M&A仲介会社の最低手数料に関する仕組みと成約率の裏事情
「M&Aは大手に頼めば安心」「高い手数料でも仕方がない」──そう考えていませんか?
実は、上場している大手M&A仲介会社の多くが、最低手数料を2,000万円〜2,500万円と非常に高く設定しており、これが成約率の低下を招いている可能性があることをご存知でしょうか。
本記事では、「M&A仲介会社の手数料の仕組みと、成約率に与える本当の影響」について、10年以上現場でアドバイスを続けてきた筆者が、データと実例をもとにわかりやすく解説していきます。
この記事を読むことで、以下のような疑問に明確な答えが得られます。
- 上場仲介会社の最低手数料はなぜ高いのか
- 高い手数料が成約率にどのように影響するのか
- 仲介会社選びで失敗しないための判断基準
筆者は、中小企業庁登録のM&A支援機関であり、累計200件以上のM&Aに携わってきたプロフェッショナルです。現場のリアルな情報を交えながら、仲介会社の「数字の裏側」を紐解いていきます。
読み終えたころには、大手仲介会社の「見せかけの安心感」に惑わされず、本当に成約に近づける仲介会社を自分で見極められる知識と視点が手に入るはずです。
大切なM&Aで後悔しないためにも、ぜひ最後までご一読ください。
1.上場M&A仲介会社の手数料はなぜ高い?
最低手数料の仕組みと相場とは
M&A仲介会社に依頼する際、多くの経営者が気にするのが「手数料はいくらかかるのか」という点です。特に上場している大手仲介会社では、最低手数料が1,000万円〜2,500万円以上に設定されているケースが珍しくありません。これはM&Aの成否にかかわらず、成約すれば必ず発生する「最低保証報酬」のことを指します。
この最低手数料の仕組みは、レーマン方式(取引金額に応じた報酬率)に上乗せされるか、もしくは最低保証額として一律で設定されることが一般的です。たとえば、売買金額が1億円であっても、最低手数料が2,000万円に設定されていれば、レーマン方式で計算された金額がそれを下回る場合でも2,000万円が支払われることになります。
以下は、主な上場M&A仲介会社の最低手数料相場です。
社名 | 最低手数料(税別) | 備考 |
---|---|---|
M&Aキャピタルパートナーズ | 2,500万円 | 売手・買手それぞれに設定 |
M&A総合研究所 | 2,500万円 | 完全成功報酬制と広告 |
日本M&Aセンター | 1,500万円〜 | 案件により変動あり |
ストライク | 2,000万円 | 2023年に値上げ |
オンデック | 1,000万円 | 旧水準は750万円 |
このように、最低手数料は仲介会社ごとに設定されており、特に大手になればなるほど高額になる傾向が見られます。これは企業規模や人件費、広告費、上場企業としての利益確保のプレッシャーなどが背景にあると考えられます。
利益率との関係性に注目
では、なぜこれほどまでに最低手数料が高騰しているのでしょうか。その理由の一つが、仲介会社の利益率との深い関係です。
上場仲介会社は株主に対して継続的な利益成長を示す必要があるため、「単価を上げる」という戦略がとられやすくなります。つまり、成約数を無理に増やすよりも、1件あたりの報酬を高く設定したほうが効率的に利益を確保できるのです。
実際に、以下のような傾向がIR資料などから見て取れます。
- M&Aキャピタルパートナーズは、最低手数料を2,500万円に設定しながらも営業利益率は50%超を維持
- インテグループは手数料を3倍に引き上げたことで、わずか1年で営業利益率が急上昇
- ストライクも2023年に最低手数料を2,000万円に引き上げた結果、利益率が回復
上記の例からもわかる通り、手数料の値上げは仲介会社にとって非常に効果的な利益確保手段となっています。顧客への提供価値が変わっていなくても、「ブランド」「上場企業としての信頼感」「DMや広告での露出」によって契約を得て、結果的に高い手数料を正当化している構図です。
また、営業利益率と最低手数料との間には一定の相関が見られることも特徴です。最低手数料が高い企業ほど営業利益率が高くなりやすく、これは高単価を前提にしたビジネスモデルが定着していることを示しています。
このように、上場M&A仲介会社の最低手数料は、単なる報酬体系というよりも、企業の利益構造そのものに深く関係していることがわかります。
顧客側としては、この手数料の内訳や根拠に目を向けず「上場企業だから安心」と判断してしまいがちですが、実際は同じサービス内容でも数百万円〜数千万円の差が出ることもあります。
したがって、上場M&A仲介会社の手数料が高い背景には、利益最大化を図る企業戦略があることを理解し、仲介会社の選定には慎重な姿勢が求められます。
2.手数料が高いと本当に成約率は下がるのか?
