M&A仲介とFAの違いについて詳しく解説
「M&Aの相談を考えているが、仲介とFAの違いがいまいち分からない…」
「どちらを選べばいいのか悩んでいる」
そんな不安を感じていませんか?
M&Aのパートナー選びは、会社の将来を左右する重要な意思決定です。しかし「仲介とFAの違いが曖昧なまま進めてしまった結果、後悔した」という声も少なくありません。本記事では、そんな悩みをお持ちの方に向けて、M&Aアドバイザー歴10年以上・200件超の案件に携わってきた専門家が、分かりやすく丁寧に解説します。
■本記事でわかること
- 仲介とFAの違い・それぞれの役割と報酬体系
- どちらを選ぶべきかの判断基準と業者選定のポイント
- 仲介・FAのメリット・デメリットと注意点
■本記事の信頼性
執筆者は中小企業庁登録のM&A支援機関であり、10年以上の実務経験を有する現役アドバイザーです。200件以上のM&A案件に携わってきた実績があり、常に「信頼性」「誠実性」「専門性」「スピード」を重視して支援しています。
この記事を最後まで読むことで、仲介とFAの違いが明確になり、自社にとって最適なM&Aの進め方が見えてきます。重要な経営判断を失敗しないためにも、ぜひ最後までご覧ください。
1.M&Aにおける仲介とFAの基礎知識
M&A仲介とは?
M&A仲介とは、会社を売りたい人(売り手)と、買いたい人(買い手)の間に入って、取引がスムーズに行えるようにサポートする専門業者のことです。仲介会社は、中立的な立場で両者のニーズを調整し、M&Aの成立を目指します。
日本では、中小企業庁が進める「事業承継・引継ぎ支援センター」などでも、M&A仲介会社の役割が紹介されています。特に、経営者の高齢化が進む中で後継者不足が社会問題となっており、中小企業の存続手段としてM&Aの活用が注目されています。
たとえば、地元で長年営業していた製造業の社長が引退を考えていたとします。親族に後継者がいない場合、仲介会社が買い手企業を探し、条件交渉や契約書の取り交わしなどをサポートし、事業の存続を実現することができます。
このように、M&A仲介は「マッチング」と「交渉の仲立ち」によって、会社のバトンタッチを円滑に進める役割を担っています。
FA(ファイナンシャル・アドバイザー)とは?
FA(ファイナンシャル・アドバイザー)とは、売り手または買い手のどちらか一方の立場に立って、M&Aを戦略的に成功へ導く専門家のことです。売却価格の最大化や最適な買い手選定、交渉戦略の立案までを手厚く支援するのが特徴です。
FAは弁護士や公認会計士などとも連携し、財務・法務・税務の観点から助言を行うため、依頼者にとって非常に心強い存在です。日本M&Aセンターやストライクなどの専業FAも存在し、近年では多くの中小企業が利用しています。
たとえば、ITベンチャー企業が大手企業への売却を検討する際、FAは成長性や収益力を的確にアピールできる資料を作成し、交渉戦略を立て、価格や条件の最適化を図ります。
FAは「依頼者の利益最大化」を第一に考える、片側支援型の専門家です。
仲介とFAの基本的な違い
項目 | M&A仲介 | FA(ファイナンシャル・アドバイザー) |
---|---|---|
契約形態 | 売り手・買い手の両者と契約(双方代理) | 売り手または買い手のどちらかと契約(一方代理) |
立場 | 中立的な調整役 | 依頼者の利益を最優先 |
主な役割 | マッチングと基本交渉 | 戦略立案・相手選定・交渉代行・価格最適化 |
報酬体系 | 成功報酬ベース(後述) | 成功報酬ベース(後述) |
メリット | 早期成約、広いネットワーク | 高値売却、丁寧な支援 |
デメリット | 利益相反の懸念 | コスト・時間がかかることも |
このように、仲介とFAでは契約形態や支援スタンスが大きく異なります。中小企業庁も「片側支援の重要性」に注目しており、利益相反回避の観点からFA型の支援が推奨されるケースも増えています。
仲介とFAの関わり方・業務内容の違い
仲介会社の主な業務は、以下の通りです。
- 売り手・買い手候補のマッチング
- 基本合意までの条件調整
- 双方の契約書作成支援
一方で、FAは以下のような業務まで踏み込んで対応します。
- 自社の価値算定(バリュエーション)
- 買い手の選定戦略の構築
- 情報開示資料(IM)の作成
- デューデリジェンス(精査)のサポート
