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M&A仲介会社による企業価値算定額は実際の成約額と大きく異なるという話

「M&A仲介会社の株価算定額って、どれを信じればいいの?」——そんな不安や疑問を抱える経営者の方は少なくありません。複数の仲介会社に相談したら提示された企業価値がバラバラだった、という経験をお持ちの方もいるでしょう。

本記事では、M&Aアドバイザー歴10年以上・累計200件以上の成約実績を持ち、中小企業庁登録のM&A支援機関である筆者が、仲介会社による株価算定の“裏側”を徹底解説。高く見せる査定額に振り回されず、冷静な判断ができるようになるための知識をお届けします。

■この記事で得られる3つのこと

  1. なぜ仲介会社ごとに株価が異なるのかがわかる
  2. 営業トークに隠された本当の意図が見抜ける
  3. 適切な株価算定方法と依頼先が理解できる

この記事を読むことで、見せかけの査定額に左右されず、信頼できるプロの視点で企業売却の判断軸を持てるようになります。M&Aを成功させたいとお考えの方は、ぜひ最後までご覧ください。

1.M&Aの株価算定、なぜこんなに違うのか?

M&Aを検討している経営者の方であれば、「複数の仲介会社に相談したのに、提示された株価が全然違う」という経験をされた方も多いのではないでしょうか。実は、これはM&Aの現場では決して珍しいことではなく、むしろ“よくある話”です。結論から言えば、株価算定は決算書の数字だけでは決まらず、前提条件や評価者の立場、目的、使う評価手法によって大きく変わってくるものだからです。

そもそも「株価算定」とは、対象企業の財務データや事業状況をもとに、企業全体の価値(企業価値)や1株あたりの価値を数値化することです。ところが、この作業は単純な“計算”ではなく、評価者の「判断」が色濃く反映されます。つまり、誰が、どのような意図で、どんな手法で算定するかによって結果が大きくブレるのです。

評価手法の違いによる算定額のばらつき

M&Aにおける企業価値評価には、主に次の3つの手法が使われます。

  • インカムアプローチ(DCF法など):将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて評価する方法
  • マーケットアプローチ(類似会社比較法など):上場企業や類似M&A事例の倍率を参考に評価する方法
  • コストアプローチ(純資産法など):貸借対照表をもとに純資産ベースで評価する方法

これらの手法にはそれぞれメリット・デメリットがあり、評価対象となる企業の特性や取引目的によって適切な使い分けが必要です。
しかし、仲介会社によっては「受託を優先したい」という営業的な思惑から、売主の期待に沿った“都合の良い手法”を選んで高い評価額を提示するケースも少なくありません。

前提条件の違いも結果を左右する

さらに、株価算定では以下のような前提条件を設定する必要があります。

  • 直近の決算数字をそのまま使うか、業績修正(EBITDA調整など)を行うか
  • 買収後のシナジー効果を加味するかしないか
  • 評価時点の金利や為替、業界の動向をどこまで考慮するか

たとえば、ある仲介会社が「来期以降、売上は年10%ずつ伸びる」と想定して評価した場合と、別の会社が「現状維持で推移する」と想定して算定した場合では、DCF法の結果が数千万円、場合によっては数億円単位で変わってくることもあります。

第三者機関も「評価に幅が出る」と明言

中小企業庁が監修する「中小M&Aガイドライン」(2020年3月版)では、次のように述べられています。

「企業価値評価はあくまでも“目安”であり、実際の成約価格とは乖離することがある。複数の手法で評価額を算定することで、より妥当な価格帯を把握できる」

つまり、公式にも「算定額はぶれる」という前提が認められているのです。

実際にあった株価のブレの例

たとえば、実際の成約案件において、あるオーナー企業(年商5億円、営業利益3000万円)を複数の仲介会社に相談した結果、提示された株価は次のように大きく異なりました。

仲介会社 評価額(株価) 使用手法
A社 2.8億円 DCF法(3年予測ベース)
B社 2.0億円 類似会社比較法
C社 1.4億円 純資産+のれん控除

このように、企業そのものは変わっていないにもかかわらず、評価額が1.4億円〜2.8億円まで大きく開いています。このケースでは最終的に2.1億円で成約しましたが、仲介会社の株価算定をそのまま信じていれば「もっと高く売れるはず」「こんなに安いのはおかしい」といった判断ミスが生じかねません。

