M&A仲介は仲介会社の規模ではなくアドバイザーの質が一番大事という話
「M&A仲介会社ってどこに依頼すればいいの?」「大手の方が安心なのか、それとも担当者で選ぶべきか…」
そんなお悩みを抱える経営者の方へ。本記事では、「M&Aを任せるなら仲介会社の規模ではなくアドバイザーの質が何より重要」である理由を、現場のリアルを交えて解説します。
中小企業のM&Aは、誰に任せるかで結果が大きく変わります。誤った選択で大切な会社を損なわないために、ぜひ本記事をお役立てください。
■この記事を読むと得られる3つのこと
- M&A仲介会社の正しい選び方がわかる
- 手数料の仕組みと注意点が理解できる
- 「買手います営業」の見極め方がわかる
■本記事の信頼性
筆者はM&Aアドバイザー歴10年以上。200件以上の成約実績を持ち、中小企業庁登録の支援機関として、信頼性・誠実性・専門性・スピードを重視した支援を行っております。
記事を読み終える頃には、「この人に任せよう」と自信を持って判断できる目線が身についているはずです。あなたのM&Aを後悔のないものにするために、ぜひ最後までご覧ください。
1.M&A仲介会社はどう選ぶ?最初に知るべき前提
M&Aを成功させるためには、どの仲介会社に依頼するかが非常に重要です。しかし多くの経営者にとって、M&Aは人生で一度あるかないかの経験であり、判断材料が乏しいまま仲介会社を選ばなければならないという現実があります。特にインターネットやDM(ダイレクトメール)には「大手」「上場企業」「実績多数」など、派手なフレーズが並びますが、それらが本当に信頼できる指標であるとは限りません。
まず理解しておきたいのは、M&A仲介における「成功」とは単なる成約ではなく、売手・買手の双方が納得した条件で合意し、譲渡後も関係者が満足している状態を指すということです。つまり、単に「話がまとまった」だけでは不十分であり、その質が問われるのです。
では、どのような基準で仲介会社を選ぶべきなのでしょうか?その答えは「会社の規模やブランド」ではなく、「実際に担当するアドバイザーの質」にあります。
仲介会社の規模と実績に惑わされないために
近年、上場しているM&A仲介会社が増え、実績件数の多さを強調する会社も目立ちます。確かに一定の信頼性はあるかもしれませんが、それが必ずしも「あなたの会社にとっての最良の選択」であるとは限りません。実績件数が多いからといって、すべての案件で質の高いサービスが提供されているとは限らず、むしろ新人アドバイザーに案件が任されるケースも少なくありません。
たとえば、2021年に中小企業庁が発表した「中小M&Aガイドライン」では、以下のような課題が指摘されています:
- 成約件数の多さをアピールしている仲介会社が、実際は「成功報酬型」のみで案件の質を問わず数をこなしているだけの可能性がある
- 大手であっても、成約率が高いとは限らず、途中で放置されるケースも報告されている
- 専任契約を結ばされた後に、数ヶ月間全く動きがないという不満の声も散見される
このように、見かけの安心感にとらわれず、個別にアドバイザーの経歴や対応力を見ることが必要です。
見るべきは「アドバイザーの質と相性」
実際のM&Aプロセスでは、アドバイザーが以下のような役割を担います:
- 売手企業の強みや懸念点を的確に把握し、戦略的に買手候補を選定・交渉する
- 感情的になりがちな当事者間を調整し、冷静に合意形成を導く
- 財務・法務・税務・労務など、幅広い観点から問題点を洗い出し、対応策を講じる
つまり、どれだけ優れた会社に所属していても、担当者が未経験者や営業志向の強い人物であれば、取引は不安定になりかねません。
筆者がこれまでに対応した200件以上のM&Aのうち、特にスムーズに進んだ案件では、担当アドバイザーが次のような資質を備えていました:
