M&A総研は関与した?トミス建設・マイスHD訴訟とLBOの仕組みをわかりやすく解説
「トミス建設とマイスホールHDの訴訟問題って結局どういうこと?」「M&A総研が関与したって本当?」「LBOスキームって聞いたことはあるけどリスクが怖い…」そんな疑問や不安をお持ちではありませんか?
本記事では、今まさに話題となっているM&A総研とトミス建設・マイスホールHDの係争を題材にしながら、初心者でもわかるようにLBOの仕組みや売り手が注意すべきポイントを解説します。
■本記事を読むと得られること
- トミス建設×マイスHD訴訟の経緯とM&A総研の関与が理解できる
- LBOスキームの仕組み・メリット・デメリットがわかる
- 売り手が取るべき安全なM&A対策が整理できる
■本記事の信頼性
筆者はM&Aアドバイザー歴10年以上、200件以上の案件に携わり、中小企業庁登録のM&A支援機関として活動しています。現場で培った経験と最新の業界知識をもとに、誠実かつ専門的な視点で解説します。
この記事を最後まで読めば、「LBOは本当に危険なのか?」「仲介会社をどう見極めればよいのか?」といった疑問が解消され、安心してM&Aを進めるための判断力が身につくはずです。ぜひ参考にしてください。

1. なぜトミス建設とマイスHDのM&Aが注目されているのか
2025年に入り、M&A業界で大きな注目を集めているのが「トミス建設とマイスホールディングス(以下マイスHD)のM&A騒動」です。表向きは通常の会社売却と買収に見えますが、契約直前に仲介会社であるとされるM&A総研が契約を解除し、その後に多額の資金移動が発生したことで、裁判にまで発展しました。この流れは、業界関係者だけでなく一般の経営者や投資家にとっても大きな関心を呼んでいます。
注目を集めている理由は大きく3つあります。
- 大手仲介会社が契約直前に一方的に関与を断ったという異例の展開
- 買収後に資金が流出したとされる点が、LBOスキームとの関連で取り沙汰された
- 売り手・買い手・仲介会社それぞれの責任や立場が複雑に絡み合っている
このように、単なる企業間トラブルにとどまらず、「仲介会社の役割とは何か」「LBOスキームは危険なのか」という根本的なテーマにもつながるため、多くのメディアや業界人が関心を寄せているのです。
また、M&A総研の関与がどの程度であったのか、あるいはなぜ契約解除に踏み切ったのかという点は、M&Aに携わる人々にとって非常に興味深い論点です。通常、仲介会社は契約締結からクロージングまでを一貫して支援する役割を担うため、契約直前に手を引くのは極めてまれです。そのため「なぜ成功報酬を放棄してまで離脱したのか」という疑問が生まれています。
国の制度面でも、こうしたトラブルは無視できないものです。中小企業庁は2020年以降「中小M&Aガイドライン」を公表し、仲介業者やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)の責任や利益相反防止のあり方を明文化しています。しかし今回のケースは、ガイドライン施行後の事案でありながら、依然としてトラブルが発生している点で「制度と実務のギャップ」を象徴しているとも言えます。
実際に、今回の訴訟では以下のような資金の流れが指摘されています。
時期 | 資金の流れ | 関係先 |
---|---|---|
契約直後 | 約4,000万円の送金 | トミス建設 → マイスHD |
数か月以内 | 合計約1億2,000万円超の資金移動 | 旧代表や関係会社へ |
こうした資金移動が「通常のM&A後の資金管理」なのか「不正な資金流用」なのか、解釈は分かれています。マイスHD側は正当性を主張し、トミス建設前代表は錯誤無効を訴えて復帰、そしてM&A総研はコメントを拒否するという三者三様の立場が、事件をさらに複雑にしているのです。
