引継ぎ支援センターへ相談すればM&A詐欺には遭わず安全?
「引継ぎ支援センターに相談すれば、M&A詐欺には遭わないはず」――そんなふうに思っていませんか?
確かに公的機関である引継ぎ支援センターは、無料で中立的な立場から事業承継をサポートしてくれる頼れる存在です。しかし実際には、「支援センター経由で紹介された業者や買手から詐欺まがいの被害を受けた」という報道も出ており、100%安全とは言い切れないのが現実です。
本記事では、M&Aアドバイザー歴10年以上・200件超の支援実績を持つ中小企業庁登録の専門家が、引継ぎ支援センターの仕組みや注意点についてわかりやすく解説します。
■この記事でわかる3つのこと
- 公的機関でも詐欺被害が起こる理由
- 紹介されるM&A業者の見極めポイント
- 詐欺を防ぐための具体的な対策
この記事を読むことで、引継ぎ支援センターのメリットと限界を正しく理解し、自分の会社を守るための判断力が身につきます。
「公的だから安全」と思い込まず、自衛意識を持ったうえでM&Aを進めたい経営者の方は、ぜひ最後までご覧ください。
1.はじめに:公的機関でも詐欺に遭うのか?
「公的機関を通じて相談すれば安心」と思われがちなM&Aの現場ですが、近年では引継ぎ支援センターを経由したにもかかわらず、詐欺被害に遭ったというケースも報道され始めています。こうした事例は一部ではあるものの、事業承継を真剣に考える経営者にとっては他人事ではありません。ではなぜ、安全だと思われている公的機関でもトラブルが起きてしまうのでしょうか。
背景には、M&Aにおける詐欺の手口が巧妙化していること、そして公的機関であっても「最終的な責任を持ってくれるわけではない」という仕組みの限界があることが挙げられます。実際、悪意のある買手は、はじめから騙す意図を持って売手に近づき、資金や資産を抜き取って経営から撤退するといった悪質な手法を取ることがあります。
たとえば、TBSの報道番組「news23」では、介護事業を営んでいた経営者がM&Aの過程で買手に現金を引き出され、その後、連絡が取れなくなったという事例を紹介しています。このケースでは、売手側が引継ぎ支援センターに相談しており、ある程度の安心感を持ってM&Aプロセスを進めていたにもかかわらず、詐欺的な手口によって資産を失ってしまいました。
ここで重要なのは、「公的機関を通したからといって詐欺に遭わない保証にはならない」という事実です。引継ぎ支援センターは、あくまでも相談窓口であり、M&Aを仲介・契約・執行する主体ではありません。そのため、紹介された業者や買手の背景を十分に確認せずに進めてしまうと、想定外のリスクを抱えることになります。
加えて、引継ぎ支援センターが紹介するM&A業者についても、「誰でも登録できる」わけではないものの、厳格な審査基準があるとは限りません。中には過去にトラブルを起こしたことがある業者が登録されていたり、地元の銀行や金融機関との人的つながりから紹介されるケースもあり、必ずしも「最も信頼できる業者」が選定されているとは限らないのが実情です。
以下のような構造的要因も、公的機関を通じたM&Aにおいて詐欺が起こる背景にあります。
- 引継ぎ支援センターは「相談所」であり、詐欺を未然に防ぐための権限や調査力を持たない
- M&A業者に案件を委託する場合、業者の審査基準や実務能力に依存する
- 買手が悪意を持っていた場合、事前に見抜くのは非常に困難
- 公的機関が「最終責任」を負う立場ではなく、損失が生じても補償されない
また、2023年に中小企業庁が公表した「中小M&Aの実態調査報告」では、M&Aの失敗要因として「相手方に対する十分な調査不足」や「仲介者・アドバイザーの質の低さ」が多く挙げられており、信頼できる第三者を選ぶことの重要性が再確認されています。公的機関の紹介であっても、それだけで信用してしまうのは非常に危険です。
たとえば、筆者が実際に相談を受けたケースでは、引継ぎ支援センターから紹介されたM&A業者が、過去に手数料に関するトラブルを複数抱えていたにもかかわらず、その事実が売手に知らされていないまま契約が進行していたことがありました。幸い、早い段階で情報が共有されたことで事なきを得ましたが、こうした「情報の非対称性」は非常に深刻です。
つまり、公的機関を通じたM&Aであっても、詐欺リスクを完全に排除することはできません。売手としては、引継ぎ支援センターを「安心できる相談先」として上手に活用しつつも、紹介された業者や買手については自らの責任で情報を集め、納得した上で契約を進める姿勢が求められます。
結論としては、公的機関である引継ぎ支援センターに相談することは、M&A詐欺リスクを軽減する一つの手段にはなりますが、それだけで安全が保証されるわけではありません。あくまで「中立的な相談機関」として位置づけ、M&Aの実行に関わる業者や買手の選定には、自らも主体的に関わることが重要です。
2.事業承継・引継ぎ支援センターとは?