- ヒアリング力が高く、経営者の想いを深く理解しようとする
- 場面ごとに適切な選択肢を提案できる応用力がある
- 法務・会計などの知識があり、士業と連携して全体をマネジメントできる
反対に、うまくいかなかった案件では、以下のようなケースがありました:
- 担当者が一方的に進行を急ぎ、売手の意思を十分に汲み取らなかった
- 初回の買手面談に適さない候補をアサインし、破談に至った
- 交渉中に当事者の感情に配慮せず、信頼関係が崩壊した
選び方の実例:信頼できるアドバイザーをどう見抜くか
実際に仲介会社を比較検討する際には、以下のポイントを質問・確認してみてください。
確認ポイント | 見るべき観点 |
---|---|
アドバイザーのM&A支援実績 | 過去の成約件数、業種・規模の対応経験 |
担当者の経歴や専門分野 | 金融、会計、法務、人材業界などのバックグラウンド |
初回相談での受け答え | こちらの話をよく聞き、的確な質問を投げかけるか |
具体的な提案や選定方針 | ターゲット企業の候補理由に具体性があるか |
これらの点を比較することで、「会社としてのブランド」ではなく「誰が担当するか」を重視する視点が持てるようになります。
まずは“人”を選ぶという視点を持つ
ここまで見てきたように、M&A仲介会社選びで最も重要なのは「担当アドバイザーの質」と「あなたとの相性」です。中小企業のM&Aは、定型的なプロセスで進められるものではなく、感情や信頼関係が強く影響する意思決定の連続です。
たとえ大手の仲介会社であっても、実際に担当する人物がどんな人かによって、M&Aの行方は大きく左右されます。だからこそ、最初の一歩である「どこに相談するか」は、組織の規模よりも“誰が動くのか”に注目することが不可欠です。
本記事では今後も、信頼できる仲介会社やアドバイザーを見抜くための具体的な視点を解説していきますので、引き続きご覧ください。
2.規模より大事なのは「担当コンサルタントの質」
2.1 優秀なコンサルタントの特徴とは
M&Aを成功に導くには、仲介会社の規模よりも「誰が担当するか」が極めて重要です。特に中小企業のM&Aにおいては、定型的な手続きだけでは進まず、感情面や細かな配慮が問われる局面も多く発生します。そのため、単なるM&Aの知識だけでなく、総合的な判断力と実行力を持つコンサルタントの存在が不可欠です。
優秀なコンサルタントの特徴には、以下のような要素が挙げられます。
- 経営者の意図を正確にヒアリングする力
- 案件に応じて柔軟にスキームを構築できる構想力
- 交渉力と調整力を備え、買手・売手双方と信頼関係を築ける人間性
- 必要に応じて専門家(弁護士、公認会計士など)をアレンジできるマネジメント力
中小企業庁が公開している「中小M&Aガイドライン(2020年版)」でも、コンサルタントの役割について以下のように明記されています:
M&A支援者は、取引の実行主体ではなく、あくまで当事者の意思決定を支える「伴走者」であるべきであり、信頼関係を損なわない中立性と高い専門性が求められる。
これはつまり、コンサルタントの質が成約の成否のみならず、譲渡後の円滑な事業承継にまで影響を与えるということを意味しています。
2.2 避けるべきコンサルタントの共通点
一方で、避けるべきコンサルタントにもいくつかの典型的な特徴があります。これらに該当するアドバイザーに依頼すると、M&Aが思わぬトラブルや破談に至るリスクが高まります。
注意すべきコンサルタントの共通点は以下の通りです。
- ヒアリングよりも「自分の経験」を前面に出す
- やたらと自信満々で、「全部任せてください」が口癖
- 買手企業の選定理由が曖昧またはビッグネーム頼り
- 売手の意向よりも「早く成約する」ことを優先しがち
- 買手側の会計士や弁護士とトラブルを起こしがち