買手側も自社ロジックで評価する

また、M&Aにおける「価格」は、最終的には売手と買手の交渉で決まるものです。どれだけ理論上の株価を出しても、買手がそれを妥当と感じなければ、成立しません。特に事業会社が買収する場合、自社とのシナジー、経営リスク、資金調達環境などを踏まえて独自のバリュエーションを行います。

そのため、売手側が「仲介会社の算定では●億円だった」と主張しても、買手には全く響かないことも少なくありません。

だからこそ、1社の株価だけを鵜呑みにしない

M&A仲介会社が提示する株価算定額は、参考材料の一つに過ぎません。複数社に算定を依頼して平均値をとる、または中立的な第三者機関に依頼するなど、冷静な判断材料として扱うべきです。

また、売却前の早い段階で「高い数字を提示した会社=良い仲介会社」と考えてしまうと、かえって成約に至らないリスクを招くことになります。数字の根拠や背景まで丁寧に説明してくれる仲介会社こそ、信頼に値するといえるでしょう。

このように、M&Aの株価算定は本質的にブレるものであり、「なぜ違うのか」を理解したうえで情報を扱うことが、冷静な売却判断につながります。

2.M&A仲介会社が株価算定をする本当の理由とは?

M&A仲介会社と面談すると、開口一番に「まずは株価算定をしましょう」と言われるケースが多く見受けられます。企業オーナーとしては「うちの会社はいくらくらいの価値があるのか」を知るのは当然の関心事ですが、この“無料株価算定”には、仲介会社側の戦略的な意図があることを知っておく必要があります。

一見すると親切なサービスに見えるこの株価算定の目的は、「売却の意思を引き出すこと」や「案件としての可能性を見極めること」、そして「競合他社に奪われないよう囲い込むこと」にあります。つまり、算定そのものよりも、その後の提案活動や受託に向けた布石として機能しているのです。

仲介会社の本音は“売れるかどうかの見極め”

株価算定は単なるサービスではなく、「この会社は本当に売れるのか?」を判断するための踏み絵です。M&A仲介会社は、多数の企業の相談に乗りながらも、そのすべてを本気で営業するわけではありません。時間とリソースをかける以上、「売れる見込みが高い会社」に優先的にアプローチするのが営業戦略上の常識です。

具体的には、次のような基準で“売れる案件”かどうかを見定めています。

財務状況 売主の金額希望 営業判断
良好 現実的 営業注力(受託に動く)
良好 高すぎる 条件次第で検討
赤字・債務超過 割安提示 条件により受託
赤字・債務超過 高すぎる 営業対象外

つまり、株価算定は仲介会社にとって、「案件のフィルタリング作業」の一環でもあります。単なる数字合わせではなく、売却意欲や金額目線のすり合わせが同時に行われているのです。

“無料サービス”という名の囲い込み戦略

多くの仲介会社が株価算定を無料で提供するのは、単に親切心からではありません。実際には、初回面談の段階で“有望そうな売却案件”を見極め、自社で囲い込むための営業施策です。

この際に活用されるテクニックとして、以下のようなアプローチがよく見られます。

  • 他社よりもやや高めの評価額を提示して期待値を上げる
  • 「今なら買手がついている」といったクロージングワードで受託に誘導する
  • 「算定には専門性が必要です」とアドバイスしながら独占契約へ持ち込む

つまり、株価算定そのものが「営業ツール」であり、信頼構築や囲い込みの材料として使われているということです。

国も“営業目的の算定”に注意喚起している

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」では、仲介会社に対して以下のような注意がなされています。

「株価評価の結果は成約価格の保証ではなく、評価手法によって結果に幅が出る。あくまで売主が判断を下すための一要素にとどまるべきである」

このように、公的な機関ですら「算定は参考程度」と明言しているのです。さらに、ガイドラインでは「仲介業者による過度な期待を与えるような営業活動」にも注意を促しています。

実際にあった“高値算定”による失敗例

たとえば、ある製造業の経営者が3社の仲介会社に相談したところ、以下のような株価算定を提示されました。

仲介会社 株価算定額 受託条件
A社 2.5億円 成功報酬型
B社 3.0億円 専任契約6か月
C社 3.8億円 専任契約12か月+中間報酬あり

経営者は最も高い評価額を提示したC社を選びましたが、実際に売却活動を進める中で「提示額では買手がつかない」と言われ続け、半年経っても一件の面談も成立しませんでした。最終的には、再びA社に相談して2.3億円で売却が成立しましたが、時間と信頼を大きく失った事例です。

