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M&Aは税理士に相談してはいけない?信頼できる専門家の見極め方

「M&Aを考えているけれど、顧問税理士に相談していいのか不安…」「税理士から紹介された仲介業者が本当に信頼できるのか知りたい」——そんな悩みをお持ちではありませんか?

実は多くの税理士はM&Aの専門家ではなく、相談することでかえって失敗のリスクを高めてしまうケースもあります。本記事では、そうしたお悩みを抱える経営者の方へ向けて、M&Aにおける専門家選びの落とし穴と対策をわかりやすく解説します。

■本記事を読むと得られること

  1. M&Aに対応できる税理士とそうでない税理士の違いがわかる
  2. 税理士と仲介業者の裏事情とリスクが理解できる
  3. 信頼できる専門家を見極める具体的な判断基準が身につく

■本記事の信頼性
筆者はM&Aアドバイザー歴10年以上、200件以上の実務経験を持つ中小企業庁登録の支援機関です。中小企業の立場に立った誠実かつ専門的な支援に定評があります。

この記事を読むことで、M&Aにおける専門家の選び方が明確になり、後悔のない意思決定ができるようになります。大切な会社の未来を左右する判断を誤らないためにも、ぜひ最後までご覧ください。

1.なぜ多くの税理士はM&Aに対応できないのか

税理士の本業とM&A支援のズレ

多くの中小企業経営者にとって、M&Aを意識し始めたときに最初に相談相手として思い浮かぶのが「顧問税理士」ではないでしょうか。日頃から決算書や税務申告に携わり、経営数字をよく知っているという理由から、その期待はもっともです。

しかし、結論からいえば、税理士はM&Aの専門家ではありません。税理士の本業は「税務会計」や「財務申告の代行」であり、M&Aのような交渉・戦略・企業価値評価を含む高度な取引における助言や進行管理は専門外であることが大半です。

税理士試験や実務の中でもM&Aはごく一部の知識領域に過ぎず、実務経験がなければ、理論や仕組みは理解できても実際の交渉の場では全く役に立たないことも少なくありません。特に、売却交渉において必要となる「価格調整の交渉」や「買い手との条件擦り合わせ」「シナジー提案」などは、税理士の守備範囲を大きく超えています。

また、国税庁や中小企業庁の資料を見ても、M&A支援の実務を担う主なプレイヤーとして挙げられているのは「仲介業者」「FA(ファイナンシャルアドバイザー)」「弁護士」などであり、税理士が中心となってM&A全体をリードする場面はあまり想定されていません。

このように、税理士はあくまで「税務のプロ」であり、M&A支援のプロとは役割が異なるという前提で接することが大切です。

現場で起きているトラブル事例

実際にM&Aの現場では、「税理士に相談したが、話が全然かみ合わなかった」「紹介された仲介会社がひどくてトラブルになった」という声が後を絶ちません。これは単に知識の問題ではなく、M&Aの実務を伴走した経験がない税理士が、慣れない案件に対して“できるフリ”をしてしまう構造的な問題があるからです。

たとえば、ある中小製造業の経営者が顧問税理士にM&Aの相談をしたところ、「知り合いのM&A業者がいるから」と言われて紹介されたのは、仲介手数料が3,000万円を超える強引な営業スタイルの業者でした。この経営者はその業者に専任契約を結ばされ、その後半年間まったく買い手が現れず、時間と信用を大きく失ってしまいました。

また別の事例では、税理士が「3億円が適正価格です」と試算した価格をもとに交渉を開始したものの、買い手企業側が「この業界の相場では2億円が妥当」と一蹴。結果的に1億8000万円での譲渡となりましたが、売り手は最後まで価格の落差に納得できず、不信感を抱えたままクロージングを迎えることになりました。

このように、M&Aの交渉現場では、「税理士が作った理論的な評価額」よりも、「買い手が感じる価値=主観」が取引価格を決定します。交渉相手の心理や戦略を踏まえたアプローチができなければ、適正価格を提示しても成約にはつながりません。

また、別の飲食業のオーナーは、税理士から紹介された仲介業者と話を進めていたものの、後から調べるとその業者は過去に行政指導を受けていたことが判明。最終的に契約解除し、別のFAに乗り換えることで無事に譲渡が成立しましたが、その間に半年以上をロスし、当初の買い手候補も他社に流れてしまったとのことです。

こうした事例は一部ではなく、実務に携わる者の間では「M&Aに詳しくない税理士は、むしろ足手まといになりかねない」というのが共通認識となっています。

もちろん、すべての税理士が悪いわけではありません。中にはM&Aの経験を積んだり、専門性を高めるための研修を受けている熱心な方もいます。ただし、それはあくまで少数派であり、基本的には「税理士に相談すれば安心」とは限らないことを、まずは正しく理解することが重要です。

税理士の仕事は極めて重要であり、M&Aにおいても必要な場面はあります。ただし、戦略立案・価格交渉・買い手の選定・資料作成などの中核は、別の専門家に任せるほうが安心です。

つまり、M&Aという複雑なプロジェクトにおいては、「税理士は部分的な支援を担う専門家」であり、「全体を任せる総合アドバイザー」ではないという立ち位置を見極める必要があります。

