M&A仲介会社からの「買い手います営業」は信頼してよいのか
「御社を買いたい企業がいます」という営業DMや電話を受け取り、戸惑った経験はありませんか?一見魅力的に思えるこの「買い手います営業」ですが、本当に信頼してよいのか、不安を感じている経営者の方も多いはずです。
本記事では、M&Aアドバイザー歴10年以上・成約実績200件超・中小企業庁登録支援機関として活動している筆者が、こうした営業の実態と背景をマーケティング視点から紐解きつつ、読者の疑問や不安を解消していきます。
■本記事で得られる3つのこと
- 「買い手います営業」が横行する理由と業界構造
- 信用できる営業と詐欺まがいの見極め方
- 信頼できるM&A業者を選ぶための具体的な基準
この記事を読み終える頃には、「この業者は信用しても大丈夫か?」という見極めができるようになり、あなたの大切な会社を守るための知識と判断軸が手に入ります。
1.「買手います営業」とは?その基本的な仕組み
「買手います営業」とは、M&A仲介会社が企業オーナーに対して「御社を買いたいという企業がいます」といった文言を使って接触する営業手法のことです。この方法は一見、具体的な買い手が既に存在するように感じさせ、売却を考えていなかった経営者の関心を引きやすい特徴があります。
この営業は、DM(ダイレクトメール)、電話、メール、訪問など様々なチャネルで行われ、近年では企業の問い合わせフォームを通じて自動送信されるケースも増加しています。経営者としては「うちの会社に興味を持つ企業がいるのか」と期待を抱いてしまうかもしれませんが、実際には、その買手情報が実在するかどうかは確認できないことがほとんどです。
では、なぜこのような営業が広まったのでしょうか。背景には、M&A市場の拡大と競争激化があります。中小企業庁の発表によれば、事業承継ニーズの高まりにより、M&A市場は年々活性化しており、登録支援機関の数も右肩上がりに増加しています。
「買手います営業」の目的とは
「買手います営業」は、表面的には売却希望企業に買手を紹介するという善意に見えますが、その真の目的は、以下のような点にあります。
- 売手企業の「顕在ニーズ」を把握し、優先的に仲介契約を獲得すること
- 決算書や企業概要を収集し、自社で扱える案件かどうかを判断すること
- 他社との競合を回避するため、専任契約を結ばせて囲い込むこと
これらの目的から、営業の段階で「買手がいる」と話をすることで、売手の警戒心を緩め、信頼を獲得しやすくなる構造ができあがっています。
実際の営業手法とその仕組み
具体的な「買手います営業」のフローは次のようになります。
営業フロー | 内容 |
---|---|
①ターゲットリストの作成 | 帝国データバンクや商工リサーチなどから企業情報を購入 |
②DM・電話でのアプローチ | 「買手がいます」という営業トークで関心を引く |
③面談・ヒアリング | 決算書や経営状況を入手し、売却可能性を精査 |
④仲介契約の締結 | 専任契約を結び、案件化を図る |
⑤複数の買手に打診 | 当初の「買手」に限らず、他の候補にも紹介 |
このように、「買手います」という言葉は、売却を検討していない経営者の心理に働きかけ、次の行動へと自然に誘導するための強力なトリガーになっているのです。
「買手がいます」は本当なのか?
