M&Aで本当にあった“着手金詐欺”の実態とは?仲介会社トラブルを避ける5つのチェックポイント
「M&Aの着手金って本当に必要?」「仲介会社に騙されるかもしれない…」そんな不安を感じていませんか?
特に最近は、“着手金詐欺”や“中間金詐欺”“月額報酬詐欺”といったトラブルの声も増えており、M&Aに不慣れな売り手・買い手にとって、業者選びはまさに地雷原です。
本記事では、M&Aのプロが実際の相談・事例に基づいて、悪質な仲介会社の見抜き方や被害に遭わないための対策を詳しく解説します。
■本記事を読むと得られること
- 着手金詐欺などの実例とその手口がわかる
- 信頼できる仲介会社を選ぶチェックポイントが学べる
- トラブルに巻き込まれないための予防策がわかる
■本記事の信頼性
筆者はM&Aアドバイザー歴10年以上、200件超のM&A支援実績を持ち、中小企業庁認定のM&A支援機関として誠実・丁寧な支援を行っています。
この記事を読めば、M&Aの詐欺リスクを回避し、安心して信頼できる専門家と進めるための判断力が身につきます。
数分で読める内容ですので、ぜひ最後までご一読ください。

1. はじめに|なぜM&Aで詐欺が起こるのか?
M&Aという言葉を聞くと、多くの人が「専門家に任せるもの」「難しい話」という印象を持ちます。実際、多くの中小企業のオーナー様がM&Aに初めて向き合う際、「どこに相談すべきか」「どんな業者が信頼できるのか」が分からず、仲介会社の言うがままに話を進めてしまう傾向があります。
こうした状況で起こるのが、着手金詐欺・中間金詐欺・月額報酬詐欺などの「M&A詐欺」です。近年、中小企業のM&Aが増加する中で、モラルの低い業者や経験の浅いアドバイザーが急増しており、詐欺まがいのトラブルも後を絶ちません。
なぜこのような詐欺が発生しやすいのでしょうか?その背景には、M&A市場の急拡大と、売り手・買い手が抱える「情報の非対称性(知識や経験の差)」が深く関係しています。
仲介業界の急成長とプレーヤーの質のばらつき
中小企業庁の発表によれば、2020年以降、中小企業の後継者不足を背景にM&Aのニーズが急増しています。これに呼応する形で、多くのM&A仲介会社が新たに設立され、市場に参入してきました。
しかし、問題はその中身です。以下のような問題が表面化しています。
- 営業主導のM&A会社が増え、経験よりも売上ノルマが優先されている
- 資格や実績のないアドバイザーがM&Aを担当している
- 「手数料ビジネス」としてM&Aを捉えているプレーヤーが多い
その結果として、本来の目的である「企業と企業の良きマッチング」よりも、「いかに契約を取るか」「いかに手数料を得るか」といった意図が先行するようになり、モラルの低い詐欺的手法も横行しています。
年 | 中小企業のM&A件数(推計) | 新規M&A仲介会社数 |
---|---|---|
2018年 | 約2,000件 | 約80社 |
2022年 | 約4,500件 | 約300社 |
出典:中小企業庁「中小M&A推進計画」などを参考に再構成
このように、数の急増に対して質の管理が追いついていないことが、M&A詐欺が起きやすい構造を生み出しているのです。
売り手・買い手が抱える“情報の非対称性”とは
もう一つ、M&A詐欺の温床となるのが「情報の非対称性」です。これは、M&Aの知識や情報、経験値において、仲介会社と売り手・買い手との間に大きな差があることを意味します。
特に中小企業のオーナー様は、以下のような理由から情報弱者になりやすいです。
- M&Aが初めてで、専門用語が分からない
- 会社の価値や売却相場を知らない
- 仲介契約書の内容が難解で判断できない
これに対して、仲介会社はM&Aのプロを自称し、売り手・買い手にとって都合の悪い情報をあえて伏せたり、都合よく誇張した説明を行ったりすることがあります。たとえば、以下のような営業トークがよく使われます。
- 「御社なら〇億円で売れます」
- 「買い手候補はたくさんいます」
- 「今すぐ契約しないとチャンスを逃します」
こうした言葉を鵜呑みにして着手金や月額報酬を支払ってしまい、結果として何も進まず損失だけが残る――これは非常によくある詐欺パターンです。
事例:SNSで話題になった“高額着手金だけ取られた”ケース
例えば、X(旧Twitter)上では次のような投稿が見られました。
M&A会社をやっていますが、『M&A業界への新規参入業者の中には、着手金目当てに「会社を数億円で売れる」と偽り、買い手を探さない悪質なアドバイザーもいる』という会社があるのは事実です。
このように、業界内部のプロですら問題視しているような状況が続いています。これは一部の話ではなく、全国各地で似たような事例が発生しており、「M&A初心者ほど狙われやすい」ことが分かります。
まとめ
M&Aにおける詐欺は、業界の急成長とともにプレーヤーの質が玉石混交となったこと、そして売り手・買い手が情報面で圧倒的に不利な立場にあることが原因で起きやすくなっています。
「M&Aは専門家に任せるもの」という思い込みが逆に危険を招く場合もあります。だからこそ、M&Aの初期段階から「この人は本当に信頼できるのか?」「契約内容は妥当か?」を自分の目で確かめる意識が必要です。
次章からは、実際に起こった“着手金詐欺”の実態を具体的に見ていきましょう。
2. 着手金詐欺の実態とは?