- 交渉戦略の立案と代行
つまり、FAの支援は「交渉力を高めるための準備と設計」に重点が置かれており、よりハンズオンかつ主体的なアプローチが求められる場面に適しています。
仲介とFAの報酬体系の違い(成功報酬やレーマン方式)
M&Aの支援を受ける際には、報酬体系も重要なポイントです。特に両者ともに「成功報酬」をベースとする点では共通していますが、細かな構造には違いがあります。
代表的な報酬体系の一つが「レーマン方式」と呼ばれる段階式の報酬算定法です。
譲渡価格 | 手数料率(目安) |
---|---|
5億円以下の部分 | 5% |
5億円超~10億円以下の部分 | 4% |
10億円超~50億円以下の部分 | 3% |
50億円超~100億円以下の部分 | 2% |
100億円超の部分 | 1% |
多くの仲介会社やFAは、上記のようなレーマン方式をベースにしつつ、最低報酬(ミニマムフィー)や着手金を別途定めている場合があります。
特にFAの場合は、案件の磨き上げや資料作成などに多大な労力を費やすため、リテイナーフィー(着手金)を設定することが多いです。対して、仲介業者は完全成功報酬型を取ることもありますが、そのぶん早期成約重視の傾向がある点に注意が必要です。
依頼者としては、料金体系の透明性や、報酬に対する支援内容の妥当性を事前に確認することが大切です。
2.FAと仲介の役割が成り立つ条件とは?
仲介が向いているケース
M&A仲介が向いているのは、主に「比較的シンプルな条件で、早期にマッチングを実現したい」ケースです。売り手・買い手の双方と契約を結ぶ仲介は、中立の立場でマッチングに特化しており、多数の案件を効率よく処理するスキームに適しています。
中小企業庁の資料によれば、日本におけるM&A案件の大多数は中小・零細規模であり、そのうち売上規模が1億円未満の企業が約5割を占めています(出典:中小企業庁「中小M&Aハンドブック」)。このような比較的小規模なM&Aでは、複雑な条件交渉や多層的な戦略設計よりも、スピーディーに相手を見つける「マッチング重視」の仲介の方が効率的に機能することが多いです。
具体例として、地元の飲食店や小売店のオーナーが高齢化を理由に事業承継を希望している場合を考えましょう。店舗の規模や設備、売上が比較的分かりやすいため、買い手との条件交渉も複雑になりにくく、仲介業者が間に入り、標準的な流れで短期間のうちに譲渡契約が成立することも多いです。
また、M&Aが初めてという中小企業の経営者にとっても、仲介は比較的ハードルが低く、「相談のしやすさ」「スピード」「費用負担の軽さ」が選ばれる理由になります。
- 譲渡価格が比較的低額である(数百万円〜1億円程度)
- 業種・業態が一般的である(飲食・小売・サービス等)
- 複雑な財務スキームを必要としない
- 買い手が広く存在し、競争性がある
- スピーディーに譲渡を進めたい
このような特徴を持つ案件では、仲介を選ぶことで負担を軽減しながら円滑にM&Aを進めることが可能です。
FAが向いているケース
一方、FA(ファイナンシャル・アドバイザー)が向いているのは「戦略的に相手を選定し、譲渡価格や条件の最適化を重視する」ケースです。FAは売り手または買い手どちらか一方の利益を最大化するために支援する立場であり、丁寧な戦略設計や、交渉、資料作成など多岐にわたるサポートを行います。
中小企業庁の支援政策でも、M&A支援機関の登録制度(通称:M&A支援機関登録制度)において、利益相反のリスクを減らすため、FA型の一方支援を推奨する動きが見られます。特に、経営のノウハウや人材、ブランド価値など「見えにくい価値」を買い手に正しく伝えるには、FAによる高度な情報整備と交渉力が求められます。
たとえば、ITや医療、美容系の成長企業が売却を検討している場合、単に希望価格で売却できれば良いというわけではありません。「事業ビジョンの共有」「自社の技術やノウハウの継承」「従業員の待遇維持」など、譲渡後の体制まで含めた条件交渉が重要になります。
FAはこのような細やかなニーズに対応し、候補先を戦略的に絞り込み、競争入札(ビッド)などを通じて条件交渉を有利に進めることが可能です。また、上場企業やファンドを買い手とする大型M&Aでは、ディールの複雑性からFAの関与が必須となります。
- 譲渡価格が高額(数億円以上)になる
- 買い手との条件交渉を主導したい
