2025年休廃業7万件超の現実|中小企業庁が注目する「円満廃業」とM&A活用法
「業績は黒字なのに将来が不安」「廃業かM&Aか、どちらを選ぶべきかわからない」──そんな悩みをお持ちではありませんか?
2025年、休廃業・解散件数は過去最多の7万件超に達すると見込まれ、中小企業庁も「円満廃業」やM&Aの活用を強く注目しています。本記事では、経営者が直面する廃業の現実と選択肢を、専門家の視点からわかりやすく解説します。
■本記事を読むと得られること
- 2025年に休廃業・解散が急増する背景と要因が理解できる
- 「円満廃業」のメリットとM&Aの活用法が整理できる
- 自社に合った出口戦略を考える具体的なヒントが得られる
■本記事の信頼性
筆者はM&Aアドバイザー歴10年以上、200件以上の案件を手掛けてきた実務家であり、中小企業庁登録のM&A支援機関として経営者の事業承継・廃業支援を行っています。専門性と実績に基づき、最新の動向を踏まえて解説します。
この記事を読むことで、「廃業=終わり」ではなく「未来への選択肢」として円満廃業やM&Aを前向きに捉え、自社に最適な出口戦略を描けるようになるはずです。ぜひ最後までご覧ください。

1. 導入|なぜ2025年に休廃業・解散が過去最多となるのか
帝国データバンクの調査結果
2025年に入ってからの休廃業・解散件数は、過去最多に達する可能性が非常に高いと報じられています。帝国データバンクの調査によると、2025年1月から8月までの休廃業・解散件数は4万7,078件にのぼり、前年同期比で9.3%増となりました。このペースが続けば、年間では2024年を上回り、初めて7万件超に到達すると予測されています。
この数字が意味するのは、日本の中小企業が今、かつてないスピードで市場から退出しているということです。特に注目されるのは、単なる赤字企業の廃業ではなく、黒字や資産超過といった健全な状態にありながらも廃業を選択するケースが増えている点です。
調査の中では以下のような特徴が見られます。
- 資産超過型の休廃業割合が64.1%と過去最高を記録
- 黒字企業の休廃業割合が49.6%にまで低下(2016年以来初めて50%を下回る)
- 「黒字かつ資産超過」で廃業する企業は16.2%にとどまる
つまり、必ずしも経営破綻した企業だけが廃業しているわけではなく、将来の経営環境の厳しさを見越して「余力のあるうちに事業をたたむ」動きが広がっているのです。
例えば地方の製造業者の中には、資産やキャッシュフローにまだ余裕がある段階で廃業を決断し、従業員の再就職や取引先への引き継ぎを計画的に進めているケースが報告されています。こうした事例は、経営者が「追い込まれる前に判断する」傾向を強めていることを示しています。
このようにデータが示すのは、休廃業が単なる「失敗の証」ではなく、戦略的な選択として位置づけられているという現実です。2025年に休廃業が過去最多になる背景には、このような「計画的撤退」の増加が大きく影響しています。
中小企業庁の問題意識
中小企業庁も、休廃業・解散件数の増加に対して強い危機感を示しています。従来、倒産件数の増加が経済の安定性を測る指標とされてきましたが、現在は倒産件数(年間1万件台予想)よりも休廃業・解散件数が圧倒的に多いという現象が起きています。これは日本の産業構造全体に深刻な影響を与える可能性があるためです。
特に中小企業庁が注目しているのは、以下のような点です。
- 後継者不足:経営者の平均年齢は71.6歳に達し、50代・60代でも廃業を選ぶ傾向が増加
- 金利上昇:ゼロ金利からの政策転換により借入返済負担が増加
- 物価高・エネルギー高騰:中小企業の収益を圧迫
- コロナ後の支援縮小:持続化給付金や雇用調整助成金がなくなり資金繰りが悪化
こうした複合的要因により、多くの経営者は「事業を継続するか、それとも余力があるうちに事業を終了するか」という二択を迫られています。