2.顧問税理士に相談すると起こりがちな問題

低品質な仲介業者を紹介されるリスク

中小企業のM&Aでは、顧問税理士を通じて仲介業者を紹介されるケースが多く見られます。しかしその中には、M&Aに不慣れな税理士が知人や営業経由で紹介された「質の低い仲介業者」をそのまま顧問先に繋いでしまうという実態があります。

そもそもM&A仲介業は、専門性が高い一方で業界としての参入障壁が比較的低いため、「M&Aの専門家」を名乗っていても、実際には経験も知識も乏しい業者が多数存在しています。特に、企業評価や買い手マッチングのノウハウを持たない業者は、成約までのプロセスを管理できず、売り手側に大きな損害を与えるリスクがあります。

税理士がこのような業者を紹介してしまう背景には、自身がM&Aの専門ではないため、紹介先の質を見極める能力が十分でないという点が挙げられます。また、紹介料(バックマージン)が動く構造も影響しており、税理士側も報酬目的で提携先を紹介してしまうケースがあるのです。

中小企業庁の調査(「中小企業の事業承継に関する実態調査報告書」)によると、M&Aにおける失敗事例の中で「不適切な仲介者の選定」が大きなトラブルの要因となっていることが報告されています。このような背景からも、紹介元の信頼性や仲介業者の実力を事前に確認することが不可欠であることがわかります。

実際の事例として、ある製造業の経営者が顧問税理士にM&Aの相談をしたところ、「知り合いにいるから」と紹介された仲介業者が、仲介契約後まったく動かずに半年以上が経過。買い手候補の紹介はゼロで、最終的には契約解除となりました。この間、事業売却のタイミングを逃し、業績が悪化したことで希望価格での売却も困難になってしまいました。

このようなトラブルは、「信頼していた顧問税理士の紹介だから安心だろう」という思い込みが原因で発生しています。しかし、M&Aにおいては、紹介者が税理士であっても鵜呑みにせず、自分の目で仲介会社の実績・担当者のスキル・契約条件を確認する姿勢が求められます。

つまり、顧問税理士からの紹介であっても、仲介業者の質はピンキリであり、紹介元がM&Aに不慣れな場合は特に注意が必要です。大切な会社の未来を任せるパートナー選びにおいては、紹介の有無よりも「中身」をしっかり精査することが成功への第一歩です。

税理士が“できるフリ”をしてしまう背景

税理士がM&Aについて十分な経験や知識がないにもかかわらず、“できるフリ”をしてしまう背景には、複数の要因があります。ひとつは、顧問先からの信頼を失いたくないという心理的なプレッシャーです。特に長年関係を築いてきた税理士であればあるほど、「自分に聞かれたことには応えなければならない」という責任感から、無理に対応しようとしてしまうのです。

もう一つの要因は、「M&A=企業価値評価や会計・税務処理」といった一面的な捉え方をしていることです。実際のM&Aでは、企業価値の提示に加え、買い手の選定・資料作成・交渉・契約・クロージングといった幅広いフェーズが存在します。しかし税理士が経験してきたのは、せいぜい税制優遇措置の説明や帳簿の精査までであり、交渉や戦略といった要素には対応できないことが多いのです。

公認会計士であっても、「監査先がM&Aをしていた」程度の間接的な関与を「M&A経験あり」と表現しているケースも少なくありません。実務の場では、「買い手との交渉に同席したことがある」「IM(情報提供資料)を作成したことがある」「LOI(意向表明書)や最終契約書のチェック経験がある」といった具体的な経験がなければ、本当の意味でM&Aを“わかっている”とは言えないのが現実です。

実例として、ある税理士が「M&A支援もやっています」と謳っていることを信じた経営者が、その税理士とともに買い手候補との初回面談に臨んだものの、税理士は交渉の進め方がわからず、曖昧な発言を連発。買い手側の担当者からは「話がかみ合わない」「意思決定者がいないのか」と不信感を持たれ、結局破談になってしまいました。

このように、知識があるように見えても、現場での“経験値”が不足している税理士は、M&Aプロセスにおいて足手まといになってしまうことがあります。無理に引き受けてしまう理由は、売上補填の目的であったり、「新しい分野への挑戦」といった自己成長の意識である場合もありますが、結果的にそれがクライアントに損害を与えるケースも少なくありません。

経営者としては、「M&Aもできます」といった宣伝文句だけで判断するのではなく、以下のような具体的な質問を投げかけることが重要です。

  • 過去にどのようなM&A案件に関与しましたか?
  • 買い手との交渉に立ち会った経験はありますか?
  • IMや企業概要書を作成した経験はありますか?
  • デューデリジェンス対応やクロージング支援は行いましたか?

こうした質問に対して、具体的な実績や事例を挙げて説明できる税理士であれば、ある程度の実務経験を積んでいる可能性があります。逆に、曖昧な回答しか返ってこない場合は、あくまで税務顧問として限定的に関わってもらい、M&A全体は別の専門家に任せるのが賢明です。

M&Aは、単なる決算書の読み解きや税金対策だけでは成り立ちません。多角的な視点と実行力が求められるプロジェクトです。税理士が“できるフリ”をしているだけの状態で進めてしまえば、損失や信頼の喪失といった取り返しのつかない結果を招くリスクがあることを、十分に理解しておくべきでしょう。

3.M&A仲介業界と税理士の「裏の関係」

紹介手数料とバックマージンの実態

M&Aにおいて、税理士が顧問先に仲介業者を紹介することはよくありますが、その裏には「紹介手数料(バックマージン)」という報酬の仕組みが存在しています。これは、税理士が仲介会社に売却希望の企業を紹介し、M&Aが成約した際に仲介手数料の一部をキックバックとして受け取るというものです。