- 複数候補を比較し、最適な相手を選びたい
- 非財務的価値(人材・ブランド等)も評価してもらいたい
- 従業員の雇用や企業文化の継承に配慮したい
- 売却価格を最大限に引き上げたい
また、事業再編・カーブアウト(部門売却)などの戦略的M&Aを行う企業にとっても、FAは欠かせない存在です。FAは単なる「M&A成立」ではなく、「誰と、どういう条件で、どんな未来を作るか」まで設計する伴走者と言えるでしょう。
まとめ
仲介とFAは、どちらが優れているというものではなく、「自社の状況や目的」に応じて使い分けるべき支援形態です。シンプルでスピードを重視するなら仲介、価格や条件の最適化、戦略性を求めるならFAが適しています。
重要なのは、「この会社の未来にとって、誰に支援を任せるべきか?」を見極めることです。どちらを選ぶにしても、事前にサービス内容や報酬体系、担当者の実績などをしっかり確認し、自社にとって最も適したパートナーを見つけることが成功への近道となります。
3.仲介・FAそれぞれのメリットとデメリット
仲介を利用するメリット
取引の円滑化と時間短縮に繋がる
M&A仲介を利用する最大のメリットのひとつは、取引全体の進行がスムーズになることです。仲介会社は、売り手と買い手の間に立って連絡調整や日程管理を行うため、当事者が直接やり取りする負担を減らしながら、全体の流れをコントロールしてくれます。
特に初めてM&Aに取り組む中小企業にとって、M&Aの専門知識や手続きの進め方をゼロから理解するのは大きな負担です。しかし、仲介会社が段取りを整えてくれることで、短期間で取引を完了できる可能性が高まります。
たとえば、従業員10名以下の小規模飲食店が後継者不在でM&Aを希望した場合、仲介会社が買い手候補との面談日程や条件交渉を代行することで、オーナーは本業に集中しながらM&Aを進めることができるのです。
買い手との強固なネットワーク
仲介会社のもう一つの強みは、豊富な買い手情報を持っている点です。自社だけでは出会えないような企業や個人投資家ともマッチングしてくれるため、選択肢が広がります。
大手仲介会社では、全国の事業承継希望者や買収意欲のある企業のデータベースを保有しており、業種・エリア・事業規模に応じて素早く買い手候補を提示することが可能です。
これは「スピード感」と「成立率の高さ」を両立する要因となり、売り手にとって大きな安心材料になります。
幅広い選択肢を得られる
仲介会社は複数の買い手候補に同時に打診できるため、売り手側にとっては「条件を比較する」という選択が可能になります。一社限定での交渉ではないため、価格や譲渡条件に関して柔軟な選定が行えます。
実際には、数社の候補から最終的な買い手を選ぶという流れになるケースが多く、買い手同士の競争原理が働くことで条件が有利になることもあります。
仲介を利用するデメリット
売り手が不利になりやすい
仲介は「双方代理」であることが一般的です。つまり、売り手と買い手の両方から報酬を得る構造です。これは一見すると合理的に見えますが、利益相反が起きやすくなるリスクがあります。
たとえば、仲介業者が「とにかく早く成立させたい」という思いで買い手側の要望を優先してしまうと、売り手にとっては希望よりも低い価格や不利な条件で契約が成立してしまう恐れがあります。
中小企業庁もこの点を問題視しており、利益相反のリスクに対する注意喚起を行っています(出典:中小企業庁「M&A支援機関登録制度」)。
プロセスが不透明になりやすい
仲介会社によっては、交渉過程や買い手候補の選定基準などが十分に説明されないまま話が進むことがあります。これは、業者のスタンスや担当者の経験値に左右されやすいためです。
売り手が主導権を持たず、仲介会社に「すべてお任せ」してしまうと、後から「こんなはずじゃなかった」というミスマッチが生じる可能性があります。
FAを利用するメリット
利益の最大化が見込める
FA(ファイナンシャル・アドバイザー)は、売り手または買い手の「どちらか一方」に専属で付き、相手側との交渉を有利に進める役割を担います。そのため、売り手がFAを雇えば「少しでも高く売る」ための戦略を立ててもらうことが可能です。
たとえば、企業価値を高く見せるためのプレゼン資料作成、将来性を正しく伝えるための収益モデル整理など、M&Aの準備段階から専門的な支援を受けられます。