「高値で売れる」と言われたのに…よくあるトラブル例
M&Aにおける「着手金詐欺」とは、仲介会社が売り手に対して「あなたの会社は数億円で売れる」と甘い言葉をかけて契約を結ばせ、実際には買い手を探す努力もせず、着手金だけを受け取って放置するような手口を指します。
このような手法は、経験の少ない経営者やM&Aが初めての売り手が狙われやすく、特に「後継者問題」や「資金繰り不安」を抱えている企業にとっては深刻なダメージとなります。
中小企業庁の資料によれば、中小企業のM&A市場は年々拡大しており、特に2020年以降、仲介業者の参入も急増しています。このような背景の中で、信頼性の低い業者によるトラブルの報告も相次いでいます。
典型的な詐欺の流れは以下の通りです。
- 仲介会社が「高額で売れる」と過度に期待を煽る
- 売り手は「今しかない」と判断し、着手金を支払って契約
- 契約後、買い手探しが一向に進まず、音沙汰もなくなる
結果として、売り手は数十万円から場合によっては数百万円の着手金を支払ったにもかかわらず、何の成果も得られずに終わってしまうのです。
実例:SNSで拡散された「見込みゼロ案件」の被害
以下は、X(旧Twitter)で注目された投稿の一部です。
M&A会社をやっていますが、『M&A業界への新規参入業者の中には、着手金目当てに「会社を数億円で売れる」と偽り、買い手を探さない悪質なアドバイザーもいる』という会社があるのは事実です。
これは業界内部者の声であり、実際にそのような案件が複数報告されています。
実際には買い手を探していないケースとは?
着手金詐欺の最大の問題点は、「買い手がいない」のではなく、「買い手を探す行動自体をしていない」という点にあります。
本来であれば、仲介会社は着手金を受け取った時点で、下記のような対応を開始すべきです。
- ノンネームシート(簡易資料)の作成
- 買い手候補のリストアップと接触
- 案件のマッチングと条件調整
しかし、悪質な業者はこれらを実行せず、形式的に「買い手を探しているふり」をするだけです。時には「希望条件に合う買い手がいない」と理由をつけて半年以上放置されることもあります。
売り手としては、その間に経営状態が悪化してしまい、結果としてM&Aどころではなくなってしまうこともあります。また、契約書に「着手金は成果にかかわらず返金不可」と記載されていれば、泣き寝入りせざるを得ません。
表:着手金詐欺におけるチェックポイント
詐欺的な兆候 | 注意すべきポイント |
---|---|
過度な高値提示 | 業界相場や財務状況と乖離していないか |
契約を急かされる | 「今すぐ契約しないと損する」と言われた場合 |
買い手情報が開示されない | 買い手候補の業種や規模すら不明な場合 |
売り手が見極めるべき3つのサイン
着手金詐欺を防ぐには、契約前の段階で以下のような「違和感」に気づくことが重要です。
- 仲介会社が相場より明らかに高い価格を提示する
現実離れした金額を提示された場合、それは契約を取るための誘導かもしれません。 - 実績や担当者の経歴が不透明
担当者が「前職は営業職だった」など、M&Aの専門知識がない場合も警戒が必要です。 - 契約書の内容に不明瞭な条項が多い
着手金の返金条件、買い手探索の定義などが曖昧な場合は要注意です。
補足:中小企業庁の対策とガイドライン
こうした問題に対して、中小企業庁は「中小M&Aガイドライン(第3版)」を通じて、契約前の説明義務や報酬体系の透明化を求めています。また、国の登録支援機関制度も整備されており、信頼できる仲介会社を見分ける基準の一つになります。