M&A仲介会社が使う「買手がいます」という文言の多くは、事実であるとは限りません。中には「本当に依頼された買手企業」が存在する場合もありますが、多くは次のようなパターンです。
- 過去に打診したことがある企業を「買手」と表現している
- 業種やエリアの傾向から「興味がありそう」と仮定しているだけ
- まったく存在しない企業を買手としてでっちあげている
実際、中小企業庁が定める「中小M&Aガイドライン」でも、こうした虚偽・誇大広告は問題視されており、ガイドライン遵守を業者に求めています。また、ガイドラインには、契約前に真実性や具体性の説明責任を果たすよう記載されています。
なぜこの営業が効果的なのか
「買手がいます」と言われた経営者は、自社に価値を見出してくれる企業があるという前向きな感情を抱きます。これは心理学でいう「承認欲求」にも近いもので、実際には売却を検討していなかった企業オーナーが、一気に前向きになることも珍しくありません。
さらに、営業トークの中で「決算書がないと買手に説明できません」などと説得されることで、重要な会社情報を仲介会社に預けてしまうケースも多く見られます。これにより、仲介会社は、情報を独占しやすくなり、他の業者が入りづらい環境をつくり出すことができます。
まとめ:仕組みを知って冷静に判断を
「買手います営業」は、表向きには誠実に見えるかもしれませんが、マーケティング視点では「契約獲得のための常套手段」として使われているケースが多くあります。営業の裏にある構造を理解していないと、不利な契約を結ばされたり、企業情報を無断で使われたりするリスクもあります。
そのため、経営者としては「買手がいます」という言葉にすぐ飛びつくのではなく、その情報の信憑性や、営業の背景にある業者の意図をしっかり見極めることが求められます。本当に信頼できるM&A支援を受けるには、営業トークに惑わされず、業者の誠実性や実績、姿勢をしっかり見て判断する目が重要です。
2.M&A業者がこの営業手法を使う理由とは
2.1 顕在ニーズを効率よく拾える
M&A仲介会社が「買手います営業」を積極的に活用する最大の理由は、M&Aに対する「顕在ニーズ」を持つ経営者と効率的に接点を持てるからです。顕在ニーズとは、すでにM&Aに興味や関心を持っている、もしくは「条件が良ければ売ってもよい」と考えている企業オーナーのことを指します。
このような顕在ニーズ層は、M&Aの進行が早く、仲介契約から成約までの期間が短縮される傾向があります。そのため、仲介会社としては時間と工数を無駄にせず、売上の確度が高い案件を取り込みやすいのです。
実際、中小企業庁が公開している「中小M&Aガイドライン」によれば、国内における中小企業の約127万社が今後10年以内に後継者不在で事業承継の必要性に直面する見込みとされています(2020年時点)。この中で実際に「M&Aを検討中」と明言している企業はごく一部に限られるため、「少数の顕在層」を確実に拾うことが営業上重要となるのです。
- 潜在層:まだ売却意思が明確ではない(子どもが継ぐ予定、今は忙しい)
- 顕在層:相手がいればすぐにでも交渉したい(譲渡の方向性が固まっている)
「買手がいます」というアプローチは、こうした顕在層のアンテナに響きやすく、他社より先にアプローチできるという点でも効果的です。反応率の高い層に営業リソースを集中させることで、業務効率も売上も最大化できるのです。
2.2 営業コストが圧倒的に安い
「買手います営業」は、実は非常にローコストで実行できる営業手法です。大手仲介会社では、DM発送、電話営業(テレアポ)、フォーム営業(企業の問い合わせフォームに一斉送信)などが主に活用されています。
これらの方法は、一件あたりのコストが非常に低く、以下のような価格感で実施されています。
営業手法 | 費用感(1件あたり) |
---|---|
DM発送 | 約150〜300円(印刷・封入・郵送代) |
テレアポ | 約100〜150円(1コール) |
フォーム営業 | ほぼゼロ(社内人員が自動送信) |
しかも、ターゲットとなる企業のリストは、帝国データバンクや東京商工リサーチなどから業種や地域を絞って購入することができます。一度購入したリストは何度も使い回すことができるため、費用対効果は極めて高くなります。