中小企業庁は、この状況を受けて「円満廃業」や「前向きな廃業」の概念を打ち出しています。これは、廃業を単なる失敗と捉えるのではなく、従業員や取引先への影響を最小限に抑え、地域経済を安定させる手段として前向きに捉える考え方です。実際、事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的窓口が設置され、経営者が計画的に事業終了できるようサポートが拡充されています。
例えば、製パン業を営むある中小企業では、売上が安定しているにもかかわらず、経営者の高齢化と後継者不足を理由に円満廃業を決断しました。この際、従業員の再就職支援や取引先への取引移行を丁寧に進め、地域経済への影響を最小限に抑えた事例が報告されています。このように、国や行政は「廃業を恐れるのではなく、準備する」という意識を広めようとしているのです。
結局のところ、2025年に休廃業・解散が過去最多となる背景には、データが示す「計画的撤退の増加」と、中小企業庁が推奨する「円満廃業」という新しい廃業の形が大きく関わっています。これは経営者にとってのリスク回避策であると同時に、社会全体が廃業をより現実的かつ建設的に捉える方向へ動いていることを意味しています。
2. 休廃業増加の背景にある4つの要因
後継者不足と経営者の高齢化
日本の中小企業の大きな課題のひとつが、後継者不足と経営者の高齢化です。帝国データバンクの調査によれば、休廃業・解散を選んだ企業の経営者の平均年齢は71.6歳に達しており、5年連続で70代が最多を占めています。高齢化により体力的・精神的な負担が増し、事業継続を断念する経営者が増えているのです。
また、中小企業庁が発表している「中小企業白書」でも、経営者の高齢化に伴う事業承継問題は深刻化していると指摘されています。特に地方では後継ぎ候補が都市部へ流出することが多く、子どもや親族による承継が困難になっているケースが目立ちます。
例えば、地方で自動車部品を製造していた企業では、経営者が70代後半となり後継者が見つからなかったため、黒字経営であったにもかかわらず廃業を選びました。従業員の多くは地元の他社に再就職しましたが、地域に根差した技術が失われることになりました。
このように、経営者の高齢化と後継者不在は、業績にかかわらず廃業を決断する大きな要因になっています。
金利上昇・物価高による資金繰り悪化
次に大きな要因は、金利上昇と物価高騰による資金繰りの悪化です。日本銀行が長らく続けてきたゼロ金利政策が終了し、2023年以降は「金利のある時代」へと戻りつつあります。借入金を抱える中小企業にとって、返済負担が急に増えることは資金繰りを直撃する問題です。
加えて、エネルギー価格や原材料価格の高騰も経営を圧迫しています。帝国データバンクの調査によると、2024年の時点で企業の7割以上が「原材料やエネルギーの高騰による収益悪化」を実感していると回答しています。価格転嫁が難しい中小企業では、利益を削らざるを得ない状況が続いています。
例えば、食品加工業を営む中小企業では、小麦粉や油の価格上昇により利益率が大幅に低下しました。さらに借入金の返済負担も増加し、「黒字を維持できるのはあと数年」と見込み、余力があるうちに廃業を決断しました。
このように、金利上昇と物価高は複合的に作用し、経営を続けるよりも撤退を選ぶ企業を増やしています。
コロナ後の支援縮小
2020年からのコロナ禍では、政府が持続化給付金や雇用調整助成金といった支援策を打ち出したことで、多くの企業が廃業を免れることができました。しかし、2023年以降はこうした支援が段階的に終了し、本来なら市場から退出していたはずの企業が再び廃業を余儀なくされています。
中小企業庁の分析によれば、支援があった時期は休廃業件数が抑制されていた一方で、支援終了後は反動的に廃業が増加していることが確認されています。つまり、コロナ禍で先延ばしされていた廃業が、一気に顕在化しているのです。