ガイドラインに明記された「報酬は成果に応じた支払いが原則」という考え方は、こうしたトラブル回避のためにも非常に有効です。
まとめ
着手金詐欺は、「高く売れます」という言葉に心を動かされて契約した売り手が、その後買い手を紹介されずに終わるという非常に悲しいトラブルです。背景には、M&A初心者である売り手の情報不足と、業者間のモラルの差があります。
「おかしいな」と思ったら、すぐにセカンドオピニオンを取ることが重要です。必ずしも「着手金=悪」ではありませんが、その説明やプロセスに納得できない場合は、契約を急がず慎重に判断するべきです。
次の章では、買い手が狙われる着手金詐欺のパターンについて解説していきます。
3. 買い手が狙われる着手金詐欺のパターン
存在しない案件を紹介される
M&Aにおいては、売り手だけでなく買い手も詐欺のターゲットになるケースがあります。特に多いのが、「魅力的な売却案件があります」として紹介された企業が、実際には存在しないか、既に他の買い手と話が進んでいる案件だったというケースです。
このような手口では、買い手は「この案件に進むには着手金が必要です」と言われて支払いを要求されます。しかし、着手金を払った後に「売り手の都合で交渉中止になりました」「別の買い手と話が進んでしまいました」と説明され、何も成果が得られないまま終わるのです。
このような手法は、買い手がM&Aに不慣れで情報を持っていない場合に特に起こりやすく、仲介会社が企業情報の開示を盾にして着手金を徴収しやすい構造になっています。
以下は、典型的な詐欺スキームの流れです。
- 仲介会社から魅力的な案件の情報があると連絡が来る
- 買い手が興味を示すと、秘密保持契約(NDA)を締結させられる
- 詳細資料を受け取るには「着手金」が必要と説明される
- 着手金を支払うが、その後連絡が取れなくなる、もしくは案件が消える
実例:ある地方中小企業の買収希望者が体験した詐欺事例
実際に筆者が相談を受けた例では、地方で自社工場を持つ中小企業の経営者が、事業拡大のための買収を検討していました。とあるM&A仲介業者から「黒字で財務内容も良好な老舗メーカーが売却希望」との連絡があり、秘密保持契約とともに30万円の着手金を支払ったそうです。
しかしその後、企業概要書をもらってから1週間も経たないうちに「別の買い手と先に基本合意がまとまった」との説明を受け、交渉は白紙となりました。着手金の返金請求をしても、「契約上返金できない」の一点張りで話は進まず、結局泣き寝入りに終わったとのことです。
既に交渉が進んでいる案件を“新規”と偽る手口
さらに悪質なのは、既に別の買い手と交渉が進行している案件を、あたかも「今から検討可能な新規案件」であるかのように偽って紹介する手口です。
このケースでは、以下のような特徴があります。
- 既に基本合意に近い段階の案件であるにも関わらず、他の買い手にもアプローチしている
- あえて複数の買い手に同時進行で着手金を徴収する
- 結局、1社しか選ばれないことを仲介会社は最初から知っている
このような場合、買い手としては「チャンスがある」と信じて着手金を払ってしまいますが、実際には交渉の可能性すらなかったということも珍しくありません。
表:買い手が狙われやすい詐欺的状況とその兆候
詐欺的な兆候 | 具体的な見抜き方 |
---|---|
案件の詳細開示前に着手金を要求 | 企業概要書の前に高額な費用を請求される |
買い手を急かすようなトーク | 「他にも検討者がいる」「急がないと失います」 |
案件の質問に対する回答が曖昧 | 売上、業種、希望金額などがぼかされている |
買い手ができるリスク回避策とは?