これは中堅〜大手企業や、競争力の高い事業を持つ企業にとって特に有効です。条件交渉でも主導権を持ちやすくなり、納得できる価格・契約内容で譲渡できる確率が高まります。
条件重視で買い手を選定できる
FAは単なるマッチングではなく、売り手の希望を踏まえた「相手探しと選定戦略」からスタートします。たとえば、「従業員をそのまま雇用してほしい」「地域性を重視している」「事業を維持・成長させてくれる会社に売りたい」といった細かな条件にも対応可能です。
売却額だけでなく、「会社の未来」まで考慮して相手を探すことができるのは、FAの大きな強みです。
中立的な立場で交渉支援を受けられる
FAはクライアントの利益を最大化するため、必要に応じて弁護士・会計士などと連携しながら、法律面・税務面での助言や契約条件の精査も行ってくれます。
買い手との交渉においても、感情や主観ではなく、合理的な判断をベースに進めることができるため、冷静かつ戦略的なM&Aが可能になります。
FAを利用するデメリット
成立までに時間がかかる場合がある
FAによる支援は、事前準備から買い手選定、交渉戦略立案に至るまで多くの工程を丁寧に行うため、仲介に比べてM&Aの成立までに時間がかかる傾向があります。
「とにかく早く手放したい」というニーズにはやや不向きであり、計画的に準備を進められる企業に適しています。
手数料負担が比較的大きいこともある
FAは少数案件に集中して取り組むスタイルで、手厚い支援が特徴です。その分、手数料(成功報酬や着手金など)は仲介よりも高めに設定されることがあります。
特に、資料作成やバリュエーション(企業価値算定)などに追加コストが発生する場合もあり、報酬体系の事前確認が重要です。
まとめ
M&Aにおける仲介とFAは、それぞれ異なる強みと課題を持っています。
- スピード重視・小規模・標準的な取引 → 仲介が向いている
- 価格や条件にこだわる・戦略性が必要 → FAが向いている
どちらを選ぶかは、「自社の目的」と「譲渡に求める優先順位」によって変わります。自分に合った支援スタイルを選び、納得できるM&Aを進めることが大切です。
4.FA・仲介業者を選ぶときのポイント
過去の実績・得意分野をチェックする
M&Aを依頼する際、最初に確認すべきなのは、その業者が過去にどれだけの実績を持っているかです。特に自社と似た業種・規模・エリアでの成約実績があるかどうかは、スムーズな支援を受けられるかを判断する重要なポイントです。
たとえば、製造業を譲渡したい場合、同じく製造業のM&Aを数多く経験しているFAや仲介会社であれば、業界特有の商習慣や評価のポイントを理解しているため、的確なアドバイスが期待できます。
中小企業庁が実施している「M&A支援機関登録制度」では、支援機関の実績や体制に一定の基準が設けられています。これを活用して、登録済み業者かどうかを確認するのも有効です。
- どの業種で何件の実績があるか
- 売却側と買収側、どちらの支援が多いか
- エリアや取引金額の傾向
自社との相性を見極める
M&Aは短くても数ヶ月、長ければ1年超かかるプロジェクトになるため、依頼する相手と「相性が良いかどうか」は極めて重要です。実力があっても、説明が分かりにくかったり、信頼関係を築けなかったりすると、意思疎通がうまくいかずにストレスがたまってしまいます。
業者の雰囲気は、初回面談やメール対応、資料の説明の丁寧さなどから判断できます。たとえば「専門用語ばかりで質問しても答えが抽象的」「こちらの意図を汲まずに一方的に話す」といった印象がある場合、信頼関係の構築は難しいかもしれません。
一方、「経営者の立場に立った提案をしてくれる」「メリットだけでなくリスクも正直に話す」担当者であれば、安心してM&Aを進められる可能性が高いです。
担当者の専門知識や対応力を確認する
業者選びにおいて、企業単位の信頼性だけでなく「担当者個人の力量」も極めて重要です。M&Aは法務・財務・税務・人事など複数の領域が絡むため、これらを一通り理解している人材でなければ適切な助言ができません。
たとえば、FAであれば財務三表の分析やバリュエーション手法に精通していること、仲介業者であれば買い手開拓や条件調整に関する経験値があることが求められます。
- 公認会計士、税理士、M&Aシニアエキスパートなどの資格保有者か
- 過去に関与した案件の概要を聞いてみる
- 質問への回答が的確で論理的かどうか