たとえば筆者が過去に支援した案件で、担当を交代したケースがありました。そのアドバイザーは、「私の感覚ではこの条件が妥当です」と売手の意見を十分に聞かず、買手との交渉でも強気に出すぎた結果、買手側の顧問弁護士との関係が悪化し、交渉自体が頓挫してしまったのです。
このような事態を避けるためには、初回相談時のやりとりから「聞く姿勢」や「論理性」を見極めることが大切です。
2.3 経験や共感性がなぜ重要なのか
中小企業のM&Aでは、企業価値の算定やスキーム構築といったテクニカルな要素以上に、「売手の思い」や「買手の文化」といったソフトな要素が取引の成否を左右します。そうした背景から、経験と共感力を併せ持つアドバイザーこそが最も信頼できる存在です。
経験が豊富なアドバイザーは、以下のような場面で力を発揮します:
- 買手候補の企業文化や事業ポートフォリオを考慮したマッチング
- 感情的な対立が生じた際の第三者的な調整
- 契約書や表明保証の文言などで不安が出たときの冷静な対応
また、共感性が高いアドバイザーは、経営者の言葉にならない想いを汲み取り、的確に買手側へ伝えることで、譲渡後の関係性まで考慮した提案が可能です。これは機械的な手続きだけでは絶対に実現できない、まさに人間力による価値提供といえます。
実際、筆者が成約までサポートしたある地方の製造業のケースでは、売手経営者が「従業員の雇用と社風を残してくれる会社でないと譲渡しない」と明言していました。この思いをくみ取り、単に金額条件だけでなく、現場の見学やトップ面談を重ねた結果、最終的に地域密着型で従業員の定着率が高い企業とのマッチングに成功しました。
このように、アドバイザーの「人間力」がなければ実現し得なかった成約事例は数多くあります。
まとめ:見るべきは「会社」ではなく「人」
M&A仲介会社を選ぶ際に「会社の知名度」や「規模感」に目が行きがちですが、最も大事なのは「誰が担当するか」です。優秀なコンサルタントは、案件を型に当てはめるのではなく、売手・買手それぞれの意向や状況に応じた柔軟な対応ができ、かつ高い専門性と共感力を持ち合わせています。
逆に、聞く耳を持たない、自信過剰、型にはめた進行を好むアドバイザーに当たってしまうと、交渉の途中で破談に至るだけでなく、売手側の精神的な負担も大きくなります。
したがって、M&Aの第一歩として仲介会社を選ぶときは、「この人に任せたい」と思えるアドバイザーかどうかを、自身の目で確かめる姿勢が大切です。
3.仲介会社の実績や規模が“あてにならない”理由
M&A仲介会社を選ぶ際に、実績件数の多さや企業規模に目を奪われがちですが、それらが必ずしも「良い仲介会社」の証とは限りません。むしろ、表面的な数字に惑わされて選んでしまうと、後悔する可能性が高くなります。特に中小企業のM&Aにおいては、規模やブランドではなく、案件ごとの対応力やアドバイザーの質が何より重要です。
見かけの数字だけで判断すると危険な理由
多くの仲介会社が「年間成約件数〇〇件」「上場企業グループ」などの実績をアピールしますが、これらの数字の裏にはさまざまなカラクリがあります。実績数が多いというのは一見魅力的に映るものの、その中身を精査すると、以下のような注意点が見えてきます。
- 小規模案件や親族間承継など、成約率が高く難易度の低い案件を含んでいる
- 途中で破談になった案件や、アドバイザリーの形だけでほとんど機能していない案件もカウントされている
- 案件をこなすことが優先され、個々の対応が雑になっている可能性がある
中小企業庁が発行している「中小M&Aガイドライン(2020年3月)」でも、「案件数至上主義」に警鐘が鳴らされています。同ガイドラインには以下のような記述があります:
成約件数や取扱案件数など、量的な実績を過度に強調する仲介業者があるが、これらの数値は支援の質を必ずしも保証するものではない。特に中小企業においては、経営者の意向や組織文化に応じた柔軟な対応が求められるため、量よりも質を重視すべきである。
つまり、仲介会社の「大きさ」や「多さ」は、そのまま「安心」や「高品質」にはつながらないのです。
数字が多くても、担当者が未熟なケースがある
近年では、大手のM&A仲介会社が新卒や異業種からの中途採用を大量に行っており、経験の浅いアドバイザーが数多く現場に投入されています。企業としての実績がどれほど豊富でも、あなたの案件を担当するのが未経験に近いアドバイザーであれば、取引の質は大きく下がる恐れがあります。
以下は、実際に筆者の元に相談があった事例です。
- 「大手の仲介会社に任せたが、担当者が毎回違う人に変わる」
- 「面談での提案内容が的外れで、こちらの希望を理解していなかった」
- 「買手候補の選定理由が曖昧で、『とりあえず有名企業に声をかけましょう』と言われた」
このように、仲介会社のネームバリューを信じて任せた結果、現場対応の稚拙さに不安を感じ、乗り換えを検討する経営者は少なくありません。特に中小企業では、経営者の想いや従業員の雇用維持など「定量化できない要素」が重要視されるため、型通りの対応ではうまくいかないのです。
実績を見極めるためにチェックすべきポイント
とはいえ、仲介会社の選定時にまったく実績を見ないわけにもいきません。重要なのは、表面上の「件数」ではなく、その中身と再現性です。以下の表に、チェックすべきポイントを整理しました。
確認項目 | 見るべき視点 |
---|---|
実績件数の内容 | 同業種・同規模の案件に強いか |
成約後の対応 | 譲渡後の経営引継ぎ・PMI支援があるか |
担当アドバイザーの実績 | 企業としての実績ではなく“人”の実績を確認 |
顧客の声・口コミ | 対応の丁寧さや柔軟さが評価されているか |
このように、数字だけに惑わされず、実際の対応レベルを測る指標を持つことが大切です。
中堅・小規模の仲介会社が良い選択になることも
実は、規模の小さいM&A仲介会社や専門性の高いFA(フィナンシャルアドバイザー)事務所の方が、柔軟かつ丁寧な支援を行ってくれるケースも多く存在します。特に以下のような特徴を持つ中小仲介会社は、誠実に寄り添ってくれる可能性が高いです。
- 代表者が現場に出て対応してくれる
- 初回相談から具体的なスキーム提案がある
- 成功報酬の仕組みが明瞭で、途中放棄されない
- 売手企業の想いを汲み取る姿勢がある
もちろん、すべての中小仲介会社が優れているわけではありませんが、「大手だから安心」「実績が多いから信頼できる」といった判断基準だけでは、あなたの大切な会社を安心して託すことはできません。
まとめ:実績や規模より“中身と人”を見る
M&A仲介会社の選定において、実績件数や会社の規模だけに頼るのは非常に危険です。数字の多さが支援の質を保証するわけではなく、むしろ実績至上主義の風潮が現場対応を粗雑にしている側面すらあります。
大切なのは、どのような案件で実績を積んできたのか、そして誰があなたの会社を担当してくれるのかという「中身と人」をしっかりと見極めることです。数字の裏側を読み解く視点を持つことが、後悔しないM&Aにつながります。
4.手数料の落とし穴に注意!報酬体系のチェックポイント
4.1 レーマン方式の正しい見方
M&A仲介の手数料は、基本的に「レーマン方式」という計算ルールに基づいて設定されています。これは、取引金額に応じて一定のパーセンテージを掛けて手数料を算出する方式で、もともとは証券取引における手数料計算から派生したものです。
しかし、ここで注意すべきは、同じ「レーマン方式」と言っていても、仲介会社ごとにその「対象となる金額」や「計算方法」がまちまちだということです。つまり、一見同じように見える手数料でも、実際に支払う金額は会社によって大きく異なる可能性があるのです。
