M&A仲介 トラブル発生の背景について考察
「M&A仲介会社に依頼したのに、話が進まない」「売却後にトラブルが多発し、誰に責任を問えばよいのかわからない」——
そんなお悩みをお持ちではありませんか?M&Aは人生を左右する一大イベントであるにもかかわらず、仲介会社の対応ひとつで大きなトラブルに発展するケースも少なくありません。
本記事では、M&Aアドバイザーとして10年以上、200件以上のM&A実務に携わってきた筆者が、実際に起きた仲介トラブルの具体例から、事前に防ぐためのポイントまでを初心者にもわかりやすく解説します。
■この記事を読むと得られる3つのこと
- M&A仲介会社とのトラブル実例と、その背景にある構造的問題がわかる
- 売り手・買い手間で実際に起きたトラブルの代表例と対策法が学べる
- 信頼できる仲介会社の選び方と、トラブルを未然に防ぐ具体的な行動指針が身につく
筆者は中小企業庁登録のM&A支援機関として、信頼性・誠実性・専門性・スピードを重視しながら、経営者の想いに寄り添ったM&A支援を提供してきました。本記事の内容も、現場で実際に見てきたリアルな経験をもとにまとめています。
この記事を読み終える頃には、「仲介会社選びで失敗しないための判断軸」や「交渉や契約のどこに注意を払うべきか」といった視点が明確になり、トラブルを未然に防いで、納得のいくM&Aを進める力が身についているはずです。
ぜひ最後までお読みいただき、大切な事業譲渡や買収を、安心・安全なものにしていきましょう。
0.M&A仲介に関するトラブル事例と対策|初心者にもわかるリスクと防止策の全体像
M&A(企業の合併・買収)は、事業承継や成長戦略の手段として中小企業でも活用が進んでいますが、その裏で数多くのトラブルが発生しています。特に、M&A仲介会社との間で起きるトラブルは、表面化しにくく、事後に大きな損害として跳ね返るケースも少なくありません。
結論からお伝えすると、M&A仲介に関するトラブルは、「仲介会社の不適切な対応」「売り手・買い手の信頼関係の欠如」「契約・情報開示の曖昧さ」が主な原因です。そして、これらの問題は事前の準備と注意で十分に回避できます。
1.M&A仲介で発生する代表的なトラブル
まず、M&Aの現場で実際に起きているトラブルを整理してみましょう。
主なトラブル | 具体的な内容 |
---|---|
情報の非開示 | リスク要因(債務・訴訟リスクなど)が仲介会社から売り手に伝えられていなかった |
手数料に関するトラブル | 報酬体系が不透明で、当初の見積もり以上の請求があった |
買い手の資金力不足 | 仲介会社が紹介した買い手に資金力がなく、買収後にトラブルが発生した |
契約内容の不備 | 契約書に不明確な条項が多く、責任の所在が曖昧だった |
これらの問題は、多くが仲介会社による説明不足や不適切なマッチングによって引き起こされています。
2.公的データが示すM&Aトラブルの実態
中小企業庁の発表によると、M&Aを経験した中小企業のうち、3割以上が「仲介会社の対応に不満を感じた」と回答しています(出典:「中小企業のM&A実態調査(2022年)」)。
また、国民生活センターにも「M&A仲介トラブルに関する相談」が年間数百件寄せられており、その多くが「説明不足」「仲介料のトラブル」「契約後の放置」などです。
これらは個別の企業だけでなく、M&A業界全体の信頼性にも関わる重大な問題です。
3.実際にあったM&A仲介トラブルの事例
事例1:手数料が想定の3倍に膨らんだケース
ある中小企業の経営者は、顧問税理士から紹介された仲介会社を通じて事業売却を行いました。契約書に「成功報酬10%」と記載されていたものの、実際には買収金額とは別に「契約報酬」「相談料」「調査費」などが加算され、最終的に手数料は当初想定の3倍に。
最終的に弁護士を介して仲介会社と交渉し、一部返還には成功しましたが、M&A完了までに1年以上の遅延が生じました。
事例2:買い手の信用調査を怠り、債務が残されたままのケース
別のケースでは、ある製造業の経営者が事業承継のために仲介会社を利用し、買い手企業と合意。ところが買い手には債務返済の余力がなく、取引完了から数ヶ月後に資金繰りが悪化。売却側の保証解除もなされず、旧経営者が保証責任を負う羽目になりました。
仲介会社に信用調査の不足を問うも「買い手は自己責任で選んだ」という一点張りで、結局は自己負担で弁済する事態となりました。
事例3:仲介会社が両者代理し、利益相反が発生
とあるIT企業のM&Aでは、仲介会社が売り手・買い手の両方から報酬を受け取る「両手取引」を行っていました。結果、買い手寄りの価格設定となり、売り手が不利な条件で合意せざるを得なかったとのこと。
契約後にその事実を知った売り手側は不信感を抱き、後から裁判沙汰にまで発展しました。
4.M&Aトラブルを防ぐために重要なこと
こうしたトラブルを避けるには、以下のような事前の対策が不可欠です。
- 信頼できる仲介会社を見極める:中小企業庁登録の支援機関や、M&A支援実績が豊富な企業を選ぶことが重要です。
- 契約内容をしっかり確認する:報酬体系や情報開示の範囲など、曖昧な点がないか専門家にチェックしてもらいましょう。
- 売却後の保証解除やPMIまで視野に入れる:一時的な条件だけでなく、長期的に経営に影響が出ないよう設計する必要があります。
また、契約書や条件については法務専門家のサポートを受けることで、リスクの見落としを防ぐことができます。
5.信頼できる仲介会社を選ぶポイント
最後に、トラブルを未然に防ぐための「仲介会社選び」の観点も整理しておきます。
信頼できる仲介会社の特徴:
- 中小企業庁や地方自治体などに登録されている(M&A支援機関)
- 契約書や手数料体系が明確で、根拠を示して説明してくれる
- 取引の透明性を確保する姿勢がある(売手・買手の両方に偏らない)
- 担当者の対応が迅速かつ丁寧
M&Aは「成功して終わり」ではなく、売却後の経営や責任問題も含めた総合判断が必要です。そのためにも、誠実かつ経験豊富な仲介パートナーを選ぶことが重要です。
6.M&A仲介とは?基本的な役割と仕組み