こうした詐欺に遭わないために、買い手側にも慎重な姿勢と確認力が求められます。以下の対策を意識するだけでも、かなりのリスクを回避できます。
- 詳細資料(ノンネーム)を見ずに着手金を払わない
最低限の情報を見てから判断するのは当然の権利です。 - 仲介会社の実績と登録状況を確認する
中小企業庁の「M&A支援機関」に登録されているかどうかは信頼性の判断材料となります。 - 契約書をよく読み、不明点は弁護士か第三者に相談する
着手金の返金条件、案件の具体性が不明瞭であれば、契約は見送る勇気も必要です。
補足:仲介会社の立場と“本気度”という言い訳
仲介会社の中には、「買い手の本気度を測るために着手金を求めている」と主張するケースもあります。確かにその考え自体は一理あるかもしれませんが、あくまで案件内容の信ぴょう性が担保されていて初めて成り立つ理屈です。
「本気度」という言葉を盾に、検討機会すら与えずに費用だけを徴収するような会社には注意が必要です。
まとめ
買い手に対する着手金詐欺は、存在しない案件や既に成約が見えている案件を使って「手数料だけ取る」という悪質なものです。売り手に比べて情報が得にくい立場にある買い手こそ、慎重な行動と確認が必要です。
甘い話や急かす誘導には十分に警戒し、契約前には必ず第三者の視点を取り入れましょう。中小企業のM&Aでは、信頼できる仲介会社との出会いがすべてを左右します。
次章では、基本合意時に起こりがちな中間金詐欺について詳しく解説していきます。
4. 中間金詐欺(基本合意時)に注意!
瑕疵を隠して中間金だけ取る詐欺の構造
M&Aの交渉が進む中で、「基本合意書(LOI)」を締結するタイミングは重要な節目となります。ここで発生するのが「中間金詐欺」と呼ばれる問題です。中間金とは、基本合意時に仲介会社へ支払われる報酬であり、着手金と最終成功報酬の間に位置する費用です。
悪質なケースでは、売り手企業の重大な問題(瑕疵)をあえて伏せたまま買い手に基本合意を結ばせ、その後の買収監査(DD)で問題が発覚して破談になる、という流れが見られます。仲介会社はその時点で中間金を確保しており、交渉が破綻しても返金しない契約にしているため、買い手が一方的に損をする構図です。
このような構造が成立してしまう背景には、M&Aのプロセスにおける情報の不均衡があります。売り手や仲介会社は自社の事情を十分に把握している一方で、買い手は開示資料だけをもとに判断しなければならず、リスクの全貌が見えないまま基本合意に進んでしまうことがあります。
たとえば、以下のような瑕疵が隠されやすいポイントです。
- 主要顧客との取引がすでに終了予定
- 労働組合や従業員とのトラブルが水面下で存在
- 過去の法令違反や反社との関係が調査されていない
- 株式の100%譲渡が不可能な特殊な株主構成
このような情報を知っていたにもかかわらず、仲介会社が買い手に伝えないまま「基本合意で中間金を受け取る」ことを目的化している場合、それは詐欺に近いといえます。
実例:隠された瑕疵と破談による損失
あるIT企業が買収を進めていた案件では、基本合意後の買収監査で「過去の元役員による横領事件が解決しておらず、今後も訴訟リスクが残る」という事実が判明しました。仲介会社はこの事実を把握していた可能性が高いにもかかわらず、買い手には知らせておらず、DDの終盤で発覚したことにより交渉は破談となりました。
このケースでは、買い手は中間金として150万円を支払っており、返金は一切なし。弁護士を通じて交渉を試みたものの、契約上「中間金は返金対象外」と明記されていたため、最終的には泣き寝入りとなったそうです。
売り手も被害者になるケースも
中間金詐欺は、買い手だけでなく売り手にとっても深刻なダメージを与えることがあります。売り手企業は「基本合意を結べた」と安心し、従業員や取引先に情報を開示した矢先に破談となると、信用不安を招く恐れがあるからです。
特に、以下のようなタイミングで情報を開示していた場合、ダメージはさらに大きくなります。
- 従業員へのM&A説明をすでに実施していた
- 取引銀行や仕入先に譲渡の話を進めていた
- 代表者の引退や退任スケジュールが決定済みだった
これにより、M&Aが破談になったあとのリカバリーが難しくなり、場合によっては企業価値が大きく下がってしまうこともあります。つまり、悪質な仲介会社による「情報隠蔽型の中間金詐欺」は、売り手・買い手双方に損害を与える可能性があるのです。