上場企業のデータから読み解く実態
M&Aにおいて、仲介会社の最低手数料が高額であるほど、実は「成約率が下がる傾向がある」という見方があります。特に中小企業のM&Aでは、買手と売手の希望条件のすり合わせが重要ですが、そこに高額な仲介報酬が挟まることで、条件調整の余地が狭まり、結果として交渉がまとまらないケースが増えるのです。
実際に、上場しているM&A仲介会社のIR資料を見てみると、以下のような傾向が確認できます。
- 最低手数料が2,500万円の企業では、年間成約件数が横ばいまたは減少傾向
- 売手と買手の双方から最低手数料を徴収する企業では、案件化から成約までの期間が長期化
- 1人のコンサルタントあたりの年間成約件数が1件未満という会社も存在
たとえば、売手が「1億円で会社を売りたい」と考えているとき、買手が提示できる金額が1.2億円だったとしても、仲介会社が売手・買手からそれぞれ2,500万円ずつ手数料を取ろうとすれば、間に5,000万円のコストが発生します。この場合、売手の手取りが7,500万円にまで減ってしまい、売却を断念することもあります。
つまり、最低手数料が高いことで、そもそも成約ラインに届かなくなるケースが生じるのです。
コンサル1人あたりの成約件数に現れる傾向
このような傾向は、各社のIR資料に記載されている「コンサルタント数」と「成約件数」からも読み取れます。以下のようなデータが報告されています。
会社名 | 年間成約件数 | コンサルタント数 | 1人あたり成約件数 | 最低手数料 |
---|---|---|---|---|
M&Aキャピタルパートナーズ | 250件 | 300人 | 0.83件 | 2,500万円 |
M&A総合研究所 | 120件 | 200人 | 0.60件 | 2,500万円 |
インテグループ | 100件 | 50人 | 2.00件 | 1,500万円 |
ジャパンM&Aソリューション | 80件 | 30人 | 2.67件 | 500万円 |
この表から明らかなように、最低手数料が高い仲介会社ほど、コンサルタント1人あたりの成約件数が少ない傾向にあります。これは、手数料が高いために成約に至る案件が限られ、担当者の業績が伸びにくい構造になっていると考えられます。
加えて、M&A仲介は1人のコンサルが複数案件を同時に担当するのが一般的であり、本来は年間2〜3件の成約も可能なはずです。それにもかかわらず、1件未満という実績にとどまっている場合は、手数料体系そのものがハードルとなっている可能性が高いといえるでしょう。
成約率の高さをうたう仲介会社もありますが、その算出方法は「案件化数に対する成約数」ではなく、「クロージング段階に入った案件に対する成約数」であることが多く、数字のマジックが隠れているケースもあります。M&AキャピタルパートナーズやM&A総研などの上場企業では、IR資料に明示された「総案件数」と「成約数」から成約率を推計することが重要です。
このように、手数料の高さは、数字上のパフォーマンスにすでに影響を及ぼしており、利用者側が「高額な手数料を払ってまで依頼する価値があるかどうか」を見極める判断材料になると言えるでしょう。
特に、売却希望額が1億円以下のスモールM&Aでは、最低手数料が2,000万円を超える場合、手取りに大きな影響を与えるため、売手・買手双方にとって不利な条件となることが多いのが現実です。
仲介会社側にとっては、「1件でも決まれば大きな利益が確保できる」仕組みである一方、顧客にとっては「費用対効果が見合わないリスク」が潜んでいます。
よって、最低手数料が高額な仲介会社に依頼すれば、必ずしも高品質なサービスや高確率での成約が得られるわけではなく、むしろ「成約に至りにくい構造」を内包している可能性があることを理解しておくべきです。
3.なぜ高い手数料でも依頼が集まるのか?