M&A(Mergers and Acquisitions=企業の合併・買収)を行う際、多くの中小企業が「M&A仲介会社」のサポートを受けます。
この章では、M&A仲介会社とは何をする会社なのか、どんな種類があるのか、そして直接取引とどう違うのかを初心者でもわかりやすく解説していきます。
M&A仲介会社の主な業務とサポート内容
M&A仲介会社は、売り手企業と買い手企業の間に立ち、M&Aを円滑に進めるための「橋渡し役」を担います。
具体的な業務は以下のようになります。
主な業務 | 内容 |
---|---|
企業のマッチング | 売り手と買い手を探し、交渉相手として紹介する |
条件交渉の支援 | 譲渡価格や支払い方法、従業員の処遇など交渉を調整する |
情報収集・整理 | 売り手の財務や業務情報をまとめ、買い手に提供する |
契約書の作成支援 | 基本合意書や最終契約書の内容をサポート(※弁護士との連携が前提) |
スケジュール管理 | M&A全体の流れを管理し、円滑な進行を支援 |
つまり、M&A仲介会社の役割は「売買の相手探し」と「交渉や契約の進行支援」の2つが中心です。とくに初めてM&Aを経験する中小企業にとっては、プロによる進行管理が欠かせません。
M&A仲介会社の種類と特徴
M&A仲介会社にはいくつかの種類があり、それぞれに特徴があります。主に以下の3つに分類できます。
- 大手仲介会社:全国ネットワークを持ち、成約件数も多い。スピード重視だが、画一的な対応になりがち。
- 地域密着型仲介会社:地方の中小企業に特化。地元の実情に詳しく、親身な対応が期待できる。
- 業種特化型仲介会社:医療・介護・ITなど特定の業種に強み。専門知識が必要な業界では安心感がある。
また、仲介会社には「譲渡企業・譲受企業の両方と契約するタイプ(両手型)」と、「一方としか契約しないタイプ(片手型)」があります。
両手型の特徴:
- 成約時に売り手と買い手の両方から手数料を受け取る
- 中立性が失われやすく、利益相反の可能性がある
片手型の特徴:
- 一方にのみ忠実に動くため、立場がはっきりしている
- マッチングが遅れるケースもある
このように、自社の状況や希望に応じて仲介会社のタイプを選ぶことが、トラブルを避ける第一歩となります。
M&A仲介と直接取引の違い
M&Aは、仲介会社を通さずに当事者同士で直接交渉する「直接取引(ダイレクトM&A)」という方法でも進められます。
それぞれのメリット・デメリットを比較すると、次のようになります。
項目 | 仲介を使うM&A | 直接取引 |
---|---|---|
相手探し | 仲介会社が提案してくれる | 自力で探す必要がある |
交渉・調整 | 第三者が間に入り調整しやすい | 当事者間で直接交渉が必要 |
契約リスク | 専門家の支援でリスク回避しやすい | 知識がなければトラブルになりやすい |
費用 | 手数料が発生する | 手数料はかからない |
中小企業のM&Aでは、ほとんどが「仲介会社を利用する」形を取っています。なぜなら、M&Aは専門的な知識と交渉力、契約知識が求められるため、素人同士で話を進めるとリスクが高いためです。
特に、買い手側との信頼関係や、売却後のトラブルを避けるためには、経験豊富な仲介会社や弁護士・会計士と連携することが望ましいでしょう。
信頼できる統計データや公的資料の紹介
経済産業省や中小企業庁の資料では、M&A仲介会社の活用が中小企業の事業承継・成長支援において重要であると位置づけられています。
たとえば、「中小M&Aガイドライン(2024年改訂版)」では、仲介会社の役割や報酬の在り方、契約上の注意点などが明記されており、企業側が安心してM&Aを進められるよう環境整備が進められています。
出典:中小企業庁「中小M&Aガイドライン」
また、同庁の「M&A実態調査報告書(令和4年度)」によれば、M&Aを実施した中小企業のうち約70%が「仲介・FAを利用した」と回答しており、専門家による支援が一般的となっていることがわかります。
まとめ
M&A仲介会社は、売り手と買い手をつなぎ、M&Aを安全に進めるための専門家です。その役割や種類、直接取引との違いを正しく理解することで、無用なトラブルを避けることができます。
特に初めてM&Aを経験する中小企業の経営者にとっては、信頼できる仲介会社を選ぶことが成功の鍵を握ります。
そのためには、「どんな仲介会社があるのか」「自社に合うタイプは何か」「どこまでサポートしてくれるのか」を事前にしっかり把握することが非常に重要です。
7.M&A仲介でトラブルが起こる背景と構造
M&A仲介で発生するトラブルの多くは、表面的なミスや偶然ではなく、業界構造に起因する「根本的な問題」に原因があります。
この章では、なぜM&A仲介の現場で不正やトラブルが頻発するのか、その背景にある「仕組みの歪み」について詳しく解説していきます。
激しい営業競争と業界の給与体系が生む弊害
M&A仲介業界では、営業担当者の報酬体系が「歩合制(インセンティブ重視)」になっていることが多く、それが強引な成約主義につながっています。
たとえば以下のような特徴があります。
- 成約金額の〇%が営業の報酬になる
- 目標件数・ノルマが厳しく設定されている
- 報酬は「成功報酬」が中心で、未成約の場合はほぼ無収入
こうした構造により、「とにかく成約を急がせる」「リスク情報はあえて伏せる」「無理な買い手でも押し込む」といった営業行為が発生しやすくなります。
国が警鐘を鳴らす「M&A業界の構造的課題」
中小企業庁が2020年に発表した「中小M&Aガイドライン」では、以下のような問題点が明記されています。
- 仲介者の営業目標が、成約を最優先にする圧力となっている
- 利益相反の管理が十分でない
- 業界全体の質にばらつきがあるため、顧客が不利益を受けやすい
出典:中小企業庁『中小M&Aガイドライン(第3版)』
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/PDF/guide.pdf
つまり、制度面・報酬面での問題が、営業現場にまで深く影響していることが、国の公式資料からもわかります。
実際に起きた営業インセンティブによるトラブル例