契約前に確認すべきポイントはここ
こうした中間金詐欺に巻き込まれないためには、契約前に次のようなポイントを必ず確認しておく必要があります。
- 中間金の支払条件と返金規定を確認する
契約書に「どのタイミングで支払いが発生するのか」「破談時に返金されるか」などの記載があるかをチェックしましょう。 - 開示資料の正確性・網羅性を自分でも確認する
仲介会社が作成する企業概要書やIM(インフォメーション・メモランダム)を鵜呑みにせず、複数の視点からチェックすることが重要です。 - セカンドオピニオンを活用する
中小企業庁登録のM&A支援機関や、専門のM&A弁護士に契約書の確認を依頼することで、思わぬ落とし穴を防ぐことができます。
また、中小企業庁が策定した「中小M&Aガイドライン」では、仲介業者に対して「情報開示の誠実性」や「契約内容の透明化」が求められています。こうした国の方針に則って運営している仲介会社かどうかも、見極めの重要なポイントとなります。
表:信頼できる仲介会社が開示すべき主な情報
項目 | 確認すべき内容 |
---|---|
過去のM&A実績 | 直近1〜3年での案件数、業種、成約率など |
報酬体系 | 中間金の金額、発生条件、返金可否 |
開示情報の精度 | 主要顧客、財務、訴訟リスク、株主構成などの正確性 |
まとめ
中間金詐欺は、買い手にとって重大な瑕疵を知らされないまま基本合意に進められ、監査後に破談しながらも報酬だけ取られるという極めて悪質な手口です。また、売り手にとっても、破談によって信用を失うなどのリスクがあります。
こうしたトラブルを回避するには、「契約内容を丁寧に読み込む」「信頼できる仲介会社を選ぶ」「第三者の専門家の目を入れる」といった基本的なリスク管理を徹底することが不可欠です。
次章では、M&Aにおける「月額報酬型」のリスクについて詳しく解説していきます。
5. 月額報酬型の罠とその見抜き方
わざとスケジュールを遅らせる悪質業者の存在
M&A仲介会社に支払う報酬の中でも、「月額報酬(リテイナーフィー)」は特に注意が必要な項目です。月額報酬とは、M&Aの成功・失敗に関係なく、月ごとに定額の報酬を支払う仕組みのことです。
一見すると合理的に見えるこの報酬体系ですが、悪質な業者の手にかかると「わざと時間を引き延ばして報酬を取り続ける」という不正行為の温床となります。
たとえば、買い手候補が出てきたにもかかわらず、次の面談設定まで1か月以上空ける、取引条件の調整を先延ばしにする、などの行動が見られる場合は要注意です。このような戦略は、あくまで売り手に進捗を錯覚させ、月額報酬を長期的に得るために意図的に行われている可能性があります。
以下は、悪質な引き延ばし行為の例です。
- 「買い手の稟議待ち」「銀行の審査待ち」など不確かな理由で時間を稼ぐ
- 仲介会社からの連絡頻度が極端に少なくなる
- 一見魅力的な買い手を紹介するも、その後の進展がない
実例:半年以上進展がないM&A案件で報酬だけが発生したケース
ある中小製造業のオーナー様が相談したM&A案件では、月額報酬として毎月25万円を6か月間支払い続けたにもかかわらず、実際の買い手面談はわずか1件のみで、他には特に進展がないまま報酬だけが発生していました。
オーナーが不信感を抱いて仲介会社に進捗を確認したところ、「銀行の資金調達待ちです」「決裁に時間がかかっています」といった曖昧な説明が繰り返されるばかりで、実際には買い手との交渉もほとんど進んでいなかったことが後に判明しました。
月額報酬のリスクと適正な依頼の仕方
月額報酬型の契約には、以下のようなリスクがあります。
リスク項目 | 内容 |
---|---|
成果と無関係に報酬が発生 | 仲介会社に緊張感が生まれにくく、真剣に動かなくなる可能性がある |
支払いが長期化する | 案件が長引くと100万円単位の報酬負担になることも |
進捗管理が不透明 | 「何に対して支払っているのか」が分かりづらくなる |
こうしたリスクを回避するためには、契約前に以下の点を明確にしておくことが重要です。
- 月額報酬の発生条件を明文化する
契約書に「どの作業が完了した時点で報酬が発生するか」を具体的に記載してもらいましょう。 - レポート提出や月次面談を義務づける
仲介会社が月次で何を行ったかを明確に報告する体制があるかを確認しましょう。 - 「打ち切り条項」を入れる
