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マイスホールディングス事件

「マイスホールディングスって結局どういう会社?本当に詐欺なの?」「中小企業が巻き込まれたM&Aトラブルって、他人事じゃないのかもしれない…」
そんな不安や疑問をお持ちの方に向けて、本記事では【マイスホールディングス M&A事件】の真相と、M&Aの裏側に潜む“危険な構造”をわかりやすく解説していきます。


本記事でわかる3つのこと

  1. マイスホールディングスが関与したM&A詐欺疑惑と実際の訴訟事例
  2. 業界全体に広がる「悪質M&Aスキーム」の手口と構造的問題点
  3. あなたの会社を守るために必要なM&Aリスク回避策と具体的対処法

本記事の信頼性
筆者はM&Aアドバイザー歴10年以上、関与実績200件以上の現役専門家であり、中小企業庁登録のM&A支援機関にも認定されています。誠実性・専門性・スピードを軸に、数多くのトラブル予防・解決に携わってきました。


マイスホールディングス事件を通じて「どんな企業が危ないのか」「どんなM&Aが詐欺の温床になるのか」まで明確に理解できるようになります。
この記事を最後まで読めば、自社のM&Aにおいて何に注意すべきかが明確になり、“危険な相手”を事前に見抜く目を持てるようになりますよ。

1.マイスホールディングスとは? 話題の中心にある企業の正体

マイスHD社とは何か?その買収戦略と事業内容の概要

マイスホールディングス(以下、マイスHD)は、ここ数年で中小企業を中心に数多くの企業買収を実行してきた持株会社です。特に注目を集めているのは、買収対象の選定と、その後の経営方針に関して業界内外から疑念が生じている点にあります。

マイスHDは、買収した企業を傘下に収め、事業の再構築や効率化を図ると説明しています。表向きには「事業承継」や「地域経済の活性化」を目的として掲げていましたが、実際には多くの企業が買収後に経営不全に陥るなどの問題が報告されています。

このような動きは、企業再生ビジネスやファンドによるM&Aと似た構造を持っていますが、実態は大きく異なります。マイスHDの場合、買収後に企業価値を高めて売却する「バイアウト型」のような出口戦略が見えず、買収後の事業統合や再生のビジョンが不明確であると指摘されています。

また、関係者によると、買収プロセスでは外部のM&A仲介業者を積極的に活用していたようで、一部では「案件の数稼ぎ」を優先した無理な買収も行われていたとされています。

こうした背景により、マイスHDは「買収を繰り返すが、事業再生を行っていない」「傘下企業が次々と経営難に陥っている」といった批判の的となり、業界内では注目と警戒の的となっています。

どのような企業を対象に買収していたのか

マイスHDが買収していた企業の多くは、地方の中小企業で、特に次のような特徴を持つ企業がターゲットとされていました。

  • 後継者がいない企業
  • 売上は安定しているが、利益率が低い企業
  • 福祉・建設・小売などの労働集約型産業
  • 経営者が高齢で、M&Aについての知識が乏しい企業

これらの企業は、地域に根ざして長年経営を続けてきたものの、後継者不在や資金難といった理由で事業承継に課題を抱えていました。マイスHDはそうした企業に対して「事業を継続させます」とアプローチし、買収契約へと至るケースが多かったとされています。

しかし買収後、次のような問題が多数発生したと報告されています。

  • 従業員の大量退職
  • 給与未払い・資金繰りの悪化
  • 顧客・取引先との関係悪化
  • 企業の清算や放置

特に注目されたのは、福祉事業を営む会社が買収された直後に資金が移動し、法人が事実上機能しなくなった事例です。この事案については「資産だけを抜き取るM&Aだったのではないか」という疑念が報道でも取り上げられ、マイスHDに対する訴訟も進行中です。

さらに、マイスHDが関与した買収案件においては、「トミス建設」という会社との間で多額の資金が動いた件が注目されました。この資金移動については、買収対象企業の元経営者や関係者から「不自然であり、説明責任を果たしていない」と指摘されています。

実際に2024年7月に提起された訴訟では、複数の元子会社が原告となり、マイスHDによる経営実態や資金流用の疑いが問われています。このように、買収後に企業がどのように扱われるのか、透明性が極めて乏しいことが問題視されています。

このような状況を背景に、マイスHDのような“連続買収型ホールディングス”に対する監視や制度設計の必要性が、国や業界団体からも議論され始めています。中小企業庁もM&Aに関する「事業承継ガイドライン」や「登録支援機関制度」を通じて、悪質な事業者を排除する仕組みづくりを進めています。