実際に、観光業や飲食業では支援金により一時的に延命できたものの、需要回復が十分でない地域では廃業が相次いでいます。観光地にある老舗旅館の中には、コロナ禍で給付金を得て経営を続けたものの、借入金返済や人材不足の課題に直面し、結局は廃業を選んだ事例もあります。
このように、コロナ後の支援縮小は、休廃業の増加に直結する重要な要因となっています。
地域経済の構造変化
最後に挙げられるのは、地域経済そのものの構造変化です。人口減少や都市への人口集中により、地方の中小企業は市場規模の縮小に直面しています。総務省の統計でも、日本の総人口は2010年をピークに減少傾向にあり、特に地方では高齢化と人口流出が深刻です。
その結果、地元顧客に依存していた小売業やサービス業は売上が減少し、採算が合わなくなるケースが増えています。また、地域の商圏縮小により新たな投資や事業拡大が難しくなり、経営者が将来を悲観して廃業を選ぶ傾向が強まっています。
例えば、地方のクリーニング店では高齢の常連客が減り、若い世代は都市部に流出したため売上が半減しました。加えて、大手チェーン店の進出による競争激化も重なり、経営を続けるよりも廃業を決断したケースがあります。
このように、地域経済の構造変化は、個々の企業努力では解決できない問題であり、休廃業を増やす根本的な背景となっています。
まとめ
休廃業の増加には、主に以下の4つの要因が絡み合っています。
- 後継者不足と経営者の高齢化
- 金利上昇・物価高による資金繰り悪化
- コロナ後の支援縮小
- 地域経済の構造変化
これらはいずれも単独で企業を追い込む要因ですが、実際には複数の問題が同時に重なり、経営者が「続けるよりもやめる方が合理的」と判断するケースが増えています。2025年に休廃業が過去最多に達すると予測されるのは、このような社会全体の変化が背景にあるのです。
3. 「黒字なのに廃業」する企業が増える理由
資産超過型の特徴
本来、廃業は経営が赤字や債務超過に陥った企業が選ぶものと思われがちですが、近年はそうとは限りません。実際には資産超過型、つまり総資産が負債を上回る健全な状態の企業が廃業を選ぶケースが増えています。帝国データバンクの調査では、2025年上半期の休廃業のうち64.1%が資産超過型でした。これは過去最高の割合であり、経営環境の厳しさが経営者に「黒字でもやめる」という決断を迫っていることを示しています。
資産超過型で廃業を選ぶ背景には、次のような事情があります。
- 今後の業績悪化を見越して「資産が残っているうち」に撤退したい
- 従業員や取引先への迷惑を最小限に抑えるため、余裕あるうちに準備を進めたい
- 後継者が不在で、将来的に経営継続が難しい
例えば、地方で建設資材を扱う会社では、安定した黒字を維持していたものの、経営者が70代後半に差し掛かり、後継者も不在でした。今後の地域需要減少を考慮し、借入金返済に余裕があるうちに廃業を決断しました。このような事例は全国的に増加しており、「黒字廃業」は決して珍しくない状況です。
つまり、資産超過型の廃業は、追い込まれての撤退ではなく、むしろ「傷が浅いうちに決断する」という戦略的な選択といえます。
余力があるうちに撤退する心理
黒字なのに廃業する企業が増えているもう一つの理由は、経営者の心理的判断です。日本政策金融公庫の調査によると、中小企業経営者の多くは「経営が立ち行かなくなる前に余力があるうちにやめたい」と考えています。これは、赤字に転落してからでは廃業費用を賄えなかったり、従業員の再就職支援ができなかったりするリスクが高まるためです。
廃業には登記抹消や債務整理、従業員の退職金支払いなど、一定のコストがかかります。特に従業員数が多い企業では、退職金や未払給与の清算だけで数千万円にのぼることもあります。そのため、資金に余裕がある段階で撤退する方が、経営者にとっても従業員にとっても安心なのです。