DM営業や広告戦略の裏側
M&A仲介会社の中でも、最低手数料が2,000万円を超えるような大手企業に依頼が集中するのは、必ずしもサービスの質が圧倒的に高いからではありません。最大の理由は、「接触機会の多さ」による営業戦略の成功にあります。
たとえば、M&A総合研究所のような仲介会社では、顧客紹介ルートよりもダイレクトマーケティング(DM)やテレアポといった直接営業に注力しています。これにより、知名度の低い企業にも積極的にアプローチが可能で、経営者の目に触れる機会が自然と増える仕組みになっているのです。
以下は、主な大手仲介会社の営業手法の比較です。
会社名 | 営業手法 | 特徴 |
---|---|---|
M&A総合研究所 | DM・テレアポ中心 | 最短即日対応/AIマッチング強調 |
日本M&Aセンター | 士業からの紹介中心 | 地域密着/士業ネットワーク活用 |
ストライク | セミナー/DM/HP誘導 | 公開案件数が豊富 |
このように、広告やDM営業を活用する仲介会社は、顧客獲得にかかる紹介料を抑えられる一方で、得た報酬をさらに広告投資に回すことで、新たな顧客を獲得する「収益サイクル」を構築しています。
さらに、テレビCMやYouTube広告などで「安心・信頼」「成約実績No.1」などの文言を繰り返し訴求することで、初めてM&Aを検討する経営者に対し強い印象を与えています。実際には「No.1」の根拠が限定的な指標(例:問い合わせ数や累積件数)に基づく場合も多く、鵜呑みにするのは危険です。
また、Google検索で「M&A 仲介」などと調べると、上位表示されるのは大手企業の広告ばかりであり、情報収集段階で自然と候補が限定されてしまうこともあります。
- 派手な広告により「実績がある=手数料が高くても安心」と誤解される
- DMや電話が頻繁に届き、「とりあえず話だけでも」と接点が生まれる
- 他社と比較しないまま契約に至るケースが多い
このように、手数料の高さではなく「接触頻度の多さ」が依頼につながる大きな要因となっているのが現状です。
売主が比較検討をしない理由とは
M&Aを検討する経営者の多くは、事業承継のタイミングで「なるべく早く」「信頼できる相手に」引き継ぎたいと考えています。その焦りや不安が、冷静な比較検討を行う余裕を奪ってしまっているのです。
特にM&Aは、周囲に相談しづらいテーマであるため、最初に接触した仲介会社にそのまま任せてしまう傾向があります。以下に、経営者が仲介会社を比較しない理由をまとめました。
- 事業売却の話を外部に知られたくない
- 他社のサービスや手数料体系を調べる時間がない
- 「上場企業だから安心だろう」という先入観がある
- 初回の対応が丁寧だったため、比較の必要性を感じない
また、仲介会社の営業担当が「今すぐ動けば良い買手がいる」「今月中であれば手数料を割引できる」といった“今しかない感”を煽ることで、売主が他社を検討する前に契約に踏み切るパターンも多く見られます。
実際に、筆者がこれまで支援してきた案件でも、
- 最低手数料2,500万円と提示された会社から乗り換えた結果、手数料800万円で成約できた例
- 最初の仲介会社が売手目線での説明を怠っていたため、買手からの提案が不成立になった例
といったケースが数多くありました。
このように、M&A仲介業界では「早く契約を取りたい仲介会社」と「判断に迷う売主」との情報格差が、手数料の高さを容認してしまう背景となっています。
経営者にとって最も重要なのは、「成約して初めて意味がある」という視点を持ち、冷静に複数社を比較する姿勢です。
したがって、なぜ高い手数料でも依頼が集まるのかといえば、それは広告・営業の巧妙さと、売主側の情報不足や心理的な焦りが組み合わさって起きている現象なのです。
4.M&A仲介手数料の値上げトレンド
上場仲介会社の値上げ履歴