ここで特に重要なのは、LBO(レバレッジド・バイアウト)というスキームが話題の中心にあることです。LBOは合法的な資金調達手法であり、プロの投資ファンドなどでは広く使われています。しかし中小企業のM&Aでは、売り手からすると「買い手が借金漬けで本当に経営できるのか」という不安につながりやすく、今回のような資金流出が起これば「やはりLBOは危険だ」との誤解も生まれかねません。
つまり、この騒動は単なる一企業の問題ではなく、次のような教訓を私たちに示しています。
- 仲介会社・FAの役割や責任を改めて理解する必要がある
- LBOスキームの仕組みとリスクを正しく知ることが不可欠
- 売り手は買い手の資金調達方法まで確認すべきである
本記事を通じて、こうした点を一つひとつ整理していくことで、「なぜ今回の事件が注目されているのか」だけでなく、「今後M&Aに関わる際にどのように備えるべきか」という実践的な視点を得られるように解説していきます。
2. 事件の経緯を整理|トミス建設・マイスHD・M&A総研の関係
2.1 契約解除のタイミングと問題点
今回の事件が大きな注目を集めた理由の一つが、仲介会社であるとされるM&A総研が「契約直前にアドバイザリー契約を解除した」という異例の展開です。通常、M&A仲介やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)は、売り手と買い手が条件合意をした後もクロージングまで伴走し、成約に至ることで成功報酬を受け取ります。そのため、最終契約を目前にして仲介側から一方的に契約を解除することは非常に珍しく、業界慣習からも逸脱しているといえます。
背景として考えられるのは以下のような点です。
- 仲介会社自身が、買収スキーム(今回はLBO方式とされる)にリスクを感じた可能性
- 手数料請求のタイミングや算定方法をめぐる内部判断
- 売り手・買い手間の関係が不安定で、トラブルに巻き込まれることを回避したい思惑
特に問題視されているのは、契約解除の直前に「手数料約4億円を受領した後に契約を打ち切ったのではないか」という疑惑です。仮に事実であれば、これはガイドラインで推奨される「透明性の確保」「適正な契約管理」とは相反し、仲介業務の信頼性を大きく損なう行為となります。
中小企業庁が策定した「中小M&Aガイドライン(2020年改訂版)」でも、仲介会社が契約解除をする場合は、事前に合理的な理由を示し、売り手・買い手双方が納得できる形で行うことを推奨しています。今回のように理由が明確に説明されず、しかも契約直前というタイミングで解除された点は、ガイドラインの趣旨に反している可能性があるのです。
このため、多くの経営者や業界関係者は「なぜM&A総研は成功報酬を放棄してまで契約を解除したのか」という疑問を抱いています。一般的には、仲介会社にとって最も利益を得られるのは「成約」そのものですから、報酬を得る寸前に自ら契約を降りるのは非常に不自然だからです。
実例として、過去のM&A仲介においても契約解除は稀にありますが、その多くは「デューデリジェンスで重大な不正が見つかった」「買い手の資金調達が不可能となった」といった合理的理由が存在していました。今回のケースのように理由が不透明で、しかも直前に発生した例はほとんど見られません。
つまり、今回の問題点は「契約解除のタイミング」と「説明不足」にあります。これがM&A業界における信頼性の低下や売り手・買い手の不信感につながり、訴訟に発展する大きな要因となったといえるでしょう。
2.2 双方の主張と訴訟の構図
この騒動では、トミス建設、マイスHD、そしてM&A総研の三者がそれぞれ異なる立場を取っており、その構図が問題をさらに複雑化させています。
トミス建設側の主張
- M&A総研が契約を直前で解除したのは不当であり、売り手として不利益を被った
- マイスHDへの資金移動は「錯誤」に基づくものであり、会社資産が不正に流出した
- 元代表は「騙された」と主張し、代表権を取り戻した
マイスHD側の主張
- 資金移動は買収後の資金管理の一環であり適法である
- 今回のM&AはLBOスキームに基づいて計画され、金融機関の承認も前提としていた
- M&A総研の契約解除は不自然であり、手数料受領後の行動に疑問を抱いている