以下に、一般的なレーマン方式の料率例を示します。
取引金額の階層 | 手数料率 |
---|---|
5億円以下の部分 | 5% |
5億円超~10億円以下の部分 | 4% |
10億円超~50億円以下の部分 | 3% |
50億円超~100億円以下の部分 | 2% |
100億円超の部分 | 1% |
ところが、実際のM&A仲介では、この「何に対してパーセンテージをかけるか」が会社ごとに異なります。例えば:
- 株式譲渡金額を基準にする会社
- 企業価値(負債+株式価値)を基準にする会社
- 純資産額や移動資産総額を対象にする会社
これらの違いにより、実質的に数百万円~数千万円もの差が出ることも珍しくありません。したがって、「レーマン方式を採用しているから安心」とは言えず、必ず「対象金額の定義」まで確認することが重要です。
4.2 最低報酬の相場と裏事情
レーマン方式に加えて、ほぼすべての仲介会社が設定しているのが「最低報酬(ミニマムフィー)」です。これは、取引金額がいくらであろうと、必ず請求される最低額を意味します。
以下は、一般的な仲介会社の最低報酬額の例です。
仲介会社の規模 | 最低報酬の目安 |
---|---|
大手・上場仲介会社 | 2,000万円~3,000万円 |
中堅仲介会社 | 800万円~1,500万円 |
専門特化型・個人系FA | 300万円~800万円 |
中小企業庁が公表している「中小M&Aガイドライン(2020年3月)」でも、以下のように報酬額の開示と透明性の確保が推奨されています。
M&A支援事業者は、契約締結前に必ず手数料体系を明示し、説明責任を果たすべきである。また、報酬の算出基準、最低報酬の設定有無、解除時のペナルティ等についても、事前に明確化することが望ましい。
このように、契約前に「最低報酬がいくらか」「成功報酬とどう連動するか」を必ず確認し、数社を比較して適正な水準を見極めることが肝心です。
4.3 コンサルタント報酬インセンティブの仕組み
M&A仲介業界では、担当コンサルタントに対して「成功報酬の一定割合」がインセンティブとして支給されるのが一般的です。つまり、案件が成約すると、仲介会社だけでなく担当者個人にも成果報酬が入る仕組みになっています。
たとえば、1件あたりの手数料が4,000万円だった場合、10~20%(400万~800万円)がアドバイザー個人に支払われるケースもあります。これにより、「なんとしてでも成約させたい」という心理が働きやすくなります。
この構造が悪く働くと、以下のような事態を招くリスクもあります。
- 売手・買手の意向よりも「早期成約」を優先される
- 売手に不利な条件でも強引に押し切ろうとする
- 本来断るべき買手でも、「買手候補リストに載せて打診する」だけで着手金や中間報酬を取る動きが出る
一方で、インセンティブ制度があっても、企業としてのモラルや透明な社内評価制度が整っている会社であれば、大きな問題にはなりにくいとも言えます。重要なのは、アドバイザー個人任せではなく、組織としてガバナンスが効いているかどうかです。
比較すべきチェックリスト
最後に、M&A仲介会社の手数料を比較・判断するためのチェックポイントを以下にまとめます。
- レーマン方式の「対象金額」が明示されているか
- 最低報酬額の明示と説明があるか
- 中間報酬・着手金の有無とタイミング
- インセンティブ制度が過度な成約圧力を生んでいないか
- 複数社で見積を取り、同条件で比較しているか
これらを踏まえて、単純な「料率」だけでなく、手数料全体の仕組みや考え方を理解した上で、信頼できる仲介会社と契約を結ぶことが、中小企業M&Aにおける最初の重要な判断です。
5.「買手います」営業は信じていいのか?