あるオーナー経営者がM&A仲介会社に事業承継を相談したところ、「非常に買収意欲の高い企業がいる」としてスピード重視で話が進められました。しかし、実際には買い手側の資金力が不足しており、M&A後に経営が悪化。
後に発覚したのは、営業担当者が報酬を優先するあまり、買い手の信用調査や財務内容の開示を「曖昧な説明」で終わらせていたという事実です。
中立性が確保されていない仲介体制
本来であれば、仲介会社は「売り手と買い手の間に立つ中立な存在」であるべきですが、実態は必ずしもそうではありません。
特に問題となるのが、「両手取引」と呼ばれる報酬体系です。これは、仲介会社が売り手・買い手の双方から手数料を受け取る形式です。
両手取引の特徴と問題点
比較項目 | 両手型仲介 | 片手型(FA) |
---|---|---|
報酬の出所 | 売り手と買い手の双方 | 売り手 or 買い手の一方 |
中立性 | 利益相反が生じやすい | 依頼者側に忠実 |
主な懸念 | 手数料を得るために強引な成約が増える | 相手の都合に流されにくい |
中小M&Aガイドラインでは、両手型について「利益相反の可能性があるため、開示と管理が不可欠」とされていますが、現場では十分な説明が行われていないケースもあります。
買い手に偏った提案で損失を被った事例
ある医療法人が売却を検討した際、仲介会社から提示された買い手は「資金力があり、成長中の企業」と説明されました。しかし、実際には買い手の目的は物件の不動産取得で、医療事業を継続する意志はなく、数か月後に閉院。
売り手が相談した弁護士によると、「両手取引により、仲介会社は買い手の利害も優先していた可能性が高い」と判断されました。
売手・買手の双方代理による利益相反
利益相反とは、仲介者が「どちらにも良い顔をした結果、どちらにも不利益が生じる」状態を指します。
M&A仲介では、売り手から高く売りたいという意向、買い手からは安く買いたいという意向が当然対立します。しかし、仲介者が両方の利益を同時に満たそうとすることで、次のような問題が発生します。
- 売り手にとって不利な価格設定
- 買い手にとって過大評価の企業紹介
- 本来伝えるべきリスク情報の隠蔽
これが「仲介者による不完全な情報開示」や「意図的なミスリード」につながり、後の訴訟や契約トラブルに発展することが少なくありません。
国の対応:利益相反に関するルール化
中小企業庁のガイドラインでは、「利益相反が発生しやすい構造である以上、そのリスクを十分に開示し、対応策を契約上明示すべき」としています。
具体的には、以下のような管理が推奨されています。
- 両手型であることの明示
- 報酬の算定根拠の開示
- 利益相反の管理手順の文書化
利益相反が放置されたケース
IT系スタートアップがM&Aで売却を進めた際、仲介会社が「両者代理」で動いていたにも関わらず、それを契約上明示していませんでした。
売却後、買い手が従業員のリストラを断行。売り手が当初想定していた「従業員の雇用継続」という条件は無視された結果となりました。仲介会社に抗議しても、「条件に法的強制力はない」として対応されず、後味の悪い取引となってしまいました。
まとめ
M&A仲介におけるトラブルの多くは、個々の担当者のミスではなく、「業界の仕組みそのもの」に起因しています。
- 営業インセンティブにより、無理な成約を押し付ける構造
- 両手型報酬による中立性の欠如
- 利益相反を明示・管理しないまま取引を進める姿勢
これらを理解しないままM&Aを進めると、思わぬ損害を被る可能性があります。
M&Aを成功させるには、制度的な背景まで理解し、信頼できる仲介者を選ぶことが不可欠です。中小企業の経営者こそ、構造的なリスクに注意を払いましょう。
8.M&A仲介に関する代表的なトラブル事例【仲介会社とのトラブル】
M&Aのプロセスで多くの中小企業経営者が直面するのが「仲介会社とのトラブル」です。
売却をスムーズに進めるために依頼したはずの仲介会社が、実は問題の火種になっているケースも少なくありません。
ここでは、実際によく見られるトラブルを6つの観点から整理し、背景と実例を踏まえて詳しく解説していきます。
当初の説明と異なる内容で進行した
仲介会社の営業段階で受けた説明と、実際に契約が進んでからの対応が大きく異なるケースは珍しくありません。
たとえば、以下のような食い違いが起こります。
- 「買い手がすでに複数いる」と言われたが、実際は一件も紹介されない
- 「従業員の雇用は継続される」と言われたが、契約後すぐにリストラ
- 「税理士・弁護士とも連携してくれる」と言われたが、丸投げ対応だった
これは、営業担当者が成約のために「過度な期待」を煽るような説明をすることが原因です。
実例:約束された従業員の雇用が守られず、訴訟寸前に
ある製造業の社長は、従業員の雇用継続を強く希望して仲介会社に依頼しました。営業担当者は「その条件で問題ない」と説明。
しかし、契約書には雇用継続に関する明記がなく、買収後すぐに工場は閉鎖、従業員は全員解雇に。社長は憤慨し、仲介会社に抗議するも「法的な義務はない」と一蹴されたとのことです。
重大なリスク情報が事前に共有されなかった
仲介会社は売り手・買い手の間に立ち、情報を公平かつ正確に伝える責任があります。
しかし、買い手の財務不安や訴訟リスクなど、「成約に不利な情報」が隠されることがあります。
たとえば、
- 買い手が複数社とM&A交渉を進めている
- 買い手に過去の粉飾決算歴がある
- 実質的な経営者が別に存在する
といった情報が事前に知らされていれば、売り手は契約を見送っていたはずです。
実例:買い手が倒産寸前だったにもかかわらず契約
サービス業のA社は、仲介会社の紹介でM&Aを進めたが、買い手企業は資金繰りが極めて悪く、実際にはM&A完了直後に倒産。
その結果、A社の従業員や取引先にも大きな影響が出ました。
仲介会社は買い手の資金状況を把握していたが、「営業上マイナスになる」として黙認。売り手側から訴訟寸前まで争われたケースです。
仲介会社の手数料が不透明
M&A仲介会社の報酬は一般に「成功報酬(レーマン方式)」と呼ばれる形式が使われますが、実際には以下のような問題が発生します。
- 契約後に「調査費」や「手続費用」が追加請求される