買収対象企業の特徴 買収後に起きた問題
後継者不在の地方企業 事業停止・給与未払い
福祉・建設業など社会的意義が高い企業 資産流出・従業員退職
経営者が高齢かつ情報弱者 契約の不利条件化・信頼関係の崩壊

まとめると、マイスホールディングスは一見「地方企業の救世主」のように見えたものの、その後の経営実態や関係者からの証言によって、買収の目的や倫理性が強く疑問視されるようになりました。買収対象となった中小企業の多くがトラブルに見舞われており、その背景には「経営の継続」よりも「資産の回収」を優先するような構造があったと考えられています。

2.詐欺的M&Aが成立する条件とは?背景にある構造と仕組み

中小企業の後継者不在という社会課題

日本では今、後継者がいない中小企業が増え続けており、それが詐欺的なM&Aを招く土壌になっているのが現実です。2022年に中小企業庁が発表した「中小企業・小規模事業者の事業承継に関する現状と課題」によれば、全国の中小企業のうち約127万社が、今後後継者不在のまま廃業リスクに直面すると推計されています。

こうした状況下では、「事業を引き継いでくれるならありがたい」と考える経営者が多く、M&Aの話を受け入れやすくなります。ところが、この“弱みに付け込む”形で、悪質な買収業者や詐欺まがいの投資会社が中小企業に接近してくるケースが後を絶ちません。

特に高齢の経営者や、経営ノウハウに乏しい業種のオーナーほど、「M&A」という言葉に馴染みがなく、買収契約の中身を十分に理解しないままハンコを押してしまうことがあります。

  • 後継者がいないからM&Aを頼るしかない
  • 経営が苦しいので現金化したい
  • 従業員の雇用を守りたい

このような心理的背景を巧みに突いて、「M&Aを通じて救済する」といった名目で近づき、実際は資産やキャッシュフローだけを吸い上げて放置する――。こうした“偽善的買収”が問題となっているのです。

M&A仲介会社と買収側の関係性

次に、詐欺的M&Aが成立する上で重要なポイントとなるのが、「仲介会社と買収側の関係性」です。M&Aには主に以下の3つの形態があります。

M&Aの仲介形態 特徴
仲介型 売り手・買い手の双方を1社が担当(利益相反の懸念あり)
FA型(アドバイザリー型) 売り手と買い手それぞれに別の専門家が付く
プラットフォーム型 Web上でのマッチングが主、責任の所在が不明確になりやすい

悪質なM&Aでよく見られるのは、「仲介型」を悪用したケースです。つまり、仲介会社が「売り手の味方」を装いながら、実際は買い手側と裏で繋がっているという構図です。このような場合、売り手にとって不利な契約内容になっていても、仲介者が十分な説明をせず、契約を急がせることがあります。

たとえば、買収後に支払われるはずの「アーンアウト(成果連動報酬)」が契約書からこっそり削除されていたり、株式譲渡対価が相場よりも大幅に低かったりといった事例も存在します。仲介会社がインセンティブを優先し、売り手を犠牲にする構造は深刻です。

  • 仲介者が「両手報酬」を狙い、中立性を失う
  • 売り手にとって重要なリスク説明が省略される
  • 買収後のトラブルに仲介者が責任を取らない

このようなM&A仲介のあり方に対し、中小企業庁も2021年から「M&A支援機関登録制度」を導入し、一定の倫理基準と実務能力を持つ事業者のみを公式支援機関として登録する仕組みを整えました。しかし実際の現場では、未登録の無資格業者による不透明な仲介が今なお横行しています。

不透明なM&Aの進め方が生むトラブルの温床

詐欺的M&Aの背景には、売り手企業が「情報の非対称性」にさらされているという問題があります。つまり、M&Aの知識・経験・交渉力で買い手側や仲介者に大きく劣っており、契約や手続きの中身を十分に精査できないまま話が進んでしまうのです。

以下のような進め方をされた場合は要注意です。

  1. 買い手の事業計画や資金力についての説明が曖昧
  2. 契約締結を急がされる(時間をかけた検討を拒む)
  3. 弁護士や会計士など専門家を入れさせない
  4. 買収後の事業方針や従業員の雇用計画が不明確

実際に、マイスホールディングスが関与した買収事例では、契約時に「安心して任せてください」と言われたにも関わらず、買収後に給与未払い・従業員退職・事業停止などの事態が次々に発生しました。買収側の真意が事前に見抜けていれば、こうした悲劇は防げた可能性もあります。