近年、上場しているM&A仲介会社の間で、最低手数料の値上げが相次いでいます。これは一時的な現象ではなく、業界全体で「報酬の高単価化」が進行していることを示しており、特に中小企業のM&Aにとっては看過できないトレンドです。
以下に、主要な仲介会社の最低手数料に関する変更履歴をまとめた表をご紹介します。
仲介会社名 | 旧最低手数料 | 新最低手数料 | 改定時期 | 備考 |
---|---|---|---|---|
ストライク | 1,000万円 | 2,000万円 | 2023年 | 倍額の引き上げ |
オンデック | 750万円 | 1,000万円 | 2022年頃 | 中小案件中心の会社 |
インテグループ | 500万円 | 1,500万円 | 2023年 | 3倍に引き上げ |
経営承継支援 | 500万円 | 1,000万円 | 2022年頃 | 地域密着型 |
このように、短期間で2倍〜3倍もの値上げが行われており、特に500万円→1,500万円へと改定したインテグループのような例は、非常にインパクトのある動きといえるでしょう。
背景には、上場企業としての利益成長プレッシャーがあり、「件数をこなす」よりも「1件あたりの単価を上げる」ことで業績を安定化させたいという戦略的意図が透けて見えます。
これは営業利益率の改善にも直結しており、値上げ後に利益率が大幅に改善した事例も散見されます。IR資料や決算短信からも、単価向上により収益が増えた旨の記載がなされており、特別なコスト増を伴わない「単純な料金改定」であることが分かります。
値上げによる影響と違和感の正体
問題は、こうした手数料の値上げが、提供するサービスの内容や付加価値の向上と必ずしも比例していない点です。つまり、値上げを正当化するだけの「付加的な支援内容」や「専門性の深化」が伴っていない場合が多いのです。
実際には、以下のようなギャップが発生しています。
- 手数料は2倍になったが、提供されるサービス内容は以前とほぼ同じ
- 担当者のスキルや経験年数はさほど変わらないまま
- 案件の難易度や工数に見合わない報酬設定となっている
例えば、1億円規模のM&A案件において、以前は500万円程度で依頼できていた仲介が、今では1,500万円〜2,000万円以上を請求されることが当たり前になっています。にもかかわらず、コンサルタント1人あたりの年間成約件数が減少傾向にあることも、公表資料から読み取れます。
このような状況は、特にスモールM&A(1億円以下の取引)において顕著で、手数料比率が10%〜20%を超えることすらあるため、売手・買手双方にとって大きな負担となります。
また、仲介会社によっては「完全成功報酬制」や「AIマッチングによる効率化」などを打ち出してはいますが、実際の業務内容は旧来のM&Aプロセスと変わらず、実質的に顧客負担だけが重くなっているケースもあります。
さらに、手数料を高く設定することで、仲介会社が売手・買手双方の希望価格に調整を加えにくくなり、結果的に成約が困難になるという本末転倒の現象も起きています。
たとえば、売手が1億円での譲渡を希望し、買手が1.2億円まで支払えるとします。仲介会社が双方から2,500万円ずつ報酬を取ろうとすれば、提示可能価格は0.95億円となり、売手希望を満たせず交渉が決裂します。これは明らかに「手数料の高さ」が成立の障害となる典型例です。
つまり、最低手数料の値上げは、仲介会社にとっては利益を伸ばすための有効手段である一方、顧客にとっては成約可能性や条件の柔軟性を奪うリスク要因でもあるのです。
こうした値上げの「違和感」は、業界の競争環境が激化し、案件の獲得競争ではなく「単価勝負」にシフトしたことが背景にあります。顧客本位のサービスよりも、企業の成長戦略としての手数料設計が優先されている点には注意が必要です。
まとめると、M&A仲介会社の最低手数料の値上げは、利益率や株主価値向上という経営判断の一環として進められたものであり、必ずしも顧客の利益に直結していないことが多くあります。経営者は、料金改定の背景や提供サービスの実態をよく見極めた上で、信頼できる仲介パートナーを選ぶ必要があります。