- 売買額に対する報酬率が二重に設定されている
- 報酬算出基準が曖昧で質問しても明確な回答がない
中小企業庁もこの点に注意を促しており、「報酬体系の説明がない、または不明確な仲介会社はリスクが高い」としています。
実例:最終的な手数料が当初の3倍に膨らんだ
B社は、最初の説明で「報酬は成約金額の5%」と聞いていました。
しかし契約締結後、「資料作成費」「調査協力費」などが追加され、最終的に約1,000万円近い支払いに。
経営者が問いただしても、「契約書の記載には問題ない」とされ、泣き寝入りするしかなかったと語っています。
M&Aプロセスの遅延や放置
「契約を結んだのに、話が一向に進まない」――これは実際によくある問題です。
原因の多くは、仲介会社が多数の案件を同時に抱え、リソースが不足していること。
もしくは、見込みの低い案件を“放置”して、成約しやすい案件にリソースを集中するケースも存在します。
- 連絡が取れない・返事が遅い
- 買い手候補を一切紹介しない
- 進行スケジュールが共有されない
こうした状況が続くと、M&A自体を断念せざるを得なくなり、経営者にとっては大きな時間と労力の損失です。
実例:着手金だけ支払って半年間放置された
C社は、大手仲介会社にM&Aを依頼し、着手金を30万円支払いました。しかしその後、半年間まったく動きがなく、連絡も取れず。
ようやく担当者が交代し、案件が進み出したものの、当初のスケジュールは大幅に遅れ、予定していたタイミングでの譲渡は不可能となりました。
法的責任・共同不法行為に関する訴訟事例
M&A仲介会社は、明確な法的資格を必要とせず参入できるため、対応がずさんであっても明確な処分が下されることは少ないのが現状です。
しかし近年では、契約不履行や情報の隠蔽、損害発生に対して、売り手・買い手側が仲介会社を訴えるケースも増えています。
公的統計:法的トラブルに関する相談件数
国民生活センターによれば、M&A仲介に関するトラブルの相談は年間数百件にのぼり、以下のような内容が多く報告されています。
- 約束された買い手の紹介がなかった
- 報酬に関して契約と異なる請求があった
- 契約後に音信不通になった
「ルシアン事件」など実例から見る仲介不正
M&A業界で社会的に注目されたのが、「ルシアン事件」です。これは、仲介会社を通じたM&Aで、売り手企業の資金が買い手に吸い上げられ、経営者保証の解除も行われず、結果として売り手が多額の損失を被った事件です。
ポイントとなるのは、仲介会社が買い手の実態やリスクを十分に精査せず、形式上の書類だけで取引を進めたことにあります。
事件の概要
- 売り手の希望条件(保証解除・雇用維持など)は反映されず
- 買い手は別案件でも同様の吸い上げをしていた
- 仲介会社は当初の問題に気づいていたが、対応せず進行
この事件をきっかけに、M&A業界のモラルや仕組みに対して、社会的な見直しが求められるようになりました。
まとめ
M&A仲介会社とのトラブルは、単なる「誤解」や「担当者のミス」ではなく、業界構造や制度の問題が背景にあります。
特に以下のようなトラブルは、注意が必要です。
- 当初の説明と違う内容で進行される
- 重要な情報が意図的に隠される
- 報酬体系が不透明で後から追加請求
- 契約後に放置される
- 法的責任があいまいで泣き寝入りになる
- 社会的に問題となるレベルの不正事例も実在
これらを未然に防ぐためには、契約前に十分な確認を行い、「信頼できる仲介会社を見極める力」が何よりも重要です。
次章では、その具体的な選び方について詳しく解説します。
9.M&Aにおける売り手・買い手間のトラブル事例
M&Aにおけるトラブルは、仲介会社との問題だけではありません。売り手と買い手の間でも、契約内容や経営方針の違いなどによってさまざまな問題が発生しています。特に中小企業のM&Aでは、情報不足や期待のすれ違いが原因で、譲渡後に深刻な事態を招くこともあります。
ここでは、売り手・買い手間で発生しやすい代表的なトラブルを6つの視点から解説し、それぞれの背景や実例を通して対策のヒントを提供します。
契約内容や価格に関するトラブル
M&Aでは、最終的に締結する「最終契約書(SPA)」がすべてのルールのベースになります。しかしこの契約内容が不明確だったり、当事者の理解が異なっていたりすると、契約後に「そんな話じゃなかった」という事態が起こります。
よくあるトラブルは以下の通りです:
- 希望価格と実際の成約価格が大幅に違う
- 価格に含まれる資産・負債の範囲が明確でない
- 売り手が引継ぎ義務を負う期間や内容の誤認
実例:売却金額に含まれる借入金の存在を知らず
製造業を営むD社の経営者は、M&A仲介会社を通じて事業譲渡を行いました。譲渡価格として提示された2億円に満足して契約しましたが、後からその金額には「銀行借入金の返済」が含まれていたことが発覚。結果、手元に残ったのはわずか数百万円で、期待していた退職後の生活設計が大きく崩れてしまいました。
デューデリジェンス不足による失敗
デューデリジェンス(DD)とは、買収前に相手企業の財務・法務・人事・事業などを調査する作業です。この工程が不十分な場合、買収後に重大なリスクが表面化する可能性があります。
たとえば:
- 簿外債務の発見(未払い残業、未計上借入など)
- 顧客離脱リスクの見落とし
- 訴訟リスクや契約違反の確認漏れ
実例:未申告の税務リスクが買収後に発覚
あるIT系企業を買収したE社は、買収後半年以内に税務署の調査が入り、過去3年間の申告漏れと多額の追徴課税が発覚しました。買収前に税務デューデリジェンスを実施していなかったため、このリスクに気づかず、結果的に数千万円の損失を負うことになりました。
PMI(統合プロセス)での衝突
PMI(Post Merger Integration)とは、M&A後に両社を一つの組織として統合するプロセスを指します。この統合がうまくいかないことで、業務効率が下がったり、社員の不満が爆発したりといった問題が発生します。
PMIで起きやすい問題:
- 意思決定プロセスの違いによる混乱
- 役職や給与などの待遇差による社員の不満
- 業務システムの違いによる非効率化
実例:業務フローのすり合わせ不足で混乱