M&A総研側の姿勢
- 守秘義務を理由に個別案件にはコメントできないと公表
- 契約解除の経緯や詳細は一切明かさない方針
この三者の立場を整理すると以下のようになります。
主体 | 主張 | 特徴 |
---|---|---|
トミス建設 | 資金流出は錯誤無効。代表権を回復 | 「被害者」として訴訟を提起 |
マイスHD | 資金移動は適法。LBOによる買収正当 | 買収後の資金管理と主張 |
M&A総研 | コメント拒否 | 契約解除理由を開示せず沈黙 |
このように、売り手と買い手が互いに主張をぶつけ合うだけでなく、仲介会社の不透明な行動も絡み合って、裁判という形で真実を解明する流れになっています。まさに三つ巴の争いとなっており、誰の主張が正しいのかは法廷での判断に委ねられる状況です。
実例として、過去にも「仲介会社の不適切な対応」が訴訟に発展したケースは存在します。例えばルシアン事件では、仲介者と買い手が共謀して売り手を不当に扱ったとされ、社会問題化しました。今回のケースは構図こそ異なりますが、「仲介会社の行動がトラブルの火種となる」という点では共通しています。
まとめると、今回の事件の構図は以下のように表せます。
- 売り手(トミス建設):資金流出を不正と主張
- 買い手(マイスHD):LBOを根拠に適法と主張
- 仲介(M&A総研):契約解除の説明なく沈黙
この三者の立場が真っ向から対立しているため、業界全体としても「仲介会社の在り方」「LBOスキームのリスク」「契約解除の適正性」といった広範な議論に発展しているのです。
3. LBOスキームとは?初心者でもわかる仕組み解説
3.1 LBOの基本定義と特徴
LBO(レバレッジド・バイアウト)とは、会社を買収するときに自己資金だけでなく、金融機関からの借入(レバレッジ)を活用して買収資金を調達する手法のことです。買収した後の返済は、対象企業が生み出す将来のキャッシュフローや資産を原資とするのが特徴です。つまり「買収される会社自身のお金で借金を返す」仕組みともいえるため、効率的に事業拡大を目指す投資ファンドや大企業に広く用いられています。
日本政策投資銀行(DBJ)や経済産業省の資料によると、海外では1980年代からLBOは一般的な投資手法として確立されており、日本でもPEファンド(プライベート・エクイティファンド)を中心に増加傾向にあります。特に成熟産業の再編や事業承継の局面で活用されることが多いです。
LBOの大きな特徴は以下の通りです。
- 自己資金を最小限に抑えて企業を買収できる
- 対象企業の将来収益を返済原資にするため、企業価値評価が重視される
- 借入に伴い金融機関が関与し、買収計画の妥当性を精査する
- 過剰な借入は倒産リスクを高めるため、バランスが必要
このようにLBOは「レバレッジ(てこの原理)」を効かせて資金効率を高める投資手法ですが、一歩間違えば企業の財務健全性を大きく損なう危険性もあります。したがって、売り手にとっても「買い手がLBOを使う場合はどういうリスクがあるのか」を理解しておくことが大切です。
3.2 メリットとデメリットを比較
LBOスキームは買い手にとって魅力的な手法ですが、売り手から見るとメリットとデメリットが混在しています。以下の表で整理してみましょう。
メリット | デメリット |
---|---|
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実際のケースとして、日本の中小企業M&Aでは、売り手が「従業員の雇用を守ってほしい」と考えて譲渡しても、買い手がLBOを利用していた場合、借入返済を優先するあまり人件費削減に動いてしまい、結果として従業員が不安定な立場に置かれることがあります。このようなリスクは売り手にとって見過ごせない問題です。
一方で、上場企業やPEファンドによるLBOでは、経営改善やスピード感ある事業拡大が実現する例も少なくありません。例えば海外では、成熟産業の企業をLBOで買収し、新しい経営手法や資本政策を導入して企業価値を高め、数年後に再上場させる成功事例もあります。このように、LBOは必ずしも「危険なスキーム」ではなく、使い方次第で大きな成果を生む可能性もあるのです。