事業承継・引継ぎ支援センターとは、中小企業庁が設置を推進する公的な相談窓口であり、全国の都道府県に設置されている地域密着型の機関です。商工会議所や商工会、金融機関などと連携し、主に後継者問題に悩む中小企業の経営者や、第三者への事業承継(M&A)を検討する方に向けて、無料で情報提供やアドバイスを行っています。
このセンターは、以下のような悩みに対応しています。
- 親族内に後継者がいない
- 社員承継か第三者承継(M&A)か迷っている
- 譲渡価格の目安や進め方がわからない
- 信頼できるM&A業者を知りたい
設置場所は全国47都道府県に1カ所以上存在しており、2024年4月時点では全国に60以上の拠点が稼働しています。各センターには経験豊富な「プロジェクトマネージャー(PM)」と呼ばれる専門相談員が配置されており、経営者の課題に対して中立的な立場で対応しています。
たとえば、神奈川県内であれば「神奈川県事業承継・引継ぎ支援センター」が横浜に設置されており、面談・電話・オンライン相談などを通じて対応しています。中小企業庁の公式サイトでも、各都道府県ごとのセンター情報が確認できます。
事業承継・引継ぎ支援センターの主な業務内容は、以下の通りです。
業務内容 | 具体的なサポート内容 |
---|---|
初回相談対応 | 承継希望者の現状整理と課題の明確化 |
親族内承継支援 | 相続・贈与に関する初期助言、専門家紹介 |
第三者承継(M&A)支援 | M&Aの流れや注意点の説明、業者紹介 |
マッチング支援 | 買い手候補の情報提供、業者への橋渡し |
専門家連携 | 税理士・司法書士・弁護士などへの紹介 |
中小企業庁が公表している令和4年度の「事業承継・引継ぎ支援センターにおける支援実績」によれば、年間の相談件数は全国で1万件以上、成約に至った事業承継・M&Aの件数は約2,000件にのぼります。年々増加傾向にあることから、社会的ニーズの高まりがうかがえます。
ただし、引継ぎ支援センターの役割はあくまで「中立的な助言者」であり、M&Aの実務を行うわけではありません。つまり、センター自体が契約の主体になることも、売買条件を決めることもありません。実務は紹介されたM&A仲介業者や専門家が担当します。
こうした背景から、経営者側には「引継ぎ支援センターが最後まで守ってくれる」という過信を避け、センターの機能を正しく理解したうえで活用する姿勢が求められます。
また、引継ぎ支援センターを通じてM&A業者が紹介されるケースもありますが、登録業者の選定基準は各センターに委ねられており、厳密な審査が行われているとは限りません。地域によっては金融機関や士業と関係が深い業者が優先的に紹介されるケースもあるため、利用者側の情報収集と判断が重要です。
たとえば、ある地方都市のセンターでは、元地銀出身の担当者が中心となり、古巣の銀行系M&A会社ばかりを紹介していたという報告もあります。手数料の比較やコンサルタントの質については相談者自身が主体的に確認する必要があります。
引継ぎ支援センターを正しく活用すれば、自分に合った承継方法を見つけたり、不要なトラブルを回避するきっかけになります。一方で、センターの紹介を鵜呑みにして契約を急ぐと、思わぬリスクを抱える可能性があることも事実です。
結論として、事業承継・引継ぎ支援センターは、中立的な立場から相談者の不安や課題を整理してくれる有益な存在です。しかし、その役割はあくまで「橋渡し役」に過ぎないため、紹介された業者の信頼性や契約内容については、最終的に経営者自身が責任をもって判断する必要があります。信頼できるパートナーを見つける第一歩として活用しつつ、冷静かつ主体的な姿勢を忘れないことが成功のカギです。
3.引継ぎ支援センターのメリットと限界