中小企業庁の「M&A支援機関登録制度ガイドライン」にも、利益相反の観点から紹介手数料の受領に関する注意喚起が明記されており、こうした実務慣行が業界内で問題視されていることがわかります。

具体的には、以下のような構図が成り立ちます:

  • 税理士はM&Aの相談を受ける
  • 提携している仲介会社を紹介する
  • 成約後に仲介会社から紹介料(数%〜10%前後)を受け取る

この紹介料は、売却価格に応じて数百万円から数千万円になることもあります。たとえば、成約価格が1億円、仲介手数料が5%(500万円)の場合、税理士に50万円〜100万円程度の紹介手数料が支払われることも珍しくありません。

問題は、この紹介先の仲介業者が「実力や信頼性」ではなく「紹介料の高さ」で選ばれているケースがあるという点です。紹介料が高い業者ほど税理士にとっては儲かるため、M&Aの成否や顧問先の利益よりも、自身の手取りを優先してしまう可能性があるのです。

また、こうした紹介料の存在は、顧問先に対して開示されることはほとんどありません。つまり、経営者が「税理士がすすめるなら信頼できる業者だろう」と判断して契約してしまった結果、知らぬ間に高額な手数料を支払わされていたというケースもあります。

実際、ある建設業のオーナーが税理士から紹介された仲介業者と契約したものの、着手金・中間金・成功報酬を含めた総費用が1,000万円を超え、経営者が不審に思い調査を依頼した結果、税理士に100万円超の紹介手数料が支払われていたことが判明したという事例もあります。

このようなバックマージンの存在は、経営者と税理士の信頼関係を大きく損なう原因となります。また、結果として不適切な仲介業者と契約してしまい、成約まで至らず時間とコストを失ってしまうリスクもあるのです。

したがって、税理士がM&A業者を紹介する場合は、「紹介手数料の有無」や「紹介理由」「業者の実績と評判」についてしっかり確認することが重要です。

顧問先の信頼が食い物にされる構造

税理士とM&A仲介業者の間にあるバックマージンの関係性は、一見するとWin-Winのように見えます。税理士は報酬を得られ、仲介業者は新規顧客を獲得できる。しかし、この構造に巻き込まれる顧問先(経営者)は、最も損をしてしまう可能性があります。

なぜなら、税理士は本来、顧問先の経営を中立の立場から支援する存在です。しかし、紹介手数料が絡むことで中立性が損なわれ、「仲介会社の営業代行」のような役割に陥ってしまう危険があるのです。

このような状況は、特に以下のような環境で起こりやすくなります:

  • 税理士がM&Aに不慣れで専門家の目利きができない
  • 紹介料の高い業者ほど積極的に関係を築こうとする
  • 顧問先との関係性を利用して業者が売り込みやすくなる

つまり、経営者からの信頼という「資産」を使って、税理士が業者に“売り込む”形になってしまっているのです。

さらに悪質なケースでは、仲介会社が税理士に対して「この顧問先を紹介してくれたら〇%バックします」と営業をかけ、税理士もまた「この会社をM&Aで売りませんか?」と顧問先に持ちかけるという、営業リレーが行われることもあります。

このような構造は、税理士業界で「成績が伸び悩む中堅税理士」に特に多く見られます。顧問契約料や記帳代行報酬の単価が年々下がる中で、新たな収益源としてM&A紹介に依存しはじめるという傾向があるためです。

もちろん、すべての税理士がこのような姿勢で業者紹介を行っているわけではありません。中には、顧問先の利益を最優先に考え、実績や信頼性を重視して本当に良い仲介会社を紹介してくれる税理士も存在します。

しかし、M&A仲介業界は透明性に欠ける面も多く、経営者が紹介を受ける際にその背景を知るすべがないことも多いため、「紹介だから安心」ではなく、「紹介でも疑って確認する」ことが必要な時代です。

経営者自身が仲介会社のホームページで実績を調べたり、別の専門家にセカンドオピニオンを求めたりすることも非常に有効です。また、顧問税理士に以下のような質問をぶつけてみるのも効果的です。

  • この仲介会社の何を評価して紹介しているのですか?
  • 他にも紹介可能な会社はありますか?
  • 紹介手数料は発生しますか?
  • 過去にこの業者で成功した事例はありますか?

これらの問いに誠実に答えられる税理士であれば、信頼して進めてよい可能性が高まります。逆に、質問をはぐらかしたり、詳細を説明できない場合は注意が必要です。

M&Aは一生に一度あるかないかの大きな決断です。だからこそ、その起点となる「誰に相談するか」「誰を信用するか」は非常に重要です。信頼を預けるべき相手が、その信頼を「マージン収入」に変えていないか。今一度冷静に見極める目が求められます。

4.M&Aの現場で税理士にできること・できないこと

会計処理対応以外では役に立たない?