5.1 紹介できる買手がいることの意味
M&A仲介会社から「買いたい企業がいます」「資本提携を希望しています」というDM(ダイレクトメール)や営業連絡を受けたことのある方も多いのではないでしょうか。一見すると具体的な買手候補がすでに存在しているように思えるため、魅力的に感じるかもしれません。しかし、こうしたメッセージの多くは、実際には確定した買手の存在を示すものではありません。
このような営業手法の裏側には、まず売手の関心を引き、面談やアドバイザリー契約に持ち込む意図があります。つまり、「買手がいる」という表現は、あくまで“打診可能な候補がいる”という程度であり、売手企業の情報を精査して本気で検討している買手がすでに存在するとは限らないのです。
中小企業庁が公表した「中小M&Aガイドライン」でも、以下のような注意喚起がなされています。
売手企業の不安や焦りに付け込むような「買手がいます営業」は、誤解を招く表現であり、契約誘導型のリスクがある。契約前には、買手候補の意図・段階・関心レベルを明示することが望ましい。
つまり、こうした営業文句を鵜呑みにせず、「なぜその買手が自社を検討しているのか?」という論理的な裏付けを丁寧に確認することが重要です。
5.2 買手企業選定に必要な“センス”とは
本当に信頼できる仲介アドバイザーは、買手候補の企業選定において「業界」「資本力」「シナジー性」などを慎重に分析し、売手企業に最適な相手を提示してくれます。ここで重要になるのが「選定センス」です。
買手候補を挙げる際に、単に大企業や知名度の高い企業の名前を並べるだけのアドバイザーは要注意です。たとえば、「飲食店を売却したいという相談に対して、とりあえずすかいらーくに当たりましょう」などという提案は、あまりに雑で現実味がありません。
優れたアドバイザーであれば、以下のような観点から買手候補を選定します。
- 買手企業の中期経営計画におけるM&A戦略の有無
- 直近のM&A実績や投資スタンス
- 業界内での競争環境・立ち位置
- 売手企業との人材・設備・地域などの補完関係
実際、筆者が支援したある案件では、売手企業が地方の建設系企業だったのに対し、買手候補として挙がったのは業界紙には載っていない地場ゼネコン。アドバイザーはその企業の財務状況や直近の施工エリア拡大方針を把握しており、最終的に好条件で成約に至りました。
このように、“買手企業を知っている”だけでなく、“なぜ今この買手が最適か”まで提案できるかどうかが、選定センスの違いです。
5.3 セールストークに騙されないために
「買手がいる」と言われたときに、売手側がまずすべきことは、その発言の裏にある根拠を丁寧に聞き出すことです。以下のような質問を投げかけることで、そのアドバイザーの本気度と誠実さを見極めることができます。
- その買手企業が、なぜうちの会社に興味を持っているのか?
- いつ・どのような経路でその話が出たのか?
- 買手側はどの段階まで具体的に進んでいるのか?
- 他にも似たような案件に打診しているのではないか?
加えて、過去の買手紹介実績や、実際にどのような企業と成約に至ったかを具体的に尋ねるのも有効です。経験豊富なアドバイザーであれば、成功事例や失敗事例をもとにリアルな話ができるはずです。
また、営業トークとして「買手がいる」と言っていたにもかかわらず、契約後には一切買手候補の紹介がなく、結果的に放置されてしまったというケースも存在します。このようなトラブルを防ぐためには、事前に以下のような契約条件を確認することが重要です。
契約内容 | 確認すべきポイント |
---|---|
着手金・中間報酬の有無 | 成果がない場合でも費用が発生するか |
契約期間の長さ | 過度に長期で縛られていないか |
買手紹介の義務 | 具体的な買手提案の回数や条件が記載されているか |
契約解除の条件 | 放置された場合に途中解除が可能か |
このように、「買手います営業」は、適切に対処すれば有益な出会いにつながることもありますが、判断を誤ると余計な時間とコストを浪費する原因にもなります。
まとめ:営業トークを“見極める力”がカギ
「買手がいます」という営業文句は、M&A仲介会社が売手企業の関心を引くためによく使う手法ですが、その内容を鵜呑みにするのは危険です。実際に検討段階に入っている買手がいるのか、なぜその買手が自社にマッチすると判断しているのか、などの根拠を明確に確認することが不可欠です。