つまり、最小限のコストで最大限の反応を得られる「低リスク・高リターン型」の営業が成立するため、多くの業者がこの手法を繰り返し使うのです。
2.3 決算書の回収を狙える構造
M&A業者にとって、売手企業の決算書や経営情報は非常に重要な資料です。なぜなら、実際に案件化できるかどうか、つまり「売れる会社かどうか」を判断するには、財務状態や収益力を把握する必要があるからです。
しかし、通常であれば、いきなり知らない仲介会社に決算書を渡す経営者は少ないはずです。そこを突破するために使われるのが「買手が御社の決算書を見たがっている」というセールストークです。
このように言われると、経営者は「相手が具体的にいるのなら…」と納得しやすくなり、決算書や概要書を渡してしまうケースが多く見られます。もちろん、その買手が本当に実在しているかは確認のしようがありません。
M&A仲介会社からすると、次のようなメリットが生まれます。
- 売却意思が薄い企業でも情報を収集できる
- 案件化できそうなら専任契約に持ち込める
- 他社との比較検討の際に優位性を保てる
この構造によって、決算書の回収は「営業からクロージングまでの重要な布石」として機能しているのです。
2.4 成約相手が変わっても成果にできる仕組み
多くの経営者は「買手がいる=その企業と成約する」と考えがちですが、M&A業者の目的は、最終的な成約を実現することであって、当初提示した買手と成立するかどうかは問題ではないという考え方が一般的です。
実際の現場では、以下のような流れがよくあります。
- 「買手がいます」と営業される
- 実際にはその買手とは交渉が成立しない
- 「他にも買手候補がいます」と複数社に打診
- 最終的にまったく別の買手と成約する
このような流れでも、仲介会社にとっては「成約=報酬発生」なので問題はなく、むしろ買手候補を増やすことで価格競争を演出し、より高額の譲渡価格を引き出す材料に使えることもあります。
そのため、「最初に挙げた買手と成約できなかった=騙された」と感じる経営者もいますが、仲介業者としては「手法として正当」であるというロジックが成り立っています。
この仕組みを知らずに「買手がいるならお願いしてみよう」と軽い気持ちで動いてしまうと、実際は全くの別企業と交渉することになり、最初の話と齟齬が生じるケースも多いのです。
まとめ:合理性があるからこそ広がっている
このように、「買手います営業」は単なる虚偽や誇張ではなく、マーケティング・営業手法として合理性があるために業界内で広く活用されています。効率的に案件を獲得し、コストを抑え、情報を入手しやすくし、最終的には成果報酬を得るという一連の流れが非常に理にかなっているのです。
ただし、この営業手法に内在するリスクや、買手が実在しない可能性、誤解を生む構造について理解せずに対応すると、不信感やトラブルの原因になります。経営者としては、こうした手法の背景を正しく理解し、納得したうえで判断することが、後悔しないM&Aの第一歩といえるでしょう。
3.「買手います営業」がM&A業界にもたらした弊害
3.1 嘘情報による信頼低下と焼き畑営業
「買手がいます」という営業文句の多くが、実在する買手に基づいていないケースがあることが問題視されています。最初から成約意図のない仮定の買手を用いた営業は、結果的に売手側の期待を裏切る形となり、業界全体の信頼低下につながっています。
このような手法を繰り返すことにより、企業オーナー側は「どうせ嘘だろう」と受け取るようになり、本当に真摯なM&A提案でさえ疑われるようになります。これが、いわゆる「焼き畑営業」です。一時的には売上が立っても、長期的には市場そのものの信用が毀損されてしまうのです。
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」でも、虚偽や誇大な営業表示は禁止事項として明示されており、2024年改訂版では特に「買手がいるという表現の真偽について、明確に説明責任を果たすように」とされています。信頼関係の上に成り立つべきM&Aにおいて、初手から信頼を損なうような行為は、本質的に業界全体の健全な成長を阻害する行動といえるでしょう。
3.2 本当の買手情報も疑われる風評リスク