5.小規模仲介会社との比較で見えるリアル
成約重視vs利益重視のビジネスモデル
上場している大手M&A仲介会社と、地域密着型の小規模仲介会社では、ビジネスモデルに大きな違いがあります。前者が「利益重視」、後者が「成約重視」のスタンスをとる傾向があり、これは手数料体系や案件への取り組み姿勢に明確に表れています。
大手仲介会社は、株主への収益責任を負う立場にあり、営業利益率やROEなどの数値を重視せざるを得ません。そのため、1件あたりの報酬単価を高める戦略が採られ、最低手数料が2,000万円〜2,500万円に設定されている企業も多く見られます。
一方、小規模な仲介会社は「数をこなしてナンボ」という考えのもと、案件ごとの成約率を高めることに力を入れています。報酬も500万円〜1,000万円程度に抑えられ、規模の小さな案件や再生案件でも積極的に引き受ける姿勢が特徴です。
以下は、大手と小規模仲介会社の主な違いをまとめた比較表です。
項目 | 上場大手仲介会社 | 小規模・地域密着型 |
---|---|---|
最低手数料 | 2,000万円〜2,500万円 | 500万円〜1,000万円 |
営業方針 | 利益率重視 | 成約件数重視 |
対応案件 | 高単価・好条件に集中 | 小規模・特殊案件にも対応 |
成約率 | 低〜中(0.5〜1件/人・年) | 高め(1.5〜3件/人・年) |
対応スピード | 一定の社内承認を要する | 意思決定が早く柔軟 |
このように、M&A仲介会社といってもその戦略はまったく異なります。特に中小企業の売却や事業承継を検討している経営者にとっては、単に知名度や上場有無で選ぶのではなく、どのような案件に強みを持ち、どんな姿勢で支援してくれるかが重要な判断軸となります。
成約しやすい仲介会社の特徴とは?
では、実際に「成約につながりやすい仲介会社」にはどのような特徴があるのでしょうか。これにはいくつか共通する傾向が見られます。
- 最低手数料が1,000万円以下で柔軟な設定が可能
- コンサルタントが最初から最後まで一貫して担当
- 買手企業との関係性を地道に築いている
- 売手企業の課題に真摯に向き合い、改善提案も行う
- 数字を作るための“営業都合”ではなく、売主の立場で提案
筆者の実務経験でも、地方の事業承継案件においては大手仲介会社が「手数料が合わない」と辞退した案件を、小規模な仲介会社が粘り強く支援し、最終的に売主・買手の双方が納得のうえで成約に至ったケースが数多くあります。
また、買手候補の紹介にしても、単に「買う意思がある」というだけでなく、「経営方針の親和性」「地域での雇用継続の意思」「既存従業員との相性」まで考慮したうえで提案できる仲介会社は信頼に値します。
一方で、大手仲介会社の場合、「報酬が見合わない」と判断されると突然対応を打ち切られたり、案件化されたもののその後放置されるといった声も少なくありません。こうした背景から、特に1億円未満のスモールM&Aにおいては、小規模な仲介会社の方が成果を出しやすい構造になっているといえます。
もちろん、すべての小規模仲介会社が優れているわけではありませんが、手数料の柔軟さ・現場への密着度・誠実な対応力という点で、売手にとって魅力的な選択肢となるのは間違いありません。
まとめると、大手仲介会社は「利益最適化」を志向しやすい一方、小規模仲介会社は「成約最適化」に重きを置いており、それが報酬体系や対応スタンスの違いとして表れています。成約を目指すのであれば、自社に合ったスタンスを持つ仲介会社を見極めることが大切です。
6.実際の成約率と営業利益率の一覧データ分析
図表から読み取れる傾向と矛盾
上場しているM&A仲介会社の公開情報から、営業利益率や成約件数などの数値を比較すると、各社のビジネスモデルや手数料体系に隠れた実態が見えてきます。一見すると、成約件数が多い企業ほど業績が良いように思われがちですが、実際には「高い手数料設定をした方が利益率が高くなる」という、ややいびつな構造が浮かび上がります。