買手紹介の質は、アドバイザーの経験値や業界理解度、そして何より「誠実さ」によって大きく左右されます。表面的なトークに惑わされず、具体性と根拠を重視して対応することで、安心して進められるM&Aを実現しましょう。
6.最後の判断基準は「この人に任せたい」と思えるかどうか
M&A仲介会社を選ぶ際に、数ある候補の中から最終的に「ここに任せよう」と決断する瞬間が必ず訪れます。そのときの決め手として最も信頼できるのは、スペックでも実績でもなく、目の前の担当者に対して「この人なら任せられる」と思えるかどうか、つまり人としての信頼感です。
これは感覚的な話ではありますが、多くの経営者が最終判断において重視しているのは、「この人と一緒に進めていけば大丈夫そうだ」という安心感です。そしてこの直感は、実は経験や観察に基づいた正しい判断であることが多いのです。
担当者の言動や姿勢が信頼を左右する
信頼できるアドバイザーは、必ずしも口が達者だったり、知識が豊富だったりするとは限りません。それよりも以下のような人間的な姿勢が、安心して任せられるかどうかの判断材料になります。
- こちらの話を遮らず、最後まできちんと聞いてくれる
- 都合の悪いことも隠さず正直に説明する
- 分からないことはその場で断言せず、後日正確な回答をくれる
- 書類や連絡が早く、整理された状態で提示される
- 自社の意向に共感を示し、売手の立場に立ってくれる
たとえば、ある案件で筆者が担当した売手企業の社長は、こう語っていました。「最初に相談した時点で、提案内容よりも『とてもよく話を聞いてくれた』という印象が残った。こちらの考えを引き出してくれる人だったから、安心して進められた」と。つまり、相手を尊重し、主導権を与える姿勢にこそ信頼が宿るのです。
共感性と誠実さが決め手になる理由
中小企業のM&Aでは、売却の背景に家業の継承問題、従業員の将来、地域との関係性など、金額では測れない想いが関係していることが多くあります。そのため、共感力のあるアドバイザーこそが最適な伴走者となります。
共感性とは、単に「大変ですね」と口にすることではなく、以下のような具体的な行動として表れます。
- 企業文化や経営者の信念を言語化してくれる
- 金額以外の希望条件を丁寧に整理してくれる
- 交渉の場で売手の立場を尊重して発言してくれる
- 譲渡後の組織体制や従業員処遇まで視野に入れた提案ができる
また、誠実さは契約時や交渉時に顕著に現れます。たとえば「この条件で妥協すべきか迷っている」と相談したときに、「早く成約しましょう」と押してくるのではなく、「この条件が本当に会社の将来のためになるか、もう少し整理してみましょう」と時間を惜しまない姿勢を見せる人は、まさに信頼に値します。
形式より“温度感”が伝わるかが重要
M&Aは書面やデータで進む手続きである一方、人間同士の信頼関係がすべてを左右するプロセスでもあります。したがって、最終的なアドバイザー選びでは、以下のような感覚を大切にしてください。
比較項目 | 見極めるポイント |
---|---|
話のテンポや語調 | こちらの話に合わせてくれているか |
提案資料の内容 | 自社の状況をきちんと理解した上で構成されているか |
連絡頻度と対応スピード | こちらの不安や質問にすぐ対応してくれるか |
初回面談後の印象 | 「またこの人と会いたい」と思えるか |
これらはすべて、M&Aの本番に入ったときに問題なく進行できるかどうかの試金石となる要素です。事前に少しでも違和感があるなら、それは大きなサインと捉えるべきです。
案件の規模や条件より、「人」が最終成果を左右する
筆者がこれまで携わった200件以上の案件の中で、印象的だったのは、金額や会社規模が平均的な案件でも、「本当に信頼できるアドバイザーに出会えたことが成功の要因だった」と感謝されるケースが非常に多いことです。
逆に、知名度の高い仲介会社に依頼しても、担当者との相性が悪く、途中で契約を解除したという相談も少なくありませんでした。
これらの事例からもわかるように、最終的にM&Aを「後悔のない選択」にできるかどうかは、「この人に任せたい」と心から思えるアドバイザーを選べたかにかかっています。
まとめ:心が納得するかが、最大の判断基準