「買手います営業」が一般化したことで、実際に買手企業からの具体的な打診があったとしても、それが嘘か本当かを売手が判断できない状態になっています。つまり、「本当に価値ある買手との接点」すら、虚偽営業と同じ土俵で扱われてしまうという弊害が起きているのです。
これは、いわば「狼少年現象」です。何度も「買手がいる」と言いながら実現しない状態が続くと、次に本物の買手が現れても、もはや誰も信じてくれません。このような状況では、せっかくのビジネスチャンスも逃してしまい、買手・売手の双方にとって損失となります。
実例として、実際に上場企業から特定の中小企業に「関心がある」との意向があり、M&A仲介業者経由で打診が行われたにもかかわらず、「またウソDMでしょ」と売手が取り合わなかったという事案が報告されています。これは、仲介業者の過去の不誠実な営業スタイルが、現在と未来の取引可能性までも潰してしまった典型例といえるでしょう。
3.3 大手による囲い込みと手数料ビジネス化
「買手がいます」という文句は、売手企業の心をつかむだけでなく、専任契約を取り付けるための営業トークとしても使われています。特に、大手仲介会社では広告費やDM費用を大量に投下し、業界内でも圧倒的な営業量で「囲い込み」を行っています。
この囲い込みは、売手企業に対して専任契約(=他の業者に依頼できない契約)を結ばせ、情報や交渉ルートを独占する仕組みです。契約後は、例え当初の「買手」との交渉が不成立となっても、別の買手候補との交渉に自動的に進みます。仲介手数料は「誰と成約しても発生する」ため、最初の「買手います」という話が釣りであったとしても、契約上問題ないとされてしまうのです。
営業パターン | 売手企業の心理 | 仲介業者の狙い |
---|---|---|
買手いますDMを送付 | 興味を持つ、相談してみようと思う | 決算書入手、専任契約への誘導 |
「専任契約が必要」と説明 | 1社だけなら…と納得 | 囲い込み完了、情報独占 |
別の買手を紹介 | 話が違うが仕方ない | 手数料は確保、別案件にも転用 |
このように、「買手がいる」という最初の話が、業者の営業スクリプトに過ぎない場合でも、売手側は断れない契約構造に巻き込まれてしまうのです。特に最低報酬が2,000万円〜3,000万円に設定されている大手仲介会社では、このような「量で押し切る営業」が収益モデルの中核に組み込まれていることも珍しくありません。
3.4 M&Aの質・倫理観の著しい低下
このような営業手法が業界全体に広がった結果、M&Aという本来慎重に行うべき意思決定が、「営業トークに乗せられて始まる」という構造になりつつあります。これは、企業の命運を左右する大切な判断としては、あまりにも不誠実なスタート地点です。
また、業界に従事するM&Aアドバイザーの質にも影響が出ています。手数料稼ぎを優先する風潮の中では、売手・買手の将来ビジョンや事業継続性への配慮が二の次になるケースも増えており、短期的成果ばかりが重視されるようになっています。
近年では、実際にM&A仲介業者が虚偽の説明を行い、紛争や訴訟に発展した事例も報道されています。たとえば、2023年には大手仲介会社が「買手がいます」と偽って高額な手数料契約を結ばせ、結果として売手企業が不成立のまま手数料のみを負担するトラブルが報じられました。
- M&Aを支える信頼性が損なわれる
- 質の高い専門家が離職していく
- 売手企業のM&Aに対する不信感が定着する
このような状況は、M&Aという本来価値ある手段の信頼性を傷つけるだけでなく、事業承継問題の解決を阻害する社会的課題とも言えます。
まとめ:業界全体の信用毀損が進行中
「買手います営業」は、一見すると合理的な営業手法に見えますが、その安易な多用がM&A業界に深刻な弊害をもたらしています。虚偽情報による信頼の損失、囲い込みによる不自由な契約構造、本物の買手情報の信頼性の低下、そして業界倫理の劣化——これらは、すべて企業経営者の判断ミスや後悔を招く温床です。
今後、M&A業界が健全な姿を取り戻すためには、業者側の倫理意識の改革と、経営者側の冷静な判断が両輪として必要になります。「買手がいます」という言葉の裏に何があるのか——その視点を持つことが、トラブルを避ける第一歩になるでしょう。
4.実際に届く営業DM・電話の見分け方と注意点
届いた「買手います」DMは本物かどうかを疑う視点が必要