まとめると、LBOスキームは「資金調達の柔軟性」と「事業拡大の可能性」を持ちながらも、「資金繰り悪化のリスク」や「短期志向の経営圧力」といったデメリットも伴います。売り手としては、買い手がどのように資金を調達し、その後の経営にどのような影響を及ぼすのかを事前に確認し、慎重に判断することが重要です。
特に中小企業のオーナー経営者にとっては、「会社を託す相手が借入返済に追われて従業員や顧客を犠牲にしないか」を見極めることが、安心できるM&Aの第一歩といえるでしょう。
4. なぜLBOが問題視されるのか|売り手に潜むリスク
4.1 資金余力の乏しい買い手リスク
LBOは買い手にとって有効な資金調達手段ですが、売り手にとっては「資金余力が乏しい買い手」に会社を譲渡することになりかねません。自己資金をほとんど使わず、借入に依存して買収を進める場合、将来的に返済が滞れば経営が不安定になり、従業員や取引先に悪影響を及ぼす可能性があるからです。
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」でも、買い手の資金調達能力や返済可能性を確認することが売り手にとって必須とされています。返済原資となるキャッシュフローが計画通りに生み出せなければ、最終的には倒産リスクを伴うため、会社を託すオーナーとしては安心できないのです。
例えば、不動産投資でも借入を使って物件を購入するケースは多く見られますが、家賃収入が減れば返済に行き詰まります。企業買収でも同じで、買収後に売上が落ち込めば一気に資金繰りが悪化し、経営破綻に至る可能性があります。売り手が「安定した後継者に譲りたい」と考えている場合、LBOを使う買い手には警戒心を持つべき理由がここにあります。
4.2 停止条件・契約解除の落とし穴
LBOを用いる買い手は、金融機関からの融資を前提に買収契約を進めます。その際に「ファイナンス・アウト条項」と呼ばれる停止条件が契約に盛り込まれることがあります。これは「融資が下りなければ契約を白紙に戻せる」という条件であり、売り手からすると大きなリスクです。
一度「M&Aが決まった」と従業員や取引先に伝えた後、突然「融資が通らなかったので契約解除」となれば、社内外の信頼関係は大きく揺らぎます。さらに悪質なケースでは、仲介契約上「最終契約締結時点で成功報酬を支払う」と定められている場合、M&Aが白紙になっても仲介手数料だけ発生するという理不尽な状況に陥ることもあります。
実際、国民生活センターや中小企業庁には「仲介手数料だけ取られてM&Aが成立しなかった」という相談が寄せられています。売り手にとっては契約解除のリスクを正しく理解し、契約書の条件を事前に精査しておくことが不可欠です。
4.3 短期志向の経営リスク
LBOは借入による買収ですので、買い手は返済を優先した経営を行う可能性が高くなります。特に金融機関との契約には「コベナンツ(財務制限条項)」と呼ばれるルールが設けられ、一定の利益水準や財務指標を下回ると一括返済を求められる場合があります。そのため、買い手は短期的に利益を確保するために、従業員の給与削減や人員整理などを行うリスクがあります。
このような経営姿勢は、売り手が「従業員の雇用を守りたい」と考えて会社を譲渡した意図と真逆の結果を招きかねません。短期的な財務改善は実現しても、長期的な企業成長や従業員の幸福につながらないことがあるのです。
実例として、過去にはファンドがLBOを用いて企業を買収したものの、借入返済を優先するあまり研究開発費や人件費を削減し、結果として企業の競争力が低下したケースが報告されています。表面的には黒字を維持しても、数年後に業績が悪化し、再度事業売却や破綻に追い込まれる事例も存在します。