仲介会社選びの終盤において、数字や実績、条件といった客観的な要素を超えて、「この担当者となら安心して一緒に進められる」と思えるかどうかが、もっとも重要な判断ポイントになります。
誠実に向き合ってくれるか、こちらの話をちゃんと聞いてくれるか、不安なときに支えてくれるか。そうした“人としての信頼”が、結果としてM&Aの成否を分ける大きな要因となるのです。
7.仲介会社選びで後悔しないためのチェックリスト
M&Aは経営者にとって一世一代の意思決定です。その重要な場面で、仲介会社の選定を誤ってしまうと、後戻りできない損失を被ることになります。「もっと慎重に選べばよかった」「早く気づいていれば…」と後悔しないためにも、事前のチェックポイントを明確にしておくことが非常に重要です。
これまでに筆者が200件以上のM&Aに関与してきた中でも、「仲介会社の選定ミス」が原因で成約が遅れたり、破談に至ったケースを何度も見てきました。そこで、ここでは中小企業の経営者が安心して仲介会社と契約を結ぶために、最低限確認しておきたい観点をチェックリスト形式でご紹介します。
信頼できる仲介会社・アドバイザーを見極めるためのポイント
チェック項目 | 確認のポイント |
---|---|
担当者の実績・経験 | 同業界・同規模の支援実績があるか、具体的な件数と内容を確認 |
初回面談の姿勢 | 一方的に話すのではなく、丁寧にヒアリングしてくれるか |
報酬体系の透明性 | レーマン方式の計算対象や最低報酬、中間報酬が明記されているか |
買手企業の提案力 | ただのビッグネーム紹介ではなく、なぜマッチするか明確に説明できるか |
レスポンスと対応スピード | メールや電話などの対応が早く、連絡が途切れないか |
契約内容の柔軟性 | 専任・独占契約の期間が適切で、解除条件が明確か |
譲渡後の視点 | PMIや従業員配慮など、成約後も考慮した提案をしてくれるか |
実例:失敗する仲介会社の選び方
筆者が過去に相談を受けたある事業主は、「有名な大手の仲介会社だから安心だと思った」と話していました。しかし実際には、担当者がM&A未経験の新人で、提案された買手も業種が合わない会社ばかり。半年後に成約どころか1件の買手面談すら実現せず、結局契約を打ち切ることになったという事例です。
このようなケースに共通するのは、次のような「勘違い」による判断です。
- 「大手だから安心」
- 「担当者が感じよかったから任せてみよう」
- 「とりあえず進めてみてから考えよう」
M&Aは契約を結んでからが本番です。契約後に後悔しても、簡単には解約できず、違約金が発生したり、情報がすでに買手に出回ってしまうこともあります。そうならないためにも、事前の慎重な見極めが何より重要です。
迷ったときは複数社と比較しよう
仲介会社選びで後悔しないための最大の対策は、「必ず複数社と比較すること」です。少なくとも以下のような点で横並び比較を行うと、明確に違いが見えてきます。
- 担当者の知識・対応の丁寧さ
- 報酬体系の分かりやすさと合理性
- 買手企業の提案精度とマッチ度
- 契約内容の柔軟性と解除条件
比較の過程で「この人に任せたい」と思える担当者に出会えたなら、それは大きな成功です。そのような相手と出会うためにも、最初のアクションとして2〜3社との面談・相談を経てから判断することをおすすめします。
一度の判断が、会社の未来を左右する
M&A仲介会社は、単なる取引の仲介業者ではなく、あなたの会社の未来を左右するパートナーです。その選定は「誰と仕事をするか」という点において、経営人生の中でも極めて重要な選択です。
最終的に、「この人になら任せてもいい」「この会社となら安心して進められる」と思えるかどうかが最大の判断基準となります。経験・信頼・実績、そして誠実さを見極めながら、ぜひ後悔のない選択をしてください。
まとめ
M&Aを成功に導くうえで、本当に大切なのは仲介会社の「規模」ではなく、「誰に任せるか」です。実績数や知名度に惑わされず、目の前のアドバイザーの質と姿勢を見極めましょう。
- 担当者の質で選ぶべき
- 手数料体系を確認する
- 買手紹介の根拠を問う
- 誠実さと共感力を重視
- 契約前に複数社を比較
あなたの会社の未来を託す相手を選ぶには、知識と冷静な判断が必要です。詳しく知りたい方は、ぜひアーク・パートナーズまでお問い合わせください。