M&A仲介会社から突然届く「買手が御社を買いたがっています」というダイレクトメールや電話は、経営者にとって興味を引く内容かもしれません。しかし、すべてが誠実な提案とは限りません。むしろ、その多くが売手の関心を引くための営業手法であり、実在しない買手を使った釣りのようなケースも多く報告されています。
中小企業庁が公表している「中小M&Aガイドライン」でも、虚偽表示や誇大広告の禁止が明記されており、営業活動における透明性と説明責任の重要性が強調されています。しかし、現場レベルではこのガイドラインが必ずしも守られていない実情もあるため、経営者自身が営業情報の真偽を見極める力を持つことが重要です。
「怪しい営業DM・電話」に共通するチェックポイント
営業手法が乱立する中、実際に届いた「買手いますDM」や営業電話が信頼に足るものかどうかを判断するために、次のようなポイントを確認することをおすすめします。
- 買手企業の社名が明記されていない
「買手が御社に関心を持っている」などの表現のみで、具体的な企業名や背景が一切書かれていない場合は要注意です。買手の実在性が担保されていない可能性があります。 - テンプレート文のような文面
「御社の技術力に注目しています」や「地域シェアを重視している買手がいます」など、誰にでも当てはまる曖昧な表現は、大量一斉送信を疑うべきです。 - 仲介会社の実績や登録情報の記載がない
中小企業庁に登録されたM&A支援機関であれば、登録番号や支援内容の範囲を明記するのが通常です。会社概要や担当者情報が曖昧なDMは避けた方が無難です。 - 返信を急かす文言がある
「先方の関心が高いため、早急なご返答を希望します」など、冷静な判断をさせないように仕向ける文言には注意が必要です。 - 無償相談を強調しすぎている
「無料でご相談を承ります」と記載されていても、その後に高額な着手金や中間報酬が発生するパターンが少なくありません。
実際にあった営業トラブル事例
例えば、ある中堅製造業の経営者のもとに届いたDMでは「上場企業から強い関心が寄せられている」と記載されていました。しかし、面談の際に買手企業の具体名を尋ねても「守秘義務があるためお伝えできない」と言われ、最終的にはまったく関係のない買手候補と交渉を進められ、時間と労力を浪費したとのことです。
別の事例では、買手がいることを信じて仲介契約を締結したものの、実際には買手候補との接点が一切なかったことが後から判明し、契約解除と着手金返金を求めてトラブルに発展しました。このような事案は、国民生活センターや中小企業庁にも相談が寄せられており、社会的にも問題視されています。
電話営業にも注意すべきパターンがある
最近では、電話を用いた営業活動も活発化しています。オペレーターや営業担当者が直接「御社に買手が関心を示しています」と伝えることがありますが、次のような点に注意してください。
- 初回の電話で契約や面談を急かされる
- 相手の会社名や本人確認が不明瞭である
- 「今だけ限定」といったセールストークが含まれる
- 具体的な買手の情報を一切出さない
- 「無料です」と繰り返し強調される
このような場合は、その場で即答せず「一度資料を送ってもらえますか」「会社のウェブサイトを確認してから折り返します」といった冷静な対応が有効です。
確認すべき情報のリストと対応のコツ
営業DMや電話に応じる前に、以下の情報が提示されているか確認しましょう。
確認項目 | チェックポイント |
---|---|
仲介会社の正式名称 | 検索して実在する法人かを確認 |
中小企業庁登録支援機関か | 登録機関一覧に掲載されているか |
担当者のフルネームと連絡先 | 代表番号以外の直通番号・メールがあるか |
買手企業の概要 | 業種・規模・希望理由などが記載されているか |
契約形態と報酬体系 | 着手金・中間金・成功報酬の説明があるか |
また、対応時の基本姿勢として以下を意識すると、相手の真意を見極めやすくなります。
- その場で契約せず、必ず持ち帰って検討する
- 2社以上に同様の営業DMが届いていないかを確認する
- 知り合いの士業や専門家に相談する
- セカンドオピニオンを求める姿勢を明確に示す
まとめ:見分ける目を持てばトラブルは防げる