まとめると、LBOは投資効率を高める一方で「資金余力の乏しい買い手」「停止条件による契約解除」「短期志向の経営」といったリスクを売り手にもたらします。売却を検討する経営者は、買い手がLBOを利用している場合、その仕組みとリスクを理解したうえで慎重に判断することが求められます。
5. 過去の事件との比較|ルシアン事件と今回の違い
M&Aの世界では、過去にも不祥事やトラブルが社会問題化した事例があります。その代表例が「ルシアン事件」です。この事件と今回のトミス建設・マイスHD訴訟を比較することで、どのような違いがあるのか、また売り手が注意すべき点は何かがより明確になります。
ルシアン事件とは、買い手企業や関係者が売り手企業の資金を不正に吸い上げ、最終的に売り手が大きな被害を被ったとされるケースです。売り手側が「だまされた」と訴えた典型的なM&A詐欺事件であり、金融庁や中小企業庁も注意喚起を行いました。
一方、今回のトミス建設とマイスHDの騒動は、契約直前に仲介会社であるとされるM&A総研が契約を解除した点に特徴があります。両者の違いを整理すると以下のようになります。
比較項目 | ルシアン事件 | トミス建設・マイスHD訴訟 |
---|---|---|
発生時期 | 2024年前後に問題化 | 2025年に訴訟に発展 |
問題の本質 | 買い手や仲介者が資金を詐取 | 仲介会社の契約解除と資金移動の不透明さ |
売り手の立場 | 資産を不当に奪われる被害者 | 資金流出の正当性を争う原告 |
買い手の主張 | 正当なM&A取引を装っていた | LBOによる適法な買収と主張 |
仲介会社の動き | 買い手と一体化していたと指摘 | 契約解除後、守秘義務を理由に沈黙 |
この比較からわかるのは、ルシアン事件が「典型的な詐欺型事件」であるのに対し、今回のケースは「契約解除の正当性」や「LBOのリスク」といった制度的・手続的な問題に焦点が当たっているということです。
経済産業省のM&A関連調査でも、M&Aトラブルの多くは「契約条件の不透明さ」や「仲介会社の利益相反」が原因であると報告されています。ルシアン事件では違法性が強調されましたが、トミス建設・マイスHD訴訟は「違法か合法か」よりも「適切だったかどうか」が問われている点で性質が異なります。
実際、今回の訴訟では以下の点が注目されています。
- 仲介会社が契約直前に解除するのは通常あり得ないこと
- LBOスキームが売り手に不利益をもたらした可能性
- 資金流出が経営実態と乖離しているのではないかという疑念
一方で、ルシアン事件は「売り手を狙った明確な詐欺」として社会的に糾弾され、刑事責任の追及が焦点となりました。この違いを理解しておくことは、M&Aに臨む経営者にとって非常に重要です。
結論として、ルシアン事件とトミス建設・マイスHD訴訟はいずれもM&A業界の信頼を揺るがす事案ですが、その本質は異なります。ルシアン事件は「詐欺的手法による直接的な資金搾取」であり、今回の件は「仲介会社の行動やLBOスキームの妥当性」が争点です。売り手としては、両方の事例から学び、仲介会社の行動を常にチェックし、買い手の資金調達方法や契約条件をしっかり確認することが、自社を守るための最善策となります。
6. 仲介会社・FAは何をすべきだったのか
M&Aにおいて仲介会社やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)は、中立的かつ専門的な立場で取引を支える重要な存在です。特に今回のトミス建設とマイスHDのように訴訟に発展するケースでは、「仲介会社がどのように振る舞ったか」が大きな焦点になります。適切な役割を果たしていれば、トラブルを未然に防げた可能性もあるため、改めてその責任について考える必要があります。
6.1 中小M&Aガイドラインの観点
経済産業省と中小企業庁が策定した「中小M&Aガイドライン」では、仲介会社やFAに対して明確な責務が示されています。特に重要なのは以下のポイントです。
- 買い手候補企業の財務状況や反社会的勢力との関係について十分な調査を行うこと
- 売り手にとって不利にならないよう、契約条件の公平性を担保すること