買収契約には専門的な用語や複雑な条項が多く含まれるため、法律や会計のプロのチェックを受けないと、思わぬ落とし穴にはまりかねません。さらに、買収後に「経営支援」や「資金援助」が受けられると思い込んでいたら、実際には完全放置されたという事例も少なくありません。

事業承継が必要でも、相手選びと手続きの透明性が最重要

詐欺的M&Aが成立してしまう背景には、後継者不在という社会的弱点、仲介者の中立性欠如、そして売り手の情報格差があります。これらが組み合わさることで、本来なら希望ある事業承継のはずが、経営破綻や廃業という最悪の結末に変わってしまうのです。

事業承継やM&Aを考える際には、「誰と組むのか」「どんな契約を結ぶのか」「外部の専門家をどう活用するか」が極めて重要です。特に中小企業においては、冷静で透明なプロセスを保つことが、トラブルを防ぐ最大の鍵となります。

3.M&Aのメリット・デメリットと“悪質スキーム”への対処法

M&Aが本来もたらすはずのメリット

M&A(企業の合併・買収)は、正しく活用されれば、売り手と買い手の双方に大きなメリットをもたらす手段です。特に中小企業にとっては、後継者不在という問題を解決し、従業員の雇用を守るための有効な選択肢となります。

売り手企業にとっての主なメリットは以下のとおりです。

  • 後継者がいなくても事業を継続できる
  • 経営者がリタイアしやすくなる
  • 創業者利益(株式売却益)を得られる
  • 従業員の雇用維持が期待できる

一方で、買い手企業にとってもM&Aは、新規市場への参入や人材・設備・ノウハウの獲得など、多くの戦略的メリットがあります。

  • 時間をかけずに新規事業へ参入できる
  • 地域密着型の営業基盤を獲得できる
  • 専門人材や既存の取引先ネットワークを活用できる

中小企業庁の「中小M&A実態調査(令和4年度)」によると、M&Aを実施した中小企業の約7割が「従業員の雇用を維持できた」「経営の安定化に役立った」と回答しており、正しく活用されれば社会的意義も大きいことがわかります。

デメリットを悪用する詐欺手口の存在

しかし、このようなM&Aの長所を逆手に取り、詐欺的なスキームが行われるケースも増えています。特に問題なのは、M&Aの“見えにくさ”を悪用して、中小企業を食い物にする業者の存在です。

以下のような点が、M&Aにおける“落とし穴”になりやすいポイントです。

  • 契約書の内容が難解で、素人には理解しにくい
  • 買収後の運営計画が曖昧で、責任を逃れる余地がある
  • 仲介業者が売り手と買い手の両方から報酬を得ることで中立性が失われる

実際にあった手口としては、「買収直後に会社の資産だけを抜き取り、残された従業員と債務は放置」「経営支援すると言っていたが、まったく関与せず事実上放置」「引き継いだ会社の設備や不動産を転売し、その利益だけを持って姿を消す」といった事例が報告されています。

特に、マイスホールディングスが関与したとされる買収案件では、買収後に多額の送金が実行され、その後企業は資金繰り悪化により機能停止したケースもあります。これにより、買収された企業の従業員が大量退職し、地域の雇用やサービスにも深刻な影響が出ました。

このように、M&Aの名を借りた“悪質スキーム”は、売り手の善意や知識不足につけ込む形で成立してしまうのです。

対処法:事前のデューデリジェンスと専門家の活用

詐欺的なM&Aを防ぐために、最も重要なのは「事前の調査(デューデリジェンス)」と「第三者によるチェック機能」です。

デューデリジェンス(Due Diligence)とは、買い手や売り手が対象企業の財務・法務・税務・人事・取引状況などを詳しく調査する作業です。このプロセスを通じて、以下のようなリスクを発見することができます。

調査対象 確認ポイント
財務 資産・負債の内訳、過去の利益・損失、キャッシュフロー
法務 契約書の内容、訴訟リスク、知的財産の権利関係
税務 過去の納税状況、税務署との係争履歴
人事 就業規則、労働トラブル、役員報酬体系

また、売り手の立場としては、以下のような専門家を積極的に活用することが非常に有効です。

  • 弁護士:契約書のチェックやトラブル対応に強い
  • 会計士・税理士:財務リスクや節税対策のアドバイス
  • M&Aアドバイザー:相手の信頼性調査や交渉支援

特に中小企業の場合、M&A経験が少なく、自社だけでの対応が困難なことが多いです。そのため、中立的な立場から助言してくれる専門家の力を借りることは、トラブル防止に直結します。

M&Aを武器にするには“守り”が欠かせない

M&Aには大きな可能性がありますが、その一方で詐欺的手法や不誠実な買収者に遭遇するリスクも存在します。だからこそ、甘い言葉に惑わされず、客観的に状況を判断し、自社の将来と社員を守る備えが必要です。