一定期間進捗がない場合に契約を終了できる条項を入れることで、長期の無駄な支払いを避けられます。
成功報酬型との違いを正しく理解しよう
月額報酬型と対になるのが「完全成功報酬型」です。これは、M&Aが成約したときにのみ報酬が発生する仕組みであり、売り手としては安心感があります。
ただし、完全成功報酬型にも注意点があります。たとえば、「着手金なし」を強調しておきながら、実際には最低成功報酬が1,000万円以上に設定されているケースや、成約の有無にかかわらず「中間金」や「資料作成費用」などの名目で費用が発生する場合もあります。
以下の表は、両者の比較をまとめたものです。
報酬形式 | 特徴 | 主な注意点 |
---|---|---|
月額報酬型 | 毎月定額支払いが発生 | 進捗が見えづらく、引き延ばしリスクがある |
完全成功報酬型 | 成約時にのみ報酬が発生 | 最低成功報酬や別名目の費用に注意 |
どちらの報酬体系にも一長一短があるため、自社の状況や案件の性質に応じて選ぶことが大切です。たとえば、「急いで売りたい」「予算に余裕がない」のであれば成功報酬型が向いていますし、「じっくり準備したい」「プロセス管理を重視したい」場合には月額報酬型も選択肢になります。
補足:中小企業庁の指針とガイドライン
中小企業庁が発表した「中小M&Aガイドライン(第3版)」では、報酬体系の透明化が重視されています。特に「成果報酬に偏りすぎると誤ったマッチングが起きる恐れがある」として、一定の報酬を事前に設定することの意義にも触れています。
その一方で、「情報開示」「進捗報告」「契約の自由」が確保されていない月額報酬契約は、売り手にとって大きなリスクとなるため、丁寧な比較と判断が必要です。
まとめ
月額報酬型のM&A契約は、慎重に設計すればプロジェクト管理の観点から効果的ですが、悪質な仲介業者が用いると「引き延ばし詐欺」の手段になり得ます。進捗の可視化や報告義務、契約の打ち切り条項などを盛り込むことで、こうしたリスクを最小限に抑えることが可能です。
また、成功報酬型との違いをよく理解し、金額や契約条件の内訳を十分に把握したうえで、信頼できるM&Aアドバイザーと契約を結ぶことが何より重要です。
次の章では、これまでの内容を踏まえて「詐欺に遭わないためにできる具体的な対策」についてご紹介していきます。
6. 詐欺に遭わないためにできる7つの対策
契約前に必ず確認すべきチェック項目
M&A詐欺を防ぐためには、「契約前」の段階でいかに冷静かつ慎重に判断できるかが鍵となります。着手金、中間金、月額報酬など、契約書に含まれる報酬体系や業務範囲はしっかりと確認しなければなりません。
以下のようなチェック項目は、契約前に必ず確認すべき基本事項です。
- 報酬の内訳と発生条件が明記されているか
- 中間金・成功報酬などの支払いタイミングが合理的か
- 破談時の返金規定が明確になっているか
- 業務範囲と責任範囲が曖昧でないか
- 最低報酬額や違約金条項にリスクがないか
中小企業庁が策定する「中小M&Aガイドライン(第3版)」でも、M&A支援機関は契約前にリスク説明や報酬内容の明示を行うことが求められており、これを怠る業者には注意が必要です。
説明の曖昧さに要注意!違和感は見逃さない
M&A詐欺の多くは、「なんとなく変だな」と思ったことを見過ごすことから始まります。とくに、営業トークや契約時の説明で以下のような曖昧な表現があった場合は要注意です。
- 「大丈夫です、すぐ買い手見つかりますよ」
- 「契約してから詳細説明します」
- 「この金額なら必ず売れます」
- 「今だけのチャンスです」
こうした言葉は、売り手や買い手の不安を逆手にとって安心感を与える手法です。しかし、その裏に根拠や実績の提示がない場合、それは単なる「営業トーク」である可能性が高く、信頼性に欠けます。
実例:違和感を放置して失敗したケース
ある飲食チェーンの売却案件では、着手金無料をうたっていた仲介会社が、契約後に「最低成功報酬1,500万円」が発生することを契約書で明示していたにもかかわらず、説明は一切なかったという事例がありました。
オーナーは「話が違う」と主張しましたが、契約書には明記されていたため取り消しも難しく、成約まで動かざるを得ない状況となり、不本意な条件で売却することになったそうです。
セカンドオピニオンの活用方法とは?