- 手数料体系や成功報酬の算定基準を明確に説明し、透明性を確保すること
- 売り手・買い手の利益相反を最小化し、適切に情報を扱うこと
実際に中小企業庁の公表資料では、M&Aトラブルの多くが「情報の非対称性」や「契約条件の不透明さ」に起因すると報告されています。ガイドラインはこうした問題を是正するために設けられたものですが、現場では必ずしも徹底されていないことが課題です。
今回の事案でも、仲介会社が契約直前に関与を打ち切ったことが大きな疑念を招きました。ガイドライン上は「途中放棄」が例外的に認められる場合でも、合理的な説明責任が必要とされています。その意味で、契約解除の経緯や判断基準を当事者に十分説明しなかったとすれば、ガイドラインの精神に反する対応だった可能性があります。
他方で、仲介会社がリスクを察知して契約を離脱すること自体は必ずしも違法ではありません。しかし、問題は「なぜ離脱したのか」を関係者に明確に説明しなかった点にあります。売り手・買い手双方が納得できるような透明性が求められていたのです。
6.2 仲介とFAの利益相反リスク
仲介会社やFAには、常に「利益相反リスク」が存在します。仲介は売り手と買い手の双方から報酬を得ることが多いため、どちらか一方に有利な行動を取ると、もう一方の信頼を損なう危険があるからです。
利益相反の典型例には以下のようなものがあります。
- 高額な成功報酬を優先するあまり、売り手に不利な契約条件でも成約を急がせる
- 買い手との関係を優先して特定の買い手を強く推奨する
- 売り手に十分な情報を与えず、不利益な条件を見落とさせる
経済産業省の調査によれば、M&Aに関与する中小企業経営者の約3割が「仲介会社が自社の利益を十分に守ってくれなかった」と感じているというデータもあります。この背景には、利益相反構造を十分に説明せず契約を進める仲介の存在があるのです。
今回のトミス建設とマイスHDの件では、M&A総研がどちらの立場で行動していたのか、また契約解除の理由が「自社の利益」を守るためだったのか、それとも「取引全体の公正性」を守るためだったのかが問われています。仮に自社の手数料リスクを避ける目的で契約解除を行ったのであれば、売り手・買い手双方の信頼を損ない、業界全体にとってもマイナスの影響を与える行為といえるでしょう。
このようなリスクを回避するためには、以下のような取り組みが有効です。
- 利益相反の可能性を事前に契約書で明確にする
- 売り手・買い手双方に同じ情報を提供する
- 契約条件に「第三者による意見確認プロセス」を組み込む
- FAを「売り手専属」「買い手専属」と分ける体制を選ぶ
まとめると、仲介会社やFAは単に「契約を成立させる存在」ではなく、「公平性と透明性を担保する存在」であることが求められます。特に中小企業のM&Aでは、売り手経営者が情報劣位に立ちやすいため、仲介会社が本当に信頼できる行動を取るかどうかが取引成功の鍵を握ります。今回の事例からも、仲介会社にはガイドラインを遵守し、利益相反を避ける姿勢が強く求められていることがわかります。
7. 売り手が取るべき対策|安心できるM&Aの進め方
M&Aの売却を検討する経営者にとって、「安心して会社を任せられる相手を見つけること」が何より重要です。実際、M&Aの失敗事例の多くは、買い手の資金力不足や契約条件の不備、仲介会社の不誠実な対応に起因しています。ここでは、売り手が具体的に取るべき対策を整理して解説します。
7.1 買い手の資金調達方法を必ず確認
M&Aでは「買い手がどのように資金を準備しているのか」を確認することが欠かせません。資金調達の方法によっては、売り手側が予期せぬリスクを負う可能性があるからです。
- 自己資金による買収:最も安心度が高い。資金余力があるため、取引後の運営も安定しやすい。
- 銀行融資による買収:返済計画が明確であれば有効。ただし承認に時間がかかる可能性がある。
- LBO(レバレッジド・バイアウト):買収資金を対象企業のキャッシュフローで返済する仕組み。成功すれば成長につながるが、失敗すれば売却先の資金が流出するリスクがある。