「買手がいます」という言葉は魅力的に聞こえますが、すぐに信じて動くことは危険です。DMや電話の文面・話し方・情報の開示度合いを冷静に分析することで、信頼できる提案かどうかを見極めることが可能です。
本当に誠実なM&A仲介会社であれば、情報の開示に応じ、無理な契約締結や急な意思決定を迫ることはありません。まずは一歩引いて、事実関係を確認する姿勢こそが、後悔しない第一歩となるのです。
5.信頼できるM&A業者を見極める3つの基準
5.1 嘘をつかない誠実な姿勢があるか
M&A仲介業者を選ぶ際、最も基本的かつ重要なポイントは「誠実さ」です。特に、「買手がいます」といった営業文句が事実に基づいているか、もしくは推測に過ぎないのかをきちんと区別して説明してくれるかどうかが信頼性を測る上での大きな指標になります。
中小企業庁が定める「中小M&Aガイドライン」でも、業者に対し「事実と推測を区別して説明すること」が義務づけられており、虚偽や誤解を招くような表現は厳しく禁じられています。これを遵守しているかどうかは、その業者が信頼できるかどうかを判断するための出発点です。
例えば、実際に筆者が関与した案件で、ある仲介業者は「買手がいます」と言って企業オーナーと接触しましたが、よく話を聞くと「業界的に買手ニーズが高いという見立て」だと判明しました。このように、明確に「実在の買手」か「見込みの買手」かを区別できる姿勢があるかが重要なのです。
- 質問に対して正面から答えるか
- 都合の悪い情報も隠さず話すか
- 「わからないことはわからない」と言えるか
このような対応ができる業者であれば、信頼して相談を進める価値があります。逆に、質問をはぐらかしたり、曖昧な表現を多用する業者は注意が必要です。
5.2 業界の構造や手数料を正直に話すか
M&A仲介業界は、売手と買手の双方から手数料を得る「両手取引」モデルが一般的です。そのため、仲介会社にとって最も重要なのは「成約すること」であり、必ずしも売手の利益だけを優先して動いてくれるとは限りません。
そのような背景があるため、自社のビジネスモデルや報酬体系について隠さず説明してくれるかどうかが、業者の誠実性を見抜くカギとなります。中小企業庁が公開する「M&A支援機関の登録制度」では、手数料の透明性や説明責任が求められており、登録業者はこれに準拠する義務を負っています。
確認すべき報酬項目 | 内容 |
---|---|
着手金 | 契約時に発生。0円〜数百万円のケースがある |
中間金 | 基本合意時に発生することがある |
成功報酬 | 譲渡金額に応じて変動(レーマン方式が主流) |
最低報酬 | 例え成約額が小さくても一定額が発生 |
「詳細は成約後に」と濁されたり、契約書を急かされるような場合は要注意です。報酬体系を明文化した書面を事前に提示し、納得できるよう丁寧に説明してくれる業者であれば、信頼して進めることができるでしょう。
5.3 セカンドオピニオンに対する態度
信頼できるM&A仲介業者は、クライアントが「セカンドオピニオン」を求めることを嫌がりません。むしろ、第三者の意見を取り入れることによって、より適切な意思決定ができると考える誠実な業者こそ、長期的な信頼に値します。
中小企業庁が提唱する「中小M&Aガイドライン」でも、セカンドオピニオンの容認は推奨されており、優良な支援機関であればこれに準拠しています。実際に「セカンドオピニオンをつけてもいいか?」と尋ねた際、明確に「どうぞ」と快く答えてくれるかが試金石になります。
逆に、次のような対応をする業者には注意が必要です。
- 「秘密保持契約違反になる」とセカンドオピニオンを拒否する
- 「うちはその必要はありません」と言い切る
- 急いで契約を結ばせようとする
筆者が関与した案件でも、誠実な業者は「顧問税理士や弁護士にも見てもらってください」とむしろ推奨していました。その姿勢こそが、信頼関係を築く上での重要な判断材料となります。
まとめ:3つの視点で業者を見極めよう
M&Aは会社の未来を左右する大きな意思決定です。そのパートナーとなる仲介業者は、表面的な営業トークだけで選ぶべきではありません。「嘘をつかない姿勢」「ビジネスモデルの透明性」「セカンドオピニオンを歓迎する姿勢」という3つの視点をもって慎重に判断することで、不安やトラブルを回避し、納得のいくM&Aを実現することができます。