飲食チェーンを買収したF社では、店舗の発注・在庫管理システムが自社のものと大きく異なっていました。買収後に一斉にシステムを切り替えたところ、現場が混乱し、多くの店舗で食材不足や過剰在庫が発生。顧客満足度も下がり、売上が大幅に落ち込む結果となりました。
社員の大量離職や経営崩壊
M&Aは企業の所有者が変わるだけでなく、文化や風土の違いによって「職場の空気」が大きく変わることもあります。そのため、社員が不安を感じて大量に退職する事態も多く発生しています。
原因としては:
- 新経営陣との価値観の違い
- 将来性への不安
- リストラや配置転換の懸念
実例:買収直後に中核人材がごっそり退職
人材派遣会社G社を買収したH社は、「既存のマネジメント層もそのまま活躍してもらう」としていたにもかかわらず、買収後に経営方針を一方的に変更。結果、営業部長や支店長クラスの中堅社員が次々に辞職し、売上が半減しました。
買い手の資金吸い上げや保証解除の未履行
M&Aでは、売り手が連帯保証人として銀行借入の保証をしているケースも多く、本来は譲渡後に保証解除を進めるのが通例です。しかし、買い手がこの手続きを怠り、売り手がそのまま借金の責任を背負い続けるケースもあります。
また、買い手が「資金の一元管理」と称して、売却された企業の運転資金を抜き取ってしまうこともあります。
実例:保証解除されずに旧社長が多額の借金を背負う
建設業のI社を売却したJ氏は、譲渡後に個人保証の解除を約束されていましたが、買い手が金融機関との交渉を行わず放置。結果、買い手の経営が悪化した際にJ氏に数千万円の請求が届きました。
買い手側の信用力不足や経営能力の問題
M&Aの買い手企業には、「とにかく会社を買って拡大したい」という思惑のもと、複数社を連続買収する企業も存在します。しかし、経営能力や資金力が伴っていないと、結果的に買収された企業がダメージを受けることになります。
見抜きにくいリスク:
- 買い手の事業経験が浅い
- 買収資金を借入でまかなっている
- 統合経験がなく、PMIが進められない
実例:連続買収中の企業に売却し、経営が崩壊
美容サロンを複数経営するK社が、経営者引退にあたり別のチェーン企業に売却。しかし、買い手企業は過去にも5社を買収しており、資金繰りが限界に達していました。結果、K社のサロン運営が滞り、従業員の給与遅延や顧客対応の不備が相次ぎ、経営は実質破綻に。
まとめ
M&Aにおける売り手と買い手の間のトラブルは、仲介会社の対応とはまた違った実務上の落とし穴です。契約内容の不一致、調査不足、文化の違い、資金面の不安定さなど、トラブルの火種はあらゆるところに潜んでいます。
こうした問題を防ぐためには、
- 契約内容を細かく確認し、専門家にチェックしてもらう
- デューデリジェンスを徹底し、簿外リスクを洗い出す
- PMIの計画を事前に合意する
- 買い手の経営力や資金計画を冷静に見極める
ことが何より重要です。信頼できる仲介者・専門家を巻き込みながら、冷静で慎重な意思決定を行いましょう。
10.M&Aにおける売り手・買い手間のトラブル事例
M&Aでは、仲介会社とのトラブルだけでなく、売り手と買い手の直接的な関係に起因するトラブルも多く発生しています。これらのトラブルは、金銭や契約内容に関するものから、従業員や会社の将来に関わる重大な問題まで多岐にわたります。
以下では、特に発生頻度が高く、深刻な結果につながりやすい6つのトラブル事例について解説します。
契約内容や価格に関するトラブル
M&Aにおいて最終的な条件を定めるのが「最終契約書(SPA)」です。しかし、交渉の過程で十分な確認や合意がされないまま契約が締結されると、売却価格や引継ぎ義務などに関する誤解が発生し、深刻なトラブルに発展します。
具体的には以下のような問題が生じています:
- 希望価格と実際の譲渡金額が大幅に異なる
- 在庫や借入金など資産・負債の取り扱いが曖昧
- 譲渡後の経営関与や支援期間に関する食い違い
実例:契約書を読まずにサインし多額の借金を抱えたケース
中小企業A社のオーナーは、仲介会社の説明を信じて譲渡契約を締結しました。しかし、契約書には「借入金込みでの価格」である旨が明記されており、売却金から借金返済分が差し引かれた結果、想定の半額以下しか手元に残らない事態に。弁護士に相談した時点では契約解除もできず、後悔を抱えたままM&Aを終えることになりました。
デューデリジェンス不足による失敗
デューデリジェンス(DD)は、M&Aにおいて売り手企業の財務や法務、人事などを詳しく調査する重要な工程です。買い手がDDを怠ったり不十分だった場合、後に重大なリスクが顕在化し、損失を被ることがあります。
経済産業省の「中小M&A推進計画」(2021年)でも、DDの実施不足による失敗事例が多数報告されており、特に小規模事業者では専門家を介さずDDを省略するケースが多いことが指摘されています。
- 過去の債務や未払い残業代が発覚
- 税務調査で多額の追徴課税を受ける
- 主要顧客との契約が終了間近で売上が激減
実例:買収後に簿外債務が発覚し、再建不能に
B社はC社を1億円で買収したが、買収後に未払社会保険料や顧問弁護士費用、役員退職慰労金など計3000万円の簿外債務が発覚。買収資金でキャッシュが減少していたB社にとっては致命的で、結果的にC社を清算することとなりました。
PMI(統合プロセス)での衝突
PMI(Post Merger Integration)とは、M&A後に両社を一つの組織として統合していく過程です。特に人事制度や社風、業務プロセスが異なる会社同士では、PMIを軽視すると従業員の不満や業務混乱が発生しやすくなります。
内閣府の「企業統合後のマネジメントに関する研究報告書」でも、PMIの失敗がM&A全体の成功率を大きく下げる要因であるとされています。
典型的な問題点は以下の通りです:
- 役職や報酬体系の違いによる不満
- 業務フローや会議体の非効率化
- 組織文化の衝突によるストレス
実例:トップダウン型買い手に現場が反発し売上激減
創業30年の地場小売企業D社が、急成長中のE社に売却されたが、E社は徹底したKPI主義と本社主導型マネジメントを導入。現場社員が反発し、主要店舗の店長3名が一斉退職。その影響で顧客対応も崩れ、売上が25%減となった。