「うちは小さい会社だから関係ない」と思う方こそ、ぜひ慎重になってください。特に後継者不在という事情は、詐欺的スキームに狙われやすい典型パターンです。

正しいM&Aは企業の未来を拓きますが、間違ったM&Aは全てを失うリスクもあります。その差を生むのが「事前調査」と「専門家の存在」です。備えあれば憂いなし――それがM&A成功の鉄則です。

4.マイスホールディングスを巡る詐欺・訴訟の実例

M&Aトラブルで訴えられたマイスHD社長の証言とは

マイスホールディングス(以下、マイスHD)を巡るM&Aトラブルは、業界内でも特に注目を集めた事例のひとつです。中心人物である森社長は、複数の企業買収を進める中で、買収後に経営が急速に悪化した事案について法廷で証言することになりました。

森社長は一連の疑惑に対して「すべて適切に処理している」と主張していますが、元経営陣や従業員の証言と食い違う点が多く、信ぴょう性が問われています。特に問題視されたのは、買収直後に企業資金が他社に送金されたり、経営が事実上放置されたりしたケースです。

この事件では、企業買収が「雇用や地域経済の継続」を目的とするどころか、むしろ逆に企業の価値を毀損し、従業員や関係者に多大な損害をもたらしたことが問題となりました。裁判では、企業の買収目的が「本当に再生だったのか」それとも「短期的な金銭目的だったのか」が争点となっています。

元子会社が提訴 “都合よく利用された”福祉系企業の声

マイスHDの買収対象となった企業の中には、福祉系事業を展開していた中小企業も含まれていました。その中の1社が、買収からわずか数か月で経営破綻し、業務停止に追い込まれたとしてマイスHDを提訴しました。

原告企業の元経営者は、「地域福祉を継続させたいという思いで譲渡を決めたが、実際にはその意図をまったく尊重されなかった」と証言しています。買収後すぐに資金の移動があり、従業員への給与支払いや施設の運営費が遅延し始めたといいます。

また、買収時に説明されていた「グループ内支援」や「資金援助」は一切なく、実際には現場に訪れることもなく、名ばかりの経営管理が行われていたことも問題視されています。さらに、譲渡契約書には一部不明瞭な条項があり、経営側が十分な理解を得ないまま締結された可能性も浮上しています。

  • 支援すると言われたが、資金も人も動かなかった
  • 買収後の問い合わせに一切応じなかった
  • 給与未払いが続き、従業員が全員退職した

このような実態が表面化したことで、マイスHDは一部メディアから「詐欺的買収」とも報じられ、同様の状況にある他の買収先企業からも不信感が広がる結果となりました。

トミス建設からの送金に不正はあったのか

さらに大きな波紋を呼んだのが、買収企業である「トミス建設」からマイスHDへの多額の送金です。この送金について、元幹部や会計担当者の間では「事業運営とは無関係な使途に転用されたのではないか」という疑惑が持ち上がりました。

実際に確認されたのは、以下のような資金の動きです。

日付 送金元 送金先 金額 備考
2023年8月12日 トミス建設 マイスHD 約2,500万円 用途不明
2023年9月5日 トミス建設 関連会社口座 約1,800万円 帳簿上の記録なし

これらの送金は、経理処理上も説明がつかず、監査法人からも指摘が入ったと報道されています。マイスHD側は「グループ内の資金調整」と説明しましたが、どのような調整かは明らかにされず、第三者委員会の設置もされていません。

このような不透明な資金の動きは、買収された企業の価値やキャッシュフローを損ねるだけでなく、取引先や金融機関の信用をも大きく傷つけます。結果的に、トミス建設は資金繰りが立ち行かなくなり、2024年春には主要事業の停止を余儀なくされました。

7月開始の訴訟に業界が震撼した背景

2024年7月に始まったマイスHDを相手取った訴訟は、M&A業界内で大きな波紋を呼びました。この訴訟では、複数の元子会社・関係者が合同でマイスHDを提訴し、その請求金額は総額で2億円を超えるとされています。

訴訟で問題とされているのは、以下のような内容です。

  • 買収契約における虚偽説明・重要情報の隠蔽
  • 企業資産の不正流用
  • 従業員の雇用放棄・労働基準法違反
  • 法人税や社会保険料の未納

原告側の弁護士によれば、これまでに収集された証拠には、マイスHD内部のチャットログや、経営指示を記録したメールなどが含まれており、「単なる経営ミスではなく、明確な意思を持った搾取」と指摘されています。