6.怪しいM&A営業を受けた際の正しい対応法
まずは「即答しない」が基本
突然「御社に関心を示している買手がいます」という営業連絡を受けたとき、興味を持つのは自然なことですが、そこで即答してしまうのは非常にリスクが高い行動です。たとえ営業トークが魅力的であっても、M&Aは会社の将来を左右する重大な判断であるため、まずは冷静に状況を把握することが重要です。
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」にも記載があるように、業者との契約に進む前には、提案の内容や相手の信頼性をきちんと見極めることが推奨されています。特に「買手がいる」という情報の真偽が不明な段階で仲介契約を結ぶと、不要な手数料の支払いや情報流出のリスクを伴うため、即断は禁物です。
具体的に取るべき対応ステップ
怪しいM&A営業への対応としては、以下のようなステップを踏むのが安全です。
- 営業内容を必ず書面またはメールで残す
言葉だけでなく、提案内容を文書で要求し、証拠として保存しておきましょう。 - 相手の会社情報・担当者の氏名を確認
中小企業庁の「登録支援機関一覧」にその業者名があるかも調べましょう。 - 買手情報の具体性を尋ねる
買手企業の業種・規模・所在地などを質問し、「守秘義務」と曖昧にされたら要注意です。 - 即契約せずに持ち帰る
一旦冷静に考える時間を確保し、家族や税理士・顧問弁護士と相談しましょう。 - セカンドオピニオンを求める
他の専門家の意見を聞き、提案の妥当性を検証します。
相談窓口や公的な支援も活用しよう
怪しい営業を受けたと感じた場合は、公的機関のサポートを受けるのも有効です。たとえば以下のような窓口があります。
機関名 | 相談内容 | 連絡先・備考 |
---|---|---|
中小企業庁 M&A支援機関登録制度窓口 | 登録支援機関の信頼性確認 | 公式Webサイトに照会フォームあり |
国民生活センター | M&A関連のトラブルや詐欺相談 | 消費者ホットライン「188」 |
地域の商工会・商工会議所 | M&Aや事業承継の相談 | 面談や専門家紹介も可能 |
弁護士・税理士などの専門家 | 契約内容・報酬体系のリーガルチェック | 顧問がいなければ士業紹介制度を活用 |
トラブルに発展する前に取るべき予防策
そもそも怪しい営業に引っかからないためには、以下のような予防策が有効です。
- 会社情報の管理を厳格にする
帝国データバンクや商工リサーチに掲載される情報を定期的に見直し、不要な露出を防ぎましょう。 - 問い合わせフォームからの営業には自動返信を設定
スパム営業をはじくフィルター機能のある問い合わせフォームを導入しましょう。 - 社内での対応フローを決めておく
代表者だけでなく、総務・経理部門にも対応基準を共有し、即答・即対応を避ける仕組みを作ります。 - 定期的に専門家と情報交換をする
普段から顧問弁護士・税理士などと意見交換しておくことで、怪しい提案への感度が高まります。
実例:対応を誤ってトラブルに発展したケース
あるIT企業の経営者は、「買手が御社に強く関心を持っている」との営業電話を受け、面談後すぐに仲介契約を結びました。しかし、実際には買手が存在せず、2ヶ月後に「当初の買手は辞退したが別の候補を紹介する」と言われたことで不信感を抱きました。
すでに着手金を支払っていたため解約も難しく、結果的に半年間も売却活動を続けたものの、成約には至らず、支払った手数料が無駄となりました。さらに、この間に企業情報が複数の買手に流れてしまい、信用問題にも発展しました。
このような事態を避けるためにも、「契約前に第三者の意見を聞くこと」「買手の実在性を確認すること」「信頼できる専門家と連携して判断すること」が不可欠です。
まとめ:冷静さと情報収集が最大の防御
怪しいM&A営業に対しては、感情に流されず「即答しない」「情報を開示させる」「セカンドオピニオンを活用する」といった基本的な姿勢を守ることが重要です。営業担当者の言葉だけで判断するのではなく、複数の視点から検証し、自社の将来にとって最適な判断を下すよう心がけましょう。
7.M&Aを成功に導くために経営者が取るべきアクション
戦略的な準備をすることが最優先