M&Aの現場において、税理士の役割はごく一部に限られます。具体的には、会計処理や税務申告などの専門分野において力を発揮するものの、交渉や買い手対応、戦略的なアドバイスといったM&Aの本質的な場面では活躍が難しいのが現実です。

なぜなら、税理士の業務範囲は基本的に「過去の会計データを整える」「税法に基づいた申告書を作成する」という領域に限定されているためです。未来のビジネス戦略や企業評価、交渉術といった要素が求められるM&Aとは、そもそも目的と手法が大きく異なります。

国税庁や中小企業庁の発行するM&A関連のガイドラインや支援制度でも、税理士は「会計処理の実務対応」や「税務リスクへの助言」といった限定的な関与にとどまるケースが大半であり、全体をリードする存在として位置付けられていないことが多く見受けられます。

また、M&Aでは会社の将来性や事業価値をいかにアピールするかが重要になりますが、税理士は「保守的に数字をまとめる」ことを重視する傾向があり、バリュエーションや成長性のストーリー設計には向いていない場合が多いです。

たとえば、ある介護事業者が事業売却を検討し、顧問税理士に相談したところ、「利益が少ないので売れないのではないか」と否定的な意見を受けました。しかし、専門のM&Aアドバイザーに相談したところ、「高齢化市場における施設需要の増加」「地域密着型での競合優位性」などが評価され、実際には想定より高値で成約に至りました。

このように、税理士が見るのはあくまで「数字の過去」であり、「将来の価値」や「市場評価」を買い手にどう伝えるかという視点が欠けている場合、M&Aの成功を妨げることになりかねません。

もちろん、税理士が全く役に立たないわけではなく、以下のような場面では必要な専門家です:

  • 会計処理や仕訳ルールの確認
  • 税務リスクの洗い出し(繰延税金資産、消費税、役員報酬など)
  • 買い手からの会計・税務に関する質問対応
  • 申告内容や帳簿類の事実確認

これらはM&Aの終盤、つまり買い手による「デューデリジェンス」の段階で求められるものです。しかし、それ以前のプロセス――すなわち「企業の魅力を買い手にどう伝えるか」「いくらで、誰に、どのように売るか」という戦略的な部分には関与が難しいのが実情です。

そのため、税理士にM&A全体を任せようとすると、最初は安心に感じるかもしれませんが、交渉が難航したり、買い手が見つからなかったりといった問題が生じやすくなります。適材適所で専門家を活用することが、結果的に最善の成果につながります。

バリュエーションやDDは誰がやるのか

M&Aでよく誤解されているのが、「企業価値評価(バリュエーション)やデューデリジェンス(買収調査)は顧問税理士に任せればよい」という考え方です。しかし、実際にはこの2つの工程は主に買い手側が実施するものであり、売り手の税理士が主導することはまずありません。

まず、バリュエーションは、買い手が「この会社をいくらで買うか」を判断するために、自社視点で行う評価作業です。これは会計的なデータだけでなく、事業戦略、顧客の質、収益の安定性、将来の成長性、競合環境などを総合的に判断して価格を決定します。

つまり、売り手側の税理士が「うちはこのくらいの価値があります」と主張しても、買い手にとって意味があるとは限らず、むしろ「売り手都合の希望価格」と見なされてしまう可能性があります。

一方、デューデリジェンス(DD)は、買い手が売り手の会社の実態を確認するプロセスであり、法務・財務・税務・人事・事業など多角的な観点から行われます。税理士が関与するのは「財務・税務DD」の一部であり、あくまで資料の事実確認や会計処理の適正性の説明が主な役割です。

たとえば、以下のような対応を税理士が担うことがあります:

  • 帳簿と実態の整合性の説明
  • 棚卸資産や売掛金の回収状況の確認
  • 申告書の内容や税務処理の解説
  • 節税スキームの正当性に関する補足

しかし、DDの全体像は非常に広く、次のような専門家の協力が必要になります:

領域 主な担当者 内容
法務DD 弁護士 契約書・登記・訴訟リスクの確認
財務DD 公認会計士/税理士 決算書の信頼性・内部統制の確認
ビジネスDD M&Aアドバイザー 市場性・将来性・競合比較
人事DD 社労士・人事コンサル 労務契約・退職金・人員構成

このように、税理士はあくまでDDプロセスの「一部のパートナー」であり、「全体の統括者」ではありません。売り手としては、税理士に全てを任せるのではなく、M&Aの総合支援ができるアドバイザー(FA)や仲介会社と連携し、適切なタイミングで税理士の知見を活用するという「役割分担」が理想的です。

M&Aは、弁護士・会計士・アドバイザーが連携して取り組む総合戦略プロジェクトです。税理士はその中の「数字を確認する専門家」として重要なポジションを担う一方で、それ以外の領域については他の専門家の力を借りる姿勢が、成功への近道となるでしょう。

5.M&A支援ができる税理士の特徴とは

「M&Aできます」は本当か見極める

「M&Aも対応しています」「事業承継の支援経験があります」といった言葉を税理士のホームページや名刺で目にすることがあります。しかし、その言葉だけで本当にM&A支援を任せて大丈夫かどうかは慎重に見極める必要があります。なぜなら、M&Aは高度な専門知識と実務経験が求められる領域であり、単なる資格や一言の表記では実力の有無は判断できないからです。

税理士業界では、M&Aに関する明確な資格制度や登録制があるわけではなく、基本的には「自称」で名乗ることが可能です。そのため、実務経験が乏しくても「M&A対応可」と謳う税理士が一定数存在します。

たとえば、以下のような発信をしている税理士には注意が必要です:

  • 「M&Aのご相談もお気軽に」など抽象的な記述のみ
  • 実際のM&A支援事例が紹介されていない
  • 専門スタッフや連携ネットワークが不明
  • 料金体系や支援範囲が曖昧