引継ぎ支援センターは、中小企業庁の管轄下にある公的な相談機関として、主に中小企業の事業承継を支援しています。その最大の特長は、相談が無料で受けられ、営利目的ではない中立的な立場からアドバイスをしてくれるという点です。このような姿勢は、多くの経営者にとって安心材料となり、「騙されたくない」「高額な手数料を払いたくない」と考える方にとって心強い存在です。
まず、引継ぎ支援センターの主なメリットを整理してみましょう。
メリット一覧
- 無料で相談ができる(相談料・紹介料などの金銭負担が基本的に発生しない)
- 中立的な立場からアドバイスを受けられる
- 全国のネットワークを活用したマッチング支援が受けられる
- M&Aだけでなく、親族内承継や社員承継なども含めた選択肢を広く検討できる
- 無理な営業行為が一切ないため、安心して相談できる
中小企業庁が2023年に発表した「事業承継・引継ぎ支援センターの実績報告」によると、全国での相談件数は年々増加しており、令和4年度には1万件を超える相談がありました。また、M&Aによる成約実績も全国で2,000件近くに上り、一定の成果を上げていることがわかります。
このような実績は、引継ぎ支援センターが多くの経営者から信頼され、利用されている証とも言えるでしょう。
しかし一方で、引継ぎ支援センターには「限界」も存在します。センターはあくまで「相談窓口」であり、M&Aそのものの実務には深く関与しません。つまり、次のような役割までは期待できないのが現実です。
限界一覧
- 企業価値評価(株価算定など)を行ってくれるわけではない
- 契約交渉や条件調整などのM&A実務に携わることはない
- M&A業者の質を保証するものではない(紹介される業者の中には、過去に問題を起こしたケースもある)
- 買手企業の信用調査や真贋判定まではしてくれない
- 案件によっては、一定規模以上だと「大手業者」しか紹介されない場合がある
たとえば、筆者が関与したある案件では、引継ぎ支援センターが紹介したM&A業者が、過去に情報秘匿や囲い込みで問題となったことがある大手業者だったにもかかわらず、その背景が相談者に一切伝えられていないケースがありました。結果として、売主は不安を感じながらも契約を進めることになり、後から手数料体系や契約内容で揉める事態に発展しました。
このように、引継ぎ支援センターが中立的で誠実な対応をしていたとしても、紹介される業者の質や姿勢については「別の問題」として捉える必要があります。
さらに、地域差がある点も留意が必要です。センターによっては地元の金融機関や士業と密接な関係を持っており、その関係性を重視して「紹介先」が決まることがあります。これは悪意のあるものではありませんが、結果として「相談者にとってベストな業者」が紹介されないこともあり得ます。
参考:公的機関と業者紹介の関係
状況 | 起こりうる問題 |
---|---|
センター職員が地銀OB | 古巣の系列M&A業者を優先紹介 |
大規模案件の場合 | 大手仲介業者ばかりが候補となる |
小規模な相談者の場合 | 優先度が下がり、紹介が後回しに |
こうした背景を知らずに「公的機関だから大丈夫だろう」と鵜呑みにしてしまうと、意図せず高額な手数料を支払ったり、質の低い業者と契約してしまう恐れもあります。公的機関であっても「どこまでが無料か」「どこからは民間業者が関与するのか」「紹介される業者は信頼できるのか」といった視点を持つことが重要です。
結論として、引継ぎ支援センターは「安心して第一歩を踏み出す場所」として非常に有効です。特にM&Aが初めてという方や、どこから相談すればよいかわからない方にとって、費用がかからず中立な立場で話を聞いてくれる機関は貴重です。
しかしその反面、センターが提供できる支援には明確な限界があり、「この人に任せておけば安心」というスタンスでは通用しません。センターの助けを借りつつ、紹介されたM&A業者の評判や実績を自分で調べ、必要であれば複数の選択肢を比較するなど、主体的な姿勢を持つことが安全なM&A成功への近道となります。