“金額ありき”で進むと、本質を見誤る

このように、仲介会社が出す株価算定額は、必ずしも市場価値や成約見込みと一致しません。特に、無料で提供される査定は「営業目的」が先行するため、高めに盛られた数字であるケースが多いのです。

重要なのは、「なぜその数字なのか?」というロジックや手法、前提条件を確認することです。さらに、第三者の専門家や複数社から客観的な意見を取り入れることで、初めて“自社の本当の価値”が見えてきます。

株価算定は売却成功のスタートラインであり、その信ぴょう性を見極めることが、結果として“良い相手に、適正な価格で”会社を譲渡することにつながります。

3.仲介会社ごとに株価が異なる“カラクリ”を解説

M&Aの現場でよくある疑問のひとつが、「なぜ仲介会社ごとにこんなに株価算定額が違うのか?」というものです。実際、同じ企業であっても仲介会社によって提示される評価額が1.5倍以上差がつくこともあります。これは単なる計算ミスや知識不足によるものではなく、仲介業界の構造的な“カラクリ”が背景にあるのです。ここでは、その中でも特に影響の大きい3つの要因について詳しく解説していきます。

3.1 リップサービスとしての株価盛り

まず1つ目のカラクリは、「リップサービスとしての高めの株価提示」です。仲介会社の営業担当者は、売却を検討している経営者の“期待値”を引き上げることで、受託を獲得しようとします。その手段として、高めの株価を提示することがしばしば行われます。

経営者は当然、自社が高く売れるなら嬉しいと感じます。その心理を利用して、「〇〇億円で売れる可能性がありますよ」という“甘い言葉”で囲い込みを図るのです。こうした盛られた株価は、実際の成約価格とは大きくかけ離れていることが多く、あとから現実とのギャップに苦しむことになります。

  • 他社より少し高い査定を出すことで印象アップ
  • 経営者の気分をよくして受託につなげる
  • 実際にはその価格で売れる確証はない

このような“リップサービス型の株価盛り”は、特に初回面談で起こりやすく、交渉が進むにつれて「実際の買手が見つからない」「条件が合わない」などと理由をつけて現実的な価格へと調整されていくケースが多いです。

3.2 受託競争と営業戦略の関係

次に、仲介会社間の「受託競争」も評価額のばらつきに大きな影響を与えます。M&A仲介会社にとって、売却案件を“受託”することが最優先のミッションです。なぜなら、買手候補を探す、交渉を行う、成約に導くといった業務はすべて「受託ありき」で始まるからです。

そのため、各社は他社に負けないように“魅力的な提案”を用意します。その一環として、高めの株価算定結果を提示するという戦術がよく取られます。たとえば、以下のようなやり取りが実際にあります。

仲介会社 提示株価 営業トーク
A社 1.8億円 「堅実に売れる水準です」
B社 2.5億円 「もっと高く売れますよ」
C社 3.0億円 「うちはこれまでの実績が違います」

当然ながら、経営者としては最も高い株価を提示した会社に心が傾きます。しかし、こうした“受託優先型の高値提示”は、結果として売却の実現性を下げるリスクがあります。つまり、仲介会社同士の競争が株価を釣り上げてしまっているのです。

3.3 「売れる案件」と「放置される案件」の違い

3つ目のカラクリは、「売れる案件」と判断された企業と、「売れない(または条件が悪い)と判断された企業」で、その後の営業対応や査定姿勢が大きく変わるという点です。

仲介会社は、以下のような基準で“営業優先度”を決めています。

  • 黒字企業である(収益性が高い)
  • 経営者の希望売却価格が現実的
  • 譲渡理由が明確で、買手にとって納得感がある
  • 買手候補がつきやすい業種・エリア

このような案件に対しては、仲介会社も本腰を入れて動きます。一方で、「赤字続き」「希望売却価格が高すぎる」「業種的に買手が少ない」といった案件は、最初に株価算定までは行っても、その後の営業がほとんど行われないこともあります。

つまり、仲介会社が「この案件は売れる」と判断した場合には、多少数字を盛ってでも受託に進みますが、「売れない」と感じた場合には、逆に控えめな株価を提示して早めに距離を置く傾向があるのです。

これは売手側から見れば、「なぜこんなに違う数字が出るのか?」という疑問の答えにもなります。仲介会社の内部では、すでに“この会社は営業対象かどうか”という選別が行われているのです。