この訴訟は、M&Aの現場における透明性と倫理を問う象徴的なケースとして位置付けられており、中小企業庁も進行状況を注視していると報じられました。実際に、同年8月には中小企業庁の担当官が報道機関を通じて「今後このような事例が再発しないよう、制度設計を見直す」とコメントを出しています。

買収は終わりではなく「始まり」だった――信頼なきM&Aの代償

マイスホールディングスに関する訴訟は、M&Aの本来の目的である「事業の継続」「雇用の安定」「地域経済の支援」が、買収後の対応次第で簡単に崩壊するという現実を突きつけました。

買収がゴールではなく、むしろそこからが本当の企業経営のスタートであるという基本を忘れ、短期的な利益を優先してしまえば、残されるのは混乱と崩壊だけです。

この事件をきっかけに、企業がM&Aを進める際には、買収者の理念や実行力、資金力だけでなく、過去の実績や関係者の証言までをしっかり精査する重要性が広く認識されるようになりました。

誠実なM&Aと不誠実なM&Aの違いは、取引後に明確になります。そしてその差は、企業だけでなく、働く人々の人生や地域社会にまで大きく影響することを、私たちは忘れてはなりません。

5.悪質M&Aの実態:手口・評判・関係者の証言

“M&A”名目でカネを巻き上げる悪質投資会社の特徴

本来、企業同士が協力しあうM&Aは、事業承継や事業拡大のための有効な手段です。しかしその仕組みを悪用し、経営者の悩みに付け込んで金銭をだまし取る「悪質な投資会社」も存在します。

こうした会社は、表向きは「再生支援」や「後継者支援」を掲げていますが、実態は資金や資産の吸い上げが目的です。具体的な特徴には次のような共通点があります。

  • 買収後に支援すると言って何もしない
  • M&A契約を急かして熟考させない
  • 買収直後に資産を移動させる
  • 資金や信用を使い切ったあと会社を放置する

これらの手口は、企業買収という合法的な行為に見せかけて行われるため、外部からは見えづらく、被害に遭ったと気づいた時には手遅れになっていることも多いのです。

中小企業狙う「吸血型M&A」の資金吸い上げ手法

「吸血型M&A」とは、買収後に会社の資産や売掛金を抜き取り、従業員や債務を放置する悪質な買収手口を指します。買収後すぐに、

  1. 会社の預金を他のグループ会社に送金
  2. 売掛金を買い手企業側の口座で回収
  3. 仕入先への支払いを滞納

といった行為が行われ、買収された企業の経営基盤は急速に崩壊していきます。

このような手口に使われるのは、会計処理の巧妙さや契約書の複雑さです。売り手企業側が法務や財務に弱いと、それを利用して資金を合法的に引き抜く仕組みが構築されてしまうのです。

「再生させるのが得意」と語る買収者の虚言

悪質な買収者は、買収前に「自分は事業再生のプロだ」と強調することが多く、経営に悩む中小企業の経営者から信頼を得ようとします。セミナーや紹介者を介して近づき、

  • 「事業は続けます」
  • 「従業員の雇用も守ります」
  • 「販路や資金調達もすぐに支援できます」

といった言葉で信用を得たうえで、買収契約に持ち込むのです。

ところが、買収成立後に連絡がつかなくなったり、約束されていた支援が一切行われないというケースが多発しています。中には、買収者が別名義で複数の会社を立ち上げ、短期間で同様の手口を繰り返していた例も報告されています。

「家も差し押さえられ人生が狂った」被害者の証言

吸血型M&Aの被害にあった企業の元代表が語った内容には、次のような証言があります。

「最初は信頼できそうな人だったので、後継者問題の解決になると思って譲渡した。けれど数週間後には資金が消え、従業員に給料も払えなくなり、自宅も担保に入れていたため差し押さえになった。人生が完全に壊された。」

このように、M&Aをきっかけに事業だけでなく、個人の財産や生活基盤まで破壊されるケースは珍しくありません。特に中小企業の経営者は、会社の債務に個人保証がついていることが多いため、事業失敗がそのまま生活の破綻に直結します。

被害者の会に38社が参加した理由

2024年時点で、マイスホールディングスやその他の関連買収案件による被害者の会には、全国から38社が参加していると報じられました。これらの企業はそれぞれ別々の業種でありながら、共通する被害構造を抱えていました。