M&Aの契約は複雑で、専門用語も多く使われるため、契約内容を正しく理解するのが難しいこともあります。そこで重要になるのが「セカンドオピニオン」です。
信頼できる第三者に契約内容を見てもらうことで、下記のような効果が期待できます。
- 契約書のリスクや曖昧な表現の指摘
- 報酬体系や進め方の妥当性判断
- 他の仲介会社との比較検討
以下のような専門家・機関を活用すると安心です。
セカンドオピニオンの種類 | 特徴 |
---|---|
M&A専門の弁護士 | 契約条項のチェックに強く、法的トラブル予防に有効 |
中小企業診断士 | 経営・事業価値の視点でアドバイスが可能 |
中小企業庁登録のM&A支援機関 | ガイドラインに則った支援が期待できる |
注意点:セカンドオピニオンを活用する際のポイント
- 仲介会社に「別の専門家に見てもらいたい」と伝えることをためらわない
- 契約前の段階で相談することで、トラブルの芽を早期に摘める
- 自社と利害関係のない第三者に依頼する
まとめ
M&Aにおいて詐欺被害に遭わないためには、「契約前の確認」と「直感的な違和感への対応」が極めて重要です。報酬体系の明示、担当者の説明、契約書の内容――これらをしっかりと精査し、不安があれば専門家に相談する姿勢が、後悔のないM&Aへの第一歩です。
次章では、信頼できるM&A仲介会社の見極め方について、さらに詳しくご紹介します。
7. 信頼できるM&A仲介会社の見分け方
誠実な会社が必ず提示する3つの条件
M&Aにおいて信頼できる仲介会社を選ぶことは、詐欺やトラブルを避ける最も確実な方法の一つです。誠実な仲介会社は、契約前に以下の3点を必ず明示してくれます。
- 報酬体系の透明性
着手金、中間金、成功報酬など、それぞれの金額・支払時期・返金可否について明確に説明されるかを確認しましょう。 - プロセスの具体性
買い手探索から条件交渉、契約締結までの流れを具体的に説明してくれる会社は信頼できます。 - 過去の実績の開示
どの業種で何件くらい成約してきたのか、成功事例を開示できる会社は、自信と経験があります。
逆に、これらをはぐらかす業者は、手数料目的や経験不足の可能性が高く、避けた方がよいでしょう。
チェックポイント表
項目 | 良い仲介会社の特徴 | 要注意な仲介会社の特徴 |
---|---|---|
報酬体系 | すべての報酬項目を契約前に開示 | 成功報酬以外の説明が曖昧 |
対応姿勢 | 質問に対して誠実かつ論理的に回答 | 強引な営業・返答に一貫性がない |
実績 | 直近の成約案件を具体的に紹介できる | 「守秘義務」で一切答えない |
仲介契約・FA契約の違いを理解しておこう
M&Aでは、「仲介契約」と「FA契約(フィナンシャル・アドバイザリー契約)」の2つの契約形態があります。自社に合った契約形態を選ばなければ、想定外のトラブルやコスト増加のリスクもあります。
それぞれの違いは以下の通りです。
項目 | 仲介契約 | FA契約 |
---|---|---|
契約形態 | 売り手と買い手の両方を仲介 | 片方(売り手または買い手)専属で支援 |
利益相反リスク | あり(両者の利益が対立する可能性) | なし(依頼者側に立つ) |
報酬 | 両手報酬で安く見えるが割高になることも | 通常は片手報酬(誠実性高) |
役割 | 中立的な調整役 | 依頼者の利益を最大化する交渉役 |
誤解しやすいのは、「仲介の方が中立的で良さそう」と思われる点です。しかし、実際には買い手と売り手の利害はしばしば対立するため、両者の間に立つ仲介契約では「どちらの味方なのか」が曖昧になることがあります。
そのため、特に売り手としては、自社の利益を最優先に守ってくれるFA契約の方が安心できる場合が多いです。
認定支援機関・ガイドライン遵守の確認方法
国が一定の基準を設けて登録している「M&A支援機関」制度は、信頼性の高い仲介会社を選ぶうえで非常に有効です。中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」に登録されているかどうかは、公式サイトで簡単に確認できます。
また、国が定める「中小M&Aガイドライン(第3版)」に対応した運用をしているかどうかも確認しましょう。以下のような対応がされていれば、ガイドライン遵守の意識が高い会社といえます。
- 契約書にリスク・報酬・途中解約の明記がある
- クロージングまで一貫して担当者が変わらない
- 業務ごとに進捗を報告する体制が整っている
- セカンドオピニオンを受けることに前向き
確認手順
- 中小企業庁の「M&A支援機関一覧」を検索
- 会社名または代表者名で登録有無を確認
- 不明な場合は、直接「御社は登録支援機関ですか?」と聞く
まとめ
信頼できるM&A仲介会社を選ぶには、「報酬の明示」「契約形態の理解」「国の制度への準拠」という3つの視点が欠かせません。相手の提案を鵜呑みにせず、自ら情報を比較・確認する姿勢が、後悔しないM&Aを実現する第一歩となります。
次章では、万が一トラブルに巻き込まれた場合の相談先や対応方法について詳しく解説します。
8. もしもトラブルに遭ったら?相談窓口と対応方法
M&Aを進める中で、万が一「詐欺かもしれない」と感じるトラブルに直面した場合、冷静かつ迅速に対応することが重要です。ここでは、実際に詐欺まがいの被害に遭ってしまった場合の対処法として、相談窓口や契約解除・返金の流れ、専門家への相談タイミングについて解説いたします。
中小企業庁の通報窓口とは?