まとめとしての理解

このように、M&A仲介会社ごとに株価算定額が異なる理由には、単なる評価ロジックの違いではなく、営業トーク、受託競争、案件選別といった“ビジネスの論理”が強く影響しています。売手側はこうした構造を正しく理解し、出てきた株価を鵜呑みにするのではなく、背景や意図を読み取る視点を持つことが重要です。

本来、株価算定は「マーケットの反応」でしか判断できない性質のものであり、複数の仲介会社の査定を見比べたうえで、冷静に第三者の意見も取り入れながら判断を下す姿勢が求められます。

4.真に受けると危険?高すぎる査定の落とし穴

M&A仲介会社から提示された株価算定額が思いのほか高かったとき、多くの経営者は「それなら売却してもいいかもしれない」と前向きな気持ちになります。しかし、そうした“高すぎる査定”を真に受けてしまうと、売却活動の途中で大きな落とし穴にはまる危険があります。特に、「仲介会社が高値を出してくれた=その価格で売れる」という誤解は、最終的な成約に至らない最大の原因となります。

本来、株価算定はあくまで参考値であり、実際のM&Aでは買手との交渉により価格が決まります。つまり、高く査定されたからといって、そのままの価格で売れるとは限らないのです。それどころか、非現実的な価格に引っ張られたことで、売却機会そのものを逃すリスクが高まるのです。

なぜ高すぎる査定が危険なのか?

高すぎる査定には、以下のようなリスクがあります。

  • 買手が興味を示さず、面談すら成立しない
  • 他の現実的な買手候補との交渉が遅れる
  • 売却期間が長期化し、結果的に条件が悪化する
  • 「売れない会社」という市場イメージがついてしまう

つまり、最初に掲げた“期待値”が高すぎたばかりに、現実的な価格での売却チャンスをみすみす逃してしまうケースがあるのです。

公的機関も「過度な期待」への警鐘を鳴らしている

中小企業庁が公開している「中小M&Aガイドライン」では、仲介会社による株価算定額について、以下のような記述があります。

「株価の評価はあくまで参考であり、最終的な売買価格は、売手と買手の交渉により決定される。過度に高い評価に基づく売却は、成約に至らないケースが多い。」

このように、国としても「査定額を鵜呑みにしてはならない」と明確に注意を促しています。

よくある失敗事例

たとえば、あるIT系企業のオーナーがM&Aを検討した際、3社の仲介会社から以下のような提示を受けました。

仲介会社 提示株価 備考
A社 2.4億円 標準的なDCF法による算定
B社 3.0億円 強気の事業成長見込みを前提
C社 3.6億円 シナジー効果を最大限評価

オーナーは「最も高く評価してくれたC社ならうまくやってくれるだろう」と考え、専任契約を締結。しかし、その後半年以上にわたって買手候補との面談が一件も成立せず、ようやく面談できた買手からは「最大でも2億円前後の価値しかない」と言われ、ショックを受けることになりました。

その後、A社に再相談し、最終的に2.2億円での売却に成功しましたが、結果的に売却タイミングを逃したことで1年間の営業利益を取りこぼし、手元資金にも悪影響が出たとのことです。

高すぎる査定に騙されないためのチェックポイント

では、こうした高値査定の罠にはまらないためにはどうすればよいのでしょうか。次のような視点でチェックすることが重要です。

  1. 算定根拠が開示されているか(将来予測・倍率の出所など)
  2. 同業他社との比較がなされているか
  3. あまりにも他社より乖離した金額になっていないか
  4. 買手との面談フェーズで「実勢価格」に落ち着くことを前提にしているか

特に、1社だけが飛び抜けて高い金額を提示している場合には注意が必要です。その会社が本当にその価格で売れる“実績”や“買手ネットワーク”を持っているのかを確認しましょう。

“高く売れる”と“高く売る気がある”は別物

仲介会社の中には、そもそも「高い価格で売れるよう努力する意志」が希薄なまま、受託件数だけを追っている会社も存在します。つまり、提示価格は“釣り”にすぎず、実際の売却では買手の提示価格に合わせて「値下げ交渉」に入っていくことを想定しているケースもあるのです。

そのような場合、売手は「高く売れると聞いて契約したのに、結局値引きされて終わった」という不満だけが残ります。これは売却プロセス全体への不信感にもつながり、結果として企業価値を大きく損ねてしまう恐れがあります。