社員の大量離職や経営崩壊
M&Aは経営者にとって「事業承継」でも、従業員にとっては「突然の職場の変化」と映ります。とくに説明が不十分だった場合や新体制に不安が残る場合、大量離職や士気低下が起こりやすくなります。
国の「中小企業白書(令和3年版)」でも、従業員がM&Aに強い不安を抱いていることが指摘されています。
- 買い手企業の方針が急変し現場が混乱
- 従業員の処遇に関する説明不足
- 社長が退任することで心理的な動揺が広がる
実例:技術スタッフの離脱で工場稼働が停止
F社の製造工場は、熟練の技術者による手作業が重要でした。しかし買収後に待遇が変更され、10人中8人が退職。新しいスタッフでは対応できず、半年で主要な取引先3社が離脱し、経営が立ち行かなくなりました。
買い手の資金吸い上げや保証解除の未履行
M&A後、売却企業の資金を親会社が吸い上げ、運転資金が枯渇して業績が悪化するケースもあります。また、売り手が個人で保証している借入金の「保証解除」が行われないまま放置され、後に売り手が請求を受けるといったトラブルも後を絶ちません。
経済産業省の「M&Aハンドブック」では、保証解除については契約書に明記することが重要だとされています。
実例:旧経営者が2年後に3000万円の支払い請求を受ける
建設業を営むG社の社長は、M&Aにより会社を譲渡しました。譲渡時に「保証解除は引き継ぎ後に買い手が実施する」とされていましたが、実際には行われず放置。その後、買い手企業が倒産し、保証人であったG社長に銀行から全額請求が届きました。
買い手側の信用力不足や経営能力の問題
M&Aは「買い手が優良企業であること」が前提になりますが、実際には見せかけの実績や一時的なキャッシュを背景に買収を進める企業も存在します。
特に注意すべき買い手の特徴:
- 連続買収を繰り返し財務が不安定
- 統合ノウハウがなくPMIに失敗しやすい
- 業界経験がなく戦略性に欠ける
実例:コンサル系買い手が現場を理解できず業績悪化
飲食チェーンを買収したH社は、コンサルティング会社であり飲食業の実務経験がゼロ。店舗オペレーションに現場感覚がなく、非現実的な指示が乱発された結果、スタッフが疲弊して退職者が相次ぎ、売上は3割減に落ち込みました。
まとめ
売り手と買い手の間には、「売りたい」「買いたい」という思いだけでは乗り越えられないギャップがあります。契約、価格、社員の処遇、統合プロセス、信用調査など、多角的な視点で準備と対策を講じなければ、後から大きな代償を払うことになりかねません。
こうしたリスクを回避するには、
- 契約書を隅々まで確認し、専門家の意見を取り入れる
- 徹底したデューデリジェンスを実施する
- PMIの計画と社員への説明を怠らない
- 買い手の経営力・財務状況・業界経験を精査する
といった準備が不可欠です。M&Aは慎重に、信頼できる専門家と共に進めていくことが成功への第一歩となります。
11.仲介会社を選ぶ際のポイントとトラブル回避策
M&Aを成功させるためには、信頼できる仲介会社を選ぶことが非常に重要です。仲介会社の力量や姿勢次第で、トラブルを未然に防ぐことができる一方で、間違った選択をすると高額な手数料を取られたり、納得できない条件で譲渡を進められたりするケースもあります。以下では、信頼できる仲介会社を見極めるポイントや契約前の注意点、情報開示の透明性、さらには法務のプロの関与によるリスク軽減策まで、具体的に解説します。
信頼できる仲介会社の見極め方
信頼できる仲介会社かどうかを判断するには、以下のような基準をチェックすることが大切です。
- 実績や過去の成約件数が公表されているか
- 担当者がM&Aに関する十分な知識・経験を持っているか
- 報酬体系が明確で、成功報酬型になっているか
- 売り手側の利益を考慮した提案がされているか
- 専任契約を一方的に急かしてこないか
また、担当者との初回面談時に「この人に会社の大事な情報を任せられるか」という直感も大切です。提案内容に納得感があるか、専門用語をわかりやすく説明してくれるかなども判断材料になります。
実例:専任契約後に連絡が来なくなったケース
地方の製造業を営むA社は、知人の紹介で大手M&A仲介会社と専任契約を締結しました。契約前は頻繁に連絡があり親身に対応してくれていましたが、契約後は担当者が異動し、引き継ぎも不十分なまま連絡が途絶える事態に。新しい担当者は業界経験が浅く、満足な買い手紹介も行われず、結局1年間何も進展せずに契約が終了しました。
契約前に確認すべきポイント
契約を結ぶ前に以下のような項目をしっかり確認しておくことが、トラブル回避の第一歩です。
確認項目 | 確認すべき内容 |
---|---|
報酬体系 | 着手金・中間報酬・成功報酬の内訳や支払い時期 |
契約期間 | 専任契約の期間や途中解約の条件 |
買い手紹介の方法 | どのようなネットワーク・手法で候補を探すのか |
守秘義務 | 情報漏えいを防ぐ取り組みの有無 |
国が提供する「中小企業M&Aガイドライン(経済産業省)」でも、契約締結前に報酬体系の透明化とリスク共有について確認することが推奨されています。
実例:成功報酬の定義で揉めた事例
B社は仲介会社と「成功報酬10%」の契約を結んだものの、クロージング直前になって「事業譲渡でなく会社分割でも報酬が発生する」と説明を受け、驚愕。契約書を確認すると、確かに「譲渡の形式にかかわらず取引成立時に報酬が発生する」との記載があり、文句が言えない状況に。内容を理解せずに契約してしまったことが原因でした。
中立性・情報開示の透明性を確認する
M&A仲介会社の中には、「両手取引(売り手と買い手の双方から報酬を受け取る形式)」をとる企業も多くあります。この場合、売り手にとって必ずしも最善とはいえない買い手が選ばれる可能性があるため注意が必要です。
- 売手の利益を最優先する意思表示があるか
- 候補先企業の情報が正確に開示されるか
- 不利な情報(簿外債務など)も隠さず伝えてくれるか
こうした中立性や透明性は、会社としての方針だけでなく、担当者個人のスタンスにも大きく左右されます。