これに対し、本当にM&Aに対応できる税理士は、次のような特徴を備えていることが多いです:

  1. 過去に複数件のM&A成約に関与している
  2. IM(情報提供資料)やLOI(意向表明書)の作成・確認経験がある
  3. 買い手・売り手の交渉に同席した経験がある
  4. 他のM&A専門家(FA、弁護士、公認会計士)との連携体制がある

実例として、ある飲食業の経営者が「M&Aに詳しい」と自称する税理士に相談し、業者紹介から価格交渉まで任せた結果、実際にはその税理士はデューデリジェンスの経験すらなく、買い手側との交渉もうまくできず破談に終わってしまったというケースがありました。その後、経験豊富なFAに切り替えたことでスムーズに成約したとのことです。

このような失敗を避けるためにも、税理士が「M&Aに対応できる」という表現をしている場合は、その根拠や具体的な実績を確認することが非常に重要です。判断材料として有効な質問は次の通りです:

  • これまでに支援したM&A案件は何件ありますか?
  • どのような役割で関与しましたか?
  • 買い手との交渉に同席されたことはありますか?
  • 法務やFAとの連携体制はどうなっていますか?

こうした質問に対して具体的な回答が返ってくるかどうかが、その税理士の実力を見極めるポイントになります。

資格よりも“経験”と“現場感覚”が重要

M&A支援においては、「資格の有無」よりも「経験の質と量」「現場での対応力」がはるかに重要です。税理士という資格自体は、主に税務申告や会計業務に特化した国家資格であり、M&Aのような交渉や投資判断を必要とする実務には直接的な関連は薄いのです。

国税庁や日本税理士会連合会の資料でも、税理士の役割は「税務顧問」や「記帳指導」などに重きが置かれており、M&A支援を前提とした教育や訓練はほとんど行われていないことがわかります。

一方で、M&Aでは以下のような“現場対応力”が求められます:

  • 相手の意図を読み取って交渉方針を調整する判断力
  • 買い手企業のKPIやIR資料を分析するスキル
  • 価格交渉で相手に納得感を持たせるロジック構築力
  • 想定外のリスクに対する迅速な対応力

これらの力は、机上の知識だけでは身につかず、実際のM&A現場に何度も立ち会ってきた「経験の蓄積」から培われるものです。特に、買い手と売り手の間に立ち、冷静に利害調整しながら合意形成を進める力は、資格とは別次元の専門性といえます。

たとえば、ある物流会社のM&A支援を行った税理士は、財務的には黒字なのに、買い手が提示した買収価格が極端に低いことに違和感を持ち、自ら業界調査を行って買い手の提示根拠を反証。結果的に価格交渉を逆転させ、想定の1.5倍での成約に導いたという事例があります。このような行動は、現場経験と戦略眼を持つ専門家だからこそ可能なのです。

したがって、M&Aの成功を目指すのであれば、単に「資格のある税理士に相談する」という発想では不十分です。次のような姿勢を持つ税理士こそが、真に頼れるパートナーといえるでしょう:

  • 自分の限界を正しく認識し、必要に応じて他専門家と連携できる
  • 過去のM&A経験を数値や事例で説明できる
  • 財務や税務以外にも事業価値の評価視点を持っている
  • 「守り」だけでなく「攻め」の発想を持ってアドバイスできる

つまり、M&Aにおける専門性とは、資格や肩書きだけで測れるものではありません。複雑で高リスクな取引だからこそ、判断軸として「実務経験の深さ」と「現場対応力」に重きを置くことが、後悔のない専門家選びにつながるのです。

6.優秀なM&Aアドバイザーと税理士の違い

交渉・戦略・資料作成まで一気通貫

M&Aの成功において、実は最も重要なのが「誰がハンドリングするか」です。税理士とM&Aアドバイザーの違いはまさにここにあります。税理士は税務・会計の専門家であり、財務処理や申告業務には長けていますが、M&Aという“企業売却のプロジェクト”をリードするには専門領域が異なります。一方、M&Aアドバイザーは、交渉、戦略、資料作成、買い手選定、スケジュール管理などを一気通貫で実行するプロです。

中小企業庁の『中小M&Aハンドブック』でも、売り手支援における実務の中心はM&A仲介業者やFA(ファイナンシャルアドバイザー)であると明記されており、税理士は「補助的立場」での関与にとどまるとされています。

具体的に、M&Aアドバイザーが行う業務を以下にまとめると、税理士との役割の違いがより明確になります。

業務領域 M&Aアドバイザー 税理士
交渉の主導 買い手との条件交渉、価格調整をリード 税制面の相談は可能だが、交渉は不得意
資料作成 IM、企業概要書、提案書、意向表明支援 会計帳票など補助資料の作成
戦略立案 対象企業の魅力・強みの可視化と訴求設計 基本的に対応不可
買い手探索 業界ネットワークとリストでアプローチ 一部の提携仲介会社紹介にとどまる
スケジュール管理 全体進行・期日管理・フェーズの最適化 関与は限定的

実例として、あるIT企業のオーナーが「会計処理も見てくれるから安心」と税理士にM&Aを任せた結果、資料作成や交渉がうまくいかず、結局買い手の関心を引けなかったという事例があります。後からM&Aアドバイザーに切り替えたところ、企業の強みを丁寧に可視化したIMを作成し、複数の買い手候補を獲得。価格交渉もうまく進み、想定を上回る額で成約に至りました。

M&Aは単なる会計処理の延長ではなく、企業の魅力を最大限に伝えるためのマーケティング戦略であり、かつ交渉の現場です。そこを一貫してリードできるのは、やはり実務経験豊富なM&Aアドバイザーに他なりません。

税理士より頼りになる理由とは?