具体的な事例として、関東地方で運送業を営んでいた企業があります。この会社は安定した取引先を持ち、黒字経営を続けていましたが、燃料費の高騰と車両維持費の増加により、今後の採算が厳しくなると判断しました。経営者は「赤字になってからでは従業員の退職金が払えない」と考え、十分な資金が残っているうちに計画的に廃業を進めました。従業員は再就職支援を受けながら比較的スムーズに転職でき、取引先も早期に代替業者を確保できたため、大きな混乱は避けられました。
このように、経営者は「会社がまだ元気なうちに撤退する方が、関係者に迷惑をかけない」という考え方を持ちやすくなっています。結果として、余力があるうちの黒字廃業が増えているのです。
まとめ
黒字廃業の増加は一見すると矛盾しているように思えますが、その背景を見れば合理的な判断であることが分かります。
- 資産超過型の企業が、今後の経営悪化を見越して早めに撤退している
- 廃業費用や従業員・取引先への責任を果たすため、余裕があるうちに決断する心理が働いている
- 後継者不足や高齢化の問題が拍車をかけている
つまり「黒字なのに廃業」は、追い込まれた末の決断ではなく、将来のリスクを最小化するための戦略的な選択です。これは2025年に休廃業・解散が過去最多になる背景の重要な一因といえるでしょう。
4. 中小企業庁が注目する「円満廃業」とは
円満廃業の定義と考え方
「円満廃業」とは、経営者が経営難に追い込まれてやむなく事業を閉じるのではなく、計画的に準備を整えたうえで事業を終了することを指します。中小企業庁はこの概念を近年強調しており、単なる「事業をやめる」という消極的な行為ではなく、前向きに未来を描くための戦略的な選択肢と位置づけています。
中小企業庁が円満廃業を推奨する背景には、休廃業件数の増加があります。帝国データバンクによると、2025年には休廃業・解散件数が過去最多の7万件超に達する見込みです。その中で、黒字経営や資産超過の状態で廃業を選ぶ企業も多く、決して「失敗の証」ではない廃業が広がっています。
円満廃業が重要視される理由は、以下の点にあります。
- 経営者の生活基盤を守る:資金に余裕があるうちに撤退すれば、老後資金や再挑戦の原資を確保できる
- 従業員・取引先への配慮:突然の解雇や取引停止を避け、関係者に安心感を与える
- 地域経済の安定:無計画な廃業による連鎖的な倒産リスクを減らす
例えば、地方で数十年続いた食品加工業者では、経営者が70代になり後継者が不在でした。黒字経営を続けていたものの、将来の需要減少と体力面の不安から、自ら廃業を決断しました。このとき、従業員には半年以上前から再就職先を紹介し、取引先にも十分な移行期間を設けたため、大きな混乱は起きませんでした。このように「計画的に撤退する」ことで、廃業がマイナスではなくプラスの選択肢となるのです。
まとめると、円満廃業とは「余力のあるうちに事業を閉じ、関係者や経営者自身の未来を守る選択」であり、中小企業庁が積極的に普及を進めている考え方です。
倒産との違い
円満廃業と混同されやすいのが「倒産」です。しかし両者は大きく異なります。倒産は資金繰りが行き詰まり、債務超過や資金ショートにより事業継続が不可能になった状態を指します。一方で円満廃業は、経営にまだ余力がある段階で経営者が自主的に撤退する選択です。
倒産と円満廃業の違いをわかりやすく整理すると、次のようになります。
項目 | 円満廃業 | 倒産 |
---|---|---|
主な状態 | 黒字や資産超過の状態で撤退 | 資金繰り破綻や債務超過 |
経営者の主体性 | 経営者が自主的に判断して終了 | 資金不足により強制的に終了 |
従業員・取引先 | 計画的に引き継ぎや支援を行える | 突然の解雇・取引停止で混乱 |
社会的イメージ | 前向きな撤退として評価されやすい | 失敗や破綻というネガティブな印象 |
例えば、製造業のA社は黒字経営を続けていましたが、経営者が高齢で後継者もいなかったため、資産があるうちに廃業を決断しました。これは円満廃業です。一方で、B社は借入金の返済が滞り、取引先への支払いができなくなり破産手続きを行いました。これは典型的な倒産です。