以下は、主な仲介会社について、IR資料などから読み取れる営業利益率と成約件数、最低手数料の一覧です(※一部は推計値を含む)。
会社名 | 最低手数料 | 年間成約件数 | コンサル数 | 1人あたり成約数 | 営業利益率 |
---|---|---|---|---|---|
M&Aキャピタルパートナーズ | 2,500万円 | 約250件 | 約300人 | 約0.83件 | 50%前後 |
M&A総合研究所 | 2,500万円 | 約120件 | 約200人 | 約0.60件 | 55〜60% |
ストライク | 2,000万円 | 約300件 | 約250人 | 約1.20件 | 30〜35% |
インテグループ | 1,500万円 | 約100件 | 約50人 | 約2.00件 | 20%台後半 |
ジャパンM&Aソリューション | 500万円 | 約80件 | 約30人 | 約2.67件 | 非上場のため非公開 |
この表から読み取れる重要なポイントは、以下の通りです。
- 最低手数料が高い企業ほど営業利益率が高くなりやすい
- しかしその分、1人あたりの成約件数は低くなりやすい
- 逆に、最低手数料が低い企業ではコンサル1人あたりの成約件数が高くなる傾向がある
これはつまり、「1件決まれば大きく儲かる」体制を構築している企業ほど、実際の成約数を稼ぐ必要がなくなり、件数よりも単価を重視しているということを意味します。一方で、小規模や中堅の仲介会社は、手数料を抑えながらも多数の案件を成立させることで業績を上げています。
この構造は、顧客側にとって不利に働く可能性があります。たとえば、高い手数料を設定している仲介会社では、売手と買手の条件調整が難しくなり、結果として「成立しないM&A」が増えてしまう恐れがあります。これにより、売主の時間と情報が浪費されるだけでなく、最終的に交渉が破談することもあります。
顧客不利の構造が見える数字のカラクリ
成約件数と営業利益率の関係は、仲介会社の営業戦略と顧客対応スタンスの違いを如実に表しています。特に注意すべきは、「数字上は儲かっている=良いサービスを提供している」とは限らない点です。
高い利益率を保つために、以下のような「構造的なバイアス」が存在します。
- 高額な手数料設定により、交渉の柔軟性が損なわれる
- 成約率よりも受注単価を重視するインセンティブ設計
- コンサル個人の年間目標件数が1〜2件と低く、成約への積極性に差が出る
- 受注段階で「売手の希望条件に届かない」と判断される案件は早期に切り捨てられる
このような構造では、売手の希望額と買手の条件がある程度マッチしていても、「仲介会社の手数料を確保できない」と判断された時点で交渉が止まってしまうケースがあります。つまり、買手と売手の利益よりも、仲介会社自身の利益が優先される局面があるということです。
また、上場企業である以上、四半期ごとの業績目標や株主への説明責任も存在するため、コンサルタント個人が「今期は1件でも高単価を取りたい」という判断を優先してしまうケースもあるでしょう。
一方で、営業利益率が低くても、着実に成約数を重ねている企業では、顧客対応が柔軟で、条件調整にも時間をかけている傾向があります。成約件数が多いことは、結果的に「顧客の期待に応えた証拠」であるともいえます。
これらの数値をもとに判断する際は、単なる「営業利益率の高さ」に目を奪われるのではなく、「コンサル1人あたりの成約件数」「最低手数料の水準」「案件の受け入れ方針」など、複数の観点から企業を比較することが重要です。
まとめると、成約率と利益率のデータからは、仲介会社が重視しているのが「成約件数」なのか「利益単価」なのかという戦略的な違いが見えてきます。M&Aの成功を目指す経営者は、こうした数字の裏にある構造的なカラクリを理解し、納得できる報酬体系と支援姿勢を持つ仲介会社を選ぶことが、後悔のないM&Aへの第一歩となります。