税理士がM&Aの主導者になりにくい理由は、その守備範囲と専門性にあります。税理士は基本的に「税金を正しく計算する」「会計を整える」ことを本分とするため、M&Aのように将来価値を描いたり、不確実性を前提に交渉したりする場面では適応が難しいのです。

一方で、M&Aアドバイザーは以下のような理由から、「売却というプロジェクトの推進役」として頼りにされます:

  • 経営全体を俯瞰して企業価値を見出す視点がある
  • 買い手企業の選定や調整に慣れており、引き出しが豊富
  • 相手の反応に応じて臨機応変な条件調整ができる
  • スケジュール管理や契約書レビューなど広範な支援が可能

特に中小企業のM&Aでは、売却金額を1,000万円上げる交渉力があるかどうかで、引退後の生活設計にも影響が出るほどの差が生まれます。税理士が「理論上の価格」しか提示できない一方、M&Aアドバイザーは「交渉の現場で価格を引き上げる」実行力を持っています。

たとえば、ある建設業の案件では、顧問税理士が2億円と試算した適正価格に対し、M&Aアドバイザーが3社の買い手を同時に交渉に引き込むことで、最終的に2.8億円で売却することに成功しました。これは、交渉戦略やタイミングの妙によって可能になった成果であり、計算式だけでは到達できない価格帯でした。

また、税理士は守秘義務を持ち、顧問契約先を増やすことで収益を伸ばすモデルですが、M&Aアドバイザーは「成功報酬型」のビジネスモデルが一般的であり、売り手の利益最大化がそのまま自身の報酬に直結します。このインセンティブ構造の違いも、姿勢と結果に大きな差を生み出す要因です。

もちろん、税理士が関わることで税務のチェックや会計面での整理がスムーズになるというメリットはあります。しかし、M&A全体の設計図を描き、前に進める牽引役としては、やはり「実務経験豊富なM&Aアドバイザー」がもっとも信頼できるパートナーだといえるでしょう。

7.こんな税理士ならM&Aでも頼りになる

経営者の夢や理念を共有できる存在

M&Aの場面において、すべての税理士が役に立たないわけではありません。むしろ、ごく一部の信頼できる税理士は、他のどの専門家よりも強い味方になってくれることがあります。その大きな特徴は「経営者の夢や理念を深く理解し、共有できる存在であること」です。

中小企業庁が発行している「事業承継ガイドライン」でも、事業のバトンタッチにおいて重要なのは、「数字だけでなく、想いや価値観の継承」であると述べられています。M&Aは単なる売却ではなく、経営者が人生をかけて築いてきた会社を、誰に・どのような形で引き継ぐかという、極めてセンシティブなテーマです。

そんな場面で頼れる税理士とは、次のような特徴を持つ人です:

  • 定期的に経営者と面談を重ね、事業方針を理解している
  • 過去の困難や成長のエピソードを共有している
  • 会社を「数字」ではなく「人と想いの集合体」として見ている
  • 経営理念やビジョンを尊重し、それをM&Aにも反映させようとする

実際、ある地域密着型の介護事業者のオーナーが、事業売却を考えた際、顧問税理士に相談しました。その税理士は、創業当時からオーナーの苦労を間近で見てきた人物であり、「この会社の理念を理解し、引き継いでくれる相手でなければ、私は売却に賛成しません」とはっきり伝えました。その結果、最も高い価格を提示した会社ではなく、理念の継承に共感を示した買い手に売却が決まり、従業員の離職も一切なく、オーナーも満足のいく承継が実現しました。

このように、M&Aにおいて「金額」だけでなく、「心の納得感」が大切になる場面では、経営者の内面まで理解してくれる税理士が強い味方になります。特に、地方や業歴の長い会社では、理念や人間関係が売却判断に強く影響するため、このような関係性を築ける税理士は貴重な存在といえるでしょう。

数値の背景を理解する“戦友”として

もう一つ、M&Aにおいて頼れる税理士の特徴は、「数字の背景まで理解できる」という点です。単に決算書や税務申告書を作成するだけでなく、その数値が生まれた背景――たとえばなぜ売上が上がったのか、なぜ人件費が増えたのか、どんな投資が行われてきたのか――を理解している税理士は、まさに経営の“戦友”として心強い存在です。

買い手企業がM&Aを検討する際、最も注目するのは「数字の裏にある事業の実態」です。単に利益額だけを見るのではなく、「この数字は再現性があるのか」「経営体制はどうなっているのか」といった深掘りを行います。その際、長年会社の財務を見てきた税理士が、数値の変動の理由や、経営判断の背景を正確に説明できれば、買い手の信頼は一気に高まります。

以下は、M&Aにおいて数値の背景理解が求められる主な場面です:

  • 売上高の急増や減少の理由
  • 利益率の変動とコスト構造の説明
  • 役員報酬・家族給与・社宅等の調整項目の根拠
  • 事業投資や減価償却費の説明

実例として、ある製造業のM&Aにおいて、買い手から「この年だけ利益率が大きく下がっているのはなぜか」と質問された際、税理士が即座に「設備更新に伴う特別償却の影響です」と説明し、過去の会議資料とともに補足したことで、買い手の不安を払拭できたというケースがあります。

