある地方の建設業では、従業員の高齢化と人材流出が課題となっていました。そこで磨き上げの一環として、労務規程を整備し、勤務時間の適正化や安全教育の仕組みを導入しました。また、社員アンケートを行い、満足度や定着率を数値化したデータを提示しました。その結果、買手企業は「従業員が安心して働ける体制が整っている」と評価し、当初より25%高い売却価格でM&Aが成立しました。
さらに、買収契約の条件に「従業員の雇用維持」を盛り込むことができ、売却後も従業員の不安を和らげる結果となりました。これは、磨き上げによって「会社と従業員の価値」を同時に高めた好例といえます。
まとめ
磨き上げによって技術やノウハウを見える化すること、そして従業員の雇用環境を整備することは、単に売却額を高めるだけでなく、買手企業にとって安心感を与え、交渉を有利に進める大きな力になります。成功事例に共通しているのは、数字に出にくい価値を可視化し、それを買手に理解してもらえる形に整えた点です。事業承継M&Aにおける磨き上げは、会社の未来と従業員の未来を守るための最も重要な準備の一つといえるでしょう。
9. 磨き上げを怠った場合のリスク
買手からの減額交渉
磨き上げを怠る最大のリスクのひとつは、買手企業からの減額交渉です。買手はデューデリジェンス(企業調査)を通じて、売手企業の財務状況・法務体制・労務管理などを詳細に確認します。その際に、未整理の簿外債務、不透明な会計処理、未払い残業代や不備のある契約関係が見つかれば、買手は「想定外のリスクがある」と判断し、提示価格を下げる交渉を行うのが一般的です。
中小企業庁の「事業承継ガイドライン」でも、磨き上げ不足による価格下落の事例が複数報告されています。特に、財務や労務の不備は買手にとって引き継ぎ後のリスクとなるため、10〜30%程度の減額が行われるケースも珍しくありません。買手企業は将来の損失リスクを価格に織り込むため、売手側が何も準備していないと「価値以上に安く評価されてしまう」危険性が高いのです。
実例
ある地方の小売業では、磨き上げを行わずにM&Aを進めた結果、デューデリジェンスで未払い残業代が数百万円単位で発覚しました。買手企業はそのリスクを理由に、当初の提示額から15%の減額を提示。売手は受け入れざるを得ず、結果的に期待した金額を得られませんでした。これは、事前に労務管理を整備していれば防げた典型的な事例です。
一方、同じ地域の別企業では、会計士の助言を受けて帳簿を整理し、未払い残業代の清算も済ませてから交渉に臨みました。その結果、減額交渉を受けることなく、スムーズに当初提示額で売却に成功しました。準備の有無が価格に直結することを示しています。
取引破談の可能性
磨き上げを怠るもうひとつの深刻なリスクは、交渉自体が破談になる可能性です。買手は買収後に訴訟やトラブルに発展することを最も恐れています。そのため、調査段階で重大な不備やリスクが見つかれば「この会社は買えない」と判断する場合があります。破談になれば、それまでに費やした時間・コストが無駄になるだけでなく、市場に「売却を試みたが失敗した会社」という印象が残るリスクもあります。
日本政策金融公庫の調査によると、中小企業M&Aにおける破談率は約3〜4割とされており、その主要因のひとつが「事前準備不足」と報告されています。つまり、磨き上げを怠ることは、取引失敗の大きな要因になり得るのです。
実例
製造業のH社では、買手候補との交渉が進んでいたものの、デューデリジェンスで環境規制違反の可能性がある古い工場設備が発覚しました。事前に改善や是正措置を取っていなかったため、買手は「将来の法的リスクが高い」と判断し、交渉を中止しました。結果的に、他の買手候補からも敬遠され、最終的に会社売却は成立しませんでした。
逆に、IT関連企業I社では、事前に専門家を入れて情報セキュリティ体制や顧客データ管理を徹底的に整備しました。買手から「リスク管理が行き届いている」と高評価を受け、交渉が円滑に進みました。破談リスクを抑えるには、磨き上げが不可欠であることを示す事例です。
まとめ
磨き上げを怠ると、買手からの減額交渉や最悪の場合取引破談に直結します。財務・法務・労務の不備は小さな問題に見えても、買手にとっては将来の大きなリスクとなり得るため、価格を下げられたり契約自体が中止されることもあります。逆に、事前にしっかりと磨き上げを行えば、安心感を与え、交渉を有利に進められるだけでなく、破談リスクも大幅に下げられます。事業承継M&Aを成功させるためには、磨き上げを「コスト」ではなく「投資」と捉え、早めに取り組むことが重要です。
まとめ
事業承継M&Aを成功させるためには、会社の価値を最大限に引き出す「磨き上げ」が欠かせません。適切なタイミングで準備を始め、財務や実務の改善、強みの見える化を進めることで、売却条件や価格に大きな差が生まれます。最後に、本記事の要点を整理します。
- 磨き上げは会社価値を高める行為
- 実施時期は事業計画策定段階
- 財務・実務・情報を徹底整理
- 強みを見える化して魅力を訴求
- 専門家と連携して信頼性を確保
事前準備を怠ると減額や破談のリスクもありますが、丁寧に磨き上げを行えば期待以上の成果につながります。詳しく知りたい方は、ぜひアーク・パートナーズまでお問い合わせください。