4.詐欺被害はなぜ起きる?公的機関の落とし穴
引継ぎ支援センターのような公的機関に相談していれば、M&A詐欺には遭わないと考えてしまいがちですが、残念ながら現実はそう単純ではありません。実際に、センターを経由して紹介された相手方との取引で詐欺まがいの被害にあった事例も報告されています。その背景には、支援センターがもつ「仕組み上の限界」と「役割の非対称性」が存在します。
詐欺が起きる背景には、次の3つの構造的な問題があります。
- 支援センターは買手の本質を見抜く権限や手段を持たない
- 最終的な実務は民間業者に委託されるため、フィルターが緩くなる
- 悪意のある買手は最初から詐欺目的で動いているため、見抜くのが困難
まず、引継ぎ支援センターは「中立的な相談窓口」という立場に徹しており、紹介相手となる買手やM&A業者の身元調査や信用審査を本格的に実施する体制は整っていません。したがって、仮に買手が過去に不正を働いていたとしても、センター側で把握できないまま進んでしまうことがあります。
たとえば、2023年にTBS「news23」で放送された実例では、介護業界の中小企業が、引継ぎ支援センターに相談したあとに紹介されたM&Aスキームに基づき事業譲渡を進めた結果、買手が会社の口座から現金を抜き取り、最終的に連絡が取れなくなるという被害が発生しました。番組では、買手側の経営者への突撃取材が行われ、明らかに「最初から資産目的で接触してきた」と疑われるような行動が確認されています。
支援センターの役割と詐欺リスクのすれ違い
支援センターの実際の役割 | 経営者が誤解しやすい期待 | 起こりうるリスク |
---|---|---|
相談内容の整理と助言 | 最後まで安全を保証してくれる | 買手の不正を見抜けない |
M&A業者や買手の紹介 | 信用ある相手しか紹介されない | 審査が緩く詐欺師も紛れ込む可能性 |
契約や実務には関与しない | 万が一のとき守ってくれる | 被害発生時は自己責任になる |
このように、制度上の限界により、センターの関与があったとしても、悪質な買手による詐欺を完全に防ぐことはできません。また、支援センターが紹介するM&A業者に対しても「すべてが優良」とは限らず、過去に囲い込みや情報秘匿の問題を起こした業者が登録されているケースも確認されています。
詐欺的買手の典型的な特徴
- 買収後すぐに会社口座から現金を引き出す
- 人件費や借入を急増させて会社の資産を枯渇させる
- 従業員とのコミュニケーションを断ち、業務放棄
- 代表者が所在不明となる、または名義だけを残して逃げる
こうした行動パターンは、M&A成立直後から表面化することもあれば、数カ月かけてじわじわと進行するケースもあります。支援センターがこうした動きを完全にモニタリングする体制を持っているわけではないため、売手側が安心しきってしまうと対応が遅れ、被害が拡大する可能性があります。
なぜ防ぎきれないのか?構造的な問題点
- 支援センターはM&Aの「当事者」ではない
- 最終的な判断は売手とM&A業者に委ねられる
- 詐欺的手口が巧妙化しており、外見上では判断できない
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」でも、「最終的な責任は経営者が負うべきものであり、紹介を受けたからといって相手を無条件に信用すべきではない」と明記されています。このような考え方に基づき、センターも「できる限りの中立的な支援を行う」が、「リスク回避の最終判断までは関与しない」スタンスを取っています。
結果として、「公的機関に相談したのに詐欺に遭った」と感じる経営者が出てしまうのは、支援センターの制度的な立ち位置と、相談者側の期待とのギャップによって生じているといえます。