現実的なラインを知っておくことが最大の防御策

このような事態を避けるためには、まず自社の“現実的な評価レンジ”を把握しておくことが必要です。複数の仲介会社に相談し、算定根拠やロジックを比較する。必要であれば第三者評価機関にも依頼する。こうした慎重なステップを踏むことで、過度な期待に振り回されずに済みます。

また、実際の売却活動では「提示された株価」ではなく、「買手が出した条件」がすべてです。どんなに綺麗なパワーポイントで評価されても、成約価格に反映されなければ意味はありません。株価算定はあくまでスタート地点。ゴールは交渉の中で生まれます。

M&Aは一生に一度の決断になることも多いからこそ、「高い数字」に飛びつくのではなく、その背景とリスクを丁寧に見極める目を養うことが大切です。

5.株価査定は誰に頼むべきか?仲介以外の選択肢

M&Aを検討するにあたり、「自社の価値はいくらなのか?」を知りたくなるのは当然のことです。しかし、仲介会社の出す株価算定には営業的な意図が含まれている可能性があるため、鵜呑みにするのは危険です。ここでは、仲介会社以外で株価査定を依頼する方法として、税理士・公認会計士、スキルマーケット、第三者評価者を活用する方法について解説します。

5.1 税理士、公認会計士のメリット・デメリット

まず、身近な専門家として候補に挙がるのが、顧問税理士や公認会計士です。企業の会計情報に精通しているため、財務データに基づいた算定は得意分野です。

  • メリット:既存の取引関係があり、財務の詳細を理解している
  • メリット:中立的な立場から算定してくれる場合が多い
  • デメリット:M&A実務に慣れていないと、業界相場やトレンドに疎いことがある
  • デメリット:DCF法やマルチプル法など、実務的な評価手法を用いないケースもある

税務申告などの保守的なスタンスが求められる業務に慣れているため、株価も保守的に算定されがちです。M&A実務を多く経験している税理士や公認会計士であれば良いですが、経験が浅い場合には判断に注意が必要です。

なお、M&A専門の会計事務所やアドバイザリーファームに依頼する方法もありますが、費用は数十万円〜数百万円かかることが一般的です。

5.2 スキルマーケットを活用する方法

近年では「ココナラ」や「クラウドワークス」など、スキルシェア型のマーケットプレイスにおいても、M&A支援や株価査定に関するサービスが増えてきました。専門家や実務経験者が個人で出品しており、依頼者は手軽に見積もりをとることができます。

プラットフォーム 提供内容 価格帯
ココナラ 簡易株価査定、DCF法レポート、相談業務 5,000円〜30,000円
クラウドワークス 株価算定モデル作成、デューデリ支援 10,000円〜50,000円
ランサーズ 事業評価レポート、Excelモデル提供 5,000円〜100,000円

これらのサービスはコストを抑えられる一方、サービス提供者の実力や経験に差がある点には注意が必要です。また、ココナラなど一部サービスでは「外部連絡は禁止」となっているため、依頼内容は事前にきちんとすり合わせる必要があります。

特におすすめなのは、次のような条件を満たす出品者です。

  • M&A実務経験5年以上
  • 中小企業診断士や会計士などの有資格者
  • 過去の評価実績・購入レビューが多い

このような条件をチェックすることで、一定の質を担保しやすくなります。

5.3 口コミや実績の見極めポイント

第三者に株価査定を依頼する際は、金額や知名度に惑わされず、「その人がどれだけ実務に基づいた評価をしてくれるか」が重要です。以下のポイントを参考に、信頼できる相手かどうかを見極めましょう。

  1. 経歴:M&A仲介会社、会計系ファーム出身か
  2. 実績:評価案件の件数、対応業種の幅広さ
  3. 説明力:査定ロジックや前提を丁寧に説明できるか
  4. 中立性:評価だけでなく売却支援も請け負っていないか

また、可能であれば「同じ業界・同じ規模の企業評価をやった経験があるか?」を確認すると、より安心して依頼できます。仲介会社ではなく、独立したアドバイザーや元FA(ファイナンシャル・アドバイザー)など、売買の現場を熟知している人ほど、相場観と妥当性のバランスが取れた評価を出してくれます。

一方で、売却支援を兼ねている人物からの株価算定は、評価が営業目的に利用されている可能性もあります。その場合、希望価格に引っ張られたバイアスのかかった査定になるリスクがあるため注意しましょう。