逆に、売り手側の税理士が経理担当任せで、経営実態を把握していなかった場合、質問に答えられず、「数字だけの説明では判断できない」として買い手が撤退した例もあります。このように、数字の背後にあるストーリーを語れる税理士かどうかが、成約可否を左右することもあるのです。

M&Aは、数字と心の両方が問われるプロセスです。その中で、経営者のビジョンを理解し、数字の意味を語れる税理士であれば、単なる「顧問」ではなく、事業承継の“伴走者”として極めて価値の高い存在になるでしょう。

「この人なら、会社のことを一番よくわかってくれている」――そう思える税理士であれば、M&Aにおいても心強いパートナーとなるはずです。

8.相談してはいけない税理士の見分け方

M&A未経験・理解が浅いタイプ

どれだけ優秀に見える税理士でも、M&Aの実務経験がなければ、企業売却においてはかえってリスクとなる場合があります。特に「M&Aできます」と謳っていても、実際には一度も成約まで導いたことがない、あるいは買い手との交渉に同席した経験すらない税理士も存在します。このような“見せかけの経験者”に相談してしまうと、誤った助言や仲介会社選定のミスによって、大きな機会損失が生じるおそれがあります。

中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」でも、一定の実績や支援能力が求められる背景には、こうした「未経験者による形だけの支援」が横行しているという現実があります。税理士業界では、資格を持っていれば比較的自由に「M&Aも対応」と名乗れてしまうため、相談者側がその真偽を見極める目を持つ必要があるのです。

特に注意が必要な特徴を以下にまとめます:

  • M&A支援の件数が「1~2件程度」しかない
  • 経験内容が「財務DD(買い手側)」のみ
  • 「M&Aに関する知識はセミナーや書籍で学んだ」と発言する
  • 実績を尋ねても具体的な成約事例を語れない

たとえば、ある事業者が顧問税理士に「M&Aを考えている」と相談したところ、「知り合いの仲介業者を紹介します」と言われ、そのまま契約したものの、案件がほとんど進展せずに1年が経過。後から調べてみると、税理士も仲介会社もM&A成約実績がなかったという事例があります。このようなケースでは、売却機会を逃しただけでなく、事業計画や人材体制にも悪影響を与えることがあります。

さらに、M&Aにおいては「実務経験」がものを言う世界です。理論や知識があっても、交渉の現場では買い手企業の動きや感情、社内稟議の流れなどを読み取りながら柔軟に対応する必要があります。そのため、経験が浅い税理士が表面的なアドバイスに終始してしまうと、逆に買い手の信用を損ねてしまう危険すらあるのです。

相談する税理士が以下のような対応を見せた場合は、注意が必要です:

  • 「M&Aの価格はこの理論値が正解」と断定する
  • 「買い手候補は○○社1社しかいない」と選択肢を絞る
  • 「契約書のことは仲介会社に任せましょう」と丸投げする

このように、M&A経験が乏しい税理士は、価格交渉・買い手対応・法務面のアドバイスなどで的確な支援ができず、最終的には「役に立たなかった」と後悔することになりかねません。事前に、具体的な支援事例や買い手交渉の関与経験を確認することが重要です。

ビジネスや業界理解が乏しい人

もう一つ、M&Aにおいて絶対に避けたいのが「ビジネスモデルや業界構造を理解していない税理士」です。企業価値は、単に売上や利益で決まるわけではなく、業界の成長性、競合優位性、収益構造、商流や契約形態など、事業の中身に深く関わる要素によって大きく左右されます。

にもかかわらず、税理士が「決算書の数字だけ」で判断し、「この利益水準なら○○万円が相場」と安易に断定してしまうと、大きな過小評価や買い手とのミスマッチを招いてしまいます。特にサービス業・医療・IT・物流など、業界特有のビジネスモデルを持つ企業では、この“理解不足”が致命的になります。

以下のような質問に答えられない税理士は要注意です:

  • なぜ御社の粗利率は業界平均と異なるのか?
  • 主力商品の売上構成と成長見込みは?
  • 今後、収益性を高めるための課題は?

たとえば、ある医療系ベンチャーがM&Aを進めた際、顧問税理士が「この事業は収益が不安定なので、買い手は見つかりにくい」とアドバイスしたが、後に医療機関向けのデジタルツールを評価したIT系買い手が現れ、2億円超で成約したという事例があります。これは「業界横断的な評価の視点」が必要だったにも関わらず、税理士が伝統的な財務指標に縛られていたことが問題でした。

逆に、業界知識がある税理士は、買い手候補の思考パターンを想像しながら「この点をアピールすれば響く」「競合と比較して優位性を示せる」などの具体的な支援ができます。つまり、ただの会計人ではなく、経営戦略を一緒に考えられるパートナーとして機能するのです。

以下のような資質があれば、業界理解に乏しい可能性が高いと言えるでしょう:

  • 経営者との打ち合わせは年に1回程度
  • 帳簿の記帳代行が主業務で、事業内容には無関心
  • 「業界の動向は知らない」と公言する
  • M&Aにおいて企業の強みを説明できない