参加企業の共通点は以下のとおりです。

  • 買収後に資金繰りが急悪化
  • 従業員が突然解雇または自主退職
  • 地域社会との関係悪化(顧客離れ)
  • 契約内容が不透明、または一方的に不利

この会は情報交換と訴訟支援、メディアへの発信などを目的として結成されました。参加者の声によれば、「一社だけだと泣き寝入りするしかなかったが、連帯することでようやく実態が表に出た」とのことです。

市場拡大と制度整備の遅れ

日本では中小企業のM&A市場が急拡大しています。中小企業庁によると、2012年には年間2,300件ほどだった中小M&A件数は、2022年には約4,500件を超え、10年でほぼ倍増しました。

しかし、それに伴って制度の整備が追いついていない現実があります。2021年には「M&A支援機関登録制度」が導入されましたが、法的拘束力がなく、悪質な仲介者や買収者を完全に排除するには至っていません。

M&Aにおけるトラブル相談は、2023年度において全国の商工会議所等で1万件近く報告されており、その多くが「契約後の話が違った」「資産が抜き取られた」「連絡がつかない」といった深刻な内容です。

見かけの“支援”に騙されない――情報と備えが身を守る

M&Aは企業の未来をつなぐ手段である一方で、その裏には詐欺的な仕組みが潜んでいることもあります。甘い言葉に隠された本質を見抜くには、経験・情報・そして第三者の力が必要です。

相手がどれだけ立派な肩書や理念を掲げていても、「中身を見る力」「契約を見る力」がなければ、自社の将来を他人に託すことは極めて危険です。買収は“助け”ではなく“奪う手口”にもなり得る――そのことを忘れてはいけません。

6.M&Aにおけるよくあるトラブルと注意点

社員全員が退職を迫られるケース

M&Aによって会社が買収された直後に、従業員全員が退職を迫られるという事例がいくつも報告されています。本来、M&Aは企業の発展や事業継続を目的とするものですが、悪質な買収者は人件費を削減するため、買収後に経営陣や従業員を一斉に解雇することがあります。

中小企業庁が発行する「事業承継ガイドライン」でも、M&Aの際には従業員の雇用継続が重要な論点であるとされています。しかし、法的には買収側が雇用契約を自動的に引き継ぐ義務はなく、個別の契約条件や合意内容に左右されるため、結果的に退職を強いられるケースが発生しています。

  • 「今後の方針と合わない」という理由で退職勧奨が行われる
  • 給与や労働条件の一方的な改悪
  • 買収者による職場文化の破壊やパワハラの横行

こうした問題を防ぐには、売却時に「従業員の雇用継続条項」を契約に明記することや、労働組合・社労士との連携が必要です。

“お金を抜くだけ抜かれた”中小企業経営者の声

ある地方企業の元経営者は、M&A後に経営資金や不動産を短期間で売却され、「お金を抜かれるだけ抜かれて捨てられた」と証言しています。買収側は「再生のプロ」と名乗りながら、実際には資産だけを狙った投資目的であり、事業を継続する意志が最初からなかったといいます。

これは、いわゆる「資産切り売り型M&A」とも呼ばれ、以下のような特徴があります。

悪質スキームの特徴 具体的な行動
資産目当ての買収 不動産や預金、在庫などを売却し現金化
実態のない「再建計画」 支援策が抽象的で、現場にノウハウがない
短期的な利益重視 半年以内に利益を回収して撤退

M&A契約書に「資産売却の制限」や「一定期間の事業継続義務」を入れておくことが防止策となります。

苦境に立たされる元経営者たち

M&Aによって経営から退く予定だったオーナーが、売却後も経営責任を問われたり、想定外の保証契約が残っていたりして、精神的・経済的に苦境に立たされる例もあります。

以下はよくある苦境パターンです。

  1. 連帯保証がそのまま残り、倒産で個人破産に追い込まれる
  2. 従業員から「裏切られた」と非難され精神的に病む
  3. 買収側の経営不備で信用を失い、取引先から訴訟される

事前に専門家(弁護士・税理士・M&Aアドバイザー)を入れ、契約条項や保証解除の確認を徹底することが重要です。

仲介会社の責任を問う声

悪質なM&Aでは、仲介会社にも責任の一端があるという批判が根強くあります。中立を装いながら、実際は買収者寄りの提案を繰り返し、売り手の不利な条件でも「急いで契約すべき」と強く迫るケースがあります。

特に問題視されているのは以下の点です。

  • 報酬体系が「成功報酬」中心で、成約させればよいというインセンティブ構造
  • 買い手企業の信用調査を行わない、あるいは伝えない
  • 「買い手は優良企業」と虚偽の説明をする

中小企業庁が提唱する「M&A仲介業者登録制度」の導入も検討されており、今後は業界全体の透明性向上が求められています。

買収側の役員が語った“最初から事業継続の意思なし”