このように、円満廃業は「将来を見据えた戦略的な撤退」、倒産は「経営破綻による強制的な撤退」という明確な違いがあります。
結論として、円満廃業は倒産とは異なり、計画的に関係者への影響を抑えつつ経営者自身の人生設計も守れる方法です。そのため、中小企業庁は「倒産に追い込まれる前に円満廃業を選択すること」が、地域経済の安定にとって重要だと考えているのです。
5. 円満廃業がもたらすメリット
経営者の生活基盤確保
円満廃業の最大の利点は、経営者が自らの生活基盤を守れることです。赤字や債務超過に陥る前に撤退すれば、老後資金や次の挑戦のための資金を確保できます。中小企業庁の調査でも、黒字のうちに廃業することで「引退後の生活資金を十分に残せた」と答える経営者が多いとされています。
実際、東京商工リサーチのデータでは、黒字廃業の約半数が「生活安定」を目的にしているとされます。例えば、ある金属加工業の経営者は70代半ばで、工場は黒字でしたが後継者不在のため、資産を維持できるうちに廃業しました。その結果、退職金や老後資金を確保し、安心して次の生活に移行できたといいます。
このように、無理に事業を続けて資産を減らすよりも、早めに決断することで経営者自身の将来が守られるのです。
従業員・取引先への配慮
円満廃業では、従業員や取引先への影響を最小限に抑えることができます。突然の倒産では解雇や納品停止が一気に発生し、関係者に大きな混乱をもたらします。しかし、計画的に廃業を進めることで、従業員の再就職支援や取引先への移行をスムーズに行うことが可能です。
- 従業員には事前に十分な説明を行い、転職先を紹介できる
- 取引先には代替業者を紹介するなど、業務の連続性を確保できる
- 急な契約打ち切りを防ぐことで信頼関係を守れる
例えば、ある老舗の飲食業では、経営者が健康上の理由で廃業を決断しました。半年以上前から従業員に説明を行い、再就職のサポートを進めました。また、主要な仕入れ先には後継の取引先を紹介したことで、関係先に大きな影響を与えることなく事業を終了できました。
このような事例からも、円満廃業が「人に優しい撤退」の形であることが理解できます。
サプライチェーンの安定
中小企業の廃業は、取引先や地域経済に連鎖的な影響を及ぼすリスクがあります。突然の倒産では納品が止まり、取引先企業が資材不足や販売機会の喪失に直面することになります。しかし、円満廃業なら事前に引き継ぎや代替手配を行うことで、サプライチェーン全体の安定を保つことができます。
中小企業庁も「サプライチェーン事業承継」の取り組みを通じ、企業間のつながりを維持しながら廃業や承継を進めることを推奨しています。これにより、廃業が地域全体に悪影響を与えるのを防ぐことができます。
例えば、地方の製パン業の原材料供給業者が廃業する際、同業他社を紹介し、主要顧客に混乱が起きないよう調整しました。これにより、パン製造会社の生産ラインは止まらず、地域の食品供給も維持されました。このような対応ができるのは、円満廃業だからこそです。
M&Aによる価値最大化
円満廃業を検討する際に、M&Aを併用することでさらにメリットが広がります。M&Aを通じて事業や資産を第三者に引き継げば、経営者は廃業に伴うコストを抑えられるだけでなく、事業の価値を売却益として最大化できます。
帝国データバンクの調査でも、M&Aによって従業員の雇用が守られたり、取引先との関係が維持されたりするケースが多いとされています。つまり、M&Aは単なる「会社を売る」という行為ではなく、「事業を次の担い手につなぐ」手段なのです。
実際に、地方の建設会社では経営者が70代となり後継者が不在でしたが、同業他社にM&Aで譲渡しました。これにより、従業員の雇用は継続し、取引先との契約もそのまま引き継がれました。経営者自身も売却資金を確保でき、計画的な引退を実現できたのです。
このように、円満廃業にM&Aを組み合わせることで、経営者・従業員・取引先のすべてにとって利益のある結果を得ることが可能です。