M&Aを成功させるために最も重要なのは、売却を「思いつき」や「営業に乗せられて」ではなく、戦略的に準備しておくことです。M&Aは会社の未来を左右する重大な意思決定であり、経営者の「準備力」が成否を分ける最大の要因となります。
中小企業庁によると、2025年時点で後継者不在の中小企業は約127万社に上ると推定されており、その多くがM&Aを検討せざるを得ない状況です。ところが、適切な準備をせずに進めたM&Aがトラブルに発展するケースも後を絶ちません。
そのため、事前に「何のために売却するのか」「どんな相手に引き継ぎたいのか」「いくらで売りたいのか」など、自社にとっての譲渡目的を明確にし、判断軸を持ったうえで取り組む必要があります。
経営者がやるべき準備事項のチェックリスト
以下は、M&Aを考える経営者が事前に準備すべきアクションをリスト化したものです。
- 会社の財務状況(直近3~5年分の決算書)を整理しておく
- 税理士や顧問と一緒に事業価値を概算評価しておく
- 従業員・取引先・金融機関との関係を見直しておく
- 譲渡後の経営方針(社名、雇用、拠点維持など)の希望を明確にする
- 自社の強み・弱みを第三者視点で言語化できるようにする
- 少なくとも2~3社の仲介・FA会社から話を聞いて比較する
- 家族や後継者と譲渡後の生活・資産計画について話し合っておく
これらの情報をもとに、仲介会社と打ち合わせを行うことで、より納得感のある交渉が可能となり、「売らされるM&A」ではなく「自分で決めるM&A」が実現します。
信頼できるパートナーを見つけることが成功の鍵
どんなに自社で準備していても、M&Aのプロセスは専門知識が必要なため、信頼できる仲介会社やアドバイザーの存在が不可欠です。その際、次のようなポイントに注意してパートナーを選ぶようにしましょう。
- 会社規模や実績よりも、担当者の対応姿勢を重視する
- 中小企業庁の登録支援機関であるかを確認する
- 報酬体系が明確である(着手金・中間金・成功報酬など)
- 「セカンドオピニオンOK」と明言してくれる
- 提案が売却ありきでなく、事業継続にも選択肢を提示してくれる
これらの項目をクリアしている業者であれば、無理にM&Aを急がせることなく、経営者の想いや価値観に寄り添った提案をしてくれる可能性が高いといえます。
実例:成功した経営者が実行していたこと
ある地方の製造業の経営者は、後継者不在の問題を見据えて5年前からM&Aを検討しはじめました。まず、顧問税理士に依頼して財務整理を実施。その後、複数のM&A仲介会社に相談し、報酬体系や対応内容を比較したうえで、地元企業への譲渡に強みのある支援機関を選定しました。
最終的に、同じ県内で事業シナジーのある会社とのM&Aが成約し、従業員の雇用も維持され、自身は顧問として数年関わる形で事業を円滑に引き継ぐことができました。この経営者は「事前準備と比較検討を怠らなかったからこそ、後悔のないM&Aが実現できた」と話しています。
譲渡後を見据えた人生設計も忘れずに
M&Aが成立したあとも、経営者としての人生は続きます。譲渡代金の使い方や、新たなビジネス、家族との時間など、「その後のライフプラン」まで見据えておくことが、M&A成功の真の意味といえるでしょう。
また、譲渡益にかかる税金や相続対策についても、信頼できる税理士やファイナンシャルプランナーと連携して、早めに対策しておくことで、手元に残る資産を最大化できます。
まとめ:受け身ではなく「自ら設計するM&A」へ
「買手がいます営業」に流されるのではなく、自社にとって本当に納得できるM&Aを実現するには、経営者自らが主体的に準備し、意思決定の軸を持つことが不可欠です。専門家の意見を取り入れつつも、最後の決断は「自分の手で」行う——この姿勢が、後悔しないM&Aを導く最大のポイントです。
まとめ
「買手がいます」という営業文句には、裏に営業戦略や契約誘導の意図が潜んでいることも少なくありません。本当に信頼できるM&Aを実現するためには、情報を鵜呑みにせず、冷静に見極める目を持つことが重要です。焦らず、自社の将来像に合った意思決定を心がけましょう。
- 営業文句は真偽を確認
- 構造や背景を理解する
- 業者の姿勢を見極める
- セカンド意見を活用
- 譲渡目的を明確にする
詳しく知りたい方は、ぜひアーク・パートナーズまでお問い合わせください。