7.仲介会社を選ぶときのチェックポイント
成約重視で選ぶべき3つの基準
M&Aを成功させるためには、仲介会社選びが非常に重要です。広告や営業トークだけで判断してしまうと、費用倒れや失敗のリスクが高まります。とくに最低手数料が高額な会社ほど、利益優先で動く傾向があるため、冷静に見極めることが大切です。
まずは、「本当に成約を目指して動いてくれる仲介会社かどうか」を判断するために、以下の3つの観点でチェックしましょう。
- 1. 担当者の成約実績と継続率
担当者個人の年間成約件数や、継続的に案件を成約させているかは信頼性の目安になります。例えば「昨年度5件成約しました」や「3年連続で年間3件以上の成約実績がある」といった実績を確認できれば安心です。 - 2. 案件の受託基準と姿勢
すぐに「やりましょう」と言ってくる仲介会社は注意が必要です。しっかりと会社の財務や希望条件をヒアリングし、「実現可能性があるか」「買手ニーズがあるか」を精査してから受託する会社は、真剣に成約を考えています。 - 3. 自社ではなく顧客にとっての最適を考えているか
「とにかく買手を当てます」「成約すればOKです」といったスタンスではなく、希望条件・従業員の雇用継続・譲渡後の安定まで含めて考えてくれるかが重要です。「この内容だと手数料が発生しないので…」など、自社都合を前面に出す仲介会社は避けましょう。
手数料体系で見抜く危ない仲介会社
仲介会社を選ぶうえで、見落とされがちなのが手数料体系です。一見シンプルに見えても、実は成約を妨げるような「危ない構造」が隠れているケースもあります。以下に、注意すべき手数料のポイントをまとめます。
- 最低手数料が高すぎる(2,000万円以上)
規模の小さい案件でも2,000万円以上の手数料が発生する場合、買手との価格調整が難しくなり、成約が遠のく可能性があります。 - 売手・買手の両方から手数料を取る「両手取引」
一見公平に見えても、利益の最大化が目的となりやすく、「どちらの味方なのか分からない」と感じることがあります。利益相反が起こりやすい仕組みです。 - 成功報酬の割合に偏りがある
着手金や中間金が高すぎる場合、「途中でやめたくてもやめられない」契約になってしまい、実質的に顧客が不利になります。
以下に、安全性が高い手数料体系の一例と、危険度の高い例を比較した表を示します。
項目 | 安全な仲介会社 | 危険な仲介会社 |
---|---|---|
最低手数料 | 500万円〜1,000万円 | 2,000万円〜2,500万円以上 |
手数料の構造 | 完全成功報酬、もしくは低額の中間金 | 高額な中間金+最低保証付き |
売手・買手との関係 | 片手契約で利益相反を避ける | 両手契約で中立性があいまい |
契約時の説明 | リスクや費用構造を明示 | メリットのみを強調しがち |
これらの比較を通じて分かるように、手数料体系そのものが成約のハードルになっている場合もあります。逆に言えば、手数料を柔軟に設計し、案件の性質に応じて対応できる仲介会社は「本気で成約を目指している」と判断できる材料になります。
まとめると、仲介会社を選ぶ際には「実績」「姿勢」「手数料体系」の3つをセットで確認することが不可欠です。広告や一時的な口コミに惑わされず、契約前にしっかりと担当者と話し、数字だけでなく“想い”や“スタンス”に納得できるかを見極めましょう。
まとめ
M&A仲介会社の最低手数料や成約率には、上場企業特有の収益構造が大きく関係しています。知名度や営業力だけに頼らず、本当に成約に導ける仲介会社を見極めるためには、手数料体系や実績、担当者の姿勢まで総合的に判断することが重要です。
- 最低手数料は利益重視の象徴
- 高額手数料は成約率を下げる
- 中小仲介の方が柔軟対応
大切な会社の将来を託すM&Aだからこそ、冷静かつ客観的な視点で仲介会社を選びましょう。詳しく知りたい方は、ぜひアーク・パートナーズまでお問い合わせください。