仲介会社以外にも株価査定の選択肢は多く存在します。それぞれのメリット・デメリットを理解し、自社にとって最適な依頼先を見つけることが、信頼できる評価を得る第一歩となります。

6.査定額より大事?最終的な価格は交渉で決まる

M&Aにおいて提示される「株価算定額」は、あくまで参考値にすぎません。最終的な売却価格は、実際の買手との交渉を通じて決まるため、どれだけ精緻な算定結果であっても、それが「そのまま売れる価格」になるわけではありません。つまり、査定額よりも重要なのは、「交渉力」と「買手の提示条件」であるという事実です。

特に中小企業のM&Aでは、財務的な評価だけでなく、後継者候補の有無、従業員の引継ぎ、地域性、オーナーとの相性など、非財務的な要素が大きな影響を及ぼします。そのため、理論上の企業価値と、実際の成約価格との間に乖離が出るのは当然といえるのです。

買手の視点で見ると価格は変動する

企業価値の評価は、あくまで売手側が一方的に算出したものであり、買手にとっては“交渉の出発点”にすぎません。買手がどのような目的で企業を買収しようとしているか、どれだけのリスクを感じているか、どのような資金調達をするかによって、提示価格は大きく変わります。

例えば同じ企業でも、次のように買手の属性によって評価が異なります。

買手のタイプ 重視するポイント 価格の傾向
大手企業 シナジー・収益性・ブランド 高くなることがある
同業中小企業 即戦力・技術・人材 現実的な価格を重視
個人投資家 収益性・手離れ・融資条件 低めに提示されがち

このように、買手によって「出せる価格」は千差万別であり、買手の都合や想定によって“企業価値”は変動するのです。

交渉によって価格は上がることも下がることもある

初回提示額が必ずしも最終価格になるとは限りません。むしろ、交渉がうまく進めば、最初の提示より高い価格で成約に至るケースもあります。逆に、交渉がこじれたり、リスクが顕在化したりすれば、価格が下がることもあります。

  • 売手が希望金額を明確に伝える
  • 他の買手と比較検討できる状態を作る
  • 決算書以外の強み(人材・ブランド・取引先)をしっかり伝える

これらを丁寧に行うことで、交渉のテーブルでの優位性を持つことができ、結果として納得できる価格での成約につながります。

実際のM&A案件の価格差事例

ある製造業のM&A案件において、仲介会社が提示した株価算定額は「3.2億円」でした。売手オーナーはその価格を信じて売却を進めましたが、最初の買手からの提示額は2.5億円。オーナーは落胆し、交渉を中断しようとしましたが、別の買手との交渉の結果、最終的には「3.0億円」での成約となりました。

この事例からもわかるように、「査定=成約額」ではなく、「交渉次第で査定額を超える」可能性もあるのです。

中小企業庁も「価格は交渉で決まる」と明言

中小企業庁が策定した「中小M&Aガイドライン」(2020年)では、以下のように明記されています。

「株価算定結果はあくまで目安であり、実際の価格は売手と買手の交渉によって決定される。従って、算定結果が高かったとしても、その価格で売却できる保証はない」

このように、国としても「交渉力こそが最終価格を決める鍵」と明確に認識しています。

交渉に強いアドバイザーの存在が重要

売手が直接交渉に臨むのは非常に難易度が高く、情報量や交渉力の差から不利な条件を受け入れてしまうことも少なくありません。そのため、交渉力のあるM&Aアドバイザーを選任し、客観的な視点で価格の妥当性を判断しながら進めることが、成功への近道です。

  • 相場感を持っているか
  • 複数の買手に同時提案できるか
  • 交渉の戦略を立ててくれるか

こういった観点でアドバイザーを選ぶことが、価格面でも精神面でも、売手を大きく支えてくれます。

価格は“納得感”と“交渉力”で決まる

最終的なM&A価格は、「理論値」ではなく、「買手と売手の合意」で決まります。そしてその合意を引き出すために必要なのが、冷静な交渉姿勢と、強みをしっかり伝える準備、そして複数の選択肢を持つ柔軟性です。

どんなに高い株価査定が出ても、それが実現できるかどうかは交渉次第です。逆に、査定額より低くても納得できる条件が整っていれば、良いM&Aになり得ます。重要なのは、自社にとって本当に価値ある相手と、納得できる価格で合意することなのです。