実例:「高値づかみ」させることで報酬を稼ぐ仲介会社
C社は買い手候補との交渉のなかで、業績の見通しをやや楽観的に表現するよう仲介会社から促されました。理由は「少し高く売れた方が、我々の成功報酬も上がる」とのこと。結局買い手からは価格交渉で揉め、契約直前で破談。信頼が崩れただけでなく、他の買い手候補からも警戒されるようになってしまいました。
法務専門家を活用してリスクを低減
M&Aにおいて、契約書の文言や交渉の過程で法的な判断が必要な場面は多々あります。特に報酬体系や情報開示に不明点がある場合は、第三者として弁護士など法務の専門家を交えてチェックすることが重要です。
経済産業省の「中小M&A推進計画」でも、弁護士や公認会計士などの専門家を活用することで、トラブルのリスクを大幅に低減できると明記されています。
- 契約書のリスク条項をチェックしてもらう
- 報酬体系の表現に曖昧な点がないか確認する
- 将来の法的トラブルに備えた文言修正を依頼する
実例:契約書をリーガルチェックして未然にリスク回避
D社はM&A仲介契約の締結にあたり、顧問弁護士に契約書を確認してもらいました。その結果、「成功報酬の基準」が曖昧であったため、「入金ベースで支払いが発生する」条項を追加してもらうことに。これにより、契約成立だけで報酬を請求されるリスクを回避できました。
まとめ
M&Aは一生に一度の重要な取引であるにも関わらず、仲介会社選びを安易に進めてしまう中小企業経営者も多く存在します。しかし、仲介会社の選び方ひとつで、成功と失敗が大きく分かれます。
トラブルを未然に防ぐためには:
- 実績・報酬・説明力などを基準に信頼できる仲介会社を選ぶ
- 契約前に細かい条項まで理解し、内容を確認する
- 中立性や情報の透明性に注意し、都合の良い情報に踊らされない
- 弁護士や専門家のチェックを入れ、客観的な視点を取り入れる
「良い仲介会社」との出会いは、M&A成功への第一歩です。焦らず、時間をかけて冷静に見極めることが、経営者として後悔のない選択につながります。
12.訴訟に発展したM&Aトラブルの具体例と教訓
M&Aの現場では、最終契約までに多くの交渉や調整が必要になります。しかし、情報の非対称性や認識のズレ、そして仲介会社の不透明な関与によって、売り手・買い手の双方が深刻なトラブルに巻き込まれ、最悪の場合、訴訟に発展するケースもあります。ここでは、実際に訴訟になったトラブルを事例ごとに解説しながら、そこから得られる教訓を整理していきます。
表明保証違反で訴訟になった事例
表明保証とは、売り手が「自社の経営状況に嘘がないこと」を契約書で保証する条項のことです。しかし、ここに虚偽や誤りがあると、買い手が「騙された」として訴訟に踏み切る可能性があります。
たとえば、ある中堅製造業のM&Aでは、買収後に大口取引先との契約がすでに終了していた事実が判明。にもかかわらず、売り手は「継続中の安定取引先」として財務計画に記載していました。買い手は、売却価格が過大であったとして「表明保証違反」で数千万円の損害賠償を請求し、裁判に発展しました。
ポイント
- 表明保証は契約書の中でも最重要条項の一つ
- 記載ミスだけでなく、「知っていて黙っていた」場合も違反となる
- 買い手はDD(デューデリジェンス)で事実確認しておく必要がある
データ出典(信頼性のある情報)
経済産業省「中小M&Aガイドライン(2024年)」では、表明保証違反によるリスクについて以下のように明記されています。
「表明保証の内容に虚偽があった場合、契約解除や損害賠償請求の対象となる。仲介会社やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)はこれらを説明する義務がある。」
不当な株価設定を巡る訴訟
M&Aでは「いくらで売るか、買うか」という価格交渉が大きな山場ですが、そこでの情報格差を利用して不当な株価を設定するケースがあります。実際に問題となったのが、第三者割当増資やMBO(経営陣による買収)で、経営陣が意図的に株価を低く設定し、外部株主からの反発を受けた事例です。
あるIT企業では、創業社長が自社をMBOする際、適正株価より3割以上低い金額で株式取得を進め、後に少数株主から「著しく不公正な価格での取得」として訴えられました。裁判所は「経営陣に情報優位性があり、価格決定プロセスに透明性が欠けていた」として、買収価格の見直しと損害賠償を命じました。
教訓
- 株価の算出根拠や査定レポートは必ず明示する
- 利害関係者の同意や公正な第三者評価を挟むことが望ましい
従業員や株主からの訴訟リスク
M&Aは会社のオーナーシップを移転する大きな変化です。その影響を受けるのは、売主と買主だけではありません。従業員や株主、取引先などもまた、その変化に巻き込まれ、納得できない場合には訴訟を起こすことがあります。
特に、PMI(買収後の統合プロセス)に失敗した場合、次のような問題が発生します。
リスク | 具体的な内容 |
---|---|
従業員訴訟 | 突然の人員整理、労働条件の変更に対し、不当解雇・待遇変更として訴えられる |
株主訴訟 | M&Aに反対する株主が株式買取請求や差止訴訟を起こす |
取引先との契約解除 | 買収による信用不安から主要取引が停止するケース |
実例
中堅建設会社が大手ゼネコンに買収された事例では、統合後に人事制度が一方的に変更され、幹部社員が相次いで退職。残った社員が労働審判を申し立て、「説明不足と不当な降格人事」で慰謝料請求を行いました。企業価値は下落し、買い手の期待していたシナジーも実現できませんでした。
M&A仲介会社自身が訴えられたケース
M&Aでトラブルになるのは、当事者間だけではありません。近年では、仲介会社そのものが「説明義務違反」「手数料の不当請求」「情報操作」などで訴えられるケースも増えています。
代表的なのが、「ルシアン事件」と呼ばれる大手仲介会社を巡る訴訟です。買い手が自社の資産を目的にM&Aを強引に進めたとされるもので、売り手の経営者が「詐欺的行為だった」として仲介会社と買い手の双方を提訴。最終的に共同不法行為が認められ、仲介会社にも賠償責任が課せられました。
訴えられた理由(ポイント)
- 事前説明と実際の買収内容に大きなギャップがあった