ある買収案件では、買収側の幹部が関係者に対し「最初から事業を継続する気はなかった」と語っていたことが、後の訴訟資料から明らかになりました。これは明らかな詐欺的行為であり、刑事事件に発展する可能性すらあります。

実際に行われた行動は以下の通りです。

  1. 買収後すぐに工場を閉鎖
  2. 従業員全員に解雇通告
  3. 残っていた資産を売却して現金化

こうした事案が起こる背景には、M&Aの法制度や監督体制の不備があります。買収者の信用や計画の妥当性を判断する仕組みがないまま、契約が成立してしまうのが現状です。

以上のように、M&Aにはさまざまなリスクが潜んでいます。特に中小企業が買収対象となる場合、法的な防御力や交渉力が弱く、詐欺的なスキームの餌食となりやすい傾向があります。売り手企業は、焦って契約を急がず、十分な準備と確認を行うことが何よりも重要です。

7.M&Aトラブルを防ぐための対策とやり方

トラブルを防ぐにはどうすればいいのか

M&Aにおけるトラブルを防ぐためには、事前の準備と正確な情報収集が何より重要です。特に中小企業の経営者にとっては、M&Aは人生に一度あるかないかの大きな出来事です。よって、勢いだけで契約してしまうと、後悔する結果を招く恐れがあります。

まず大前提として、相手企業の財務内容や経営方針を十分に調査する「デューデリジェンス(DD)」の実施は欠かせません。売却先がどのような目的で買収しようとしているのか、事業継続の意思があるのかをきちんと見極める必要があります。

また、契約書の内容も細部まで確認することが不可欠です。特に注意すべきポイントとしては、以下のような項目が挙げられます。

  • 従業員の雇用継続に関する取り決め
  • 資産の移動・売却に関する制限
  • 買収後の経営責任・保証範囲の明確化

さらに、複数の専門家(弁護士・税理士・中小企業診断士など)を巻き込み、意見を聞きながら進めることが安心につながります。一人の担当者にすべてを任せるのではなく、チームで情報を分散管理することも有効なリスク回避手段です。

信頼できる仲介会社・買い手を見抜くコツ

仲介会社や買い手の質によって、M&Aの結果は大きく変わります。信頼できる相手かどうかを見極めるには、以下のようなチェックポイントがあります。

チェックポイント 確認方法
過去の実績 仲介会社や買い手が手がけたM&Aの件数や成約事例を確認
顧客の口コミ・評判 インターネット上のレビュー、他の売却者からのヒアリング
事業継続の意思 買い手の中期経営計画やビジョンに沿っているか確認
担当者の対応 説明の丁寧さや、リスクについて隠さず話してくれるか

加えて、「短期間で高額買取を保証する」などの甘い言葉には注意が必要です。本当に優良な仲介会社は、売り手の希望だけでなく、買い手とのマッチング精度やその後の事業運営まで含めたアドバイスを行います。

さらに、買い手企業の本社訪問や代表者との面談を実施し、直接人柄や企業文化を感じ取ることも有効です。数字だけで判断せず、対話を通じた信頼関係の構築が重要です。

専門家が語る、制度や仕組みの強化が必要な理由

近年、M&Aの悪質スキームが社会問題化していることを受け、国も制度整備に乗り出しています。中小企業庁は2023年に「M&A支援機関登録制度」を設け、信頼できる仲介業者を可視化する取り組みを進めています。

この制度では、以下のような条件を満たした仲介会社が登録されます。

  1. 中小M&Aガイドラインに基づいた業務運営
  2. 報酬体系の明示と不当な成功報酬の禁止
  3. 利益相反の防止策の明文化

実際に、2024年時点で1000社以上が登録済みであり、登録機関は中小企業庁のWebサイトでも検索可能です。

しかし、現状ではこの制度はあくまで「任意登録」であるため、悪質な業者は今も野放し状態で存在しています。専門家の間では、制度を義務化することや、買い手企業側への信用審査強化を求める声も高まっています。

また、M&Aを利用した企業詐欺は刑事事件に発展することもありますが、捜査や立件に時間がかかるため、事前にリスクを回避する努力が不可欠です。特に以下のような対策が求められます。

  • 契約前に第三者による適正な価値査定を行う
  • 財務状況だけでなく、経営者の素性・過去の言動を調べる
  • 買収後の事業計画の妥当性や再現性を検証する

信頼できる制度と専門家の支援体制が整うことで、初めて中小企業のM&Aが安心して行える環境が整います。

このように、M&Aのトラブルを未然に防ぐためには、個人の努力とともに制度的な後押しが必要です。売り手としては、複数の専門家と連携し、冷静な判断で相手企業を選定することが、何よりも大切な防衛策となります。