結論として、引継ぎ支援センターに相談すればM&A詐欺に遭わないという考えは誤りです。センターの活用自体は有効ですが、その仕組みと限界を正しく理解したうえで、「紹介されたから安心」ではなく、「紹介されても自分で確認する」という意識が必要です。情報収集や第三者の専門家の関与を組み合わせながら、安全なM&Aを実現していく姿勢が求められます。
5.紹介されるM&A業者の実態と注意点
引継ぎ支援センターでは、第三者承継を検討する相談者に対して、M&A仲介業者の紹介を行うことがあります。公的機関が間に入っていることから「紹介される業者なら信頼できるだろう」と思われがちですが、実際にはそうとは限りません。紹介される業者の質はセンターごとに差があり、業者選びを誤ると詐欺まがいのトラブルに巻き込まれるリスクもあります。
まず、引継ぎ支援センターに登録されているM&A業者は、民間企業です。支援センターが直接審査や認定をしているわけではなく、一定の要件を満たした業者を地域ごとに登録しているという仕組みです。しかし、その「要件」は各センターによって運用が異なり、厳密な信用調査や実績評価がなされていない場合もあります。
紹介業者の登録基準が明確でない現状
中小企業庁が運営する「M&A支援機関登録制度」では、登録された支援機関の情報が公開されていますが、これはあくまで制度への登録であり、個別の業務実績や信頼性を担保するものではありません。また、支援センターにおける業者紹介は、こうした制度登録とは別に、独自のネットワークや過去のつながりに基づいて行われることが少なくありません。
たとえば以下のようなケースが実際にあります。
- センター担当者が元地銀職員で、自身の出身銀行系列のM&A会社を優先的に紹介する
- 紹介された業者が最低報酬500万円以上の大手仲介で、成約金額に見合わない高額手数料を提示してくる
- 複数の業者を比較できる環境が用意されず、1社のみの紹介で選択肢がないまま進行する
こうした状況が発生する背景には、支援センター側にとっての「業者紹介の負担軽減」や「信頼関係のある業者との継続的な取引」の意図があることも否定できません。センターの担当者は善意で紹介している場合が大半ですが、それが必ずしも相談者にとってベストな選択肢とは限らないという点は注意が必要です。
実際に起こった紹介トラブルの例
筆者が相談を受けたある事例では、引継ぎ支援センターを通じて紹介されたM&A仲介会社が、相談者に対して「早期に成約するためには大幅な値引きが必要」と繰り返し説得し、結果として相場よりもはるかに安い金額で譲渡が成立してしまったというケースがありました。その後、別のアドバイザーに査定を依頼したところ、実際の企業価値はその1.5倍以上あることがわかり、相談者は後悔を口にしていました。
さらに別の事例では、大手仲介業者が支援センター経由で紹介され、契約書に「テール条項(契約終了後も一定期間は報酬が発生する規定)」が含まれていたことに気づかず契約。途中でその業者に不信感を抱き解約を申し出たものの、別の買手と成約した際に高額な手数料を請求されたというトラブルもあります。
紹介されたM&A業者と接する際の注意点
紹介された業者と接する際は、以下の点に注意して臨む必要があります。
- 手数料体系が明朗か(最低報酬、成功報酬率、途中解約時のペナルティなど)
- 担当コンサルタントの実績と対応力を確認する
- 他の業者と比較できるように複数社の紹介を依頼する
- 過去のトラブル事例があるかどうかを支援センターに質問する
- 契約書は必ず専門家(弁護士)に確認してもらう
とくに手数料については、「無料相談だからそのまま進めても大丈夫」と油断せず、見積書や契約内容をしっかり確認することが大切です。仲介手数料の相場は、小規模案件であっても最低200~500万円、高額な場合は1,500万円を超えることもあります。相場に見合ったサービスが提供されるかどうかを、冷静に判断しましょう。