- 買い手の資金力や意図を事前に精査していなかった
- 契約書に「逃げ道」が多く、売り手が不利だった
経済産業省の見解
経済産業省「中小M&A推進計画」においても、M&A仲介業務には専門性と説明責任が強く求められており、不誠実な対応が企業間の信頼を大きく損なうと指摘されています。
まとめ
M&Aの現場では、多くの人が「円満に終わるのが当たり前」と考えがちですが、実際には訴訟に発展するような深刻なトラブルも少なくありません。以下が今回の教訓です。
- 表明保証の重要性を理解し、虚偽記載は絶対に避ける
- 株価の査定は透明性を持ち、第三者のチェックを入れる
- PMIにおいて従業員の理解と同意を得る努力を怠らない
- 仲介会社の関与内容を逐一記録し、不明点は法務に確認する
トラブルを完全に防ぐことは難しくても、想定と準備次第で訴訟リスクを最小限に抑えることは十分可能です。信頼できる専門家とともに、慎重かつ冷静にM&Aを進めていくことが何より重要です。
13.M&A仲介でトラブルを防ぐために取るべき事前対策
M&Aは会社の命運を左右する重要な取引です。だからこそ、事前に適切な準備を行い、トラブルの芽を摘むことが非常に大切です。M&Aを進めるうえで、特に仲介会社を介する場合には、以下の4つの事前対策が有効です。
企業価値評価と価格交渉の適正化
M&Aにおける価格設定の問題は、最も多くのトラブルを引き起こす要因です。特に、企業価値(バリュエーション)の算定が曖昧だったり、根拠のない相場感で進められたりすると、後の契約トラブルや訴訟に発展する恐れがあります。
重要なポイント
- バリュエーションは複数の方法で算出(DCF法、類似会社比較法、純資産法など)
- 売り手・買い手ともに第三者の専門家に依頼して客観性を担保
- 「相場だから」という仲介会社の言葉に依存しない
信頼性のあるデータ
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(2020年)」では、価格交渉における透明性と合理性の重要性を以下のように指摘しています。
「中小企業M&Aにおいて、合理的な企業価値の算定を行うことは、売買当事者間の信頼関係を築くために極めて重要であり、価格設定の根拠は開示されるべきである。」
実例
ある飲食チェーンのM&Aでは、仲介会社が「業界相場」として営業利益の3倍を買収価格と設定。しかし後に、同業他社の買収事例やEBITDA比較からすると、1.8倍が妥当だったことが判明。買い手企業は価格差に納得できず、契約締結直前で破談となった例があります。
明確な契約書の作成と法的チェック
契約書は、M&Aプロセスで最も重要な「証拠書類」です。ここに曖昧な表現や不備があると、後のトラブル時に大きな不利益を被ることになります。
契約書に盛り込むべき基本項目
項目 | 内容 |
---|---|
表明保証 | 売り手が企業の状態について保証する内容 |
誓約事項 | 取引後に取るべき行動や禁止行為の定義 |
補償条項 | 損害が発生した場合の補償内容と範囲 |
解除条項 | 契約を解除できる条件 |
法的専門家の活用
弁護士やM&A専門の司法書士・行政書士など、契約実務に精通した専門家によるチェックは必須です。「仲介会社に任せれば大丈夫」という姿勢はリスクが高く、売り手・買い手自身が内容を理解しておく必要があります。
実例
IT企業の買収案件で、契約書の誤訳により「知的財産の譲渡」条項が不完全となり、買収後に特許使用権が第三者に残っていたことが発覚。買い手が損害を受けたとして、仲介会社と売り手に対して損害賠償請求を起こした例があります。
買い手企業の信用調査・事前チェックポイント
特に売り手にとって重要なのが、買い手企業の「中身」を正確に把握することです。見た目は立派でも、実際には資金繰りが厳しかったり、従業員との労務問題を抱えていたりすることがあります。
信用調査の基本項目
- 過去3期分の財務諸表
- 資金調達の実績と今後の資金計画
- 従業員の離職率や労務管理状況
- 訴訟・係争案件の有無
- 反社会的勢力との関係性チェック(反社チェック)
第三者機関の活用
帝国データバンクや東京商工リサーチなどの企業信用調査サービスを活用すれば、買い手企業の資本関係や支払い遅延履歴なども確認できます。
実例
ある建設会社が中小運送業を買収した事例では、買い手企業が元請との契約を失っており、資金繰りが限界に達していたにもかかわらず、それを隠してM&Aを強行。売り手企業の資産や人員を食い潰し、結果として倒産に追い込まれました。
統合計画の策定とカルチャー理解
M&Aの本当の成功は、契約締結後の「統合(PMI)」にかかっています。企業文化(カルチャー)や働き方、評価制度、理念などが合わないまま統合を進めると、従業員の反発や大量離職を招き、最終的には業績悪化に繋がります。
統合計画(PMI)での対策
- 経営統合に関する中期スケジュールを事前に共有
- 双方の管理職・従業員と面談し、認識をすり合わせ
- 早期の「組織再編ありき」の発表は避ける
- 社員への説明会やフォローアップを継続的に実施
実例
小売チェーンのM&Aでは、買い手側が早期に「評価制度の統一」「店舗リストラ」を打ち出した結果、旧経営陣や古参スタッフの大量退職を招き、半年以内に売上が30%減少。買収時の想定収益がすべて崩れる結果となりました。
まとめ:M&A仲介トラブルを防ぐには「正しい知識」と「信頼できる相談先」が重要
今回は、M&A仲介に関する代表的なトラブルとその防止策について解説しました。
仲介会社との摩擦や契約上のミスを避けるには、知識と備えが不可欠です。
実例や訴訟事例から学び、信頼できるパートナーを見極めましょう。
少しでも不安がある方は、ぜひアーク・パートナーズへご相談ください。
- 仲介会社との摩擦が多い
- 説明と実態が食い違う
- 表明保証違反が頻発
- デューデリ不足が原因に
- 契約内容の精査が必要
- 信用調査でリスク減少
- 訴訟回避に弁護士相談
- 双方代理の構造に注意
- トラブル時は証拠が命
- 中立的な仲介選びが鍵
M&Aで後悔しないためにも、正しい知識と信頼できる相談先を持っておくことが重要です。