M&Aは企業の中身を売る取引です。その“中身”を語れない税理士に頼ってしまうと、価値のある企業も過小評価され、買い手に魅力が伝わらず、売却機会を逃してしまうかもしれません。業界知識と事業理解は、税理士選びにおいて極めて重要な基準なのです。

以上をふまえ、「実務経験の浅い税理士」「事業内容に関心がない税理士」は、M&A支援には不向きであると断言できます。相談相手として選ぶべきは、経験豊富で、かつ経営と業界を深く理解している“本物のパートナー”です。

9.正しい専門家選びがM&A成功の第一歩

税理士を“使い分ける”発想を持とう

M&Aを成功させるためには、顧問税理士をすべて任せる「万能な存在」と捉えるのではなく、それぞれの専門領域に応じて“使い分ける”という発想がとても重要です。税理士は税務の専門家であり、M&Aの全体戦略や価格交渉の主導は本来の守備範囲外です。にもかかわらず「顧問だから安心」「長年付き合っているから頼れる」という理由だけで、税理士にM&Aのすべてを任せてしまうと、期待外れの結果に終わる可能性があります。

この点は、中小企業庁の「M&A推進計画」や、全国事業承継ネットワークの支援資料でも明確にされています。M&Aには税務・法務・財務・戦略・交渉といった多面的な専門性が求められるため、「複数の専門家が連携するチーム体制」が理想的であり、一人の専門家に依存するリスクは大きいとされています。

つまり、

  • 税務処理や法人税・譲渡所得税の計算 → 税理士
  • 買い手探索・企業価値算定・交渉支援 → M&Aアドバイザー
  • 契約書チェック・リスク調査 → 弁護士

というように、役割に応じて専門家を分けることで、M&Aの成功確率は格段に高まるのです。

たとえば、顧問税理士は「決算や財務の整理には強いが、買い手との交渉には立ち会ったことがない」というタイプでも、税務調整や報告書作成の面で十分に貢献できます。しかし、「売却価格の妥当性」や「競争入札による価格引き上げ」などの戦略支援を求めてしまうと、スキルの限界を超えてしまう可能性があります。

実際、ある建築会社の売却案件では、税理士にすべてを任せていたところ、紹介された仲介会社の選定ミスにより、半年間まったく買い手が見つかりませんでした。最終的に外部のM&Aアドバイザーに切り替えた結果、3ヶ月で3社から買収提案があり、競争環境の中で約1.5倍の価格で売却が実現しました。このように「使い分け」が明暗を分けた事例は数多く存在します。

そのため、M&Aに取り組む経営者は、専門家の役割を次のように明確に区別しておくと良いでしょう:

役割 担当すべき専門家
税金の試算・節税策・所得税の処理 税理士
企業価値の算定、買い手探索、交渉 M&Aアドバイザー(FAや仲介)
契約書の作成・精査、法務デューデリ 弁護士
社会保険や許認可の承継確認 社会保険労務士、行政書士

このように「専門性で分業する発想」を持つことが、後悔しないM&Aへの第一歩です。

本当に頼れる専門家の探し方とは?

では、実際にM&Aを相談する専門家を選ぶ際、どのように見極めればよいのでしょうか? 資格の有無や広告の華やかさだけで判断するのではなく、「実績」「信頼性」「現場感覚」「倫理性」の4つの軸でチェックすることがポイントです。

以下は、M&A専門家を見極めるための具体的なチェックリストです:

  1. 過去にM&A支援の実績がある(できれば5件以上)
  2. 売り手・買い手の両面を経験している
  3. 具体的な成約事例や実績を提示できる
  4. 成功報酬型の報酬体系である
  5. 顧問税理士や弁護士と連携できる体制がある
  6. 業界やビジネスモデルへの理解が深い
  7. 「リスク」や「デメリット」も正直に説明してくれる

また、信頼できる専門家を探す方法としては、以下のようなルートが有効です:

  • 中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」に登録されているかを確認
  • 同業者からの紹介や評判を調査
  • 複数社に相談し、対応姿勢を比較する
  • 業界団体や商工会議所で相談窓口を利用する

特に「M&A支援機関登録制度」は、一定の実績・コンプライアンス基準を満たした専門家に限り登録されるため、初めてのM&Aでも安心して相談できる基準となります。中小企業庁の公式サイトから、地域・対応業種などで検索可能です。

そして最後に、経営者自身が「この人に任せて本当に後悔しないか?」という直感を持つことも大切です。料金が安い・話がうまいといった表面的な要素に惑わされず、「自社のことを理解しようとしてくれているか」「一緒に悩んでくれそうか」といった“姿勢”を見極めることが、信頼できる専門家との出会いにつながります。

M&Aは一生に一度あるかどうかの大きな決断です。そのプロセスを共に歩む専門家を選ぶことこそ、売却価格や成約成否以上に重要な成功要因だといえるでしょう。

まとめ

本記事では、「M&Aは税理士に相談してよいのか?」という疑問に対し、専門性の違いや見極め方を詳しく解説しました。後悔しないM&Aのためには、相談相手を慎重に選ぶことが何よりも重要です。

  1. 税理士は税務の専門家に過ぎない
  2. M&Aには交渉力と現場経験が必須
  3. 役割を見極めて専門家を使い分ける

あなたの会社にとって最適なパートナーを選び、納得のいくM&Aを実現しましょう。詳しく知りたい方は、ぜひアーク・パートナーズまでお問い合わせください。

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