8.中小企業がM&Aを進める手順とおすすめの相談先

M&Aを検討する際の基本的なステップ

中小企業がM&Aを検討する際は、段階的な手順をしっかり踏むことが成功のカギとなります。思いつきや感情的な判断で進めるのではなく、計画性と客観性をもって対応することが重要です。

M&Aの基本的な流れは以下の通りです。

  1. 経営者の意思決定と目的の明確化
    「会社を売りたい」のか、「後継者を探している」のか、「資金調達のために一部売却したい」のかなど、M&Aの目的を明確にします。
  2. 事業の棚卸しと課題の洗い出し
    売却対象となる事業の業績、顧客構成、従業員、保有資産、債務状況などを整理し、強みと弱みを把握します。
  3. 専門家への相談・アドバイザー選定
    仲介業者、会計士、弁護士など、適切な専門家を選び、支援体制を整えます。
  4. 企業価値の査定
    市場環境や財務状況をもとに、自社の適正な価値を試算します。ここで過度な期待をしすぎないことが肝心です。
  5. 買い手候補の選定・打診
    複数の候補に打診し、条件交渉を開始します。信頼性、事業継続性、従業員の雇用維持なども重視されるポイントです。
  6. 基本合意契約の締結
    条件面で合意が取れれば、基本合意契約(LOI)を締結します。
  7. デューデリジェンス(買い手による調査)
    財務、法務、税務などの調査を受けます。不備があれば交渉のやり直しや契約破棄のリスクもあります。
  8. 最終契約の締結とクロージング
    最終契約を結び、資金の受け渡しや株式の移転などを実行します。

これらの流れを把握しておくことで、焦らずに一つひとつのプロセスに対応できます。特に小規模企業では、経営者自身が主導して進めるケースが多いため、全体像を理解することがトラブル回避につながります。

公的機関や信頼できる専門家への相談が第一歩

M&Aを成功させるためには、信頼できる第三者に相談することが非常に重要です。いきなり民間の仲介業者に相談するのではなく、まずは公的機関や中立的な団体を活用するのがおすすめです。

以下は、相談先として有効な公的機関・団体の一例です。

相談先 特徴・相談内容
中小企業庁「M&A支援機関登録制度」 信頼できる仲介・アドバイザーを検索可能。制度登録済みの支援機関のみ紹介される
事業引継ぎ支援センター 各都道府県に設置。無料でM&Aや事業承継の相談ができ、マッチング支援も受けられる
商工会・商工会議所 地域密着の中小企業向け支援。地元企業とのマッチングも期待できる
認定支援機関(経営革新等支援機関) 経営改善・M&A支援の認定を受けた民間専門家(会計士・税理士・コンサル等)

また、民間の仲介会社を利用する際は、中小企業庁が公表している「中小M&Aガイドライン」に沿って運営されているかを確認することが重要です。

悪質な仲介業者に相談してしまうと、手数料のトラブルや情報流出、意図しない相手とのマッチングが発生するリスクもあります。そのため、以下のようなチェックポイントを活用しましょう。

  • 成功報酬体系や着手金の説明が明確であるか
  • デューデリジェンスや契約書作成の支援体制があるか
  • 買い手候補の信頼性に関する情報提供があるか
  • 売却後の経営支援や従業員保護を考慮しているか

さらに、税理士や弁護士といった信頼できる既存の顧問がいれば、M&Aの際も継続的にサポートを受けることで、トラブルの防止につながります。専門分野の違いを活かしながらチームで支援を受ける形が理想的です。

中小企業のM&Aは、経営者の人生を左右する重要な選択です。まずは信頼できる公的な窓口に相談し、焦らず、冷静に一歩ずつ進めることが、後悔しない結果につながるでしょう。

まとめ

マイスホールディングスを巡るM&A事件は、中小企業経営者にとって大きな警鐘となりました。詐欺的な手法や悪質な買収が横行する背景には、制度の未整備や情報格差があります。安心・安全なM&Aを進めるためには、信頼できる専門家と制度的な支援を受けながら、冷静に判断を重ねることが不可欠です。

  1. 詐欺的M&Aが実在する
  2. 制度の隙が悪用される
  3. 仲介会社選びが重要
  4. 専門家の助言を活用
  5. 冷静な意思決定が必須

M&Aに不安を感じた方、詳しく知りたい方は、ぜひアーク・パートナーズまでお問い合わせください。

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