比較表:大手と小規模M&A業者の違い
項目 | 大手仲介業者 | 小規模M&A業者 |
---|---|---|
最低報酬 | 500~2,500万円 | 100~500万円 |
対応スピード | 標準的(複数案件並行) | 柔軟かつ迅速 |
担当者の質 | 新人も多くばらつきあり | 経験豊富な独立型が多い |
情報の透明性 | 囲い込みや情報制限が起きがち | 売手と買手を丁寧にマッチング |
このように、紹介されるM&A業者の実態は一見わかりづらく、支援センターを経由したからといって安心できるとは限りません。紹介業者が公的機関に登録されているという事実だけに頼らず、紹介後も冷静に比較・判断することが、トラブル回避への第一歩となります。
結論として、引継ぎ支援センターから紹介されるM&A業者は「安全な相手」という保証にはなりません。むしろ、紹介されたからこそ油断せず、複数社比較・内容確認・契約前の専門家相談を徹底する姿勢が求められます。公的機関を信頼することと、自己防衛の意識を持つことは両立可能です。経営者自身が冷静に判断する力を持つことが、M&A成功の鍵になります。
6.大手と小規模仲介の違いと選び方
M&Aを進める際に直面するのが、「どの仲介会社に依頼すべきか?」という問題です。特に、引継ぎ支援センターを通じてM&A業者を紹介された場合、その業者が大手か小規模かによって対応力やコスト、成果に大きな差が出ることがあります。結論から言うと、大手・小規模それぞれにメリットとデメリットがあり、目的や自社の状況に応じて慎重に選ぶことが重要です。
大手仲介と小規模仲介の違いを比較
まずは、大手と小規模仲介業者の特徴をわかりやすく比較してみましょう。
項目 | 大手M&A仲介会社 | 小規模M&A仲介会社 |
---|---|---|
手数料体系 | 最低報酬500〜2,500万円が多い | 100〜500万円程度と割安 |
対応スピード | 担当者が複数案件を抱え進行が遅いことも | 経営者直下のフットワークが軽い |
担当者の質 | 新人も多く対応力にばらつきがある | 経験豊富な独立系が対応する傾向が強い |
情報の透明性 | 囲い込みや情報非開示が起きやすい | 双方向の開示を前提とした進行が多い |
案件対応方針 | 「とにかく成約」が優先される傾向 | 売手や譲渡先とのマッチング重視 |
中小企業庁のガイドラインにも言及あり
中小企業庁が発行した「中小M&Aガイドライン」では、M&A仲介業者を選ぶ際の注意点として「手数料体系の明示性」「担当者の対応力」「契約内容の妥当性」などを挙げています。特に、テール条項(契約終了後も報酬が発生する条項)や、両手仲介(売手・買手の両方から手数料を取る方式)のリスクについても明記されています。
こうしたガイドラインが示されていること自体、大手仲介会社による不透明な契約や高額な手数料、囲い込みといった問題が現場で多発していることを裏付けているとも言えるでしょう。
実際にあった比較例
ある製造業の売主は、引継ぎ支援センターから紹介された大手仲介会社に相談し、提示された最低報酬は800万円でした。手数料の高さに疑問を持ち、知人を通じて小規模な独立系仲介会社にも相談したところ、報酬は500万円で、成約後のフォローも充実していたため、結果的に後者を選択。担当者のレスポンスも早く、希望条件に合った買手と半年で契約に至りました。
また、別のケースでは、大手仲介会社が囲い込みをしていたことで売手側が他の買手候補と接点を持てず、適切な競争環境が形成されなかったという問題も起きています。これにより本来の企業価値よりも低い金額で譲渡が成立してしまったとの報告もあります。
それぞれに向いているケースとは?