7.仲介会社の選定こそが“売却成功”のカギ

M&Aの成否を左右する最も重要な要素の一つが、どの仲介会社に依頼するかという「仲介会社の選定」です。仲介会社の力量によって、売却価格はもちろん、スムーズな成約までのスピードや買手との良好な関係構築、そして売却後のトラブルリスクにまで影響を与えます。特に、手数料体系の違いや利益相反の有無など、見えにくいポイントほど慎重に確認する必要があります。

7.1 手数料や条件の確認ポイント

M&A仲介会社に依頼する際は、まず「手数料体系」と「契約条件」を細かく確認することが非常に重要です。手数料は一見似ていても、内訳や支払タイミングによって実質的な負担が大きく変わる場合があります。

主な手数料項目は以下の通りです。

手数料項目 内容 注意点
着手金 契約時に支払う初期費用 成果に関係なく支払う必要あり
中間報酬 基本合意のタイミングで支払う 成約前でも支払い発生する場合あり
成功報酬 最終契約成立時に支払う レーマン方式や最低報酬額に注意
最低報酬 成約金額に関係なく発生する 想定より高くなるケースも

特に注意すべきは「最低報酬がいくらか」「レーマン方式が何段階か」です。中には成約価格の5〜10%を一律で請求する業者もあり、1億円の売却で1000万円以上の手数料を取られてしまうこともあります。

確認すべきポイントは以下の通りです。

  • 着手金・中間報酬の有無と金額
  • 最低報酬額の設定
  • 成功報酬の算出方法(レーマン方式か固定か)
  • 専任契約期間と解除条件

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」でも、手数料の明示と説明責任の重要性が強調されています。契約書の条項や口頭の説明だけでなく、書面化された資料をもらって確認することがトラブル回避につながります。

7.2 利益相反や囲い込みのリスクに注意

もう一つ、仲介会社選びで重要なのが「利益相反の有無」と「囲い込みの有無」です。M&A仲介業界では、一つの仲介会社が売手と買手の両方を担当する「両手取引」が多く行われていますが、これは利益相反の温床になりやすい構造です。

利益相反が起きる例として、以下のようなケースがあります。

  • 買手に早く成約させたいため、売手に値下げを強く促す
  • 手数料の高い買手を優先して紹介する
  • 自社にとって都合のいい条件を“中立的”と偽って提示する

また「囲い込み」とは、他の仲介会社に情報を渡さず、独占的に成約しようとする行為です。本来であれば複数の買手候補に情報を提供して競争原理を働かせるのが理想ですが、囲い込みが起きると選択肢が狭まり、結果的に売手にとって不利な条件で成約してしまうことがあります。

囲い込みリスクを見抜くためには、以下の点を確認するとよいでしょう。

  1. 買手候補の提示数が極端に少ない
  2. 特定の買手とのみ面談を強く勧められる
  3. 「この買手で決めましょう」と即断を促される

仲介会社が本当に中立な立場で売手の利益を守る姿勢があるかどうかは、面談時の説明姿勢や質問への回答である程度判断できます。「複数の買手に打診し、売手が選べる状態をつくります」と明言してくれる仲介会社は比較的信頼できます。

さらに、中小企業庁はM&A支援機関の登録制度を導入しており、信頼性の高い仲介業者を選ぶための目安として「登録M&A支援機関一覧」を公開しています。こうした制度を活用することも、安全な選定の一助になります。

最終的に後悔しないためには、「仲介会社の名前」ではなく、「担当者の質」と「契約内容の透明性」に着目すべきです。売却活動は数か月〜1年近く続くプロセスですから、パートナーとして信頼できる存在を選ぶことが、M&A成功の鍵となるのです。

まとめ

M&Aにおける企業価値算定額は、あくまでひとつの参考値に過ぎず、鵜呑みにすると大きなリスクを伴います。特に仲介会社による査定には営業的な意図が含まれているケースも多く、数字だけで判断するのではなく、背景や意図、交渉の現場感覚を含めて冷静に見極めることが重要です。

  1. 株価は査定で決まらない
  2. 仲介ごとに査定が異なる
  3. 売却価格は交渉次第
  4. 中立な専門家に相談する
  5. 信頼できる仲介を選ぶ

適切な判断のためには、冷静な視点と信頼できるパートナーが不可欠です。詳しく知りたい方は、ぜひアーク・パートナーズまでお問い合わせください。

03-6865-5137
今すぐ相談。1分で完了