「この人になら任せられる」と思える担当者かどうか、初回の打ち合わせでよく観察するようにしましょう。
対応範囲や業務範囲を事前に把握する
M&A支援といっても、業者によって提供するサービスの範囲が異なります。「候補者の紹介だけ」「契約書や交渉は自力で」といった業者もあれば、「バリュエーション・IM作成・交渉支援・クロージング」まで一気通貫で支援してくれるところもあります。
とくに初めてM&Aを行う企業にとっては、業務範囲が明確に定義され、事前説明が丁寧である業者の方が安心です。事後になって「それはサポート外です」と言われるとトラブルになりかねません。
また、FAの場合は顧客の利益最大化が目的なので業務範囲が広くなりがちですが、その分、明文化されたサポート内容を確認する必要があります。
料金体系や成功報酬の仕組みを明確にする
M&A支援には主に以下のような料金が発生します。
- 着手金(契約時に発生)
- 月額報酬(リテイナーフィー)
- 成功報酬(M&A成立時に支払う)
特に成功報酬については、レーマン方式という段階制手数料が一般的です。しかし、同じ報酬体系でも、最低手数料や中間報酬など条件に違いがあるため、契約前に必ず確認しましょう。
譲渡金額 | 一般的な手数料率 |
---|---|
5億円以下の部分 | 5% |
5億円超~10億円 | 4% |
10億円超~50億円 | 3% |
「手数料が安いからいい業者」とは限らず、「その費用に見合うサポートがあるか」を判断することが大切です。
複数社を比較・相談して選ぶ
業者選びの最後のステップとして、複数社に相談して比較することを強くおすすめします。最初から1社に絞ってしまうと、客観的な比較ができず、判断を誤るリスクが高くなります。
たとえば、最初の業者が「2,000万円で売れる」と言っていても、他の業者が「3,000万円でいける」と見立てるかもしれません。また、担当者の対応力やサービスの丁寧さも、複数の面談を経てこそ見えてくるものです。
面談時には以下のような観点でチェックしましょう。
- 提案内容が自社のニーズに合っているか
- 説明に納得感があるか
- 報酬体系が明快であるか
- 過去の事例に説得力があるか
比較をすることで、「自社に最適なM&Aパートナー」を見極める目を養うことができます。
まとめ
M&Aの成功は、パートナー選びで7割が決まると言っても過言ではありません。過去の実績・相性・専門性・サービス範囲・料金・比較検討の6つのポイントを意識することで、自社に合った業者と出会える確率が格段に高まります。
不安なまま契約するのではなく、納得できる相手と共に、大切な会社の未来を描いていくことが、後悔しないM&Aを実現する第一歩となります。
5.M&A仲介とFAのリスクと注意点
仲介による利益相反の問題
M&A仲介における最大のリスクのひとつが「利益相反」です。これは、同じ仲介業者が売り手と買い手の両方を同時にサポートすることで、それぞれの利益がぶつかることを意味します。たとえば売り手は高く売りたい、買い手は安く買いたいという希望がある中で、同じ人が両方の交渉を担当するのは矛盾が生じやすい構造なのです。
実際、中小企業庁が運営する「M&A支援機関登録制度」でも、この利益相反のリスクを明示しており、支援機関には「双方代理ではなく一方代理(FA型)」を推奨する傾向があります(出典:中小企業庁『中小M&Aハンドブック』)。
たとえば、ある地方の建設会社が後継者不在により事業売却を考えていたケースで、仲介業者が売り手・買い手両方と契約。売り手は「従業員の雇用継続と企業名の維持」を強く希望していたが、買い手はコスト削減を前提とした吸収合併を想定していたため、調整が難航しました。最終的に、仲介業者は買い手の条件を優先し、売り手が納得できないまま契約が成立してしまったという例があります。
このような事態を避けるためには、仲介業者に「誰の立場で支援しているのか」を明確に確認し、可能であればFA(専属アドバイザー)型を検討するのも有効です。
成功報酬の構造に関する注意点
M&A支援においては、仲介でもFAでも「成功報酬」が基本となりますが、その仕組みを正しく理解していないと、思わぬ費用が発生するリスクがあります。多くの場合、成功報酬は「レーマン方式」と呼ばれる段階的な報酬率で計算されます。
譲渡金額 | 報酬率(目安) |
---|---|