大手仲介会社が向いているのは、次のようなケースです。
- 売却金額が3億円以上の比較的大型の案件
- 全国規模で幅広い買手候補を探したい場合
- 社内稟議を通すためにブランドのある業者が必要な場合
一方、小規模仲介会社が向いているのは次のような場面です。
- 年商1億円未満~数億円程度のスモールM&A
- 手数料を抑えつつ親身な対応を受けたい場合
- 売手や買手の想いを重視したマッチングを望む場合
選び方のチェックリスト
M&A仲介業者を選ぶ際には、次のような項目をチェックしましょう。
- 最低報酬・成功報酬・テール条項の有無を確認
- 担当者の経験年数と実績を確認
- 売却希望額に対する評価や助言内容の妥当性
- 売手・買手双方の利益を考慮する姿勢があるか
- 複数業者から相見積もりを取る姿勢があるか
公的機関から紹介された業者であっても、選択の余地は残されています。紹介された業者が自社に合わないと感じた場合は、他の選択肢を探すことをためらう必要はありません。むしろ、複数の業者を比較することが、安全かつ納得のいくM&Aを成功させる近道です。
結論として、大手か小規模かに関係なく、「自社に合う業者かどうか」を見極めることが最も重要です。実績や肩書きだけに惑わされず、信頼できる担当者がいるか、手数料が納得できる内容か、そして誠実な対応をしてくれるか――これらの視点で、冷静かつ主体的に選ぶようにしましょう。
7.支援センターの紹介を受けるときのチェックリスト
引継ぎ支援センターは、公的機関として中小企業の事業承継を支援する重要な役割を果たしています。しかし、支援センターを通じて紹介されるM&A業者がすべて「安心・安全」とは限りません。紹介されたからといって無条件に信用せず、自社を守るためには、経営者自身が適切なチェックを行うことが不可欠です。
相談時に確認すべき10のチェックポイント
支援センターの紹介でM&A業者と接触する際には、以下のポイントを意識して確認することが大切です。
- 紹介された業者の正式名称・所在地・法人番号を確認する
- その業者が「中小M&Aガイドライン遵守宣言登録制度」に登録されているかを調べる
- これまでの支援実績(成約件数、対象業種など)を具体的に確認する
- 紹介された経緯や、支援センターと業者の関係性を聞いてみる
- テール条項(契約終了後も報酬が発生する条件)があるかをチェック
- 報酬体系(最低報酬、成功報酬率、相談料など)を文書で明示してもらう
- 売手・買手の両方から手数料を取る「両手仲介」であるかを確認する
- 担当者の経歴や資格、過去のトラブル事例の有無を確認する
- 他のM&A業者と比較検討できるかを支援センターに確認する
- 契約書案を持ち帰り、必ず弁護士等の第三者にチェックしてもらう
チェック項目と目的を表にまとめると以下のようになります。
チェック項目 | 確認の目的 |
---|---|
法人情報の確認 | 実在する正規業者かを確認する |
実績と信頼性の確認 | 経験不足や過去トラブルの有無を把握する |
支援センターとの関係 | 癒着や特定の業者への偏りを見極める |
契約条件の確認 | 不利な条項(テール、両手など)を排除する |
比較検討の余地 | 他の選択肢と比較して納得できる判断をする |
実際にあった見落としによるトラブル事例
ある飲食業オーナーが支援センター経由で紹介されたM&A業者と契約したところ、テール条項が契約書に盛り込まれていたことに気づかず、他業者経由で成約したあとに100万円以上の手数料を請求されたケースがありました。センターも契約内容までは確認していなかったため、結果的に売主が全額自己負担することになりました。
また、別のケースでは、紹介された業者が売手と買手の両方から手数料を受け取っていたことが後から発覚し、売手が「自社に不利な条件で押し切られた」として不満を表明しました。支援センターに相談した際、「その業者は他にも紹介していて問題ない」と言われたことも影響し、過信につながってしまったようです。
相談時に使える質問テンプレート
以下のような質問を支援センターや業者に投げかけることで、不透明な点をクリアにすることができます。
- 「この業者さんは他にも紹介されていますか?過去に何件くらいありますか?」
- 「御社との関係性(知人、提携、金融機関の紹介など)を教えてもらえますか?」
- 「この業者以外に比較できる選択肢はありますか?」
- 「契約書を弁護士に見てもらっても大丈夫ですか?」
これらをあらかじめ用意しておくだけでも、心理的に「言われるがままに進めてしまう」状況を防ぎやすくなります。