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」では、仲介会社やFAに「買い手の資金調達状況を調査する義務」が明記されています。売り手自身もこの情報を確認することで、買収後に資金流用や倒産リスクを避けられる可能性が高まります。
例えば過去には、買い手がLBOを利用したにもかかわらず返済が滞り、売却企業の資産が処分されて従業員が解雇されるケースが報道されました。こうした事態を避けるためにも、契約前に「資金はどこから調達されるのか」を必ず確認することが大切です。
7.2 契約書でチェックすべき条項
M&Aにおけるトラブルの多くは、契約書の不備や売り手が不利になる条項を見落としたことに起因します。売却前に必ず確認しておくべき代表的な条項は以下の通りです。
条項 | 内容 | 売り手にとってのリスク |
---|---|---|
ファイナンス・アウト条項 | 買い手の資金調達が不成立の場合に契約を白紙に戻せる規定 | 売り手が準備を進めた後でも契約が破談になる可能性がある |
表明保証 | 売り手が財務状況や法令遵守について保証する条項 | 虚偽が発覚した場合、多額の損害賠償を請求される恐れ |
競業避止義務 | 売却後に同業で事業を行わないことを約束する規定 | 制限が厳しいと売却後の生活に大きな制約が生じる |
特に注意すべきは、仲介会社の報酬発生タイミングです。もし「最終契約締結時に報酬が発生」となっている場合、買い手がファイナンス・アウトで契約を白紙にしても、売り手だけが手数料を支払う事態になりかねません。このような不公平を避けるため、可能であれば「クロージング(実際の株式譲渡時)に報酬発生」とする交渉が望ましいです。
7.3 信頼できる仲介・FAを選ぶポイント
M&Aを成功させるためには、仲介会社やFAの選定が極めて重要です。信頼できない仲介に依頼すると、売り手が不利な条件で契約させられたり、十分な調査が行われないまま進められたりするリスクがあります。
信頼できる仲介・FAを見極めるポイントは以下の通りです。
- 登録制度の有無:中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」に登録されているか確認する。
- 報酬体系の透明性:着手金・中間金・成功報酬などの基準が明確かどうか。
- 実績:中小企業のM&Aに携わった件数や成約事例が豊富かどうか。
- 説明責任:買い手候補や契約条件について、売り手に納得できる説明をしているか。
- 中立性:売り手と買い手の双方から報酬を受け取る場合、利益相反のリスクをどのように管理しているか。
例えば、ある地方の製造業のオーナーは、仲介会社から「この買い手なら間違いありません」と強く勧められて契約しました。しかし実際には買い手の資金調達が不安定で、最終的に破談になり、仲介手数料だけが発生してしまいました。このような事例からも、「仲介会社が誰の利益を優先しているのか」を見極めることが不可欠です。
まとめると、売り手が安心してM&Aを進めるためには、買い手の資金調達方法を確認し、契約書のリスク条項をチェックし、信頼できる仲介やFAを選ぶことが必要です。これらの対策を徹底することで、売却後も会社と従業員を守るM&Aを実現できるでしょう。
まとめ
トミス建設とマイスHDの訴訟問題やM&A総研の関与を通じて、LBOスキームの仕組みとリスクを改めて学ぶことができました。M&Aは成長のチャンスである一方、契約内容や買い手の資金調達方法によっては売り手に大きな不利益をもたらす可能性があります。安心して進めるためには、以下の要点を押さえておくことが重要です。
- 買い手の資金調達方法を確認する
- 契約書のリスク条項を精査する
- 信頼できる仲介会社を選定する
これらを徹底することで、売り手企業は自社と従業員を守りながら最適なM&Aを実現できます。詳しく知りたい方は、ぜひアーク・パートナーズまでお問い合わせください。