5億円以下の部分 | 5% |
5億円超〜10億円以下の部分 | 4% |
10億円超〜50億円以下の部分 | 3% |
このレーマン方式は一見シンプルに見えますが、注意すべきは「最低報酬(ミニマムフィー)」の存在です。たとえば、成約金額が1億円未満でも、最低500万円の成功報酬が設定されていることもあります。また、仲介業者によっては着手金や中間金(中間合意で発生)を設定している場合もあるため、事前に契約内容をよく確認することが必要です。
ある飲食業のM&A事例では、譲渡価格3,000万円に対し、報酬規定にあった最低報酬600万円が発生。経営者は「成果に対して高すぎる」と不満を抱きましたが、契約上は明記されていたため、支払わざるを得ませんでした。
このようなリスクを防ぐためには、以下の点に注意することが重要です。
- 報酬の計算方法を契約前に確認する
- 最低報酬の有無・金額を明示してもらう
- 途中で解約した場合の料金発生条件を確認する
担当者の経験・力量に依存しやすいリスク
M&A支援は業者のブランドだけでなく、実際に担当する個人の力量によって結果が大きく変わる専門性の高い分野です。とくに中小企業の場合、財務や法務が整理されていないことも多く、実務を主導する担当者のスキルが問われます。
一方で、M&A業界には業者間でスキルのバラツキが大きいという課題もあります。実績の少ない若手や、業界経験が浅い担当者がいきなり案件を任されるケースも少なくありません。
たとえば、初回の打ち合わせで「表面的な質問しかされない」「用語の説明があいまい」「こちらの希望が伝わっていない」と感じた場合、その担当者の実力には疑問を持ったほうがよいでしょう。
逆に、以下のような対応があれば安心材料になります。
- 過去の案件を具体的に説明できる
- 質問に対し、明確かつ論理的な回答がある
- 初回から将来のスケジュールを具体的に提示してくれる
業者選びにおいては、「会社」よりも「担当者」の信頼性を重視すべきケースが多いのです。
サポート体制や情報開示の透明性
M&Aは非常に多くの情報と工程を含む取引です。相手先企業の財務状況や意向、交渉の進捗状況など、タイムリーかつ正確な情報を把握できるかどうかが、売却側の意思決定に大きく影響します。
しかし、一部の仲介業者では「買い手候補の情報を十分に開示しない」「交渉の内容を一部しか伝えない」など、情報の出し惜しみや曖昧な対応が問題となることがあります。
たとえば、A社が仲介会社に依頼して買い手を探していたところ、担当者が「適任の買い手がいます」と言って一社だけを紹介。しかし実際には他にも複数の問い合わせがあったことが後で判明し、「なぜ選択肢を与えてくれなかったのか」と不信感につながったケースもありました。
このような問題を防ぐためには、以下のような点に注目しましょう。
- 紹介候補は複数提示されているか
- 買い手との面談の準備内容や事前情報が十分か
- 進捗状況について定期的な報告があるか
情報開示が不十分な業者には要注意です。M&Aの主導権を売り手がしっかり持つことが、納得できる結果を得るためのカギとなります。
まとめ
M&Aを進める上で、仲介やFAの選択には「信頼できる体制・人材・契約内容」が欠かせません。利益相反の可能性、報酬構造の理解不足、担当者の力量差、情報開示の姿勢など、多くのリスクが潜んでいます。
これらの注意点を理解し、事前にきちんと確認を重ねることで、後悔のないM&Aを実現することができます。支援者選びは、価格交渉や契約書以上に重要な「目に見えない成功の条件」なのです。
6.M&Aの進め方と支援内容の流れ
検討段階からの相談の重要性
M&Aは会社の将来を大きく左右する重大な決断です。そのため、検討段階から専門家に相談することが非常に重要です。M&Aというと「会社を売る」と決断してから相談するイメージがあるかもしれませんが、実はそれでは遅い場合もあります。早期に専門家と話をすることで、会社の状態を整える時間が生まれ、有利な条件で売却できる可能性が高まります。
中小企業庁も「早期相談」を強く推奨しており、『中小M&Aガイドライン』では、検討段階から支援機関に相談することで「売却可能性の判断」「準備の方向性の確認」ができるとされています。