結論として、支援センターを通じて紹介されるM&A業者であっても、十分な注意と確認が必要です。公的機関という信頼に加えて、自らの目と判断で安全性を見極めることが、トラブルを防ぎ、納得できるM&Aを実現するための最善の方法です。相手が誰であれ、「紹介だから安心」は禁物です。
8.詐欺を防ぐために経営者ができること
M&Aにおける詐欺被害を防ぐためには、公的機関に相談するだけでは不十分です。引継ぎ支援センターのような信頼できる窓口であっても、詐欺的な買手や信頼性に欠ける仲介業者の存在を完全には防げません。最終的に自社を守るのは、経営者自身の判断力と情報収集力です。
経営者が主体的に取るべき行動
詐欺を未然に防ぐためには、以下のような具体的なアクションを実行することが大切です。
- 紹介された相手や仲介業者の情報を自分でも調べる
- 複数のM&A業者に相談し、比較検討する
- 契約書を必ず第三者(弁護士など)に確認してもらう
- 買手の資金力や事業履歴を慎重に調査する
- 「不安を感じたら契約しない」勇気を持つ
情報収集の基本ツールと方法
M&A詐欺を防ぐための情報収集では、以下のような方法を活用するのが有効です。
- 国税庁法人番号公表サイトで法人の基本情報を確認
- 帝国データバンクや東京商工リサーチで信用調査を依頼
- 「業者名+評判」「業者名+トラブル」などでネット検索
- M&A支援機関登録リストにその業者があるか確認
- 紹介元(支援センターなど)に過去の紹介実績を聞く
また、詐欺的買手の典型的な行動パターンとして以下のような特徴が挙げられます。
行動パターン | 注意すべき理由 |
---|---|
「自己資金がある」と強調しつつ財務資料を開示しない | 本当は資金がなく、買収後に融資頼みになるケース |
「スピード重視」「早く契約したい」と急かしてくる | 十分な調査や比較をさせず、思考停止に追い込む |
過去のM&A実績が不明、または虚偽の経歴を語る | そもそも詐欺目的の人物や幽霊会社である可能性 |
実質的に事業運営をする意思が見えない | 資産狙いで買収し、すぐに資金を抜いて逃げることも |
実例:事前確認不足で損失を出したケース
ある売主が、引継ぎ支援センターを通じて紹介されたM&A業者に相談し、買手として提示された企業と話を進めました。買手は「上場を目指しているグループ企業で資金も潤沢」と語っていたものの、財務資料の提出は遅れがちでした。それでも「支援センターが紹介してくれたから大丈夫だろう」と思い契約に進んだ結果、数ヶ月後に買手側から会社資金が無断で引き出され、従業員への給与支払いが滞る事態となりました。
後で調査したところ、買手企業は登記上は存在していたものの、実態のない休眠会社で、過去にも複数の問題を起こしていたことが判明。もっと早く確認していれば防げたはずの典型的な事例でした。
第三者の視点を入れることの重要性
M&Aは人生を左右する大きな取引です。だからこそ、当事者だけの視点で判断してしまうと、冷静さを失いやすくなります。第三者、つまり弁護士、税理士、公認会計士、もしくは別のM&Aアドバイザーなどの意見を必ず取り入れることで、リスクの早期発見や冷静な判断が可能になります。
以下のような支援が第三者によって得られます。
- 契約内容の妥当性チェック(例:テール条項、成功報酬率)
- 買手の資産背景や経歴に対するファクトチェック
- 仲介業者の報酬体系や支援内容の比較アドバイス
相談先の例
- 顧問弁護士・税理士
- 公認会計士・中小企業診断士
- 金融機関や地元商工会議所
- M&Aに精通したFA(ファイナンシャル・アドバイザー)
これらの第三者に「今こういう話があるが、どう思うか?」と尋ねるだけで、思わぬ視点が得られることもあります。費用がかかる場合もありますが、M&Aにおける失敗リスクを考えれば、必要な投資といえるでしょう。
結論として、M&A詐欺を防ぐには「自分で調べる」「複数の視点で確認する」「専門家の意見を取り入れる」という3つの行動が重要です。支援センターや紹介業者に頼るだけではなく、経営者自身が主導権を持ち、慎重かつ冷静に進めていくことで、安心・納得のM&Aを実現することができます。
まとめ
引継ぎ支援センターは中立的な相談機関として有益ですが、M&A詐欺を完全に防げるわけではありません。安心して任せるためにも、経営者自身の冷静な判断と情報収集が不可欠です。以下の要点を押さえて、安全な事業承継を進めましょう。
- 支援センターも万能ではない
- 紹介業者の質はまちまちである
- 複数比較と専門家相談が必須
詳しく知りたい方は、ぜひアーク・パートナーズまでお問い合わせください。安心できるM&Aの一歩を一緒に踏み出しましょう。