まとめ
円満廃業は「終わり」ではなく「未来への準備」として、多くのメリットを持っています。
- 経営者が生活資金や老後資金を守れる
- 従業員や取引先への配慮ができ、信頼関係を損なわない
- サプライチェーンの安定を確保でき、地域経済への影響を抑えられる
- M&Aを活用すれば事業価値を最大化できる
このように、計画的で前向きな撤退である円満廃業は、経営者にとっても社会にとってもプラスの選択肢といえるのです。
6. 廃業とM&Aの選択基準
どんな会社がM&A向きか
M&Aに適している会社は、「事業としての魅力」が残っているケースです。売上や利益が多少下がっていても、技術や顧客基盤、従業員のスキルなどが評価されれば、買い手が現れる可能性があります。中小企業庁の公表資料でも、廃業予定企業のうち一定割合はM&Aで承継すれば存続できると指摘されています。
M&Aに向いている特徴を整理すると次の通りです。
- 安定した顧客基盤:長年の取引先や固定客を持っている会社
- 独自の技術やノウハウ:他社にない製品技術、熟練の技能を持つ企業
- 人材の蓄積:経験豊富な従業員や営業力がある人材が残っている会社
- 地域でのブランド力:地元での信頼や知名度がある会社
例えば、ある精密部品メーカーでは経営者が高齢となり後継者不在でしたが、取引先に大手メーカーが多くあり、特殊加工技術を持っていたため、同業他社に譲渡されました。このM&Aにより従業員は雇用を継続でき、経営者は廃業費用を負担せずに引退資金を得ることができました。
このように、顧客・技術・人材といった「引き継ぐ価値」がある場合はM&Aが選択肢として強く推奨されます。
廃業を選ぶケースと判断基準
一方で、すべての会社がM&Aに向いているわけではありません。事業に魅力が乏しい場合や、引き継ぐ価値が限定的な場合は廃業を選ぶのが合理的です。帝国データバンクの調査でも、黒字でありながらも「買い手が見つからない」「業界自体が縮小している」といった理由で廃業を選ぶ企業が増えているとされています。
廃業を選択する判断基準は次のように整理できます。
- 業界全体の衰退:市場縮小が続き、将来性が見込めない場合
- 後継者・人材不足:M&Aの相手が見つからず、人材も確保できない場合
- 財務的魅力の低下:資産よりも負債が大きく、買い手にメリットを提供できない場合
- 地域ニーズの変化:人口減少で顧客が消滅し、事業継続が難しい場合
実例として、地方のクリーニング店では、人口減少と大手チェーンの進出により顧客数が激減しました。設備も老朽化していたため、買い手は現れず、経営者は余力のあるうちに廃業を選びました。従業員には退職金を支払い、取引先には他業者を紹介することで、混乱を最小限に抑えることができました。
このように、M&Aが成立しにくい場合や、事業自体に将来性がない場合は廃業を選ぶのが現実的です。
まとめ
廃業とM&Aの選択は「どこに価値が残っているか」で判断されます。
- M&Aに向くのは、顧客・技術・人材など「引き継ぐ価値」がある会社
- 廃業を選ぶのは、業界の衰退や財務的魅力の欠如により買い手が現れにくい会社
結局のところ、経営者が早めに自社の状況を客観的に把握し、「譲渡で価値を残すのか」「廃業で責任を果たすのか」を判断することが重要です。中小企業庁も、専門家との相談を通じて適切な出口戦略を描くことを強く推奨しています。
まとめ
2025年は休廃業・解散が過去最多となる見込みであり、経営者は「継続か撤退か」の重要な判断を迫られています。本記事ではその背景や中小企業庁が注目する円満廃業、そしてM&Aを活用した出口戦略について解説してきました。最後に要点を整理します。
- 休廃業は黒字企業にも広がる
- 円満廃業は計画的撤退を可能にする
- M&Aは価値を残す有力な選択肢
- 専門家相談で最適な判断ができる
経営の出口戦略は早めの準備が肝心です。詳しく知りたい方は、ぜひアーク・パートナーズまでお問い合わせください。