たとえば、飲食業を営むある経営者が高齢を理由に引退を検討していたとします。彼が「3年後に会社を売りたい」と相談した場合、専門家はまず経営状況や財務資料を確認し、売却に向けての準備をアドバイスします。このように余裕をもって相談すれば、財務改善・収益の安定・人材の整理といった“売れる会社づくり”が可能になります。
以下のような相談内容が、検討段階から可能です。
- 自社がM&A市場でどのくらいの価値があるか
- 売却を成功させるための準備事項
- 売却先に望む条件の整理(雇用・名称維持など)
案件磨き上げ(FAが担うブラッシュアップ)
FA(ファイナンシャル・アドバイザー)がM&A支援で特に力を入れるのが「案件の磨き上げ」です。これは、会社の価値をより高く、より魅力的に見せるための準備作業のことを指します。単に「決算書をまとめて渡す」のではなく、「どのように説明すれば買い手が魅力を感じるか」を戦略的に設計していきます。
具体的には、以下のような取り組みが含まれます。
- 企業価値評価(バリュエーション)の実施
- 中長期の成長戦略や強みの整理
- 買い手向け説明資料(IM:インフォメーション・メモランダム)の作成
- 経営者の想いや従業員への配慮の表現
たとえば、あるクリニックの譲渡案件では、医師個人の技術に依存しているように見えましたが、FAが過去の患者データ・口コミ・スタッフの教育制度を整理し、「再現性があり、安定収益が望める事業」として見せることで、希望価格を上回る成約に成功しました。
このような磨き上げがあることで、単なる数字上の価値だけでなく、企業の“見えない魅力”も買い手に伝わり、結果的により良い条件での交渉が可能になります。
クロージングまでの一般的な流れ
M&Aのプロセスは、以下のような段階を経て進行します。どのフェーズでも、仲介やFAの支援内容は異なりますが、流れを理解することで安心して進めることができます。
フェーズ | 内容 | 関与者 |
---|---|---|
1. 初期相談 | 売却の意向確認、市場価値の仮評価 | FAまたは仲介 |
2. 契約締結 | 仲介契約・FA契約の締結 | 当事者+専門家 |
3. 資料準備 | 企業概要資料やIMの作成 | FA中心に支援 |
4. 買い手探索 | 候補企業のリストアップ・打診 | FAまたは仲介 |
5. 面談・交渉 | トップ面談、条件提示、価格交渉 | FAまたは仲介 |
6. 基本合意 | 条件の大枠を合意し覚書締結 | 当事者+弁護士 |
7. デューデリジェンス | 買い手による詳細調査 | 公認会計士、税理士など |
8. 最終契約 | 譲渡契約の締結、クロージング | 当事者+専門家 |
このように、M&Aは単なる売買ではなく、「準備→提案→交渉→契約→引継ぎ」という多段階のプロセスを経ます。各ステップで正しい対応を取るためにも、信頼できる専門家と進めることが成功への鍵になります。
まとめ
M&Aを成功に導くには、検討段階からの早めの相談、丁寧な案件の磨き上げ、そして計画的なプロセス管理が欠かせません。特にFAによる支援は、価格だけでなく条件や企業価値の伝え方までサポートしてくれるため、戦略的なM&Aを目指す企業に適しています。
事前の準備がしっかりできているかどうかで、買い手の反応も、交渉力も、大きく変わってきます。焦って決めるのではなく、1つ1つのステップを理解しながら、自社にとって最も良い形のM&Aを実現していきましょう。
7.FA・仲介を提供する主な事業者
専業FA(独立系アドバイザリー)
M&Aにおいて、売り手または買い手の一方に立って支援する「FA(ファイナンシャル・アドバイザー)」は、特定の事業者に限らずさまざまな立場の専門家が提供しています。中でも「専業FA」と呼ばれる独立系のアドバイザリー会社は、M&Aを専門に扱うプロフェッショナル集団であり、特定の金融機関などに属さず、中立的な立場で支援を行うのが特徴です。
専業FAの強みは、売り手の意向に寄り添いながら戦略的な支援ができる点にあります。買い手との交渉では価格だけでなく、「社員の雇用継続」「ブランドの維持」「取引先との関係性」など、多面的な条件交渉をリードしてくれます。
たとえば、成長性のあるWeb制作会社を売却したいと考えている経営者が、今後も社員の雇用や取引先との関係を維持したいという希望を持っていた場合、専業FAはその希望を前提に買い手候補を選定し、条件調整にあたります。価格交渉も、相場や将来性を踏まえた理論に基づき、客観的かつ的確に進めてくれます。