M&A支援における不正行為や不適切な対応については、中小企業庁が設置する以下の窓口に通報することが可能です。
相談機関 | 対応内容 | 連絡先・備考 |
---|---|---|
中小企業庁 M&A支援機関相談窓口 | M&A支援機関の不適切行為の通報・相談 | 公式Webフォーム(中小企業庁サイト) |
国民生活センター | 消費者トラブルに関する一般相談 | 電話:188(局番なし) |
法テラス | 弁護士等による無料法律相談 | 電話:0570-078374 |
特に、中小企業庁の「登録M&A支援機関」に登録されている事業者が、ガイドライン違反や不誠実な対応をしていた場合は、速やかに通報することで、当該業者への行政的対応(改善指導・登録抹消など)につながることもあります。
契約解除や返金請求の進め方
着手金詐欺や中間金詐欺が疑われる場合でも、冷静に契約書の内容を確認し、「どの項目が履行されていないのか」「どの条項が違反されたのか」を明確にすることが重要です。
- 契約書の写し・請求書・支払い履歴などを整理する
- 仲介会社とのやりとり(メール・メモ等)を時系列で記録する
- 違約条項・中途解約条件の確認(例:業務不履行時の返金義務など)
次に、まずは仲介会社に対して文書で正式に「契約解除の意思」と「返金請求」の意思を伝えましょう。この段階で感情的なやり取りを避けるため、書面またはメールで証拠を残すことが重要です。
それでも誠意ある対応が得られない場合は、以下の手段を検討してください。
- 弁護士への相談(初回無料相談の利用も可能)
- 法テラスを通じた内容証明郵便の送付
- 少額訴訟制度(請求額60万円以下の場合)や通常訴訟による法的措置
なお、請求権には消滅時効(原則5年)があるため、なるべく早く行動することが望まれます。
専門家に相談すべきタイミング
「これはおかしいかもしれない」と少しでも違和感を覚えた時点で、第三者の視点を入れることが最も効果的です。
以下のようなサインがあれば、迷わず専門家への相談を検討しましょう。
- 着手金を支払ったのに、買い手候補の提案が一切ない
- 中間金の請求が唐突に届き、合意内容に説明がない
- 「成功報酬不要」など、異常に好条件な営業トークがあった
- やり取りの中で話が二転三転し、不信感が募っている
M&Aの契約は複雑で専門性が高く、感情的になると冷静な判断を失いやすくなります。だからこそ、第三者であるM&A専門の弁護士や、公的支援機関に早めに相談することで、被害を最小限に抑えることが可能になります。
特に中小企業庁の登録M&A支援機関や、M&Aガイドラインに準拠したアドバイザーであれば、透明性のある説明とアドバイスが期待できます。
詐欺やトラブルに巻き込まれたときこそ、冷静に、そして正しい情報とサポートを活用することが、今後の経営やM&A戦略を守るために重要な一歩となります。
まとめ
M&Aを安心して進めるためには、報酬体系や契約内容を正しく理解し、相手業者の姿勢を見極めることが不可欠です。特に着手金や中間金、月額報酬といった支払いに関わる部分には詐欺まがいの手口が潜む可能性があるため、事前のチェックと信頼できる相談先の確保が重要です。
- 報酬体系の仕組みを理解する
- 契約前に条件を確認する
- 不審点は専門家に相談する
- セカンドオピニオンを活用する
- 認定支援機関か確認する
M&Aは一生に一度の大切な決断です。信頼できるパートナーと出会い、後悔のない取引を実現するために、慎重な情報収集と判断を心がけましょう。
詳しく知りたい方は、ぜひアーク・パートナーズまでお問い合わせください。