主な専業FAには以下のような企業があります。
- 日本M&Aセンター(M&Aキャピタルパートナーズと経営統合)
- ストライク(証券コード6196)
- オンデック、山田コンサルティンググループなど
これらの会社は、中小企業から上場企業まで幅広い案件に対応し、全国対応のネットワークと豊富な実績を持っているのが特徴です。
証券会社や金融機関
FA業務やM&A仲介を提供しているもう一つの大きな存在が「証券会社」や「銀行」などの金融機関です。これらの機関では、M&Aを含む企業金融(コーポレートファイナンス)の一環として、顧客企業に対してFAサービスを提供しています。
証券会社のFA業務は、特に上場企業や大手企業のM&Aに強みを持っており、企業価値評価や資金調達、株式交換など、複雑なスキームを含む案件にも対応可能です。
一方、地方銀行や信用金庫といった地域金融機関は、地元企業の事業承継や後継者不在問題に対応する形で、仲介・FAのいずれにも対応できる体制を整えつつあります。彼らは地場の情報に精通しており、地域密着型のM&Aにおいては非常に有効な支援者となります。
金融機関が提供するM&A支援の特徴は以下の通りです。
- 資金調達や融資と合わせたトータル支援が可能
- 信頼性・実績があるため安心感が強い
- 機密性が高く、大規模案件にも対応できる
たとえば、ある地方の建設会社が引退に伴い事業売却を検討していた際、取引銀行が仲介役を担い、地元の同業他社とのM&Aを支援。既存の金融関係を活かしてスムーズな交渉が実現しました。
税理士・会計士などの士業系
M&A支援は必ずしも大手の仲介会社やFAに限らず、税理士や会計士といった「士業」も提供しているケースがあります。特に、中小企業の事業承継や親族外承継の相談を日頃から受けている士業は、経営者の意向を理解しやすく、信頼関係を構築しやすいという利点があります。
税理士は、顧問契約を通じて企業の財務や税務状況を深く理解しているため、M&A時のスキーム設計や税務リスクへの対応にも強みがあります。中には、中小企業診断士や行政書士と連携してチームで支援を行っている士業事務所もあり、地域密着型の案件で活躍しています。
また、中小企業庁が推進する「事業承継・引継ぎ支援センター」と連携している士業も多く、一定の信頼性が担保されている点も安心材料となります。
士業系の支援者を活用する際は、以下のポイントを確認するとよいでしょう。
- M&A実績があるかどうか
- 他の専門家(弁護士、FAなど)と連携しているか
- 契約条件や料金体系が明確かどうか
たとえば、顧問税理士の紹介により、後継者がいない小規模運送業者が地域内の同業者にスムーズに譲渡できたという例もあります。このように、日頃の信頼関係を活かしたM&Aは、円滑な承継につながりやすいです。
まとめ
M&Aを成功に導くには、「誰に相談するか」が非常に重要です。FAや仲介業務を提供する事業者には、大手の専業FA、中堅・大手の証券会社や銀行、そして身近な士業まで多様な選択肢があります。
事業者タイプ | 主な特徴 | 向いている企業 |
---|---|---|
専業FA | M&Aに特化、価格や条件交渉に強い | 成長企業、希望条件にこだわりたい場合 |
金融機関 | 資金調達支援、地場ネットワークに強い | 地域密着企業、金融支援も受けたい場合 |
士業(税理士・会計士等) | 経営の実情を把握、信頼関係重視 | 中小企業、顧問士業との関係を活かしたい場合 |
それぞれの特徴を理解し、自社の状況や目的に合った支援者を選ぶことで、納得のいくM&Aを実現することができます。
まとめ
M&Aにおける仲介とFAは、それぞれ異なる立場と役割を持ち、取引の性質や売り手のニーズによって適切な支援者が変わります。特に中小企業のM&Aでは、信頼できる事業者選びが結果を大きく左右します。報酬体系や業務範囲、担当者の力量を見極め、自社に合った支援を受けることが、後悔のないM&A成功への第一歩です。
- 仲介とFAは立場が異なる
- 目的により適した選択が重要
- 事業者ごとの特徴を理解する
- 報酬体系と支援内容を確認
- 信頼できる担当者が鍵を握る
詳しく知りたい方は、ぜひアーク・パートナーズまでお問い合わせください。
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